<PCクエストノベル(2人)>


ルクエンドの地下水脈 〜オリハルコンと水竜〜

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【冒険者一覧】
【2303/蒼柳・凪/男性/15歳(実年齢15歳)/舞術師】
【1070/虎王丸/男性/16歳(実年齢16歳)/火炎剣士】

【助力探求者】
なし
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 ルクエンドの地下水脈は地上と違い、ひんやりとして涼しかった。

凪:「涼しいのはおおいに歓迎するけど、暗くて狭いのはぞっとする」
虎王丸:「そうかぁ? 何が出てくるか分からねぇからウキウキするけどな!」
凪:「……虎王丸の頭は簡単でいいな……」
虎王丸:「この程度で怖いたぁ、凪さんはタマついてないんじゃねぇですかねぇ?」

 などとケンカをしつつ、比較的水深が浅い場所を探して進んでいく。
 凪は銃の先にライトをくくりつけ、虎王丸は無骨なランタンを持っていたが、それだけでは足元に不安があった。
 今回は下流に向かって進んでいる事もあり、足を滑らせたらどこへ流されるか分かったものではない。

虎王丸:「ンな調子じゃあ、お宝を発見できるかも不安だぜ」
凪:「他の冒険者がここで見つけたっていう金属のこと?」
虎王丸:「おうよ! 貴重なモンらしいし、一攫千金を狙えるぜ! そろそろ宿屋暮らしは飽きてきたし、ここらで大きい屋敷を建ててだな――」
凪:「で、その冒険者は金持ちなのか?」

 都合のいい未来予想図に酔いしれる虎王丸を尻目に、凪が冷静に訊ねる。
 虎王丸は目をしばたたかせている。

虎王丸:「あ? なんで」
凪:「そんなに都合のいいお宝があるなら、情報をもたらしてくれた冒険者もさぞ金持ちになったんだろうなと思って」

 ――虎王丸は視線をさまよわせている。

凪:「さ、帰ろうか」
虎王丸:「いや、待て待て!」

 さっさと身をひるがえす凪の裾を掴み、虎王丸は慌てて言い募る。

虎王丸:「お宝の話が嘘だとしてもいいじゃねぇかよ! これから宿に帰っても何にもすることねぇしさ!」
凪:「宿に泊まるのもタダじゃないって知らないのか? 仕事しないと毎日野宿生活だぞ」
虎王丸:「夏に凍死する奴はいねぇから平気だって!」

 つまるところ虎王丸は一攫千金の夢をあきらめていないし、凪は全く乗り気ではなかった。
 といっても折れたのはやはり凪で、地下水脈探索は続けられる事になったのだが。

 虎王丸は懐から紙を出すと、それを読み上げた。

虎王丸:「RRLCLRLLCRCRLC」
凪:「……は?」

 謎の言葉を聞いて凪は目を丸くしている。
 ゲームのコマンドのようにも聞こえるが、それは凪や虎王丸が知った事ではない。

凪:「虎王丸はいつから魔術師になったんだ?」
虎王丸:「魔術師? これは道順を記した紙だぜ。ここの情報をくれた冒険者に書かせたヤツ」
凪:「……ライト、センター、レフトの略か……分かりにくい書き方だな」
虎王丸:「アイツはものぐさだから、全部綴るのが面倒だったんだろうよ! ま、道順教えてもらえただけでもありがてぇと思わなきゃな」

 二人が歩いている場所はまだ地下水脈に入ったばかりのところだったので、まだ分かれ道には出会っていなかった。
 その道順からすると目的地はだいぶ遠そうだが、それまでライトやランタンが持つだろうか……。
 心配になった凪は、ランタンの火がもつ限りはライトを消しておく事にした。明かりがなくなって一生地下生活、などということになったらたまったものではない。

 分かれ道にさしかかると壁にチョークで印をつけ、帰り道に迷わないようにした。そして念のため全ての道に白焔の弾を撃ち、面白いものや危険なものがないかを調べる。

 そして……。
 虎王丸はこの行軍にすっかり飽きてしまった。
 行けども行けども辺りの様子は代わり映えがないのだ。辺りは岩と水しかなく、生き物がいる気配もない。
 言い出しっぺなので不平をもらすわけにもいかず、適当に話題を見繕ってその場をしのいでいる。

虎王丸:「お前最近背ェ縮んだ? 出会ったときは俺と同じぐらいだと思ったけど、今は俺より小さくねぇか?」
凪:「……そうか?」
虎王丸:「お前ちゃんと寝てるか? 寝ないと重力に負けて縮むんだぜ!」

 それはどうかとも思った凪だが、そういうことにしておこうと思った。

 ……実際、凪の身長は縮んでいる。
 凪が属する貴種という種族は、『時非の花』という特別な花弁を生み出すことができる。それは生命に溶け込み寿命や特殊能力を与える力をもつもの。
 『時非の花』を一定期間放出しなかった凪は、一歳若返ってしまったのだ。
 凪はその能力を虎王丸にも教えていない。
 この能力を誰かに知られたら捕らえられ、一生『時非の花』を生み出すだけの道具とされそうで怖いのだ。
 凪が元いた世界では貴種は貴族として敬われていたし、護衛もたくさんついていたから何の恐怖も覚えなかった。
 だが凪はいま、この広い聖獣界ソーンの中で貴種としてはただ一人で生きているのだ。
 心細かった。
 誰かとこの思いを共有できたらどれだけ楽かとも思ったが、力を知られて態度が豹変されるのが怖かった。

虎王丸:「…………ん?」

 凪の葛藤を知らない虎王丸はふと足を止めた。
 あたりをきょろきょろと見回し、足元をランタンで照らした。

虎王丸:「おいおい、嫌な予感がするぜ……」
凪:「……何?」
虎王丸:「やけに静かだと思ったら、いつの間にか道に水が流れてねぇ。さっきまではうるせぇほど流れてやがったってぇのによ」
凪:「水量が減ったってことは、水が他の場所へ流れていったか、もしくは――何らかの原因でせき止められているか」

 虎王丸は幾分げっそりした顔で上流である背後を振り返る。
 ……地響きに似た音が次第に大きくなっていた。

虎王丸:「凪、お前泳げるか?」
凪:「この際泳げてもあんまり意味ないと思うけど?」
虎王丸:「ハッ、それもそうだな」

 常備している縄を懐から出し、虎王丸と自分の胴体を結びつけた。きつくしまっているのを確認し、ライトが濡れないよう厳重に革の袋に包み込む。
 近くには掴めるような突起もない。諦めて上流に目を向ける。

凪:「せき止められた水は、堰が切れたら激流となって一気に下る……。嬉しいことじゃないな」
虎王丸:「案外楽しいかもしれねぇぜ? 何事も体験してみなきゃ分からねぇ」

 身構える二人の目の前、暗くわだかまる闇の奥から、轟音と威圧感が襲い掛かってきた。
 それは圧倒的な量の水だった。
 まるで津波のような勢いで二人を飲み込んでも衰えを見せず、ぐんぐん下流へ下っていく。
 ……もちろん、その状態では道順がどうのと言っている場合ではない。息を止め、気休めばかりに身構えて激流に身を任せた。
 流される中で巨大な蛇のようなものを見た気がしたが、それも定かではない。
 二人は激流と暗闇の中で体をあちこちぶつけ、やがて意識を失った。


 + + +


 ふと目が覚めたのは、体中が痛むせいなのか、それとも不吉な唸り声のためなのか。
 それは分からなかったが、まずはここから逃げねばならないと思った。
 辺りは一筋の光もない暗闇、というわけでもない。
 目が慣れるまでは何も見えないが、じっとしていると壁がぼんやりと発光しているのが分かった。おそらく光苔の類が生えているのだろう。
 そして、薄く発光する壁は高く、そして広かった。
 凪と虎王丸が流されてきたのは広い地底湖のような場所で、湖と地下水脈の間にあるわずかな岸に打ち上げられていた。そのまま湖の底へ流されなかったのは運がよかったとしか言いようがない。

 凪は上体を起こそうとしたが、妙な重さにバランスを崩して倒れてしまう。
 横を見て思い出した。自分と虎王丸の胴を縄で結んでいたということを。
 縄のおかげでばらばらの場所に流されはしなかったものの、そのおかげで事態が好転するかと言われると謎だった。
 ぐったりと横たわる虎王丸の腰から刀を抜きとると、すっぱりと縄を断ち切った。途端身が軽くなる。
 大きく伸びをして痛む体をほぐしたかったが、そうもいっていられないようだ。
 この地底湖のどこかから、低い唸り声が聞こえてくるのだ。うかつに大きな動きをしたら襲い掛かられるかもしれない。

 早く虎王丸を起こそうと視線を下に移した凪の動きが固まった。
 一拍間をおき、虎王丸の体を荒く揺さぶる。
 果たして、虎王丸は小さく咳き込みながら目を覚ました。

虎王丸:「ゲホ……。どこだ、ここは?」
凪:「俺が知るわけないだろ。いや、そんなことより足元を見てみなって」
虎王丸:「あぁ?」

 ひそひそと囁きあい、そろって足元を見た。

 そこには――。
 緑を帯びたいぶし銀が広がっていた。
 研磨をしていない表面はごつごつしていて、そこに横たわっていれば痛いはずだと思った。

凪:「俺にはオリハルコンのように見える……」
虎王丸:「おー、すげーじゃん! これを持って帰ればかなりの金になるぜ!」
凪:「わ、馬鹿! 大声出すなって!」

 凪が注意したときはすでに遅く、ずっと聞こえていた唸り声が大きくなった。壁に音が反射して、その声の出所が上手くつかめない。

虎王丸:「……そういうのは早く言えってんだ」
凪:「虎王丸にも聞こえてると思ったんだよ」
虎王丸:「ちっ……とりあえず奴を黙らせて、オリハルコンをさっさと持ち帰ろうぜ」

 二人は立ち上がり、襲撃に備えて身構えた。
 凪は扇を構える。足場が不安定なので本当は銃を使いたかったが、この暗さでは相手の姿が見えないのだ。
 虎王丸は重心を低くして、何度か深呼吸を繰り返す。そして力任せに首の鎖を引きちぎった。

虎王丸:「久々に飛ばすぜェーッ!」

 叫ぶ虎王丸は一瞬のうちに白焔に包まれ、その姿はみるみる白い獣の形状へ変化していく。
 虎の霊獣『炎帝白虎』の獣人。
 それは、白焔に包まれた二足歩行の白虎である。
 半獣であるがゆえに人間の武器は使えないが、その鋭い爪とまばゆいばかりの白焔は問答無用で対象を破壊する。

 半霊獣人状態となった虎王丸が纏う白焔に照らし出されたのは、龍のような体つきをした蒼い水竜だった。
 水面のわずか上を浮遊し、体をくねらせながら二人の様子を見ている。

水竜:「ふん、物欲に目のくらんだ下等生物めが。貴様らにはここで果ててもらうぞ!」
虎王丸:「吠えてろッ!」

 虎王丸は大音声で叫び、大きく跳躍して水竜に取り付いた。
 水竜は体を捻って虎王丸を振り落とそうとしたが、鋭い爪は水竜の鱗に深々と突き刺さり離れない。

 半霊獣人状態の虎王丸は水に弱く、本当は水竜のような相手に適した状態ではない。しかも舞台は地底湖の上である。

 凪は虎王丸を援護するために舞い始めた。
 四魂讃頌。それは周囲の味方に地水火風の災いから身を守るための結界を付与する舞術である。
 凪が舞い始めると、虎王丸の体の回りにシャボン玉のような膜がはりめぐらされた。
 そのおかげで水竜が水中に潜っても白焔は消えず、依然高い破壊力で挑むことが出来た。
 ……とは言っても、水中で呼吸が出来るようになるわけではない。このまま湖の底深くに潜られてはたまったものではない。
 現在虎王丸が半霊獣人状態を保っていられる時間は、首の鎖が再生するまでの数分。
 早々と決着をつけなければ形勢は一気に苦しくなるだろう。

 とりあえずこの水竜を黙らせ、オリハルコンを無事に持ち帰ることができればいいのだ。

 水中でさらに激しく暴れ、虎王丸が出られないように湖水の表面を凍らせようとする水竜に対し、虎王丸は白焔の威力を一気に上げる。
 すると湖水は凍るどころかどんどん水温が上昇し、やがて小さな気泡が湧き出した。

凪:「うわ、ちょっとやりすぎじゃ……」

 凪が踊りながらも慌てて地底湖から距離をおく。
 いまや湖水は波打ち際からも湯気が立ち上がっている。それは地下水脈の気温が低いせいもあるが、水温も確実に上がっているのだろう。

水竜:「グ……グアァァァァァッ!」

 炎竜ならいざ知らず、水竜は高温に弱かった。
 慌てて上昇すると湖から飛び出て、凪の背後を流れる冷たい地下水に向かって猛進した。

 凪はそれを慌てて避け、虎王丸は水竜が地下水に入る寸前に重い一撃を叩き込む。
 水竜は力を失って流水に墜落すると、そのまま下流に流されていった。

虎王丸:「茹で海老みてぇに赤くなってやがんのな! 水竜っていっても大したことねぇヤツだ」
凪:「そうかもね」
虎王丸:「あー、やっぱ俺って強ぇな!」

 凪の隣に下り立った虎王丸は、自尊心をいたく満足させた様子で笑みを浮かべている。
 凪はため息をつく。

凪:「ただ……もっと頭を働かせることを激しく推奨するぞ」

 その言葉に文句を言おうとした虎王丸は、がくりと地面にひざを付いた。その足元にかつんという高い音が響く。
 その体からみるみる白い体毛がひいていき、口から覗いていた牙は退化し、鼻は低くなり、耳の位置が低くなった。
 さして時間がかからずに人型に戻った虎王丸は、疲労を隠しきれない緩慢な動きで立ち上がる。

虎王丸:「あー……クソ、鎖を解いたあとはいっつもこうだ……」

 首元には金色に輝く鎖が戻っている。
 それが今はいやに重く感じ、虎王丸は不機嫌になった。

虎王丸:「さっさとオリハルコンを採取して帰ろうぜ……」
凪:「採取できればだけどな」
虎王丸:「……どういうことだ? 足元にしこたまあるんだから、さっさと掘っちまおうぜ」

 凪がライトをつけながら、それはそれは素敵な笑顔を虎王丸に向ける。

凪:「はい、問題です。オリハルコンの価値はどこにあるでしょう」
虎王丸:「あ? 何言ってんだ、そりゃめっちゃ有名じゃねぇかよ。オリハルコンは希少な上にこれ以上ないほど硬ぇから……」

 そこではっと息を呑む。
 世界一硬い? だとしたら、どうやって採取しろというだろう。

凪:「持ってきたピッケルじゃあまるで歯が立たないだろうな」
虎王丸:「じゃあどうすりゃいいと思うんだよ?」
凪:「さぁ? ……強いて言えば、半霊獣人状態の虎王丸の爪なら、もしかしたらねぇ?」
虎王丸:「う゛」

 凪の赤い瞳が虎王丸を射抜いている。
 ……つまり、虎王丸が自分の力に陶酔している時間があるのなら、その間に採掘できただろうと。そういうことだろう。

 ……その後虎王丸の刀で切りつけてみようとしたものの『赤鞘の妖刀』はピッケルの代わりに使われるのを嫌がっているのか鞘から抜けないし、『封印された刀』は問題外である。

凪:「さて、そろそろ帰るかな」
虎王丸:「くっそ、今度来たときは半霊獣人状態の爪で切り裂いてやるぜ!」
凪:「あの水竜がここを埋めてなければね?」
虎王丸:「――――〜〜ッ!」

 叫ぶ虎王丸をほうっておき、凪は足元に転がる蒼いカケラを拾い上げた。
 親指サイズのカケラは二つ。雫の角が取れて丸くなったような形状。
 それは虎王丸の爪に貫かれた水竜の鱗だった。根元の方が銀色を帯び、光を受けて七色に輝く。

凪:「これでも結構な価値だと思うけど」
虎王丸:「うぅ〜、オリハルコン〜……」
凪:「……聞いてないか」

 意気消沈した虎王丸を引っ張るように上流へ向かい始めた凪は、その鱗を懐にしまいこんだ。

 地下水脈ははるか長く、出口の一つに出るころにはすでに朝日が差し込んでいた。
 戦った後に長距離を歩いてくたくたになった二人は、安全な場所を見つけると仮眠を取るために横になる。腹が減っていたが、まずは体を休めたかった。
 ――やはり虎王丸がもたらした情報はどこかしら難があるなと、凪は痛感するのだった。今度は自分も調べた上で誘いに乗ろうと決める。

 後にエルザードの宿へ帰った凪は、水竜の鱗に紐を通してペンダントにしたそうだ。


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■ライター通信■
ランタンを持っている虎王丸さんというのを想像したら、某天空の城アニメで地下の輝く飛○石を眺めるシーンを思い出した糀谷みそです(笑)。
再びクエノベをご発注くださり、ありがとうございます。

記念すべき(?)凪さんの若返りの初回を書かせて頂けて光栄です♪
凪さんの能力に対する葛藤をかなり勝手に書かせて頂きましたが……こ、これで大丈夫でしょうか(汗)。
そして『半霊獣人状態』の詳しい設定が書き足されていたので、早速使用させていただきました!
……実は『丘陵の屋敷』とは別の個室に白虎の獣人NPCがいるので、なんだか親近感が沸いてしまいました〜。
白虎……格好いいですよねっ!(ぐっ)
さて、今回の冒険ではオリハルコンを発見することは出来ましたが、その硬さゆえに持ち帰ることは叶いませんでした。
オリハルコンの攻略法を考えてからまた訪れるのもいいかもしれません。

ご意見、ご感想がありましたら、ぜひともお寄せください。
これ以後の参考、糧にさせていただきます。
少しでもお楽しみいただけることを願って。