<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


天使のお仕事

●オープニング
「天使の仕事って、何なんでしょう」
 黒山羊亭のカウンター席に座り、エスメラルダに相談事をする一人の少女。
 少女の背中には小さいながらも純白の翼があり、頭の上には小さな輪が光り輝いていた。

「天使の仕事? それは人を幸せにすることじゃないかしら」
「それはわかっていますけど…。私、この世界に来たばかりなうえ、天使として本格的に働くのは初めてなんです。あなたの仰る通り、人を幸せにすることが天使の務めだわかっているんですけど…できるかどうか自信無いんです」
 天使の少女はふぅと溜息をつき、がっくりと肩を落とす。

「あらあら、随分と弱気ね。それじゃ、ここにいる誰かに相談に乗ってもらったらどう?」
 エスメラルダのその案に、天使は「それは良いアイデアです!」と答えた。

「丁度良いところに来たわ。この天使さんに、天使の仕事とは何かを教えてあげてくれないかしら?」

●天使と指南者達
 聖獣界ソーンの地に初めて足を踏み入れた天使は緊張していた。
 天界の神様から「不幸な人間を一人でも多く幸せにするのが天使の務めなのです」と言われたものの、それが本当なのかと疑問に思っていた。
 エスメラルダの言う通り「人を幸せにする」だけが本当に天使の務めなのか、とも考えたが、内気で引っ込み思案な性格が災いし、口にすることが出来なかった。
 ――多くの人間も、一人の人間も幸せにするのって難しい。
 そう思うと、天使はますます自信を無くした。

 その様子を見ていた一人の男が「よぉ」と天使の肩をポンと叩いて声をかけたが、「大きな人…」と警戒心を抱いてしまった。
 2メートルを軽く越す長身、見事に鍛え上げられた肉体を惜しげ無く晒している男に圧倒しないものはいない…かも。
「桃色幸せの源ってぇのはな、古筋東西いつの腹黒時代もらぶ☆ なんだぜ?」
 いつの間にか、先程の男が桃色ふりふりエプロン三角巾下僕主夫化モードに早変わりし、自分の幸せ論を語っている。緊張感は解けたものの、男の言葉に頭が「?」な天使。

「なかなか興味深い話をしているようだな。私も話に加わりたいのだが宜しいだろうか」
 二人の会話に興味を示した飄々とした口調のクールな女性が話に加わる。
 艶の金色の豊かな長髪、片眼鏡をかけ、軍服らしきコートを着込んでいるが、豊満な胸の谷間が強調されている。
 かつては、どこかの軍に所属していたのだろう。
「失礼、名乗るのを忘れていた。私はキング=オセロットという。宜しく」
 胸に手を当て、礼儀正しくお辞儀をし自己紹介をするキング。
  
「あの…「天使」という言葉が聞こえたので寄ってみました」
 買い物帰りに黒山羊亭に立ち寄ったのは、青銀色の腰まである髪を白いリボンで括っている輝く紫銀の瞳、雪のように白い肌の容貌の小柄な少女。
「それは置いといて、まずはお互いの自己紹介からですね。あたしはメイといいます。戦天使見習いです」
「わ、私のほうが先に自己紹介するべきだったのに…すみませんっ! では、改めて。エルスといいます。宜しくお願いします、皆さん」

 顔を赤らめながら照れ、慌ててお辞儀をするエルスを見た三人の思いは『そそっかしい』だった。

「皆それぞれ『天使の仕事』の意見があるだろうから、個別で指南するのはどうだ」
 三者三様の答えがあるというキングの意見に納得し、それに従うことにしたオーマとメイ。
「そうだな、同時に話し出すとエルスが混乱するだろうし。俺はおまえの意見で構わないぜ」
「あたしもそう思います。なので、キング様の意見に賛成です」
 意見が揃ったところで、三人別々にエルスと話をすることにした。

○天使のお仕事指南
「宜しくお願いします、オーマさん」
 黒山羊亭の隅っこにある席に腰掛けて話をする二人。
 緊張しながらも、オーマから天使の仕事を教わろうとしているエルスの姿勢は見事なものだ。
「そう緊張しなさんなって、気楽にいこうぜ。天使の仕事なぁ…本来、教えられるものでは無いが、言葉をかけ、背を、心を温かく押すことかと」
 エルスは一言一言を念入りにチェックし、メモっていた。本来の内気はどこへやら、次お願いしますと話の続きを聞く。
「幸せとは誰かにただ与えて貰うものでは無く、互いが互いを想い遣り、慈しみの心の触れ合いが重なり紡がれる。天使も人もそうなのやも」
「成る程」
 そういうことも考えられるのねと一人納得するエルス。

「幸せの源は愛。だが、幸せも愛も其々でカタチは異なる。その人も想いや愛に己なりの想いを愛で触れていけばいい」
 いつの間にか桃色ふりふりエプロン三角巾下僕主夫化モードに変化していたオーマが、更に話し始める。
 ――またあの格好…。
 というエルスの思いをよそに、オーマはその格好とは裏腹に熱く語る。
「頭で考えるで無く、心で感じてみるんだ。戸惑っても、少しずつ踏み出せば自ずと心が感じ振れる。誰かを幸せにしたければ己も幸せになるべし。己を愛せぬ、大切に出来ぬ者が誰かを愛し、支え、大切に出来ぬのかと同じ!」
 己の『幸せ』を熱弁するオーマに、エルスや黒山羊亭にいる他の客は暑さを感じた。彼がふぅ、と一息つけると、先程の熱気はどこへやら。空気は元に戻った。
「お話は良くわかりました。まずは『自分を愛する』ということなんですね」
「そんなもんだ。話は変わるが、エルスはラブな相手がいるのか?」
「ラ、ラブ!?」
 突然の質問にエルスが驚き、戸惑った。憧れのような恋の経験があるが、誰かを愛したということは無い。
 何かを答えなければと思えば思うほど、言葉が詰まり、何も言えなくなる。

「あの…」
 話すかける暇も無く、終わったかと思っていたオーマの話は続く。
「無理に答えなくてもいい。おまえもいつかは誰かを愛するんだから。俺に言わせりゃ、天使は純純潔恋駄目なんぞイマドキ腹黒ナンセンスノンノン☆ 愛を歌いしが愛を知らずしてどうする。ラブ相手がいればアタックGO! それで幸せにする事、される事が尤も良く分かるかと」
「そうですか」
 オーマの熱弁にエルスは、もう何も聞くことも、話すことも無かったが、彼の『幸せ』が何となくだが理解できた。

●指南を終えて感謝の気持ちを
 三人の指南を終え、エルスは自分が何をすべきか理解が出来た。
「皆さん、本当にありがとうございました。教わったことをいっぺんにするのは無理ですが、少しずつやっていこうと思います。それで良いんですよね?」
 感謝の言葉を述べたのは良いが、これでは駄目だろうかと思うと、言葉が詰まる。
「ああ、おまえのやりたいようにやればいいんだ。自分に自信を持て、いいな」
 エルスの頭を撫で勇気付けるオーマ。
「焦ることはない。悩み考え、けれど、目をそらさず見つめ続ければ何かが見えてくる」
 ゆっくりすればいいさ、と背中を押すキング。
「上手く言えませんが、エルス様が信じた通りにお仕事をすれば良いとあたしも思います」
 エルスを自分なりに元気づける意見を述べるメイ。

「皆さんの『幸せ』を、一言でそう言っても色々なものがあるということを学びました。神様の教えを破ることなく、自分なりの方法で人々を幸せにしようと思います。本当にありがとうございました。名残惜しいですが、私はそろそろ天界に帰ります。修行をやり直し、自信がついたら、またソーンに訪れます」
 三人はまた会えることを信じ、エルスを見送った。

「不思議な子だったぜ。不器用だが、心を和ませることを無意識のうちにやっているんだからな」
「そうだな。私も、あの子といると心が自然に落ち着いた」
「あたしはエルス様とお友達になれたような気がします。今度会う時は、お互い立派な天使でいたいです」

 その夜、聖獣界ソーンの各地に一筋の流れ星が落ちたという。
 ソーンのいる全ての人々が幸せでいられますように、と願っているかのように…。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2872/キング=オセロット/女性/23歳(実年齢23歳)/コマンドー】
【1063/メイ/女性/13歳(実年齢3歳)/戦天使見習い】

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■         ライター通信          ■
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はじめまして、火村 笙と申します。
ソーン初依頼『天使のお仕事』、いかがでしたでしょうか?

>オーマ・シュヴァルツ様
豪快ながらもユニークなオーマ様を描写してみたのですが…どうでしょうか?
参加された依頼、シチュノベ等を拝読し、細心の注意を払い、私なりのオーマ様を書かせていただきました。

またどこかでお会い出切る事を祈りつつ、これにて失礼致します。