<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
Tales Of The Dark-servant 3
------<オープニング>--------------------------------------
雨の黒山羊亭。吟遊詩人の歌は続く。
雨は歌が終わるまで降り続きそうだ
この先は闇
闇仙子に慈悲を持ち接す
心開けかければ彼は死す
理解できぬこの溝は
我は無力と思い知らされる
しかし、この危機を止める勇者よ
慈悲を持って悪と戦い
野望を阻止せんと先に進む
「ありがとうございます」
助けた人々からここから近くに村があるという。其処まで連れていってくれれば、何とかなるとか。
何故、捕らわれたのかを聞くべきだが、今ここで聞くことは余り勧められない。
何時危険が来るか分からないのだ。援軍が来るかもしれない。
それに、この世界はあなたにとって謎が多すぎる。
ガルガンドの館にたくさんある書物にも載っていなかったようだ。
あなたはこの地下世界を知る必要があるだろう……。
闇仙子、あの三首のヤギ……
目的はまだ闇に包まれている。
しかし、この世界を知る必要がある。
悪意に満ちた闇の世界を知り、対策を考えるべきだろう……。
〈1〉
「そんなことをしても時間がないぞ」
キング=オセロットはオーマ・シュヴァルツに言った。
オーマは、自害した闇仙子の死体全部にたいして、目を閉じさせている。そして、黙祷した。
「せめて安らかにと思っていな」
「ふん」
檻付きの馬車に様々な人がいる。
地底人に地上の住人。
乗用トカゲに乗っていけば、捕らわれた人々を近くの村に連れて行けるようだが、
「地上に出るよりも、近くの村に……」
地下にあるという。
「困ったな、地上に出たいのだが」
「ここは、地形が変わりやすく迷うのです。地を掘る生物や魔法による変動が大きくて……、それに地上には出られないほどになっている者が多いのです」
捕らわれていた人がいった。
「しかし、見ず知らずの人間を村に連れて行くってのはやばくねぇか?」
オーマが思った。
この周りが危険だとすれば、この地下世界にいる村も危険だ。捕らわれた人々の村はほぼ壊滅状態になってはいないだろうか? もしそうでなくても、知られると標的にされる。しかし、捕らわれた人々を助けられるほどの余裕があの病に冒された村にあるかどうか分からない。
「私たちは行商に出かけた時に襲われたものや、スパイによって地下地上問わず、拉致された者です」
と、捕らわれた人は言った。
「何? こんな危険なところで行商? 拉致? 良くこんなところで生活できるな? 何か訳あり?」
オーマは驚いた。好きこのんでこんな所に住むのはかなりの訳があってか、物好きだろう。
「……行くしかないか」
此処で考えていても仕方がない。普通の人がこの険しい洞窟を歩くことは難しいだろう。
変動が激しいとなると、この馬車などが動ける場所が限られてしまう。
ほとんど力をなくしているわけではないが、捕らわれていた人の数人はぼうっとしている感じだ。オーマが看てみるが、何かの麻痺毒らしい。すぐに解毒したいところだが解毒剤の逆効果が危ぶまれる。
「この5マイル先に最大距離30フィートのクレバスがあります。」
一番意識がハッキリしている人が、指さした。先の方は真っ暗で何も見えない。
「ほんとかよ?」
オーマが遠くを見るが何も見えない。
「……彼の言っていることは本当のようだ」
「トカゲいなかったらホントやばかったな」
そう、このトカゲは、険しい山道などを軽々越えてくれる。更に面白いことだが、檻兼馬車のような物体は、蜘蛛のような足が生えており、かさかさと動いている。ひょっとすると蜘蛛に檻をくっつけたモノではないかと思うほどだが、生物ではなかった。
「まあ、こんな危険なところで自分やトカゲの食料保持など間がれば効率が悪いよな」
オーマが言った。
途中、水牛のような生物の群れなどを見かけたり、馬の大きさほどもある蜘蛛が飛び交うこれまた大きな蝙蝠を食らい殺しているところを見たり、“この地下の中でも生きているモノが存在していること”を再認識させられる。
「此処が村です」
トカゲに乗り、地形を詳しい者に道案内(?)してもらい、村に着いた。
「うっひゃあ!」
フードを被っているオーマは驚いた。
村と言ったが、牧歌的な所と違い、石や茸で出来たバリケードが作られている。茸の傘の上にクロスボウを持っている見張りがいた。
一緒にいたガイドの人がなにやら身振り手振りすると、バリケードの中で歓声が上がったようだ。おそらく、手話なのかもしれない。
門が開く。
「茸だらけだ」
茸の畑が目の前に現れたのだ。
村のガイドがやってきて二人を案内した。捕らわれた人々は、他の村人に治療を受けて貰っている。
村は、茸畑が主な生産業らしい。地底人の他に、様々なソーンの住人がいることを目にする。そして、何かしら武装しているのが分かった。
「全部、食料です」
と、村のガイドが言う。
村の広場に、ドワーフみたいな男と、エルフのような華奢な人影がいた。
「異界の方か。此処まで珍しい。ようこそおいでくださった。リーダーのガバルドと申す者。こいつは“語り部”名前はないので」
ドワーフがぺこりと挨拶する。彼が村長らしい。エルフのような人物“語り部”は黙ってお辞儀をするだけだ。
そして、お互い握手を交わして、自己紹介をすませた。
「私たちはこのあたりをほとんど知らない。教えて貰いたいのだが」
キングが言う。
「そうですな。儂らが何故ここに住んでいるのか。この“闇の山”でのこととかを聞くのも無理はないでしょう」
〈2〉
「儂らの祖先は、地下にある希少鉱石や宝石(金剛鉄や真の銀)を求めたり、この世界に何かを感じたり、大きな罪を犯して逃げるために地下に潜りました。しかし、更に昔には闇仙子や灰色小人、脳喰らいの住処になっていたのです」
と、村長が語る。
「なるほど、地下にはいろいろな物資がある。しかし、其れを求めるには危険が大きかった。また、罪人達が隠れるにはふさわしいか……」
「奴隷目的などはいつからなのだ?」
オーマが聞いたが、
「彼らがいる時代からですよ。地上では知られていませんが、おそらく1000年以上は有ると思います」
「そんなに長いこと……良く生きてこられている」
二人は不思議に思うことばかりだ。
「弱気者は奴隷として生きていくか、こうして何とか自警団や地上で言う要塞みたいな村を作り、守っていく事が多いのです。それに、有る程度の財産を持てば、中立的な立場で行商が可能になります」
危険な場所なのに行商。其れが余計に驚く。
村長の口調からすれば、地上で言う山賊に襲われたレベルである。
「つまり、ほとんどの地上と思われる人は、昔の子孫だったりする訳か……」
「少数ですが、地上からの人もいます。しかし、自力では出られないことが多いのですよ」
地形の変動により、地上に出られにくいこと。再び襲われるか分からない恐怖、この暗い大空洞の狂気、悪しき心に犯され、地上に出る意欲をなくすそうだ。幻獣の加護も働かないらしい。
今回、助けたのも単なる奴隷商人の可能性が高く、キングとオーマが探している一団と異なるともいう。
「おそらく小競り合いで表立ったことはないのだろう。今動き出したのに何か訳があるのか?」
キングが聞いた。
「たしか、闇仙子もお互いで争っているのです。力を得るために……」
「今まで表立って地上に出ていないのに? エルザードには一つも情報が無かった」
「小競り合いはあったでしょう。しかし、あなた達が住んでいる地域まで及ばない所……地上にある悪しき国や、閉鎖的なエルフの国とかでしょう」
「ああ、なるほど」
それなら、情報が入ることはほとんど無いだろう。
「力を得るために……か……」
オーマは考えた。
「住まないが三首の山羊の悪魔についてしらないか?」
と、再びキングが訊いた。
「おそらく、デルゴリアドという邪神の眷属、ザーゴートです。この“語り部”なら分かると思います」
村長が後ろにずっと控えていたエルフがぺこりとお辞儀をする。
「闇仙子は数柱からなる神々を信仰している。蜘蛛、粘体や地下に住むような動物を基本とした神々を。しかし、彼らは互いに信者を競わせこの大空洞の支配権を得ようとしている。何世紀も続いており、異世界の脳喰らいや悪魔がはびこり混沌となった」
「と、今まで膠着状態になったということか?」
オーマが“語り部”に尋ねた。
「見た目は膠着状態だな。なにしろ、奴らは身内の中でも戦いがある。己が強くなり権力を欲するために」
「というと?」
「先ほどのデルゴリアドを信奉している氏族が“闇の山”の権力を欲するために、エルザードに狙いを定めたのだろう。何らかの聖獣の力を吸収し、神々よりぬきんでることを証明すれば、信徒を増やし強力になれるからだ。ただ、その手段は様々なのでザーゴートを呼び出した高司祭になどに訊くしかないだろう」
「単純な動機だが、危険だな……地上で起こしたあの騒ぎもその一環って訳か」
キングが呟いた。
〈3〉
デルゴリアドの姿は山羊、竜、獅子の顔と、4対の腕、蜘蛛のような足を4対もつものらしい。ザーゴートはその眷属の中でも一番強いフィーンドとも言われている。
「何か矛盾してないか?」
キングが気づいた。
「あ、胴体はともかく、山羊、竜、獅子にしろ、“地上”生物だ」
「ひょっとして、デルゴリアドは……」
二人は“語り部”に向き直った。
「別世界かこのソーンで“堕ちた”存在といわれているのだ。言い伝えではな」
落ち着いた表情で、“語り部”が言った。
「もしかすると、奴さん……」
オーマは思った。
郷愁の思いで闇仙子を使っているのかと。
何か訳があったのだろうかと。
このあと、キングは捕らわれていた人に再度情報を手に入れようとしたが、相手は奴隷商人だったらしく、深いことは分からない。サーゴートが生け贄が欲しいとかうわさ話程度のモノだ。それに、闇仙子独特の言語だったため聞き取れなかったこともある。あれらは手話を使うようだ。
「地上の人をどうするか考えないと。上に上げるには結構しんどいな」
「私たちだけなら大丈夫なんだが……、何時何が襲ってくるか分からないし、此処にいた方が良いのだろうか?」
考える二人。
一度、地上の人だけを戻すことが優先だろうか? そのまま、奥に進むべきか……。
“語り部”がこう言った。
「其れは私が何とかする。あなた達は本来の目的を優先すればよい」
「え? あんた一人で?」
オーマが目を丸くして訊いた。
「なに、数日後にこの世界の行商が来るだろう。その行商は比較的安全な空洞までむかうモノだ。そのときに頼む事が出来る。出来ること出来ないことは」
「他にいる……あ……そうか、出たくない奴さんもいるんだったな」
「その辺は個人の意志による。私は“出たい人”だけを地上に届ける。其れだけだ」
静かに悲しそうに、“語り部”は言った。
そして、此村での食料と水、探検用具と、大体の都市や村の位置関係を教えて貰ったオーマとキングは……村に別れを告げ、旅だった。
〈歌い続ける吟遊詩人〉
闇の中で生きるモノ
なにゆえにいきるか?
力を得るためか?
其れは己の心の内
邪なるモノか
哀しさからなのか
真の心は知ることも出来ず
只、闇の中を彷徨う
4話に続く
■登場人物
【1953 オーマ・シュヴァルツ 39歳 男 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2872 キング=オセロット 23歳 女 コマンドー】
■ライター通信
滝照直樹です。
『Tales Of The Dark-servant 3』に参加して頂きありがとうございます。
地下の世界の一端をまた、少しだけ描写してみました。
三つ首の山羊の悪魔の事も分かりました。相手の本当の目的も大体つかめました。しかし、阻止するにはデモゴリアドを信奉する氏族を倒すか、信仰の放棄をさせるしかないかもしれません。ただ、仕事や任務の失敗は死を選ぶ、一部の闇仙子をどう仲間にしていくかとか、様々な手段があるかもしれません。ただ、彼らの此処の闇や、狂信者に声が届くのか……其れは分かりません。
では、また次回に
滝照直樹拝
20060413
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