<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


Tales Of The Dark-servant 4

------<オープニング>--------------------------------------

 雨の中。吟遊詩人の詩は続く。
 黒山羊亭の時間は止まったままのような気になる。
 まだ、物語は続いている。
 詩は時に早く、時にゆったりと……
 吟遊詩人のリュートが酒場を支配している……


 闇の中で生きるモノ
 なにゆえにいきるか?
 力を得るためか?
 其れは己の心の内
 邪なるモノか
 哀しさからなのか
 真の心は知ることも出来ず
 只、闇の中を彷徨う


 闇の世界の住人から、様々なことを聞いた。しかし、それ以上に険しい道を進む。
 あの事件をそれまで、放っておけるわけは行かない。
 “語り部”が言ったあのデルゴリアドの目的をはっきりとつかみ阻止し、闇仙子を倒す。
 ある程度、の都市の距離を教えてもらって数日。闇仙子の領土に付いた。
 そして、闇仙子の城塞都市アヴァメセルに向かう。感覚が告げる。此処にあのフィーンド・サーゴートが居る、と。
 そのまま突き進んで阻止することは難しい。なら、あなたはどうすれば?
 ただ、“語り部”曰くフィーンド達は闇仙子を互いに争わせているといっても、
 社会はぎりぎり成り立っている様子だ。
 ずっと戦って、勝てるわけではない。何か知恵を使って高司祭に出会うことが重要だ。
 捕虜になるか?
 危険な城塞を忍び込むのか?

 目の前には、巨大な門が行く道を阻んでいる。


〈1〉
 城塞都市・アヴァメセル。その都市の城壁と門は強固で、すべての存在を否定するかのようにそびえ立つ。ただ、定期的に門は開かれる様子だが、余り近くに行くと、見張りに射殺されるかも知れない。門自体が殺気を放っているようにも見えた。静かな闇の世界……。
「さて、どうやって入ろうモノかね?」
 オーマ・シュヴァルツが遠くを見るように、額に手をかざして門を眺めている。城門がかろうじて見える場所まで退いている。
「むやみにつっこんで行くのは無理だろう。この城壁の大きさからして、兵士の数は5千に近いかも知れない。それぞれ別の行動を取った方が良いだろう」
 キング=オセロットは煙草に火をつけ、言った。
「どうしてだい?」
「情報は多角的に得る方が得策だ。我々は未だ相手のことを知らなさすぎる。落ち合う場所などは決めておいた方が良いが……」
 キングは、この湿った環境での不味い煙草は好きじゃないなと思い始めていた。煙草がしけってしまうと話しにならない。
「俺は、変装して向かうことにするよ」
「では、私は捕虜だな」
「捕虜!? ちょいまちな。其れは危ない」
 オーマは驚いた。
「確かに、危険だが。やってみる価値はあるだろ?」
 キングは平然として答えた。
 そもそも、彼らに捕虜という概念はあるか? という考えには、先日助けた人々は奴隷だろう。どんな目に遭うか分からない。しかし、キングが決めたことにオーマは余り口出しできないものだ。しかし、どうやって捕虜になる? 中を出入りする奴隷商人やパトロールなど待つというのか?キングの決意はオーマでは変えられない。もちろん逆も然り。
「……では、待ち合わせ場所は、高司祭の所がいいか?」
「その方が良いだろうな」
 と、二人は己の考えた方法での潜入の為、離れていった。


〈2a〉
 オーマはこの大きな城壁に悩まされている。近くにスラムなどはない。中にある。この地下世界では地上にあるような開けた所がない。当然といえば当然で、外は危険が満ちあふれているモノだ。
「変装して入ろうかなぁ とは思ったモノの。こうも、人がいないんじゃ…… アレしかないか?」
 キングが捕虜になるって言っていた。ならば、こちらも似たような方法が良いのか? とか色々考える。 お互い危険な状況下を察知出来る能力は持つ。キングの方が其れは得意なほう。キングが捕虜になるといったのだ。おそらくすでに辺りにパトロール隊を見つけていたのかも知れない。
「ほんじゃまあ。俺は俺なりに忍び込みますか」
 彼は、具現化を最大限に使い光学迷彩、赤外線阻害などを施し、登攀用道具も使いながら、上手いこと忍び、城壁を越えていった。そのあと、フードに身を多い、膝を低くして巨体を5フィート程度にする。顔もフードで見えない。
「では、周辺を見て回るか」
 城壁の上から見えた、だいたいの風景を頭にたたき込み、人通りの多い場所に足を運んでいった。
 橋や柱などで蜘蛛状に張り巡らされた、この奇妙な都市は、上下に鍾乳石の柱をそのまま塔として使い、吊り橋と何らかの材質で出来た橋と掛けている。材質は、おそらく石ではないかと思われるが……。
 オーマが見上げると、柱の塔は高く、この大空洞が恐ろしいまで深く、天井までが高いことを思い知らされる。闇の中で、すでに目が慣れているとはいえ、天井が見えない。
「時間はどうしっているんだ?」
 と、彼は呟いた。




〈3a〉
 オーマは町中を歩いてだいたいのことを耳に入れた。
 彼らの手話は、暗号的らしく、口を殆ど使わずして手や腕の微妙な位置と振り方にて成り立っているようだ。一般的な手話と違って、体全体で表すモノではないらしい。そのために、オーマでも理解するのは困難だった。
 まず、常に争っていないこと。何時どこでどうなるか、争いは時間帯がある様子。暗殺か何かだ。
 表だって狂信的ではなく、一応の社会は保たれていること。
 警備兵などもいる。治安はある程度守られている様子だ。
 闇仙子の話しかけようとすると、睨まれてしまい、話しかけれそうな雰囲気ではないために、別の種族に話しかけてみた。そこそこ身なりの良い種族が居る。ただ、どうもタコっぽい皮膚を持つ存在だったが。
「我らに何用か? 異界のモノ」
 人の顔をしているのだが、どうもタコを連想する。さわればっぱりタコかも知れないとオーマは思った。これが前に聞いた、脳喰らいなのだろう。
「ええっと、この都市に入ったのははじめてなので、道に迷ったんだ。色々教えてくれないか? アンダーは口堅くって……」
「……まあ、……我らにお前の用事などは関係がない。ある程度は教えてやろう」
 と、無愛想なこの存在は、オーマの頭をフード越しに触る。すると、頭の中に色々情報が入り込んできた。
「テレパス?」
「そう言うことだ。言葉を喋るよりデータ化した方が早かろう? お前が何のために此処に来ているのかは大凡分かっているし、この都市での生活は退屈しているところだからな」
「!? そのことは、黙っててくれないか?」
 オーマが小声で言うと、
「別に良いだろう。我らにはアンダーが考えていることなど無関係だ」
 と、脳喰らいはテレパスで伝えていた。その感情に喜びが入り交じっているようだ。
 その簡易データからは、女の方が上位に立っている社会体制であることがわかり。男は余りよい目は見ない。この都市の構成は上層階級や中流階級は上の塔に住み、そこまでの門は閉ざされている。一般階級や自由市民といわれている異種族(力の強い国の外交官や、脳喰らいはおそらく例外措置があるらしい)はこの空洞の地面。一番下層部のブロック〜つまり、この空洞の地面の下〜に力のない他種族、奴隷がひしめき合っている。この市民は奴隷など彼らを、死にモノ狂いで戦わせて、市民のストレス発散などに役に立っている様子である。あまり込み入った質問などはしなかった。高司祭に会える場所も、各階層を貫く用に存在している、デモゴリアドを祀る神殿のような場所に向かえば、たまに会えるとかとはっきり分かったのだが、その門は閉ざされている。それに、全く訳の分からない人物のオーマには謁見を許してくれるわけはない。上層階に侵入するしかなさそうだだった。
 この脳喰らいにデモゴリアドのことを聞きたかったが、彼は首を振った。異邦の存在ではあるが、よく知らないらしい。自分とは違う世界の出身ではないかと推測しているが確実ではないとかテレパスで送ってきた。それでもよく分からないことについてオーマは質問してみる。
 重要な情報みたいなモノでは、
「眷族召喚の時に、生け贄を必要とするか?」
「其れはするだろう。無垢な生け贄などな。我らは面倒な儀式だと思う」
「では、サーゴートが召喚された時って?」
「地上時間で言えば、数週間前だと記憶しているが、社の方で祭があったらしいぞ? 部外者の私には関係のない話だったが。見せ物小屋では大量殺戮で大にぎわいというのは覚えている」
 と、言った内容だった。
「まあ、どうあがくか見せて貰おう」
 脳喰らいは不気味に笑って去っていった。おそらくこの存在は人があがきもがく姿を見てみたいサディストらしい。お礼が脳を喰らうことでなくて良かったと思うオーマであった。また、争いなしに此処まで聞けたのは幸いと安堵した。
 ただ、オーマは何かしら疑問をもつ。
 デルゴリアドの過去だ。聖獣になれなかった理由。如何にして堕ちたのか気になるのだ。自分の故郷でのことと重ねてしまうのかも知れない。これは先ほどの脳喰らいからも聞き出せなかったのだ。かなりトップシークレットなのかも知れない。
 オーマは下層に建っている神殿の場所を探し、霊視を試みた。
 確かに、禍々しい何かうごめいている。ただ、神殿内部までは視えない。何かで遮断されている。
「んじゃあ、あの方法しかないのか」
 オーマは呟いた。
 ひとたび決まれば行動あるのみ。
 彼はなんと、金色の獅子になって上層階に忍び込もうとしてジャンプした。
「ウィオン! ウィオン! キャブ!」
 驚きと憎悪を込めた闇仙子達の叫び声がこだまする。
「おいおい、目が良いのか? まあ、こっちが好都合かもな!」
 オーマが駆け抜ける。上手く橋と橋の上を飛び越えて、上層階に上がった。
 闇仙子が追う。
 そして、態と袋小路のような場所に入って……、態と縄に捕まった。
「きゅう〜」
「グオッツ」
 よく分からない言葉だが、多分「捕まえた!」か「良い仕事だ」なのだろうと、頭の中で考えるオーマ。
 この後どうなるかは希望的観測で、高司祭に会えたらいいな、と考える。見せ物なんてごめんだが。
 その“ごめん”の方に向かおうとはそのとき考えていたが、まさか本当にそうなるとは思わなかった。
 上層階から下層の闘技場にある方に、檻に入れられ運ばれたからだった。


〈4〉
 見せ物小屋と闘技場のある区画。
「お、キングか?」
「地上の動物が捕まったと聞いたが……」
「ああ。大捕物だったらしいぜ」
 と、館の主は言った。
 キングの後ろにはクラッゼが居る。
「はー、闘技場出身だったのか」
「成り行きでね」
 キングの顔パスで、かなり高いところから、そのライオンを見る。
 ――何を考えているのだ。オーマ
 ――やあ、この方が短距離で高司祭にお目通りとおもったけどねぇ
 と、アイコンタクト+軍事的サインで会話するキングとオーマだったが。
 闇仙子や地下の住まう知的存在達は、物珍しそうにまたは、憎悪を投げかけてライオンになっているオーマを見ている。聞き取りたくてもたくさんの声で聞き取れない。
 ――動物園の動物たちの気持ちが分かる良い機会だ。
 ――全くだ。
 罵声とも分からない歓声に、耳を塞ぐライオンオーマは、ため息をつく。もし此処から元の姿に戻ったら大変なことになる。何通り最悪な道があるか。
 1.聖獣(?)の人化でさら騒ぎが多くなる
 2.騙されたと言うことでリンチ
 が、待っていよう。
 この状態では、さすがのキングも助けられない。
「何年ぶりだろう。地上の生物をみるっての……」
 クラッゼは驚きを隠せなかった。
「おそらくライオンは、しばらくすればデモゴリアドが居る館に送られるだろうな」
 と、闘技場の主は言った。
「本当か?」
「ああ、そして、生け贄にされる。確定だ。デモゴリアドは聖獣の力をほしがっている……。と、おいでなすった」
 闘技場の主はキングの肩を叩いて、指さした。
 歓声怒号が急に止んで、静かになる。
 この酒場の天井にも大きなドアがあり、バルコニー状になっている場所があった。そこに数人の闇仙子が立っているのだ。
「この都市の、実質上の支配者、第一家マトロン・グラマンス。アークフィーンド・デモゴリアドのお気に入りさ」
 と、彼は言った。

 ――まさか!
 ――ばかな!!

 オーマもキングもその存在に驚く。キングの後ろにいたクラッゼは恐怖に身をかがめてしまった。
 その存在は、遠くから見ても、聖獣のそれに匹敵するようなオーラを放っているのだから……。
 

 その力果てしなきもの
 聖獣の力なのか
 まやかしなのか
 上層にいる高司祭
 彼女が望むモノとは力
 それに手が届くと


5話につづく。

■登場人物
【1953 オーマ・シュヴァルツ 39歳 男 医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2872 キング=オセロット 23歳 女 コマンドー】

■ライター通信
滝照直樹です。
『Tales Of The Dark-servant 4』に参加して頂きありがとうございます。
個別行動になっておりますので、確認して頂けると幸いです。
また5話でお会いしましょう。

20061006
滝照直樹