<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
『しあせなしっぱい』
なんでこんな事になっているんだろう?
その事を腰に左手を置いて右手に向かって小一時間ほど問い詰めたいところだが、それではただでさえやばい事になっているのに、さらにやばい感じだ。
みょーみょーと泣いている右手、メラリーザ・クライツに視線を向けて、朝霧乱蔵は大きくため息を吐いた。
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→open
空。
蒼。晴れ。快晴。どこまでも続く広い空。
風。
爽。春のそよ風。悪戯っ子の風は私の髪を揺らして首筋をくすぐって、それがこそばゆい。本当に春の風は悪戯っ子。
だけど、それが運んできてくれる春の香りは、素敵。
お日様。
快晴の空にある大輪の花の陽光は温かくって、気持ちいい。
ほっと安心できる世界。
私は外に干したお布団の上でころん、と寝転がって、空を、お日様を眺める。
植物は素敵。
いつもお日様の光りを浴びて、光合成しているから。
私も光合成、できたらいいな。そしたら私が輩出した酸素を、あなたが吸ってくれる。
光合成によって二酸化酸素から酸素を作る植物さん。
植物さんは、魔法使いさんなんだね。
魔法は等価交換の原則による………
「みょーん」
しまった。
しまった。
しまった!!!
時計が遅れているのを忘れていた。
私は干してある布団から慌てて跳び起きて、家の中に入った。
慌てて準備。
でも女の子の身だしなみにはちゃんと時間をとる。
手早く、でもかわいらしく。
鏡に映る自分の顔を見つめながらも頭にはこれから会う乱蔵さん、朝霧乱蔵さんの事が思い浮かんでいる。
乱蔵さん。黒のコートを羽織っていて帽子を被っているあの人の顔。
帽子の下の髪は普通の短髪で、私はちゃんとその髪は硬そうだけど、良い匂いがする事を知っている。
孤独で孤高の存在だけど、でも前に乱蔵さんは言っていた。傍に誰か居る事は、本当はちょっと嬉しい、って。
だから私は、いつだって乱蔵さん、乱ちゃんの傍に居られたら嬉しいなって。
そうして一番長く乱ちゃんの隣に居て、乱ちゃんにたくさんいっぱいの幸せをプレゼントできたら、それは私も幸せで、私と乱ちゃん二人で幸せになって―――
ねぇ、乱ちゃん。
鏡に映る私に私はにこりと笑いかける。
うん。
大丈夫。
かわいい、笑顔。
これなら、誰かに傍に居てもらえる事に嬉しい、って言った乱ちゃんに、その嬉しい、っていう感情を大きくしてあげる事が出来るよね♪
私はテーブルの上のバスケットを手にとって、家を急いで飛び出した。
今日は乱ちゃんの家で魔法のレッスン。
でも、その前にご飯、作ってあげるんだ。
だから、市場で買い物、していくんだ♪
待っててね、乱ちゃん。
+++
お〜そ〜いぃ〜。
テーブルに俺は突っ伏して、メラコ、メラリーザ・クライツの事を想う。
いや、待て。
それは別に男子が好きな女の子を想う気恥ずかしい想像とか、ましてやエッチな想像とかじゃなくって、
こう、親が初めて買い物に出た子を想う様な、
祖父母が休みに遠くから遊びに来る孫を想う様な、
そういう、何だ、とにかく心配な娘を心配に想う、そういう感情。
微笑ましい感情。
だから、自分で苦笑を浮かべる。
この俺が、朝霧乱蔵が、そんな事を想うなんて、不思議だ。
開いた窓の向こうを見ると、春のそよ風が桜の花びらを宙で躍らせていた。
その花びらが、風に運ばれて、部屋の中に入ってきた。
まるで図ったように俺が突っ伏すテーブルにそれが舞い落ちて、
この花びらと、メラコ、メラリーザは一緒、と想う。
だってメラリーザは気付いたら、春のそよ風がそっと入り込んでくるように、頑なだった俺の心に入り込んで、そしてこうやって嬉しい、という感情をプレゼントしてくれるから。
俺はひとひらの淡い薄紅の花びらをそっと手に取る。
メラコ、メラリーザ・クロイツの事を想って。
揃った前髪の下のかわいらしい顔。
肩までの脇の髪にふちどられたそのかわいらしい美貌は、表情が豊か。
だけど才能はあるのに要領の悪い教え子に厳しく接すると、その顔は泣き顔に変わる。
でもそれは呆れているとか、そういう風じゃなくって、期待しているから。
腰までのロングストレートの髪。いつも帰っていくメラリーザの髪に覆われた細い背中を見ていると、そのまま………
―――顔がかぁーっと熱くなった。
きっと耳まで赤い。
俺はため息を吐いて、
そのため息にまた舞った桜の花びらを見る。
哀しげな瞳で。
「おまえはどこへ行きたい?」
―――期待なんかしていない。
期待してはいけないと想う。
わかっているけど、メラリーザの感情は………
俺もそうだけど、
でも、だからってそれを期待してはいけない、と想う俺が居る。
だから、怖くって、手を伸ばせない。
いつもすぐそこにある、温かな、光りに………
メラコ。俺は、本当は………
詠唱した呪文は桜の花びらが望む場所へと飛んでいける、呪文。
どこへまでも飛んで行け、花びらよ。
おまえがもしも望んで俺のところへ来てくれたのだとしても、
俺はおまえに何もしてやれないから。
そう。俺が誰よりも、何よりも大切なあいつに、何もしてやれないように。
だからどこかへ飛んでいった方が、幸せ。
桜の花びらよ、おまえも。
あいつも。
………。
+++
お昼はサンドイッチでいいよね♪
フランスパン2斤。
ハムに、レタス、レモン、お肉、卵、焼肉のタレ、きゅうり、トマト、アスパラ、シーチキン、うん、材料はこれぐらいでいいよね。
右手にバスケット。
左手に材料を入れた紙袋。
みょーん。視界が悪い。
何度も通った乱蔵さんの家への道。
でもうう、怖い。
前が見えないよぉ〜〜〜。
私が心の中でみょーみょー泣きながら歩いてたら、
そしたら紙袋がふわり、と浮いたの。
びっくりして前を見上げたら、
見慣れた帽子の下にある乱蔵さん、
………乱ちゃんがなんとも言いがたい、どこか怒っているような顔で私を見ていた。
眉間に皺が寄りそうな顔。でもこれが乱ちゃんの普通の顔だって、私は知っているから、だから乱ちゃんがここに居る事の方が、私には疑問。
私が小首を傾げると、
乱ちゃんはため息を吐いた。
「前に言ってただろう。今度の授業の時は、お昼ご飯は作ってくれると。だからここに居るんじゃないかって、来た」
みょー。
私は胸の前で両手を合わせて、背伸びして、乱ちゃんの顔を見上げる。
「乱蔵さん、私を迎えに来てくれたの? 心配して?? 労わって???」
嬉しい。すごく嬉しい。ものすごく嬉しい。
乱ちゃんはちょっと驚いたような顔をして、周りを見て、それから帽子で顔を隠すと、ふいっと身を翻しちゃったけど、
でも私は、乱ちゃんも実は私に負けず劣らず恥ずかしがり屋さんだって知ってるから、それが照れ隠しだ、って知ってるから、
嬉しい♪
「行くぞ、メラコ」
ぶっきらぼうな声。
私はそれにくすっと笑って、
「はーい♪」
と、胸いっぱいの幸せを込めて、そう返事をするの。
+++
耳まで赤くなっているのを見られるんじゃないかって、ちょっと心配した。
ちらり、と振り返ったら、メラコはにこにこと嬉しそうに笑っていて、俺は思わず照れ隠しで、眉間に皺が寄る寸前のような表情を浮かべてしまう。
困ったな、俺は。
勘違いさせてしまう。
だから、
「その、なんだ、心配だったから、探しに行った。おまえがみょーみょーまた泣いているんじゃないかって」
素直に。
そしたらメラコは、
咲いているタンポポに話しかけていた………。
はぁー、とため息をついて、
「摘むか、タンポポ?」
そしたらメラコは顔を横に振った。
「家族かもしれないし、兄弟姉妹かもしれないから、だから一緒にここで咲いて、そして綿毛を一緒に飛ばさせてあげたいから」
無邪気に笑うメラコの顔は、だけどとても奇麗で、優しくって、温かかった。
俺は、メラコの頭を、だから胸にぎゅって、抱きしめた。
+++
みょー!!!
乱ちゃんが、乱ちゃんが、乱ちゃんが、私を抱きしめてくれている。
あわわわわわわ。
嬉しいけど、思考回路が、パニック。
もう少し香水、かけておいた方が良かったかな?
前に乱ちゃんが、好きな香り、って言ってくれたこの香水を。
髪は、大丈夫?
サラサラ感、ちゃんと出てるかな?
乱ちゃんの指が髪を梳いてくれる。
髪の毛の一本、一本まで神経が通っているように、優しい乱ちゃんの、指使いを全身に感じる。
どうしよう?
どうしよう?
どうしよう?
このまま、
瞼を閉じて、
顔を上げたら、
乱ちゃん、
…………キス、してくれるかな?
心臓の鼓動が乱ちゃんに聴こえそう。
恥ずかしい。
でも、心臓のワルツ、聴いてくれたら、恥ずかしがり屋の私が伝えられない乱ちゃんへの想い、ちゃんとその音色から、聴き取ってくれる?
私は、勇気を出して、乱ちゃんに、私の心音、聴こえるように、胸を、乱ちゃんの身体にぴったりとくっつける。
これで、伝わる?
伝わるかなー、私の想い。
伝わって欲しい、私の想い。
私も、乱ちゃんの心臓の音を聴いているよ。
乱ちゃんの、心臓の音も、早くなったね。
一緒に奏でられる二つの心音。
その音色が音楽となって、詠うように、
ねえ、乱ちゃん。私たちも一緒に、歌を――――
でも乱ちゃんは、ふい、っと私を離して、早足で、歩いて行っちゃった。
+++
かわいいと想った。
抱きしめたいと想った。
このまま連れ去りたい、欲しいと想った。
メラコの事。
メラリーザの事を、欲しい、って。
でも、重ねられた心音が俺の心に伝わって、その音が、砂の城を壊すように、俺は、伸ばしかけていた手を引っ込めた。
まだ手はメラリーザのサラサラの細い美しい髪を覚えているし、
肌は抱きしめたメラリーザの息遣いを覚えているし、
メラリーザの豊かな胸の弾力も、柔らか味、
その奥にある心臓の音色、リズムを心が覚えている。
危ない。
まだ顔が熱い。
頭がぼぉーっとする。
心が酩酊している。
メラリーザに、溺れてしまいたいって。
わかっている。
メラリーザにこの身を預けて、
その優しさに、温度に、心を浸して、
その柔らかな豊かな胸に顔を埋めてしまえば、
もう、俺は、メラリーザに決して独りにされる事は無いって。
でもそれが、怖かったんだ。
怖いのは今までの自分を否定する事でも、
否定される事でもなく、
メラリーザの温度を知って、
だけどその温度を失って、
再び独りとなった時の事。
その時の事が、俺は怖いんだ。
独りの悲しみを知っているからこそ―――――。
顔が熱い。
心臓が早い。
胸が痛い。
メラリーザが欲しいから、大切だから、だから俺はメラリーザに、素直になれない。
+++
それはずっとそこに居た。
そこから見ていた。
そして真っ白で、いっぺんの汚れも無いから、傷ついて、一歩も進めないその心と、不器用な心を見ていた。
見ていた。
見ていたから、手助けしたい、そう想った。
助けるよ。うん。
+++
みょー。
なんだか乱蔵さんの様子がおかしい。
何かがあったのかなー?
だから、私はがんばらないと。
こんな時だからこそ。えいえい、おー。
復元の魔法。
対象は、
………前に私が割っちゃった壷。
だって乱ちゃんの家は男の人にしては奇麗だけど、でも魔法グッズや本で一杯で、割かしと見る角度によっては混沌としているのだもの。
だから、ちょっと動きづらくって。
私ったら、失敗。失敗。てへぇ。
だから復元の魔法を。
復元の魔法の詠唱を唱える。
壊れている対象を、復元するイメージをして。
割れた壷を中心に置く魔方陣が輝き出して、
出して、
出して、
ぶぅーん、と大気が震えて、
そして復元の魔法………
―――失敗。
「みょー」
一度は完全に復元した壷。でも、糊で貼り付けた壷が、糊が乾いて、ちょっとした振動でまた破片が取れちゃうように、壊れちゃう。みょぉー。
みょーみょー泣きながらちろりと見た乱蔵さんは顔を片手で覆っていた。
「メラコ。おまえ、ちゃんと魔法を理解しているか?」
ぶんぶんと首を横に振ると、
またいっそう大きく乱蔵さんは大きくため息を吐いた。
「何故エレメンタリスに魔法のなんたるかを教え込む必要がある?」
みょー。
泣いている私。
でも泣いているのは、乱蔵さんを笑わせてあげられないから。私が魔法を成功させて、乱蔵さんを笑わせてあげたいのに。
「ほら。いいか。もう一度一から十まで説明してやるから」
そうして乱蔵さんの魔法の説明が始まる。
私はしゃくりをあげながらそれを聴いて、
聴いた事をちゃんとイメージしながら、魔法の詠唱。
魔方陣が輝き出して、
そして、壊れていた壷が、
復元する。
思わず目が見開かれて、
そして私は弾かれたように乱蔵さんを見た!
「乱ちゃん!」
乱蔵さんは私を見て、そしてにこりと笑ってくれた。
「よくやったな、メラコ。成長した」
ぽん、と頭を撫でられて、髪をくしゃっとされて、
それが嬉しくって、
くすぐったくって、
なんだか私は、
嬉しくって、
「みょぉー」
と、私は叫んでしまって、
そしたら、壷の下の魔方陣が輝き出して、
私は―――
+++
「メラコー」
激しい魔法の光が収まって、俺は叫んだ。
ようやく視力が戻ってきて、
俺は部屋を見回す。
しかしそこにはメラコは居ない。
だけど、
「乱蔵さん」
という声はする。
するけど、居ない。
どういう事?
俺は前髪を掻きあげようと、右手を………
「みょー」
というメラコの悲鳴が聴こえた。
え?
俺は自分の直ぐ目の前にあるモノに驚く。そこには確かにメラコが居た。
俺の右手が、メラコだった。
本当にどうして、どうやったら、そうなるのか、小一時間ほど、メラコを問い詰めたい気分だったが、
しかし右手に居るメラコにそれをするのはどうにも………
「みょぉー」
思わずいつもの癖で右手で顔を覆うとして、メラコの真っ赤な顔が直ぐそこにあった事に俺は慌てて、右手を目いっぱい顔から離す。
本当にどうして俺は自分の右手にこんなにも気を遣わねばならないのだろう?
みょーみょーと泣くメラコと、なんだかとても疲れた俺。
二人であーでもない、こーでもないと元に戻る方法を探すが、でもそれは見つからなかった。
俺の方も、泣きたい。
………。
+++
みょぉー。
私が乱ちゃんの右手で、
乱ちゃんの右手が私。
私が、乱ちゃん。
乱ちゃん、右手………
みょー。
みょー。
みょー。
何でこうなちゃったんだろう?
私が乱ちゃんの右手に、右手になるなんて…………
―――いいかもしれない。
だってこれならもう、できちゃった結婚って、既成事実を作って、一緒に居る事を周りに納得させて、ずっと二人一緒に居られるように、
ように!!!
一緒に………
「なに急にひとりで元気になっているんだ、メラコ?」
「みょー。ううん、何でもないです、乱蔵さん」
「怪しいな」目を半目にする乱蔵さん。
「とんでもないです」顔をぶんぶんと左右に振る私。
だけど、顔がにやける。
えーっと、乱蔵さんはまだ気付いていない?
言ったら、気付いて、嬉しがってくれるかな?
ドキドキが止まらない。
うーん。うーん。うーん。えーい、言っちゃえ。
「あの、あの、あのね、乱ちゃん。でも私たち、これでずっと一緒だね。ずっと」
だって、私は乱ちゃんの右手で、
乱ちゃんの右手は私だから。
「あー、そうだな。お風呂の時も、メラコが着替える時も、寝る時も」
「みょー」それを失念していました。切腹。
お風呂の時も一緒だったら裸を見られちゃう!
着替える時のシーンなんて恥ずかしくって、私、死んじゃうよ!
寝顔だなんて、もう、みょぉー!!!
ぽかぽかと両手で作ったぐぅーで乱ちゃんを叩こうとして、
でも乱ちゃんは意地悪な顔で私を自分から遠ざける。
私だけ、言われたまま。ぶぅー。
だから私だって、ささやかに、
「わ、私だって、乱蔵さんの入浴シーンや、お着替えシーン、あーんな事やこーんな事だって右手だから、見れるんですからね」
「それはそれは」
あ! 余裕発言!!!
でも、きっと、恥ずかしくって乱蔵さんの裸なんて見れないけど。
みょぉー。
「だけど、これから大変だな。左手しか使えない」
「あ…」
私ははっとする。
私は、自分が乱蔵さんの右手になって、これからずっと一緒に居る事を喜んでいたけど、でも、乱蔵さんは、もう私が乱蔵さんの右手だから………
「乱ちゃん………」
私は乱蔵さんを見上げる。
乱蔵さんはだけど、とても優しい顔をしてくれる。
「心配するな。ちゃんとメラコが着替えたり、風呂に入ったりする時は目隠ししてやるから」
乱ちゃん………。
「それに、それだけ小っちゃいと、どこに何がついているかわからないし。前のメラコだったら、メラコの入浴シーンや着替えシーンは嬉しかったけどな」
「みょぉー」小声。
乱ちゃんの気遣いが嬉しくって、痛い。
だから…
「私も」
「ん?」
「私も乱ちゃんの右手の変わりになれるように頑張るよ。ご飯は私がお母さんが子どもに食べさせるように優しく食べさせてあげるし、乱ちゃんが熱を出したらちゃんと私が乱ちゃんの右手でも甲斐甲斐しく心を込めて新婚のお嫁さんのように看病してあげる。何だってやってあげるよ、私。乱ちゃん。私はずっとずっとずっと乱ちゃんと一緒!!!」
私はいつの間にか泣いていた。
そしたら乱ちゃんは、
「嬉しいよ、メラリーザ」
って、言ってくれたの。
「乱ちゃん」
「これからはずっと一緒だな。メラコは俺の右手だから、俺の身体の一部だから、だから心配するな。ちゃんと俺が責任を取ってやるから」
「責任?」
ほぉえ?
あっ。私は慌てる。
「違うよ。責任なんて乱ちゃんには無いよ。失敗したのは私だから、責任があるのは私だよ」
私がそう訴えると、乱ちゃんはにこりと笑う。
「違う。その責任じゃない、責任。男の責任。………まあ、いいや。とにかくこれからはずっと一緒だ、メラリーザ」
って、乱ちゃんは、私の額にキスをしてくれた。
私は、だから、みょー、って泣いちゃう。
それから、訊くの。
上目遣いで乱ちゃんを見て。
「おでこだけ?」
そしたら乱ちゃんは苦笑した。
「そのサイズじゃ、キスは無理だろう。俺からじゃ」
だから私は、身体を前に乗り出させる。私の意識で自由になるだけ。
そしたら乱ちゃんはちゃんと右手を自分の顔の方へと持って行ってくれて、私は、
「うん。乱ちゃん、これからはずっと一緒。私も乱ちゃんをちゃんと守るからね」
って、言って、乱ちゃんの唇に、私の唇を当てた。
瞬間、
ふわり、と私の唇に、乱ちゃんの唇の感触が伝わる。
とても柔らかくって、気持ちいい、乱ちゃんの唇。
瞼を開けると、すぐそこに乱ちゃんの顔があって、
そのまま私たちが座っている椅子が、後ろに倒れて、
ふわりと、宙に浮いた私の身体を、乱ちゃんがぎゅっと抱きしめてくれる。
私の髪が乱ちゃんの顔にかかる。
すぐそこにある乱ちゃんの顔の、黒い瞳には、元に戻った私の顔が映っていて、
乱ちゃんは私の髪を左手で梳いて、顔がくすぐったい、って笑って、
それから、
「でも右手は気持ちいい」
って、意地悪く笑って、椅子が倒れたどさくさに紛れてしっかりと私の胸をぎゅって、乱ちゃんの右手が触っているのに私は初めて気付いて、
「みょぉー」
って、離れるの。
それから両腕で胸を隠しながら、顔にかかる髪の隙間から、乱蔵さんを、めぇ! って見てやると、
乱蔵さんはくすくすと笑って、
私は頬を膨らませるの。
でも、乱ちゃんは、笑っていて、本当に優しく笑っていて、
両手で私の顔にかかる髪を掻きあげてくれて、
「うん。メラコはそっちの方がやっぱりいい」
そう言って、おでこにまた、ちゅぅ、って。
だから私はにこり、と笑う乱蔵さんの唇に自分の唇を重ね合わせた。
長く、長く、長く。めいっぱい長く。
二人の息が続く限り。
ねえ、乱ちゃん。私たち、一歩だけど、進んだよね。
進んだよね、乱ちゃん、私たち。
それから唇を離して、くすくすと笑いあう。
せっかく直した壷は、さっきのでまた割れていて、私は、えぃ、ってまた復元の魔法をかけたら、
そしたらだけど、今度は直らなくって、
「メ〜ラ〜コ〜」
って、乱ちゃんは呆れたように私の名前を呼んで、
私はみょぉー、ってまた泣いて、
そんな私たちの目の前をひらひらと淡い薄紅の桜の花びらがひとひら舞って、私はお昼は、近所の桜の木の下で食べる事を提案しようと想って、
それで二人同時にそれを提案して、私たちはまた笑った。
幸せな笑い声が奏でられる中で、私はしあわせなしっぱいに感謝した。
桜の花びらが、嬉しそうに笑っている。
【fin】
++ライターより++
こんにちは、メラリーザ・クライツさま。
こんにちは、朝霧乱蔵さま。
はじめまして。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
今回はご依頼ありがとうございました。^^
いかがでしたでしょうか?
ご要望にお答えする事が出来たしょうか?
発注表にあったみょー、という言葉がとても気に入って、このような感じになりました。^^
発注表からお二人の関係とか、メラリーザさんのかわいらしい雰囲気、乱蔵さんがどれだけメラリーザさんの事を大切に思っているのかが感じ取れて、
何よりもお二人ともすごくかわいらしくって、
大好きな感じだったので、
本当にさくさくと物語を紡ぐ事ができました。^^
本当に凄く楽しかったです。^^
PL様方にお気に召していただけていましたら本当に幸いです。^^
ご発注ありがとうございました。^^
お二人の幸せを祈っておりますね。^^
それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
ご依頼、ありがとうございました。
失礼します。
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