<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


依頼タイトル  :黒衣の2人組み


「ちょっと聞きました、奥さん? また宿屋で物が壊されたんですってよ?」

「それなら私も聞きましたわ。凄い力で壊したらしいわね」

「しかも噂の黒衣の2人がその日其処に泊まったんですって!」

不気味な噂は既に街に広まっていた。
白由羊亭にもその噂は当然の如く届いていた。
ルディアは少し興味があったのだが、いざここに来るかも知れないと考えると
少し不安になっているようだ。

「黒衣の2人組み、かぁ…なんだか最近も物騒よねぇ…」

「そうですねぇ、物騒なのは悪い事です。でも賑やかなのはいい事だって教わりました」

「きゃー!? 何時の間に隣に!?」

ルディアの驚く声を聞いて、隣にいた少年はきょとんと首を傾げた。
銀色の髪に、白い肌。そして、閉じられた瞳。
閉じられたというより糸目である。
何よりもルディアが気になったのは彼の服装である。
肌を少し露出させた感じの服装で、まるで術使いのような漆黒のコートを着ていた。

「あっ、貴方誰なの!? っていうかいらっしゃいませっ!」
「いえいえ、お気になさらず! 私はこうして巡回しているただの神官ですから!」
「し、神官? その服装…で?」
「はいっ! 大体、服装で人を決めてはいけません! どんな人でも、神を尊敬する権利はあるのですからっ!」

いきなり熱く語る少年。
ソレを見て少し引いているルディア。
誰か。誰かこいつを止めてくれ。
そう願っているに違いないのだが……。

「止めないか、キラ。その人、迷惑がっている」
「マイ!? 一体何処へいってたんです!? また私を置いて逃げようとか…!」
「…お前が迷子になってたんだろうが…。っと、それより…ここは冒険者用のメニューがあるみたいだが…」
「あ、はいっ!依頼とかは全て冒険者用なんです」
「じゃあ数人探してくれ。依頼はある意味…そう、護衛だな。護衛だ」
「護衛ですか? 何処までとか、あります?」

ルディアの問いにマイと呼ばれる少女とキラと呼ばれる青年は少し顔を見合わせた。
そして、小さく頷くとルディアの問いに答えた。

「月夜の塔。其処に一つ珍しい宝石があると聞いてね…そして、其れを欲しがっている者がいるんだが…」
「でもその塔は今や人は誰も近寄らず、魔物の巣窟と化しているそうなんです」
「そんな中、僕達2人だけで行くのは無謀なんでね。手伝って貰おうと、ね…」
「はい、分かりました! それでは募集の所に記入しておきますね!」

元気よく答えるルディアに、お願いします♪と気楽なキラ。
しかし、ルディアはふと2人を見て気付くのである。

「貴方達、もしかして噂の破壊魔2人組み?」
「破壊してるのはキラの方」
「た、たはは…あれはちょっとした事故で…」

2人はそうはぐらかすのであった。


ルディアから紹介された二人を見て、マイは絶句していた。
絶句というより呆れていたのかも知れない。
「早く行こう! お宝、見たいぞ!」
何せ一人はお宝大好きのユーア。
「まぁ、魔物にだって桃色ラブはあるよなぁ?」
そしてもう一人は桃色イロモノ人間のオーマ・シュヴァルツ。
この異様な2人が護衛をしてくれるというのだ。
勿論、キラは何の疑いもなくにこにこしているがマイからして見れば胡散臭い爆発である。
「…私と同じような職業か…なら仲間として信用したいが…これは…」
「マイ、人を疑っていては何も出来ませんよ?あ、申し送れました。私、キラ・ラザフォードと申します。そして、こっちがマイ・ランスハルトです」
「へぇ、キラとマイか。特にキラは不思議な羽もってんじゃねぇか」
「あ、これですか? 珍しいでしょう? 本物なんですよ? 私、エンジェルですから」
サラリと言ってのけるキラ。
驚きの表情を隠せないオーマ。
それもそのはず。エンジェルがこの世界にいるはずがないのだ。
気高い種族であるから、そう簡単に地上には来ないというのに。
「で、そのエンジェルさんが何で人間といるんだ?」
「あ、彼女はですね…」
「キラ。無駄話はそこまでだ」
「そうだ、お宝が先だろ!」
マイの言葉にユーアも加担する。
キラはそうでした、と言うとコホンと咳払いをした。
「で?その宝石ってのはどんなんだ?」
「ガーネットだ。魔物がいる塔で発見されるのは珍しいのだが…」
「それを探してるってわけかい。よし、その塔にいっちょ乗り込むか!」
「お宝だ、お宝だ! 絶対に見るぞ!」
はりきるユーアとオーマ。
呆れるマイ。にこやかにそれを見つめるキラ。
何だか疲れる仕事になりそうだ。マイはそう思うのであった。


月夜の塔。
それは魔物の巣窟として有名な塔である。
毎晩満月の夜になると現れると言われている不思議な塔。
それは不気味なまでのオーラを放っていた。
「ここが月夜の塔ってやつかい…ほんっとに不気味でいやがる」
「銃の弾を込めておけ、オーマ。お前が殿を勤めるにしても、戦闘は避けれん。…お前のイロモノ加減に洗脳されてくれればいいんだがな…」
「で、ここに来るまでに集めた塔の情報は……」
「不死者の住処。そして、幻影の塔である事。そして……魔が集う場所、ですね」
「満月にしか現れない塔、ね。やっぱり名は体を現す、かねぇ…」
「とにかく、中へですね…」
「お宝ーーー!」
「…一人突進していきましたね…」
「キラ、追うぞ。…オーマ、殿は任せた。中では十分注意してくれ」
三人が中に入ると、ユーアは珍しそうに塔の中を見回していた。
マイはユーアの首根っこを掴むと、キラへと差し出す。
「管理、任せた」
「えぇ? 私がやるんですか?」
「お前、神官だろう? こういう奴を放置して危険な目にあったらどうするんだ?」
「それは大変です! やります!やりますとも!」
何とも単純なエンジェルだろうか。
正義感が強い神官故なのか、責任感は人一倍強いように見えるがどう見ても後始末役とか、そういうのだろう。
「…気配がする、さっさといこうぜ。俺が後ろを守っててやるよ」
オーマがそう言うと、三人は頷きゆっくりと歩き始めた。

其処は、月夜の塔1F。
其処にある壁は殆ど崩れており、今にも崩れてしまうかも知れないという不安さえ覚える。
しかし、そんな不安をも感じていないのはユーアただ一人である。
彼女の決意の前では、魔物なんてゴミのようなものである。
一匹来ては薙ぎ倒し、それを踏みつけてズンズンと進んでいく。
マイも其れに楽を感じているのか、銃を抜かずただキラの前を歩いている。
マイにとっての護衛対象はキラなのだから。
「オーマ、後ろは大丈夫ですか?」
「おう、なんとかなってるぜ! 魔物の奴等、俺の桃色ビームに脳殺されてやがるぜぇ」
その言葉を聞いてキラは気になって振り向いて見た。
数分後、見なければよかったといわんばかりの表情で前を向いた。
オーマの後ろには、目がはぁとマークになった魔物達がぞろぞろとついてきているのだ。
そりゃ誰も見たくはないだろう。不死者が脳札されている所なんぞ……。
「おや? 大きな扉がある…」
「ユーア、どうした?」
「ここに気になる扉があるんだ」
「…血と石榴の紋章…? これは……」
「まさにあの石の名の通り、という事ですねぇ。この奥に階段があったりして、ですねぇ♪」
「でもこの扉重そうだぜ?俺はこいつ等魔物の気をひかねぇとだし…」
「俺じゃ無理そうだな…重そうだし」
ユーア、オーマが口々にそう言うとマイは小さく溜息をついてキラの肩をぽんっと叩いた。
キラはほえ?と首を傾げてマイを見つめ返した。
「安心しろ、こんな時の為にこいつがいる」
「え?私ですか?」
「おいおい、冗談だろ? そいつは神官なんだろ?」
「あぁ」
「そんな神官がこの重い扉あけれんのかよ?」
ユーアが尋ねると、マイは静かに首を縦に振った。
キラは相変わらずキョトンとしていた。

「いいか、キラ? この奥にいるのは不浄者だ」
「不浄者、つまり不死者ですよね」
「そうだ、不死者、アンデットだ。お前は確か神官だったな?」
「えぇ、マイも知っているでしょう?」
「神官なら、その不死者をどうすればいいか分かるな?職務、だろう?」
「そうです! そうですよね! 私がやらなければ、彼等は苦しんだままなのですよね! よし、私がやります!やりますよ!」
そう叫ぶと、キラはやる気満々で扉を軽くバンッと叩いた。
まるで、気合を入れるかのように叩いたつもりだと、後に本人は言うのだが扉は勢いよくバターンと開いたのである。
オーマとユーアは絶句していた。
エンジェルであり神官である彼に、ここまでの力があった。
しかも天然入ってるのに。驚きの事実である。
驚いている二人の肩を静かにぽむっと叩くと、マイは奥にある階段へと歩き始めた。
「あれあれ? 扉が何時の間にか開いてますねっ? 私の祈りが神に届いたのですねッ? さぁ、オーマ、ユーア。いきましょう! 不死者を救わなくては!」
「ユーア。お前、今の信じられるか?」
「信じられん。だが目の前で起こったわけであるから…事実なんだよな?」
「俺、夢でも見てんのかね?」
「…俺も同じ気分だ。で、その魔物はどーすんだ?」
「上の階へ連れていくぜ。こうして脳殺しとけば害はねぇだろ?」
ユーアは思った。
彼もまた信じられない者の一人なのだという事を。


月夜の塔2F。
其処は1Fと違って作りはしっかりとしていた。
しかし、その壁に飾られている石像は全て悪魔を象ったもの。
それは決して悪い意味ではないのだろう。
きっと、崇拝していた人間が不死者となった…そう考えるのが妥当だろう。
どうやら、ここは元々不死者の住処だったようなのだ。
「なるほど。ここにこういう石造があんのか。だから魔物の巣窟ってわけかい」
「それだけではないだろうな。この月夜の塔は満月の夜にしか現れない幻影の塔だ。誰にも害されず、過ごせる場所。…そして、近づいた人間を容易く喰える場所なのだろう」
「分かるのか?」
「気付かないのか、オーマは? そこ等辺に転がっている、人の骨の山に?」
マイが尋ねると、オーマは迫り来る魔物を魅了しながら辺りを見回した。
すると、其処には白骨化した人の骨のようなものが床いっぱいに散乱していた。
歩く度に骨が砕ける音。なるほど、この音の原因は骨だったのか。
「不死者がいるといわれる場所には必ず冒険者や神官等が除霊に訪れる。しかし、其れは不死者にとってはエサも当然だ。だから誰も近寄らなくなった。喰われた人間はアンデットにされてしまうんだからな」
「じゃあ何でお前はここに来たいとかいったんだ?」
「…依頼だからな、大切な」
「依頼だからって命も粗末に出来るってか…?」
「さぁてな。其れはお前には関係ないだろ」
そんな世間話も、突っぱねてしまう彼女を見てオーマはちょっと調子が狂い始めていた。
何せ自分はイロモノである。マイみたいなタイプのツンケンキャラとは合わないものがあるのだ。
前を見れば、お宝を探しながら歩くユーアとユーアを捕まえながら歩いているキラの姿があった。
「で、お前はその魔物の群れを最終的にどうするつもりだ?」
「最上階まで連れてって、最上階の魔物も魅了して合コンさせる。そーすりゃ邪魔されず宝石が捜せるだろ?」
「お前…フロアの広さを考えろよ…? …ま、お前の策だ。全部任せる」
「マイ、オーマ! 階段見つけたぞ!」
「何だか怖いぐらいに順調ですねぇ♪」
「そりゃあな…ユーアは敵投げ飛ばして踏みつけていくし、後ろは後ろで魅了させられてるしな」
「結構怖いパレードですよねぇ、これ?」
「パレードという表現が出来る方が恐ろしいと思うぞ、キラ?」
マイのツッコミにも笑って応えるとキラを先頭にユーア達は階段を登っていった。
そんな三人の背を見つめ、マイは小さく溜息をついた。
「…煌きを感じる。とても薄いが……まだ新しい煌き……まさか、僕達が探している宝石は……」
「マイー? 置いていっちゃいますよー?」
「すまない、直に行く」
呟きを吐き捨てるかのように首を横にふると、マイは階段を登り現在の仲間達と合流するのである。


月夜の塔3Fも順調に登り、4Fへと辿り着いた四人。
其処はまるで祭壇が設置してあるかのように、下の階よりも小奇麗にされている。
蝋燭の火もきちっと灯されており、其処には何者かがいたような気配すら感じ取れていた。
先程までとは違うピリピリとした空気。その空気を感じながらもオーマは4Fの魔物を魅了し魔物同士の合コンを開始させていた。
これはこれで異様な空気である事には違いない。
「よし、魔物はこれで始末したぜぇ? これでゆっくりと宝石を捜せるな」
「で、どんな宝石なんだ?」
ガメつくも気に入った宝石をパクり始めながら、ユーアは2人に尋ねた。
其れを見て、キラはこれは赦してもいいのかなぁ?と首を傾げていた。
「石榴色の宝石を探してくれ。この塔にあるのは間違いないんだ」
「石榴色ォ? ま、とにかく珍しい石でそういう色したのをみっければいいんだな?」
「あぁ、見つけたら僕に渡して欲しい。決してキラに渡さないように」
「わぁってる。そいつじゃ砕きかねねぇもんな」
オーマは分かっているかのようにそう呟く。
マイは静かに頷いてそれに同意する。
キラは不貞腐れたかのように頬をぷくーっと膨らませていた。
ユーアは一人宝石を探しながらも気にいったものを道具袋へと詰めている。

其処は不思議な空間だった。
辺りを見回せば見回すほど、不気味な気配を感じてしまうかのような空間。
オーマは、そんな雰囲気を掻き消すかのように溜息をつき宝石を探し始めた。
瓦礫の裏、瓦礫の下、物影や蝋燭の台の裏。
何処を探してもなかった。
しかし、暫くしてユーアが声をあげた。
「む?なんだ、これ?変わった形してんな…?星型?」
「ユーア、見つけたのか?」
「オーマ、これをどう見る?これがあの宝石だと思うか?」
ユーアがオーマに見せた物。それは間違い無く石榴色の宝石。
ガーネットだった。
星型という部分が気になる所ではあるのだが、2人は言われた通りその石をマイに見せた。
「おい、これでいいのか?」
「……! 煌きを感じる……やはり、これは……」
「マイ? どうか、しましたか? 顔色が悪いですよ?」
キラがマイに尋ねると、マイはハッとして首を横に振った。
「間違いない、これがガーネットだ」
「これで探しものは見つかったわけかぁ。ホント綺麗だな…これは…」
「しっかしなんでそんな珍しいものがこんな不気味な塔にあったんだ?」
「血流の浄化。それがガーネットの石言葉だ。ここにはアンデットがわんさかいる、うってつけだとは思うがね」
そう呟くと、マイはガーネットを懐へとしまった。
其れを見届けると、キラは跪いて祈りを捧げ始めた。
神官である以上、不死者は放ってはおけないのだろう。
しかし、魔物達は合コン中。手を出してはいけないと思い、浄化を祈るにとどまったのである。


月夜の塔入り口。
目的の品を見つけた四人は、元の出口へと戻って来ていた。
「やれやれ、これで仕事は終わりだな?」
「えぇ、ありがとうございました。おかげさまで助かりました♪」
「それじゃ、僕達はここで失礼する」
「そうですね、早く帰らないといけませんからね。依頼主さんに渡さないとです♪」
困っている人を救えると信じているキラは、ルンルンと帰り道を歩き始めていた。
そんなキラを見て、マイは少し深刻な表情で溜息をつき歩き始めていた。
「おい」
そんな彼女を呼び止めたのはオーマだった。
マイは、首だけで振り返ると「何か?」と尋ねた。
「お前、その石どうするつもりなんだ? キラの言ってた依頼主に渡すつもりなのか?」
「……」
「本心が知りたいんだが。その石を持った時のお前、普通じゃなかった。その石に思い入れでも…」
「…お前には関係ない。一つ言える事は…この石は、誰にも渡さない。絶対にだ」
そう言い残すと、マイはまたキラを追って歩き始めた。
オーマは少し心配していたのかも知れない。
彼女が一人で何かを背負い込んでいるのかも知れない、と。
でも、その心配はきっと無用だろう。
気の所為だと思い直すと、ユーアを見やった。
「行くか、仕事は終わったし」
「そうだな、俺達もここにいる必要はなくなった。仕事も終わったんだ、帰ろう」

不気味な満月の下、2人も帰路へとついたのであった。

†―――――――登場人物―――――――†

ユーア(2542)・女・旅人
オーマ・シュヴァルツ(1953)・男・医者兼ヴァンサー(ガンナー)

NPC
キラ・ラザフォード・男・神官
マイ・ランスハルト・女・機工師


†―――――――ライター通信―――――――†

初めまして、神無月鎌と申します。
オーマ・シュヴァルツ殿、今回のご参加ありがとうございます。

今回は、オーマ殿の行動を少し頑張って書いてみたのですが
未熟であったならば申し訳ありません。
丁寧なプレイングな上、面白いネタを見させて頂きとても喜んでおります。
まさか魔物を魅了するだなんて……桃色、恐るべし! ですね。

オーマ殿を私のNPC達に絡ませるのがとても楽しかったです、ハイ。
特にマイと絡ませてみました。似たような職業ですから、気が合うかな?と思いましたが
イロモノに染められる!?(笑)
この後、様々な2人の騒動と謎を解き明かすシナリオを考えております。
他のシナリオを見て頂ければ分かるかと思いますが、神話系で頑張りますが。
ネタあり、シリアスあり、戦闘あり、ハチャメチャありと頑張りますのでどうぞ宜しくお願いします。

それではまた、オーマ殿に出会える日を祈って……。