<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


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「金がねえ!」
 エルザードに滞在し始めてから数日。大分生活にも慣れてきた頃、イクスティナ・エジェンは不機嫌そうに顔を歪めながらそう言い放った。
「ふぁへははいっへ?」
 その横で口に何かを含みながら何事か喋ったのは、彼女に何故か付き纏っている妖精・ルュ・ルフェ・メグ・メール。
 イクスの頬がひくっと引き攣る。次の瞬間、彼女はルルフェの体を両手で挟みこみ、力の限り締め上げていた。
「いた・・・いたたたたたたっ!痛いって、イクス〜っ」
「お・ま・え・なーーーっ!また勝手に買い食いしやがって!金がねえって言ってるだろがっ。吐けーーーーっ」
「む・・・無茶だよぉ〜」
「・・・」
 こんなことをしても意味がない。
 実際、路銀は底をつきかけているのだから。
「仕方ねえ・・・白山羊亭にでも行ってみるか・・・」

 まだ日も暮れていないというのに、白山羊亭はかなりの人でごった返していた。これなら金になる話の一つや二つや三つか四つぐらい転がっていると思ったのだが・・・
「依頼なし〜、アルバイトの募集なし〜、お金になりそうな冒険のネタもなし〜。・・・全滅しちゃったねぇ〜」
 歌うように言うルルフェに、イクスはがくっと肩を落とす。
「ちくしょー。どうしろっていうんだよ・・・」
「まあ、きっと何とかなるよぉ」
 あくまでマイペースなルルフェ。イクスはそんな彼を睨みつけた。
「元はといえばなあ・・・てめえが無駄に買い食いばっかしてるからこんなことになるんじゃねーか!」
「うえ!?ボクのせいなの〜?イクスだって一緒になって食べてたじゃんかあ。責任転嫁だよ、責任転嫁あ!」
「あ・・・あれは、お前がすぐ隣でいい匂いさせてるからで・・・っ」
「だいたいさあ、最近全然お金稼ぐことしてなかったんだからさ、ボクが買い食いしなくたってそのうち絶対こうなってたって思うよ〜?」
「ぐ・・・っ!この・・・っ」
「うわわわわっ!暴力はんたーいっ」
 イクスがルルフェの羽を抓もうとした瞬間―――
「あの〜」
 第三者の声がした。
 顔を声の方に向けると、白山羊亭のウェイトレス・ルディアが立っている。
「あの・・・もしよろしければ、暫く白山羊亭で働いてみませんか?」
「え?」
 顔を見合わせるイクスとルルフェ。
「・・・それは・・・雇ってくれるってことか?」
「ええ。その・・・マスターと相談してみないと分からないんですけど。給料もそれほど出せないと思いますし。でもその代わり食事代くらいは浮かせられるかもしれませんよ」
「・・・」
「どうするの?」
 考えこむイクスの顔をルルフェが覗きこんでくる。
「・・・仕方ねえ・・・。贅沢なんて言ってる場合じゃないし・・・。ルディア、マスターに話つけてもらえるか?」
「わかりましたっ」
 ルディアは笑顔で応え、厨房の方へぱたぱたと走っていった。
「へへへ」
「・・・何だよ、お前。気持ち悪い笑い方して」
「だってさあ、イクスがウェイトレスだよ〜?」
「ウェイトレスがどうしたって・・・」
 そこまで言ってイクスはとある事実に気付いてしまった。ルルフェはそれでにやにやしているのだ。
「楽しみだな〜っと♪」
「い・・・いや、俺、やっぱりやめ・・・・・・っ」
「イクスさんっ。マスターからOKでましたよっ」
「うげっ」
 タイミング悪く、ルディアが戻ってくる。
「その格好じゃさすがにまずいので、さっそく着替えましょうか!」
「き・・・着替えるというと・・・?」
 恐る恐る尋ねるイクスに、ルディアは笑顔のまま自分が身に纏っている制服をつまんでみせる。
 ――うああああああ。やっぱり・・・!
「さあ、行きましょう行きましょう」
「い・・・嫌だああああああっ」
「行ってらっしゃ〜いっ」
 半分涙目のイクスをルルフェの能天気な声が追いかけた。

 ――柄じゃねえ・・・どう考えても俺の柄じゃねーだろっ
 ルディアと同じ衣装に身を包んだイクスは、恥ずかしさで逃げ出したい気持ちになっていた。
 スカートなんてはいたのは何年ぶりだ?むしろ初めてかもしれない。
「うわあ〜。イクス、可愛い〜」
「殺すぞ」
「褒めてるんだよぉ」
「良くお似合いだと思いますけど」
「どこがっ!」
 喚くイクス。ルディアはルルフェに「お似合いですよね?」と問いかける。それにルルフェが「ねー?」と応えた。
「お・ま・え・ら・な・・・」
「あ。わかった!イクス照れてるんだあ〜?」
「あら。そうなんですか?」
「ルルフェ、てめえ!余計なことを!」
 図星をさされ、イクスはルルフェの額にでこぴんを食らわす。
「痛っ!酷いよぉ」
「さて、ではさっそくお仕事に移りましょうか」
「お・・・おう・・・」
 げんなりとしたまま、イクスはルディアの後に続いた。


「おう!よく来たな!」
「そうじゃなくて、いらっしゃいませですよ、イクスさん」
「う・・・ま・・・まあ、ゆっくりしてけ!」
「ゆっくりしていってくださいね。ですよ、イクスさん」


「持ってきてやったぞ。ほら、食え!」
「何で喧嘩腰なんですか。お待たせ致しました、でしょう?」
「お・・・お待たせいたし・・・ま・・・した・・・」


「て・・・てめえ!一体、どこ触ってやが―――」
「イクスさん、我慢です我慢。セクハラを軽く流すのも仕事のうちですよ」
「う・・・うぅ・・・」


「また来いよ!」
「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・し・た。でしょ?イクスさん」
「あ・・・ありがとうございました・・・」


「っだああああああっ」
 閉店後。
 イクスは机の上に突っ伏していた。
「イクス。お疲れ〜」
「無理だ・・・俺には全身全霊全てを賭けて向いてない・・・」
「そんなことないと思うけどなあ」
「お前、俺のことずっと見てただろ?よくもまあそんなことが言えるな・・・」
「うーん・・・。じゃあ、一つ訊くけどぉ」
「何だよ?」
 顔を上げて、ルルフェの方を見る。
「今日一日ウェイトレスをやってみて、イクスはどう思った?」
「どう思った・・・って・・・」
「楽しかったかつまんなかったかで言うとどっち?」
「それは・・・」
 今日一日のことを思い返す。ルディアに注意されてばかりではあったが、色々な客と色々な会話をした。
 ここに集まってくる人間は陽気な者が多く、仕事の覚束無いイクスのこともすぐに受け入れてくれるのだ。
「どちらかというと・・・楽しかった・・・かもしれない・・・」
「だったらイクスにはこの仕事、向いてるってことだよ〜」
「そうなのか?」
「まずは楽しく思えることが大事。で、お客さんに好かれればもっと最高・・・かなあ?」
「それなら問題ないと思いますよ」
 店の中の掃除をしていたルディアが口を挟んでくる。
「お客さん達が言ってました。イクスさんは元気でいいって。元気な子が店にいると、自分達まで明るくなれるって」
「え・・・」
 目を瞬かせるイクス。
 まさかそんなことを言われていたとは・・・
 顔が熱くなるのを感じて、慌てて俯く。
「あ。イクス、また照れてる〜?」
「照れてねえ!」
「イクスってずっと一人で旅してたじゃない?まあ、途中からはボクと一緒だったわけだけど〜。だからさ、こうやって人と関わることをもっと知った方がいいと思うんだよねえ〜」
「・・・」
 ルルフェの顔を見上げる。彼は嬉しそうに笑っていた。
「・・・お前、生意気。何だよ、年上ぶって」
「だって年上だもん」
「ぐ・・・」
 そういえばそうだった。
「あーもうっ。わーったよ。もう少しだけ・・・続けてみる」
「そう来なくっちゃ!」
 ルルフェが歓声をあげ、ルディアがクスクスと笑った。
「では、これからもよろしくお願いしますね。イクスさん」
「まあ・・・その、お手柔らかに」


 白山羊亭からの帰り道。
 ルルフェがふと呟いた。
「だけどさあ、イクス」
「何だよ」
「どんなに沢山の人と関わっても、イクスの一番はボクがいいなあ〜。なーんて」
「な・・・っ」
 突然の発言に、イクスは言葉を詰まらせる。
「何言ってんだ!馬鹿か、お前っ」
「えー。本気で言ったのにぃ〜」
「・・・」
 イクスは無言で歩調を速めた。
「あっ。ちょっと待ってよぉ〜」
「・・・」
「ねえ、イクスってば〜」
「・・・・・・んなの、決まってんだろ、馬鹿」
 小さな声で呟く。
 そう。
 どこで誰と出会おうと、一番信頼できるのは、いつだって彼だけだ。


「え?何ー?聞こえなかったあ〜」
「二度と言うかっ!!」


 多分、ずっと
 これからも


fin


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こんにちは、ライターのひろちです。
この度は発注ありがとうございました!
納品が大幅に遅れてしまい本当に申し訳ありませんでした!

この二人をまた書かせて頂けるとは・・・!
かなりお気に入りだったので、本当に嬉しかったです。
今回はかなりコメディ路線で書かせて頂いたわけですが、いかがでしたでしょうか?
お楽しみ頂けたなら幸いです。

また機会がありましたらその時はよろしくお願いしますね。
ではでは、ありがとうございました!