<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


Tales Of The Dark-servant 2

------<オープニング>--------------------------------------

 雨の黒山羊亭。吟遊詩人の歌は続く。
 歌を静かに聴く者もいれば、酒につぶれる者もいる。
 昼間なために、子供もこっそりやってきたのか歌を聴いている。
 まだ物語は始まったばかり。


 村を襲った謎の病
 二人の英雄により阻止されるとも
 謎は深まる
 病は3つ首の山羊の悪魔
 煽動は黒き人影
 悪しき意図の元
 誘い食らおうと口を開く……

 

 病により危機となった村は救われた。
 しかし、完全に解決しているわけではない。
 あの、漆黒の肌を持つ人影は何なのか? 三頭の山羊をも悪魔はなんなのか?
 水源がある空洞に開かれた、奥深く通じる洞窟。
 《彼ら》がそのままこれですますことはないだろう。
 混沌と悪意があざ笑っている。
 あなたは、その闇の中を進んでいった。


〈§1〉
「この先にすぐに進むのは良くないな」
 キング=オセロットは、光源をかざして目をこなしながら闇の中を見据える。
「それには同感だ。この悪魔の像やらあいつらのことも調べなきゃ何ねぇ」
 破壊した三首山羊の石像を持ったオーマ・シュヴァルツがいう。
「分かればいいのだが……全く予測がつかない」
「俺が奴サンのことを、理解できるまで親父愛アタックしてやるさ♪」
「……」
 オーマの感性は、キングにとってたまに理解しがたいことがある。
 長寿な存在のためか、ある種彼は戦いに不殺(コロサズ)を決めているのだ。過去の故郷で起こった戦いから得た答えなのだろう。彼はそれが魂自体悪である存在でも、慈悲を与えようとするのである。余暇は家族サービスに忙しいらしい。
「慈悲か……それに応える者達で有ればいいが……。今は彼らの考えや目的がはっきり見えないのは危険だ」
「それもそうだな。村の様子を見てからガルガンドに行こう」
 一度この洞窟を去っていく二人であった。

 蔓延していた謎の病魔は、事件から数日間で回復し、村の危機は去った。
「やはり呪いの関係か。厄介なことだ」
 と、王都に戻るために準備をする、オーマは言った。
 病魔により大きな打撃を食らった村で、ささやかな宴会はない。もっともそれどころではないので、健康な村人を数人連れて王都に向かう事になっていた。危機の報告、そして、洞窟までの警備などの依頼をするために向かうのだ。
 オーマとキングは、一度王都エルザードにて調べモノをするために数日村に滞在できなくなる。その間の洞窟の警備してくれる冒険者や、新しい医者などを派遣することが必要になるのだ。故郷の人を捜すこともあるだろう。
 無事にエルザードにたどり着いた村人を白山羊亭に向かわせる、休養を取った。
 オーマとキングは、オーマの経営する(らしい)病院の一室(たぶん院長室?)で悪魔の像のイラストや魔法陣、ルーンとにらめっこしている。
「思い出せねぇなぁ」
 頭を掻くオーマ。
「あなたは、ガルガンドで調べると良いだろう。私は可能な限りの探検装備を調達する」
「ああ、たのむわ。あと、家族にも一言言っておくわ。ラブリーな家族にv」
「そうか」
 あの洞窟の先も心配だが、まずあの悪魔のことを知ることや、知っておくための順番があるのだ。

 ガルガンドでの調べモノは予想より困難を極めた。
「山羊の頭の悪魔などは記載されているが、3つ頭って……」
 あの魔法陣は悪魔召還のほかに、あの悪魔が持つ呪いの病魔を蔓延させる儀式と分かるが、あの悪魔自体の記述はない。また、あの闇のように黒い肌を持つ連中についても記載があまりなかった。エルフのように見えたがあれはかなり違う。
 そして、少しだけの記述があった。
 ――地底陣が済むところよりさらに奥深く、悪しき存在の世界がある。それを『THE DARK MUNTAIN』という〜。
「地下なのに山か。確かに地下でも山みたいに怖いところはあるよな」
 オーマは呟いた。
 他には魔法陣に描かれている一部はこうだった。
 ――恐怖と堕落を、病におそれ、山羊を敬うだろう。3つ首の山羊に魂を捧げよ
 と、あるのだが、人影の連中は、あれを崇拝しているのだろうか? とオーマは疑問を感じるのである。
「余り記述がないな。『山』の中に入って、奴サンに訊くしかねぇか」
 椅子の背もたれにもたれ、頭を掻くオーマであった。
 だた、あの病は山羊に効かない理由が何となく分かった。あの悪魔自体山羊の頭。性質は違うとしても、同族殺しはしないのだろう。元からそうなのか意図してやっているのか迄は分からないが。

 キングが装備を買っているとき、何かしら視線を感じる。
「!?」
 振り向いても、活気の良い市場の風景のみだ。
「気にしすぎなのか?」
 と、考えてみる。
 彼女からすれば暗殺行動にすぐに対応できる。しかし、彼女の能力さえも感知できないステルス能力を持っているならば、危険である。さっきは一瞬。その一瞬の間がどれほどなのかが……。彼女は空を見上げた。快晴である。聖獣エンジェルが祝福しているような気持ちよさだ。
「……まさか……ね……」
 と、呟きながら、彼女は探検道具を買っていくのであった。



〈§2〉
 再び二人は、あの洞窟に向かう。村人は前の活気を取り戻していた。二人が村を通ると挨拶を交わしてくれるし、子供達がオーマになついている。気持ちよい歓迎を受ける二人は一度休み、そこからあの水源まで向かった。
 見張りに道をあけてもらい、あの大きな口と対峙した。
「相変わらずでっかいねぇ」
 オーマが口笛を吹く。
「この先はかなり危険だな。どうなっているか分からない。光苔程度の光源しかなければ地上ばかりにいる私たちには危険だ。光を頼りに動いているから見つかりやすい」
「ああ、それは分かっているさ。しかしその光が俺たちの武器にもなる」
「うまく行くと良いが」
 命綱を腰に巻いて、徐々にさらなる奥に進んでいった。

 しばらくは、自然の鍾乳洞のような幻想的風景であるが、彼らにはそれを楽しむ余裕はなかった。
「みろ、奴サンの足跡だ。逃げたときは瞬間移動みたいだが、上に登ってきた足跡がくっきり残っている」
 と、降りて数十メートル先に人型の足跡と、あの悪魔のモノがあったのだ。
 それを追っていく二人だが、奥は深い。巻くためか、裂け目や有毒ガスの場所を通って言っている感じがする。結局二人はその危険な場所を避けて通ることになっていく。水は空洞の奥深くなるにつれ、強力な酸性。雫が一滴、二人の服に付くととたんに溶け出した。すぐにそこを切り取り、難を逃れる。
「やべぇ……こんなところで生活しているってことか」
「となると、水を補給するのにも問題があるな」
 光苔を元にオーマが具現に依る光を発する。松明程度の光で歩いていく。
 周りには殺気だった存在がうごめいているようだが、まだ仕掛けてこないようだ。
「ありゃあ、現住生物のようだな。刺激しないように行こう……」
「無駄に戦う必要もない。私たちの目指すのは『山』だからな」
 地図を書き、目印を付けて歩く。
 真っ赤な光が見えるのだが、それが現住の野生動物らしく襲いかかってくる気配だ。
「むぅ。飢えているのか……」
 困った顔をするオーマ。
 食料をバックバックから取り出し、
「せっかく作った弁当だけど、渡してみるか……」
 カツレツサンドを放り投げた。
 野生動物が動いた。
 そこでキングとオーマは驚く。
 それは馬ぐらいの大きさの、トカゲだったのだ。鱗は黒い緑だがどんどん明るくなっていく。
 それは、喉をぐうぐう鳴らして、オーマを見ている。
「なに? まだ欲しいの?」
 と、訊くと
 ぎゃい と返事した。
「地下でも同じなのか?」
 首をかしげるキング。
「うまいか、そうかそうか♪」
 結局1人前のサンドウィッチを食べてしまうトカゲ。それが良かったのか殺気もなくなり、このトカゲはなついてしまった。
「子供か何かなんだろうか? 訓練もされていそうな感じだ」
 キングは首をかしげる。
「子供かもしれねぇ。しかし、あんたの言ったとおり、しっかり訓練されているやつだな。なんつーか、その群れからはぐれたモノだろう。単に飢えていただけだな」
 単調で危険な『山』の中での変わった遭遇であった。
 見た目で騎乗用と分かったので、二人が乗っても問題なく、危険な空洞を進んでくれた。
「いいか、隠れながら進んでくれよ。何かに遭うと厄介だからな」
「ぎゃう」

〈§3〉
 トカゲに乗ってしばらくすると、キングの気配感知に何かが引っかかる。
「何かのなわばりが有る。集団で何か行動している」
 と、言う。
「どうどう」
 岩陰に隠れて忍び足で進む二人。トカゲはおとなしくしていた。
 その先には、肌の黒いエルフの野営地があったのだ。
 トカゲが数匹。馬小屋のようなところで水を飲んでいる。見張りも10人ぐらい見えるが実際どれだけ居るか分からない。テントは5〜6。物々しい状態である。何人か、地上の人物、そして近頃エルザードでも見かける地底人が檻の中に閉じこめられていた。
「うわ、ビンゴだ」
「トカゲは彼らのモノだったのか」
 さて、どう対応するか考えるべきだが、
「飛び込むことはしたくねぇ。キング、どうする?」
「余り戦いたくない、奴隷商人だろうな。情報を聞き出す事が必要だ」
 考えるのにもそれほどかからない。
 無力化する方法はいくらでもある。タイミングなのだ。
「光でノックアウト。私が押さえる。オーマは光でくらましてくれ」
「OK」
 と、言うと二人はある程度の距離を取って、各自の行動に移った。
 なついた騎乗用トカゲは目を丸くして様子を見ていただけだった。
 おとりとして、キングは石ころを投げる。それは洞窟内で響き、異常に気づいた存在はなにやら理解できない言葉でその場所に向かう。
 オーマは数を確認してから……太陽の明るさ並みの光を存在に放った。
 前の戦いみたいに眩しくてもがき苦しむ肌の黒い存在。
「未だ!」
 この状態になれば、キングとオーマの力で気絶させたり、取り押さえたりすることはたやすかった。

「で、あなた達の目的は何だ? それと何者なんだ?」
 と、キングが隊長格であろう人物に訊く。
 しかし、彼らは何を言っているのか分からない。
 しばらくすると。隊長格ははっと気づいて、
「おまえ達地上ソーンのモノか?」
 と、地上でよく使われると言葉を話し始めた。
「喋るのか、あの檻の中にいる人々は何だ? そして先日の病騒ぎなど教えてもらおう」
「我々はアンダーだ。闇仙子。暗黒のこの世界から地上を目指すために生きてきている。おまえ達が、この地獄の場所に追いやった」
「何? それはどういう事か?」
「遙か昔のことを、教えてなんになると思う? さあ、おまえ達は我らを殺しに来たのだろう。さあ、殺せ!」
 と、隊長格の闇仙子は叫んだ。
「おれたちゃ殺しはしたくねぇんでな。断る」
 オーマがきっぱり断った。
「なんだと!?」
「俺は戦士じゃないし殺し屋じゃない。医者だ」
 にっこり笑いながらオーマは答える。
「まあ、他に腹黒らしいがそれっぽく見えない気がする」
「そうか……?」
 キングの言葉に、首をかしげるオーマ。
 縛っているが、相手を人として接する二人に、闇仙子は何かを感じたのか、
「何か違っているのか? おまえ達は我らより悪と」
「なんだよそれ?」
 オーマはため息をついた。
 キングは考えている
 闇仙子は言う。
「我々はそう教わった。この世界は情も何もない“悪”が“善”とするところ。力が正義と言うところ。食うか食われるかの世界だ。そんな甘い考えで生き残れる奴は居ない。情けをかければ背中から指されても文句は言えない世界だ」
 と。
「しかし、俺らは、それをしないと誓っている。キングは知らないが、俺は戦闘の不殺は信条なんでな」
「私も余り無駄な戦いはしたくない。知っていることだけも良い。はなしてくれないか?」
 二人は言った。
「何が間違っているのか……」
 闇仙子は呟く。
「その貴様達が言う病は我らが切望する世界を手中に収めるための一旦にすぎぬ。おそらく我らとは別の部隊だ」
「……そうか。その場所知っているのか?」
 キングが訊く。
 闇仙子は頷いた。
「かなり危険な旅路になる。生きてこの世界からソーンにたどり着くことは無理と思え」
 と、彼が言ったとたんに……苦しみ出す。
「なに!? どうした?!」
 キングが叫ぶ。
 オーマがすぐに脈をはかり、色々診断するが
「こいつら毒を飲みやがった! なぜだ!?」
 既に手遅れのレベルまで毒が回っている。他の縛っているモノも舌をかみ切るなりと死んでいく。
「全ての仕事の失敗は……死を意味するのだ。我々が奴隷補給を……失敗した……生きていると……」
「まて!? 早まるな! 全く何を考えてるんだ!?」
 オーマが最強の効果を持つ解毒剤を打つ。
 間に合うのだろうか?
 他の連中はもう無理らしい。せめて、この話した彼だけでも助けたく……。
「ここまで知っても、おあえ達二人では……無力だ。しかし……聞いたことが……ある」
 闇仙子は、「慈悲というものを。これがそうなのか?」と言って倒れた。
「くそう!?」
 遅かったようだ。
 オーマは地面に拳をたたきつける。
 さすがに時間は巻き戻せない。
 最高位の奇跡“願い”で無ければ。今は蘇生呪文すらない。
「一度、彼らにとらわれた人々を地上に戻すべきだろうな」
 と、キングが目をつぶって言う。
 しかし、キングはまたあの気配を感じていた。
 ――? 誰だ?
 気のせいとは片づけたくないが、何か不安を覚えるキングであった。


〈吟遊詩人は語る〉
 この先は闇
 闇仙子に慈悲を持ち接す
 心開けかければ彼は死す
 理解できぬこの溝は
 我は無力と思い知らされる
 しかし、この危機を止める勇者よ
 慈悲を持って悪と戦い
 野望を阻止せんと先に進む


3話に続く

■登場人物
【1953 オーマ・シュヴァルツ 39歳 男 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2872 キング=オセロット 23歳 女 コマンドー】

■ライター通信
滝照直樹です
『Tales Of The Dark-servant 2』に参加して頂きありがとうございます。
地下の世界の一端を少しだけ描写してみました。あと、お二方の考え方を私なりに理解しようと頑張って書きましたが如何でしたでしょうか?
あと、オーマ様は、プレイングを見ていると「腹黒」というより「慈悲深きマッチョ親父」のほうが強いので、そういう風に書いていますが如何でしょうか?
キング様は戦闘シーンなど多くでるときに、かっこよく描いていきたいと思っています。

では、また次回に
滝照直樹拝
20060226