<PCクエストノベル(1人)>
そうだ、ユニコーンに会いに行こう!〜アーリ神殿〜
------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【2542 / ユーア / 旅人】
------------------------------------------------------------
物語は、とある酒場から始まった。
冒険者が集い、交流を深めたり情報を交換したりするような、…それこそ数多の世界から、様々な冒険者が集う、ここ聖獣界ソーンでは珍しくも無い場所だ。
だが、常に人が集う店内に今日、珍しく人影は少なかった。
少女は無言で酒場の扉をくぐる。
とりあえず、マスターの真ん前、カウンター席に腰を下ろして。
ユーア:「とりあえず…。そうだな、この店のお勧め料理をくれ」
席に着くと同時に切り出した、彼女の名はユーアという。実際はもう二十一歳なのだが、まだ十代後半にも見える。
更に彼女の持つ凛々しい顔立ちと立ち振る舞いの所為でよりいっそう年齢不詳の感を出していた。
マスター:「あいよ」
マスターの答えに納得したように、ユーアは荷物から地図を引っ張り出した。
マスターは料理の手を休めることなく、彼女の地図にちらりと目を走らせる。
マスター:「…探索かい?」
彼の言葉に顔を上げるユーア。
ユーア:「いいや、観光だよ」
マスター:「…観光?」
訝しげに片眉を器用にひそめ、マスターは聞き返した。
言葉と同時に目の前に置かれる深皿に盛られた、暖かな湯気の立ち上る貝のリゾット。
その香りにどこか鋭い物を孕んだユーアの金の瞳が、幸せそうにゆるむ。
木をくりぬいて作られた、丸みのあるスプーンを手にとって彼女は頷いた。
ユーア:「そ、観光だ。アーリ神殿まで行こうと思ってるんだが」
マスター:「アーリ神殿?こりゃまた、変わったところに出向くんだな?何しに行くんだ」
ユーア:「決まってるだろう、そんな事」
一口一口味わうように、だが素晴らしいペースでユーアはリゾットを片付けていく。
ユーア:「俺の目的はただ一つだ」
空になっていく皿をほんの少し呆然と見ていた店主は、無言で言葉の続きを促した。
ユーア:「ユニコーンを見に行くんだ」
マスター:「…見に行くったって…。神殿に入るのも一苦労…ああ、そうか」
途中で少し言葉を濁しつつも、マスターはユーアに問いかけた。すぐに、女は入れるんだったな、と言葉を続ける。
ユーア:「ああ…。神殿で、ユニコーンを飼育してるって聞いてから、絶対見に行ってやるって思ってたんだ。」
力強く頷いて、まだ見ぬユニコーンの事に思いを馳せるユーア。
ごちそうさま、と彼女が差し出したリゾットの代金を受け取り、マスターは目を和ませる。
マスター:「へぇ、見た目によらず、ファンシーだな?」
ユーア:「……本当は、聖獣のユニコーンに触れたら一番良いんだけどな」
マスター:「…あんた、時々無茶言うね……まいどっ」
ぼそりと呟かれたユーアの本音に、マスターは引きつった笑みを浮かべて彼女を見送ったのだった…。
所変わって、ソーンから、アクアーネ村を通過し、更に南下した所。
宣言通り、ユーアはアーリ神殿を来訪していた。
幾重にも白く太い柱が並び、日の光を浴びて蒼い影を地に落とす様は、それだけでどこか荘厳に思えてくる。
ユーアは、門に佇む美しいユニコーン像に見とれつつも、その脇に立つ、二人の屈強な女兵士に神殿に詣でたい旨を告げた。
女兵士の一人がユーアに断ってから彼女の体に触れ、女性で有る事を確かめる。
ややあって、兵士は笑顔を見せて頷いた。
もう一人の兵士が呼んできたのだろう、まだ若い、一人の巫女が神殿内から歩み出る。
少女巫女はそのままユーアの傍まで近づくと、優雅に神服の裾を軽く持ち上げてみせた。
ナターシャ:「はじめまして、わたくしはこちらで巫女見習いの末席を汚しております、ナターシャと申します。この度は、我らの聖獣への貴女の敬意と信仰心を讃え、わたくしが神殿内をご案内させていただきます。どうぞ宜しくお願いいたしますね。」
ユーア:「俺はユーア。有り難う、宜しく」
ナターシャ:「ユーア様ですね。では、案内させて頂きます。どうぞ付いてきて下さいませ」
ナターシャが見習いの、まだそれほど長くない服の裾をひるがえしてゆっくり歩き始める。
背の高いユーアは彼女の頭を少し見下ろしながら、彼女に歩調を合わせてゆっくりと進んだ。
まず始めに案内されたのは美しい壁画と、精緻な彫刻が入った柱が並ぶ廊下。
ナターシャの解説によると、壁画には彼女らが崇める聖獣の逸話や、物語が描かれているらしい。
どの絵にも、美しい、よじれた角を持つ白い獣の姿と、乙女の姿が見える。
ナターシャ:「聖獣のユニコーンも、また、モンスターのユニコーンも、乙女を選んで傍に佇む、というのは共通のようです。二つは、切り離せない物なのかもしれませんわね」
ユーア:「…そうだな、どの絵も皆幸せそうだ」
ナターシャ:「うふふ、そうでしょう?わたくしも、最初はこの壁画に心奪われて神殿にお仕えすることになったのですわ」
それから…、と彼女は前置きする。
壁画の廊下は終わりを告げ、突き当たりの壁に幾分小さめな通行口。
聖獣の加護を逃がさぬ様にする目的で、出入り口は小さめなのです、とナターシャが小声で教えてくれる。
ナターシャ:「さあ、この先に我らが聖なる者がいらっしゃいます。他にも訪れていらっしゃる方もいますし、どうぞ敬虔に、お静かに願いますね」
微笑んで言うナターシャに続き、ユーアはその入り口をくぐった。
ひんやりした独特の空気に、自然と身がひきしまる思いがする。
ユーア:「……綺麗だな…」
大きな聖獣を象った像が、ユーアを迎えた。
広くしつらえられた階段状の台座の一番上、誇らしげに。
ナターシャが像に頭を垂れるのを見て、ユーアも自然に黙祷を捧げる。
彼女たちの他にも、観光者らしき人と、巫女の組み合わせが数組見えた。
ナターシャ:「いかがでしたか?お美しかったでしょう」
ユーア:「…ああ、本当はユニコーンを見たくて来たんだけど、聖獣像を見られただけでも、本当に価値が有ったと思う」
ナターシャ:「あら、ユーア様はユニコーンにお会いになりたかったのですか?そうですね、…私たちがお世話をしている子達でよろしければ、会う事ができますよ?」
ユーア:「え?」
ナターシャは嬉しそうに微笑んで、頷いた。
聖獣ユニコーンを崇めるアーリ神殿の一角では、ユニコーンの飼育を行っているのだという。
一般の参詣コースには入っていないが、希望者は誰でも身近にユニコーンを見る事ができるのだそうだ。
ナターシャ:「ごらんになって行かれますか?」
ユーア:「……ああ、是非」
元々それが目当てで来たユーアである。勿論断る理由など無い。
ナターシャ:「分かりました、ではこちらへどうぞ…」
ナターシャに案内されて来たのは神殿の奥まった所にある中庭だった。
中庭と呼ぶ事に若干抵抗を覚える程広いそこの天井には美しいステンドグラスがはめこまれ、緩い日差しが差し込んできている。
木や花が多く植えられ、一面草の絨毯が広がる。
そして。
ユーア:「……あ」
そこに幾頭も遊ぶ、白い優美な獣達の姿に、ユーアは思わず小さく声を上げた。
ユニコーンだ。
一頭が、ユーアとナターシャの姿を認めたのか、ゆっくりと近づいてくる。
ナターシャが幾分誇らしげに笑った。
ナターシャ:「わたくしがお世話をさせて頂いている子です。宜しければ、撫でてみませんか?」
擦り寄ってくる彼の頭を柔らかく抱えるようにして、ナターシャはユニコーンの首をさすってみせた。
ユーア:「か、構わないのか?」
ナターシャ:「ええ、この子はとても人なつっこいのです。きっとユーア様の事も好きになりますわ」
ユーアは高鳴る胸を感じながら、恐る恐るユニコーンの首に手をのばした。
軽く触れると、柔らかなたてがみがするりと指の間を抜けていく。
ナターシャが手を離すと、ユニコーンは不思議そうにユーアの方に顔を向けてきた。
ナターシャ:「さっきの私のように、頭を抱いてあげて下さいませ。喜びますから」
ユーアは頷いて、そっとユニコーンの背に手を回すようにして頭を抱く。
嬉しげに、ユーアの肩にその鼻をすり寄せてくるユニコーンを見て、ナターシャが和むように笑った。
ナターシャ:「うふふ、やっぱりその子もユーア様の事が気に入ったようですわ。わたくしも嬉しいです」
ユーア:「……」
心ゆくまでユニコーンと遊んで、心底満足した表情のユーア。
彼女を再び入り口まで見送りに来たナターシャに問いかける。
ユーア:「…有り難う、楽しかった。また来てもいいだろうか…」
ナターシャは少し驚いたように目を丸くしてから、微笑む。
ナターシャ:「ええ、勿論ですわ、ユーア様。わたくしも、あの子も、また来て頂けるのを楽しみにお待ちしておりますわね」
ユーア:「…ああ、必ず」
ユーアはナターシャに約束して、ほくほくと帰路に着いた。
とりあえず、ソーンに戻ったらリゾットでも食べながら、酒場のマスターに自慢してやろう、などと考えながら………。
|
|