<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


例えばこんな日も


 きょろきょろっと辺りを見回して、ハル・アルテミスは白山羊亭へと足を踏み入れる。
「ルディアさん!」
 ハルは白山羊亭内を忙しなく動き回るルディアを見つけると、手を振って名前を呼ぶ。
「ここには、コールクンの友達がいっぱいいるでしょう?」
 だから、コールの別荘の部屋の本棚の整理を手伝って欲しくて。
「コールさんには?」
 あの性格のコールのことだから、片づけをすると聞けば絶対手伝うと言い出すに決まっている。と、ルディアはハルに問いかける。
「う〜ん、実はそれも分かってるんだけど」
 と、ハルは苦笑気味に答え、ちょいちょいっとルディアの耳を引き寄せると、ぼそぼそっと何かを伝える。
「あはは、なるほどね。それなら分かるわ」
 どこかおっちょこちょいでドジなコールは、いつもやる気だけが空回りして、片付けているのか散らかしているのか分からない状態になってしまうのだ。
「そうすると、整理のお手伝いさんと、コールさんを引き止める人が必要そうね」
 引き止めるのはルディアでも出来るから、今必要なのはあの本の魔窟となっているコールの部屋を一緒に片付けてくれる人。
 ルディアは店の中を見回して、手伝ってくれそうな人に声をかけた。
 そこはまた下僕主夫スキル完全マスター済みのオーマ・シュヴァルツに声がかからない訳が無い。ちょっと苦手もあるけれど掃除洗濯料理…と、家事の殆どをこなすオーマ。
「ふむ、秘密のラブ筋スウィートアニキ乱舞ルーム★の片付けなんざぁ、未来の下僕主夫スキル必須筋だってのに」
 ルディアに声をかけられたオーマは腕を組んで、これは由々しき自体だと何やら考え込んでいる。いや、コールは別に下僕主夫になるかどうかは分からないが。
 暫し考えた後、オーマはにかっと笑うと、
「こいつぁいっぺんコールにも大胸筋密談指南してやらねぇとな?」
「いえ、コールさんがいると、ちょっとあれなので……」
「何!? コールの部屋を片付けるってぇのに、コールは留守番か!」
 自らの手で下僕主夫たる片付けの極意を伝授してやろうと思っていたのに、ハルの苦笑気味に答えた言葉にオーマは「それは仕方ねぇ」と口にしつつもどこか納得がいかない様子だ。
「あの〜」
 そろそろっとオーマの後からひょっこりと顔を出してルディアに向けてにっこりと微笑んだのはシルフェだ。
「わたくしもお手伝いします」
 素敵な物語を紡いでいただいているお礼に。と、シルフェは言葉を続ける。コールの名前が出たときに話を聞いていたらしく、シルフェはその笑顔を尚更強めて、
「コール様をルディア様と一緒に引き止めてみるのも楽しそうですけど」
 きっと物語の続きを聞きたいとお願いすればコールは躊躇い無く承諾するだろう。それを片づけが終る間ねだり続ける。それも面白そうだなぁとシルフェは考えていたが、
「綺麗に綺麗に整頓された本を見て驚いて頂くのも楽しいものですよね」
 と、コールの部屋の片付けに参戦する事にした。
「うーん、もう少し人手が有った方がいいかしら」
 そう口にして言うのは簡単だが、あの部屋は魔窟だ。
 本の魔窟。
「先行っててくれ」
 オーマは考え込んでいるルディアやハルを白山羊亭に残して何処かへと去っていった。どうやら人手をつれてきてくれるらしい。
「あ、二人ともお暇かしら」
 以前よりコールとよく話しているのを見かけた事があるアレスディア・ヴォルフリートとキング=オセロットに向けてルディアは手を振った。
 ルディアは二人に向けて軽く事の起こりを説明すると、
「う、む……要するに、部屋の掃除を手伝えば良いのかな」
 まぁ簡単に言うとそういうことである。
 そんんあアレスディアの言葉に、オセロットはふぅっとゆっくりと煙草の煙を吐き出して、どこか納得したような口調で、
「ふむ……確かに、コールの部屋には何度かお邪魔したが、少々、片づけが必要かと思っていた」
 そんなオセロットの言葉に、アレスディアも部屋に遊びに行った事があるためか、苦笑して「確かに」と頷く。
「ちょうど良い機会だ。一つ、綺麗さっぱりと整頓してみるか」
 あの部屋の中によくもアレだけ溜め込めたものだと思わんばかりの本、本、本。
「ハル殿のお手伝いをしよう」
「ありがとう!」
 二人のそんな反応にハルはぱぁっと顔を輝かせて頭を下げる。
「なに、力仕事は慣れている故、作業があればどんどん申し付けてくれ」
 大仰な鎧に身を包んだアレスディアだけに、確かに力は強そうだ。
「しかし……」
 ふと考え込んでいたオセロットが薄く口を開き、少々真剣な顔つきで言葉を紡いだことに、二人してオセロットを見る。
「あれだけの本、しばらく手付かずで放置していたに違いない」
 その言葉に、アレスディアとハルは顔を見合わせて、
「埃はたきから、だね」
 と、整理の手順を頭に思い浮かべながら答えた。
 オーマは現地で、と言っていたのだからもしかしたらもう先にコールの部屋に居るかもしれないと、一同はエルファリア別荘へと足を運ぶ。
「ちょっと! ここに何の用事があるっていうのよ!?」
 エルファリア別荘入り口で聞こえた声。
 見れば、オーマに連れ立って――いや、連れてこられたのはどうやらユンナらしい。
「お! よう」
 オーマは一同の姿を視界に捉えるや、ぶんぶんと手を振る。
 その格好が桃色ふりふりエプロン三角巾下僕主夫ルックに変わっている。
 一同連れ立っていることにユンナは首を傾げるが、ハルはそんなユンナに手短に説明すると。
「そう…」
 コールには何度か話を紡いでもらったし、それにここまで連れてこられて今更、嫌です帰ります。なんて言えない。
 ユンナはその顔に勝気な笑顔を浮かべると、
「良い事?この私が立ち会う事が如何に身に余る栄誉であり尊い事なのか、確りとその身と魂に刻み込んでおくのよ??」
 と、ハルに向かってずいっと宣言すると、すたすたとエルファリア別荘内へと足を踏み入れる。
「何してるの? 早く案内してちょうだい」
 一番先頭を歩き出したからてっきり部屋の位置を知っているのかと思ったが、どうやら違ったようである。





 さて、扉を開けた瞬間に、目的無く初めてこの場所に来た者は絶対に言葉を失いそうである。
 目の前に広がるのは本の魔窟。本のジャングル。
「あそこの本の山が、コールクンが片付けようとして失敗した山なの」
「「「「「………」」」」」
 確かに、これではコールは連れてこれない。
「ご本人だけが把握している腐海……というよく聞くお話かもと思っていたのですけど…」
 本人も片付けようとして盛大に失敗している様をその目で見て、シルフェはあらあらと頬に手を当てて少しだけ眉を寄せて首を傾げる。
「私のセンスが、い…生かされる時が来たようね」
 流石のユンナもこの本の魔窟を見て口元を引きつらせている。片付けや整理整頓はコールほどではないと信じたいが、ユンナもそこそこ破壊的な素質をもっていたからだ。
「なんだか前より……」
「あぁ酷くなっている気が」
 一度来たことのあるアレスディアとオセロットは、その時はまだ歩く道があったような記憶があったのに、今ではそれさえもなくなっている姿に苦笑する。
「まぁなんだ、いっちょ気合入れていくか!」
 オーマは袖をめくる仕草がてら先人きって部屋の中へと足を踏み入れる。が、何かを思い出したようにふり返ると、その手には現在オーマが着用しているものとお揃いのエプロンが人数分……
 オーマ氏よ、いい笑顔だ。
 しかしそんなエプロンや三角巾は、ばっと進み出たユンナが高速で奪い取り、
「うぉ!?」
 オーマが驚いている姿など視界の外へ追いやり、いつの間に身に着けていたのか超高級ブランドエプロンと三角巾を着用して、キラキラを背負った笑顔で振り返る。
「いつ如何な時でも女である事を忘れず美しく。そうそれがたとえ掃除でも!」
 内面の美しさは確かに外面へと影響するというが、だからといって外面を蔑ろにしていいという道理はない。
 すっと三角巾から垂れる髪をぱさりとかきあげて、ユンナはその女王様節炸裂に宣言すると、自分が着用しているブランドエプロンと三角巾を一同へと手渡す。
 確かに今現在このメンバー、オーマを除けば全て女性だったりする。
 一同ポカンとその光景を見つつも、折角なのでエプロンと三角巾を借用することにした。
「ん? これは」
 本の上に振り積もっているであろう埃を払うために窓を開けようと足を踏み入れたオセロットは、机の上に詰まれた紙切れを持ち上げてパラパラと見つめる。
「返却要請……」
 その紙を見つめボソリと呟いたオセロットに、ハルは思い出したように手をパンっと打ち鳴らすと、
「そう! 図書館の本も混ざってるんです!」
 片付けだけではなく本の返却もしないといけないらしい。
「ではまず、返す本、自分の本に分けないといけないな」
 アレスディアは辺りを見回し、混ざりきっている本の山を見つめてさてっと気合を込める。
 返却要請に記載された題名を確認しながらオセロットは言葉をかける。
「図書館の本は早急に返却したほうがいいな」
 とりあえずこれには部屋の本を減らすという意味合いもある。
 コレだけ本があるのだから、多分自分が所持しているだけでもそれなりの冊数があるに違いない。
 図書館の本だけでも減らせればそれだけ場所が開く。
 しかしシルフェは辺りの本たちをキョロキョロと見回しながら、
「借りられた本は、コール様とご一緒に返却に向かうのがよろしいかと思います」
 と、口にする。
 借りっぱなしだった事を図書館の司書にちゃんと謝ったほうがいいと思ったからだ。
「確かにそれも一理あるが……」
 問題は物理的場所が足りないという事。
「それなら腹黒商店街の家財店に連絡して本棚取り寄せりゃ問題ねーな」
 いつのまにか復活していたオーマは、その問題を解決するように提案する。
 どうせこの先も本が増えるならば、たとえ今空になろうとも本棚が数ある事に越した事は無い。
「では、頼もうか」
 もしかしたらその本棚も今ある本だけで埋まってしまうかも知れないが、それはそれでまた問題ない。
 そしてオセロットは本を踏まないように窓を開け放つ。
 その瞬間今までちょっときな臭かったような、あの独特の香りを持っていた部屋の中に風が吹き、空気が入れ替わっていっている感じを受けた。
 そして一同は山済みにされている本たちに手をかける。
 しかし何やら普通に片づけをやっているように見える(いや、普段から普通ではあるのだが)ユンナは首をかしげ、コッソリと耳打ちする。
 そんなユンナの反応に、オーマは「ん?」と顔を上げると、
「ここじゃ能力使えねーぜ」
「何ですって!?」
 能力つかってぱぱっと終らせれば早いじゃない。なんて思っていたユンナの思いを打ち砕くようにオーマは告げる。
「…謀ったわね」
 ユンナはどこか据わった瞳で口元を弓形に吊り上げた。





 分け終わったときには、なんだかそれだけでいい汗をかいたような気分に陥る。
 大体図書館から借りっぱなしの本はこの部屋の中にある本のだいたい1/4。
 一番触らなくてもいいような入り口近くの本棚に床を開けるために一応並べて、今度はコール所持の本の選別に取り掛かろうと、その他の山積みの本に手をかける。
「並べ方だが…」
 後々から見て分かりやすくかつ機能的である事が望ましい。
「私はジャンル別に分けてはどうかと思うのだが」
 ジャンル別ならばその時読みたいと思ったジャンルに直ぐたどり着く事が出来る。加えて本棚にラベルでも貼っておけば、あれではないこれではないと探さずに済むのではないかとアレスディアは考えた。
 しかし、
「中を逐一確かめるわけにも行くまい」
 アレスディアが言うようにジャンル別で分けようにも、どれもコレも似たような――厚さの違いは有れど――ハードカバーの本ばかりでジャンルを確かめるには中をいちいち確認しなければならなさそうだとオセロットは考えた。
「できれば、ジャンル別で分けた上でアルファベット順に分けられるといいですね」
 シルフェはほうっと息を吐き出してそう言葉を続ける。
 だがそれはいったいどれだけの時間を有するだろうか。
 しかし、利便性を考えたらどちらも踏襲していたほうが便利である事には違いない。
「そうね、彼が一番使いやすい環境でなければ意味がないわね」
 ユンナはこれから本棚に納めていく所持本をさらりと見回して、
「最初は皆で山を分担してジャンル別で分けた後、ある程度仕分けが終ったら本棚に片付けつつ著作別に片付けていくといいかしら」
 全てをジャンル別で分けた後にまた…と言うのはコレだけ本があると混ざってしまいそうな予感もしなくもない。
 しかし、少しずつでも本棚にしまっていけば著作名別だと分かりやすいだろう。
 人は縦を見るより横を見るほうが得意なのだから。
「では、私が本棚に並べよう」
 アルファベットの順番ならば機械的に処理できる自分のほうが正確に並べられるだろう。
「じゃ、あたしは本棚に雑巾かけてきます!」
 折角埃を落として綺麗にした本を、汚いままの本棚にしまうわけには行かない。
 ハルはペティにバケツを雑巾を借りるため部屋を後にする。
 仕分けが終ったものから、水拭きが終った本棚に並べつつ著作名でアルファベット順に並べる。
 指示も終わった事だし、自分の役目は1つ終ったなと軽く息を吐いたところで、
「ユンナ殿もジャンル別の仕分けにお手伝い願いえるか?」
「え!?」
 行き成り名前を呼ばれユンナはびくっとして振り返る。
 今までの所持と図書館の本の仕分け作業もオーマをほぼこき使うかのように指示を出していただけで、実際本には触れていない。
 しかしそれは、コール同様の片付けが苦手であるからで―――
「ごめんなさい。箸より重たい物は持った事ないの」
 背中からはある種の冷や汗が流れているのだが、表面上は何処か憂いたような優雅な笑顔で軽く頬に手を当てて、本当に申し訳なさそうに告げる。
「なぁに言って―――!!」
「あらなに?」
 くるぅりと皆を背にするようにしてオーマに振り返ったユンナの顔に、からからと笑いを浮かべていた顔のままでオーマの表情が固まる。
 その視線が語る言葉それは―――減給。減給。減給。
「………」
 オーマは不思議な表情でこちらを見ている皆をちらりと確認して何事も無かったかのように破れていたり壊れている本の修復作業に戻る。
 ユンナはさらりと髪をかきあげながら振り返り、
「ジャンル別のラベルでも作らせてもらうわ」
 私の超絶美麗センスによって、この世には二つとないほど、誰もがお金を積んででも欲しがるくらい素晴らしいラベルを作ってあげるわ! ありがたく思いなさい。
 といった感じの雰囲気がそこはかとなーく漂ってきているような気がするが、
「ではお願いしよう」
 ジャンル別のラベルは作ろうと思っていたのだし、作ってくれるならばそれで助かる。
 程なくしてバケツと雑巾を手に戻ってきたハルの手によってある程度本棚が綺麗になった頃には、ジャンル別に仕分け済みと手付かずが半々ほどになり、オセロットは山を少しずつ手にすると著作名順に並べ始めた。
 そして一人せかせかと本の修復と補強作業に勤しんでいたオーマだったが、命を吹き返した本たちを見て感慨深げに頷くと、この本を何処へ片付けようかと考え始める。
 順当で行けば、ジャンル著作別なのだが、
「うし!」
 何を思ったのか、オーマは本を何秒か見つめた後、本棚へと本を納める。
「オーマ?」
 その近くでジャンルで分けられた本を著作名順に本棚へと入れていたオセロットは、オーマが片付けた本を見て声をかける。
「その本は場所が違うんじゃないか?」
「いいや、これでいい」
 どう考えてもその場所は別ジャンルである。
「そのジャンルはもう2つ後の本棚だ。どう考えればそこに片付く?」
 とはいえ、オーマが本を並べた場所は、コールがいつも座っている椅子から比較的近い場所。
「勿論、本から溢れ出るラブ順だ!」
「………」
 にっと歯を見せるようにて笑ったオーマの表情に、オセロットは「ふむ…」と、軽く返事を返したが、
「とりあえずその本は2つ後ろの本棚だ」
 オーマの主張は何処吹く風、オセロットは冷静にそう言い放つ。
 反論しようかと口を開きかけたが、もう一度同じ言葉を言われてしまい、オーマは撃沈して言われた場所に本を片付けた。





 あれだけあった本を本棚に納めてしまうと何故だか一気に数が減ったように見えるのは何故だろう。
 後は戻ってきたコールと一緒に図書館の本を返しに行くだけとなった。しかし、ルディアがまだ引き止めているのだろう。もしかしたら誰かが呼びに行かなければ帰ってこないかもしれない。
「あたし、呼んできますね!」
 ハルはたったと別荘から軽く駆け足で白山羊亭へと向かっていく。
 アレスディアはエルファリア別荘の入り口までハルを見送って、黒の装束に細かくついている白い柄――埃をパンパンと払う。
 流石にエプロンを借りたものの、かっぽうぎならば良かったのだろうが、袖まで覆うようなものではなかったため、アレスディアの黒い服には埃が良く目立ってしまった。
「ふぅ」
 部屋の中でずっと片付けとお友達をしていた成果、こうしてのびのびと背伸びが出来るのが少々嬉しい。
 パンパンと埃を払い終わるとアレスディアは先にコールの部屋へと戻り、最初この部屋へ訪れたときとはまったく違う景色にどこか嬉しそうに微笑を浮かべた。
 過去を知っているだけで、何故だか凄くやりきった感がある。
 アレスディアは軽く歩を進めると、そっと本棚に並べられた本の背に手を添えた。
「うわぁ!」
 コールの感嘆の声が部屋の中に響き、その声に我に帰るように本棚から顔を出す。
「皆でがんばったんだよ」
「ありがとう!」
 入り口で嬉しさに瞳をキラキラさせているコールに、ハルはそう説明する。
「でも片づけなら僕も手伝ったのに」
 しかしちょっと申し訳なさそうに顔を伏せてそう呟いたコールに、ハルはやっぱり予想通りの言葉が返ってきた。と苦笑しつつも、
「コールクンを吃驚させたかったの!」
 ね? と、一同に向き直り同意を求めた。
「ふふ、確かに吃驚してくださいましたね」
 元々から驚かせるのが楽しそうだと思っていたシルフェはポンとハルの肩に手を置いて助け舟を出すように同意する。
「コールよう」
 オーマは感嘆しっぱなしのコールにズンズンと近づくと、至極真剣な表情でがしっとその両肩を掴む。
「図書館の本はちゃんと返さねぇと貸し出し禁止になっちまうぞ」
「え…あ、そう…だよね」
 あまりの剣幕と迫力にたじろぎつつコールはそう答える。
「皆で頭を下げれば司書殿もそうきつくは言うまい」
 アレスディアは穏やかな笑顔でそう告げて、入り口近くの本棚に入れてあった図書館の本を手に取る。
 それでも結構な冊数ではあったのだが。
「目の前なのだから直ぐ返せるだろうに」
 返却要請のあまりの多さにオセロットは苦笑しつつそんなコールを見やる。
「…ごめんなさい」
 どこかションボリと肩を落としたコールは何故だか仔犬のようだ。
「ごめんなさいは、司書様に言わないと」
 図書館から借りた本は、ユンナを除いた皆で分担して持てばそこまでの冊数には至らなかった。
 本が紛失したわけではない状況だったため、司書にそれぞれの場所に自分で戻してこればそれでいいと言われ、一同はほっと息をつき本を片付けると図書館を後にする。
「さぁて」
 一息ついたことだしお茶にでもするか?
 そんなオーマの一言に皆顔を見合わせて頷いた。







☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆


【1953】
オーマ・シュヴァルツ(39歳・男性)
医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り

【2994】
シルフェ(17歳・女性)
水操師

【2919】
アレスディア・ヴォルフリート(18歳・女性)
ルーンアームナイト

【2083】
ユンナ(18歳・女性)
ヴァンサーソサエティマスター 兼 歌姫

【2872】
キング=オセロット(23歳・女性)
コマンドー


☆――――――――――ライター通信――――――――――☆


 例えばこんな日もにご参加ありがとうとざいます。ライターの紺碧 乃空です。かなり突発的に近い募集であったにもかかわらずご参加本当にありがとうございました。これで当分はコールの部屋も綺麗なままでしょう(笑)
 本当にいろいろとお心遣いありがとうございました。のんびりまったりではございますが完全に「例えば」シリーズをやめる事はしないつもりですのでご安心ください。同時に【楼蘭】のほうも宜しくお願いします(笑)
 それではまた、アレスディア様に出会える事を祈って……