<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
温泉街の治安を守れ!
ソーンの中心である聖都エルザード。
そこから街道沿いに南に進んだ所にハルフ村という所がある。
ここは、温泉が湧き出たことにより急速に発展している観光地なのだ。
だが、観光地ということは人が集まるということであり、人が集まれば当然事件も絶えない。
最近では盗難事件が相次いでおり、以前に比べて客足が遠のいたと、村の住人は頭を抱えている。
犯人は中々にすばしっこい奴で、ハルフの村人や兵士の追撃から悉く逃げ延びているようだ。
単独犯なので一度の被害が少ないのが唯一の救いだが、もう村人や一般の兵士ではどうしようもない所まで来ている。
「――とまぁ、こんな所です」
所変わって、ここは聖都エルザードのアルマ通りにある白山羊亭。
ウェイトレスのルディア・カナーズがテーブルに座る二人に状況の説明を終えたところだった。
一人は2mを越す大柄な男性で、蒼髪に鼻眼鏡をかけており、名はオーマ・シュヴァルツという。
力強さを感じさせながらも親しみやすそうな印象を与え、頼れる兄貴分と言ったところか。
その体格にテーブルの大きさがあっておらず、窮屈そうに話を聞いていた。
もう一人はウェーブ掛かったブロンドの髪を持つ女性でキング=オセロット。
凛々しさと美しさが同居した風貌は、同性からも尊敬を集めそうである。
彼女も決して小柄ではなく、女性としては背は高い部類に入るのだが、隣の男と並ぶとやはり小さく見えてしまう。
「何だな、今回のは聖筋界親父愛曜日サスペンス☆ハルフ湯煙盗筋マッハで美筋危機事件簿★ってとこかね?」
言葉の端々に独特の言葉を使いオーマが言う。
サスペンスかどうかはともかく、多くの犠牲者が出ていることは確かだ。
「まぁ、泥棒さんくらいだとお二人には物足りないと思うんですけど、人助けと思って行ってもらえませんか?」
「‥‥なるほど。この手の手合いは真っ向から追いかけても追いつくのは難しい。網を張って追い込むほうが良いな。」
そう言い、キングは席を立つ。
「ああ。村の経済もだけど、犯人のワル筋化を救って、明日の聖筋界を担うギラリマッチョ腹黒ナウ筋に導く為にも行くとするか」
オーマも続いて立ち上がる。
こうして二人は、ハルフ村へと向かうことになったのだ。
村に着いた二人は、まず温泉宿へ案内された。
道すがら行き交う人々を見てみたが、この規模の『村』としては大入りと言っていいほどの賑わいだった。
だが、住人たちはやはり以前の活気を取り戻したいと願っている。
話によれば、最盛期はエルザードにも負けないほどの活気に満ち溢れていたとのことだ。
「ま、何時まで経ってもこそ泥一人捕まえられないようじゃ、信用問題になっちまうしな」
「ふむ‥‥。この街の地図はないかな。」
宿の一室。というか、食堂に当たる場所で、二人は住人を交えて今後の対策を練っていた。
ゆったりと構えるオーマとは対照的に、的確な指示を村人たちに飛ばすキング。
何をするにも、地理を知らねば話にならないと考えたからだ。
「それと、今までこのこそ泥はどのようなものを狙ってきたか。どのような方法で盗んできたか。逃走方法などの情報が欲しい。」
「なら、そっちは俺が調べといてやるよ」
そう言って、オーマは持ってきた荷物を抱え食堂を後にする。
同じように慌しく部屋を出て来る住人たちを尻目に、部屋の一つを借り、持参した衣服へと着替える。
部屋から出てきたオーマの衣装はというと――なんと、桃色ギラリマッチョ紋付袴。
『おぴんくるんるん成金親父』というコンセプトで当初の予定通り、囮捜査を開始するのだった。
囮捜査なので、あからさまな聞き込みは出来ないが、そこに抜かりは無い。
オーマは予め調べておいた店へと向かう。
そこは筋肉マッチョの店長が開いている土産物屋として、村の内外を問わず有名だった。
イメージとは裏腹に店内は広く、また一般客も多く利用していた。
異質なのは、店長以下店員の全てがムキムキモリモリマッチョマンなことくらいである。
「さて、と‥‥」
店内を散策するフリをして、店員たちにジェスチャーで話しかけるオーマ。
『真の筋肉マニア同士が為せる美筋ジェスチャー』としてその筋では有名なため、意外なほど簡単に会話が成り立つ。
とはいえ、傍から見れば互いの筋肉を誇示し合う怪しい二人な訳だが‥‥
(被害者や盗品の傾向は‥‥やっぱ財布や金目の物が中心か)
(犯行の時間帯は‥‥日暮れごろか。丁度これからだな)
(盗みの手段や逃走経路は‥‥普通だな。『追い詰めたら消えてる』ってとこ以外はあんま面白そうじゃねぇな)
折々に雑談が混じるも、必要な情報は大体集まったと言える。
店を出た所で、丁度迎えに来たキングと合流する。
「大体の準備は終わっているぞ。後は網に掛かるのを待つだけだ」
「何だ、そっちも調べてたのかよ。そんなに信用ねぇのか、俺は」
苦笑混じりに言うオーマに、無駄が多いと指摘するキング。
行動派と頭脳派のこの二人は、案外相性がいいのかもしれない。
彼女が立案したのは、『追いかけるのではなく、来させる』というもの。
追い詰めたのに逃げられるのは、犯人しか知らない隠された道があるからと考えたのだ。
ならば、逆に道を用意してやりこちらの狙った場所に案内してやればいい。
予測し得る逃走経路を村人に固めて貰い、人の多い方へと誘導してもらう。
最終的に連れ込む場所は‥‥
「泥棒ーーー!!」
突然、オーマの村中に聞こえるのではと思えるほどの叫びが響き渡る。
物陰から伺っていたキングも飛び出し、犯人を追う。
すると――
「うわっ! 何だコリャ!?」
犯人が驚愕の声を上げる。
それもそうだろう。
突然、荷物からメルヘンな桃色ハートが飛び出したと思ったら、自分の服にアニキ面の刺繍が施されていたのだから。
ちなみにこの刺繍、背中にもあるのだがそんなことを気にする余裕は犯人には残っていない。
「‥‥オーマが言っていたのはこの事か」
彼が囮となる前に、犯人には目印を付けておくと言っていたことを思い出す。
デザインはともかく、これならどれだけ人込みに紛れても、自分のセンサーからは逃れられないことをキングは確信した。
くそっ!という言葉と共に荷物を放り出し、逃げることに専念する犯人。
キングの考え通り、犯人は脇道に入ろうとするが、待ち受けていた村人に気づきやむなく通りへと戻ってくる。
何度か同じことを繰り返すが、その度に村人に邪魔されて思い通りに行かず、犯人は既に冷静な判断力を失っていた。
目的地が近くなり、一気に畳み掛けようと一定の距離を保っていたキングが加速する。
と、短い悲鳴と共に犯人が体勢を崩す。
好機と見たキングは倒れ込んだ犯人を捕らえようとするが‥‥
「うわあぁぁぁっ!?」
犯人は倒れることなく道を滑って行く。
かろうじてバランスを保っているが、その先は丁度追い込もうとしていた場所。
彼女たちが最初に訪れた温泉宿だ。
ちなみに、入り口から温泉までは一本道である。
犯人は止まることなく、一直線に温泉へ向かっていく。
数秒の後、豪快な水の音が聞こえてきた。
温泉では、既にオーマが犯人の動きを封じており、キングは遅れて到着した。
見れば湯の手前にはバナナの皮『らしき』物体がある。
人の顔に見える部分が気になるが、恐らく犯人が滑り続けたのはこれのせいだろう。
「いや、上手い具合に引っかかってくれて良かったぜ」
と、豪快に笑い飛ばすオーマ。
犯人はと言えば、捕まっていても諦めた様子はなく、隙あらば逃げ出してやるという目をしている。
背格好や口調、声の高さから最初は少年かと思っていたが、濡れた服は犯人が少女であることを示していた。
後は憲兵にでも突き出せば終わりなのだが‥‥
「よぉ。何でお前、こそ泥みたいなまねしてたんだ?」
「いや、みたいではなくそのものだと思うが‥‥私も少し気になるな」
冷静に突っ込みを入れるキングだが、オーマと同じ疑問を抱いてはいるようだ。
素直に話すとは思っていなかった二人だが、意外とあっさり少女は話してくれた。
それによれば、彼女はエルザードとアセシナートの戦争によって両親を失った戦災孤児である。
最初の頃は食料にのみ手を出していたそうだが、捕まらないのを良いことにその幅はどんどん広がっていったようだ。
もっとも、働いて賃金を貰おうと思ったこともあったが、身形や年のせいで一度も雇ってもらったことは無いとのこと。
「苦労したんだな、お前も。」
うんうんと頷き、号泣するオーマ。
キングはと言えば、一応納得はしたのかこれ以上言及するつもりはなさそうだ。
とはいえ、彼女の言うことの真偽を確かめる術は無いのが現実である。
「後の処遇は私たちが決めることではないが‥‥」
「一応村の連中には話しておくか」
結局、彼女はこの宿に住み込みで働くことになった。
無論最初のうちはただ働きだろうが、それは本人も了承している。
根は真面目なのか、数年後には看板娘として活躍してくれそうである。
「はぁ〜、良い湯だね〜」
温泉に浸かって上機嫌のオーマ。
放っておけば鼻歌まで歌いだしそうな勢いだ。
男湯と女湯は柵で区切られているが、温泉自体は繋がっているので柵越しに話すことも出来る。
「ああ。体を動かした後に浸かる湯は気持ちいいものだな」
キングも素直に同意する。
騒動の一日だけでなく、日頃溜まった疲れをゆっくりと癒し、翌日二人は聖都へと戻っていった。
End
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2872 / キング=オセロット / 女性 / 23歳 / コマンドー】
【1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男性 / 39歳 / 医者兼ヴァンサー】
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、新人ライターの『鎧馬大佐』です。
この度は私の処女作へのご参加、本当にありがとうございます。
実際はサンプルを提出した段階で、この物語を作ることになるとは思っていませんでした。
なのでオープニングには若干の修正を加えました。
が、それ以外はお二方の個性のおかげでとりわけ苦労することもなく、完成させることが出来ました。
文中にも書きましたとおり、行動派のオーマさんと、頭脳派のキングさん。
行動パターンが大きく異なるので、非常に書きやすかったですw
まだまだ若輩ですので、感想やご指摘などは今後の励みにさせていただきます。
ですので、もしお手数でなければ感想の方をお聞かせ頂けると非常に嬉しく思います。
その際はOMCファンレターなどをお使い下さいませ。
それでは、これで失礼させていただきます。
またのご参加を心よりお待ちしております。
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