<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


【楼蘭】仙人への道


 聖都エルザードから東へ4月と4日、船旅を経た場所にあるという……蒼黎帝国は帝都楼蘭。

 かつては人であったり、年をへた何かであったり…人とは違う時間軸を生きる存在、楼蘭では仙人と呼ばれていた。
 そもそも仙人とは一体どのようにしてなるのだろうか?
 聖都から訪れた、旅人達は一様に首を傾げる。
「一体何をどうすれば、通常の時間軸から外れた存在になることができるのであろう?」
「そんなに不思議なら、一度洞門に体験入門してみるか?」
 比較的本日は暇らしい、蒼黎帝国の宰相が訪れた旅人にそう声をかけた。
 普段は宰相として星陵殿に詰めているが自身も華玉洞という洞門の主でもある。
「ただし手加減はせぬゆえ、努々気合をいれて参加されよ」
 他の弟子達と同じように扱うぞとにやりと微笑んだ。


●体験者達
「やべぇ、やばすぎる……このままだと、半殺しにされちまう」
 今日も今日とて鬼妻の魔の手から逃れようと逃げ回っていたオーマ・シュヴァルツは一枚の張り紙に目を留めた。
『仙人体験入門、門下生募集!』の文字が躍るそれがマッチョな魂に火をつけた。
「何、通常の時間軸を外れて生きやがる…正にそれは伝説の……『仙筋』!俺の桃色筋肉とどのくらい違うのか興味ぶかいぜ」
 いい口実になると、真剣に張り紙を見入るオーマであったが果たして仙筋とはいかなるものか……

「仙人修行か……修行って付くからにはやっぱり強くなれるんだよな」
 きっとそうに違いないと同じく別の場所で張り紙を見かけた湖泉・遼介も内容を食い入るように見入る。
 普段行っている修行とどのくらい違うものなのだろうか?
 折角此処まできたのだから、試してみるのも悪くない。

 かくして華玉胴では2人の即席門下生の3泊4日の仙人体験入門が幕をあけようとしていた。

「どれ、来たようじゃな」
 華玉胴の洞主は艶然とした笑みを浮かべながら2人を迎え入れた。
「仙人ってどういう事が出来るんだ?」
 3泊4日の程度の修行でどのくらいの事ができるようになるのか興味深々といった様子で遼介が身を乗り出す。
「さて…難しい問題じゃな」
 自身は花の精だという洞主が口元に笑みを浮かべながら、まだ若い門下生に語りかけた。
「どのくらいと聞かれれば、道を究めれば不老長寿の薬胆も作れるようになるし、自ら使う宝貝を作り出すことも可能だな」
 とは申しても……
「仙の殆どが己の好きなように道を求め目指し、自由に生きているからその力は千差万別じゃ」
 仙人になる必須のものには仙骨という特殊な骨を持つことが第一条件ではあるが…
「今回は普段の我らの生活を体験してもらうという、いわばお試しプランじゃからの」
「仙骨に仙筋か、正に漢の道を究めた証だな」
 少し違う気もするがオーマが重々しくうなずく。
「今回はそうじゃな、メンタル面での修養を主に組んである」
 きちんと遣り通すことができれば、根性を鍛えなおすのにうってつけじゃ。
「精神修養……?」
 その言葉にやや遼介が眉をひそめた。
「何、そう堅苦しく考えることはない。ありのままに自然と一体となり己の根底を見つめなおすいい機会じゃろう」
 くすくすと笑いながら、洞主は引きつった顔の2人を見渡した。

●一日目
「やっぱり、あんたの実力が知りたい!」
 修行の予定をと紙に書かれた項目を読み上げようとした洞主に遼介が言い出した。
「私の実力とな?」
「あぁ!俺より弱い相手から修行を受けても仕方がないだろ?」
 あんたの実力を見せてくれよ!
 まっすぐな遼介の眼差しに洞主は口元に笑みを刻んだ。
「よいじゃろ、では遼介の1日目のメニューは私と採手を行ってもらおう」
「採手?」
「いわば模擬戦じゃな」
 主に右手の甲を合わせた状態から始まる模擬戦で相手の冲捶と呼ばれる場所に打ち込んだ方が勝ちという簡単なルールの物である。
「冲捶って……」
「体の中心を走る、正中線の一種だな」
 まぁやってみればわかる。
「俺はどうすりゃいいんだ?」
 好きにやってていいのか?
「オーマはまずは基本の掃除からじゃな」
「……ここでもか……」
 折角日々の家事から抜け出せたと思ったのに、世の中そうは甘くないらしい。
「水はあの麓じゃ」
「麓ってまるっきり崖じゃないか!」
 崖の下から水をくんでこないといけないという言葉に流石のオーマも目をむいた。
「簡単に済んでしまっては修行にならんじゃろ?」
 洞主はあくまでもあっけらかんとしていた。

 簡単な模擬戦と言うことだったが、これが思ったよりも難しい。相手と接敵した状態からであると、なおさら隙を見つけることができない。
 じりじりと隙をうかがっている間に洞主である女性は苦もなくあっさりと、遼介に打ち込んでくる。交わすのだけで精一杯で、反撃などする暇もない。
 遼介は数刻の模擬戦であっさりと音を上げた。
「い、以外に難しいのな……」
 高く飛び上がってハイキックを食らわそうとしても、するりと交わされあっけなく胸を突かれる。
「そうか?おそらく慣れてないからじゃろ?」
 そういう彼女は汗一つかいていない。仙人というと洞に籠もってひたすら書物を読んでいるだけのイメージがあったがどうやら違うらしい。
「仙筋を極めた奴っていうのは皆お前さんみたいなもんなのか?」
 掃除の合間、模擬戦の様子を伺っていたオーマが口を挟む。
「仙…?まぁ、皆このぐらいはできるであろうな」
 心身を鍛えるのも仙人にとって重要なこと。
「強さだけが全てではないがのう」
 なにやら含みのある言い方であった。

●二日目
「ふんっふんっふんっ……」
 草木も眠る丑三つ時……壁越しに妖しげな声を聞きつけ遼介は目を覚ました。
 固いベッドにひかれた薄い布団からそっと抜け出す。狭い部屋の隣は確かオーマに与えられた部屋。
「……?」
 そっと中をうかがうと、そこには筋トレに励むオーマの姿があった。
「……何やってるんだ…?」
「ふんっふっ……ん?きまってるだろ、丑の筋参りってやつよ」
「は……?」
 聞き覚えのないやたら暑苦しそうな単語を聞いた気がする。
「この時間帯はこの世の全てが眠りに付くからな、この世界の全てが俺の力になるってわけだ」
 そう、説明する間にもオーマのスクワットは続く。
「お前さんも一緒にどうだ?」
 キラリと光る汗がまぶしいのは目の錯覚か。
「……とりあえず、遠慮しとく」
 それでなくても、一日目の模擬戦で疲れがたまっているのだ。遼介は腹筋を始めたオーマから目をそらすようにして自室にもどった。

 朝は日の出と共に……
「朝じゃぞ」
「ぬぉ!?」
 もうそんな時間か!がんがんがんと鳴らされる大きな音を立てる鈴に慌てて2人が這い出す。
「朝って…まだ日が昇ってないじゃないか」
「何をいうか、もう外が白みかけているであろ?」
 指差す先は確かに白みかけている。
「まず最初に朝の精神統一じゃ」
「…え?」
 実は瞑想は苦手な遼介はその言葉に顔をしかめる。
「難しく考えなくてもよい、何も考えずに無に帰るのが近道じゃ」
 そうは言われても実際にやるには難しい。
 高山の風はまだ身を切るように冷たい。洞主の示した岩の上に其々楽な姿勢で座り目を瞑る。
 2人以外にも同じように門下生が瞑想に励んでいた。
「ふむふむ、こいつらも未来の仙筋の持ち主ってわけか」
「下らぬことを考えておらんで、とっととはじめんか」
 渇っとオーマの肩を洞主が棒で叩いた。
 自然に身を任せ、一体となる……
「…………」
「……………Zzzz」
「寝るでない!」
 すこーんといい音をたてていびきをかきはじめたオーマの後頭部を張り飛ばした。
「…ぅお、いい一撃だぜ」
「えーい、おぬしらも寝るでない!」
 暫くたつとあちらこちらで、洞主の罵声と張り飛ばされる音が響く。
 どうやら、瞑想が苦手なのは自分だけでないという事実に遼介は少しほっとするのであった。

●三日目
 日々の大半は瞑想と掃除に費やされていた。
 出される食事の全てが野菜で……思い出してみればずっと肉類を口にしていない。
 肉を食べられないことは別に苦ではないがこの精進料理という奴はいただけなかった。
「ふむ、この冬霞は甘いのか」
 本物の仙道を体験するためにとオーマは遼介とは別メニューで霞が出されているらしいが。
 遼介にはその器の中のもの何も見えない。
 日に日にオーマの頬が扱けやつれていくように見えるのは気のせいか…?
「温野菜に、干ししいたけのスープに、おかゆか……」
 粥といっても重湯にに近い限りなく薄いものである。
 そして、いただけないのは『もどき料理』と呼ばれる、豆腐などから作られる肉に似せたもどきの料理だった。
「肉がダメなら、ダメでこんな物作らなければいいのに」
 少し硬くぷりぷりとした触感のそれは、肉…といわれればそうかもしれない程度のものであった。
 禁止されているものに似せた食べ物をあえて出すことに何の意味があるのだろうか?
 不思議で仕方がない。
「あぁ…楼蘭のマッチョなアニキ達が俺を呼んでいる」
 うわ言のように呟きながらオーマが遼介には何も入っていないように見えるお椀を啜る。
「仙筋絶対に手に入れてみせるぜ」
 そして俺は新たな漢の階段を上りあがる。
「大丈夫なのか……?」
「うちの上さんが作る料理にくらべれば、霞だって極上のご馳走だぜ」
 余程すごい料理らしく、オーマの笑顔はどこか空ろであった。

●最終日
「さて、どうじゃったかな?」
 仙人体験はと洞主が小首をかしげる。
「うーん……」
 どこかかわったであろうか?と遼介は自分自身の腕や足元を見る。
「そういえば、少しは体が軽くなったかな?」
 徹底的に管理された精進料理と日々の半日を費やした掃除のおかげだろうか?
 気が付いてみれば、少しからだが引き締まった気がする。
「時間はかかるが極めれば、雲に乗れるようになるぞ」
「ホントか!?」
 それはやってみたいかもと目を輝かせる。
「とりあえず今回の修行をまとめてみたぜ!」
 何時の間にかいたのだろうか…『仙筋ズの桃色事情』というやたら妖しいレポートをオーマが差し出す。
「帝都に帰ったらこれを出版してやるぜ!」
「…………」
「余程余裕があったのじゃな」
 では、次回は5割増しで修行のメニューを組んでおこう。
 苦笑しながら洞主はピンク色のレポート用紙を受け取った。
 その後帝都にて、やや脚色された楼蘭の特集記事がのったおなじみ腹黒同盟パンフが配布されたとかしないとか、ささやかな謎を残しつつも3泊4日の仙人体験入門は幕をおろした。





【 Fin 】





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【1856 / 湖泉・遼介 / 男 / 15歳(実年齢15歳) / 地球人】

【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳(実年齢999歳) / 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】


【NPC / 月・凛華】


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■         ライター通信          ■
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大変お届けがおそくなってしまってもうしわけありませんでした。
ライターのはるでございます。
突発的に行われた仙人体験入門、少しは皆様のお役に立てたでしょうか……?
今回はさわりということで、精神修養と掃除(兼筋トレ)がメインとなっておりますが少しでも楽しんでいただければ幸いです。

何かイメージと違う!というようなことが御座いましたら、次回のご参考にさせて頂きますので遠慮なくお申し付けくださいませ。