＜聖獣界ソーン・ＰＣゲームノベル＞
花屋と小人
街角でふっと見つけたもの。
それは二人にとって偶然ではなくもしかしたら必然だったのかもしれない。
馨と清芳は二人一緒に歩いていた。
何かに気がついて、ふと足を止めたのは馨。そこは掲示板の前。
「あれ？」
先に声をあげたのも馨。
その声にびっくりして慌てたのは、ついさっき張り紙を貼り終えた小人さんだった。貼り終えた矢先に早速張り紙を見つけた人物がいたのだから、自分の姿を見られないように物陰に隠れた。
「どうかしたのかい？馨さん」
「いや、何故だか。こんな場所に貼り紙が………」
馨がそっと指差したのは掲示板本来、貼り紙がされるであろう場所よりもずっと低い、掲示板の足の部分。そんな部分に小さな貼り紙ひとつ。
不振に思ったのか馨がしゃがみ込み、その内容を目で追っていった。
「あぁ、なんだかお困りのようですよ」
「え？」
馨が何を言ってるのかイマイチわからずに、清芳は馨の方を見ては不思議そうな顔をしている。
「いやいや、清芳さんも見てくださいよ」
小さく笑いながら馨はしゃがんだまま清芳を見上げて、さらにはこちらへと催促した。
その言葉に誘われた清芳もまた同じようにしゃがみ込み、内容を見た。
「本当なのだろうか？」
「さぁ、どうなんでしょうねぇ」
「ただの悪戯かも」
「えぇ、そうかもしれませんねぇ」
「馨さん？」
「楽しそうじゃないですか」
「――――うん、そうだね。本当なら、いいお手伝いができそうだ」
しゃがんだまま、二人は顔を見合わせて笑った。
そのまま二人は何も言わずに立ち上がる、同じ方向に歩き出す。言葉交わさずともその先は同じだから。
小さく笑いながら、小さな花屋を探しに出かけた。
その様子を物陰から小人さんはしっかり見ていて、しっかり二人の話を聞いていました。
その花屋は小さかった。
大きな通りにあるにも関わらず小さくほんの片隅にひっそりと。
その小さな店先で青い花を手に持った男性が花束らしきものを作っている。
「あの人だろうか？」
「んー。どうか分かりませんが、尋ねてみましょう」
同じ歩調で、肩を並べて歩いてきた二人が見つけた一人の男性。黙々と作業するその様。
馨は小さな店を一瞥してみた。看板などはなくただ小さな『open』と書かれたプレートが引っ掛けられているだけだった。
「あの、すみません。ここは Symphony in Cという名前の花屋さんですか？」
必死になって青い花束を作っていた男性は馨の声の反応に僅かにずれて、花から馨の方へと視線を移す。
「え、えぇ。そうですよ。ぁ、って。いらっしゃいませ」
突然のことに集中していた意識がきれたからか、男性は妙な言動をしながら慌てて作り掛けの花束を作業台の上に置いた。いらっしゃいませとともに、凄い勢いで頭を下げる男性。
その様子に馨も少し後ろで見てた清芳も笑ってしまった。
「そんなに慌てないでください、客じゃないのです」
「はい？」
「掲示板に貼ってあった、お手伝いの募集を見てきたのです」
「はいぃ？」
どうやら自分達のことを客だと思っている男性の対応に、馨は先ほど見てきた貼り紙の話をしてみる。するとおかしな反応になる男性。腕を組み首をかしげていた。
「あれ、貼り紙だされてませんでしたか？」
「そう、期間限定、お手伝いさん募集と」
「えぇぇぇッ！？ いや、知らないです、知らないです」
男性は唸りながらも続く馨と清芳の言葉を聞いていれば、慌てて否定をする言葉ばかり。あれ、話が違うと馨と清芳は顔を見合した。
「でも、忙しいですか？」
「まぁ、そうですね。６月でブーケとか、ウェディングものの注文が多くて」
尋ねたのは馨。
答えたのは男性。
忙しいのは事実らしい、ブーケという言葉で男性の視線は作りかけの青い花束へと向けられた。
「私は馨といいます。お忙しいのなら是非にお手伝いさせてください」
「私は清芳。私もできれば手伝わせていただけませんか？」
「僕はエイト。大したお礼はできないかもしれませんが、お手伝いしていただけるのなら、嬉しい限りです」
二人の申し出にエイトはにこやかに笑って頭を下げた。お願いしますと。それに馨と清芳の二人も頭を下げてお願いしますと。
「それじゃぁ、早速で悪いのですがお願いできますか？」
頭を上げてから馨と清芳を見て、仕事内容を伝え始める。
「ブーケをあといくつか作らないといけないので、まずはそれから」
そう言って、エイトは注文書を2枚取り出して、馨と清芳に一枚ずつ手渡していく。
「馨さんの方のご注文は、紅いドレスを着られるそうなので、それに似合う薔薇のブーケをお願いされてます。清芳さんの方は白のウエディングドレスなのですがマーメイドタイプでスラリとしたデザインだと聞いてます。特別僕からこうしてくださいとは言わないので、お二人の思う花を選んで下さい。お花はこの店にあるものならどれを使ってもらってもいいです。作り方はちゃんと教えますから」
その他の注意事項は注文書の方に書いてありますと、付け加えてほぼ全てを二人に任せたエイトは作りかけの青いブーケの制作に戻る。
馨は受け取った注文書をもう一度見る。
深紅のパフスリーブで豪華なデザインのドレスの絵とブーケのデザイン、そのほかの希望等が書かれていた。
そのデザイン画を眺め、小さな花屋に所狭しと置かれている花を眺める。
希望は薔薇ということ。
この花嫁さんの要望が分かれば馨は一度目を閉じて大きく深呼吸した。
地術師という職業柄、自然から力を分けてもらっている。今日もまた形は違えども力を借りることになるな、と思えば目をゆっくりと開いた。その表情は優しく微笑んでいた。
薔薇が立ち並ぶバケツの前に移動すれば、どれがこの花嫁さんに似合うかを考えてみる。ふっと感じた気配視線だけを其方に向けてみれば、清芳が片手に注文書、もう片手は腰に宛がって花と注文書を交互に見ては眉間に皺を寄せていた。
「清芳さん…………ココ」
柔らかい笑顔のまま馨は清芳を呼び止める。その声に気がついた清芳もまた同じ表情のまま馨の方を見た。馨は笑ったまま眉間に自分の人差し指を押し当てて、清芳に見せる。その仕草に清芳は慌てて腰に宛がっていた手を離し、指先で自分の眉間をゆっくりと撫でてみた。そこには深い皺が刻まれていた。
「―――――――あ」
「そんなに根を詰めてしまってはいいものができても固いかも知れませんよ。幸せのお手伝いなんですから、少しぐらい楽しんでやったっていいじゃないですか」
「あ、あぁ。そうだね、馨さん」
馨の言葉にはっとなったような清芳。そうして言葉を返すときには満面の笑みで答えて、もう一度注文書を見ては花を見てみた。その眉間にもう皺はなく、口元に小さな笑みが浮かんでいた。
そんな清芳の様子を馨もまた笑顔のまま見ていた。
清芳なら彼女なら、どんなドレスがどんなブーケが似合うだろうかと自然と考えてしまっていた。
ダメだダメだ。と、心の中で笑いながら馨もまたすぐに紅いドレスの花嫁さんのために幸せの花束になる素材を選びだす。
夫婦といえども何か形らしいことをしたわけではない。
一本の薔薇を選びふっとそんなことを思った。
清芳さんの言葉が二人の関係の切欠になった。
なら、自分にも何かできるんじゃないだろうか。
薔薇の花を選び抜きながら、清芳を見る。
花を選び終わった彼女は、エイトにブーケの作り方を教わっていた。白い立派なカサブランカを手に持っている姿。
いろんな想いが交差して自然と馨の手は止まっていた。
「あ、そうだ」
思いの中から現実へと馨を引き戻したのは、エイトの少し大きな声だった。エイトはそのまま馨の方を見て言葉を続けた。
「あの、馨さん。途中で悪いのですが、配達をお願いできませんか？」
「え、えぇ。構いませんよ」
選んだ薔薇の花を手に持ったまま、馨はエイトの方へと向き直り答える。
「いい色合いですね。このブーケの続きは僕が作っていっても構いませんか？」
「えぇ。もちろん、途中まででこちらが申し訳ない」
「いえ、配達をお願いするのですから。それで配達して欲しいのは…………」
エイトが地図を差し出して、場所の説明をしていった。
そうして馨はブーケの入った箱を二つ持って、花屋を後にした。
配達場所は少し離れた丘にある教会と、街のなかの小さな教会だった。
帰りのことを考えて先に丘にある教会へと向かった。
届けたのは水色のブーケ。今日の晴れ渡った空と花嫁さんの白いドレスによく映える。その頭には小さなブルースターで作ったヘッドリース。可憐な花嫁さんによく似合っていた。
「おめでとうございます」
「こんな場所まで持ってきていただいてありがとうございます」
ブーケを受け取った花嫁さんはその水色のブーケを見てはため息をこぼし、幸せそうな笑顔を馨に向けた。
その笑顔がどうしてだか、頭から離れない。2件目の届け先に向かっている今でも。
―――― どうしてだろう。
ブーケを花嫁さんに手渡した後すぐに始まったこじんまりとした結婚式に少しだけ参列した。
その花嫁さんは終始、幸せな笑顔を浮かべていた。
―――― どうしてだろう。
そうこうしてる間にもう、街の小さな教会の前に立っていた。
シスター達がにこやかに準備を行っているのに歩み寄る。
「すみません。あの、ブーケのお届けに参りました」
「あぁ、はいはい。お待ちしておりましたわ。さぁ、こちらからどうぞ」
馨に気がついたシスターは裏口へと馨を案内した。
扉が開かれたそこはもう控え室になってるのか、純白のドレスを着た花嫁さんが椅子に座っていた。
「おめでとうございます、花屋です。ブーケをお届けに来ました」
その声に花嫁さんは馨の方を見て笑う。さっきの花嫁さんと同じくらい幸せそうに。
「ありがとうございます」
馨は丁寧に箱から取り出すと、花嫁さんへと手渡した。
「物凄く綺麗、どうもありがとうございます。お時間がよければ参列していってくださいな」
ブーケを手にした花嫁さんはブーケを見ては、うれしそうに目を細める。その様子を馨もにこやかに見ていたが、その後に続いた花嫁さんの一言に、一瞬考えた。
これで頼まれた配達は終わりだった。早いこと帰って次の仕事があるのかもしれないし。
そう思案していたときの花嫁さんの一言が彼の背中を押した。
「できたら参列してくだされば、うれしいのだけれども」
「じゃぁ、少しだけ」
程なく式が始まった。
教会の中では厳かに執り行われて、そうして幸せな二人が教会からでてくれば皆でフラワーシャワーを投げる。そこだけ幸せな色に包まれているかのよう。
花嫁さんと花婿さんは顔を見合わせて笑っていた。
二人とも物凄く幸せそうで。
その笑顔のまま花嫁さんは持っていた白い花のブーケを青い空へと向かって投げた。
「ただ今、戻りました」
配達を終えた馨がもどってきた。
「おつかれさま、どうもありがとうございました」
その店頭にいたのは何故かエイトだけだった。
あれ。と、馨は少し顔を傾げたが、清芳も自分と同じように配達にでも出かけたのだろうかと。
「あれ、それどうしたんですか？」
エイトが何かに気がついた。それは馨が手に持っているブーケだった。
自分が渡して、配達を頼んだものがまた舞い戻ってきたのだから、不思議そうにブーケと馨を交互に見つめた。
「あぁ、これですか？………―――――ブーケトスで私のところに飛んできてしまったのです」
「あぁ、それはおめでとうございます」
「なんでおめでとうございますなんですか」
エイトの受け答えに、馨は少し困ったような笑顔を浮かべた。
「幸せのおすそ分けですよ。有名なジンクスでは、ブーケを受け取った人が次に結婚するとかありますけれどもね」
エイトはにこやかに笑いながら、そんなことを言う。
馨はまだ少し困りながら。
「あぁ。でもそれならどうなんでしょうね。私はもう結婚してますし」
「あれ？そうなんですか？」
「え、えぇ。まぁ。―――――――――………いや、まぁ。それはおいておいて。配達は終わったので、次にお手伝いできることはありませんか？」
「ありがとうございます。今日はもう大丈夫です。………今日手伝ってもらったお礼がしたいのですが、なにかありませんか？」
「じゃぁ、それなら」
結婚してるという言葉にアレと首を傾げたものの、それ以上何か言うことなく。今日はこれで大丈夫だから手伝ってくれた御礼がしたいというエイト。
それにふっと、馨が少し考え込む。
見たのはまだ手に持っていた白いブーケ。
そうして顔を上げた。
「余った花でいいんで、小さいのをふたついただけませんか？」
「花？えぇ、かまいませんよ………それなら」
馨の申し出にエイトは快く返事をして、更に言葉を続けた。まるでなにか悪戯をする子どもみたいに楽しげに。
その言葉の続きに馨はうれしくもあったけれども、まだ少しの戸惑いもあった。
清芳さんは喜んでくれるだろうか。
そんな様子を、バケツの陰から小人さんは一部始終全て盗み見しては、ひとりふむふむなんて納得顔の後、何を思ったかその場から離れてどこかへと歩き出す。
家へとついたのはもう夕方になろうかという時間。
陽は大分と傾いていた。
「清芳さん。ちょっといいかな？」
二人して一緒に帰ってきたのだけれども、それはなんだか二人とも少しぎこちなく。会話をしても少々かみ合って居ないような。二人ともなにか隠しているような。
その中で先に口火を切ったのは馨。
庭先に出ていた彼は家の中にいる清芳に向かって声をかけた。
家の中でなにやらごそごそしていた清芳は少しびっくりしながらも、馨の声のする方向へと顔を向ける。
「な、なんだい馨さん」
「こちらへ来てはもらえませんか？」
何気ない言葉をかける馨。何も変わらずいつもと同じ言葉、口調。けれども彼の鼓動は早く大きかった。
馨の言葉に誘われて、清芳が庭へと出てきた。
「あの、清芳さん？」
「なんだい、いきなり改まって」
「少し目を瞑っていただけませんか？」
ドキドキしているのを清芳に悟られないように馨は庭に出てきてくれた清芳に突然目を瞑るように言う。清芳はそれを怪訝に思いながらも、言われるがままに目を瞑った。
ふわりと、何か風を感じた。頬になにか柔らかいものが触れた。
馨がいいと言う前に清芳は目をあけてしまった。
「――――――――あ」
それに思わず吐息を出してしまったのは馨。
まだ何かよくわかっていない清芳は少しだけ不思議そうな顔を馨に向けていた。
ふわりと夕暮れ時の風が吹いた。
目の前をふわりと純白のものがよぎった。
清芳は何事だと純白の薄い布を手に取った、それが頭から被されている事に気がついた。
「か、馨さん、一体これは………」
「結婚式、まだだったので。二人だけですが、結婚式しませんか？」
「――――――…………ありがとう。ありがとう、馨さん」
不思議そうな表情は一変して馨に向けるのは、溢れるばかりの満面の笑み。
今日見てきた花嫁さんたちと同じような笑みを浮かべる清芳の表情に、馨は胸がいっぱいになる。
純白のヴェールを被った彼女の頭の上に花冠をそっと乗せた。
「あ、ちょっと待って」
花冠が頭から飛ばないように、手で押さえながら家の中へと駆け込んでいった。
しばらくすればはにかんだ笑顔で手に、白いラウンド型のブーケを手に持った清芳が家の中から飛び出してくる。
「さ、清芳さん危ないですよ」
とん、と、飛び出した清芳の身体はふわりと宙に浮かぶ、それに馨は慌てて両腕を清芳に向かって差し出す。
まるでそこに包まれるのが当然のように、清芳の身体は馨の腕の中へ。
「ご、ごめんなさい。馨さん。なんだかちょっとはしゃぎすぎた」
「いいえ」
舞い上がっていた気持ちを静めたのは馨の腕。その腕の中に包まれているという事実。
清芳は頬を少し赤くしながら馨のほうを見た。それにまた馨も視線を合わせるものの、それ以上二人に言葉が続くことはなかった。
ほんの少し気まずい空気。
ほんの少し互いに照れている雰囲気。
夕暮れに染まりかける緑燃える庭。
馨はほんの少しだけ名残惜しかったけれども、清芳の身体から腕を離した。
それから真っ直ぐ清芳を見る。
「清芳さん、これからも一緒にいましょうね」
「うん、馨さん。ありがとう」
切欠が見つからずにいえなかった言葉。
できなかったこと。
背中を押してくれたのは今日であった、花嫁さんたち。
幸せな笑顔、その笑顔を浮かべる大好きな人が見たかった。
それは今目の前にある。
こちらを見上げて見せてくれる表情。柔らかく幸福に満ちた笑み。
それが自分が見たかった表情、駆け出してきた拍子に落ちた花冠を拾い上げてまた清芳の頭にそっと乗せた後。
「清芳さん、手を出してください」
清芳は言われるがままに、馨へと自分の手を差し出す。
細く可憐な清芳の指に、馨はそっと指輪をはめる。
白い小さなスズランの生花でできた指輪だった。
「馨さんこれどうしたんだい？」
「お花屋さんで頂いてきたのです。今日のお礼に何かできませんかなんて言ってもらえたので、なら小さな花をくださいと」
「貰った花で馨さんが作ったのかい？」
「えぇ。でも実はこれ、花屋さんが作ったブーケなのですよ」
「えぇー？」
「配達行ったときに参列した花嫁さんが投げたブーケが何故だか僕のところに飛んできたのですよ。だから幸せのおすそ分けを頂くことにしたのです」
馨は清芳の頭に乗せた花冠もそうだという様に、視線をそちらにむけてからまた清芳を見て笑った。
「そういえば、帰ってきたとき清芳さんいらっしゃらなかったようですが、配達にでも？」
「え、いや、違うんだ。そのこれを」
作っていた。と、小さな声で付け足した清芳の視線は片手に持っているブーケへと注がれた。
あぁ、と、馨は納得した。
そうしてまた、清芳を見る。
「私もうれしいですよ」
自分と同じことを清芳が思っていたくれていたということ。
思わずそのまま少しだけ身を屈めて清芳の額に口付けを落とした。
「か、馨さんッ！？」
驚いた清芳は上ずった声を上げてしまう。
「ありがとうございます」
額から唇を離しながら、そっと囁くように言葉を告げる。二人しかいないのに、彼女だけに聞えるように囁きにも似た言葉。
清芳の左手を取ったまま、小さな花の指輪は清芳の薬指にするりと納まって行く。
「私、馨は、清芳を生涯妻とし、愛し続ける事を誓います｝
指輪をはめながら馨が誓いの言葉を清芳へと紡いで行く。
「私、清芳は、馨を生涯夫とし、愛し続ける事を誓います」
今度は馨の左手を清芳がとり、同じ花の指輪を同じ薬指にはめていきながら、今度は清芳が馨に誓いの言葉を紡いで行く。
互いの同じ指に同じ指輪。生花でできた小さな脆い指輪。
けれどもその思いは強く。
それはこの先もずっと変わることなく同じで。
どちらかともなく顔と顔が近づいた。
そっと相手の唇を自分の唇の上に感じ取る。
丁度二人の唇が重なったとき、どこからともなくふわりふわりと花びらが降りだした。
白やら水色、薄ピンク色。色とりどりの花びらが空から降り落ちる。
そっと二人が唇を離した時、まだ花びらの雨は降っていて。
二人だけの結婚式をお祝いするように、ひとしきり花は降り注いでいた。
自分達のほかに誰もいないのにどこからともなく降り注ぐフラワーシャワーを二人は手を取り合って不思議そうに見上げていた。
そんな様子を木の上から笑って見ていたのは小人さん。
二人のささやかなお祝いに、こそりとフラワーシャワーを降らしたのも小人さん。
きっとそれは、偶然じゃなんかじゃなく。
どこかでそうなるべくしてなった必然。
踏み出せなかった一歩は些細な切欠で。
ただ隣にある笑顔がこれからもあることの幸せ。
―――――――――fin
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
3009/馨 （カオル）/男性/25歳（実年齢27歳）/地術師
3010/清芳 （さやか）/女性/20歳（実年齢21歳）/異界職
NPC
花屋の店員→ エイト/男性/25歳/flower shop 〜 Symphony in Cの店主でフローリスト
小人さん→ 小人さん。街中に実は沢山いるかもしれない小人さんたちの中のひとり。花屋をよく訪れる。
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■ ライター通信 ■
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馨 様
はじめまして、こんにちわ。
ライターの櫻正宗です。
この度は【花屋と小人】にご参加下さりありがとうございました。
初めてのご参加いただきうれしい限りでございます。
清芳さんとのカップルでのご依頼ありがとうございます。
素敵なこの時期にぴったりなプレイングで、こちらのほうが心温まりました。
素敵なお二人の結婚式という要の行事に参加できたことを嬉しく思っております。
あまり表には出さないけれども、清芳さんのことを誰よりも愛しむ馨さんを目指して書かせていただきました。
期待に沿えるものができあがっていればいいのですが、こちらは本当にお二人の心の底の強い絆と仲のよさに
くらくらでした。
カップルでのご参加ということだったので、途中途中で視点を切り替えさせていただきました。
両方読んでいただいて、両方の気持ちが分かればいいなと思っています。
素敵な素敵なお二人に出会えたことを嬉しく思います。
それでは
重ね重ねになりますがご参加ありがとうございました。
またどこかで出会えることを祈りつつ。
櫻正宗 拝
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