<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
【楼蘭】 仙人への道:春風と共に来りて
春それは始まりを告げる季節……華玉洞の洞主は舞い散る花びらを見つめながら思案していた。
「そろそろ新しい門人受け入れるのもいいかもしれんな」
弟子の何人かは無事に仙籍に入り、洞を巣立っていった。
仙人とは日長一日怠惰に過ごしているわけではない、それなりに修行を治めなければその籍を得ることは不可能である。
「仙骨の有無は…まぁ、そのうち何とかなるじゃろ」
ようはやる気と根性だけあれば十分。実にあっけらかんとしたものである。
「集まったようだな、それでは本日の課題じゃ」
仙人になれる(かもしれない)という謳い文句に誘われて集まった面々は、さて…どんな修行をさせられるのかと息を呑み洞主の言葉をまった。
「仙人とはそれ即ち、自然と一体となることである」
洞主の術によって一同は山深い森の中に移動させられていた。
「是より、1週間ここで生活し自然の声を受け止めよ」
「「「?」」」
何を言うのだろうと全員が訝しげに首を傾げる。
「そとつ国では確か…『さばいばる』と申したかの?まぁ、あれじゃ。己自身の手で衣食住をまかなうのが今回の課題じゃ」
ちなみに肉食は禁止であるらしい。
「とりあえず、ここで1週間生き延びよ」
突然移動させられたのだから準備も何もあったものではない。
申し渡された課題の前に全員が恨めしげな眼差しを洞主に向けるのだった。
●レッツさばいばる
「えと、門下生に危険がない様、監督は要りませんか?」
そうこっそり洞主申し出たのは鎮璃という名をもつ黒髪ショートに深い藍色の瞳の女性であった。
「ふむ? なかなかできるようだの」
一目で鎮璃の素質を見抜いた洞主が目を潜めた。
「いえ……それほどでも」
失敗ばかりしてますし、この際ですから私も基本を見直そうと思いまして……
そういう彼女は生まれ付きの仙であった。
一口に仙人といっても色々な種類がある。
洞主のように年月を重ねた人外の者が修行の末に仙籍を得ることもあれば、鎮璃のように生まれながらに恵まれた仙骨によって仙になる者もいる。
「まぁ、何れにせよ。そう簡単にくたばる様な軟弱者はいないと思うがよろしく頼む」
そういう洞主は鎮璃に微笑みにかけた。
「さばいばる、ですか……?」
こちらはいたってのほほんとした様子のシルフェ。
「洞主さんにも困ったものです」
偶然にも巻き込まれる形で参加することになった山本建一も苦笑を隠せない。
「寝袋、水の入った水筒、乾パン、水竜の琴、精霊杖、干し葡萄、刀、ナイフ……と、それなりにありますからどうにかなるでしょう」
旅に慣れた建一にとって、このぐらいの装備は常時携帯している。
「お鍋があれば完璧ですね〜♪」
「あ、それは盲点でした」
高山地帯であるから寝袋は重宝するであろう。
「先ほど竹を見かけましたから、それで代用できるでしょう」
後は食材を確保できれば何とかなりそうであった。
●出だしは好調。
「寝る場所の確保は……どこかに洞穴があればよいのですが……」
「この時期は冬眠明けの動物もいるから気をつけてくださいね」
小首をかしげるシルフェに鎮璃が進言する。
「それは気をつけないといけませんね」
暫く山肌を探すうちに手ごろな穴を見つけた。
大きさも十分で、獣の気配はない。
「……あとはお食事ですけれど、お散歩しつつ山菜取りで大丈夫でしょうか……?」
「竹がありましたから、筍は取れそうですね」
食材一つは確保できそうだ。
そもそも、こんな感じでいいのだろうか?
と建一は首をかしげる。
一見したところ危険らしいものはあまりかんじられない。
「後は……夜になると冷えそうですし……」
薪の確保も重要そうですね。
竹を割り、水を張り火の元に近づければ即席の小さな鍋の出来上がりである。
「皆さん手馴れているようで何よりです」
これなればそれほど危ない橋は渡らずに済むだろう。
自分の修行にも専念できそうだと鎮璃は安堵のため息をついた。
「蕨に、こごみに、あ!タラの目発見です♪」
清流の流れる音に導かれるようにシルフェが身軽に山の斜面を歩く。
「肉食は厳禁とありましたし……お野菜が主食になりそうですね」
野菜だけでどれだけ体力が維持できるかが、この修行の本が質なのかもしれない。
「あら、木苺が……早成りのものですね♪」
ひょいっとつまんで頬を緩める。
「偶にはこういう生活もいいかもしれません」
実に順応していた。
「皆様生命力に溢れておられていて私の出る幕はなさそうですね」
実にバイタリティにあふれた参加者の行動をみて鎮璃が笑みを浮かべた。
「そういえば……仙人になるにはどうすればいいんですか?」
素朴な疑問を建一がぶつける。
「一概にこれといった決まった方法はございませんが……そうですね」
自然を一体になり、時の流れからその身を外す……とでもいうものでしょうか?
気が付いた時には既に仙籍に入っていた鎮璃が首を傾げる。
「誰しもがなれる……と、いうものではありませんが……素質がある方はそれなりにいるのですよ」
一言で説明するのは難しいと鎮璃も首を傾げる。
「そうですか……」
仙人修行と言う名目ではあるが……冒険者としてのスキルアップにもなるだろうと建一なりに納得はした。
●修行本番
見晴らしの良い、岩場の一つに腰をかけ鎮璃が静かに精神を統一する。
自然と一体になり、その力を練り上げ道具に注ぎこむ。
仙人にとって、自らの生み出した道具を作ることも役目のひとつであった。
他にも仙にしか作ることのできない薬丹も数々存在する。
「………………」
辺りには静かで……その場に自分しかいないような錯覚を覚える。
瞳を閉じ、意識の全てを周囲に重ねる……もう少し……あと少しというところで、壁の様な物にぶち当たり鎮璃は肩の力を抜く。
「う〜ん……まだまだみたいですね」
集中力が足りないわけではないとは思うのだが……どうしても、後一歩が踏み出せない。
「もう少し精進しないといけませんね」
あえて、自らの能力に制限をかけてみたのがいけなかったのか……?
でも、これをとえなければ鎮璃自信の成長は見込めない。
「もう一回……」
再び静かに息を殺し、意識を広げた。
「う〜ん……修行といいましても……」
もとより仙人希望ではない建一にとって雲を掴むようなかんじであった。
「自然と一体に……?」
暫く考えた後、建一は持参してきていた琴を取り出した。
「偶には真剣におさらいするのもいいですね」
静かな山間に澄んだ琴の音が響く。
山の空気に溶け込むようなその音は暫く響いていた。
「私のも仙骨というものはあるのでしょうか?」
なくてもそれほどこまるものではないとは思うけど……
ふとそんな疑問を抱きながらシルフェは見つけた渓流の源流を求めて、山登りに勤しんでいた。
手を入れると凍るように冷たい水もシルフェにとっては全く苦にならない。
水は常にシルフェとともにあるものであるから。
「この先は一体何処まで続いているのでしょう?」
食べられそうな植物を積みながら、嶮しくなってきた岩場を身軽に登っていく。
シルフェは全く意識していないことであったが、偶然にもそれはある意味で修行の本質あながち外れたものではなかった。
●修行を終えて
「どうじゃったかな?」
サバイバル体験は? にやりと洞主は参加者を見回す。
「あまり何時もとやっていることが変わらなかった気がします」
苦笑しながら建一は洞主を見返す。
「でも久々にゆっくりした時間をすごすことができました」
それはそれで収穫といえるであろう。
「私も少し、自分の力の幅が広がったような……」
次にアイテムに力を練り込む時は上手くいくような気がした。
「とっても楽しかったです」
出かける前よりも、生き生きとした表情のシルフェは自然に囲まれて思い切りストレス発散ができたらしい。
「偶には自然と触れ合うのもいいですね」
落第者もでず、おおむね1回目の修行は比較的好評のままに幕を下ろした。
【 Fin 】
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0929 / 山本建一 / 男 / 19歳(実年齢25歳) / アトランティス帰り】
【3274 / 鎮璃 / 女 / 20歳(実年齢971歳) / マテリアル・クリエイター】
【2994 / シルフェ / 女 / 17歳(実年齢17歳) / 水操師】
【NPC / 月・凛華】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
ぎりぎりのお届けでもうしわけありません。
ライターのはるでございます。
第一回目の仙人修行、ひとまずサバイバルと御題にいただきましたが……皆様とても順応力がおありで大変楽しく書かせていただきました。
イメージと違う!というようなことが御座いましたら、次回のご参考にさせて頂きますので遠慮なくお申し付けくださいませ。
|
|