<PCクエストノベル(3人)>


迷子のススメ

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1070 / 虎王丸 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術士】
【2275 / シャオ・イールン / 撃攘師(盟主導師)】
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凪:「どう考えても罠だよね、そのボタンは」

 ここはチルカカ遺跡。古めかしく厳かな雰囲気で覆われた場所である。天井は高い。円柱は無限に続いていくように整理されて並べられている。
壁に埋め込まれた突起を見ながら、凪は冷たく告げた。

虎王丸:「ばッ、おまえ、ばかだな! わかってねぁなぁッ! こういうのは押してくださいって言っているんだよ!」
凪:「無機物が?」

 凪の横でシャオが無邪気に笑った。

シャオ:「むきぶつ? 無機物! 無機物が話したりすんの? すっげー!」
凪:「は、話さない。話さないよ」
虎王丸:「おおー! ボタンが喋るのか、すっげえええ!」
凪:「何を言ってるんだ。さっき自分が話した会話の内容を忘れたのか」
シャオ:「ボタンが喋る!」
虎王丸:「ボタンが喋る!」
凪:「いやいや、二人、はしゃぎすぎだって……」

 飛び跳ねる二人を見て、凪は深く嘆息した。ほんの少し遺跡に来てしまったことを後悔する。どうして自分がこんな場所にいるのか、思い返してみた。

 ***

凪:「チルカカ遺跡?」
虎王丸:「そ。以前、俺は大蜘蛛の糸を手に入れただろ?」

 道を歩きながら、虎王丸は得意げに鼻を鳴らした。
 凪は曖昧に首を傾ける。

凪:「微妙だったけどね」
虎王丸:「微妙言うな! 口を挟むな! そこで俺は考えたんだよ! こんなことで満足しちゃいけねぇ! もっと上を見るべきってな!」
凪:「なるほど。自分の欲望に正直になったってわけだね」
虎王丸:「ストレートに言うなぁ! ちがわぃ、お、俺はだな、ただ、もっと宝物、そう例えば良い刀が欲しいとな」
凪:「欲望じゃないか。ストレートだね」
虎王丸:「ち、ちちち、違うっつーの!」

 虎王丸はむきになって言い返した。顔中真っ赤だ。

シャオ:「なに? なんか面白そうな話してるんだなッ」

 二人の会話に、シャオが口を挟んだ。目を輝かせながら、二人の周囲で飛び跳ねた。

虎王丸:「うおお、いつの間に! おまえ、さっきからちょろちょろと! 何でもねぇっつの」
凪:「彼はストレートに欲望のままに生きたいんだって」

 凪が苦笑しながら告げた。それを聞いたシャオはいっそう目を輝かせる。

シャオ:「へぇえ。面白そうだな! 俺もつれていってほしい! すっげぇわくわくしてきた!」
虎王丸:「へ、お遊びじゃないんだぜ? 俺たちはこれから頂点を目指しにいくんだ。ようは宝探しよぉ!」
凪:「……たち? おれ、たち? もしや俺も数に入っているのか……」

 凪はかすかに眉をひそめた。そんな凪の表情に気付いていないのだろう。虎王丸は胸をそらしながら、満面の笑みを浮かべた。

虎王丸:「あったりまえよぉ! おまえ何考えてんだ?」
シャオ:「そうだ、そうだ! 全員一緒に行った方がぜってぇ、楽しいって。なぁ?」
虎王丸:「なぁ?」

 すっかり意気投合した二人。わいわいはしゃぐ二人を眺めながら、凪は二人との温度差を感じた。小さく呟く。

凪:「俺の意志は……」
虎王丸:「もちろん、わかってるぜ! 凪も行きたいんだろ? 大丈夫、俺、その辺空気読めるからさぁ」
凪:「空気読めてない、読めてないよ」
虎王丸:「なんだよ、遠慮すんなよ」
シャオ:「そうだぜ、ここは遠慮なく行くべきだってば! 凪!」

 もしや彼の言葉は確信犯的なものではなかろうか。一瞬、凪はシャオの言動に疑問を抱くが、無邪気に笑顔を向けるシャオを見て、杞憂だろうと思い直す。空を遠く見つめながら、ぽつりと。

凪:「ああ、何だかとてもテンション高いなぁ……」

 どちらにせよ、自分に拒否権はなさそうだ。凪は肩を落とした。

 ***

<チルカカ遺跡>

凪:「で、ボタンを押したらこうなったわけだ」

 凪とシャオは狭い遺跡の道を真っ直ぐに走り抜けていた。背後からは地響きと共に轟音が迫ってくる。仕掛けられたトラップが作動したのだ。大きな丸い岩が、三人目掛けて転がり落ちてきているのである。典型的な罠だが、単純なものだからこそ厄介だ。情けない虎王丸の悲鳴も聞こえてくるのだが、凪はあえてそれを聞かなかったことにした。

シャオ:「ひゃっほー、追いかけっこ、追いかけっこだなぁ!」

 シャオに危機感はない。目を爛々と輝かせて、頬を大きく弛ませている。走りながらもそんなに大きな声で喋って、舌を噛んだりしないのだろうか。凪は余計な心配を抱いた。

凪:「追いかけっこ、違う。絶対違うよ。命の危機じゃないか」
虎王丸:「待ってくれぇぇぇ、置いていくなぁ! この人でなしどもぉっ!」

 虎王丸の抗議の声が悲鳴と共に耳に届く。凪は嘆息しながら皮肉に小さく口の端を歪めた。

凪:「そもそも罠を起動させたのはトラだろう。責任をとれ、と」
虎王丸:「な、なにぃぃぃッ」

 冷たい凪の言葉に虎王丸は驚愕している。助けてもらえるとでも思ったのだろうか。こちらはこちらで逃げるのに精一杯なのだ。凪は小さく後方に視線を移す。涙目になりながら走る虎王丸に哀れみを覚えた。助けてやろうと体を動かそうとした、そのとき。

シャオ:「あ、巻き込まれた」

 轟音と共に、岩に虎王丸が潰された。埃が舞い上がり、辺りが白いモヤがかかる。視界が遮られて虎王丸の様子が確認できない。

凪:「いい具合にストッパーになってくれたね。さて、彼に感謝しようか」

 凪は小さく頷いた。

シャオ:「感謝!? そうだな、感謝だ! ありがたいなぁ!」

 それに乗じてシャオもはしゃぎだす。

虎王丸:「……て」
凪:「あ」
シャオ:「お」

 凄まじく大きな音が辺りに轟きわたる。岩が砕け散り、細かい破片が辺りにぱらぱらと散乱した。岩が割れ出て現れたのはもちろん虎王丸だ。

虎王丸:「てめぇらああああっ! 俺をなめんじゃねぇっ!」
凪:「すごいな。岩に潰されても無傷。その上岩を叩き割るか。ここは素直に拍手するよ。おめでとう」
シャオ:「おめでとう! すっげぇな! 俺、まじで虎王丸のこと尊敬した!」
虎王丸:「そうか、いやぁ、そこまで言われると照れるぜ」

 二人にごまかされたことに気付かない虎王丸は、機嫌を直して笑顔を浮かべた。
 凪は心中でため息をつく。

凪:「単純」
シャオ:「単純だな。いや、虎王丸ってばまじで面白いね。あれ?」
凪:「どうしたんだい?」
シャオ:「何か、面白そうな紐が。そーれいっ!」

 シャオは天上からぶら下がっていた紐を勢いよく引っ張った。

虎王丸:「まぁ、やっと凪もシャオも俺のことを認めてくれたっていうわけか……ところでこれは何の音だ?」
シャオ:「わー、すっげぇ、おっきい岩が落ちてきた!」
凪:「な」
虎王丸:「なんだってぇぇぇぇ!」

 地面が波打つように揺れ、こだまするかのような大きな音が辺りに響いた。三人に迫り来るのはさきほどの岩よりも三倍ぐらいの大きさの岩である。

凪:「ふぅ、さて走るか」

 凪は方向転換すると、再び岩から逃れるために走り出した。シャオも後に続く。

虎王丸:「おい、ちょっと待てってばよ! うわ、来た来た、なんか後ろから来たんだけどよ。ちくしょうっ!」

 虎王丸の悲鳴は轟音にかき消された。

 ***

凪:「さて」
シャオ:「行き止まりだね」
虎王丸:「何だよ、こっち見るなよ! 俺のせいじゃないぞ!」

 凪とシャオの視線に居心地の悪いものを感じたのか、虎王丸ほ吼えるようにして抗議する。
 一つ嘆息すると、凪は目前にそびえ立つ壁を指で撫でた。

凪:「思った以上に遺跡は複雑だな。これは慎重になる必要があるよ」
虎王丸:「わかってるぜ、そんくらい。なぁ、シャオ?」
シャオ:「おう! 当然!」

 互いに顔を見合わせる二人。何故か満足げに笑みを浮かべる二人を見ながら、凪は気持ちが沈んでいく感覚を覚えた。頭を片手で押さえる。

凪:「ああ、わかってるよ。二人は本当は何もわかってないだろうくらい、わかってるから」
虎王丸:「っと」
凪:「どうした? !」

 凪に小さな尖った氷柱が襲い掛かる。虎王丸は炎を纏いし刀で氷柱を刹那に溶かした。
 三人の目の前には、魚に足の生えたような奇妙な形の魔物が数十体、立ち並んでいた。魔物は冷気に包まれている。辺りの空気も心なしか、先刻より気温が下がったようだ。

虎王丸:「は。遺跡とくりゃ魔物。ま、当然の成り行きか。大丈夫か?」
凪:「ああ。ありがとう」

 シャオがはしゃいだ声を上げる。瞬間、三人の周囲を囲むように、炎の塊が姿を現した。

シャオ:「よっしゃぁっ! 燃えてきたぁ! 俺、先にいくけどいい?」
虎王丸:「何だと! 先に敵を潰すのは俺が先だっての!」

 虎王丸の言葉がきっかけになったのか、シャオは炎の塊を矢に変化させると、魔物へと射る。

シャオ:「炎の矢ぁっ!」
虎王丸:「今日の炎は盛んだぜ。一匹残らず灰になりなぁッ!」
シャオ:「ははッ! 真っ赤、真っ赤〜!」
虎王丸:「もっとガンガン燃えちまいなッ! そいやぁッ!」

 二人の活躍により、あっという間に魔物たちは姿を消していく。炎の属性を持つ二人に、氷の属性を持つ魔物は当然敵うはずもなく。圧倒的な戦力により、魔物は倒されていった。

凪:「テンション高……」

 そう言いながらも、凪は緩く首を横に振った。

凪:「いや、ここは素直に助けてくれてありがとう、か」

 もはや魔物は後数体だというのに、いまだはしゃぎ続ける二人。そんな彼らを見ながら、つい凪の口元から苦笑が零れてしまう。

凪:「それにしてもテンション高いな」

 ***

<チルカカ遺跡 行き止まりの場所>

 魔物を倒し終えたのはいいが、道を塞いでいる壁を何とかしなければいけない。
 凪は二人の顔を見渡した。

凪:「さて、ここからどう進むかだけど」
シャオ:「はーい、手当たりしだいにぶっとばせば良いと思うなぁッ」

 シャオが手を挙げながら、声を弾ませた。

虎王丸:「俺も同感だな。先に進めないなら道を作れば良いだけよぉ」
凪:「どうやって?」

 凪は笑顔で尋ね返した。

シャオ:「……」
虎王丸:「……」
凪:「……」
虎王丸:「な、何だよ、その目は! 違うんだからな! 何も思いつかないわけじゃないからな! 今考え中で、本当は素晴らしい案がいっぱい頭ん中にあるんだよ! ただ、どれを提案しようか迷ってだな!」
凪:「いいよ、そんな言い訳しなくても」
虎王丸:「ちょっと待てよ、信じろよ。なぁ、おまえは信じてくれるよな?」
シャオ:「おーう、信じるって言ったほうが面白くなるから信じるぜぇ!」
虎王丸:「おー、さすがシャオ。ほら、見てみろ、凪」
凪:「いや、いやいや」

 凪は首を横に振る。シャオの物言いは婉曲に虎王丸を信じていないと告げているも同然だ。虎王丸は当然のごとく気付いていない。反応に困った凪は曖昧な笑みを口元に浮かべた。

凪:「とにかく、どこかに何かしらの仕掛けがあると俺は思うんだけど」
虎王丸:「さすがだな、凪! 俺もそう思うぜ!」
シャオ:「ここは同意したほうが面白くなりそうだから、同意しておくな! そうそう、その通り!」

 二人は無邪気に凪に賛同する。凪は頭を抱えた。頭痛を覚え始めたからだ。

凪:「何か、疲れてきた……とにかく、そういうわけで、二人とも壁とか柱とか調べてくれるかい? 俺は床を調べるから」
虎王丸:「了解!」
シャオ:「りょーかい!」

 調査が開始されて、しばらくして、凪は二人に声をかけた。

凪:「さて、どうだい、そっちの方は?」
虎王丸:「見てくれよ、凪! すっげぇ大きな虫! すっげえよなぁ、絶対外じゃこんなグロテスクなもん見つけることはできないぜ!」

 虎王丸は笑顔で巨大な虫を差し出してくる。思わず凪の口の端が引きつる。

凪:「俺は虫探しを頼んだわけじゃないんだけど」
虎王丸:「そう固いこと言うなよ。世の中楽しまなきゃ損だぜ」
シャオ:「俺もそう思うな! おーっし、スイッチもう一個みっけ!」

 シャオの言葉に二人は反応した。シャオに近づき、彼の指差す方向に視線を移す。

凪:「スイッチ?」
虎王丸:「もう一個? どういうことだよ」
シャオ:「さっきから何個も見つけてるんだ。ほら、あそこに、こっち」

 確かに幾つものスイッチが存在している。

凪:「本当だ。壁のあちこちに窪みに似たスイッチらしきものがある」

 だが、ここは慎重にいかなければならない。凪は一つ咳払いをすると、二人に忠告しようとして。

凪:「二人とも、迂闊に触るな……」
虎王丸:「それ」
シャオ:「ほい!」

 虎王丸とシャオは一斉にスイッチを切り替え始めた。目に付くスイッチは全て切り替えていくつもりのようだ。

凪:「ああ、わかっていた、わかっていたとも」

 瞬間、轟音が鳴り響き始める。地面の揺れは激しい。先ほどの岩のトラップが作動したときのことを思い出す。凪は一瞬顔をしかめた。

虎王丸:「な、なんだ。地響きが?」
シャオ:「おおおお! ぐらぐら揺れてきたぜ、面白い! これは良い感じだな!」
凪:「もう、何が良い感じなのか。突っ込みどころもわからなくなってきた」

 どう考えても罠が作動している。

シャオ:「何言ってんだろ! 面白いだろ? 違うか?」
凪:「そうだな。面白いな」

 シャオの言うとおり、高揚感が芽生えつつあるのも事実だった。

虎王丸:「うぉー、すげぇッ! 遺跡が変形してるぜ! 見ろよ、凪ってばよ!」
凪:「そうだな」

 凪は苦笑しながらも辺りを観察した。地響きと共に壁のあちこちが動いていく。

凪:「確かに面白い」

 目を閉じる。

凪:「ここまで来たんなら、いっそそのまま楽しんだほうが良いな」
シャオ:「だろ?」

 シャオの言葉に、凪はゆっくりと頷いた。

凪:「ああ、そうだね」

 ***

<チルカカ遺跡 迷宮>

凪:「さて、道ができたのはいいけれど」
シャオ:「見事なまでに迷路だな!」
虎王丸:「うお、こりゃ、突破しがいがあるってもんだ」

 いまだ遠方では轟音が鳴り響いている。作動したトラップは作動し続けているようだ。
 三人の目の前には、既に道を塞いでいた壁は存在しない。その代わり、巨大な迷宮が姿を現していた。常に動き続ける壁の間に、くねくねと複雑に曲がりくねる道が垣間見える。先は遠そうだった。

シャオ:「わくわくしてきたな。面白くなってきたぁっ」

 シャオが興奮の吐息を漏らす。

凪:「スイッチを押せば押すほど、迷路として複雑性を増すということか。二人が面白半分でポチポチスイッチ押していくから、こんなことに」

 凪は額を押さえながら、嘆息と共に言葉を吐き出す。

シャオ:「結果として面白くなったわけだから万々歳じゃないか!」
虎王丸:「そうだ! ばんざーい、ばんざーい!」
シャオ:「ほら、凪も万歳しよう!」
凪:「いや、いやいや」

 凪は小さく手を横に振った。

凪:「面白い、のはいいとして」

 鞄から紙とペンを取り出す。

凪:「とりあえずここは無難に地図をつけていこう」
シャオ:「確か、左よりに壁に沿って歩いていたら迷わないんだよな。ま、面白くなさそうだから普通に地図つけていったほうが良いけどな!」
凪:「面白い面白くないのは別としても、その方法は時間がかかるからね」
シャオ:「……時間か」

 難しく顔をしかめたシャオに凪は笑いかける。

凪:「あ、気付いてるんだね。そう、さっきから向こうのほうで音がする。時間がたてばたつほどこの迷宮は複雑化するんじゃないかと」
シャオ:「ま、そっちはそっちで面白そうだけどな!」

 シャオの表情はたちまち満面の笑顔へと変化した。

凪:「だとすると、地図もあんまり意味がないんだけど。さて、どうしよう」

 考え込み始めた凪に、虎王丸が手を大きく振りながら呼びかけた。

虎王丸:「おおーい、凪! シャオ! 早くこっち来いよ! すげええ、壁がさっきから自動で動いてるぜ! 面白い、まじで面白い!」
凪:「俺は、残念ながら、そこまで短絡的になれないよ」
虎王丸:「短絡的だと!? さっきから凪は一言二言多いんだっつーの!」

 虎王丸は眉をつり上げた。

シャオ:「短絡的―ッ!」
虎王丸:「追いうちをかけるなっつーの!」

 シャオが凪の言葉を反芻しながら、虎王丸の脇をすり抜けていく。虎王丸は頬を紅潮させながら、シャオの後を全速力で追いかけていった。

凪:「そして、どうしてこっちが地図を書く前に、そうやって走り出すかな、お二人は」

 ***

<チルカカ遺跡 迷宮内部>
 当然のごとく、三人は迷っていた。

シャオ:「ここはどっこかな!」

 元気なのはシャオだけである。

虎王丸:「は、腹減った。なぁ、凪、ここはどこなんだよ」
凪:「だからあれほど、慎重に進みたいと、俺は……ッ」
シャオ:「もう過ぎたことは気にしない! それより楽しもう!」
虎王丸:「俺は腹減った。ひもじいよう」

 虎王丸の腹が鳴る。虎王丸は眉をこれ以上となく下げて、腹を一撫でした。小さくのどの奥で唸る。

シャオ:「さっきから色んな宝箱見つけては開けてるけど、ほとんど空だしね」
虎王丸:「ひ、ひもじぃぃ」

 シャオの追い討ちでますます元気をなくしたのか、虎王丸はその場にしゃがみ込んだ。

シャオ:「さぁて、どうすっかな!」
虎王丸:「なぁ、凪、ひもじいよ。何とかしてくれよ」
凪:「暴走した挙句にこうなったんだろう? さて、どうするか」

 凪は目を閉じて思索し始める。

凪:「……」
シャオ:「おお、こっちもまた壁が動いた! 数分感覚で迷宮が変化してんのか。おもっしれぇ」
虎王丸:「俺を無視するなぁ」

 二人の声ですぐさま集中力が途切れる。目を細めながら、凪は二人を見た。

凪:「無視してない。今、これからどうするかを考えているん、だ……」
虎王丸:「だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 虎王丸が飛び跳ねるようにして立ち上がる。両手を天井に掲げた。大きく振り回したのちに、頭をかきむしった。

シャオ:「だ?」
凪:「……なッ」
虎王丸:「だぁぁ、もう、面倒くせぇっつの! こうなったら」
凪:「何をする気だ、え、まさ、か!」
虎王丸:「その通りよ!」

 虎王丸は拳を壁に向かって打ちつけた。

虎王丸:「岩をも砕く、俺の拳よ、唸れぇぇッ!」

 盛大な音がして壁が木っ端微塵になる。そのまま次々と眼前の壁を破壊しはじめた。

凪:「む、無茶だ、無茶すぎる!」
シャオ:「おー、すっげぇ」
凪:「……は、信じられない」
虎王丸:「うおおおおおお! どりゃああああ!」

 虎王丸の勢いはとどまるところを知らない。一直線に障害物を破壊し続けていく。

シャオ:「全然無茶なんかじゃないねぇ」
凪:「いや、もう彼の存在自体が無茶苦茶だ」
虎王丸:「どうだ! 凪! 見てみろよ! すっげぇだろ!」

 虎王丸は破壊しながら、嬉しそうに声を立てて笑った。

凪:「無茶苦茶だ」
虎王丸:「そうだろう、そうだろう。凪は、小難しいことを考えすぎなんだよ! こういうのは力技一本で十分なんだよ!」
シャオ:「力ずくで押し通すってすごいな。頭使ってない!」
虎王丸:「うわっははは! もっと褒めろ!」
凪:「いや、それ褒めてないから」

 虎王丸には凪の言葉が聞こえていないようだ。笑顔のまま壁を自らの拳で壊し続けた。

 ***

<チルカカ遺跡 禍々しい扉の前>

 虎王丸は無念だと床に膝をつけた。俯いて、強く歯軋りしている。

虎王丸:「ちっくしょお!」

 虎王丸の眼前には禍々しい模様に彩られた扉が存在していた。不吉な赤の色彩。扉には、人間の腸や死の断末魔を連想させる模様が深く刻まれている。気持ちの悪いことこの上ない。凪は小さく顔をしかめた。

凪:「さすがに分厚い扉だから、これは拳では無理だろう」
シャオ:「なんか禍々しい感じがするな」
凪:「同感だね。これも仕掛けで動くタイプな気がするが」
シャオ:「これはたぶんもう開かないと思う」

 シャオは冷静に分析した。凪はシャオに首をむけ、話の続きを促す。

凪:「何故そう考える?」
シャオ:「迷宮を抜けしものに、資格を与えん……扉にそう書かれてあるから。正規な手順を踏めばおそらくはこの扉を開けることができたのかもしれないけど」
凪:「ああ、全て彼がぶち壊しに、か。面白いな」
虎王丸:「な、何だよ。二人してこっち見んな、ちくしょう!」
凪:「それじゃあ骨折り損のくたびれもうけというわけかな」

 凪の言葉に、シャオは頷いた。

シャオ:「でも正直、この先に行かないほうが良かったのかもしれないな。なーんか、すっげぇこの先嫌な予感がする。すっげぇ好奇心はそそられるんだけど、不快感やら邪悪な雰囲気がむんむんと。超微妙。気になるんだけどな!」
凪:「それも同感かな。確かに、どうも邪悪な気配が向こう側に存在するね。これだけ分厚い扉でも気付くということはかなり危険なのかもしれないな」
虎王丸:「そんなことより宝ー、宝はどこだぁッ!」

 頭をかきむしりながら、虎王丸は咆哮した。僅かに頬を引きつらせながら、凪は告げる。

凪:「お腹はもういいのかな」
虎王丸:「よくねぇけど、まずは宝もんが先だ。畜生、どっかに落ちて……ああ!」
凪:「どうした? ……って」
虎王丸:「あったああ! 宝箱じゃないかよ!」

 虎王丸の視線の先には古ぼけた木箱があった。

シャオ:「また空っぽだったら面白いなぁ!」
虎王丸:「面白くないっつーの! さて、開けてみるからな」

 虎王丸は木箱を開けた瞬間、目を丸くした。

虎王丸:「なんだ?」

 木箱に入っていたのは、短い刀だった。頑丈そうな鎖が巻きつけられている。

凪:「刀、じゃないか」
シャオ:「鎖でがんじがらめにしてあるね」
虎王丸:「鎖が邪魔で鞘が抜けないじゃないか!」

 虎王丸は鎖を噛み千切ろうと、踏ん張る。だが、びくともしない。

凪:「刀だけど、攻撃用の刀じゃなく、何か呪術に使用する刀なのかもしれないな」
虎王丸:「何だって?」

 虎王丸は口から刀をはなした。怪訝そうな顔をする。

シャオ:「そうだな。その鎖自体に強い魔法がかけられてある。ちょっとやそっとじゃ鎖は壊れないと思うよ」
凪:「なら、逆に言えば、鎖の頑強さを利用して、その刀を棍棒みたいに扱えるってことだね。良かったじゃないか、色んな意味で新しい武器が見つかって」

 凪は笑顔で虎王丸の肩を叩いた。

虎王丸:「イヤだ、俺は普通に斬りあうようにして、刀で攻撃したいんだぁッ!」
シャオ:「別にいいじゃん。刀を棍棒みたいに戦う珍しい剣士。面白いなぁっ」
凪:「そうだな、傍から見てる分には面白いな。お近づきにはなりたくないが。別人のふりをしたいぐらいに」
虎王丸:「何だよ、それ。ちくしょう、俺の体力を返せぇッ!」

 虎王丸の声音が虚しく遺跡中に響いた……。

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【ライター通信】
こんにちは、初めまして。酉月夜です。
受注どうもありがとうございます。
同時にまたまた遅くなりまして申し訳ありません。(汗)

三人のキャラは本当にそれぞれ個性的で
動かしやすかったです。特にシャオが……。(笑)

今回は本当に有難うございました。
またの機会がありましたらよろしくお願いします。