<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>
【誘いの記憶】魔女ノ祈リヲ求ム者
町外れにある聖堂。
其処は今は使われていないと噂されているが、2人の人が出入りしているという話もあった。
正解なのは後者の方。
この聖堂には2人の住人がいる。
「マイ、どうやら見つかったらしいですよ。例の代物の在り処。貴方が探している物と思われます」
黒衣を纏った術者らしき青年。白と黒の翼をもつキラ・ラザフォード。
「……そうか、あったのか。何処にあった?」
黒衣のロングコートらしき物を着こなし、男性のような井出達の少女。
二挺拳銃を得物として持つマイ・ランスハルト。
この2人が、この聖堂の主であるようだ……。
「どうやら少し近くのようなのですが、ただ問題があります」
「問題? どのような問題か、述べてくれ」
「一つ。地下墓地なんですが、其処はどうやら迷路のように入り組んでおり、無数の罠が仕掛けられている事」
「…罠、か…」
「これに関してはマイがいるから問題はないと思います。ですがもう問題はもう一つの方です。…その場所は、アンデットの溜まり場となっている事です」
キラがそう告げると、マイは小さく溜息をついた。
そして、読んでいた本を静かに閉じゆっくりと立ち上がった。
「確かに、魔物の数は問題だ。僕だけじゃ手に負えないんだろうな」
「ですよね。だから、誰か手伝ってくれる人を私が探してみようかと思うんです」
「……そして問題はもう一つあるわけだ」
「え? 何なんです、それ?」
「…どこかのドジ神官が罠のスイッチを押す事だ。慎重にという言葉をまず知らんだろうからな」
「ええ!? 誰なんです、その人!? 連れてっちゃダメです!」
「…お前だ、お前…」
そうしてまた一つ溜息をつく。
護衛対象兼パートナーが天然では、トラップも些細なものとは感じとれない。
其れを聞いて、キラはぷくーっと頬を膨らませた。
「大丈夫です! マイが探している代物には傷はつけません! 確か、サバティック・ゴートでしたよね?」
サバティック・ゴート。
それは、魔女達の間では愛用されているペンダント。
魔術を行う時身に付けると力があがるのだという。
「でも、どうしてサバティック・ゴートなんか探してたんです?」
「其れは、僕にも分からない。無意識に探していたみたいなんだが……もしかすると、僕がなくした記憶と関係があるのかもな?」
「……マイの大切な物だという事が分かりました! それでは私は探しにいってきます!」
「……迷子になったりしないだろうな……?」
そして、天使広場でその黒衣の青年は走り回っていた。
「うー……こ、ここは何処でしょうか……? 何時もマイと一緒だったので、道が分かりません……」
途方に暮れて歩いていると、ここでいいや! と思ったのか、手当たり次第に冒険者に声をかけていく。
「其処の貴方! 私と一緒に来てくださいませんか!? 腕のたつ貴方なら、きっと大丈夫だと思います! 難しい事は頼みません、お願いしますっ」
されど、相手にされない青年。
翼の気味の悪さと、不気味なまでの笑顔。
それが全てを拒絶させているのだと、気付く事はなかった……。
そんな彼を助けたのは一人の男。
美筋トレ中に発見されたキラは、彼オーマ・シュヴァルツに保護されたのである。
「よかったです! まさかオーマが手伝ってくれるとは思ってもみませんでした!」
「しっかし、またあんな所で何やってたんだぁ?」
「はい、実はですね…」
キラは全ての依頼の話をオーマに話した。
オーマは少し考えたのだが二つ返事でOKを出す。
彼とキラは友人であるのだから、友人を助けるのは当然だという結論である。
2人はマイの下へと急いだ。
「しかし、お前さん達一体何処に住んでるんだ?」
「ここですよ?」
キラが指差すと、其処には一つの聖堂があった。
町外れの聖堂。誰もいないとされていた聖堂。
其処に彼等は住んでいたという事になる。
中に入ると、待ちわびたかのようにマイがうろうろしていた。
「マイ、一人手伝ってくださる人を連れてきました。オーマですよ」
「…あぁ、お前か。また手伝ってくれるのか、物好きめ」
「そういう言い方をしてはいけませんよ、マイ!? すみません、オーマ。彼女、何時もああなんです」
「……それはともかく。準備を怠るなよ…? 僕は先に現地へ行く。お前はオーマと一緒に後で来い」
そう言い残すと、マイはツカツカと2人の間を通り抜け表へと出てしまった。
「本当に何時もああなのか?」
「今日は特別カリカリしているみたいですね。無理もありません、彼女の記憶が見つかるかも知れないのですから」
「記憶? アイツ、記憶ねぇのか?」
「はい。彼女と私が出会った時から、彼女の記憶は欠落していました。とても、悲しい事ではありますが…」
「エンジェルなのにどうにかしてやれねぇのか?」
「エンジェルだからといって人の記憶なんて操作出来ませんから。知らなくてもいい記憶だってあるのだと思いますし。それより早く行きましょう。またマイを怒らせかねないですよ?」
笑顔でそう述べるキラを見て、オーマは少し躊躇ってはいたものの、気を取り直してイロモノ出撃をするのである。
地下墓地前。
其処には既にマイが待っていた。キラとオーマは急いで走り寄ると、オーマを先頭にして中に入らせた。
今回は自分が殿を勤めるというのである。
「マイ、大丈夫なのか?」
「お前に心配される程の事でもない。僕はこう見えて機工師だ、問題はない」
「しかしお前さんを護衛する事も今回の依頼なんだがね…っと」
そう言うとオーマはホログラムマッピングセンサーを取り出し、通路の確認を始める。
便利な時代になったものだと誰もが感心するだろう。
とりあえず、灯りはキラに任せオーマは探索に集中する。
「マイ、後ろはどうだー?」
「問題はない。だが…」
「だが?」
「つけられているようだ。気配と殺気を感じるが、それ程の数でもない。まず襲っては来ないだろう」
「それは、ある意味問題あるっていうんだがなぁ…まぁいいか?」
「あれ? このボタンなんですかね?」
「バカ! 待て、きーちゃん! それはトラップ! 罠! OK!?」
スイッチを押そうとするキラに対して、オーマが慌ててキラを制御する。
キラは好奇心が強い為、どんなスイッチでも目の前にあれば押してしまう。
オーマは完全ではないがトラップの位置等はホログラムマッピングセンサーで把握は出来ている。
なのでキラがトラップに近づくと引っ張っていくのであるが、きーちゃんという呼び名はどうか…。
「しっかし、本当にここ入り組んでやがるな…」
「何せ、地下墓地ですからね。人が天命を終え安らかに眠る地。泥棒に入られても、道が入り組んでいれば分からなかったりと便利ですから」
「俺達も泥棒みたいなもんかね?」
「まぁ、そうなるな。しかし、これは墓荒らしではないとは言えるぞ?」
「そだな。ここの不死者浄化させておけば浄化作業してましたとか言えるもんな?」
「寧ろ、其れを全面的に出して許可をとっているからな。普通に問題はない」
腹黒い。
オーマはマイをちらりと見てそう思った。
カリカリしているそのストレスを不死者にぶつけ、目指す宝も奪って……。
一石二鳥ではないか! と。
しかし、今はそんな事考えている場合ではない。
キラを上手く制御しないと何時トラップに触ってくれるか分からないのだから。
「んで、この通路をこっちか…しかし、古ぼけてやがんなぁ…」
「そりゃそうですよ。ここは今はもう使われていないんですから」
「使われていない? じゃあこの死人の棺は?」
「処刑されて死んだ人や、身寄りのない人達の棺です。ここは元々そういう人の為に作られた地下墓地でしたからね」
「はぁ…戦争とかで死んだ奴等は家族の墓地があるってか…」
「そういうものですよ。誰も墓地施設に犯罪者の墓なんて作りたがらないですから、ここに収めるしか…可哀想ですよね、同じ人だというのに」
キラが小さく呟く。オーマもそれに少しは同意しているのか、苦笑を浮かべている。
イロモノが出せる雰囲気ではない。そう思っている部分もあるのかも知れない。
ただ一人黙しているマイですらも溜息をついているぐらいなのだから。
「犯罪者には人権などなくていい。特に宝石犯罪に関わった奴等はな…」
「お? 拘るな…一体どうしてだ?」
「お前には関係ない。少なくとも、嫌悪感だ」
「マイは昔からそうでしたね。宝石関連の事件になるとすぐムキになるぐらい」
「ってきーちゃん、頼むから前見て歩いてくれ!俺の身にもなって!!」
キラが話しながらマイの方を見ると、危うくトラップを踏みかける。
それをなんとか手で阻止したのがオーマ。手の平は踏まれちょっぴりやばい痛さである。
「あ、すみません! 大丈夫ですか?」
「頼むからきーちゃんはトラップと壁を見分けような?」
「其れをそいつに言っても無駄だ。そいつは確実に踏む、確実に」
「長い付き合いからの経験?」
「うむ。何度そいつのお陰で命を落としそうになったか、分からんからな」
マイとオーマが分かり合う出来事の一つである。
其れを聞いてるキラはやはり頬を膨らませ拗ねている状態である。
そんな話をしながら歩く事数時間。
やっと最深部に辿り着けたのはいい。
しかし、其処は大きな広間と化しており、更にはアンデットがうじゃりと溜まっていたのである。
「オーマ、キラを真ん中に。僕が後ろをやる、オーマは前を。挟み込まれてる…」
「おう、それは任せておけ! 不殺主義な俺は用意周到でな! 聖水弾装備だぜ!」
「敵の数はそんなに多くはない…上手い具合に罠踏みを阻止してくれたお陰だ」
「…犠牲は俺の手だったがな」
「その犠牲は気の毒だと思っている。多分な」
「へいへい…来るぞ!」
オーマが声をあげると、前からはアンデットの群れ。
後ろからは所狭しと急いで歩いてくるアンデットの少数。
オーマは素早く具現銃器を手にし、聖水弾をぶちまける。
少しずつではあるが、ダメージを与えている事には変わりはないのだが…。
「後ろは終わった。オーマ、前は?」
「聖水弾で何とかダメージは与えてるぜ。後もう数発打ち込めば…」
「余裕はあるんだな?」
「あぁ、何とかな?」
「なら、オーマ。一番奥のアンデットを見ろ。あいつの手にあるのがサバティック・ゴートだ」
「ふむ。あれがそうなのか…」
「隙を作る。お前はアレを奪って外を目指して走れ。やれるな?」
マイがそう言うと、オーマは小さく頷いた。
しかし、この出来事引き受けが後に可哀想な事になってしまう事は言うまでもないのだが。
「では、行く」
「あぁ、お前もちゃんと後ろついてこいよ!?」
「キラと先にいってくれれば僕もついていく、大丈夫だ!」
そう言い放つと、マイは腰にあった銃を抜きアンデットの群れを分散させるかのように立ち回る。
隙を見てオーマが奥にいたアンデットの手にあるサバティック・ゴートを奪い取ると、オーマは急いでキラの手を引っつかんで出口へと走り出す。
無論、マイも其れをみて退却をと考え銃を撃ちながらオーマに続いた。
しかしである。キラを走らせたが為、通路にあった罠を思いっきり踏み、アンデットの数が無数に増えたのである。
「オーマ、キラを抱えろ! そいつを歩かせるな!」
「こんなところで立ち止まったら囲まれるだろうが!」
「最初に言っておくべきだったか…ッ!」
「あわわわ…そんなに早く走られても困ります〜!」
「我慢しろ! ここで止まったらやられるんだっての!」
「うぇ…スピード酔いがぁ〜」
「いいから走れ、もう!」
三人は出口から勢いよく飛び出すと、慌ててその墓地の蓋を閉じた。
これでアンデットの群れは出てこれないだろう。
しかし不安に思うオーマは、持っていた聖水をその蓋にもたっぷりかけておくのだった。
「で、これがそのサバティック・ゴートか?」
「あぁ、確かにそうだ」
「ありがとうございます、オーマ。それで、マイ? これを見て何か思い出す事はないんですか?」
「……残念ながら」
マイがそう言うと、キラは少しガックリと肩を落とした。
苦笑して見ていたオーマもキラの肩をポンと叩く。
「どんな記憶かは知らねぇが、キラが探してるって事は知るべき記憶って事だよな?」
「……さぁ? それは僕にも分からないから」
「また何かあったら何時でも協力してやらぁ! それが親父愛だ!」
「何だか変わった愛なんですねぇ…」
キラがそう言っていると、マイはマイなりに落ち込んでいたのかフラフラと聖堂へと戻っていった。
其れを見て少し心配になるが、キラは笑顔のままオーマに深くお辞儀をした。
「今回も助けて頂き、ありがとうございました」
「いいってことよ。それよりマイの方は大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思います。今までこうやって何度も記憶を探して全てスカだったから…」
「ずーっと記憶探してみっかんねぇのか?」
「そうなんですよね。多分、彼女は…この世界の人ではないのかも知れませんね」
ポツリと自分で言った言葉を、ハッとして笑顔で誤魔化すキラ。
そんなキラを見て、オーマもそうなのかも知れないと思っている事だろう。
「それじゃ、私はこれで失礼します。あ、使った分の聖水は後で聖堂に取りにきてください、お渡ししますから!」
「お? そいつぁ助かる、後で寄らせて貰うぜ」
「はい。何かあったら魔の聖堂へ♪」
そう言って走り去るキラの背を見て、オーマは少し腫れた自分の手のひらを見つめ……。
「本当にこれ、可哀想な犠牲だよなぁ……」
と、呟くのだった。
†第一話・終演†
†登場人物(この物語に登場した人物の一覧)†
1953:オーマ・シュヴァルツ 性別:男性 年齢:39歳 職業:医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り
†ライター通信†
オーマ様、またお会いできましたね。
書かせて頂き本当にありがとうございました。
本当はギリギリまで人数を待とうかと思ったのですが
結局単体で書いてしまい、申し訳ないです(汗)
イロモノがプレイングに書かれていたので
取り入れようと努力した結果、こうなってしまいました(苦笑)
ネタと言えばネタなんですけどくだらないネタになってしまい
申し訳ございません(汗)
連携攻撃とか、そういうのもある程度考えましたが
連携プレイという事しか出来ず……も、申し訳ない…orz
それでは、またお会い出来る日を楽しみにしております…。
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