<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


眠れる森の少女(全5話/3話〜アンデッド・ドラゴンとの戦い)

 少女に導かれ、探索した者達の中に、ただの1人も生存者が居ないという森。その森に潜む、アンデッドとアンデッドドラゴンを排除し、その奥に眠るであろう遺跡を観光地化したいという、身も蓋も無い願いを出した村があった。
 お宝と謎を掲げたその依頼のチラシに、様々な思いを抱いて、それを解決すべく、人々が集まってくれた。
 そこで、彼等が見たものは、無残な現実だった。

 村には、老人しか居なかった。
 廃村は間近だろう。
 家庭菜園かと思えるほどの農地を維持するのもやっとの有様で、観光地化出来れば、街に出稼ぎに行った若者が戻ってくるのでは無いかと言う、苦肉の依頼だったのだ。だが、たとえ、アンデッドを倒しても、アンデッドドラゴンを倒しても、村を離れた若者達が帰ってくるかといえば、誰も、その成否はわからない。

 まずは、問題の少女に会おうと、森に分け入った。少女との邂逅は、意外なほどあっさりと終った。
 そうして、少女の唇を読唇したレピアにより、アンデッドが出現するボーダーラインも判明し、集まった者達は境界線を越えて森に分け入った。
 暗い森から現れるアンデッド。
 木々をぬうように襲いかかられ、聖水が効かないアンデッドまで出現した。炎は有効であった為、火焔が唸った。数こそ多くなかったが、魔法がぶつけられる。しかし、それは事前に健一によって防御魔法が発動されており、防がれる。じりじりとした戦いの末、昼から始まった戦いは、夕暮れ時までもつれ込んだのだった。
 
 暗い夜の闇に、少女が浮かび、導かれるままに集まった者達は、アンデッドドラゴン戦に突入するのだった。









 レピア・浮桜は、森に轟いたアンデッドドラゴンの咆哮に、その整った眉を寄せた。
 仲間達は、戦いは、昼の方が得策だという方向で話していたのではなかったのか。
 
 夜の闇に揺れる少女は、その動きを止めると、レピアに振り向いた。
 相変わらず、焦点の合わない瞳だ。
 その瞳が、赤とも紫とも判別しない色合いに揺れ、出現時と同じように、空気に溶けるように、かき消えた。
 軽く唇を噛むと、レピアは、少女の指差していた方角へと走り出す。ふわりと青い衣装が揺れ、青い髪がなびいた。

 一方、オーマ・シュヴァルツと山本建一は、少女の指差す方向の距離が掴めず、森を進んでいると、いきなり目の前が開け、立ち止まった。星明りが美しい夜空が、ぽっかりと真上に広がる。
 広い空間の先には、夜目にもわかる、小山のようなモノがあった。
 アンデッドドラゴンだ。
 青とも緑ともつかない、淡い光がアンデッドドラゴンに浮かび上がると、森の端に居たふたりを、敵意をもった双眸が睨んだ。
 咆哮が、轟き、アンデッドドラゴンを中心とした森が揺れる。
 骨組みだけになってしまっている、身長と同じくらいの翼が星空に伸び、太い首、太い足を、太い尾で支えて立つが、身体中から、はらはらと、発光と共に、かつての鎧が無残な形でしたたり落ちる。胴体に比べて華奢な前足ではあったが、白濁した爪の攻撃は早そうである。
 その奥には、背の低い建造物も見える。

「このまま、戦うかね」
「随分奥に来てしまいましたし。構いませんよ」

 アンデッドドラゴンが、足枷を嵌めているとわかっていても、身構え、ふたりは軽く目配せをする。
 オーマの姿が、ゆらりと傾ぎ、2mを越す巨躯が縮む。縮んだと言っても、健一よりは高い。漆黒だった髪は、銀色の髪に色を変え。隆とした体つきが、柳がしなったような体躯に変る。
 その両手には、すらりと長い諸刃の長剣が握られていた。何も無い空間から、赤い火花が生まれると、仄かに辺りを照らして、オーマの持つ2刀に纏わりついて行く。かつて振るっていた2刀とは、似て非なるものであった。オーマには、辛い記憶をも呼び起こす重さではあったが、しっくりくる重さでもある。

「聖水が効かないと、また後手に回っちまうからな」

 2刀に炎を纏わせたオーマは、赤い双眸にその炎を映し込み、口の端を上げて笑った。

「後衛任せても?」
「任されました」

 健一は、魔力回復のソルフの実を取り出して口にする。アンデッド戦で消耗した魔力も、これで回復する。無尽蔵の魔力では無いが、かなりいけるという、実力に裏打ちされた自信もある。
 そうして、アンデッドドラゴンに向かって踏み込んだふたりの背後から、声がかかる。

「あたしも混ざるわよ」

 レピアが、追いついたのだ。鉄扇を持って、オーマに並び前衛に飛び出すと、その姿が、揺れる。踊り子が舞うのは当然だが、レピアの攻撃は、長い足と手が、ふうわりと、まるで舞うようにアンデッドドラゴンへと向かう。

「はぁあっ!」

 美しい脚線美が吸い込まれるようにアンデッドドラゴンの足に叩き込まれる。
 その、レピアの攻撃を叩き落すつもりなのか、濁った白い爪のある、人の身長ほどの手が襲う。さして鋭くも無い爪のようだが、その振り下ろす早さは、レピアの一撃と同じくらい早かった。一瞬、レピアが打たれたかと思えた。だが、打たれたレピアは、淡く揺れて消えた。

「レピアさん!」

 健一の操る炎が、水の精霊杖セブンフォースエレメンタラースタッフから繰り出され、レピアを襲うアンデッドドラゴンの腕を打っていた。水と銘打たれているスタッフだが、組込まれた宝玉が、全ての魔法力を高める。
 レピアはすでに、一端アンデッドドラゴンより離れていた。打たれたのは幻影だったのだ。
 攻撃力は、あるレピアだが、重い一撃を受けるのは流石に辛い。下がると、すぐに攻撃位置を移動し、別方向からアンデッドドラゴンを狙う。重たい鉄線が、金属の音をさせ、細かい飛沫を払いのけると、目はアンデッドドラゴンに向けられたまま、笑みを浮かべる。

「大丈夫よ!」
「そおおおおらぁっ!」

 オーマも、レピアが下がると同時にその両刀をアンデッドドラゴンの尾に叩きつけていた。骨組みだけの翼や、太い尾が暴れたら、かなりやっかいだからだ。
 鈍く重い手応えに、構わず力を入れて、砕けよとばかりに振り抜いた。火炎が刃と共にアンデッドドラゴンにじわじわと入っていき、そのまま振り抜くと、切り裂かれたアンデッドドラゴンから腐臭が立ち上る。鼻につくが、構ってはいられない。

「おおおおぉっ!」

 ぽたり。ぽたりと、嫌な液体が辺りに飛び散る。
 アンデッドドラゴンの大人ひとりは軽く入ってしまうだろう、大きな顎が、咆哮と共にオーマを襲う。その機をみて、レピアの蹴りが、淡い幻影を連れ、再び死角から、アンデッドドラゴンの足に入った。
 大顎の狙いは、僅かに逸れて、がちりという、嫌な音を響かせる。

「この魔法を使うのは久しぶりですね。ファイヤーバード」

 その間、ふたりに当たらないように、健一の炎が、アンデッドドラゴンを襲っていた。紅蓮の炎が翼を広げ、火の粉を舞い散らせ、火炎弾のようにアンデッドドラゴンに降り落ち、動きを鈍らせる。
 レピアの、幻影を組み合わせた足技と、オーマの炎を纏わりつかせる2刀と、健一の、空からの炎の魔法が、アンデッドドラゴンを休ませること無く襲い続ける。
 アンデッドドラゴンは、頭を振りまわし、手を振りまわし。
 その骨組みすらももぼろぼろに崩れた翼をわななかせ、あまり動かなくなった尾を打ちつけて、咆哮を上げ続ける。

「どうやら、噛みつきと引っかき攻撃が主な攻撃だったようですね」

 後衛から、抜かり無くアンデッドドラゴンの動きを観察していた健一が呟く。様々な魔法攻撃をも予測していたが、それは無さそうで、アンデッドドラゴンは、太い銀色の円形の足枷に阻まれ、動きは限定されたままのようだった。
 攻守に不足無い攻撃は、確実にアンデッドドラゴンの体力を奪っていった。彼が、長い束縛から開放されるのは時間の問題であった。
 




 誰の攻撃が最後であったのかは、わからない。
 アンデッドドラゴンは、咆哮を上げながら、その太い首を、星空を仰ぐように振り上げた。
 青とも緑ともつかない淡い光は、アンデッドドラゴンを包んでちらちらと点滅していたが、その光もやがて消え、地響きを立てて、アンデッドドラゴンは地に臥したのだった。

「尽きねぇ命で罪垢を背負い生きやがるのはだな、俺みてぇな咎人だけで十分なんだぜ?」

 オーマが、呟き、そのまま、アンデッドドラゴンを浄化し始める。
 その呟きは、レピアの気持ちも揺さぶる。
 永遠ともいえる長い罪科を払う何かは、この遺跡に眠っているのだろうかと。
 健一の鎮魂歌が、オーマの浄化を助け、倒れたアンデッドドラゴンは、その身を光の粒子に変え、空へと上がって行く。
 幾万の星が、アンデッドドラゴンを迎えるのだろう。必ず空へと上がるのは、魂の理なのかもしれない。

 最後のひとつの光を見送ると、3人はアンデッドドラゴンが護っていた場所に立った。大きな足輪は、現存するソーンの技術でないのが見て取れる。その足輪の下には、隔壁のブロックベイの取っ手のような、引き出し型の丸いノブがあった。見つけたオーマが、慎重にその取ってを引き出す。おそらく、これが地下へと続く、遺跡の入り口なのだろう。
 健一は、強行軍で王都と行き来した、レピアの探索を聞きたかった。少し離れた位置に立つレピアに、声をかける。

「レピアさん。王都での収穫はありましたか?」
「収穫…というほどの物は無かったわ。ただ、神話ほどの昔、この地に、神に落とされた星があったというくらいかしら」

 夜風に揺れる長い髪をかきあげながら、レピアは嘆息する。
 そんなレピアに、満面の笑みを浮かべて、オーマが振り返った。

「大収穫じゃねぇか?」
「え?」
「神話にはよくある話しですが、この有様を見れば…という所ですか」

 オーマに合図地を打つと、健一も、星空と足元の扉を交互に見て微笑む。

「星は、船だな」
「この扉の下ですね」

 王都で出来る限りの事をしたつもりのレピアだったが、自分には、手掛かりも無く、酒場での反応も薄いと思っていただけに、ふたりが笑う意味がわからない。
 オーマは、異文明の存在の当りをつけていただけに、レピアの持ってきてくれた神話は、その推測の裏づけとなったのだ。
 
「アンデッドには聖水の効かねぇのが居た。あの少女は、どう考えてもホログラム…。立体映像だ」
「…」

 怪訝そうにしているレピアに、オーマはまた笑いかけた。

「落ちた星が、この地下に眠る遺跡かもしれないって事だ」
「ソーンに無い、科学文明…それも、かなり高度に発達していますからね。まず、間違い無いでしょう」
「星…が船?じゃあ、あの少女は船に眠っているの?」
「少女が少女のままかは、調べてみないとなんとも言えないがな」

 神に落とされた星。
 レピアは、複雑に揺れる青い瞳を星空に向けると、また、揺れる髪をかきあげた。

「ここを開ける前に、あのダミーの扉。調べて見る気はありませんか?」

 健一は、少女が言っていた、ダミーの扉の調査を口にした。
 ウィルスを持ったマウスが居るというが、血清はある。このまま、放置しっぱなしというのも、どうかと思ったのだ。
 地上にある建物を眺めても、酷く小さく、貧相な石作りの廃墟である。一応、扉と見られる物は残ってはいたが、それはダミー。囮の扉だと告げられている。あえて、開けなくても良いのだが、それぞれに頷いた。

「俺は賛成だ。手掛かりは多いほうが良いからな」

 罠の中に潜む真実も、あるかもしれないと、オーマも思っていた。
 ダミーの扉は、鍵も無く、石作りの重さはあったが、簡単に外開きに開いた。警戒していた3人だったので、まばゆいばかりの黄金に目が眩む事無く、襲ってくる小さなマウスを捕まえるのは、わけは無かった。

「機械仕掛けのねずみだ」
「機械?」
「ああ、精密機械だ」

 レピアが腕を組んで、オーマの手の中のマウスを少し離れた位置で見る。オーマの一握りで、簡単に動きを止めた茶色いマウスは、身体に小型の動力を持ち、ウィルスとみられる小さな内袋を持っていた。マウスは一匹。普通のマウスならば、この閉鎖空間に餌も無く、居られるはずなど無かった。
 まばゆいばかりの黄金は、延べ棒の塊のホログラム。幻影だった。仕掛けを見つけようと考えていた健一とオーマは、天井に小さな映写機があるのを発見した。

「他に扉は無さそうですね」

 入念に壁をチェックする健一に、黄金のホログラムが被さり、揺れる。
 大量の延べ棒に、レピアは溜息を吐く。この延べ棒の中には、レピアを蝕む神罰<ギアス>を解く切っ掛けとなりそうな品は無さそうである。

「この黄金…見つかったら、村の復興の為に使って貰えたらと思うわ」
「そうですね」
「この延べ棒が本当にあったらな」

 オーマは口の端を上げて笑うと呟いた。
 単純に、このホログラム通りの宝物があるとも限らないのだ。

「少女…出てきませんね」
 
 健一が、黄金のホログラムから抜け出るように扉の外へと歩いていく。
 そういえば、少女が出て来ない。
 アンデッドを倒した後は、出てきたのに、アンデッドドラゴンを倒しても、あの寂しげな表情の少女が現れないのも気になる事ではある。
 軽く首を横に振り、健一の後から扉を出るオーマを一瞥すると、レピアも、触れない黄金を手に映し、少し考えると、外に出て行った。ホログラムで明るい室内から外へ出ると、真っ暗な夜空と降るような星空が見えた。
 少女は、もう出て来ないのだろうか。
 




 地下への扉は、簡単にその口を開けた。
 取っ手を捻って引き上げると、待っていたかのように、軽い振動と共に自ら開いて行ったのだ。大人がふたり横に並ぶ程度の穴へは、金属製の梯子がかかっていた。
 梯子の向かい側には、壁のようだったが、健一とオーマはそれが扉だとわかる。
 大人の手のひら大の、何かの認証の為のパネルがある。

「これ、何かわかる?」
「ああ、助かる」

 少女が現れないのは何故かわからないが、レピアは、現存する手掛かりとして、入念にアンデッドドラゴンの足輪を調べていた。つるりとした金属だったが、1箇所、手で押せる小さな場所があったのだ。慎重にそれを押すと、薄い金属の板が手に落ちてきた。
 それは、認識票であった。
 
「遺跡には、他には何も無さそうですね」

 ぐるりと、簡単に1周出来る小さな廃墟は、あのダミーの扉以外は何も目立ったものは無さそうで、慎重に手掛かりを探していた健一も戻ってくる。
 レピアが見つけた認識票を、パネルに合わせると、壁のような扉は、音も無く、横にスライドしていった。
 その中は、乳白色の光が、上下左右に灯り、無機質の、光る、人工的に作られた通路が、奥へと、3人を誘うのだった。
 























   ++ 第3話 END ++










+++登場人物(この物語に登場した人物の一覧)+++

0929:山本建一       性別:男性 年齢:19歳 職業:アトランティス帰り(天界、芸能)
1926:レピア・浮桜      性別:女性 年齢:23歳 職業:傾国の踊り子
1953:オーマ・シュヴァルツ 性別:男性 年齢:39歳 職業:医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り


+++ライター通信+++

山本建一 様 ご参加ありがとうございます!!
 炎の鳥っ!と、喜んで描写いたしましたが、いかがでしたでしょう。それと、レピア様に報告を聞いて下さいまして、ありがとうございます!あれがあると無いとでは、今後の会話等で、皆様方の手にする情報が違う物になったと思います。さらに、少女が現れなかった事を気にして頂いて嬉しいです(^^ヾ
 台詞は、きちんとご希望通りに組み込まれていますでしょうか?どきどきです。
 
 とてもバランスの取れた戦闘になりました事、お礼申し上げます!皆様のプレイングを照らし合わせてびっくりしました。相談とかされてませんよね?各フォローの見事さに脱帽です。
 何かありましたら善処致しますので、お手数ですが、どうぞご連絡下さい。
 書かせて頂いて、ありがとうございました!