<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


薬草求めひた走れ!


リー魔法教育協会に突然舞い込んできた一つの依頼。
病気の母親の為に特殊な薬草を摘んできて欲しいとの事。
その依頼を聞いたべルスター=ライアンは、二つ返事で了承した。
「おっしゃ!!そんぐらい俺に任せとけば楽勝だぜ!」
「何言ってんだい、この薬草がある場所は化け物だらけなんだよ。お前さん一人じゃねぇ……」
乗り気のベルスターに魔法教育協会会長であるリアン=リーは眉をゆがめた。
明らかに"お前さん一人じゃ絶対に無理"とゆう表情である。
そんなリアンの表情を見て、ベルスターは少しムッと顔をしかめた。
「師匠こそ何言ってんですか!この俺が化け物なんかに負ける訳ないですよ!」
「その師匠ってのやめてくれと何度言ったら分かるのかね……。ま、兎に角お前さん一人では行かせられないよ」
「……じゃぁ、誰と行けばいいんですか。レイドさんは絶対に来てくれませんよ」
「困ったもんだねぇ……」
どうしたものかとリアンは頭を悩ませた。自分にはこの後予定がある。
一応教育係としてレイドがいるが、男二人での仕事など絶対にしないであろう。
二人してどうすべきかと頭を悩ませていると、協会の扉が勢い良く開かれた。
「おーい、誰かいるかー!?」
扉を開けたのはまだ幼さの残る少年。元気に声を響かせながら、きょろきょろと辺りを見回し人の姿を探している。
「おや、丁度いい所にお客が来たみたいだね」
少年の姿を見て、リアンは脳裏に浮かんだ作戦に小さく微笑みを浮かべた。





協会に突然やって来た少年の名は湖泉遼介。
ヴィジョン使いで武道家でもある遼介は、更なる能力の向上を希望してこの協会の門を叩いたという。
「ほう、お前さんヴィジョン使いなのかい」
目の前に座る遼介をリアンは頬杖をつきながら力量を見極める様に見ている。
そんなリアンの視線に、遼介は微塵の動揺も見せずしっかりと視線を返す。
「あぁ。それで、ヴィジョンの能力や、連携を強化したくてここに来たんだけど」
「そうだねぇ、お前さんに修行をつけてやってもいいが……」
「本当か!?」
リアンの言葉に遼介は身を乗り出し笑顔を見せた……――が、リアンの顔が意味ありげに微笑んだのを見て顔が曇る。
「……その顔、何か裏がありそうだな」
「裏……っとゆう程ではないさ。ただ一つ頼まれ事をしてもらえないかと思ってな」
「頼まれ事?」
遼介の言葉にリアンは自分の横に立っているベルスターを視線で示しながら言った。
「薬草の採取を頼まれたんだよ。その場所がちょいと危険な場所なんで、ベルスター一人で行かせるのは不安なんだよ」
リアンの言おうとしている事に気付いたベルスターが慌てて言葉を挟む。
「ちょっ、待って下さいよっ!客人にそんな事頼んでいいんですか!?」
「客人は客人だが、私の元で修行を望むのであれば客人では無くなるだろう?」
「いや、でも……」
「師匠と弟子……っとゆう関係は好かないが、教える者と学ぶ者とゆう関係になれば頼まれ事の一つや二つ……」
不自然な程の微笑みを浮かべるリアンに、遼介は諦めた様にため息をついた。
そのまましばらく考え、言い合う二人の間に言葉を割り込ませた。
「分かったよ、その薬草採取の頼まれ事引き受けるよ」
遼介の予想通りの答えに満足そうに微笑むリアン。
「そうかい、それは助かるね」
予想外の答えに驚きを隠せず目を見開いているベルスター。
「なっ、お前本当にいいのか!?修行しに来たんだろ?」
「いいも何も無いだろ。行かなきゃ修行つけてくれないっぽいし?」
遼介のある種嫌味を込めた視線にリアンはただ笑顔を返すだけ。
おそらく返事は来ないであろう事を分かっていた遼介はニッと顔を微笑ませた。
「その代わり、薬草取ってきたらヴィジョンの相談に乗ってくれよな!」
「考えておくさ。……ほれ、日が暮れちまう前にとっとと仲良く二人で行っておいで」
考えの真意を少しも見せないリアン。
やっぱり一筋縄でいくような相手じゃねぇな……っと遼介は心の中で呟くのだった。





街から少しばかり離れた森の奥。
そこに静かに存在しているのが、今も尚神聖さを保ち続けている神殿の遺跡だ。
その遺跡に頼まれた薬草は生えている。
決して近くは無い道のりを、遼介とベルスターは雑談を交えながら歩き進めていた。

「なぁ、あんたって魔法剣士なんだろ?」
所々で飛び出してくる雑魚敵を軽く倒しながら遼介はベルスターを振り返った。
先程から何度か戦闘になっているのだが、魔法を使わないベルスターに疑問を持ったからだ。
「ん?あぁ、まだ見習いだけどな」
「なんでさっきから魔法使わないわけ?こんなちまい雑魚だったら魔法で一掃した方が得策だろ」
「確かにお前の言う通りだが、魔法の力を使うのは本当にヤバイ状況になった時だけって決めてんだよ」
何か心に思う所があるのだろう、ベルスターは己の手に握られている剣に視線を落とした。
「ふぅ〜ん。……あのさ、あんたの師匠のリアンって……強いのか?」
リアンの強さを問う遼介に、ベルスターの顔が見るみる内に青ざめていく。
どうやら何か恐ろしい思い出を思い出してしまった様だ。
「……お、おい?大丈夫か?」
余りの顔色の悪さに、遼介は心配そうにベルスターの顔を覗き込む。
「師匠の強さは……大魔神級だ」
ボソリと呟くような言葉に、遼介は"え?"っと問い返す。
すると、今度は逆に大きすぎる声で返事が返って来た。
「師匠自身も恐ろしいが、師匠が召喚する魔獣はそれはもう恐ろしいなんてもんじゃないっ!本気で食い殺されるかと思ったんだぞっ!俺はっ!!」
バッと感情が走るままに遼介の肩に手を置き、ガクガクと前後に揺さぶる。
「なっ、バカッ!!離せって!」
「炎だの氷だの風だのなんだのって……四方八方から……!!」
「それを仕掛けたのは俺じゃねぇんだからっ、離せって!」
「いでっ!!」
記憶の映像に支配されかけていたベルスターは、遼介の拳を一発腹にもらい現実へと戻ってきた。
大人しくなったベルスターを横目に、遼介はやれやれとため息をつく。
「……ったく、あの人が強いってのは良く分かったよ。ま、そんぐらいの強さじゃなきゃ修行つけてもらう意味無いしな」
「兄弟子としての忠告だ。……――命は大切に」
やたらと真剣な表情のベルスターに遼介は苦笑いしてその場をやり過ごした。

なんだかんだと道草はくってしまったが、目的の場所である遺跡まで辿りつく。
遺跡までは丁寧に石畳が道案内をしてくれていたので、迷う事はなかった。
「うわー、すっげぇ花!」
遺跡の周りには見事に咲き誇っている花々。
遼介もベルスターも石畳を歩きながら、その花々の美しさに声をもらした。
「随分沢山咲いているな。……誰かが手入れを?」
「さぁな。……あ、ほらっ、あれが噂の薬草じゃねぇか?」
遼介が指差す先、花々に紛れて生えている淡い光を放つ草。
間違い無く、依頼された薬草である。
「お、間違いねぇな!」
石畳を歩いていた二人は、花畑へと方向を変え薬草を手に取った。
遼介はその薬草を丁寧にリアンから渡されたビンへと仕舞いこむ。
「なんだよ、強いモンスターが出るかと思ったのに全然じゃん。すっげぇ拍子抜け」
「全くだ。この程度なら俺一人でも余裕だった…………――ん?」
"どうした?"っと遼介が振り返ると同時にそれは起きた。
「うわぁあああっ!!」
どこからか伸びてきたツタがベルスターの足に絡み付き、その体を拘束していく。
「なっ!?」
遼介にも容赦なくツタが襲い掛かってきたが、得意の高速移動で上手くかわす。
ベルスターはまだ動く腕でツタを引きちぎるが、次から次へと新しいツタが絡まり逃げる事が出来ない。
苦戦するベルスターに遼介が得意げに腕を振り上げた。
「俺に任せとけって!」
遼介は剣で絡まるツタを切っていくが、やはり切っても切ってもキリが無い。
「くそっ!どうなってんだよ、これはっ!!」
苛立ちを吐き捨てる様な遼介の言葉に、ベルスターは微かに動く手でポケットから小さな石を取り出し投げ落とした。
赤い色をした小さな石は、コロリと遼介の足元に転がる。
「遼介!その石を剣に叩きつけろっ!」
「は?いきなり何言ってんだよっ」
「その石は炎の力の結晶だ!使えば、しばらくの間剣に炎の属性を付ける事が出来るっ!」
遼介は襲いかかってくるツタを機敏な動きで避けながら、その石を手に取り言われた通り剣に叩きつけた。
持った感じでは硬かったその石だが、剣に当たった瞬間に簡単に砕け散り剣へと吸い込まれていった。
「……すげぇ……」
「感心してねぇで、早く俺を助けてくれよっ!」
「はいはい。……そぉらっ、燃えちまいなっ!!」
炎の属性を得た遼介の剣は、ツタを次から次へと焼き落としていく。
やっと開放されたベルスターも、遼介と同じ様に炎の属性を剣に付け敵を切りつけていく。
先程よりは攻撃が効いているのは確かなのだが、やはりキリが無い。
切っても切っても沸いてくる敵に、二人の体力だけが奪われていく。
「なぁ、遼介。……おかしくねぇか?」
剣の手は休めずに、ベルスターが声をかける。
ひょいっと軽々と攻撃を避け、逆に攻撃を仕掛けながら遼介が返事を返す。
「何が?」
「さっきまで全然なんとも無かったのに、どうしていきなり攻撃して来たんだと思う?」
「そんなのっ……知らねぇよっ……!っくそっ、マジでキリがねぇなっ!」
いい加減我慢の限界だと言いたげな遼介の表情。
勿論、ベルスターもそれは同じ。
「……どうする!?」
投げかけられたベルスターの疑問に、遼介はすぐさま返事を返そうとしてハッと気付く。
「……――ベルスター!こっちだっ!」
「んぁ!?なんだよ、いきなり……」
「いいからっ、石畳の道に戻れっ!花畑から出るんだっ」
「わ、分かった!」
遼介の強い言葉にベルスターは頷くと、上手く攻撃を交わしながら石畳の上へと移動する。
同じ様に遼介も、身軽な動きで石畳の上まで移動する。
二人を追いかけるツタは石畳の前まで来て、フッ……と大人しくなる。
すると、そのままスルスルと花畑の中へと戻っていってしまった。
「な、なんなんだ……?」
訳が分からないと目を丸めるベルスターに、遼介が疲れ顔で答えた。
「多分、守ってたんだ。……この花畑を、自分自身を」
「……つまり、さっきのはここに咲いている花そのものだった……って事か?」
「恐らくはな。……自分達の身を守る為に俺達を攻撃した……って事だろうな」
「……成る程な」
大人しくなった花畑を見ながら、遼介は小さく呟いた。
「襲ってくるモノ全てが悪い敵じゃない。……どんな理由で襲ってくるのかを冷静に見極めろ……そんな所だろ?」
「遼介、何独り言喋ってんだよ?」
「今日学んだ事を伝えただけ」
「誰に?」
「……協会でのんびりしてるであろう人に……な」
遼介の言葉が終わった時、小さく羽がはばたく音が森に響いた――





いつの間にか日も落ち、夜の闇が街を包み始めた頃二人は協会へと戻ってきた。
遼介の予想通り、リアンはのんびりと紅茶に舌鼓をうちながら二人の帰りを待っていた。
「おや、お帰り。結構時間がかかったみたいじゃないか」
「約束通り薬草は取ってきたぞ」
ドンッと遼介はリアンの目の前に薬草が入ったビンを置く。
中に入っている薬草が本物である事を確認したリアンはにっこりと笑った。
「確かに頼んだ薬草だね。……お疲れさん、何か学ぶ事はあったかい?」
「ま、それなりには色々と」
「そうかい。……それじゃ、早速修行といくかね。ベルスターも」
「「!!??」」
疲れて帰って来たばかりなのに、笑顔で何を言い出すのだと二人は目を見開いている。
「今日はどんな魔獣を呼ぼうかね……ふふふ」
楽しげに笑うリアンを見て、遼介とベルスターは顔を見合わせ揃ってため息をついた。
「あんた、いつもこんな感じで修行してんのかよ?」
「だいたいこんな感じ。……本気でやらないと殺されてもおかしくないぐらいの修行だから、頑張れよ」
「……こりゃ、嫌でも強くなれそうだな……」



―fin―




*******登場人物(この物語に登場した人物の一覧)*******

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1856/湖泉・遼介/男性/15歳/ヴィジョン使い・武道家】

NPC
【ベルスター=ライアン】
【リアン=リー】


*******ライター通信*******

湖泉遼介様

初めまして、ライターの水凪十夜と申します。
ようこそ、リー魔法教育協会へいらっしゃいました。
リアンの押し付けがましい(笑)頼み事を快く受けて下さってありがとうございました。
一緒に行動したベルスターも、遼介様の見事な戦いっぷりに色々多く学ばせて頂いたみたいです。
遼介様にとっても良い経験の一つとなれば嬉しいです。
誤字、脱字がございましたら申し訳ございません。それでは、楽しんで頂ける事を願って……。