<PCゲームノベル・櫻ノ夢>
【魔道空母に桜の花を】
●プロローグ
‥‥帝國。皇帝‥‥の治める専制君主の国。その国では、既存の産業と融合し、蒸気巨兵と言う巨大人型兵器を、多数所有している。だが、周囲にはまだ『蛮族』と呼ばれる自給自足の生活を送っており、彼らが『狩場』と呼ぶ自然豊かな場所も多く、モンスターの脅威にさらされているのもまた、事実だった。
その帝國が誇る兵器の一つ。それが、蒸気魔法を駆使した空母‥‥魔道空母スチームパラダイス号である。艦載機は言うに及ばず、蒸気巨兵と呼ばれる人型兵器も多数搭載しており、さながら海上要塞と言ったものだ。
今回は、その蒸気空母が、物語の舞台である‥‥。
シナリオは、魔道空母ではなく、帝國に存在する蒸気盗賊『ムーンナイト』のアジトから始まる。蒸気巨兵『ルシファー』を所有する彼らは、もはや単なる犯罪者集団ではなく、1個の国家として機能していたのだが‥‥。
「魔道空母に忍びこむぅ? 薫はん、本気かいな」
「ああ。今度、皇帝陛下が艦上視察に来るからな。一緒にあの男もいるだろう。鼻を明かしてやるのは、持ってこいの舞台だ」
金髪碧眼の美貌の首領。名前は薫。見た目は20代そこそこと言った風情だが、その通りの年齢ではあるまい。彼が口にしたのは、スチームパラダイスで行われる威信行為を、台無しにする事だった。
「せやけど、大丈夫かいな。いっくらちまっこつぅたかて、警備は最上級やで〜」
それを相手にする女性は、人の姿をしていたが、背中に黒い一対のコウモリ翼。いわゆる異種族と言う奴だろう。
「ヴェリオール。何か取ってくるわけじゃない。むしろ、置いてくるほうさ」
そう言って、薫が見せたのは、ピンポン玉二つくらいの大きな種だった。
「巨大櫻の種だ。こいつを動力源の宝玉に叩き込めば、一瞬で大きくなる。中の人々を傷つけずに船を無効化出来る、素敵な花さ」
どうやら薫は、スチームパラダイスに潜入し、これを植え付け、空母の上に、巨大な桜の花を咲かせてしまおうと言う魂胆らしい。金属と魔法石を養分とする特殊な櫻だが、大きさ的には、動力部分が台無しになるレベルで、沈みはしないらしい。
「ま、おまいさんが大丈夫つーなら、大丈夫やろ。気ぃ付けてな」
念のため、ルシファーは何時でも出せるようにしとく。と、そう付け足す彼女。こうして、魔道空母に巨大櫻をプレゼントするべく、数匹の麗しきネズミが、潜入する事になるのだった。
●帝國上港
ここ蒸気帝國には、2種類の港が存在する。一つは、飛空戦艦など、空中を往来する船用の港、そして、もう一つは、ごく普通の船が行き来する港である。
空中用は『上港』、海上用は『下港』と呼ばれ、主に上港は政府関係者が。下港は一般市民や商人が使用していた。
物語は、帝國上港より始まる。煌びやかな装飾を施された飛空戦艦が、中でも一番奥まった部分に、停泊していた。掲げられた旗は、王家の紋章。皇帝が移動の際に使用する専用艦である。
「陛下、またお部屋を抜け出しておられたとか。宰相殿が嘆いておいででしたよ」
主とも言える皇帝は、まだ10歳。部屋で、多くの女官達に、着替えを手伝ってもらっている。そんな中、親衛隊長のアイビスは、茶飲み仲間である宰相から聞き出したらしく、そう言っていた。
「案ずるでない。艦からは出ておらぬ。ちょっと、そちの配下に会うてきただけじゃ」
にっこりと笑って、そう答える幼帝。親衛隊の中でも、比較的年齢が高いアイビスは、時折幼帝の教育係代役を務める事もある。幼帝だろうが何だろうが、言いたい事ははっきり言う彼の影響を受けて、最近はだいぶ口が立つようになったようだ。
「ほほぅ。冒険譚を聞きに出かけられたのですか?」
「うむ。話を聞く事は良い事じゃと、アイビスは教えてくれたではないか。余は、そのお話を聞きに行っていただけじゃ」
面白かったぞー。と、嬉しそうにその内容を話す幼帝。何でも、親衛隊の中に、傭兵上がりの異種族を見つけ、その冒険を聞いていたそうだ。
「ロミナの事ですね。ですが、彼女には余り近付かぬ方が賢明かと」
「そうなのか?」
アイビスが警告すると、幼帝は首をかしげた。まぁ、幼い彼には、よく分かっていないのだろうが、ロミナには年頃の青年より、自分の半分位の年頃の少年が好きだと言う性癖がある。今の所、異種族ながら親衛隊に抜擢された為、その愛は忠誠に変換されているので安全だが、念には念をと言う事だ。もっとも、まだ思春期前の幼帝に、その事を話すわけには行かないのだが。
「陛下には、まだ大人の世界を覗くには、まだ早すぎます。せめて、後5年は勉強なり公務なりに勤しんでいただきませんと」
それでも、誤魔化すような事は言いたくない。幼帝の教育にもよくない‥‥と考えた事から、はっきりとそう口にするアイビス。
「ふむぅ。残念じゃのう」
肩を落とす幼帝の姿に、今度ロミナから冒険譚を聞く時は、自分も立ち会おうと、心に誓う彼。と、その時だった。
「第13番蒸気巨兵小隊隊長、神崎こずえ、入ります」
若い女性の声がして、軍服をきりっと着こなした神崎こずえが、入室してくる。とたん、それまで浮かべていた、皇帝に対する親心めいた感情は姿を消し、隊長としての顔になる。
「どうしました? まだ空母につくには、早い時間ですが」
「情報部から、蒸気海賊どもが、スチームパラダイスを狙っていると言う報告が入りました。それで、アイビス殿からも、指示を仰げとの通達がありまして」
彼女はそう言って、ムーンナイトが空母を狙っているらしき情報を得たと告げる。
「例の連中ですね‥‥。竜平さんからですか」
「ど、どうしてそれをっ」
アイビスがその事を指摘すると、ぽっと頬を染めるこずえ。
「貴女と竜平さんが、親密なお付き合いをしているのは知ってますから」
「プライベートな話ですっ」
情報部将校である明智竜平と、彼女‥‥蒸気巨兵パイロットであるこずえが、時々逢瀬を重ねているのは、アイビスの耳にも届いている。まぁ、二人の事なので、仕事とは分けているだろうと安心してはいるのだが。
「まぁ良いでしょう。スチームパラダイスが早々落ちるとは思えませんが‥‥。目的が分かりませんね‥‥」
「竜平‥‥じゃなかった。情報部の話では、危害を与える事が目的ではないと‥‥」
その情報部の恋人の話では、ムーンナイトの目的は、皇帝ではないと言う。
「ふむ‥‥。分かりました。続きは空母で打ち合わせしましょう。竜平さんも呼んでおいてください」
「はっ!」
それでも、この場にはその皇帝がいる。彼に余計な不安を与えない為にも、アイビスは対処を空母内で行う事にするのだった。
●囮は派手に
「なんだ!? 今のは!」
どぉんっと衝撃波が、格納庫にまで響いてくる。顔色を変えるロミナに、アイビスがこう言った。
「やはり来たな。少し座標がずれているが‥‥。まぁ構うまい」
起動装置かけっぱなしのそこから、爆発らしき音の発生源を、頭の中の外略図と照らし合わせ、そう答える彼。それによれば、今起こったのは、動力部分ではなく、どこかの居住区だ。
「陛下は!?」
「部屋でお休み中のはずだが‥‥」
ロミナの問いに、そう答える彼。巨兵達をすぐに動かせる状況にする都合上、ロイヤルルームを離れざるを得なかったが、今頃幼帝は、万が一の脱出ポットにもなっているその部屋で、ゆっくりとお昼寝中の筈だと。
「見てくる!」
すっ飛んで行く彼女。ところが、その途中である。
「うひゃぁぁぁっ」
「落ち着いて未亜ちゃん。結界の中なら、安全だからっ」
ばしばしと降り注ぐ破片に、下着姿のまま、シヴァにしがみつく未亜。ぴしぴしとひびが入るドーム上の中で、ヴェリはため息をつきながら、シラトにこう言った。
「ったく。薫はんも無茶やらかすお人やなぁ。しゃあない。ちょーっと巨兵拝借して、応戦するで」
「じ、自信ないですよぉ」
戦闘用巨兵なんてぇ! と、不満を口にするシラトに、ヴェリはぴしゃりとこう言った。
「2人を危険に晒すわけいかんやろ。いつもと同じにやりゃあえーんや!」
「うう。僕は戦闘向きじゃないのにー」
元々、彼は前線担当ではなく、後方支援担当だ。だが、一通りの訓練は受けている。その為、ぶつぶつとこぼしながら、格納庫へと向かったのだが。
「待て! ここから先は近付かせないですよ!」
「誰がロイヤルガードに手ぇ出すかいな。あー、でもスペックは魅力やな」
立ちふさがるロミナ。やっぱり出てきたな‥‥と言った表情をしながら、そう答えるヴェリ。
「ふん。同じ異種族でも、偉い違いだな。あんたの相手はあたしだよ!」
「問答無用かいな!」
ぶぅんっと得意の斧を振り回す彼女。自慢の筋肉が盛り上がり、胸がたゆんと揺れた。だが、彼女がその斧を振り下ろした瞬間、ヴェリは跳ね上がるようにそれを避け、ピンポン玉くらいの丸い玉を身代わりにする。叩き割られたそれからは、派手な煙とピンクの花びらが舞い上がった。
「煙玉か‥‥!」
その中で、ヴェリは素早くハッチを開き、巻き込まれた未亜ともども、中へ踊りこむ。ちらりと見れば、シヴァもシラトと共に、蒸気巨兵に乗り込んでいた。
●愛し君を運んで
その頃、ロイヤルルームに駆け込んだロミナは。
「陛下! ご無事ですか?」
ばしゅっとエアロックを外して、幼帝の無事を確かめる。アイビスの言う通り、昼寝中だったらしい彼は、おめめをこしこししながら、寝ぼけ眼で首をかしげた。
「ほみゅ‥‥? 何の騒ぎじゃ‥‥?」
(か、かわういっっ!)
その愛らしい姿に、一瞬理性のぐらつきかけるロミナだったが、今はそんな事をしている場合じゃないと思いなおし、パジャマ姿の幼帝を抱え上げる。
「賊が陛下を狙っております。急ぎ、避難を!」
ここにいれば、またいつ盗賊達とはちあわすかわからない‥‥と、彼を連れ出そうとするロミナ。
「他の者はどうしたのじゃ〜‥‥?」
「脱出路を確保しております。ご案内いたしますよ」
アイビスの所まで連れて行けば、安全に外へと逃げる事が出来るだろう。そう思い、自身の背へと乗せるロミナ。
「戦って、おるのか?」
「はい」
幼帝の問いに、こくんと頷くと、彼は背中から飛び降り、部屋に置いてあった短剣‥‥それでも、幼帝には充分すぎる大きさだ‥‥を持ち出してくる。
「なら、余も剣を取るのじゃ。国民をおいて、1人だけ逃げる事は出来ぬ」
その為に、剣術も習っておるのじゃ。と、男の子らしい姿を覗かせる幼帝。
「頼もしい台詞ですが、今はご自分の安全をお考え下さい。陛下は、陛下だけなのですから」
「うみゅう‥‥」
しかし、ロミナはそんな彼を再び背に乗せると、脱出路を目指すのだった。
●弾丸よりも花を
「思った通り、ブリッジの電源が生きてるな」
薫が、コンソールを確かめながらそう言った。淡く発光するそれは、いくつかの宝玉を組み合わせた、この空母の頭脳にあたる。
「今の内に、これに着替えな」
「お、ラッキーじゃん」
装備を物色していたロディが、穂積に制服を投げて渡している。その最中、手早く電源用の宝玉を引っ張り出した薫は、ポケットから種を取り出し、その蓋を開けた。
「「「3.2.1‥‥GO!」」」
ころんっと宝玉の上に落とすと、種は即座に発芽し、瞬く間に根を伸ばして行く。それを確かめた薫は、すぐさま撤収を宣言。
「陛下、こちらです!」
一方ロミナは、ようやく脱出口へとたどり着いていた。アイビスを始め、親衛隊の主な面々が、皇帝を逃がそうと、準備を整えて待っている。と、そこへ、一際大きな衝撃が襲った。
「アイビス様! ブリッジから桜の木が!」
「艦砲制御用の宝玉を使われたか‥‥」
見上げれば、丁度制御塔の壁を這うように、木の枝が絡みつき、申し訳程度についている艦砲に絡みついていた。
「大丈夫ですか? 陛下」
「むぎゅう。苦しいのじゃ〜」
幼帝を守ろうと、とっさに覆いかぶさったものの、幼帝は彼女の豊かな胸に押しつぶされかけている。
「ああっ。すみませんっ」
慌てて力を抜き、飛びのくロミナ。と、視界が開けたところで、皇帝は艦砲からにょきにょきと生えた桜を見て、目を輝かせる。
「おや? 大砲から花が咲いておる。今日はこう言う趣向だったのか?」
「いえ、あれはムーンナイト達の仕業です」
アイビスが、はっきりとそう告げると、彼は手を叩いて大喜び。
「なんと風雅な盗賊達じゃ。艦上で花見と言うのも、美しいのう。よきに計らえ」
「かしこまりました」
頭を垂れる彼。そのアイビスの表情も、咲き乱れる花を見て、少し優しい表情となっている。
「まぁ、上の装備品だけで済んで、良かったと言う所か‥‥」
みれば、丁度空母の周囲を取り囲むように、花は咲いていた。まるで、船体に大きな花飾りをかけたかのように。
「仕事が無くなるわけじゃないしねぇ」
「ちょっと間抜けな姿ですけどね」
肝心の動力部は、竜平とこずえのおかげで、無事である。まぁ、空母の艦載砲台なんて、艦載機や艦載巨兵に比べれば、微々たる物だ。損害は軽微と言った所だろう。宰相は頭を抱えるかも知れないが。
「よぉし。せっかく綺麗なんだし、皆で花見だー!」
「おーーー!」
無事に脱出したムーンナイト達も、シヴァの煽りで盛り上がる一般市民に紛れて、こっそりと撤収するのだった。
結論:双方痛み分け?
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【4134/明智・竜平/16歳/男性/帝國情報部将校】
【5154/イスターシヴァ・アルティス/20歳/男性/民間人】
【3206/神崎・こずえ/16歳/女性/帝国蒸気巨兵小隊隊長】
【0347/キウィ・シラト/24歳/男性/ムーンナイト構成員】
【1055/早春の雛菊 未亜/12歳/女性/民間人】
【0289/トキノ・アイビス30歳前後/男性/皇帝直属親衛隊隊長】
【4188/葉室・穂積/17歳/男性/ムーンナイト構成員】
【0204/ユーリ・ヴェルトライゼン/19歳/男性/帝國近衛師団特務部員】
【0584/ロディ・カーロン/36歳/男性/ムーンナイト構成員】
【0781/ロミナ/22歳/女性/皇帝直属親衛隊隊員】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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各PC及び仮想人格の職業は、蒸気帝国内での位置付けとなっております。ご了承下さい。
そんなわけで、動力炉は守られて、お花も立派に咲きました。まぁ、若干修理は大変かもですが、丸ごと一隻オシャカにされるよりはかなーりマシなので、この辺りで勘弁してやってください。
●ロミナ
えーと。イベントものではあるのですが、ちょっと他の人の事もあるので、皇帝陛下の気持ちまで指定するのは避けてください。ただ、一方的に愛を注ぎ込むのは可能ですので、『親衛隊に抜擢された事に恩義を感じて、他の人以上の忠誠心を捧げている』と言う感じになりました。なお、10歳にしては幼すぎなのは、深くツッコまないで下さい。
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