<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


人形の館 ギミック

 ファイル01――鬼灯 【宿願】

  《1》
 鬼灯が、「人形の館 ギミック」を訪れたのは、春にしてはずいぶんと肌寒い、ある日の午後のことだった。
 街はずれにポツンと建つ、二階建ての洋館の玄関ポーチに立った彼女は、石の壁にはめこまれた金のプレートを確認すると、目の前の二枚扉を押した。
 その向こうには、広々としたエントランスホールが広がっている。床は灰色がかった白の幾何学模様が描かれたタイルが貼られ、ホールの隅には色とりどりの花を生けた大きな花瓶や、ゆったりとしたソファ、テーブルなどが置かれていた。更に、ソファやテーブルの上には、さりげなく人形たちが置かれている。どの人形も、ぱっちりとした目と愛らしいふっくりした頬を持ち、レースやベルベットのドレスに身を包んでいた。
 天井は吹き抜けになっており、見上げるとはるか頭上から、やわらかな光が落ちて来る。真上は、光を取り入れるための丸窓になっているようだ。
 鬼灯がここへ足を運んだのは、人形師クォーツの噂を聞いてのことだった。彼は、人形だけではなく、自動人形(オート・マタ)の製作をも手がけているという。また、死亡して二十四時間以内ならば、魂を人形や自動人形に定着させる能力をも持つと聞いた。
 そんな能力の持ち主ならば、もしかしたら自分の探し物も、知っているかもしれない――彼女はそう考えたのである。
 彼女があたりを見回していると、軽い足音が響いて、右手奥の階段の下にある扉が開いた。そこから、十五、六歳ぐらいの小柄な少女が現われる。
「あ……」
 鬼灯は、少女の姿に一瞬、目を見張った。
 濃紺のドレスに白いエプロンをまとった少女は、長く伸ばした黒髪を後ろで一つに束ねており、両の耳は、薄紅色の花びらになっている。
 だが、鬼灯が驚いたのは、少女のその姿のせいではない。少女が、自分と同じ自動人形だと察したためだ。
 少女は、彼女の驚きに気づかなかったのか、その前で立ち止まると、一礼して口を開いた。
「いらっしゃいませ。ようこそ、『人形の館 ギミック』へ。私は、当館の案内係、ファ・スヨンと申します」
 明るい笑顔で告げて、スヨンと名乗った少女は尋ねる。
「それでお客様。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「わたくしは、鬼灯と申します」
 鬼灯も礼を返して名乗ると、用件を口にした。
「本日、こちらへお伺いしましたのは、お尋ねしたいことがあったからです」
「はい」
 スヨンは神妙な顔で、彼女の言葉に耳を傾ける。鬼灯は続けた。
「人形師のクォーツ様という方は、人形や自動人形を、人間にする術をご存知ではないでしょうか」
「人形や自動人形を、人間にする術……ですか」
 スヨンは、小さく首をかしげて繰り返す。が、自分では対処のしようがないと思ったのだろうか。ややあって言った。
「わかりました。こちらでしばらく、お待ちいただけますか。主を呼んで参りますので、その件につきましては、直接お話下さい」
 そして彼女は、部屋の隅のソファを勧める。鬼灯はうなずくと、そこへ腰を下ろした。スヨンはそれを見やって一礼すると、さっき出て来た扉の向こうへと、立ち去って行く。
 だが、さほど待たされることはなかった。ほどなく同じ扉を開けて、男が一人、姿を現したのだ。年齢は、三十代半ばというところだろうか。直ぐな黒髪を肩を少しすぎるほどの長さに伸ばし、長身の体には黒っぽいシャツとズボンをまとっている。顔立ちは整っていて、切れ長の目は茶色だったが、光の加減によっては琥珀色に見えた。
 男の姿に、鬼灯は慌ててソファから立ち上がる。その彼女に歩み寄り、男は言った。
「待たせたな。私が、クォーツだ。鬼灯……だったな。話を聞こう」
「はい」
 うなずいて、彼女は口を開く。
「わたくしは……クォーツ様にはもうおわかりかもしれませんが、自動人形でございます。こことは別の世界で、あやしの術を行う陰陽師を生業とする主によって造られた自動人形に、元は人間であったわたくしの魂が込められ、今のこの存在となりました。ですが、わたくしはどうしても人間に戻りたく……主に暇をいただき、こちらの世界にて、人に戻るすべを探しております。それで、クォーツ様のお噂を伺って、もしやこの世界の人形師様ならば、なにかしらの方法をご存知ではないかと、こうしてお訪ねした次第です」
「なるほど……」
 彼女の話を黙って聞き終えた後、クォーツは小さくうなずいた。しばらく考え、口を開く。
「残念だが、自動人形を人間にしたという話は、聞いたことがない。だが、面白そうだ。少し時間をもらえるなら、調べてみよう。それと、参考までにおまえの体も調べてみたい。どうだ?」
「おお……! もちろんでございますとも。方法を探していただけるならば、いくらでもお待ちいたします。また、この体も存分に調べて下さいませ」
 鬼灯は、小さく目をしばたたかせて答えた。人形であるため、その白い面にはいっさい表情らしいものは浮ばない。が、声は歓喜に震えていた。
「わかった。では、こっちへ来るがいい」
 クォーツはうなずくと、彼女をさっき自分が出て来た扉の方へと促す。彼女は、嬉々としてその後に従った。

  《2》
 扉の向こうには、灰色がかった白のじゅうたんが敷かれた廊下が広がっていた。突き当たりの角を曲がると、左右にいくつか並ぶ扉のうち、左手に並ぶ二つ目のものを、クォーツは開けた。鬼灯に入るよう、促す。
 中は、廊下と同じ色のじゅうたんが敷かれ、中央に置かれた広い木のテーブルの上には、粘土のようなものから、人形の胴体、手足、頭などがバラバラの状態で雑然と置かれていた。また、壁に沿って据えられた棚の中には、造りかけの人形の体や、髪や目などの部品らしいもの、布地などがこれまた雑多に並べられている。
 鬼灯は、物珍しげにその様子を眺めた。どうやらここは、クォーツの人形工房らしい。
 彼は、部屋の隅にあった木の椅子を、テーブルの傍に持って来ると言った。
「すまんが、その着物を脱いでもらえるか」
「はい……」
 うなずいたものの、鬼灯の目はためらうように動いた後、恥ずかしげに伏せられた。きっと人間ならば、羞恥に頬は赤く染まっていただろう。
 体はたしかに人形で、それも五、六歳の体型だ。また、魂の方も似たような年齢の子供にすぎない。それでも、男性と二人きりの場で着物を脱ぐことに対する羞恥は、たしかにあった。とはいえ、相手が調査以外の目的でそれを口にしたわけではないことも、彼女にはわかっている。
 目を伏せたまま、彼女は帯を解いた。主である陰陽師がそろえてくれた着物は、この季節に似合いの藤色の地に金襴の蝶を散らした華やかなものだ。渋い濃紫の帯には、藤の花が舞っている。それらを一つ一つ脱いで、彼女は椅子の上に置いた。そして、最後に一糸まとわぬ姿になって、クォーツの前に立つ。
 彼女のそれは、人に似て、しかし人ではないものだった。
 なめらかな肌は、見事に手入れされた人間のものとも、白磁とも見える。その体を腰までの長い黒髪がマントのように包み込んでいるが、その髪も、濡れたような輝きを帯びて、まさに香り高い美姫のそれだった。
 唯一、人ではない証は、背中から突き出たゼンマイを巻くためのネジと、肘や手首、膝などの関節部分に覗く球体だ。人間であれば、皮膚の下、骨と骨の間に隠れているはずの関節がわりのそれは、人形の手足を人間同様に動かすための仕掛けだった。
 目を伏せて、その不思議な裸身を晒す鬼灯に、クォーツは歩み寄る。その面にも目の中にも、何一つ感情らしいものは浮んでいない。彼にとって彼女は、なんら心を動かす対象ではないようだ。
 彼はまず、じっと彼女の全身を眺めた後、その皮膚を調べ、関節部や首、顔などを何かをたしかめるかのように、手で触れて行く。彼の手は意外に大きく、しかしその指は細くて冷たかった。
 そうやって彼は、鬼灯の体中をくまなく触れて調べてみた後、ようやく着物を着るように言った。
 鬼灯はさすがにホッとして、彼の目から逃れるように、後ろを向いた。そのまま、そそくさと着物を身に着ける。
 彼女がそれを終えると、クォーツは椅子に掛けるよう促した。彼女は、黙って今まで脱いだ着物を置いてあった椅子に座る。クォーツが、それへ訊いた。
「おまえは、自分の体が何でできているか、知っているか?」
「はい。たしか、香木、輝石、土くれ……それに、死人の魂などで構成されていると、主からお聞きしたことがございます」
 彼女が答えると、クォーツは小さく肩をすくめた。
「やはりそうか。……それは、私たち人形師が言う意味での、自動人形の造り方ではない。呪術を扱う者が、己の自由になる下僕を作るための方法だ。基礎となる土は墓土を使い、作り手の血を数滴入れると良いとも言われる。もっとも、おまえの体はそうした下僕の人形どもよりは、ずっと精巧だ。解呪防止も兼ねているんだろうが、いくつもの呪と術式でくくられている上に、体内にはゼンマイで動くからくりが仕掛けられている」
 言って彼は、鋭い目で鬼灯を見やった。
「だが、その体が作り物であることに、かわりはない。香木と輝石と土くれから作られたものが、人の血肉に変わることがあると、おまえは本当に思うのか?」
「そのようなすべはない、と?」
 即座に顔を上げ、鬼灯は尋ねる。
「探すだけ無駄だと言われますのか」
 彼女は鋭い声で詰め寄ったが、クォーツは冷たい目で彼女を見返すばかりで、何も答えようとしなかった。そのことに焦れて、彼女はなおも言葉を重ねる。
「たとえ無駄だとしても、わたくしはその方法を探さずにはおられません。なぜなら、わたくしは人間だからです。今はこのように人形の中に魂を押し込められておりましょうとも、わたくしは人間なのです。ならば、元に戻りたいと望むのは、当然ではありませんか?」
「……わかった。約束は違えん。方法を探してみよう」
 ややあって、クォーツは言った。それへ、彼女はホッとして小さく吐息をつくと、立ち上がって、深々と頭を下げた。
「どうぞ、よろしくお願いいたします。たとえ、方法の欠片であってもかまいません。……対価については、この世界の貨幣はあまり持ち合わせがありませんので、がんばらせていただきますとしか言えませんが……」
「報酬はいい」
 言いかけて言葉を濁す彼女に、クォーツはあっさりと返す。
「もし本当にそんな方法が見つかって、おまえが人間になれたら、私は金などよりずっと大きな収穫を手にすることになる。……が、あまり期待するな」
 言って、彼は付け加えた。
「ところで、用は済んだわけだが、お茶でも飲んで行くか?」
「いえ、お茶はけっこうでございます。いただいても、わたくしにはあまり、意味のないことですので。それよりも、ここの二階には、クォーツ様が集められた人形が展示されているとか。そちらを見せていただいて、よろしいでしょうか」
 鬼灯は、かぶりをふって答える。正直、そちらにも興味はあった。
「ああ、好きにしろ」
 うなずくと彼は、部屋の隅の呼び鈴を鳴らした。
 ややあって、ノックと共にスヨンが姿を現す。クォーツは彼女に、鬼灯を二階の展示室へ案内してやるよう言った。
「わかりました。鬼灯様、こちらへどうぞ」
 うなずいて、スヨンが笑顔で彼女を促す。
 鬼灯は、クォーツに一礼すると、スヨンに従って工房を後にした。

  《3》
 工房を出た鬼灯は、今度はスヨンに案内されて、館の二階に上がった。
 二階は、ほぼ全てが展示室で、廊下がその周りを囲む形になっている。
 展示室は、なんとも不思議な空間だった。
 人形たちは、壁に沿って据えられた飾り棚の中に整然と並べられているものと、室内のあちこちに置かれたソファや椅子、テーブルなどにまるで人間よろしく据えられているものとがあった。
 そのほとんどは、ビスクや木を素材とした、球体関節人形らしかった。ただ、大きさや外観はさまざまだ。大人ほどもある大きなものから、子供や赤ん坊ぐらいのものもあれば、手のひらに乗る程度のものもある。髪や肌、目の色もさまざまで、それに合わせてドレスや着物など、衣装にも工夫が凝らされていた。
 中には自動人形もあったが、それらの多くは、単に同じ歌と動きを繰り返したり、こちらの言葉に単調ないくつかの挨拶で答えるだけのものだった。もちろん、それはそれで悪くはない。愛らしい声で歌い続ける七色の鳥や、物悲しい笑みを浮かべて愛を囁く人魚、開いた蕾から顔を出して挨拶する少女など、どれもついつい見入ってしまうものばかりだ。
 しかし、鬼灯の目にそれらは、どこか哀しく映る。
「壮麗ではありますが、なにやら哀しい光景でございますね」
 思わず呟いた彼女に、スヨンは怪訝そうに首をかしげた。
「そうですか? 私には、人形たちがお客様をお迎えして、とても喜んでいるように見えますが」
「スヨン様には、そう見えますか……」
 呟いて、鬼灯はスヨンを改めてふり返る。
「ですが、スヨン様も自動人形でありましょう? しかも、ここにあるものたちとは違う……むしろ、わたくしと同じような。元は、人間なのではありませんか?」
「はい」
 スヨンは屈託なくうなずいて、言った。
「私は十六年前、死んだのだそうです。それをご主人様に助けていただいて、この体をもらいました」
「人に戻りたいとは、思わないのですか?」
 鬼灯は、思わず尋ねる。
「いえ、別に」
 スヨンは、きょとんとした顔でかぶりをふった。
「人間だった時のことは、あまり覚えていませんし、私はこうしてご主人様と一緒にいられるのが、幸せですから」
 笑顔で答える彼女に、鬼灯は一瞬、妬ましさを感じる。
 彼女自身も、元の世界で主とくらすことが、けして嫌だったわけではない。むしろ、幸せだったように思う。それでも、人間に戻りたいという渇望は、いかんともしがたいのだ。笑うことも怒ることも気ままにできないこの体が、時にもどかしくなる。人間だったころの記憶は彼女の中から去ってはおらず、時にそれは、彼女の心を激しく苛まずにはおかなかった。
 スヨンのように、あっさりと吹っ切ることができれば、どれほどいいだろうか。
 眠りを必要としない彼女は、長い夜の淵で、時おり考える。全てをあきらめ、元の世界へ――主の元へ帰ろうかと。だが、朝の光が射せば、再び彼女は思うのだ。この異世界ならば、きっと自分の願いがかなうすべがあるに違いないと。
 そうやって、くじけそうになる心に鞭打って、彼女はこの世界で日々を送って来たのだ。
 やがて彼女は、一通り展示されている人形たちを見て回ると、スヨンに案内の礼を言い、クォーツにもよろしく頼むと伝言を残して、ギミックを後にしたのだった。

  《4》
 数日後。
 鬼灯は再び、ギミックを訪れた。細かい雨の降る冷たい日で、館はどこか灰色に煙っているように見えた。
 エントランスホールに現われたスヨンは、彼女にタオルを差し出し、椅子と温かい紅茶を勧めてくれた。鬼灯には飲み物は必要なかったが、黙ってスヨンの心づくしを受ける。
 渡されたカップの中身が、半分ほどに減ったところで、クォーツが現われた。
「いかがでしょう? 何か、みつかりましたでしょうか」
 期待とあきらめの両方に苛まれながら、彼女は尋ねる。
「この館の蔵書だけでなく、研究者や友人・知人の蔵書も片っ端から当たってみた。だが、人形を人間にする方法はみつからなかった」
 淡々とクォーツは告げた。
「そうですか……」
 淡い期待を打ち砕かれて、肩を落としながら、鬼灯は低く答える。それへ、クォーツは続けた。
「ただし、別のものなら見つかったぞ」
「別のもの?」
 ハッとして、彼女は顔を上げる。
「ああ。おまえが、人間になれるかもしれない方法だ」
「どういうことでしょうか? クォーツ様は今、人形が人間になる方法はないと言われました。なのに、わたくしが人間になれる方法があるとは……」
 とまどいつつも尋ねる彼女に、クォーツは小さく口元をゆがめた。
「人形であるおまえの体を、人間にするのは無理だ。方法がみつからなかった。だが、おまえの魂を人間の体に移す方法ならばある、ということだ」
「それは……!」
 鬼灯は、思ってもいなかった言葉に、思わず目を見張った。その彼女を面白そうに見やって、クォーツは自分が見つけた方法を説明する。
 それは、ある意味、簡単ことだった。
 まず彼女の魂を今の人形の体から分離する。そして、用意した人間の体に移し替えてしまえばいいのだ。
 用意するのは、死んでから二十四時間以内の遺体か、生まれて間もない赤ん坊だという。
「おまえの体と魂を分離するのは、本当はおまえを今の状態にした者がする方がいいらしい。だが、かけられている呪や術式がわかれば、魔道師でも充分、分離できるそうだ。また、分離した魂を用意した体に定着させる呪文は、その方法と共に書かれていたから、ある程度力のある魔道師なら、これも充分可能だろう」
 クォーツは言って、満足したかと問うように、彼女を見やった。
「死体の方はともかく……赤ん坊は、生きたまま……?」
 なぜとなく、おぞましい予感におののきながら、彼女は問い返す。
「そうだ」
「わたくしの魂が移った後、その赤ん坊はどうなりますの?」
 うなずく彼に、鬼灯はまた訊いた。
「別にどうもならない。おまえの体になるだけだ。ただ、本来その体の持ち主だった者の魂は、追い出されて、さまようか、あちらの世に戻るかするがな」
 答えるクォーツに、彼女は小さく息を飲む。
「それはつまり、わたくしがその赤ん坊の人生を、奪ってしまうということですのね?」
「まあ、そういうことだ」
 クォーツは肩をすくめて言った。そして続ける。
「人形を人間にするよりは、簡単な方法だ。ただ、必要なものをそろえるのに、いくらか骨が折れるだろう。死体を用意するにしても、おまえの魂の年齢にふさわしい、女児が必要だろう。それも、病に犯されて死んだような体ではだめだ。健康で、しかし死んでから二十四時間以内の、新鮮な死体。……てっとり早いのは、自分でそういう死体を作ることだ」
「わたくしに、誰かをあやめろと言うのですか。自分自身のために」
 鬼灯は、彼の言わんとするところを察して、低い声を上げた。怒りとおののきに揺れる黒い瞳が、クォーツの無表情な琥珀色の目にぶつかる。二人はそのまま、しばし対峙した。
 が、先に目をそらしたのは、クォーツの方だった。
「私が見つけた方法を試すなら、その方がいいかもしれないと言ったまでだ。……どうするかは、おまえが自分で決めろ」
 言われて彼女は、思わず唇を引き結んだ。それから、心をおちつけようと、紅茶のカップに口をつける。それは、すっかり冷めてしまっていたが、おののく彼女の心を鎮める役には立ったようだ。
 カップを置いて、彼女は改めて口を開く。
「引き続き、人形を人間に戻す方法を探していただくことは、できましょうか」
 その彼女を、クォーツは一瞬、驚いたように見やる。が、少し考え、かぶりをふった。
「悪いが、私にはこれ以上、おまえの力になれそうもない。あくまでも、その体で人間になりたいなら、他を当たれ」
「わかりました」
 うなずいて、鬼灯は立ち上がった。
「力を貸していただき、ありがとうございました」
 深々と頭を下げて、幾分ためらいがちに、問いかける。
「その……やはり対価は必要ありませんでしょうか?」
「ああ。私は、役に立てなかったからな」
 うなずくと、彼は踵を返した。奥の扉へ立ち去りかけて、ふと足を止める。
「石を肉に変えることは、誰にもできん。それでも、その方法を探し続けるつもりか?」
「山は、高い方が見晴らしがようございます。登る時には辛くとも、それを思えば、足も前へ進みましょう。願いを追うのも、それと同じこと。わたくしは、けしてあきらめません」
 鬼灯は、口元に笑みさえ浮かべて宣言すると、もう一度深く頭を下げて、彼に背を向けた。二枚の扉の一方を押して外へ出ると、いつの間にか雨は上がっていた。ふと頭上をふり仰ぐと、青く晴れ上がった空に、七色の虹が見える。
 鬼灯は、しばしそれを眺めた後、ゆっくりと歩き出した。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1091 /鬼灯(ほおずき) /女性 /6歳 /護鬼】

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■         ライター通信          ■
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●鬼灯さま
はじめまして。ご注文いただき、ありがとうございます。
ライターの織人文です。
さて、こんな感じにまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

それでは、またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします。