<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
お茶会をしましょう!
軽々と巨大な紙袋を手に、オーマ・シュヴァルツは歩いていた。
向かう先はあの宝石店。先日の礼をと思い足はそこへと向いている。
「おう、ここだここだ。相変わらずあったな。ん……?」
と眼に飛び込んできたのは『お茶会中暇ならどうぞ』という張り紙。
「ナウ乙女筋チック花園で茶会とくりゃぁよ、やっぱアレだな。恋バナ☆だよなぁ」
にやり、と期待も込めつつオーマは笑い店の中へ。
ふわ、とケーキでも焼いていたのか良い香りがする。
「邪魔するぞ、っていないのか? 奥……みたいだな」
ずんずんと遠慮なくオーマは奥へ進む。と、明るい光が部屋へと差し込んでいた。
庭へと続く扉のようだ。
そこから顔を覘かせると、季節感なく咲き誇る庭に店の主人、ラナンキュラスとそしてもう一人が茶を飲んでいるところだった。
オーマは
「知らない顔だな。俺はオーマ、よろしくな」
「俺はノア・ヴァディスと言います。ええと、よろしくお願いします」
シートの上に正座、手に持っていたティーカップを傍らに置くとノアは深々と頭を下げた。
これにはつられてオーマも頭を下げてしまう。
「あはは、何かしこまってるんだが。ささ、座って座って。また大荷物だし」
「ありがとうな。これは腹黒ミステリー筋ムネドキフリマッチョでの戦利品だ」
「腹黒ミステリー筋ムネドキフリマッチョ……?」
なんですかそれは、と不思議そうな表情でノアが問う。オーマは言ったとおりフリマだと返した。ラナンキュラスもノアもなるほど、と納得する。
「その中身気になるね、出してみてよ」
「構わないぞ、親父レアアイテム福袋だから何が入っているのか……」
ごそごそと福袋の中身を三人で漁る。
出てくるもの出てくるもの、どれもが魅惑的、だけれどもどこかやばそうと思わせるアイテムばかりだった。
と、その中にちょっと普通そうな本がありノアは手に取った。
「見た目普通そうで……ええええええええええええ!!??」
本を開く。すると強風、というよりも暴風がその本から発生する。
「ちょ、ノア、ノア何して……!」
「す、すみませんんんん!!!!」
「俺もか、俺も吸い込まれているのか!」
それぞれ思い思い言葉を叫びながら本の中へと吸い込まれる。
必死の抵抗も空しくしゅるりと。
どさっと地面の上に落とされる感覚。
オーマが顔を上げるとそこはピンク色の空、そしてどこかポップでかわいく、けれども毒々しいような気がしないでもない世界。明らかに自分たちがいた世界とは違う。
「……なんだぁ?」
「ラナさん大丈夫で……ってええええええええ」
「ノア、うるさ……ぶふ」
顔を伏せながらラナンキュラスが笑う。そしてオーマもノアの姿を見てその意味を理解する。
「ノアはそういう趣味だったのか……いや、それで嫌いになったりなんかしないぞ、だが男はやはり料理掃除ができ筋肉あり逞しくあってこそだぞ!」
「いや、違いますから違いますから! そういうオーマさんだってその耳!」
「耳?」
言われてみると、頭が思い。ぺそっと白い白い兎の耳が頭からはえている。そして背中には何故だか大きな懐中時計を装備。
「……俺は、ウサギだったか?」
「ボクの記憶ではそれは無かったよ、はー……笑っ……ぶふ」
「そういうラナも、そんな帽子はかぶってなかったな」
「ん、だね。これは……なるほどなるほど。アリスの世界だね」
「アリス、ですか?」
言われてみれば、懐中時計装備の白ウサギ、オーマ。
大きな帽子をかぶっているラナンキュラス。
そして、真っ赤なリボンを頭に、ふわふわひらひらのワンピースのノア。
「んーじゃあ、騒いでもどうにもならないし……」
「そうだね、お茶会の続きをしよう」
「え、なんでそんなに落ち着いてるんですか……!」
「いや、そのうち出られると思うし……」
「そうそう、それにお茶会セットもあるし」
のんびりと、オーマとラナンキュラスはまたお茶会を始める。
そんな様子にため息をつきながらもノアは付き合うしかない。
と、話はいつのまにやら恋の話に。
「オーマは一人身?」
「いや、超絶にラヴい妻と子がいる。もう本当にラヴだ、ラヴ!! そういうラナとノアはどうなんだ?」
「ボク? ボクは紅茶と宝石が恋人。ノアは?」
「えぇっ!? おおおおお、俺ですか!? お、俺は、俺はそのあのその……」
話を振られてびっくりどきどき、ノアは声を詰まらせ顔を真っ赤にする。
そしてそんな彼の視線の先はラナンキュラスの方に。
オーマはははーんと瞳をキラりと輝かせる。
「ノア、言いたいことは理解した、理解したぞ」
「あっ、や……その、は、恥ずかしい……!」
「何を言う! 愛は恥ずかしくないものだ、誇るべきものだ!」
「そ、そうですかね!?」
そうだとも、とオーマはばしっとノアの肩を叩く。しっかりしろよ青年、そんな風だった。
「……男同士で通じ合ってなんかやだね」
半眼で紅茶を飲みながら、ラナンキュラスは言う。男同士でしかわからないこともあるんだとオーマはそれを笑い飛ばした。
と、あからさまな敵意を感じてオーマはあたりを見回す。
「どうしました?」
「いや……囲まれているみたいだ」
「また薔薇マッスルアニキ像だったらボク、嫌だよ」
ラナンキュラスが前回のことを思い出しながら苦笑する。
「この場合、アリスだとチャシャ猫とかトランプの兵とか……そのあたりっぽいですね」
「……トランプの兵だ。数が多い。しかもタダのトランプではないみたいだ」
オーマの言葉に二人は顔を上げてその相手を見る。
そう、確かにタダのトランプの兵ではなかった。
トランプに濃い人面、そしてマッチョな手足。
「逃げたほうが良いと思う人ー」
ラナンキュラスの言葉に二人ははーいと手を上げて答える。
そして、一気にマッチョで濃いトランプ兵たちが一番少ないところをめがけて走り出した。
「逃げ切れますかねええええ!!??」
「気合で、聖筋界パワーで乗り切る!」
「意味わかんないよ!」
トランプ兵をばったばったとなぎ倒しつつ進む。
と、それは突然進路を塞いだ。緑色の、刺のあるにょろにょろ。
「ぶふっ!」
「ぎゃー!」
「やだー!」
どすっとぶつかるとそれは植物の茎をものすごく力強くしたような感触だった。
「な、何? これ薔薇!?」
「薔薇だけど違います違います!」
「マッスルな薔薇だ!」
視線を上げた先、真っ赤な花弁、その中に構えるのはこれまた濃い人面。
「こんなのばっかり……!」
「あと出てないのは女王様だね……」
項垂れるノア、苦笑するラナンキュラス。
と、後ろを振り返ったオーマが硬直する。どうしたのかと、二人も振り返る。
そこには、どう見ても男、という体格の、これまた堀の深い顔の人物が、豪奢なドレスを纏っていたのだった。もちろんしっかりとメイク済みで。
「んまああああああああ!! なぁんてかわいらしい子たち……! あらやだ、女はいらないのよ女は!」
野太い声、女王の出現に男性陣は身の危険を感じずにはいられなった。
ぞわりと鳥肌が立つ。
「ボクはいらないんだって、良かった!」
「ラナさんは良くても俺たちは……!」
「俺は妻も子もいる、もって帰るならこの青年にしてくれ」
「ちょ、俺を売るんですか!!」
こくこく、とオーマもラナンキュラスも頷く。ノアは、くうっと唇をかみ締めながら二人を少しだけ、恨めしそうに睨んだ。
「うふふ、そんなこと関係ないわ。この世界はアタシ、アタシの世界なの。アタシに逆らうと駄目なの。男は皆、アタシのモ・ノ」
ウフっと語尾からハートが飛んでくるような、そんな錯覚。
「もしそれを断るって言うなら……処刑よ! 裁判はあとだ!」
最後はドスのきいた声で、女王は言う。
「ボ、ボクに遠慮しないで二人とも女王様の所に行くといいよ」
「いやいやいやいやいや……」
「…………わかりました」
「ほらわかっ……本気?」
わかりましたと弱弱しく言ったのはノア。その目には何語とかの決意。
「俺がひきつけるんで、オーマさんは無事にラナさんを元の世界へ! お、男を見せます……!」
「ノア……キミの事は一生忘れないよ……! ちょっとときめいた!」
「俺も忘れない!」
「…………って思ったけどやっぱり無理ですうううううう」
数歩前に進んだ、ノアは振り返る。その表情は蒼白、そしてがたがたと震えていた。
あ、やっぱり無理? とオーマもラナンキュラスも思う。
それほどまでに女王は脅威だった。
「しょうがない、こうなれば」
「ど、どうするのオーマ」
「逃げる!」
「え」
がしっとラナンキュラスと、手を伸ばしてノアをつかむとぽいっと薔薇の茎の向こうへとオーマは放り投げる。向こうで着地に失敗した音が聞こえた。そして自分もよいしょと茎を登る。
当然ながら、女王はマイスイートダーリンズが、と恐ろしいことを言っていた。
「取りあえず走ろう!」
「どこまでですか!」
「知らん!」
どどどど、と後ろからは追われる轟音。人面マッチョトランプ兵たちの野太い声と、女王の甲高いのかドスが利いてるのか、ころころと変わる声にはやされる。
必死に必死に走りに走って、そして体力も限界。
「も、もう駄目……!」
「お、俺もですー……って、あれ」
どさっと倒れこんだノア。あたりを見回して、そしてふと気がつく。
そこは見覚えのある場所。
「ラナの庭、か?」
「え? え!? あ、そうだね、ボクん家! ウサ耳もなくなってるし、女装かわいかったよノア」
「傷をえぐらないでください! 今日夢に女王が出てきたら俺、俺!!」
ぎゅっと草を握り締めながらノアは言う。あの女王が夢にでてきたらうなされるに間違いない。そしてきっと、貞操の危機。
「まぁ、戻ってこれたって事で……」
「茶会の続きだ。そうそう、この前の礼があるんだ」
散らかしたままのだった茶会の席。福袋の一番底の底に入れていたソレをオーマは取り出す。
「ゼノビアに咲くルベリアの花、と種だ。種は……蒔き育てるだろう?」
「うんうん、育てる育てる」
ぱっと輝く笑顔でそれをラナンキュラスは受け取った。
「その花は在りしの想いを映し見て、偏光輝き……贈った者と永久の証、絆で結ばれるものだ」
「ふーん、そうなんだ。じゃあボクとオーマがそうなるのかな?」
「感情が伴えば、だろうな。俺には愛妻がいるから無理な話だ。それよりもラナはノアにその花をやればいいんじゃないか?」
「え、ノアにー? うーん、ほしい?」
「ほほほほほ、ほしいです!」
必死に首を縦に振るノア。ラナンキュラスはうーん、と少し考えてからそれを差し出した。
「ま、どうなるかわかんないけどはい。さっきはちょっとだけ格好良かったよ。結局ヘタレだったけどね」
「う……で、でも嬉しいです嬉しいです」
「よかったなノア」
にぃっと口角を上げてオーマは笑う。
ノアの背中をひっそりと後押し。
想いが叶うといいな、と言葉になっていなくても伝わったらしい。
「ねー、男同士で通じ合ってると気持ち悪いよー。色々と濃いものの事は忘れてさ、もう一回お茶会仕切りなおそう!」
先に座り込んで散らかったものを整理しつつラナンキュラスが招く。
確かにそれはいいな、とオーマもノアも頷いて腰を下ろした。
しばらくして紅茶の良い香りが、漂い始める。
オーマが渡したルベリアの花の種。
それはその日のうちに庭に蒔かれて、そして芽吹きを待つ。
もう一つの方は、芽吹いて形になるのは、いつのことやら……
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1953/オーマ・シュヴァルツ/男性/39歳(実年齢999歳)/医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
NPC>>ラナンキュラス,ノア
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■ ライター通信 ■
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オーマ・シュヴァルツさま
お久しぶりです、お茶会ご参加ありがとうございましたー!
プレイングにブフッと噴出しつつもラブ後押しに優しさバッチリー!と一人はしゃいでおりました。とっても楽しく私も書かせていただき嬉しいです。
それではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!
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