<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


嘆きの花屋

 今日も白山羊亭はにぎわっていた。
 春も訪れに喜びを感じているのか、人々の気持ちも軽くなってきているのは確かだった。
 そこに現れたのは、一人の男性。
 すこしだけ顔が深刻です。
 春がやってきたというのに、まだ彼は冬に取り残されているようです。

「えぇ。ちょっと困ったことになっているんです」
 可哀想にでも思ったのだろうかルディアがちょっと話を聞いてみたところ、なにやらお悩みの様子。
「春もようやく目に見えてきたと、いうのに花の仕入れができないんです」
 男性は、大きくため息ついた。
 続けられた話はこうだった。

「森に霧が立ち込めたままなので、中へと入ることができないのです。どうやら森の奥深くで発生した、大きな植物、ラフレシア見たいなものが吐き出しているという噂なのです」

「あら、まぁ。それは困りましたね。それなら、ここで依頼してみては如何でしょう?」
 ルディアは話を聞きながら、それならと男性に提案した。 
 その提案に男性は喜び、賛成した。
 ルディアに何度も頭を下げて、お礼の言葉を投げかけて。
 早速男性は依頼書を書いた。

・森の霧の原因を突き詰め、霧を晴らして下さい。
・霧が晴れたなら、春の花を摘んできてください。

 簡単に書かれた、依頼書。
 さて、花屋に花はもどるのか。



 白山羊亭は変わらず賑わっている。
 賑わいの中に姿を見せたのは赤い髪と、凛とした眼が印象的な女性だった。
 扉を開けて中へと入ってくる。
 木の扉は軋む音を立ててしまった。。そんな音は賑わいの中では微々たる物で、気がつくものも大して居ない。
 カウンターへと着いたときだった、眼に入ったのは肩を落とした青年の姿。
「あら、どうかしたの?」
 カウンターに腰掛ける青年の隣の席に、女性も腰掛けながら背年に声を掛けた。
「あぁ、ちょっと困ったことがありまして…………」
「何?私でできることなら、力になるわ。私はジゼル」
「ジゼルさん。僕はそこで花屋をやっているのですがぁ…………。」
 隣に腰掛けて声を掛けてくる、女性に気がつき視線を其方に向けた青年。女性を見止めると、小さく笑むもその表情に力がはいっていることはなく。ただ弱々しかった。それにジゼルは自分のことを名乗り、力になれないかと提言をする。それに青年は力をなくした言葉でため息混じりに呟きながら、先ほど自分で貼り付けた依頼書を指差した。
 青年の指先につられて、ジゼルも其方を見た。青年が指差す方向には簡素な依頼書が貼り付けられていた。
 ジゼルは席から立ち上がり、依頼書の方に歩み寄りその内容を確認した。
 一通り眼を通した。
 それから………いまだカウンターで力なくしている青年の方に振り返り、笑った。
「大丈夫よ、安心して。私が行ってきてあげる」
「え!?………本当ですか?  ――――でも、ご無理はなさらないでくださいね」
 女性ということもあるのか、青年はすこしだけ困ったような表情になりながらジゼルへと告げた。
 その言葉にジゼルは大丈夫よ。と、笑って答えた。
 青年から森の場所など少し詳しい情報を聞いてから、青年にヒラヒラと手を振りながら白山羊亭を後にした。


 さてさて。森の入り口あたりに立つジゼル。
 青年の話どおり、緑に燃える森は白かった。
 寧ろ靄がかって、ぼんやりとしているだけで春の活気を感じさせなかった。
「本当に話どおりね」
 緑の森らしき白い森を見てはぽつり、ジゼルが呟いた。
「さて、こうしてもいられないし…………」
 何時までも眺めていても仕方ないから。何も解決はしないから、よし。と、ジゼルは一度自分に気合を入れてから一歩森に足を踏み入れ、またもう一歩足を進めていく。
 数歩歩けばもう森の中。 
 あたりは白かった。
 数歩先の樹の幹でさえあまり良くは見えない状態だった。
 手探り状態で歩いていく。
 おそらく霧の深くなる場所に、原因となるものがあるのだろうと足を進めていく。
 用心深く周りを見ながら、白い視界しかないのだけれどもそれでも何が飛び出してくるかわからないから。
―――――……………ガサ。
 不用意に自ら、発してしまった物音。
 それは草を踏みしめて歩く自分の足音だった。
―――――……………カサり。
 そう、不用意は2度続いてしまった。
 その後だった。
 自分の方になにか迫ってくる気配、逃げようにも逃げ切れなかった。白いもやの向こう側から現れたのは大きな男性だった。
「きゃぁ」
 突然の出来事に、上がってしまった悲鳴じみた声。口元に手を置いた。
 ぼやけていたシルエットが次第にはっきりする。
 健康的な小麦色の肌に黒い髪の毛。赤い眼の男性が眼に飛び込んできた。
「誰!?」
 相手を見てジゼルはそんな言葉を咄嗟に発しながら、後方へと軽く飛び、相手との間合いを計った。
「お嬢さんこそ、こんな物騒な場所で何をしているんだい?」
「わ、私は依頼でここに来ただけだ。あなたこそ急に飛び出してきて、びっくりさせないで」
「あぁ。すまないな。……その依頼というのは、花屋のにーちゃんのお願いなら俺も一緒さ」
「えぇ。そうよ…………花屋の……。じゃぁ、改めまして、私はジゼル・デカルト。よろしく」
「俺はオーマ・シュヴァルツ」
 間合いを取ってオーマのことを確かめようとしていたジゼル。同じ依頼で来たと言うオーマにあからさまにしていた警戒心。それを解きほぐしたのは、オーマのごつい手を二カット笑いながらジゼルにむかって差し出された手をジゼルも手を差し出した。互いに握り合い、握手を交わす。ジゼルも握手で安堵したのかオーマにはにかんだ様な笑顔を見せた。
 この出来ごとは時間にしてはきっと数分の出来事。それでも開けない視界の中では時間の経過もおかしくなっていくような感覚さえ覚えだす。
 その狂った感覚を振り払うかのように、二人は並んで歩き出した。
 目指すのは森の最奥。
 そこからどれくらい歩いただろうか。
 大分と歩いたような気がする。
 時間も大分と経過したような気がする。 
 行けども行けども、白い世界は続く。途切れるところがないと誇示するように、白いもやった世界は当たり一面。同じ視界ばかりで、迷ってるのかあってるのかさえ曖昧。
 実際は二人が出会ってからそれほどの時間も経っていないし、距離は真っ直ぐにただ歩いてきただけ。
 白の背景の中に、ぼうっと赤く灯るものが視界に飛び込んだ。
 白の背景になれた眼に赤いものは新鮮すぎて、オーマもジゼルも見落とすことはなかった。
 赤い色の後に続いたのは、剣が振り落とされる音だった。
 風を切るような、空気を切るような音だった。
 オーマとジゼルは顔を見合わせて、そのまま遠くはない音のするほうに駆け出した。
 音は近くなっているのか遠くなっているのか、白い世界の中では全てが曖昧にさせられていくような錯覚に陥る。 
 なんども本当に此方でよかったのだろうかなどという、思考が何度もよぎった。その戸惑いを振るい落とすかのようにジゼルは顔を大きく左右に振った。
 走った先、突然現れたのは、また赤い光。否、それは光ではなかった。小さな炎だった。
「こんなところで炎なんて使ったら、二次災害で森が燃えてしまうじゃねぇか」
 チッ。と、軽い舌打ちをしたオーマ。炎を操っている人なのかそれとも違うのかわからないが、オーマは独り言を漏らしながら、其方へと駆け寄った。
「こんなところで火なんてつかったら、森が焼けちまうだろうが」
「オーマ、危ないっ」 
「――――――危ないっ」
低い声でその火を操る何かへと言葉を発した。
 ジゼルの声と男性の声が重なった。男性は自分の放った炎の矢がオーマの方に飛んでいったことに気がつき、咄嗟に叫んだ。
「何が危ないだ、オマエの方が危ないじゃないか。こんなところで炎を使って、森が焼けてしまったらどうするんだ」
「焼けないように最善の注意を払っている。…………霧だけを発生させると思っていたのだが、少々厄介なようだ」
「オーマ、見て。あれ」
 男性の言葉とジゼルの言葉に誘われてあたりを見渡したオーマ。なぜかここらだけが、ぽかりと穴に開いているような感じに霧が晴れていた。
――――――――シュル、シュルしゅる。
 妙な音がした。自然と音がする方向へと視線がうつる。ジゼルの指差す方向。そこに直径2メートルは超えているであろう、大きすぎる美しいとは言えない花があった。
 花は大きな樹の根元に張り付くように咲いていた、大きすぎる中心部分は黒く、そこから濃い霧を吐き出していた。
 仮にも美しいといえる花ではなかった。
「こんなところに…………」
 ジゼルが呟くように言葉を発した。
 と、そのときだった。
―――――――シュルリっ……………!!
 何かが動く音がした。オーマとジゼルが自然と足元へと視線を落とした。
 緑色の蔦が自分達の足を取ろうと伸びてきていた。一瞬の出来事で、そのまま足が取られてしまうと想い思わずジゼルは眼をぎゅっと閉じてしまった。…………が、足はつかまれることもなにもなく、自分はそのまま立っていた。
 眼を開けると、火を操っていた男性が、伸びてきてた蔦を持っている剣で叩き切ったところが見えた。
「ぁ、ありがとう」
「どういたしまして、私はフィセル・クゥ・レイシズ。依頼でここに来ている」
「私はジゼル・デカルト。と、いうことは、あなたもお花屋さんの?」
「何、お前もか。俺はオーマ・シュヴァルツ。よろしく頼むよ」
 蔦を真っ二つで切り落とせば、フィセルと名乗った男性はジゼルとオーマの方を見て、自らを名乗った。互いが、同じ依頼で来ていることを知れば3人は顔を見合わせて小さく笑った。
「炎を使えば、危険なことをしっている。が、こうやって、何度切っても、何度切ってもきりがない状態だ。 思い切って炎で焼いてみれば多少違うかとおもったのだが………」
 切り落としたほうの蔦はもう、干からびて色が変わっているのにもかかわらず。花本体と繋がっている方は変わらず緑が深く今にも襲ってきそうに、花の近くで此方の様子を伺っていた。
 フィセルが先ほど炎を使っていた理由を説明している間にも、様子を伺っていた蔦は3人めがけて襲い掛かってくる。
 オーマは確実に自分を捉えようとする蔦から逃げながら、両手に持った大剣を重さを感じさせずに振り回し伸びて襲い掛かってくる蔦を切っていく。が、フィセルの言うとおり、切っても切っても伸びてきてはその身体を狙ってくる。
 きりがなかった。
「本当にきりがねぇ」
 オーマが憎々しげに呟いた。
「やっぱり、本体を叩くしか方法はないのかしら?」
 ジゼルがきりがなく伸びてくる蔦を短刀で切り刻みながら呟く。
「この花の本体を焼き尽くしてしまえば話は早いのだろうが………なら……。」
 フィセルもまた、きりがないこの作業に途方に暮れいてた。そこで言葉を続けたのもまたフィセルだった。
「私と、ジゼルが蔦をひきつけておく。 オーマ……アナタが花の本体をどうにかしえてはもらえないだろうか?」
 みな一緒に蔦だけを攻撃しているのでは、先にすすまないから。フィセルはこんな提案をしてみた。
 同じ作業を受け持つ、ジゼルの方を見て、いいだろうか。と、軽く目配せした。それにジゼルも眼を僅かに細めわらって返した。肯定の意味だった。
「じゃぁ、任せたぞ」
 オーマはにっと大きく笑って、大柄の身体の割には狙ってくる蔦を避けて花本体をへと走りよった。
 オーマが本体へと近寄ることに気がついた蔦はオーマへと何本も伸びてくる。そこへジゼルとフィセルが割り入った。
「相手は私がしてあげる」
「さぁ、ここから先へは通さない」
 蔦に言葉が通じるのかどうかわからないが、二人はそんな一言を呟きながら顔を見合わせて同時に蔦へと飛び掛って行った。

 人の言葉がわかるのかどうなのか、蔦は立ちはだかるふたりにめがけて伸びてきた。
 それは先ほどまでの比にあらず。勢いよく、大きくしなる。まるで蔦が鞭になったかのように。
 ジゼルとフィセルは顔を見合わせて小さく頷いた。
 それが合図になった。
 二人は同時に地面を蹴った。
 しなってこちらに向かってくる蔦は無数。
 ジゼルは手に持った短剣を今一度強く握った。
 蹴った地面、軽く宙を飛ぶ。此方に向かって地面を這って来た蔦を飛び越す。着地を狙ったかのように今度はしなった蔦がジゼルの真正面からやってくる。それにジゼルは短刀を振りかざし蔦を切り裂いた。
 ジゼルの目の前で切り刻んだ蔦は緑の雨を降らすように散っていた。
 そうしてまた迫ってくる蔦を切る。
 何度そうやって、単調な作業を続けただろうか。
 
―――――――   ………だって  ……

 聞えるはずのない、言葉が響きだす。

―――――――  みんな ………  が………私の事………綺麗じゃな  いって……言うんだもの
  
 何事か起こったのか。
 此方にせまってきてた蔦の動きが止まった。それは止まったまま動かなくなり、力をなくし地面へと落ちた。
 嘆き哀しむような声が響く。
 嫉妬をむき出しにした憎しみの声が響く。
 自然とジゼルの動きも止まった。
 
――――――――  ……………   !!!

 森の叫びとでも言うような、音が響いた。
 地鳴りのようななんともいえない怒号。
「ジゼル、オーマの様子を見に行こう」
 こちらに駆け寄ってきたフィセルの言葉にジゼルは頷き、オーマがいる場所へと急いだ。
 
――――――――ナラ、 ミンナ  が  ………見えなくなれ…… …ば、いいんダ

 声はする。
 けれども直接聞えるのではなくて、脳内に響く音。
「オーマっ」
 駆けてきた二人が一緒に見えた背中に声をかけた。

――――――― だから、見  ……え  なくしたの………よ………

 大きな花が自分の感情をぶちまけていく。
 その怒りが大きくなればなるほど、中心の空洞の部分から濃い霧を吐き出す。どんどん周りが白くなる。  
 脳内に直接声は響いたまま、花の独白は続いていく。
「大丈夫?」 
「そっちは………?」 
 ジゼルがオーマに近づいた。それに気がついたオーマが振り向きながら言葉を返してくる。その言葉に、フィセルが静かに顔を上下に動かした。こっちは大丈夫だと。
 「で、この花をどうするかだな?」
「まるで女の嫉妬のようなものだったのね」
「このまま、葬ってしまうのもいたたまれない」
 2メートルを超える花の前で並んだ3人、ぽつりフィセルが呟いた。それを切欠にしばらく3人は考え込んだ。
 その間も、花の独白は五月蝿く脳内に響いていた。
 しばらくしてから、パンと両手を打ったのはジゼルだった。
「綺麗じゃないのがイヤなら、綺麗にしてあげればいいのよ……」
「いや、でもこんな巨体を?」
「綺麗というか、そのままでも大丈夫だということを教えてあげればいいとおもうの」
 ジゼルは手を打ったまま。オーマとフィセルを見た。
「でもそれをどうやって?」
 分からせばいいのだと、フィセルは尋ねる。相手は植物だ、言葉が通じるのかどうなのかだって怪しい。
「なら、俺たちは花屋に頼まれて花を摘みに来た。その花の対象がこの花だと分かれば納得してくれるかもしれない」
 あくまでも、かなり希望的観測的な話。花がそのことを分かって、自分も必要とされていることが分かるのか、分かったとして納得して霧もはれるのか全てやってみないとわからない。
 けれどもまずはやってみないとわからないから。
 まるでコントのようなことが繰り広げられていく。
「まぁ、こんなところに綺麗な花がー」
 今までここにいたのに、まるで今その花の存在に気がついたとでも言うように、ジゼルがパンと手を打って大きな花をみながら言葉を発した、酷く棒読みだった。
「大きくて、立派だ」
 そうしてそれに続いたのが、腕組みをして花を見下ろすオーマ。顔を上下に大きく動かし、納得の表情をしてるのだが、ひどくぎこちない。
「これなら、花がなくて困ってる花屋も喜ぶだろう」 
 最後にフィセルが一歩花に近づき、花に向かって大きく手をひろげ、喜びを表現してみたがそれはなんだか下手なミュージカルをやっているようだった。
 が、フィセルの最後の言葉を聞いて、吐き出す霧の量が極端に減った。
 よし。もうひといき。
 3人が一斉に心の中で叫んだ。
「こんなに素敵な花ですもの、花屋さんも大喜びだわ」
「そうと決まれば、さぁ、摘んで行こうじゃないかーっ」
 ジゼルもフィセルに影響されたか、棒読みの台詞からなんだかミュージカルチックに節が突き出した。そうしてとどめにオーマが一歩花へと近づき、その言葉にフィセルが手に持っている剣をきらーんと空に掲げた。
 花ビラに冷や汗を見たような気がした。
 きらりと光った剣の存在に大きく広げていた花びらをしゅるしゅると閉じた。
 大きな花はつぼみの状態になった。
 と、同時に当たり一面を覆っていた白い霧が晴れた。
 行き当たりばったりの作戦は成功した。
 花は当分開きそうになかった。
 
 霧が晴れた森で、三者三様に別れて思い思いの花を摘むことにした。
 霧がはれた森では春の花が咲き乱れていた。
 ジゼルは色が溢れる森の中をゆっくりと足を進めた。
 燃え盛るような赤。 
 零れ落ちるような桃色。
 春ふさわしい色というような花を尻目に、しゃがみ込んだジゼルもまた花を積み出した。
 その表情は、先ほど迫りくる蔦と戦っていた険しい、厳しい表情はなく口元に優しい笑みを浮かべ咲き乱れる春の花を見ては眼を細めていた。
 満足するまで花を摘んだなら、森を後にして白山羊亭へと向かった。
 手には春の花を抱えて。
「おまちどうさま」
 景気の良い声を上げて、扉をくぐる。ジゼルの足取りは軽かった。
 未だカウンター席でため息ついている青年を見つければ、その背後から軽く肩を叩いた。
「もう、森は大丈夫よ。……………はい。お店の足しにはなるかしら?」
「あぁ、ジゼルさん。どうもありがとうございます」
 ジゼルの存在に気がついた青年は振り返り、頭を下げた。その口調は大丈夫だという言葉が耳に入れば、あからさまに明るく大きく下げた頭をあげるときには、にこやかな笑顔になっていた。
 そうして花束を差し出された花に視線を落とした。
「青い花と、白い花ですね」
「ごめんなさい。私、自分が好きな花ばかり摘んできてしまったのね。……昔ね、私には青か白の花が似合うって言ってくれた人がいたの。そっか、私まだ、あの人の言葉を覚えているのね……」
 清楚な白と可憐な青い花。二色しかなかったから、青年はそのままを言葉にしただけなのだが、その言葉にジゼルははっとしたようにまだ自分の手の中にある花束を今一度見ながら呟くように、言葉を漏らした。
 すこし寂しげな笑み。
 その表情と言葉とだけで、彼女の想いが汲み取れてしまうから、青年はにこやかな笑みのままジゼルに言葉をかけた。
「素敵なお話ですね。きっとこの花を買ってくれる誰かにもそんな風に誰かの心に残ると思いますよ?」
 その言葉にジゼルは顔を上げて花屋の青年を見て、小さく互いに笑った。

 想い出はそのまま色あせない。
 悲しい思い出も楽しい想い出も、大好きなあの人の言葉なら全てが愛しい。
 青と白の花を見ながらジゼルは少しの間だけ、忘れかけていた想い出を思い出し懐かしんだ。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3247/ ジゼル・デカルト/ 女性/ 23歳/ 冒険商人
1953/ オーマ・シュヴァルツ/ 男性/ 39歳/ 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り
1378/ フィセル・クゥ・レイシズ/ 男性/ 22歳/魔法剣士


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■         ライター通信          ■
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ジゼル様
こんにちは、櫻正宗です。
この度は【嘆きの花屋】にご参加下さりありがとうございました。
初めてのご参加ありがとうございます。

ジゼルさんのお名前を拝見したときに、バレエのお話のジゼルを思い出し、
悲しいジゼルの生涯、愛する人を想い守り抜く強さを表現できればと思いながら執筆させていただきました。
凛としたつよさ、それでも女性らしさがあるジゼルさんの姿を描写するのがとても楽しかったです。
口調や、仕草など上手く表現できていればいいなと少々不安もあります。
お気に召していただけたのなら、幸いです。

それでは最後に
重ね重ねになりますがご参加ありがとうございました。
またどこかで出会うようなことがあればよろしくお願いいたします。

櫻正宗 拝