<PCクエストノベル(2人)>
女神の洞窟探険 〜アクアーネ村〜
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【冒険者一覧】
【1070 / 虎王丸 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術師】
NPC
【村人】
【???】
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ことの発端は、虎王丸が凪に突然話を持ちかけたことだった。
虎王丸:「アクアーネ村だっけか? そこに行こうぜ!」
凪:「アクアーネ村……?」
蒼柳凪は心底いぶかしんで虎王丸を見つめた。
アクアーネ村と言えば『水の都』たる観光地。
――虎王丸が薦めてくるには、あまりにも似つかわしくなかった。
虎王丸:「きれーな水の村だってゆーじゃねーか? たまにはいんだろ、そういうとこも」
凪:「………」
いぶかしんでは見たものの――
アクアーネ村に行ってみたいのは、凪も同じだった。
凪:「分かったよ」
最終的には凪も、明るい笑顔で承諾したのである。
**********
アクアーネ村の名物はゴンドラ――
村中に張り巡らされた運河を、ゆっくりと漕いでいく。
凪:「いい眺めだな……」
凪は周囲の和やかな風景を見つめていい気分で言った。
虎王丸は――
周囲の景色など見ていなかった。ただ目を閉じて上機嫌そうにふんふんと鼻歌を歌っている。
凪:「おい、お前も観光しろよ」
虎王丸:「景色なんか興味ねえよ」
凪:「というか、漕ぐの手伝えよ」
虎王丸:「ざけんな。面倒くさい」
凪は呆れた。虎王丸らしいと言えば虎王丸らしいのだが。
それなのになぜ上機嫌なのだろう――?
不思議に思ったが、虎王丸がゴンドラから降りるとは言い出さなかったので、そのまま凪はひとりで景色を楽しんだ。
ゴンドラからは、直接店屋にも声をかけられるようになっている。
凪:「虎王丸、何か食べるか?」
いい匂いがしてきたのでそう持ちかけると、虎王丸が始めて目を開けた。
虎王丸:「とーぜんだっ」
凪は苦笑して、ゴンドラをいい匂いをさせている店屋の前でとめると、二人前の食事を頼んだ。
虎王丸はものすごい勢いでかっこんで、「おかわり!」と言った。
店の人間は驚いた顔になり、それから嬉しそうな表情をして、「はいはい」とおかわりを出してくれた。
凪はひそかに、お金の心配をしていた。
途中、海産物のサラダを売っているところでゴンドラを止めると、虎王丸が大きく反応した。
……売り子が妙齢の綺麗なお姉さんだったのである。
虎王丸:「なあなあ、商売なんかやめて一緒にゴンドラ乗らね? 観光案内してくれよ」
凪:「虎王丸!」
身を乗り出した虎王丸――
おかげで、
ゴンドラが、
傾いて、派手に水しぶきをあげた。
凪:「……っくしゅっ……す、すみません……」
目の前で見ていたお姉さんが、ゴンドラを戻すのを手伝ってくれ、拭く物を貸してくれる。
村人:「大丈夫?」
虎王丸:「姉ちゃんが介抱してくれるなら平気だ!」
虎王丸は、全身びしょぬれになっても虎王丸だった。
村人:「ふふ、無事でよかった。水の女神様の加護かな」
女性は笑う。
凪:「水の女神?」
凪はぷるぷると頭を振って水を飛ばしてから、訊いた。
村人:「そう。皆に聞いてごらん。皆同じことを言うから」
――女性の言うことは本当だった。
村人:「この村はねえ、水の女神を信仰しているんだよ」
穏やかな雰囲気のアクアーネ村の人々は揃って口をそろえる。
村人:「女神様がいなければこの村は成り立たないしね。水の女神様は、美しいよ」
凪:「見たことがあるんですか?」
村人:「昔有名な彫刻家が作った女神神像が村の中央にある。見に行ってごらん」
言われたとおりに運河を渡り村の中央に行くと、そこには確かに肌もなめらかな美しい神像があった。
凪:「うわあ……本当に綺麗な彫刻だ」
裸体に少しばかりの衣を巻きつけた姿の女神。ふくよかな体、まるで生きて村を穏やかに見つめているかのような表情。
凪がその精密さに感心している横で、虎王丸がでれっとした顔になっていた。
虎王丸:「ああ、本物だったらなあ」
――本物じゃなくてよかった、と凪は思った。
本物だったら虎王丸は飛びつくに違いない。裸体の女性にでもなんでも……
こうしてゴンドラで運河を巡りながら、あちこちにある食事屋で美味しいものを食べて過ごした昼間――
しかし、気づいたら陽が傾いていた。
凪:「こういうときは時間が経つのが早いな……」
凪は残念に思ってため息をつく。
代わりに虎王丸が、どんどんと元気になっていく。
虎王丸:「よーしよーし、夜になるな」
凪:「………? 何企んでるんだ?」
虎王丸:「企んでるってのぁなんだよ。夜を待ってたんだよ」
虎王丸が元気になるとろくなことがない。凪は警戒した。
陽が落ちる――
虎王丸がようやく、口を開く――
虎王丸:「他のやつらからよ、こっそり教えてもらったんだよ。この村の新遺跡! 探険に行こうぜ!」
凪:「はあ?」
遺跡。
それはアクアーネ村のもうひとつの顔だ。歴史が古いため、しばしば遺跡が見つかっては驚きの発見がある。
凪:「探険なら昼間に言ってくれよ。何で夜なんだ」
虎王丸:「ばっか夜のほうが雰囲気あんだろ」
凪:「それじゃ肝試しじゃないか……」
凪は心底呆れた。
とは言え、遺跡探険。興味を持たないわけがない。凪は協力することにした。
ゴンドラで村のはずれに行き、虎王丸が言う通りの場所にゴンドラをつけると、そこには本当に洞窟があった。半ば崩れかけ、埋まりかけた入り口……
暗くて中が見えず凪が困っていると、
虎王丸:「この状況に燃えるぜ!」
……その言葉に力がぬけて、凪も一気に覚悟がついた。
虎王丸はランタンを片手に――
凪は銃型神機に取り付けライトをつけて――
二人は中へと踏み込んだ。
ぴちゃん……ぴちゃん……
暗がりの中、水の音だけが響いてくる。
虎王丸:「かーっ! いいねえこの雰囲気!」
虎王丸が声をあげると、やけに響いた。
凪:「気をつけろよ。水没してるとこがある、落ちたら溺れるぞ」
凪はライト動かし、前方後方をまんべんなく照らしながら言った。
虎王丸:「溺れるわけねえだろー」
と、言った傍からじゃぼん! と虎王丸は水没した。
凪:「……足下には気をつけろよ」
凪はぽつりとつぶやいた。
虎王丸:「あーひどい目にあったぜ……」
凪:「だから気をつけろって言ったのに……」
虎王丸:「るせっ。先行くぜ!」
びしょびしょになった服を白焔で乾かしながら、虎王丸はずんずん先へ進んでいく。
凪は改めて周囲を照らし出し、見つめた。
凪:「ここは……神殿?」
壁には彫刻。よくよく見れば、ゴンドラの彫刻だ。
ゴンドラに、誰かが乗っている。これは――
凪:「水の……女神?」
裸体の女性。
掲げたその手から、水が流れ出している。
いかにも信仰を大切にしている建物の残骸だった。
長いまっすぐな道を奥へ奥へ行くと、やはり神殿のように広い空間が現れた。
さらさらさら……
水音がした。壁のすべてから。
――これはわざと流されているのか?
凪は壁に手を触れる。流れてくる水の感触がする。
水没しているために水が染み出してきているのではなく、いかにも『この建物はこういう風に作りました』とでも言いたげな流れだった。
虎王丸:「おらよっと!」
虎王丸が白焔を前方へ投げつける。信号弾代わりのつもりらしい。
一瞬、まばゆく空間が照らし出される。
そこに――
女神の神像があった。
凪:「女神……」
崩れずにいるのが不思議なくらい、その場所は綺麗に整っていた。女神の神像の周囲には、囲うように水が満たされ、かかげられた女神の両手からはさらさらと水が流れ出ている。一体どういう造りなのだろう。
虎王丸がでれっとした顔をした。
虎王丸:「ああ、本物だったらなあ……」
凪:「………」
凪は無言で、虎王丸を蹴り倒した。
虎王丸:「痛ぇ! あにすんだ!」
凪:「そういうことばかり考えるんじゃない。ここは神聖な場所だ」
虎王丸:「美人には手を出すのが礼儀だ!」
凪:「そんな礼儀聞いたこともないよ!」
虎王丸の言い分にあきれ果てながらも、凪は思う。
ここが神殿であるのは間違いない。
――何か、特殊なアイテムがあるかもしれない。
凪:「でも、これ以上奥はないしな……」
一本道だった。他に部屋はなかったはずだ。
虎王丸:「おらよっ!」
虎王丸はまたもや信号弾代わりに白焔を前へ打ち出す。
一瞬照らし出される神殿が、あまりにも美しくて――
と。
凪:「っ!? 虎王丸!」
凪はぱっと銃型神機を構えた。
凪:「像の後ろに何かいる! 気をつけろ!」
虎王丸:「んなもんさっきから気づいてらっ!」
虎王丸は再度白焔を打ち出す。
神像にぴったりくっついていた『何か』がぴょいと神像から離れた。
凪:「魔物か……!?」
神機を構えたまま、慎重に『それ』の動きをはかる。
『それ』は――
口をかっと開けて、水流を吐き出した。
凪:「やはり魔物か……!」
虎王丸の白焔が、水の奔流を相殺する。
しかし水のしぶきは息を吐ける限り永遠に続くようで、白焔では抑えきれなかった。
虎王丸:「ちっくしょう!」
残りの水をかぶって、虎王丸はぶるっと顔を振る。
飛び散った水が周囲に舞った。
凪は虎王丸が魔物の気を引いている間に、舞を始めた。神機は今ライト代わりに使っている。神機では戦えない。
――『蒼之比礼』。
気流を――布のようにつかみ、鞭と化す。
凪は鞭をふるった。
魔物が、ぴーと鳴いて避けた。
――猿とコウモリをかけ合わせたような魔物だ。サイズは拳二つ分ほどだろうか。小さい。
魔物がかっと口を開く。
虎王丸:「しつけえよ!」
虎王丸が白焔で対抗しようとする。
その間に凪は水流の射程範囲から出て、水を吐き出し続ける猿コウモリに鞭をふるった。
パシン!
ピーッ! と魔物が鳴く。水流が止まった。
その隙に、虎王丸が白焔を放つ。
ボウ……ッ!
魔物はまともに白焔に包まれ、燃やしつくされていく。
やがて、魔物は跡形もなく消えた。
凪:「何だったんだ……?」
凪がつぶやいた、そのとき――
こう……
光が――
どこからかぼんやりと灯った。
凪ははっと振り向く。
そこは女神像の背後――
虎王丸:「まーた魔物かよっ!」
虎王丸が有無を言わせず白焔をその光に放った。
かあっ――
光と光があいまって、美しい世界を一瞬照らし出した。
神殿がよく見えた。壁のすべてに美しい細工が施されている。その壁に、さらさらと流れる水。
その中央にある神像――
否、
神像から――するりと何かが抜け出してきた。
神像そっくりの……裸体に衣をからめるようにまとった女性。
肌が淡く発光している。その両手から水を流しだしながら。
さらさら……と、優しい水の音が耳を打つ。
???:「そなたたち……礼を言います」
それは、しゃべった。とても優しい声音で。
虎王丸が、でれでれとした顔になった。
虎王丸:「おねーさん、誰?」
慣れ慣れしく声をかける。凪は呆れるとともに感嘆した。凪には、その女性は神秘的すぎてとても声などかけられない――
???:「我は水の女神――」
凪:「!」
凪が呆然と女神と名乗った女性を見上げる。
女性は足元が地についていなかった。ふわふわと浮いている。
淡く発光するなめらかな肌。神々しい光。優しい水の音。
虎王丸がずんずんと歩いていき、女神像の周りの水を飛び越え、女性の元へ行く。
そして、抱きつこうとした。
凪:「虎王丸!」
すかっ
女性の体をすりぬけて、虎王丸は地面につっぷした。
女性がくすくすと笑った。
女神:「我に触ろうとしても無駄です。そなたたちと同じ造りの体ではない」
凪:「女神……様? 本当に?」
凪は改めて女性を――裸体からは何とか視線をそらしながら――見た。
女神は優しい目で凪を見返した。
女神:「そう……このアクアーネ村を何百年も前から見守ってまいりました」
凪:「………」
女神:「ところが先ほどのモンスターが我の核を踏みつけたまま数十年……この神殿からは我は消えたとみなが思い、この神殿からみなは離れていった」
寂しそうに女神は語る。
凪は応えた。
凪:「なら、これから復興できます」
女神は応えた。
女神:「もう……我にそれほどの力はないのです、少年たちよ」
凪は目を見張る。
虎王丸がむくりと起き上がった。
虎王丸:「なんでぇ、女神の力に限界なんかあんのか?」
女神は寂しそうにもう一度微笑んだ。
女神:「我の核……あのモンスターにかじられ、大分減ってしまいました。なくならないように自分を護るのに精一杯で、もうアクアーネ村を加護するだけの力がない」
凪:「そんな……それじゃ、この村はどうなるんですか?」
凪は切羽詰った声で訊いた。
水の女神の加護がなくなる。それはどんなに大きなことだろう。
女神はまたもや、切なげに微笑んだ。
女神:「……この数十年間、我の加護なくこの村は栄えたのでしょう……もう我の加護がなくても、この村は永らえる」
凪:「そんな! 村の人々は女神様の加護があると信じて生活しているのですよ!」
女神:「それでよいのです。我はみなの心の中にいればいい。……そうではないですか?」
凪は詰まった。
――信仰とは、確かにそういうものかもしれない。
虎王丸:「でも俺は、あんたが消えるのは嫌だぜ」
虎王丸があっけらかんと言う。
女神が虎王丸を見て、不思議そうな顔をする。
虎王丸は頭の後ろで手を組んで、
虎王丸:「当然だろ? あんたみたいな綺麗なねーちゃん、消えたら世界の損失だ」
女神が――
くす、と笑った。楽しそうな笑み。
そして、
女神:「そなたたちには何の礼もできませぬ……」
囁いた。
女神:「それでもどうか……そなたたちだけでも……我に会いに来てはくれないでしょうか。我も、ひとりきりは寂しい……」
凪は即答した。
凪:「もちろん」
虎王丸:「あんたが触れる女だったらもっといいんだけどな……ま、目の保養になるからいいぜ」
虎王丸の言い分に、女神は再びくすくすと笑った。
そして、すうと息を吐いた。
女神:「我に会いたいときは……後ろの核に、先ほどの白い焔を当ててください……」
凪:「白焔を?」
女神:「それは特殊な焔。我に力を与えてくれた……」
虎王丸:「おー。いっくらでも当ててやるぜ」
虎王丸は白焔を生み出し、ぼっと女神像の背後に打ち出す。
そこにあった水色の宝石に白焔が触れると、またまばゆく神殿内が照らされた。
女神が心地よさそうに目を細めた。
女神:「こんなに心地よい焔があるなんて……」
凪は思う。水と焔、本来は相性が悪いだろうに、相手は女神という特殊さと、虎王丸の白焔の特殊さがそれを超えたのだ。
相性の悪いもの同士がそれを乗り越えれば、最高の相性となる。
――自分たちは会うべくして会った。そう思えた。
凪:「女神様」
女神:「何でしょう……」
凪:「また……会いにきます。だから、無理せずにお休みください」
女神:「………」
女神はふわりと微笑んだ。
そして、そっと女神像に自らの体を重ねた。
女神像が沈黙する。ただ一言、
女神:『ありがとう……』
という言葉を残して――
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虎王丸:「まーったくよ。俺はもっと見てたかったのに、裸のねーちゃん」
遺跡から出る道中、虎王丸はずっとぶつぶつ言っていた。
凪:「女神様をそんな呼び方するなよ」
凪はうんと体を伸ばす。
――神殿内にこもる水気が不思議と心地いい。
虎王丸:「また会いにくりゃいいのか。目の保養になる場所が増えたぜっ♪」
凪:「あのなあ……」
虎王丸:「お前もよく見りゃよかったのによ。あんな綺麗な体した女、滅多にいねえぞ」
凪:「………」
凪は無言で虎王丸をはたき倒した。
近くに神殿の水没した部分があり、虎王丸はそこへつっこんだ。
虎王丸:「あでごぼっ! てめっ、何しやがんだ!」
凪:「不謹慎なことを言うからおしおきだ」
虎王丸が重い鎧をがちゃがちゃ言わせながら水没から逃れようとしているのを無視して、凪は神殿から出る。
時はまだ夜だった。綺麗な形をした三日月が、天を飾っている。
凪:「女神様は……こういう風景を知らずに過ごすのかな」
少しかわいそうに思えた。
でも、これからは自分たちが会いにくればいい。来て、色んな話をしてあげればいい。
虎王丸:「凪ーーーー!」
背後から力一杯叫ぶ虎王丸の声が追いかけてくる。
凪はすまし顔でそれを無視したまま、近くにつけてあったゴンドラに乗った。
かたり、とゴンドラが揺れる。底の下に水の感触。
凪は水の街で、水の優しさを満喫する。
虎王丸:「凪ーーーー待ちやがれーーーー!」
元気のいい虎王丸が戻ってくるのを、待ちながら。
―Fin―
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いつもありがとうございます、笠城夢斗です。
今回は納品を大幅に遅らせてしまい申し訳ございませんでした。
特殊なアイテムを、とのことでしたが、オチを少し変えてみました。いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけますよう……
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