<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
『ファムルの診療所〜整腸剤と〜』
診療所とは診察を行なう場所である。
自分は医者ではないが、医療行為を行なっている。
医者とは本来金持ちで、もてるはずである。
……もしや、この髭か? この髭が全ての原因なのか!?
ファムル・ディートは一人、鏡を手に髭を撫でていた。
見ようによっては、無精ひげに見えなくもない。自分がモテナイのは、もしかしたらこの髭のせいなのかもしれないと。
見えなくもないというか。他人が見たら無論それは無精髭である。しかし、彼がモテナイ理由は他にもごまんとあるだろうが。
「おなかいたくなっちゃったの……お薬くださいな」
突然の可愛い声に、ファムルはクビが真後ろに捩れるほどの勢いで振り向く。
診療所の入り口には、ショートカットの可愛らしい子供の姿があった。
「なんだ子供か……いやまて。子供とてあと5年もすれば……」
ぶつぶつ言いながら、お腹を抱えている子供をじろじろ見るファムル。
「あ、あのう……お医者さんだよね?」
「んーまあ、そのようなものだ。お嬢ちゃん可愛いね、お名前は?」
ファムルは手招きしながら、カルテを取った。
「えっと、ボクはお嬢ちゃんじゃないです。ファン・ゾーモンセン。男の子だよっ」
「なんだ、男か」
途端ファムルはがっくりと肩を落とす。
「で、腹痛の薬が欲しいと? 坊や、お金持ってるのかい?」
ファンはふるふると首を横に振る。
「ふむ……。それじゃ、坊やには独身のお姉さんはいるかい? 10代後半から、30代くらいまでならOKなんだが?」
「いやいやいやいや、この子の姉ちゃんなら、先生じゃなく、俺の彼女だろ〜」
ファンの背後から現れて、ぺしぺしと彼の頭を叩いているのは、ダラン・ローディスという少年だ。診療所を訪れてはファムルのペットと戯れている少年である。
「で、ねーちゃんの年は?」
「むしろ、未亡人の母親でも私は構わんぞ!?」
二人の真剣な様子に、ファンは思わずたじろぐ。
「い……いたたたっ。お薬ちょうだいっ」
更にお腹が痛み出した。目に涙を浮かべながら、ファンはファムルに訴える。
「ああ、悪かった。まあ、男の子とはいえ、見殺しにはできんな」
ファムルは戸棚から、透明の液体が入った瓶を取り出す。
「整腸剤だ。痛みの場所的に考えて消化不良だろう。多分これで治る」
「ありがと」
瓶の蓋をあけて、ちょこっとなめるファン。
「苦いよーっ」
またまた泣き出しそうになる。
「頑張って飲むんだ! 苦い薬も飲めないようじゃ、立派な大人になれないぞ! 彼女もできないぞ! 先生のような誰にも相手にされない寂しい人生を送ることになるんだぞ!」
ダランがぐいっとファンの両肩をつかんで言い聞かせる。
ファムルは苦笑いしながら、ファンの持つ瓶に、白い錠剤を一粒入れた。錠剤は直ぐに溶けてなくなってしまった。
「ほら、飲んでみなさい」
こくりと頷いて、恐る恐るファンは薬を飲む。
「あ、あまり苦くない……」
「はっはっはっ味覚破壊薬を入れたからな」
さらりと言うファムル。
ファンにはファムルの入れた薬は、苦い薬の味を無くす薬としかわからなかった。
「魔法のお薬だ〜」
ファンはにっこりと愛くるしく笑った。
この後、数日間ファンは食べ物の味を感じなくなるのだが、今はまだ気づいていない。
「さて、私はこの子の親に薬の請求書を書くことにする。ダラン、この子を隣の部屋のベッドで休ませてあげてくれ」
「俺に指図するな! 俺はお前の奴隷じゃない。さーファン行こうぜ。この家には面白いモンがいっぱいあるんだぜ〜」
「ダラン、薬品には触れるなよ」
「だから、俺に指図するなってんだろ」
他人の家に勝手に入ってきてこの言い草である。
ファムルはいつものようにため息一つ、彼への指示は諦めて、請求書をしたため始めるのであった。
「ワンワンだ〜☆」
いつの間にかお腹の痛みは消えていた。
子犬はファンを見ると、尻尾を振って近付きキャンキャン吠えた。
「いこいこ」
ファンはしゃがんで子犬の白い頭を撫でた。
「こいつ面白いんだぜ〜」
ダランは何処から取り出したのか、液体が入った瓶をいくつか手にしている。
「ちぇーんじ、ブル〜」
皿に青い液体を注ぎ、子犬に飲ませる。
すると……。
子犬の白い毛が、青く染まっていった。
「ちぇーんじ、レッド〜」
続いて、赤い薬を飲ませると、子犬は燃えるような赤い犬へと変貌した。
「うっわ〜〜〜〜」
すごいすごいと、ファンはおおはしゃぎである。
「ちぇ〜〜〜〜〜〜んじ、ゴールド!」
「んぐ!?」
突然、ダランはファンの口に瓶をつっこみ、薬を飲ませたのだった。
ごくりと薬を飲んだ後、壁に掛けてある鏡を見て、ファンは目を丸くした。
「ぼ、ぼ、ボク、金ぴかだ〜っ」
体中金色だった。
「ふっふっふっ、これでお前の価値は上がったぞ〜。高く売れるぞ!」
「ボク、売れたくないよ……っ」
驚いていたファンだが、自分の手足を見ながら、怖くなってきたらしい。今にも泣きそうだった。
「そろそろ薬の効果が切れてきたかー」
見れば、子犬が元の白い犬に戻りつつある。
自分もそのうち戻るんだ、とファンはほっとする。
「さーて次は〜」
ダランがひとつの瓶を選ぶと、にやりとファンに近付く。
「う、うわーーーーっ。もうお薬はいらないっ」
「キャンキャンキャン!」
逃げるファンを追うように、子犬も一緒に逃げる。
「こ〜ら、まて〜〜〜」
鬼ごっこをしているかのように、笑いながらダランが追いかける。
ファンは半分怖がりながら、半分は面白がりながら部屋をぐるぐる走る。
「やあーだあーっ、あうっ」
ぽすっと、ファンは何かにぶつかって止まる。
「こら、家の中で騒ぐな。家が崩れるだろ」
危なっかしい家だ。
ファンはファムルの手の中にあるクッションに顔をうずめていた。ファムルはダランを捕まえる際、互いに怪我をしないよう、クッションで受け止めることが多い。
「請求書できたぞ」
ファンはファムルから封筒を受け取る。
「ちゃんとご両親に渡すんだぞ? お金はお姉さんに届けてくれるように、頼んでくれよ? まあ、お母さんでも構わんが」
「うん」
素直に、ファンは頷いて、大切そうに封筒をポケットにしまった。
「よーし、いい子だ」
ファムルはファンの頭を撫でて、手を引いた。
診療所のドアを開けると、眩しい光が射し込んできた。
そろそろ夕暮れだ。
ファムルはファンの手を離すと、手を振ってファンを見送るのだった。
「今度はお姉さんと来るんだぞ〜」
「お姉ちゃんの友達も沢山連れてくるんだぞ〜」
「ああ、それいいな。お母さんの独身の友達沢山連れて来るんだぞ〜!」
ファムルとダランの見送りの言葉に両手を振って、ファンは応える。
「ありがとー。またね〜!」
ファンは歩きながら、ちょっと気になって封筒を開けてみた。
そこには、こう書かれていた。
―請求書―
整腸剤
味覚破壊薬
青剤
赤剤
金剤
以上の薬の代金をご請求いたします。
「……青いのと、赤いのはわんちゃんが飲んだのにーっ」
首を傾げながら、ファンはてくてくお家に帰るのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0673 / ファン・ゾーモンセン / 男性 / 9歳 / ガキんちょ】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、川岸満里亜です。
ご来訪ありがとうございますっ。
ファンちゃんはとても可愛らしくて、描いていて幸せでした〜☆
またのお立ち寄り、お待ち申し上げております。
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