<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
呪われちゃった冒険者
「あのお……」
黒山羊亭の入り口から、ひょこひょこと緑色の何かが見えている。
それと同時に声も聞こえて、「?」とエスメラルダは入り口へと向かった。
そして、
「きゃ――」
思わず小さく悲鳴をあげた。
目の前で――
全身緑色、手も足も顔も何もかも緑の青年が、唇にしーと緑の指を当てて、
「お願いします、騒がないでください〜」
情けない声を出した。
「……な、なに、かしら」
黒山羊亭にいると時おり奇妙な客もくる。かろうじて気をたもったエスメラルダは青年に問う。
「あのですね……僕、マオラって言うんですけど。本当はちゃんと普通の人間なんです本当です」
「そ、そう。それで……」
「僕、トレジャーハンターなんです。それである洞窟に宝探しにいったらモンスターと鉢合わせしまして」
「あら、それじゃまさか……」
「はい」
僕、呪われちゃったんです――
「多分そのモンスターを倒せば呪いは解けると……思うんですけど。その。強力な魔導師だったので。誰か一緒に行って僕の呪い解くの手伝ってくれませんか」
**********
エスメラルダに連れられて、マオラは黒山羊亭に入ってきた。
とたん、
「黒山羊亭に……魔物か!」
赤い髪の青年が、ばっと拳銃を取り出しマオラに狙いをつけた。
「抵抗は無意味だ! 速やかに両手足を広げて地面に――」
「アホーー!!」
銀髪の青年が赤髪の青年の背を蹴り飛ばしてつっこんだ。
赤髪の青年――ライカ=シュミット。
銀髪の青年――ランディム=ロウファ。
天使の広場で喫茶店を営む彼らは、店長と副店長という立場だ。
「いいか、ここに来たということは、そいつは事件解決の依頼のためにきた依頼人だ、分かったかライカ!」
ランディムに説明されても、ライカはじーっとマオラを見つめた後――
「やはり魔物ではないか」
「ち、違います僕は魔物じゃありません〜」
マオラが経緯を説明する。
全身が緑になる呪いを解いてほしいと依頼に来たのだと――
「なに? つまり依頼主は魔物だったのか」
「アホーーー! だからな! 洞窟で宝探ししてた矢先に呪いにかかってこんな風になりはてたんだ!」
「な、なりはてた……」
マオラがショックを受けたようによろめく。そんなことは構わず、
「いいかライカ。依頼内容や経緯ぐらい聞け。そうすぐに銃を取り出すな」
「……貴様も人の話は聞かないではないか」
「黙っとけーーー!」
ライカとランディムが大騒ぎしたため、次々と人が寄ってきた。
マオラの姿を見るなり、大笑いした少年がいた。
「あ……あはははははははは!!! すっげ、緑だ緑!!!!」
首に鎖をさげた少年――虎王丸(こおうまる)は、存分に笑ったあと、
「なあどこまで緑なんだよ? ちょっと見せろよ」
と、マオラの服を脱がそうとしたりマオラが持っている剣を見たりして、
「お、剣は無事か。でも体は本気で緑じゃねーか。あははははははは!」
「あの」
大笑いしている虎王丸の横から、ずいと進み出た少年がいた。
「僕は、あなたが本当に人間なのか判断できません。一度試してみていいですか?」
己の剣を鞘から抜こうとしながら、問う。
「斬ってみれば分かることです」
少年の名はリュウ・アルフィーユ。冒険者になりたての十七歳だ。
彼的分析では、ここでやってみろとでも言わなければ人間だろう、とのこと。
マオラはひいいいと縮み上がった。
「き、斬らないでください、死んでしまいますっ」
「そうですか」
リュウはほっと息をついて剣を鞘におさめた。
「僕も冒険者として、少しは疑ってみることを学んだので実践してみました。成功したようです」
「そりゃあちょっと感覚がズレてるだろうよ、ボウズ」
後ろから葉巻の煙が流れてきた。
リュウが振り向くと、そこに金髪赤瞳の、大柄な男性が葉巻をくゆらせ立っていた。
トゥルース・トゥース。彼は近づいてきてマオラをしげしげと見ると、
「……まあ、なんだ。呪いは呪いとして、また見事に染まったもんだなあ」
「僕は見世物じゃありません〜〜〜」
マオラは情けない声を出した。
「そんな情けない声を出しなさんな、兄さん。それでもトレジャーハンターか?」
「トレジャーハント!」
その言葉に、過剰に反応して椅子を蹴倒して立ち上がった女性がいた。
「なんだ!? 何の話だ!? 緑の人間になんぞ興味はねえが、トレジャーハントには興味がある!」
「……話聞いてなかったのか?」
「興味のない話を綺麗に聞き流すことには自信あり!」
ランディムのつっこみに、男性的な外見をした女性ユーアは胸を張って断言した。
改めて詳しい話を聞いて、ユーアは「よっし!」と気合を入れた。
「トレジャーハンターが目をつけるくらいだからきっといいお宝がある!」
「こんな情けないトレジャーハンターでもか?」
「はず!」
「はずってあんた」
「多分、きっと!」
「そんなアバウトな!」
ランディムのめげないつっこみにも、ユーアは負けなかった。
「洞窟のお宝を無事発掘できて、その中で自分が気に入ったものを何点か譲ってくれるならその話、乗りましょう!」
「それ都合よすぎっ!!」
ランディムのつっこみはどこ吹く風である。
うきうきし始めたユーアの隣で、銀髪に青い目の少女がしみじみとつぶやいていた。
「トレジャーハント、か……あまり請け負わない仕事とはいえ、冒険者として遠い世界の話ではない。それがゆえに、難しい」
アレスディア・ヴォルフリートは、どこまでも思考がまじめだった。
「のろい……?」
ひょこ、と顔をのぞかせて、つぶやいた黒髪の少女がいた。
マオラの姿をじーーーっと見てから、何事かを小首をかしげて考えたあと、
「……なんで、のろ、われ、ちゃった、の……?」
たどたどしい話し方でしゃべる。
彼女の名は千獣(せんじゅ)。見かけ十七歳ほどだが、実年齢は本人も知らない。
「千獣殿。こちらの方は宝をさがしている最中に魔術師に呪われてしまったらしい」
「そう、なの……?」
アレスディアの説明に、千獣はちょこんと小首をかしげたまま、
「その、魔導師……宝、物、護って、る、んじゃ……ない、かな……」
と言った。
「そうさなあ……」
トゥルースが葉巻の煙を吐き出した。
「うむ。トレジャーハンターは宝を得るのが勤め。しかし、その魔導師とやらも宝を護るのが勤めなのだろう。共に勤めがゆえのこと。ゆえに、難しい」
アレスディアは千獣の言葉に同意した。
「宝、物……って……よく、わから、ない、ん、だけど……魔導師に、とって……大事な、もの、だった、ら……とろうと、した、ら……怒る、と思う……」
「そうですね」
しょんぼりとマオラが意気消沈する。
「元気だせや」
トゥルースがぽんぽんと肩を叩いた。
「……獣、だって……護る、もの……ある……それ、取られ、よう、としたら……怒る……怒って、牙、剥く……魔導師も、多分、一緒……」
「ああ、僕のトレジャーハント人生そのものが否定されつつある……!」
マオラが嘆いた。
「別に否定してるわけじゃねえよ」
ランディムがあほらしそうな声で言った。「たまたま今回の宝が、護りたがってるやつがいただけでよ。ふつートレジャーハンターってのは埋もれちまってる宝掘り出すのが仕事だろ?」
「ああ、僕のトレジャーハント人生が肯定されつつある……!」
マオラの目が輝いた。
「……この男、言っていることに脈絡がない。やはり魔物ではないか」
ライカが真顔でランディムに言った。
ランディムはがっくりと肩を落として、言った。
「ただのアホだよ、こいつは……」
「考えているだけではどうしようもないな。まず、魔導師と対峙したときの状況を詳しく教えてくれぬかな」
アレスディアはすでに、依頼に乗る気でいるようだった。
「そのモンスターだか魔導師だか、別に俺が喰う類のもんじゃなさそうだが、この場に居合わせたのも何かの縁だ、付き合ってやるよ」
暇だし、と小さくつぶやいたのはトゥルース。
「どのようなモンスターなのか詳しく話していただけませんか?」
と尋ねたのはリュウ。
「お前聞いたところで分かんのかよ?」
虎王丸がからかった。
「今回は薄暗い中での戦闘か……向こうも場の地理は存じているようなものだ。こちらが照明を使えば敵に居場所をさらけ出すことになる。だが俺は隠行にはそれなりの自信がある。狙撃と銃撃で充分対応できる」
「ちょ、ま、ライカ。お前依頼に乗るつもりか?」
「このような魔物、放ってはおけぬ」
また魔物に戻ってしまっている。
ランディムは天井を仰いで嘆いた。
「なんでこう、俺ってトラブルに巻き込まれやすいんだか……」
「い、依頼料は払います……」
「依頼料より宝だ、宝!」
ユーアが騒いだ。
「そうだ宝だ。お前さんが狙ってた宝ってのはどんな由来があんだ?」
トゥルースがマオラに尋ねた。「宝の背景を知れば、その魔導師の正体も分かるかもしんねえ」
「魔導師が宝を護っているとして、それは何故か」
アレスディアがふうむと考えこんだ。
「宝を護らせるために、使い魔を置くこともある。もし、魔導師が何らかの契約や誓約によって宝に縛られているのであれば、それを解くことを交換条件に呪いを解いてくれるよう、頼めるかもしれぬ」
「宝そのもの魔導師のもので、魔導師自らの意思で護っていた場合は、その限りではなかろう」
ライカが口を挟んだ。
そうだな、とアレスディアがうなずいた。
「まず、宝と魔導師の調査。その上で交渉」
「よ、よく分からないんですけど、下調べが重要ってことですか?」
リュウが一生懸命口を出した。
「その通りだ。……矛を向けずに済むなら、それに越したことはないのだが」
「そう……とりあえず、魔導師の、ところへ、行った、ら……どう、したら……許して、くれる、か……聞きたい、な……」
千獣がマオラに向かって、ちょこっとだけ微笑んだ。
「爪、と、牙、を、使う、のは……さいしゅー、しゅだん……。まず、話す……」
「まどろっこしいこと言ってやがんなあ」
虎王丸がけっと舌打ちした。「こいつどうせもう呪われてんだし、こいつが魔導師に泣きついてその隙に俺が斬りかかる。それでいいじゃねえか」
ひいいいいとマオラが悲鳴をあげた。
「乱暴だなあ……ま、俺は解呪の方法を考えてやるぜ」
ランディムがいつも手にしているビリヤードのキューを肩に乗せながら言った。「そのためにゃ、魔導師ご本人とご対面しなきゃならねーけどな」
ところで――と、ランディムはつぶやいた。
「なーんか……どっかのおっさんがいなくねえか?」
「ああ、そう言えばオーマ殿がおらぬな。どうなされたのだろうか」
「オーマなら、最近熱心に何かを研究しているらしくてあまり来ないわよ」
エスメラルダの言葉に、誰もが嫌な予感を覚えた。
**********
マオラの話はこうだ――
なんでもその洞窟は、元は宝庫があった場所ががけ崩れが起こって埋まり、その後崩れ崩れて穴が開いた――
魔導師はローブを着、フードを深くかぶっていて姿がよく分からず、杖を持っていた。
その杖を向けられ、
『汝、カエルとなれ』
と唱えられて、マオラは全身緑と化した――
**********
「倒せば解けるのかもしれねぇが、そればかりが方法ってわけでもねえ」
ガンガルドの館で書庫を調べながら、トゥルースが言った。
「まぁ、な。緑色になるなんて滅多にないことだぞ、うん。てことで、時間かかるのは我慢しろ」
「滅多になくても俺はご免こうむるな」
ライカが冷たく言い放ち、
「俺も」
ランディムが解呪の本をめくりながらつぶやき、
「俺もこの鎖解くのと引き換えって言われても嫌だ」
首にじゃらりとつけられた鎖を、常々はずしたがっている虎王丸さえそんなことを言い、
あげくのはてに、
「ちなみに滅多なことでも俺も緑色なんて勘弁だ」
あっさりとトゥルースが言った。
「よく、分かんない、けど……なんか……緑、色……ちょっと、困り、そう……」
千獣は、いつだったか知り合いが緑色のドラゴンの血をかけられて困っていたことを思い出していた。
「……。……。色、おと」
「千獣殿ーーーー!」
アレスディアが慌てて千獣の口をふさぐ。
それは言っちゃだめそれは言っちゃだめとぶんぶん顔を横に振って制止しながら。
リュウはどうしていいか分からずあたふたとガンガルドの本の背表紙を目で追い、
虎王丸は面倒くさそうに大あくびをしていた。
「おーい。早く行こうぜー……」
「そうとも! 早くお宝、お宝!」
ユーアがばしばしばしと理由なくマオラを叩きながらせかした。
とりあえず分かったことは――
マオラの言うとおり、その洞窟は本来宝庫であった場所にがけ崩れが起きて埋まった場所だということ。
しかし、残念ながらそれを護る魔導師がいるかどうか云々については分からなかった。
「仕方ない。現地へ行くか」
トゥルースがため息をつく。
「話し、合い……」
うまく、いく、かな……と千獣がちょこんと小首をかしげた。
「いきなり呪いを解けっても行くはずもねぇ、相手の言い分、望みを聞いて、お互いの利点の一致を探る」
「う、ん……」
トゥルースの言葉にうなずいた千獣は、ふと隣にいた少年に目を向けた。
「……リュアル?」
リュウは千獣の呼びかけが聞こえていないかのように、ぶつぶつと何事かをつぶやいていた。
「いつまでも弱気なままではいられない……これまでも何とか依頼をこなしてきたのだから大丈夫……大丈夫……大丈夫……」
気の弱いリュウは、依頼を引き受けたものの怯えているようだ。
「ふむ。現地につけば俺が一発で魔導師をしとめてみせるが」
「アホ。しとめちまったら呪いが解けなくなっちまうかもしれねえだろうが」
げいんとライカの後頭部を殴りながら、ランディムはよっと大きく体を伸ばした。
「――さあって、行くか!」
現地は薄暗い洞窟……
入り口に来たところで、ユーアが言い出した。
「魔導師をいちいち洞窟の中から探し出すのは面倒だと思うわけだ。いっそのこと出入り口全部ふさいで、切羽詰って魔導師が出てきたところをドつけば万事解決!」
「ユーア殿……落ち着いて……」
「しかし、悪い案じゃねえぜ」
トゥルースが葉巻の煙をくゆらせる。「一度ふさいでみるか?」
「ふむ……魔導師に怪我をさせるわけではない、構わぬか……」
「この洞窟の出入り口は合計三つだぜ」
ランディムがガンガルドで調べた結果を報告する。
「……入り、口……崩せば、いい、の……?」
千獣がきょろきょろと面々を見渡した。「それ、なら……私、やれる、よ……?」
「よし、任せた!」
ユーアが早々に仕事を他人に押し付けた。
「うん、じゃあ、場所、教え、て……?」
マオラやランディムに教えられ、千獣は三つの出入り口を巨大な獣の爪で崩した。
「これ、で、いい……?」
と千獣が訊いたとたん――
どごぉっ!!
出入り口のひとつが、派手な爆発音とともに再び開いた。
「あ?」
トゥルースの葉巻から灰が落ちる。
「……今のは魔術だったか?」
ライカが冷静につぶやいた。
「今のが魔術だってんなら、マオラの野郎は呪いかけられるぐらいじゃ済まねえぜ」
虎王丸が頭の後ろで手を組んで言う。
「では……?」
アレスディアが首をかしげた。
「ふむ」
ユーアはあごに手を当てて、「生ぬるかったか。じゃあ、これでいこう」
ごそごそと己の道具袋をさぐり、取り出したるは――
――一本の薬瓶。
「………? ユーア殿、それは何だろう?」
「これぞ『激注意☆ユーアのドッキリランダム薬』!」
ユーアはじゃじゃじゃじゃーんと効果音つきで解説した。
ユーアは何しろ、薬作りが半端じゃなく下手だ。いや、下手という次元を超えている。薬草作ったつもりで毒を作り、自分が死にかけたことさえあるような人間だ。
「この薬はまだ効果を試してない! ゆえにドッキリランダム薬! これも一緒に放り込んでもう一度入り口をふさいでしまえ!」
………
誰もが、一瞬ためらった。
「え、ええと……」
ひとりだけ、ユーアの薬に恐れをなしていない人物がいた。
「もう、一度、ふさぐ、の……?」
千獣はユーアの手から薬瓶を受け取りそれをぽーいと開いた出入り口に放り込むと、再び獣の爪で出入り口をふさいだ。
「あああそんなあっさりと……っ」
ランディムが一歩二歩と引いていく。
「ディム。敵陣において後退することは、負けを認めていることと同じだ」
「うるせえ! 作戦上の撤退ってのは存在するんだよ! てか大丈夫なのかよ!」
とランディムがライカに怒鳴り返した瞬間――
どごおおおっ!!
再び洞窟の扉が爆発音とともに開いた。
……なにやら勢いが増している。
「なに……っ! 俺の薬が効かなかったというのか……!」
ユーアが愕然と体を震わせる。
「……聞いてもいいだろうかユーア殿……」
アレスディアがおそるおそる、「あの薬は……何を作ろうとして作った薬だったのだろう……?」
「んん。火傷に効く塗り薬」
「まじでか!」
あれは明らかに塗り薬ではなく液体だった――! とランディムがつっこもうとしたとき、
「おい」
もくもくと煙が立ち込める洞窟を覗いていたライカが目を細めた。
「……放り入れた薬はなくなっているようだぞ」
「え!?」
全員が中をよく見ようとする。
煙が晴れてくる。洞窟の薄暗さの中で――
たしかに、千獣が投げ入れた場所に、ユーアの薬はなかった。
「まさか今の爆発はユーアの薬でか……?」
トゥルースがうめき、「いや、今のはどちらかというとやっぱり、一度目の爆撃と同じ気配がしやがったんだよなあ……」
「面倒くせーーー!!!」
虎王丸が騒ぎ出した。「もう、とっとと中に行こうぜ、中に!」
魔導師が出てこない以上……
仕方なく、一行は洞窟へと足を踏み入れた。
歩いてすぐのところで――
ユーアの薬の効果は証明された。
「んあ?」
ランディムがうめいた。「き、筋肉マッチョども……?」
そのものそのまま、筋肉マッチョな男たちが、ひくひくと陸にあげられた魚のように痙攣している。
そのすぐ傍に、ユーアの薬瓶の割れた跡があった。
そして、
「な、なんということを……っ」
ひとりの男が号泣していた。
「マッチョリズムダンシングの訓練をしているところに放り込まれた薬……きっと滋養強壮剤だと思い飲んだらこのざまだ……なんてことだ……っ」
マッチョ。
薔薇の入れ墨を体に持つマッチョ。
痺れ薬か、とユーアがつぶやいた。
「よし。成功のうちだ」
「どこがだーーー!」
ランディムが全力でつっこんだ。
「お前たちっ! お前たちの仕業かっ!」
薔薇入れ墨アニキは涙を流したまま、きっと一行をにらみつけ、
「ここはクリアしたことにしてやる! しかしこの先通れると思うな……!」
「……はあ?」
「行くがいい……!」
はははははは、と泣き高笑いしながら、男は去った。
「マッ、チョ……」
千獣がつぶやく。「まっちょ……」
「く、繰り返すのはやめよう、千獣殿」
「………?」
「さあ、先に急ごう!」
アレスディアは無理やりに千獣の腕を取った。
次に訪れたのは――
「うわあっ!?」
まっさきに声をあげたのは、リュウ。
はっと皆が振り向くと、そこにはうささん着ぐるみ化したリュウがいた。
「魔物か!」
ライカが拳銃を抜こうとする。げしっとランディムがその背を蹴り倒した。
「どうしたんだ……って、うわああ!!」
ぽぽん ぽん ぽん
次から次へと。
一行はうささん着ぐるみ化していく。
「なんじゃこりゃーーー!?」
「ぼ、僕、着ぐるみするような年齢じゃ……!」
「着ぐる、み……? あったか……」
「ききき着ぐるみなど初めてだ……っ」
「……射撃しづらい」
「ははは似合うぜライカ。……俺も似合うなんていうなよ……」
「ふむ。ライオンがうさぎの着ぐるみをするはめになるたぁな」
「着ぐるみなんぞどうでもいい、お宝ーーーー!」
それぞれがそれぞれの反応をする中、ユーアだけがうささん着ぐるみをまったく気にせず走り出そうとした。
「せめて脱いでいけーーー!」
ランディムが、泣きそうになりながらつっこんだ。
改めて、着ぐるみを脱いで先に行ったところ――
なぜか、行き止まりにたどりついた。
「あれ……? こんなところに行き止まりなんか……」
マオラが首をかしげる。
そこはおかしな場所だった。
少し細くなった道、上下左右の岩場にぼこぼこと穴が空いている。
「おいマオラ、これなんだ?」
「し、知りません。僕が通ったときは穴は確かに空いてて不気味でしたが何も起こらなくて……」
ちゃらりまっちょらーん
マオラの言葉に重なるように、おかしな効果音が鳴った。
『ただいまより、アニキ叩きを始めます。制限時間内に百マッチョ叩きしなくては、この先には進めません』
「な、なにーーーー!?」
スリー ツー ワン
スタート!
ぼこっ。
ひとつの穴から、マッチョアニキの上半身が飛び出した。
ばこっ
反射的に、千獣がそのアニキの頭を殴りつけた。
アニキの上半身が穴に沈んでいく。
ぼこっ
また別の穴からアニキの上半身が現れた。
「邪魔!」
ユーアがばきぃっと殴りつける。
アニキの上半身が穴に沈んでいく。
「……モグラ叩きかぁ?」
「あ、アニキ叩きです……」
トゥルースのぼやきに、リュウが震える声で応えた。
ぼこっ ぼこっ ぼこっ
次から次へと、徐々にスピードを増してアニキの上半身が現れる。
「こらー! てめえら手伝え!」
お宝欲しさのユーアに怒鳴られ――
その場の雰囲気に飲まれて、全員はアニキ叩きを始めてしまった。
「制限時間内に百叩きだああ!? つか制限時間ってどれだけだよ!」
虎王丸がその身軽さでぼこぼこアニキを連打しながら怒鳴る。
「分かんねえが急げーーーー!」
ユーアはむちゃくちゃだった。
「面倒くせえ、このマッチョども燃やしてもいいか!?」
「いいわけないだろーーー!」
虎王丸につっこんでから、
「こらそこの三人! 手伝え!」
ランディムに怒鳴られたのは、アレスディアとリュウとマオラの三人。
「い、いや……この方たちは生身の人間……」
「な、殴れませんよう」
リュウはひとりが殴られるたびにひいっと泣きそうになっていた。
そして――恐怖が極限に達したのか、
「……ちっくしょーーーー!」
人格が入れ替わった。
「アニキ叩きだあ!? やってやろーじゃねえか!」
剣の柄を使ってぼこぼこぼこぼこ。
人格の変わったリュウは、恐ろしい戦力となった。
アレスディアとマオラだけが取り残されて、ぼこぼこアニキたちの頭が連打されるのを、目を閉じ耳をふさいで拒絶していた。
『制限時間内百マッチョ叩き、クリア』
ぴーまっちょ
おかしな笛が鳴り響き、ゲームは無事終了。
行き止まりだった壁が崩れ落ち、道が開けた。
「よ、よかった……」
マオラが目を開けてほっと息をつく。
「てめー何もしなかったじゃねえかっ」
虎王丸がマオラに迫る。
「そんなことはどうでもいい、先、先!」
ユーアはどんどんと先に行ってしまう。
「なんつーか……」
ランディムがつぶやいた。
「誰かを彷彿とさせるような……」
呆然としながら、アレスディアもつぶやいた。
次の難関は――
「ピンクエプロンそうちゃーく!」
……聞き覚えのある声が、した。
「制限時間内、腹黒商店街カカア天下の会料理食べつくしゲーム! 食べ残した者はその場でスタートまで逆戻り――」
ズガーン
ライカの銃が火を噴いた。
「のわあっ!?」
ピンクエプロンの筋肉マッチョ男が、かろうじて弾を避けて声をあげた。
「何をしやがる!って……お前ら!?」
ズガーン ズガーン ズガーン
「……撃ってもよかったろう? ディム」
「ああ、何発でも撃ってくれ」
ズガーン ズガーン
「待てーーー! 待て待て待て待ってくれーーー!」
「待たなくていいぞライカ」
ズガーン
「降参ーーー!」
「や、やりすぎだライカ殿、ランディム殿!」
アレスディアがライカの狙う相手の前に立ち、かばいながら慌てて言った。
ちっとランディムが舌打ちした。
「まったく。どこで何をしてるかと思えば……」
「ゆ、許せ許せ。ちょっと勘違いしたんだ、な?」
へこへこと頭を下げるのは、オーマ・シュヴァルツ。
黒山羊亭の常連、最近姿を見せずに怪しい研究をしていたという張本人である。
「勘違い……?」
「最近ここを狙うワル筋が多くてよ、それから宝を護るために『大胸筋警報★発令!!総員第一筋桃色警戒アニキ態勢★用意ーーーーー!!!』と」
「僕たちを宝荒らしと勘違いしたのか……」
リュウが呆れたように言った。人格が戻っていない彼は、まだどこか険悪である。
「約一名は本当に宝荒らしだけどよ。……いや、約二名か?」
トゥルースがマオラと、そしてユーアをちらりと見ながら葉巻をくわえ直す。
「ここの宝は諦めてくれよ」
オーマは言った。「かなり伝統のある、マゾリンにとっても大切な宝なんだよ。な、ユーアもそんなに目を血ばらせないで勘弁してくれ」
「マゾリン?」
「俺の友人の魔導師のマゾリンだ。よろしくな」
オーマの後ろから、へろっと出てきたのはひとりの魔導師。
ひょろひょろの体にローブをまとい、頭に手をやりながらへらへらと笑っている。
「えろすんまへんな。ここの宝はご主人様の大切な形見やよってに。簡単に取られるわけにはいかへんのですわ」
「ちっ」
ユーアが険悪な顔で舌打ちした。殺気を覚えてびくっとマゾリンがオーマの後ろに隠れる。
あーあとランディムがため息をついた。
「せっかく法術士としての出番だと思ったのによ……つまんね」
「戦闘はないのか? あのひょろ魔導師を撃ち殺せば」
「やめーい!」
アレスディアはほっと胸をなでおろしていた。
「戦わなくて済むならそれがよい。オーマ殿でよかった……」
「戦い、なし……? よかっ、た……」
千獣がほんのちょこっと微笑む。
「つまんねえなあ。せっかく色々魔導師とマオラで遊ぼうと思ってたのによ」
虎王丸が地面を蹴る。
トゥルースがそれをまとめるように苦笑し、
「しゃあねえなあお前さんらは……じゃあとりあえず、マオラの呪いは解いてくれや」
「へ?」
「だからこいつの呪いだよ。お前さんがかけたんだろーがよ?」
トゥルースがマオラを前に引き出す。
オーマが「ありゃ?」と声をあげた。
「何で緑なんだ?」
「何でって……お前らが呪いかけたからだろうが」
「マゾリンの使える呪いは全身ピンクだ。緑にはならん」
「は?」
――沈黙が落ちた。
「なに……?」
ライカの声が慎重な響きを帯びる。
「おい、あんたこいつに見覚えあるか?」
ランディムがマゾリンに、マオラを見せつけた。
マゾリンは首を振った。
「ないない。最近はオーマはんとの研究に没頭しとってからに、誰とも会っとらへん」
「そんな……」
アレスディアが唇を噛む。「まだいるというのか?」
「何だ? そいつ、この洞窟で呪いをかけられたっていうのか?」
オーマが真剣な顔になった。
その通りだ、とトゥルースがうなずいた。
「ということは……」
「この近くに……」
「――まだ、誰かいる!」
リュウが鋭く叫んだ。と同時――
風喚師の彼の声に導かれたのだろうか、ぶあっと強風が吹き込んできた。
「―――!!!」
砂塵が起き、全員は目を閉じた。
そして目を開いた次の瞬間――
『汝、カエルとなれ』
声が聞こえ――
「げこっ!」
オーマの声が、おかしくなった。
「げこっ、げこっ!」
『汝、カエルとなれ』
「――どわあああ!!!」
虎王丸の悲鳴。
気づくと、虎王丸は地面に四足をついていた。四足で、しかもぴょんぴょんとしか跳ねられない。
『汝、カエルと――』
ズガーン
「……うるさい」
ライカの銃が魔導師の呪文を制止する。
魔導師は避けたようだった。空中に浮かび、ひらひらとその黒いローブが揺れている。
マゾリンは別方向にいる。別人だ――
「げこっ! げこげこっ!」
オーマが魔導師を指差し、何かを叫んでいる。
何を言っているのかはさっぱり分からなかったが。
「こらーー! 呪いを解けーーー!」
ぴょんぴょん跳びはねながら虎王丸が叫ぶ。
「やっぱりいた……っ」
リュウがマリンソードを構える。
「は、話し合いだ魔導師殿! 我らは宝を荒らさない! だからどうか呪いを解いて――」
アレスディアが叫んだ。
「そう、だよ……今日は、ただ、呪、い、を、解い、て、欲しい、だけ……」
千獣がぽつりぽつりと言葉を並べていく。
「……どうしても聞き分けねえなら、俺が喰うしかねえのかなあ……」
トゥルースがひそかにつぶやいていた。
「できりゃあ、やりたくねぇが……」
「お宝は欲しい!」
ユーアが断言した。
『汝、カエルと――』
ズガーン
「お前、魔導師刺激してどうすんだ!」
ライカの銃で魔導師の呪文は止まり、ランディムが悲鳴に近い声でユーアを怒鳴りつける。
「それは本心だからだ!」
ユーアは胸を張った。
「あれは誰でっか?」
マゾリンがオーマの背後に隠れながらぶるぶる震えて問う。
「げこっ。げこっ」
今のオーマでは会話にならない。
「ちっ……おい、戦えるやつ! しばらくヤツを刺激して呪文唱えかけそうにしてくれ! 俺が解呪の法を見つけ出す!」
ランディムの言葉に、
「仕方がない……!」
アレスディアが反応した。
コマンドを唱え、攻撃力はそれほどない鎧装となる。手に持つ武器は、槍から剣へと変化した。
「刺激するなら任せろ! 俺は宝を取りにきたーーー!」
ユーアの叫びに、
『汝、カエ』
ズガーン
「……なかなかすばしっこい敵だ」
ライカが銃身を撫でながら言った。
「あれひとつしか魔術がないらしいな……ライカ、殺すなよ」
「なぜだ」
「なぜだじゃねーーー!」
『汝、カエルとな』
「させぬ!」
アレスディアの剣が空を切り、魔導師のローブを切り裂く。
リュウは目を閉じ、風喚師としての力を発揮しようとしていた。
「風よ……届け。ヤツの心に届け……」
「お? ボウズは風喚師か。ヤツの望みを聞き出してくれや」
トゥルースがリュウに語りかけ、そして、
「嬢ちゃんは、敵が何か言いそうになったら言うのをやめるように、適度にちょっかいを出せばいい」
何をしていいか分からず困っていた千獣にアドバイスを与えた。
「う、ん」
千獣はばさりと背に獣の翼を生やした。
そして宙に浮いている魔導師のところまで飛んでいき、魔導師の前で止まった。
魔導師は千獣に杖を向ける。
『汝、カエルと』
ライカの銃が火を噴く。
「風よ……届け。彼の望みは?」
リュウは熱心に語りかける。
ランディムは徹底して術を観察する。
虎王丸は怒りくるってぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「さっさと呪いを解けーーーー!」
「俺たちは宝荒らしに来たんだーーーー!」
ユーアが必要以上に刺激する。
……もし魔導師が、呪い以外のすべを持っていたら危険だったかもしれない。
リュウの耳に、声が返ってくる。
――自分はこの宝の守り人――
「なぜ? マゾリンさんがいる」
リュウは問いかけ直す。
――ヤツに負けたことが、悔しい――
「マゾリンさん!」
リュウはオーマの背に隠れてばかりのマゾリンを呼ぶ。
「は、はい。なんでっか」
「あなたはなぜこの宝の守り人に選ばれたんですか?」
「守り人……?」
マゾリンは不思議そうに首をかしげた。
「守り人なんぞこの宝庫にはあらしまへんで。わてはわてが好きで護ってまんがな」
「………?」
リュウは再度目を閉じる。
今のマゾリンの言葉、魔導師に通じているか――?
――嘘だ。私は信じない――
――私は聞いた。我が主がヤツに守護を命じているのを――
「マゾリンさん! あなたたちのご主人様があなたに守護を命じているのを聞いたと言っていますよ!」
「へ?」
「答えてください! 真相はどうなんですか!?」
「よ、よく分かりまへん! わては守護なんて命じられてまへんがな」
「そんなはずはないんです、彼が――」
「というか、そやつは誰なんでっか?」
ライカの銃が火を噴き、
避けた拍子に魔導師の飛行位置が低くなった。
ぴょんと飛び跳ねた虎王丸が、そのフードにくらいつく。
「正体……現しやがれ!」
そして、魔導師のフードを食いちぎった。
そこから覗いたのは――
「あ!?」
誰もが目を見張った。
フードが破れて現れた顔は、まだ十代半ばほどの少年の顔だった。
「ケル!」
マゾリンが驚いたように声をあげる。「ケルでんがな。わての弟弟子の――」
「……なんだ。そういうことかい」
トゥルースがふうと葉巻の煙を吹き出した。
そして空中に浮かんでいる魔導師に一歩近づき、
「ケル、とか言ったか? お前さん、ご主人様がマゾリンの野郎になんて言っているのを聞いたんだ」
魔導師が、ケルが、初めてまともに口を開いた。
「――『あの宝を護ってやってくれ』と」
「それは命令ではないでんがな。ご主人様が笑いながら言った……遺言でんがな」
「僕は聞いていない!」
「たまたまお前はんはその場に間に合わなかっただけやわ。使いにいっとって、ちょーっと遅れたんやったなあ」
「すれ違いだな」
ケル、とトゥルースは穏やかに語りかける。
「お前さんの勘違いだ。ご主人はよ、マゾリンの野郎だけにそれを頼んだわけじゃねえんだよ」
「そ、そんな――」
「たまたまだ。だから、そんなにやっきになってライバル意識燃やして、戦おうとするんじゃねえ」
「そ、う、だよ……」
千獣が、優しくケルを抱きしめた。
「ケル、強、い……。ご主人、様、よく、分から、ない、けど……ケル、だけ、仲間、はずれ、には……きっと、しない」
「………」
「千獣殿の言う通りだ」
アレスディアが優しく言った。「素直になるといい。見えてくる。きっと見えてくる」
「……僕は……」
「げこっ。げこげこっ」
オーマが何か言っている。励まそうとしているらしい。
オーマの背から、ようやくマゾリンが出てきた。
「ケル……悪かったなあ。わてが気づかんかったのがいかんかったなあ。悪かったなあ」
「ふ、ふんっ」
ケルはそっぽを向く。
トゥルースががははと笑った。
「反抗期の子供だな。まあいい。ボウズ、呪いを解いてくれねえか?」
「………」
ケルは黙りこんだ。
「ん? なんだ? あの姉さんが宝荒らすって騒いでやがるから許せねえのか?」
「……違う」
ケルはむっつりとしながら、
「……僕は見習い魔導師なんだ」
「……それで?」
「……呪いの解き方、知らない」
トゥルースが葉巻でむせた。
「げこっ!?」
オーマが愕然と体をわななかせ、
「ふざけんじゃねーーー!」
虎王丸がぴょんぴょん四足で飛び跳ねながら怒り狂い、
「ああ……僕は今後も魔物と呼ばれ続けるのでしょうか……」
マオラが嘆きの声をあげ――
「心配すんじゃねえよ」
ランディムが、はあああと大きくため息をつきながら一行に言った。
「よく見てみりゃあ、見習いが使うような簡易な呪いだ。解呪は簡単だ」
「まじかっ!? あんた意外と役に立つな!」
「意外ととはなんだ意外ととは!」
ぴょんぴょん飛びかかってきた虎王丸を蹴り飛ばし、ランディムはユーアを見た。
「で、あんたはどうするよ? お宝は手に入りそうにないぜー」
「……ちっ」
「あ、ゆ、ユーア殿、その薬瓶は、」
「腹いせに『ユーアのドッキリランダム薬その2』を投げ込んでもいいか?」
「いいわけねえええええ!」
ランディムは叫んだ。
トゥルースがマゾリンとケルに拝むように、
「な、頼む。あの姉さんにいっこだけなんかくれ。な? でないとお前らも命の危機だぞ!」
「むむう……」
「……あ、あのお姉さんの薬、マッチョリズムダンシング魔人をあっという間に黙らせたんだよ……」
どうやら見ていたらしい、ケルが怯えたように言う。
「げこっ!?」
オーマが驚愕の表情を見せ――
「げこっ、げこっ、げこっ?」
彼までもがマゾリンたちに拝み始めた。何を言っているのかはさっぱりだが。
「一個でええですか?」
マゾリンがおそるおそるユーアに尋ねる。
ユーアはきらりんとその金の瞳を鋭く光らせて、
「よし、許してやろうじゃねえか」
そして、
「痺れ薬で二人とも黙らせりゃ、お宝全部いただけたんだがな……」
魔導師二人は震え上がった。
**********
結局――
ランディムの力で全員の呪いは解けた。
緑づくしから解放されたマオラは、
「普通になると却って笑えるじゃねえか、あははははははははは!!!」
とますます虎王丸に笑われた。
ユーアはお宝の純金と宝石をあしらった腕輪と、マオラからの依頼料をもらってそれなりに満足した。
虎王丸は、後にカエル化したことを友人に知られて大笑いされ、戻ってきてマオラに八つ当たりすることになる。
リュウは風喚師として存分に役に立ち、またひとつ自信をつけた。
千獣は「爪と牙を使わなくてすんだ」ことに、ひとつの意味を見出したようだ。
アレスディアは、マゾリンとケルがその後二人仲良く宝を護ることにしたということに満足している。
トゥルースは力を使わずに済み、「楽な仕事だったぜ」と葉巻をふかした。
ランディムとライカは、
「なに? あの途中で四足になったヤツやしゃべり方が変になったヤツも魔物ではなかったのか」
「あほーーーー!!」
相変わらずだった。
オーマは……
とりあえず一通り「このド阿呆が」と仕置きされてから、
「すまなかったげこっ」
呪いが解けても「げこっ」が口癖になって帰っていった。
ちなみに千獣が崩してもまた爆発音とともに開いた洞窟の穴は、オーマの大銃によるものだった。
まあ、色々あったが――
万事、解決したということになる。
宝庫はマゾリンとケルが護り続けるのだろう。主人の形見を、ずっと――
―Fin―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1070/虎王丸/男/16歳/火炎剣士】
【1953/オーマ・シュヴァルツ/男/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2542/ユーア/女/18歳(実年齢21歳)/旅人】
【2767/ランディム=ロウファ/男/20歳/法術士】
【2919/アレスディア・ヴォルフリート/女/18歳/ルーンアームナイト】
【2977/ライカ=シュミット/男/22歳/レイアーサージェンター】
【3087/千獣/女/17歳(実年齢999歳)/獣使い】
【3117/リュウ・アリュフィーユ/男/17歳/風喚師】
【3255/トゥルース・トゥース/男/38歳(実年齢999歳/伝道師兼闇狩人】
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■ ライター通信 ■
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ライカ=シュミット様
こんにちは、笠城夢斗です。
今回も依頼にご参加くださり、ありがとうございました。
ライカさんはどんどん天然さんへと化してしまっていますが;;よろしかったでしょうか?効果音のズガーンはまぬけさを現しております(汗
よろしければまたお会いできますよう……
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