<PCクエストノベル(5人)>


探索、異常の地にて 〜ヴォミットの鍋〜



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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

【1649/アイラス・サーリアス/男性/19歳/フィズィクル・アディプト&腹黒同盟の2番】
【2315/クレシュ・ラダ/男性/25歳/医者】
【2359/ストラウス/男性/22歳/情報屋】
【2787/ワグネル/男性/23歳/冒険者】
【2989/グレイディア=レナティス/男性/64歳/異界職】

【助力探求者】

 なし
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 ヴォミットの鍋、という場所がある。

 …………遠い昔。その地で一匹の竜が息絶えた。

 朽ち行く死骸の名残は、今も尚残っていると云う。

 ……何の影響も無しに消え行くを良しとしない彼の者の意地故か。

 竜の毒気を孕んだ血肉はその地に干渉し、あらゆる物が歪んだ異常の地帯を形成した。

 動植物に至るまでが異形のままに日々を送り、取り巻く瘴気が絶えることは無い。

 まさしく魔境と呼称するに相応しい―――外道の住まう場所である。

 罷り間違っても、外部からの進入など考えてはならない場所。




 ヴォミットの鍋。

 そんな、観光におよそ適さないような場所に訪れる者が、この日五名ほど現れたのだ。







【1】

クレシュ:「さて……着いたみたいだね。此処がヴォミットの鍋か」
 呟いて、彼は空を見上げる。
 今日は晴天のはずであったのだが―――しかし不思議なことに、今自分が立っている場所に燦々とした光は申し訳程度にしか差さなかった。周りへと視線を巡らせて見れば、成程。不気味に成長した背の高い木々が、この「村」を完全に覆っている。
(この異常地帯を抜ければ、すぐにでも太陽は微笑んでくれるのに?損をした気分だね……)
 改めて今回訪れた土地の良くない点を知って、はぁ、と嘆息した。
クレシュ:「本当に、辛気臭い所だねぇ……」
 やれやれと肩を竦めて不平を言う彼の名はクレシュ・ラダ。
 白い肌に緑の瞳が映える、何処か飄々とした雰囲気を纏った人物である。
クレシュ:「なんだろうね。此処の住人も、日光浴を存分にすれば少しは変わるんじゃないかな」
アイラス:「そういうわけにも行かないでしょう、クレシュさん」
 良いアイデアを思いついた、と言わんばかりに手を叩く彼を嗜めるのはアイラス・サーリアス。
 眼鏡をかけた温和そうな青年といった風情のアイラスは、しかしクレシュと同じく顔は晴れない。
 ……それは、言うまでも無いこと。
 瘴気の満ちたる空気の中での快楽など、望むべくもないのだ。
クレシュ:「でもさ、ここら一帯の木々を全部取り払っちゃうと気持ち良さそうじゃないかな?」
アイラス:「それは、そうかも知れませんが…」
ワグネル:「―――おいおい、そいつは面白そうだが大概にな」
 そんな、クレシュがアイラスと他愛の無い会話をする中。
 二人の後から歩いてきた人々――三人居る――の中の先頭の男が、半眼でクレシュに釘を刺した。
 黒髪に漆黒の瞳。
 小麦色の肌は、それだけで洗練された伊達男のような印象を見る者に与える。
 大刀を携えて歩くワグネルであった。
ワグネル:「依頼主殿が軽口を叩ける程にご健勝であらせられるのは有難いが―――何しろ場所が場所だ。なぁ?」
ストラウス:「……ええ、ワグネル様の仰る通りではありますね」
グレイディア:「右に同じく、でしょうかな。無論、楽しき生の為に諧謔を忘れてはならないでしょうが……」
 同意を求めるように背後へ振り向く彼に、届く二つの声。
 ワグネルの視線の先には、ターバンを巻いた美貌と、場に似つかわしくない正装の偉丈夫。
 パーティーの殿を務めていたストラウスに、グレイディア=レナティスであった。
ワグネル:「そういうことだ。それで、まずはどうするんだ?」
クレシュ:「うん、そうだね……とりあえず、話の出来そうな者が居たらワタシが交渉する」
アイラス「毒薬に、葉巻ですか」
アイラスの相槌に、うん、と微笑みながら頷くクレシュ。
クレシュ:「最悪、それらだけでも手に入れておきたいからねぇ……あとはまぁ、どうにかするさ」
ストラウス:「しかし他のもの、とは彼らの血肉でしょう?容易に手に入るようには思えませんが…」
クレシュ:「ふふ、ストラウスさん正論。大丈夫さ。多少は下調べもしてあるんでね……」
 問題は無い、といわんばかりに。
 ち、と人差し指を振りながらクレシュが後方の仲間を見据えた。
クレシュ:「とりあえず進むとしよう?なにせワタシたちには―――」

グレイディア:「時間が無い、ですな」

クレシュ:「補足ありがとう。そう、ワタシ達には時間が無い」
気安くグレイディアの肩をぽんぽんと叩きながら、いかにも残念そうに彼は呟いた。
クレシュ:「なにせ、デリケェトなワタシ達だ。この村に滞在していられるのは………半日程度なんだからね」
 事実の再確認。
 クレシュの念押しとも取れるその台詞に、皆が一様に頷いた。









 ヴォミットの鍋には瘴気が渦巻いている、というのは言うまでも無いことである。
 ならばどうするか。
 答えは、そう。シンプルだろう。


『ワタシの作ったこの薬で毒気は問題ない。ただ、制限時間は十二時間しかないんだけど』


 クレシュが今回出した回答は、そのような類のものだった。
 すなわち。彼らは半日で、速やかに依頼主の求める品を手に入れて村を出なければならない――





クレシュ:「申し訳ない、ちょっと宜しいかな?」
「……何だ」
(おお、コミュニケーションに成功した)
 内心で驚きながら、クレシュは笑顔のままに会話を進める。
 目の前に居るのはヴォミットゴブリン。元はヒトであったかもしれない異形の怪物である。
 肌は毒々しい、白や黄の要素が一切無い色。
 声は老人のように枯れて、聞き取り難いことこの上ない。
クレシュ:「その、研究対象として葉巻と毒薬を是非とも売って欲しいんだけど…確か、売っているのだったね?」
「……ああ」
クレシュ:「それじゃ、これだけの量を……それと、これは小耳に挟んだ話なんだけれど…貴方達の中でも…一部の者………」
 ぶつぶつと話しながら、商談が進んでいく。
ワグネル:「……おお、なんとか話が出来てるみたいだな」
ストラウス:「の、ようですね……良かった」
 やや後方から、四人がそれを遠巻きに見て雑談に耽っていた。
アイラス:「しかし……ここの住人は変わっていますね。竜の毒気も伊達ではない、ですか」
グレイディア:「そうですね……成程、建造物も変わっている。興味深いことです」
ワグネル:「俺には、どーも芸術家が無理やり創作したテントの成れの果てにしか見えんがね……」
 辺りには、ワグネルの台詞の通りに奇怪な住人に相応しい住居が広がっていた。


 それらの居住区の先に在るのは―――巨大な「何か」の骨の一部。
 竜の頭蓋と称され、事実竜の頭蓋にしか見えない巨大な頭蓋骨が無造作に、しかし存在感と共に聳えていた。
ストラウス:「竜の頭蓋から作られた毒薬は、錬金術師も欲すると言いますが……」
クレシュ:「おーい、お待たせ!買って来たよー!」
 遠くを見やりながら目を細めていたストラウスの意識を引き戻すかのように、快活な声。
 見ればクレシュが満面の笑みで薬瓶と葉巻を両手に抱えて戻ってくるところだった。
クレシュ:「いやー、中々に高い買い物だったね!しかしワタシは満足さっ」
アイラス:「それは良かった………それで?」
 それにこちらも微笑みで答えながら、アイラスが言外に先を促す。
 それで――――ゴブリンの血肉をどう手に入れるのですか、と。瞳が告げていた。
クレシュ:「うん……それも、問題無い。君達、ちょっとあちらを御覧よ」
「………?」
 クレシュの含みのある台詞に促されて、皆が彼の指が示す先を見る。
 そこは―――森の中にあるこの村でも、一際木々の生い茂る区画だった。
クレシュ:「あそこは入り組んで、軽く迷宮さながらの作りらしい。竜の骨なんかも時々見つけられるそうだ」
グレイディア:「成程……では、あそこへ向かうわけですね?竜の骨を採取しに」
クレシュ:「そう……そして、ワタシが所望するゴブリンの血肉を、ね」
 うっすらと、クレシュが笑った。
ワグネル:「……どういうことだい?」
クレシュ:「あそこはね、彼等の中でも殺しや盗みを行うならず者たちが救う場所なんだそうだ」
ワグネル:「へぇ……は、了解。話が飲み込めたぜ」
アイラス:「『この村に住んでいる者』からしても、僕等の行動に異論はない、ということですか……」
 合点が行ったように浅く頷く仲間に、うん、とクレシュが肯定した。
クレシュ:「そう。言わば生活を脅かす犯罪者だ。どうにか退治して欲しいみたいだよ」
ストラウス:「我々の出番、ということですか」
グレイディア:「気を昂らせぬよう、気をつけないといけませんね……」
 言いながら、彼等は依頼主が己に求めることを理解している。
 既にその気概は整い、微塵も乱れることが無い。
 一人として行動の是非を問う事無く、一斉にクレシュを見据えた。
クレシュ:「うん……なんというか、戦闘面ではワタシの出番が減りそうだけど、心強いね!」
 引き連れた仲間を信頼し、彼はそう言って白衣を翻し森の深奥へと脚を運び始める。
 時間は無い。可能な限り速やかに行動を終了し、自分達の居るべき場所へ戻らなければ―――
クレシュ:「さあ……それじゃ、物語も良いところへ突入だ。皆、どうか宜しく頼むよ?」

 五人は、迷う事無く死の蔓延る森林地帯へと足を進めた。




【2】

クレシュ:「……とまぁ、何度も言うように。ワタシの作った薬は、時間制限の他にデメリットがもう一つあるんだ」
 指を、指揮者よろしく軽快に振りながらクレシュが呟く。
 その視界に移るのは、濃密な緑。
 ――――既に彼等が村外れの森林地帯に突入して、小一時間が経っていた。
 すぐさま敵に襲撃されると思っていた予想は外れ、未だに平穏な進軍が続いている。
クレシュ:「えーとだね、鼓動を刻む早さに比例して効力が切れるのも早くなってしまうのだね。つまり……」
グレイディア:「―――つまり、戦闘等に突入しても平静を保つ必要がある、ということですね」
クレシュ:「正解」
 半ば独白ですらあった彼の台詞に、律儀に先行していたグレイディアが返答する。
 護衛対象であるクレシュを中心に、前方をグレイディアとアイラス。後方をストラウスとワグネルが固めている。
ストラウス:「しかし……随分と厄介な森ですね。広いだけでなく、入り組んでいる」
ワグネル:「おや……メモまで取って、念入りだな。なんぞ特殊な事情でもあるのか?」
 クレシュの後方を一定のペェスで歩きながら、ストラウスとワグネルが軽い雑談を交わしていた。
 熱心に書き込まれた紙片を覗き込んで質問するワグネルに、ストラウスが微笑む。
ストラウス:「ええ。帰還したら、この辺りの地図を作成しようと思いまして」
ワグネル:「それはまた、ご苦労なことで……」
クレシュ:「あー、もう、後ろのお二人!ちゃんと話を聞いて欲しいな。良いかい?安易に心を乱されちゃ―――」
アイラス:「問題ありません。大丈夫、皆心得ていますよ」
 自分の話を聞かない二人にうー、と唸りながら戒めるクレシュ。
 余計な追求が始まらぬよう、前方に居たグレイディアとアイラスが微笑みながらそれに応対していた。
 大人、である(個々人の実年齢についての言及は、謹んで割愛する)
グレイディア:「会話してリラックスしておくのも重要ですよ。なにしろ、忙しい時は忙しいですからね」
アイラス:「――――と、いうことです」
 紳士的に、前方を進む二人が上品に微笑んだ。
クレシュ:「……ふ、そうだね」
 それを受けてクレシュが頷く。
 ………やや、俯いてはにかみながら、続けた。
クレシュ:「しかしね、まったく……ヤだなぁ……そんな風に微笑まれたら、ワタシは平静で居られないよ……二人とも、ほら、その好意は嬉しいんだけど……時とか場合とか、考えないと」
 微妙に、勘違いしているらしかった。
 乙女のようにクレシュの鼓動が高鳴る。本音にせよジョークにせよ、不毛ではあった。
ワグネル:「おーい、これはアレか?そろそろ依頼主殿を気絶させて運ぶ時間か?」
クレシュ:「早くない!?早いよね、その作戦発動させるのってもっと切羽詰ってからじゃなかった!?」
アイラス:「いえ、まだ大丈夫ですよ。ねぇグレイディアさん?」
グレイディア:「そうですね。クレシュ先生の軽口はいつものことです」
クレシュ:「うわ、なんか一気に皆の目が遠かったり寒かったり!?冗談、冗談だよ!」
ストラウス:「賑やかですねぇ……」
クレシュ:「ストラウス君も、自発的に蚊帳の外みたいな感じだねっ!?」

 慌ててジョークを撤回するクレシュ。
 その慌てる様で、とんでもなく鼓動が早くなっていることに気付いていないのもまた彼だけだった。
グレイディア:「クレシュ先生、落ち着いて下さい」
クレシュ:「わ、わ、わ、ワタシは平静だよ!クールに行かないとねっ」
グレイディア:「結構ですね。何しろ……」
 そんな依頼主を、グレイディアがやんわりと宥める。
 場面だけを切り取れば、穏やかな昼下がりの歓談でしかないそれであったが………



 彼と、他の人々の瞳が揺らぎ、細まったのはそれと同時であった。



グレイディア:「―――これから、さらに賑やかになりますからね。気分が高揚しすぎるのは戴けません」


 落ち着き払ったグレイディアの声。
 その声を出すのと全く同じタイミングで、彼はクレシュの前に、手を突き出していた。
クレシュ:「へ?」
 ひゅっ、と空気を切り裂く音がして。
 ――――「凄まじい速度でクレシュへ飛来した何か」が、グレイディアの手に掴み取られる。
 如何な技か。それについて言及する暇も無い。
クレシュ:「これ……」
ワグネル:「―――否、まだ終わっちゃいねぇ!次が来る!!」
アイラス:「ストラウスさん、グレイディアさん!クレシュさんを任せます!」
ストラウス:「承知しました!」
 続いて空気を切り裂く同質の音が、続けて十。
 常人ならば反応すら出来ないだろうそれに、しかし依頼主を守らんとワグネルにアイラスが立ち塞がる。
ワグネル:「は……児戯だな!」
アイラス:「二時から三本、十一時から、同じく三本―――!!」
 口々に呟き、己の得物で目の前の空間を一閃する!
 断ち割られ、本来の役を全う出来ぬままに破砕された矢が地面に落ちた。
クレシュ:「敵からの狙撃かい、これは!」
ワグネル:「らしいな!そぅら、敵のご登場だ!」
 ワグネルが吐き捨てると同時、左右の茂みから多数のヴォミットゴブリンが躍り掛かって来る。
 前からも、相当数のヴォミットゴブリンが白兵戦用の武器に武装を切り替えて迫ってきているのが確認できる。
 今まで息を潜めていた分をここで爆発させんばかりの、濃密な襲撃だった。
ワグネル:「一気に距離を詰めて、速攻で終わらせるぞ!」
アイラス:「同感です―――では、護衛を果たすとしましょうか!」
 死を覚悟するしかない密度の襲撃に、しかし恐れる者は一人としていない。
 ワグネルとアイラスが示し合わせたように、前方から迫り来る大群へ切り込んだ。

 爆発的な加速を以って一気に距離を詰め、攻めるだけだと勘違いしていたヴォミットゴブリンの群れの出鼻を挫く!

ゴブリン:「ヴァ……」
ワグネル:「遅ぇんだよ、間抜けっ!」
 敵陣に到達するや否や、ワグネルは己の大太刀をすらりと抜刀する。
 ――――それは攻撃前の挙動ではなく、既に先制の一撃を内包するそれ。
ワグネル:「せあっ!」
 鋭い呼気と共に打ち出された斬撃が、立ちはだかる四匹のゴブリンの上半身と下半身を離散させた。
ゴブリン:「ギャアアア!?」
 ………そして。
アイラス:「目を取られているようでは、まだ甘い―――すみませんが、僕も加減はしませんよ?」
 足を止め、動揺してしまったのが致命的な間違い。
 獅子奮迅の切込みを続けるワグネルは、しかし群れの中枢には入り込んでは居なかったというのに。
 ……アイラス・サーリアス。至近戦で尚その力を存分に振るう釵を携える男が、その隙を突いて敵陣に入り込んだ。
アイラス:「はっ!」
 的確に、速く、圧倒的な手数でアイラスはゴブリンを戦闘不能に貶めていく。
ゴブリン:「チィ……」
アイラス:「そこ、遅いですよ!」
 無駄な消費を避けるため、必要最小限の動きで戦うその様は芸術的ですらある。
 その速度に切り込まれた中央のゴブリンはとっさの反応が出来ず、倒れ、或いはうずくまってしまう。
 敵が密集する地帯において、奇妙に中央の戦力が殺がれた。
 ―――――それを見逃す二人ではない。
アイラス:「ワグネルさん、いけます!」
ワグネル:「応よ、承知した……!」
 休む事無く釵を振るうアイラスが、外側を切り崩すワグネルに呼びかける。
 その意味を問うことはしない。ワグネルは浅く頷くや否や、己の脚力に物を言わせ、大きく跳躍した!
 着地先は、アイラスのすぐ横――――即ち、台風の目の様相を呈している敵陣の真っ只中である。
ワグネル:「うおおおおおおおお!!」
アイラス:「さあ、一気に全てを狩り出します!」
 周りを囲まれた状態で戦う不利は、とてつもなく。そのリスクは言うまでも無い。
 しかしそれを豪快に覆す、温厚そうな青年と日に焼けた冒険者二人がそこに居た。


ストラウス:「向こうは大丈夫でしょうね。こちらも、来ますよ―――!」
グレイディア:「では、右側は私が食い止めます!」
 それを横目で見ながら、依頼主の身を任された後衛二人が互いに目線を交わして動き出す。
ゴブリン:「オマエ、コロス……!」
 細身な体格で立ちはだかるストラウスを組み易しと断じて、左から襲撃をかけた群れは笑う。
 前方で仲間を駆逐している化物や、反対方向を守っているいかにも強そうな男。
 それに比べて目の前の男はどうだ?自分達は幸運だ―――――そんな浅慮で、彼らはくぐもった笑いを洩らす。
ゴブリン:「アアアアアアア!!」

 自分達が間違った認識をしていたと気付くのは、斬りかかった後だった。

ゴブリン:「死ネェ!」
ストラウス:「それは、御免蒙ります」
 自信満々で斬りかかった一匹は、ストラウスの構える三日月刀と剣をかちあわせない。
 す、と。受け流すように、軽い足取りでストラウスはその横を通過した。
 件を鍔迫り合いに持ち込み、膂力に物を言わせるゴブリンの目論見からは対極にある挙動であった。
ゴブリン:「ギ」
 何をした、と訝しむ暇も。
 何をすれば良いか、と思う暇も、その一匹には既に無い。
 ――――ストラウスが横切ったのと同時。
 その身に切れ目が入り。一瞬遅れて、崩れ、落ちた。
ゴブリン:「馬鹿ナ!?」
ストラウス:「数が多いですね。しかし、クレシュさんを傷つけさせるわけにはいきません」
 涼しい顔で言いながら、ストラウスは続けてその三日月刀を閃かせる。
 道化師の仕掛けた、奇術のタネが明かされるが如く、両脇に居たゴブリンにも切れ目が入る。
ゴブリン:「オオオオオオオオ!?」
 慌てて攻撃するも、既にストラウスはそこに居ない。
 流水のように。さらりさらりと零れる砂のように、舞うが如くストラウスが得物を振るっていった。
クレシュ:「おー、凄いぞストラウス君!前方の二人に劣らない素敵加減だ!それで食べていけるよ!」
ストラウス:「いえいえ、私の術など手慰みに覚えた戯曲の一説に同じ。下手の横好きですよ……無論、努力と研鑽は怠っていない故、他人様に見せられないような児戯ではありませんが」
 ぱちぱちと拍手するクレシュに、歌うように彼は答える。
 謙遜するように芝居かかった台詞を紡ぎ、左の猛威を受け流す。

 そして右の脅威も――――
グレイディア:「おおおおおお!!!」
 齢を重ねた現在も衰えを感じさせぬ、グレイディアの猛攻に成す術も無く駆逐されていた。
 彼が手に持ち振るうのは、巨大な強襲斧。
 純粋に戦闘用に作られたそれは、剣と並んで本格的な戦闘に特化した一品である。
 相応の膂力を持ち合わせたグレイディアの一撃は鋼鉄の鎧をすら容易く両断するだろう。
 ならば―――レザー・アーマー程度しか身につけていないゴブリンなど、何匹居たところで紙切れと同じ。
グレイディア:「………ふっ!」
 軽々と斧を振り回し、暴風さながらの勢いで。多少の手傷など歯牙にもかけず、凄まじい速度で敵を倒していく。
 加えて、彼の持つそれは怪力と神速を使用者に与える聖獣装具。興奮を覚えるデメリットはあれど―――
ゴブリン:「グ……オオオオオ!!!!」
グレイディア:「遅いですよ!」
 やぶれかぶれで剣を振り回してくる敵の攻撃を、一転して鮮やかに回避し、背後に回り込む。
グレイディア:「はっ!」
 裂帛の気合と共にその脳天を打ち割り、独楽のように身体を回して―――乱暴に斧を自由にし、側面へ叩き付けた!
ゴブリン:「ガッ!?」
 攻撃に晒されるとは夢にも思って居なかったヴォミットゴブリンがさらに一匹、この世と別れを告げる。
 ……そう。デメリットを上回る速度で戦闘を収集せんばかりの勢いを、グレイディアは発揮していた。
グレイディア:「……粗方を片付けましたか!」
 己の守る領域の敵残存数を正確に把握し、荒く息を吐きながらグレイディアはさらに次へと思考を加速させる。
 惜しみなく己の強襲斧を仕舞い、弓矢に武装を切り替えてクレシュの元へ飛んだ。
クレシュ:「おお、凄い跳躍だねぇ。護衛対象のワタシは、なんというか一生安泰?」
グレイディア:「一生安泰、はやや適当ではないと思いますが……」
 苦笑しながらグレイディアが弓に矢を番え、残りを正確に駆逐していく。
 他の面々も、己の鼓動と感情を律しながら先頭の執着へ向けて一直線に加速していた。
 ガッ、とゴブリンの額に、グレイディアの放った矢が当たっていく。


 ………しかし、数の猛威とはそれ自体が暴力であり、不条理である。
 ストラウスとグレイディアの左右。
 アイラスとワグネルの前方迎撃にもめげず、少数がやっとクレシュへ到達しそうになった。
ゴブリン:「オオオオオオオオオオオオ!!!」
 彼が、敵の護衛対象だと正確に理解しているわけではない。ただ、倒しやすいと踏んだ行動。
クレシュ:「ふ……いやはや、ワタシの出番もあるみたいだねぇ!」
 しかし、この自称・藪医者もまたある意味で普通ではなかった。
クレシュ:「そう、ワタシは医者故――――こんなものも、常備していたりするんだなぁ」
 ふ、と不敵な笑みを浮かべながら、いやにゆったりとクレシュは己の白衣をはためかせた。
 ばさぁ、と広がる白衣。
 そのポケットから………怪しげな色の液体を内包した試験管やら、鋭利なメスやらが出ること、出ること。
 クレシュが微笑みながらそれらを持つと、全体的に人に優しくなさそうで、人外にも優しくなさそうな感じであった。
ゴブリン:「グ………」
 ちらりと脳裏を不安が掠めるが、今更止まれない。ゴブリン達は一気に距離を詰める。
 すとととととん!、と一匹の首筋やら胸やら手足やらにメスが突き刺されたのはその数瞬後である。
 何かが、塗ってあったのか。
 奇妙なことに、そのゴブリンは痙攣していた。
ゴブリン:「……アレハ」
 この男も、大分他の奴等とは違う意味で危ない気がする……ゴブリンの脳で警鐘が鳴り響く。
クレシュ:「ふふふふふ、遅い!ワタシに気圧されたね!?」
 無駄に楽しそうに叫ぶクレシュの投げた試験管が、残りのゴブリンの頭に当たって割れた。
 当然―――当然と云うべきなのかどうか不明だが―――そのゴブリンたちも、昏倒する。
ストラウス:「これは……凄いですね」
クレシュ:「ふ、こんなこともあろうかと徹夜で調合しておいたのさ。成分とか、聞きたい?」
ストラウス:「いえ、遠慮しておきます……」
 既に敵を片付けて、グレイディアと同じく戻ってきたストラウスが困ったように応対した。
クレシュ:「よし、こっちは片付いた!後は前方だね!」
 とても嬉しそうにクレシュが呟いて、前方へと「効果的援護」を試みる。
クレシュ:「それっ!」
 振りかぶって、メスを見当も付けずに前方へ思い切り投擲する。
 その先には―――――
ワグネル:「ふぅ、これで殆ど片付いたか……」
 一息ついているワグネルが居たりして。その頬を掠めて、多数のメスが木に突き刺さった。
ワグネル:「おおおおおおおお!?」
クレシュ:「あっれー?おかしいな、外れちゃった」
ワグネル:「何だ!?今オマエさんは何を投げやがった!?」
クレシュ:「ははは、大丈夫だよぉ。即死するものじゃなくて、あくまで君達の支援のための麻痺効果付きのメスさ」
 驚愕して後ろを振り向くワグネルに蕩ける様な笑みで答えながら、ぱたぱたと手を振るクレシュ。
グレイディア:「ふむ……」
 それを見ていたグレイディアが、クレシュの持っていた同じ種類のメスを手に取り、
グレイディア:「少し、気になりますね」
 ひゅっ、と正確に生き残っていたゴブリンに投擲する。
ゴブリン:「―――――――!?」
 当たったゴブリンが、くわっと目を見開いて痙攣し始めた。
クレシュ:「ね?ちゃあんと麻痺するように―――」
ゴブリン:「ギャアアアアアアアアア!?」



 ややあってから、クレシュの言葉を遮るようにゴブリンが絶叫して全身から血を吹き出し、爆発四散する。


クレシュ:「………あれ?」
グレイディア:「………誰がどう見ても、この現象を『麻痺』とは呼びませんね」
ワグネル:「あのな……俺も喧嘩っ早いわけじゃ無ぇが、流石にこれは異議を唱えるぞ?」
クレシュ:「う、うう……ワタシはワタシなりに、前線で戦う君やアイラス君を思ってだね……」
 何とか終了した戦闘。
 その余韻に浸ることもせず、戦闘前の雰囲気そのままに時間が流れ始めた。
アイラス:「さて……雑談はそのくらいにして、急ぎましょう。此処を抜けるのは早ければ早いほど良いんですから」
 流れを断ち切り、仕切りなおしの一声を挙げたのはアイラスだった。
 眼鏡の位置を直しながら、彼は油断無く周囲を見回して言う。
アイラス:「……まだまだ、一所に留まっているのは危険のようです」
 ―――彼の言う言葉に気をつけてみれば、成程。遠くからこちらへ来る足音がする。
ストラウス:「確かに、移動した方が良さそうですね」
アイラス:「ええ……では、移動の隊形は先程と同じで?」
グレイディア:「それで良いでしょう。では、先を急ぎましょう……先程よりも、或いは急いで」
 頷き合って、彼らは森の奥へと走り出した。



クレシュ:「よーし、大分ゴブリンの血肉も採取できた!これで竜の骨でも発見できれば完璧だね♪」
 ただ一人、研究熱の暴走により一心不乱にサンプルの採取を始めていた、クレシュを置いて。
 全員が共通の認識を持ち、速やかに行動したと思っていた一行の落とし穴が、選りにも選って依頼主本人であった。
クレシュ:「おや?皆が……居ないねぇ」
アイラス:「ああ、まだこんな所に!クレシュさん、行きますよ!」
 ……勿論、有能なメンバーはすぐに異変に気付いて、クレシュを引き摺って行ったのであるが。




【3】

ストラウス:「……何とか、撒きましたか」
ワグネル:「みたいだな……」
 周囲の気配と物音を探りつつ、安堵のため息をつく。
 散発的な襲撃を退けながら、一向はどうにか森の深奥部分にまで辿り着いていた。
アイラス:「とはいえ、そろそろ引き返してこの村を出ることも考えないといけませんね」
クレシュ:「そうだねぇ……うーむ、巨竜の骨は是非とも欲しかったところだけど、仕方ないかなぁ」
 手近な白い石に腰掛けながら、クレシュが嘆息する。
 森の奥に向かい続けて暫く前から、森林の禍々しさが少しずつ薄れてきていた。景観としては悪くない。
グレイディア:「成果から言えば、悪くないとは思いますが…」
クレシュ:「そうなんだけどねぇ。やっぱりこう、巨竜の骨というと浪漫が、ねぇ?」
アイラス:「浪漫よりも命ですよ、クレシュさん」
クレシュ:「うう、それは、その通りなんだけれど………」
 困ったなぁ、とこぼしながらクレシュは目に付いた白っぽい小石を蹴る。
 自分としては何としても欲する品を手に入れたいものだが、如何せん秤にかかっているのは五人の命である。
クレシュ:「はぁ、分かったよ……戻ろう。ストラウスさんがマッピングもしていたし、戻ること自体は簡単だろう」
ストラウス:「ええ、それは。しかしクレシュ様?」
クレシュ:「うん?」
 疑問符を含んだストラウスの言葉に、首を巡らせながらクレシュが応対する。
ストラウスはす、とクレシュの座っている石を示しながら小首を傾げて見せた。
ストラウス:「その石なんですが……どうにも、妙じゃありませんか?」
クレシュ:「へ?」
グレイディア:「言われてみれば……そうですね。形も、何処となく珍妙な―――」
 彼の提示した疑問に頷き、グレイディアがおもむろに白い石を調べ始める。
 …………間近で見て、触り、叩く。エトセトラ、エトセトラ。グレイディアはとにかく丁寧に調べて行く。
 見る者がつぶさに観察してみれば、それは確かに妙な代物であった。
グレイディア:「これは……石というより、もっと違った何かのような……」
アイラス:「では……ここはご都合主義の精神の元に、実は巨竜の骨だったー、というのは?」
グレイディア:「……成程。それは、確かに……」
 穏やかに指を立てて提案したアイラスの言葉に、更にグレイディアが調べ込み始めた。
アイラス:「……僕にも見せて下さい」
 訝しんで、アイラスもまた白石の調査をグレイディアと共に始める。
 ……ややあってから、二人は目線を交わしてやや躊躇いがちに頷いた。
グレイディア:「これは……本当に、当たりかも知れませんね」
クレシュ:「ほ、本当に!?」
アイラス:「断定は出来ませんが。しかし、間違いなくそれは動物の骨でしょうね……それも」
 クレシュに説明していたアイラスがちら、と再び白石の方を見ながら微妙なニュアンスで結論する。
アイラス:「あのサイズで骨の一部、だなんて……まぁ、普通の動物・魔獣の類でないことは確かです」
クレシュ:「おお!それじゃ多分、竜の骨に間違い無いよ!詳しいことは帰らないと判らないけど、持って帰ろう!」
 沈んでいた表情から一転して、明るい笑顔を咲かせながらクレシュが生き生きと叫んだ。
 とりあえず、依頼主は納得してくれたらしい。当初の目的をまがりなりにも達成して皆がふ、と気を抜いた。
クレシュ:「凄い、これは凄いよ!ひょっとしたら周囲の白い小石も骨なのかな………!?ああ、興奮するね!」
ワグネル:「いや、興奮はするなよ……って、聞いちゃいねぇ。偉い勢いだな」





 ………この村における物語の、最後の転機が彼らに襲い掛かったのはその時である。





 ドドドドドドドドドド……!





 騒がしい物音が、周囲から一斉に発生した。
グレイディア:「この音は……」
ストラウス:「何者かが大勢で駆け寄って来る音、ですかね……それも四方から」
ワグネル:「へ、隠そうともしねぇとは……俺達の場所に気付いているんだかいないんだか。案外、罠であったか?」
 グレイディアとストラウスが警戒しながら得物を構え、ワグネルが苦笑しながら同じく太刀を抜く。
 おそらく、徒党を組んでいるヴォミットゴブリンの「ならず者」たち。数は最初の襲撃のそれよりも多いだろう。


 ――――つまり、シンプルに。この大群を凌いで森を抜けられれば、自分達の勝利ということか。


クレシュ:「流石に、この森ではあちらが上手か……完全に撒いたと、思ったんだけど」
 物憂げに言って慌てて石―――否、巨竜の骨らしきものを回収して呟くクレシュ。
 そんな彼を見て、他の四人が目を細めて互いに頷いた。今日交わされたコンタクトのどれよりも、切実に。
アイラス:「……僕と、グレイディアさんでどうでしょう?」
ワグネル:「悪く無ぇな。すまんが俺は、俺の依頼主の護衛遂行を第一に考える」
 油断無く周囲の状況を確認しながら、彼らは会話をする。
グレイディア:「私は逃げながらのそれより、囲まれた状況を突破することに特化していますし…異存はありません」
ストラウス:「私も、それで良いと思います。連戦の後に全力疾走をする体力となると、お二人が適任ですからね」
クレシュ:「ん?どうしたのさ、早く逃げないと……」
ワグネル:「ああ、そうだな……」
 すぐさま行動に移らない護衛たちに眉を顰めたクレシュに首肯して、ワグネル。
 同時にストラウスがその腕を取り、ワグネルと共に森の出口へと走り出した!
クレシュ:「ちょ……アイラス君たちはどうするのだい!?」
 急に手を引かれ、無理やり走らされる格好のクレシュが異を唱える。
 後ろを見やれば、アイラスとグレイディアの姿はどんどん小さくなっていて……二人は、動く気配を見せない。
ワグネル:「二手に分かれるんだよ!どうせ追いつかれるんだからな!」
クレシュ:「それなら全員で戦えば―――」
ストラウス:「……それだと、大群から貴方を守りきれるかどうか自信がありません」
ワグネル:「適材適所だよ!なに、あいつらだって全員を相手にするわけじゃない!気付く奴は気付くからな―――いくらかはこっちを追ってくる。多少の誘導役にはなれるさ。だから俺達も併走しているわけで……置いてきた二人も、折を見てこちらへ来るさ!」
クレシュ:「難しく、悲観的に考えるなってコト?」
ワグネル:「は、つまるところは―――」
ストラウス:「そういうことですね!」
 叫ぶと同時、ワグネルが己の聖獣装具・スライシングエアを前方の茂みへ思い切り投擲し、
 対してストラウスが、飛び来る石の類を三日月刀で弾き返し、そのまま疾走の速度を維持して走る!
ストラウス:「意外と敵の対応が早いですね!」
ワグネル:「この程度で根を上げていては、後ろの二人に申し訳が立たんさ!」
 短く会話しながら、クレシュを守るように走り続ける。
クレシュ:「……分かった」
 その二人にしっかりと、クレシュは付いて行く。
 ば、と白衣を跳ね上げてメスを取り出し、浮ついた笑みとは何処か違う質の笑みを浮かべて。
クレシュ:「それじゃ、ワタシも一つ頑張らせて貰うとするよ!お二人とも、一つ宜しく!」
 前、左右、後ろ、上下。
 あらゆる方向から迫り来る脅威を跳ね除けながら。

 後続の二人と再び合流できることを信じつつ、三人は森の中を走り抜ける――――。








グレイディア:「さて……行きましたね。ちゃんと出口まで行けると良いのですが」
アイラス:「それと、僕達もそれに合流しないといけませんね。大変です」
 ちゃ、と強襲斧を構えながらグレイディアが。
 己に都合の良い、洗練された魔力を練って釵を手に持ちながらアイラスが呟く。
 既に二人は背中を合わせ、十数の敵を一歩も退かずに屠っていた。

 ――――敵の何割かは予想通り逃走した三人を追ったようだが、それでも数は多大。

 二人は高密度に展開されたヴォミットゴブリンの群れに、完全に囲まれていた。

グレイディア:「最初から全力で行きます。デッドラインに近付いたら、すみませんが弓に切り替えます」
アイラス:「ご随意に。尤も、それまでに十分すぎる活躍をしてくれそうですが……」
グレイディア:「はは……なに、それなりに腕に自信はありますとも。頭を使う方が好みではありますが……」
アイラス:「同感ですね。単純な力押しも、嫌いではないのですが」
 ははは、と快活に二人は笑い合う。

 その間に振るわれた斧は正確に敵の頭部を刈り取り。

 突き刺した釵は、確実に敵を無力化している。


アイラス:「では、切りの良いところまで此処で奮闘しましょうか。然る後に、スマートに撤退しましょう」
グレイディア:「ええ。それでは、頑張りましょう。期待しておりますよ?」
アイラス:「それも、同感です――――!」

ゴブリン:「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」

 敵の包囲の輪が、一気に狭められる。己の庭で暴れた来訪者に報復せんと、ならず者なりの矜持が爆発した。
 それに、臆する事無く迎撃の態勢を取りながら。
 アイラスとグレイディアは、自分の戦闘技術を余す処無く引き出して、生存するための戦いに臨み始めた―――










【終章】



 ―――場所は変わり、森の入り口のある居住区の外れである。
クレシュ:「なんとか……生きて帰ってこられたね」
 ぜぇぜぇと肩で息をしながら、そこにやっと到達した一行の一人、クレシュが声を絞り出した。
 ふぅ、と大きく息を吐いて、彼はその場にへたり込む。
クレシュ:「ああ、疲れた。こう、インテリのワタシはもっとスマートに生きたいものだね……」
ワグネル:「……それだけ減らず口を叩けるなら、大したもんだ」
ストラウス:「ですね……」
 その両隣に、ワグネルとストラウスが同じく座っている。
 周囲に気を配りながら、ほぼノンストップで森の深奥部分から入り口まで疾走である。流石に疲労した。
ワグネル:「で……どうする、依頼人殿?あんたは大分乱れちまったし、一足先に村を出るか?」
 携帯していた水筒で水分を補給しながら、ワグネルがクレシュに尋ねた。
 その、現状を鑑みた妥当な提案に、うーん、と一時唸ってからクレシュが答える。
クレシュ:「そうだね……いや、限界まで待つよ」
ストラウス:「大丈夫ですか?」
クレシュ:「まぁ、腐ってもワタシは医者だからねー。自分の身体に自分の作った薬だし、目安くらいは」
ワグネル:「……それで目算誤って死んだら、笑え無ぇな?」
クレシュ:「そ、そういう不吉なことは言わないでくれるかなっ!」
 茶化すように笑ってワグネルがクレシュの肩を叩く。
 その顔は、彼の選択に満更でもないようであった。
ワグネル:「ま……最初は、少しでもマズイ事態になったらあんただけでも連れ帰るつもりだったが」
クレシュ:「おや、過去形かい?」
ワグネル:「いんや、今でもそれは変わっちゃいないさ…だが、当座の危険は去った」
 ふ、と視線をクレシュから外して、彼は森を見る。
 その深奥。今も中に居る、仲間のことを考えながら。
ワグネル:「依頼人殿の時間切れも、すぐにと言う訳でもなさそうだ……ここは、同じく仲間を待つとするさ」
ストラウス:「ええ……地図を作る具体的な算段でもしながら、私も待つことにしましょう」
 三人は、アイラスとグレイディアが森の奥から帰って来るのを信じてその場に座していた。






クレシュ:「おや、どうやら来たみたいだね!おーい、無事かい!?」
アイラス:「なんとか……流石に疲れましたけどね」
グレイディア:「ふふ、しかし貴重な体験が出来たということで、良しとしましょうか」



 ――――やがて、二人とも合流し。
 紆余曲折あったヴォミットの鍋の探索は、成功と言える成果を得てその幕を閉じたのであった。

                                                                    <END>




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・ライター通信

参加PL様へ


アイラス様、グレイディア様、クレシュ様、ストラウス様、ワグネル様、こんにちは。
ライターの緋翊と申します。この度はクエストノベルの発注、ありがとうございました。
お待たせして申し訳ございませんでした、ここにクエストノベルを納品致します。


戦闘メインの内容ということで、悩んだ結果こういった展開と相成りました。
如何でしたでしょうか?
皆様の予想とは違ったかもしれませんが、楽しんで頂けたらこれほど嬉しいことはありません。


それでは、改めて発注ありがとうございました!
また機会がありましたら、どうか宜しくお願い致します。



緋翊