<PCクエストノベル(2人)>


アンデッドと賢い虎王丸

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1070 / 虎王丸 / 炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術士】
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虎王丸:「アンデッドに会いたい」
凪:「へえ?」

 間抜けな声を出してしまったと凪は考えながら、虎王丸に向き直る。ここは町の食堂。昼時であり、人でごった返している。もしかしたら聞き間違いかもしれないと祈りながら、尋ね返した。

凪:「ごめん、聞こえなかった。もう一度」
虎王丸:「アンデッドに逢いたい」

 本人は至ってまじめのようだ。心なしか、前回よりも言葉に力が込められている気がする。

凪:「前々から言おう言おうと思っていたんだけど」
虎王丸:「なんだ、飯の注文なら後回しにしろよ。俺も頼みたいからな。こういうのは一度に注文したほうが……」
凪:「そうじゃなくて」

 凪は虎王丸の言葉を遮った。少しだけ声音を低くして迫力を込める。

凪:「お前は考えなしな上に人の話を聞かないな。いったいどういう風の吹き回しだ」
虎王丸:「どうもこうも!」

 虎王丸は鼻息荒く、身を乗り出した。懐から物を取り出すと、テーブルの上に叩きつける。食器が震え、音を鳴らした。凪は恐る恐る眼前ものを見やる。

凪:「ああ、これは」
虎王丸:「そうだ、これだよ」

 鎖が巻きついた刀である。手入れがされてないのか、所々鎖に埃でついた汚れが目立つ。

凪:「まだ持っていたのか」
虎王丸:「そうだよ、持っていたっつーの。俺は物持ちがいいんだよ」
凪:「そうは思えないけど、まぁそこはつっこまないことにしておこう。それで?」
虎王丸:「簡単だよ、使えないんなら、使えるように、俺が使えてしまえばいいんだよ! 俺、チョー頭イー」
凪:「うわ、頭の悪い物言いだな。もう少し言葉の使い方をどうにか」
虎王丸:「うっせぇ! とにかくだ! 使えないんだったら、物理攻撃でもないから、こう、ガツンとだなぁっ!」
凪:「ああ、結局、力でものを言わすのか」
虎王丸:「まるで俺が何にも考えてないように言うんじゃねぇ! いいか、俺はだな!」
凪:「はいはい、だけどね」
虎王丸:「なんだよ」
凪:「俺は行かないよ」

 断言する。一瞬だけ虎王丸の顔が強張った。何度か瞬きをした後、まじまじと凪の顔を見つめてくる。

虎王丸:「え、なんで」
凪:「地下水脈のときに考えたんだよ。虎王丸の持ってきた話には、俺が一応調べた上じゃなきゃ話に乗らないって。どうせ、後先何も考えてないんだろう」
虎王丸:「ち、ちがう。ムンゲの地下墓地だぞ、アンデッドがいっぱいで、この刀でボコボコだぞ」
凪:「それが後先考えてないっていうんだよ、地下墓地入ってどうするんだ、探索するのか? 何のあてもなしに? これだから虎王丸の持ってきた話は」

??:「なら」

 二人の話を遮って、男の声がした。凪は眉をひそめて顔を上げる。同時に、虎王丸も興味が惹かれたのか、ゆっくりと視線を声のしたほうへ向けた。そこには全身包帯を巻いた男が立っている。

男:「私ならあなた方の面白い話をさしあげられると思いますよ」

***

凪:「どう考えても罠だよな」
虎王丸:「罠でもいいじゃないか、そこに冒険が待っているなら!」
凪「お前は単純で羨ましいな」
虎王丸:「むしろ、凪が複雑に考えすぎなんだよ! イイか、こう、こうして、だな!」
 
 鎖が巻きついた刀で素振りをしはじめる。もはや言葉は届かぬと諦めた凪は、眼前を歩く包帯の男に向き直った。男は宝の場所へ案内をするといって、地下墓地の内部まで二人を連れてきたのである。

 そう、どう考えても罠である。
 目の前の男も、アンデッドの仲間だろう。近づけば死臭がする。だが、凪には何故男が二人を地下墓地まで連れてきたのかが理解できなかった。何故、凪たちだったのか。偶然なのか、それとも。

虎王丸:「宝って、新しい宝なんだろ、すげぇよな。奥までどんどんいくのかね、いくんだよな!」
凪:「黙って、集中できない」
虎王丸:「何だ、もうお宝のことを考えているのかよ、凪は気が早ぇなぁ」
凪:「いい加減人の話を聞け。そもそも、こうした地下墓地で考えなしに奥まで行くのは危険なんだ。罠もそうだが、古い墓地だから仕掛けも複雑な可能性が」
虎王丸:「へえ、そういえば」
凪:「何、どうしたんだ?」

 虎王丸がおもむろに指を差す。はっと凪は面を上げた。包帯を巻いた男はいない。虎王丸と話した数秒の間で、男の姿は忽然と消え去った。

虎王丸:「どこ行ったのかね」
凪:「いやな予感がする、するんだが」
虎王丸:「ひきかえそうにも」

 虎王丸が嘆息しながら、後ろを振り向いている。彼の動作に続くようにして、凪も後方を確かめる。凪は重くため息をついた。
 何故なら、凪たちが今まで歩いていた道のりは、岩と土で塞がれていたからだ。

凪:「罠……いや、わかっていたんだが」
虎王丸:「いいじゃん、面白くなって、きたぜー!」
凪:「ハイテンションだな、まぁ、どうにもこうにも」

 凪は額を手で押さえながら、片方の手で銃を構える。額から手を離せば、刹那の間に、銃が持ち替えられる。両手に、二本の銃を抱えて、凪は足を土に滑らせた。
 虎王丸は鎖が巻きついた刀を肩へ乗っける。鎖の上に、炎も渦巻くようにして巻きついた。薄暗い地下墓地に、わずかな炎の光が揺れる。

 凪と虎王丸はアンデッドたちに取り囲まれていた。

凪:「正面突破しかない、か」
虎王丸:「上等! 逃げるってのは趣味じゃないしな!」
凪:「戦略的撤退っていうのもあるけれどね。今はそんなことを言っている場合じゃなさそうだ」

 腐りかけたゾンビ5体、薄気味悪い形態をした犬の群れ数十体、不自然に歪な大きさをしたカラスたちが5,6匹。
 倒せない数ではない。
 数匹の犬が大きく跳躍して、凪に襲い掛かる。
 銃声の音が戦闘開始の合図だった。

***

虎王丸:「ほらほら、次いくぜぇ! 燃え尽きろや!」

 虎王丸の炎が刹那の光となりて、墓地内に眩い光を与える。太陽のような白熱の光はアンデッドたちには酷だったようだ。炎の光は確実にアンデッドたちを足止めし、動きを鈍らせる。
 そもそも、元々アンデッドは素早いものではない。動きを止めたアンデッドたちを、容赦なく虎王丸の炎が襲い掛かる。灰になりて、土になりて、瞬時にアンデッドたちは姿を消していく。

凪:「アンデッド向きの技はあるにはるんだけど」

 凪は銃を器用に持ち替えて、周囲のアンデッドを一掃していく。アンデッドたちの動きは鈍い。凪の銃さばきについて行けないのだ。次々と銃弾の前にひれ伏していく。

凪:「しょせん雑魚だし。俺がその気を出すまでもない」
虎王丸:「凪、こいつら弱ぇぞ!」
凪:「知ってる。だがだったらなお更」

 凪は最後のアンデッドを銃の一撃で粉砕する。

凪:「なお更、俺たちをここに連れてきた意味がわからない」
虎王丸:「簡単な話だ、俺たちをなめてたんだろ」
凪:「違う、わからないのか。わざわざ俺たちを指名してまでここに連れてきた。ということは、それなりに俺たちのことを知っているはず。だが、実際に待ち構えていた敵は俺たちを倒すには至らないレベルだった。あまりにも差がありすぎるんだ」
虎王丸:「だから、何なんだよ。凪の話は難しすぎてついていけねーよ」
凪:「俺たちでなければいけない、そして同時に俺たちを殺す気はない。そして、俺たちを逃す気はない……」
虎王丸:「じゃあ、何だよ。凪ぃー、もうちっとわかりやすく話してくれ、俺、頭が混乱してきたぞ」
凪:「とりあえず、不本意だが、先に進むしかない」
虎王丸:「お、それはわかりやすいぞ。一票入れた!」
凪:「お前の行動はわかりやすいな、助かるよ」
虎王丸:「お、だろ?」

 皮肉を皮肉とも思わない虎王丸を見ながら、凪は頭痛がするのを覚えた。だが、だからといってここで立ち止まっているわけにはいかない。先に進みながら、これからのことを考えるとしよう。

凪:「後先考えずに進むっていうのは、俺の好みじゃないんだけどな」
虎王丸:「俺めっちゃ好きー」
凪:「頼むからそういう自己主張は勘弁してくれ」

 この先に何が待っているかわからない。だが進むしかない状況に、凪は再び頭痛を覚えた。

***

虎王丸:「ひぇー、大きな扉だな」
凪:「なんか、デジャブが」
虎王丸:「あ、でもこれ開くみたいだぜ」

 二人の目前には、大きな扉が存在していた。元々は細かい細工が施されており、美しい色彩をした扉だったのかもしれないが、今は見る影もなく、扉のあちこちは腐食して、錆びついて、汚れや所々の崩壊が目立ってきている。
 虎王丸が軽く扉を押せば、簡単に扉は開いた。
 重苦しい響きを伴いながら扉は開いた。広間が存在している。ここで舞踏会でも催されていたのだろうか。真っ赤なじゅうたんに、華麗なシャンデリア。だが、いまは面影はなく、じゅうたんのあった場所には腐食した布切れが存在しており、辺りには砕け散った岩の残骸があちこちに散乱している。
 真っ赤な絨毯、シャンデリア? 凪は頭を横に振る。幻覚だ。地下墓地にはそのようなものがあるはずはない。ただ、そう高貴なものがあるように思わせる雰囲気が、この広間には存在していた。
 広間の中央には、小さな墓があった。丸く横長の岩が突き刺さっている。岩には何か文字が刻まれていた。

凪:「んー、読めないな。期待してないが、虎王丸はどうだ?」
虎王丸:「ああ、読めるぜ。シマモリ、ここに眠るって書いてあるぜ」
凪:「やはり読めないか、期待してなかったからいいけど」
虎王丸:「あ、でも他にも何か書いてあるぜ。我、腐をもたらすものなり、腐? ってなんだ」
凪:「読めないとなると、次の手を考えなければな。もう行き止まりみたいだし」
虎王丸:「墓の下には何も埋まらず。我が存在せしは鎖なり。意味がわからん。が、鎖なんてどこにもないじゃんかよー」
凪:「さっきから何をぶつぶつ……」

 凪は墓石を覗き込む虎王丸を指差した。

凪:「もしかして、読めるのか?」
虎王丸:「うん、まぁな。こんなもん俺にかかればどうってことねぇぜ。らくしょー」
凪:「なんで読めるんだ」
虎王丸:「え、人徳」
凪:「それは嘘だろう」
虎王丸:「ごめん、嘘ついた」
凪:「まぁ、それはいい。で、なんて書いてあるんだ」
虎王丸:「要約すると、俺はここに眠るぜ、でも墓の下には何もないぜ、俺は鎖だぜ! そんな感じ」
凪:「それはまた適当だな。って鎖?」
??:「そうですよ」

 声がした。突然生じた気配に、凪は警戒を高める。虎王丸も目つきを鋭くして、戦闘の態勢を整える。そこには、全身を包帯で巻いた男が存在していた。

男:「本来ならば、その墓には鎖が巻きつけられているはずでした。でも、人間たちの横暴な墓荒らしにあって、鎖はばらばらになってしまったんですよ。人間たちは鎖には見向きもしませんでしたからね。それはもう手ひどく扱われ、散り散りに。本当は鎖のほうに力が篭っているとも知らずに」
凪:「鎖とは、まさか」
虎王丸:「もしや、これか、これなのか!」

 やったー、と虎王丸は子供のように大はしゃぎして、鎖が巻きついた刀を振り回す。

男:「すでに鎖と刀は一体化している。鎖が離れないのも無理はない。もはやそれ自体はシマモリの一部なのだから」
凪:「なんだ、それは」
男:「アンデッドの化け物の名前ですよ。本来ならば奥深くに眠っているはの、ね。命あるものが死に、歪な形となってよみがえったアンデッドとは違う、純粋に地下墓地から、そうあれと望まれて自然に誕生したアンデッドですよ」
凪:「そう、あれ?」
男:「アンデッドとは、こうあるべきだ、という人間の思いこみですよ。だが、生まれたものは誕生してすぐ自分の境遇を呪い、自殺し、その身をまったく関係ないものに変えた」
凪:「なぜ、そんなことを俺たちに話す」
男:「なに、私も墓地に奥深く住まうものとしてね。古い同胞にめぐり合えて懐かしかったんですよ、それだけです」

 きっぱりと男は笑いながら言った。それ以外に意図はないと。

男:「それに使い道に迷ってらっしゃったようだ。そこの男がおっしゃるのも間違いではない。物理攻撃に確かに使えるのですよ。そうですね」

 男は扉から外に出ようとする。それと同時に徐々に閉まりゆく扉。慌てて二人は扉に駆け寄るが、びくりともしない。

男:「それをうまい具合に使ってごらんなさい。きっと面白い事が起こるかもしれないですね。それでは、縁がありましたら」

 男の声は徐々に遠のく。
 凪は扉に拳を打ちつけた。微塵も動く気配はない。

虎王丸:「なんでだ、さっきはあんなにすぐに」
凪:「くそ、このままじゃ、八方塞だ。何か策は」
虎王丸:「ええい、うっとうしい!」

 虎王丸は大きく腕を振り上げて、刀を扉に叩きつけた。轟音と共に、虎王丸の馬鹿力で扉に刀がめり込んだ。破片があたり一面に飛び散る。
 刹那、扉が一瞬のうちに、腐食した。腐った扉は跡形もなく土にかえり、崩壊してゆく。

凪:「これが、刀の力?」
虎王丸:「すっげええ、やっべ、感動した、なんだ、これ!」
凪:「いや、だが、しかし、これは、このあとは」
虎王丸:「何をぶつくさ言ってんだよ、一緒に喜ぼうぜ、いいお宝にめぐり合えたってな!」

 虎王丸の大声と共に激しい揺れは二人を襲った。揺れは円を描くように激しさを増し、辺りの壁は振動に耐え切れず崩壊してゆく。岩の破片は雨のように降り注いだ。

凪:「ふ、ふふ、やっぱり」
虎王丸:「うおお、凪ー、死ぬー死ぬー」
凪:「叫んでないでさっさと逃げよう、って逃げ道がー逃げ道がー」
虎王丸:「凪ー、やばいって、俺命の危機を」
凪:「黙れ、走れ、走れぇ!」

 その日、一日中、地下墓地から二人の悲鳴が木霊した。
 何とか逃げ延びた凪は、次こそは虎王丸の持ってきた話にはすんなりと承諾しまいと心に誓うのであった。
 刀の力がわかったという収穫はあったが、虎王丸の馬鹿力で物を壊す必要があるらしく、力の使いどころに頭を悩ませる凪であった。

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【ライター通信】
こんにちは、お久しぶりです。酉月夜です。
受注してくださり、どうもありがとうございます。
遅くなりまして申し訳ありませんでした。

デコボココンビ再来です。
とりあえず、再来ということでデコボコばかりさせてみました。
シリアスな雰囲気はなしに、彼らのデコボコぶりを楽しんで頂けたら、と思います。
本当に、この二人は書いていて楽しいです。

今回は本当に有難うございました。
またの機会がありましたらよろしくお願いします。
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