<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
「僕で良ければ、協力しますよ」
そう申し出て来たのはリュウ・アルフィーユだ。
彼も有翼人。ウインダーなのだ。
仲間といっても翼だけ。種族は勿論キラとは違っていた。
しかし、その仲間が困っていると言っている。
ならば助けなければと思ったのだろう。
「わ、助かります〜!よろしくお願いしますね、リュウさんっ!」
「キラさんって‥‥本当に神官、なんですか?」
そう思われて当然。彼の服装はとてつもなく神官よりかけ離れている。
更にはその不気味な笑顔。これじゃあ逃げられて当然だ。
「勿論ですよ!何処からどう見ても神官です!」
嘘をつけ、嘘を。
なんてツッコミを入れたくなったのはおいとくとして。
「ところで。病って、どんな病なんですか?」
「其れがですねー。まず若い娘さんは足が不自由でして。小さな子供さんは風邪みたいですし、ご老人の方は腰痛が酷いらしくて歩けないらしいんです」
病と言える病ではない。
一部は怪我の部類かも知れない。けれど風邪でも油断は大敵。
一度拗れればとんでもない病気になってしまうのだ!
「治療を受けさせれば良いんですね。僕、連れてきますよ」
「あ、其れは助かります。僕が行くとすーぐ逃げられてしまうんです。何ででしょうね〜?」
多分、その笑顔だと思う。
リュウは思わず心の中でそう呟く事だろう。
何せ初対面であるリュウですら不気味だと思うのだから。
そして何よりもその背の翼だ。黒と白なのだから。
「其れにしても、君の種族は?」
「エンジェルですよー。こう見えてもエンジェルですー」
「エンジェル!?は、初めて見たかも…?」
「私みたいなエンジェルは珍しいらしいですよー。だから普段はウインダーって事にしてるんですー」
エンジェルは賊に狙われやすい。
その綺麗な羽根は売りさばく事も出来るし、エンジェル自体を見世物として商売も出来るからだ。
その為、種族隠しは必須なのである。
「連れてきたよ!」
リュウは三人の患者を連れてきた。
勿論、キラを見ればその人達は硬直していた。
違う人に言われたから来たのに、黒幕がいた!と
「見た目は不気味かもしれないけれど、大丈夫だよ。僕の仲間なんだから♪」
「そ、そうですよー。私はただ治療をしたいだけでしてー…!」
「その顔見て信じられるわけないじゃない!」
予想通りの反応。やっぱりその顔が怖がられてるんだ。
リュウはそう確信して、キラをグイグイと引っ張った。
「キラさん、まずその表情変えてみない!?」
「え?表情を、ですか?」
「きっとその顔が怖くてダメなんだと思うんだ!」
だからやってみようよ!とリュウはつけくわえる。
キラも少し首を傾げて暫し考えていたのだが、コクンと頷いた。
笑顔をまずは崩してみようと。
「こうすれば、怖くないですか?」
「ぅぇ…!?」
「な、なんか違和感…」
「これじゃったら何時もの方がいいのじゃ…」
そう。キラが表情を崩した顔。
其れは、目はしっかりと開眼されておりその目の色は赤。
余計に怖いというのだ。
「キラさん、糸目にして、糸目にして!」
「えっ、えぇっ!?これでもダメですか!?」
「どうやら顔じゃないみたいだね。じゃあ次は性格かな?反転させてみる、とかどうかな?」
「反転、ですか?」
「そう!今のキラさんの性格を、反転させてみるの。どう?」
リョウの提案を素直に受けるキラ。
疑うという事をしないのが彼だから、この後の反応も考えちゃいない。
「えーと‥‥早く治療させやがれ、こんにゃろー?」
「‥‥‥‥」
「何かおかしいですじゃ、それも」
「怖いっていうか、変だよね」
子供と老婆から出るダメだし。
なんだろう。これはもう堂々巡りな気もする。
彼に性格反転とか無理な話かも‥‥。
そんな時、キラが苦笑を浮かべて仕方なく治療道具を手にしようとした時である。
バキリ。
もの凄い音が響いた。
転びかけたのを支える為に机に手をやった。
キラの体勢を見る限りはそう見える。
だがその机は……。
ボロボロである。跡形もないというか原型もとどめてない。
「あ、またやっちゃいましたー…」
『其れが一番怖い!』
総ツッコミが出た。
どうやらキラには天然が入っており、挙句に怪力が備わっているらしいのだ。
患者からしてみれば、その天然と怪力が何時此方に向くか分からない為逃げていたという。
「うーん、でも治療しないとキラはずっと追いかけると思うよ?」
リョウが素直な感想を述べる。
確かに。治療するまで追いかけるという性格ではある。的確。
「仕方ないのじゃ、お前さん、仲間だと言うんじゃったらその人を見張っていておくれ」
「でないと安心して治療受けれないわ」
「わ、分かった。僕も一緒にいます!」
「助かります、リュウさん〜。貴方も、神の教えをですねー」
「僕はいいですって!」
こうして無事に治療が出来た。
其れはそれでいいのだが。
リュウはその後、暫くの間キラに捕まり、延々と神の教えをとかれたという。
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