<PCクエストノベル(2人)>
ヤーカラの隠れ里 〜龍の血を欲するもの 前編〜
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【冒険者一覧】
【1070/虎王丸/男性/16歳(実年齢16歳)/火炎剣士】
【2303/蒼柳・凪/男性/15歳(実年齢15歳)/舞術師】
【助力探求者】
なし
【その他登場人物】
【ツォール】
【フィアーナ】
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ある夏の日。
凪と虎王丸が宿泊している宿の近くにある掲示板で、ひとつの募集を発見した。
『ヤーカラの隠れ里へ同行する冒険者を募集。対魔法結界を使える者は特に歓迎』
そして、募集要項の最後には剣に絡んだ蛇の紋章があった。
凪:「これは……」
虎王丸:「ヤーカラへ行ったときに戦った兵士たちが、同じものをつけてたな」
生活費を稼ぐために依頼を受けようと酒場や掲示板を回っていた二人だが、この掲示を見て仕事どころではないと立ち止まった。
前回ヤーカラの隠れ里を訪れたとき、この紋章をつけた兵士たちが龍人の血を欲して強行手段に出ていたのだ。
ということは、今回に限って友好的にヤーカラの隠れ里を訪れるということはあるまい。
凪:「もう一度ヤーカラの隠れ里に行って、危険が迫ってると警告しなきゃ。行こう、虎王丸!」
+ + +
地図にヤーカラの隠れ里の存在は記されていない。
よって、まずは前回散々迷った巨木があるあたりを目指した。
前とは違い昼間だったので、巨木についてからヤーカラの隠れ里を探すのはたやすかった。
やぐらを目指して歩いていくと、やがて見覚えのある屋根が見えてくる。
虎王丸:「……!」
虎王丸がピクリと反応し、凪を庇いつつ腰に佩いていた刀を素早く抜き放つ。
切先が向く方向には、深緑の髪の男がいた。
その手には斧を持ち、まさに振り下ろそうというところで止まっている。
男:「無駄だ。俺たちの血をただ飲むだけでは、力は得られない」
虎王丸:「俺たちは龍人に危険を知らせにきただけだぜ」
男:「信じると思うか?」
凪:「では、ツォールを呼んでください。彼女は僕たちのことを知っています」
男がすぅっと目を細くし、斧を握る手がさらに力んだ。
男:「ツォールはいない」
凪:「なぜです? ……まさか」
男:「欲に目のくらんだお前たちがさらったのだと思ったが?」
虎王丸:「俺たちがさらうかよ!」
男:「信じるに足りる証拠はあるのか」
虎王丸:「……くそっ! どうすりゃ……」
歯噛みしていると、遠くから大きな何かが羽ばたく音が聞こえてきた。
凪が空を仰ぐと、そこには太陽を背にした翼竜がいた。エメラルドの鱗がキラキラと美しい。
男:「フィアーナ、あなたは目立つのだから家にいなくては……」
エメラルドの翼竜――ツォールの姉であるフィアーナはゆっくり下り立つと、凪に顔を寄せて優しく鳴いた。
その様子を見て、男は構えていた斧を下ろす。
男:「……どうやら、あなたたちは本当にツォールの友人であるようだ。疑ってすまなかった」
凪:「いえ、気にしないで下さい。龍人の方々が多種族に対して敏感になるのは、仕方のないことです」
男:「最近は近くの領主が我々の血をしつこく狙っていて、気が抜けないのだ。二ヶ月ほど前には兵士たちが侵入して……」
そこで、男はまじまじと二人の姿を見た。
男:「もしや、兵士たちの手からフィアーナを助けてくれた冒険者というのは、あなたたちのことか?」
虎王丸:「おう、そうだぜ」
男:「これは申し訳ないことをした。歓迎するべき人物に武器を向けるなど……」
虎王丸:「そのくらい警戒心が強くなきゃ、龍人は今まで生き残ってこれなかったんだろ? 気にすんなって」
男は二人を、里の中にある一番大きい家に案内した。
家の前には革鎧をつけた男が数人立っており、家や木の陰には弓を持った男たちが潜んでいた。
虎王丸:「ずいぶんと物々しいな。前回来たときとは大違いだな」
男:「今度あの兵士どもが攻め込んで来たら、完膚なきまでに叩き潰してやらねばならん。近々戦力増強のために冒険者を伴っての襲撃があると聞いたのでな」
虎王丸:「なんだ、もう知ってたのか。俺たちはその情報を知らせようとこうして来たんだぜ」
男:「大々的に知られている情報であれば、エルザードに放ってある龍人が持ち帰ってくるのだ」
凪:「エルザードにも龍人がいるんですか?」
凪が驚くのも無理はない。
龍人はその血ゆえに、こうして人目を避けてひっそりと暮らしているのだ。血を飲めば偉大な力が手に入ると世間では囁かれているのだから、悪しき心を持つものの目にとまればただ事ではすまないだろう。
それなのに危険を冒してまでエルザードに仲間の龍人を放ってある。
それほどまでに龍人たちは切羽詰っているのだろうか。
男:「もちろん変装はしているし、信用の置ける場所にかくまってもらっている。だから、その存在を知るものはごく少数しかいない」
族長:「といって、太陽の下で大手を振って動けるわけではない……」
広間の机に、髭を生やした初老の男がいた。
手元に広げた地図から視線を上げ、入ってきた凪と虎王丸を見つめる。
強い光の宿った金色の瞳に射すくめられ、二人はごくりとつばを飲む。
さすが、というべきだろうか。
世界によっては神ともされている龍の種族なのである。人型の状態では本来の力を発揮できないが、その立ち居振る舞いからはひしひしと底知れぬ力が感じられた。
虎王丸:「ずいぶんと耳が早いんだな」
族長:「人型であっても、そのくらいの能力はあるのでな。……さて、早速ではあるが、お前たちは我々に味方してくれるのだな?」
凪:「もちろんです。あなたがた龍人に非は全くありません」
族長:「非がない、か。一部の人間にとっては、我々がこのような血を持っていること自体が非であるらしいがな」
くつくつと笑いながら、地図に印を書き込んでいく。
族長:「先に言ったように、我々は大々的には動けない。新たな敵まで呼び寄せることになるからな。そこで、お前たち二人にツォールの救出を依頼したいのだ。見張りとのやり取りを聞くに、なかなか実力のある冒険者のようだからな」
凪:「やはりツォールは捕らえられているのですか?」
族長:「確信はない。だから正しく言えば、ツォールの捜索、ならびに里へ帰還させることが仕事だ。この地図に、捕らえられている可能性の高い箇所に印をつけておいたから、まずはそこを探ってもらいたい。……受けてもらえるか?」
即答しようとした凪を遮り、虎王丸はにやりと笑いながら言う。
虎王丸:「報酬は?」
凪:「虎王丸! 今はそんなことを言ってる場合じゃ――」
族長:「もちろん礼金は出す。……冒険者たるもの、そのくらい貪欲な方が頼もしいな」
族長は机の引き出しから巾着を取り出し、地図と共に虎王丸に渡す。
袋は確かな重みがあり、軽く放るとちゃりちゃりと音がした。
族長:「それは経費だ。あとはツォールを連れ帰り次第支払おう」
虎王丸:「ありがとよ。じゃ、行ってくるぜ!」
二人は族長の家から出ると、手渡された地図を見ながら歩き始めた。
二人が持っていた地図はユニコーン地方を広く大まかに書いてあるものだが、渡された地図はヤーカラの隠れ里周辺を詳しく書いてあった。
ヤーカラの隠れ里はもちろん、剣に絡んだ蛇の紋章を掲げる領主――ナーザインの屋敷や、山に点在する池や泉の場所まで記されている。
虎王丸:「じゃあ、このナーザインって領主が持ってる古い砦に行くか」
凪:「うーん……」
虎王丸:「なんだ、どうかしたか?」
凪:「よく考えてみなよ。そのナーザインっていう領主はヤーカラの隠れ里に行くために冒険者を雇おうとしているんだ。ツォールを捕らえているのなら、わざわざ隠れ里へ行く必要があるか?」
虎王丸:「ンー、それもそうだな。ご所望の龍人の血が手元にあるんなら、わざわざもう一人龍人を捕らえる必要はねぇもんな。……戻って、族長に聞いてみるか?」
凪:「……彼らは領主たちが攻めてくる情報を掴んでいたし、何か理由があるのかもしれないな。とりあえず行って様子を見てみよう」
ナーザインの古砦は山と山の狭間、切り立った崖でできた峡谷に建っている。
砦につながる道が一つしかないので、敵が大挙して押し寄せることは出来ない。
……とは言っても比較的平和な今の世、その砦が本来の力を発揮することはほとんどないだろう。
かろうじて整備をし、形だけの警備兵を数人置いているのみである。
虎王丸:「ぱっと見だとおかしいトコはねぇな。警備兵は欠伸なんかしてるし、緊張感のカケラもねぇ」
凪:「おかしいな……。居場所がばれないように警備兵を少数にするとしても、重要な人物が中にいるとすれば無意識のうちに緊張すると思うんだけど」
虎王丸:「やっぱり、ここにはいねぇんじゃねぇか?」
凪:「……族長さんが探れって言うぐらいなんだから、何かありそうだ。砦に入って探ってみよう」
虎王丸:「隠密行動か……。俺、正面から堂々と突入とかの方が性に合ってるんだけどな……」
凪:「そんなことしたら、戦ってる間にツォールがどこかへ連れ去られるかもしれないだろ」
虎王丸:「わーってるよ」
二人は砦の裏手に聳え立つ崖に向かい、そこで凪は扇を持たずに舞い始めた。
やがて凪の周りを鋭い風音が回り始める。
凪:「虎王丸、俺にしっかり抱きついて」
虎王丸:「……お前の腕力に任せるのはめっっっっっちゃ不安だ……」
凪:「ま、多分大丈夫だって」
虎王丸:「こーゆーときは絶対とか言えよ! ……ったく」
ぶつぶつ言いながら、虎王丸は凪にしがみついた。……自分よりも小柄な人間にはかなりしがみつきにくそうだったが、嫌だとも言っていられない。
凪が舞ったのは、『蒼之比礼』である。
蒼之比礼は気流の布を形成する術であり、それを使って攻撃したり、遠隔操作が出来る縄のように使うことも出来るのだ。
気流の布で眼下に見える砦の屋上にある壁を掴み、体を砦の壁上に運んだ。
自分と虎王丸の体重をその細腕で支えるのは辛かったが、なんとか無事に敷地内へ侵入できた。
屋上から砦内に続く階段付近には警備兵がいないと確認済みだったので、二人はさっさと中に侵入した。
砦の内部は埃っぽく、天井には蜘蛛の巣が張っている箇所もある。人の出入りが極めて少ないのだろう。
二人はそれぞれの武器を構え、じっと耳を済ませたり埃の積もり具合を見たりして、ツォールがいるという形跡がないかを調べる。
虎王丸:「人の気配はねぇな」
凪:「前は魔術師もいたから、魔術で気配を消しているのかも」
虎王丸:「ちっ。そうだとしたら、俺じゃあどうにもならねぇや」
扉があれば虎王丸が扉に耳をつけて音がしないか確認し、凪があたりを警戒した。
その作業を何回も繰り返しただろうか。
屋上から砦に入り、二回階段を下った。その少し後のことである。
凪:「……あれ?」
虎王丸:「どうした?」
凪:「上の階では、この場所にも扉がなかったっけ?」
虎王丸:「ん、そうだったっけか?」
凪は目の前の壁を触ったが、特に異常は感ぜられなかった。
そして虎王丸に周囲の警戒を頼むと、扇を持って舞い始める。
埃が舞い散って咽そうになったが、なんとかこらえる。
視野の野。
それは自分を中心として半径30mほどの範囲を、目視したように把握できる術である。
その術で凪が違和感を覚えた壁を見ると――。
扉が、視えた。
虎王丸:「凪、人が来るぞ!」
舞に集中していたので、虎王丸の声に反応するのが数瞬遅れた。
虎王丸は素早く階段に身を隠したが、凪は廊下の角を曲がってくる人影に発見されてしまう。
警備兵:「なんだ、お前たちは!」
虎王丸は舌打ちをすると、陰から飛び出して警備兵の首筋を強打した。
警備兵はたまらずくずおれるが、その直前に警笛を吹かれてしまった。
虎王丸:「クソッ! 逃げるぞ凪!」
凪:「……でも、きっとここにツォールがいる」
虎王丸:「捕まりてぇのか!? ツォールを助け出すのだって、俺たちが健在でこそだぜ!」
珍しく虎王丸のほうが引っ張る形となった。
……凪が逃げることを迷っているのは、ツォールの華奢な姿を思い出したかもしれない。
捕らえられているとしたら、きっと酷い目にあっているだろう。何しろ奴らは『血』を狙っているのだから。
そして、その逡巡が命取りになった。
???:「踊れ踊れ、我の手の上で」
見えない扉の向こうから低い呟きが聞こえてきた。
凪はとっさに気を張ったが、虎王丸は壁から声が聞こえてきたことに驚いて目を丸くしている。
――と、虎王丸が急に苦しみだした。
凪:「虎王丸!」
魔術師:「ふん、かかったのは一匹だけか。……まぁ、いい」
壁がぐにゃりと歪み、現れた扉から魔術師が現れた。
おそらく幻術で隠してあったのだろう。触っても壁の感触がしたことから、かなり高等な魔術なのだろうと思われる。
凪:「虎王丸ッ!?」
虎王丸:「う……あぁぁぁ……!」
身悶えて苦しむ虎王丸を救うには魔術師を倒すしかないと、凪は銃型の神機を構える。
が、その頃には警備兵が集まってきていた。
凪一人でこの人数を倒すのには無理がある。
どうしようかと焦っていると、虎王丸が首の鎖を引きちぎった。
あっという間に白焔で包まれ、半霊獣人状態に変化する。
そのまま、己の爪で近くの壁を破壊した。
石造りの壁に大きな穴が開き、外の清涼な風が流れ込んでくる。
凪:「虎王丸! 逃げれるか!?」
虎王丸:「に、逃げ……ろぉぉぉォォォ!」
言葉の最後が雄たけびに変わり、同時に凪に襲い掛かった。
凪:「なッ!?」
かろうじて神機で受けるが、力の差は歴然だった。
ぐいぐいと押され、壁にあいた穴の縁まで追いやられる。
がらりと、石がはるか下に見える地面に落ちた。
凪:「虎王丸、どうしたんだよ!?」
虎王丸:「ウゥゥゥ……」
虎王丸の声は、獣のそれだった。
凪は混乱した頭で、必死に考えを巡らせる。
先ほど魔術師が低く唱えた直後から様子がおかしくなった。
ということは……人心操作術だろうか?
それを解くには術者を倒す必要があるだろう。だが、この状況ではとてもそれは望めない。
自分の無力さに、強く唇をかんだ。
虎王丸がいったん腕を引いたのでわずかに希望を持ったが、それはあっけなく打ち砕かれた。
真紅の雫が、飛ぶ。
渾身の力を込めた虎王丸の爪は凪の胸を捉え、その体を穴から砦の外へと吹き飛ばした。
凪は朦朧とした意識の中で穴を見上げる。
そこには、灰色ににごった瞳の虎王丸が、うな垂れるようにたたずんでいた。
凪:「……虎王丸……」
凪の意識は、耳元で騒ぐ風に紛れて途絶えた。
+ + +
魔術師:「逃げおおせたか」
落ちる凪を空中で受け止めたエメラルドの竜は、どんどん遠ざかっていく。
だが、魔術師はそれを追おうとはしない。
面白そうな表情で半霊獣人状態が解けた虎王丸を眺めている。
魔術師:「人心操作術さえ防げぬ力馬鹿だが……なかなか面白い能力だな」
部屋から銀色の太い鎖を持ってくると、それを虎王丸の首と手足に巻き、傷だらけのツォールが囚われている檻に押し込んだ。
光を失った虎王丸の瞳が、わずかに揺れた。
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■ライター通信■
こんにちは、糀谷みそです。
このたびはクエノベをご発注くださり、ありがとうございます。
今回のノベルは前中後編という編成になりますので、よろしければ続きをご発注くださいませ。
前後編のほうがよければ話を縮めますので、そのようにお申し付けください。
展開が、ちょっと凄いことになっています(゜v゜;)ゞ
捕まるどころか凪が負傷したりしていますが……。
やりすぎでしたらメールででも文句を言ってやってください〜(´ロ`;)
……仲間割れを書いていてすこぶる楽しかったというのは秘密です(笑)。
ご意見、ご感想がありましたら、ぜひともお寄せください。
これ以後の参考、糧にさせていただきます。
少しでもお楽しみいただけることを願って。
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