<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


迷子を探して三千里?

 小さな教会の扉を、コンコンと叩く人物、ラビ・クローム。
 彼は、一つの目的をもってこの依頼を受けたのだ。
「……誰だ?」
 そんな声がすると、暫くして扉は開かれた。
 扉を開けた主は、マイだ。
「こんにちはー。依頼を引き受けてきたんだ。キラって人を探してるんだよね?」
「……お前がか。まぁいい。人手が足りないと思っていた所だ」
「キラの特徴とか、分かる部分があれば教えて欲しいな〜? 探す手がかりになるからね!」
 ラビがそう言うと、マイは小さく頷いて少し俯いた。
 どうやら特徴と言う特徴を思い出しているようだ。
 そして、一つの大きな特徴を思い出す。
「キラは、翼を持っている。黒と白の翼だ」
「黒と白の翼って、珍しいねー…?」
「だろう? 其れにアイツの雰囲気は独特だ。困っているフリをしていればすぐに見つかりそうなのものなのだが…」
 ならば何故其れをしないのか?
 当然の事、彼女の思考は硬いのだ。故にそんな『確証のない』事は出来ない。
 何処でどう困った振りをしていればいいのか、分からない為だ。
「そういうわけだ。捜索を頼めるか?」
「マイはどーするの?」
「…アイツが帰ってくるかも知れないからな、ここで待機しておく事にする。後は、頼んだ」
 そういうと、マイは大きな欠伸を一つ残し教会の中へと消えていった。

 ラビはまず広場から探す事にした。
 広場で困っているフリをしていればきっと見つかる。そう信じて。
「うーん、キラは何処にいるんだろー?」
 そう考えながら、とりあえず困った表情をしながら歩いて見た。
 そして、歩きながらキョロキョロと辺りをうかがうのだが…それらしき人物はいない。
「じゃあ次は料理店かな?」
 もしかしたら何か食べているのかも知れない。
 そう考えたラビは、料理店へと向かう。其処は美味しそうな匂いで溢れていた。
 更にはコックであるラビにとっては、聖域だ。
 色々のコックが、色々な料理をしているのを見ると、つい料理がしたくなってしまう。
「あー! 我慢出来ない!」
 ラビは厨房へと乗り込むと、お願いしますと頼み込み料理を一品作らせて貰うのだった。
 見るからに美味しそうな料理が出来上がり、其れをなんとお客様にも出してしまう。
 そして、全て食べるかどうかもチェックしている。
「食べてくれるかな? かな?」
 料理人である彼にとって、一番好きな事は料理。
 此れはコックなら誰もがそうかも知れない。
 だが、一番嫌うのは食べ残しである。
「ご馳走様」
「あー! お客さん、食べ残してる! 何が悪かったの!? 味? 気持ち? 材料!?」
 と、いった具合に。思わずその人に聞いてしまうのである。
 そんなこんなで時間は無残にも経過していく。
 我にかえったラビは辺りを見回して見たが、其処にキラらしき人物の姿はない。
「もしかして、もう行っちゃった? それとも、いなかったのかな?」
 結局また捜索は振り出しに戻る。
 もう一度広場へ行こうと歩きだすのだった。
「まったく! キラって人は何処にいったんだろー…?」
「あー、お腹がすきましたね。帰る前にお食事でも…」
 すれ違う二人。
 そう、今ラビがすれ違った人物こそキラだ。
 しかし、ラビは其れに気付く事はなかった。

 広場に来て、やっとラビは情報収集を始めた。
「この辺に、白い翼と黒い翼持ってる人いなかった?」
「ん? 其れはキラくんの事かい?」
「キラさんなら、さっき診察終わってお腹がすいたからって料理店の方へと向かったわよ?」
 此処で発覚したすれ違い。
 急いでラビは踵を返し、元来た道を走るのだった。
 そして、店につくやいなや店員にこう尋ねた。
「さっき、ここに黒い翼と白い翼もった人来なかった!?」
「キラの事? キラならさっき食べ終わって広場に…」
「何回すれ違えばいいんだよっ!?」
 がびーんとショックを隠しきれないラビ。
 結局キラを捕縛出来たのは夕刻頃だった。
「いやぁ、すみません。私を探していただなんて、知らなくて」
「マイが心配で探してたんだよ。だから僕が手伝ったんだ」
「マイさんがですか? 私の事を見ていないと思っていましたが、なるほど。少しは成長してくれたんですね」
 うんうんと頷くキラを余所目に、ラビは既にぐったりとしているのだった。

「連れて帰ってきたよ、マイー!」
「只今戻りました。…あれ? 返事がありませんね」
「出かけてるのかな?」
「いえ、この時間マイさんは何時も読書しているはずなので…」
「あ、あれじゃない?」
 ラビが指を指すと、其処には椅子に座り机で眠っているマイの姿があった。
 そう言えば、依頼を引き受ける時も彼女は欠伸をしていた。
 きっと、心配で眠れずだったのだろう。
「あはは、寝ちゃってるね♪」
「余程お疲れになったか、読書の所為で眠かったんでしょうねぇ」
「キラは、心配してもらったーとか思わないの?」
「…彼女にとって、僕はオブジェクトですから。そんな事は思いませんでした。でも、こうして見ると、思えるのかも知れませんねぇ」
 嬉しそうに笑うキラを見て、ラビは思わず報酬の事を忘れかけていた。
 が、やっとこ思い出せたので其れを彼に告げた。
「あ、報酬ですね。それじゃあ、僕からお渡ししますね」
「えへへ♪これで新しい調理器具が買えるよー♪」
「次来る時は、依頼ではなくお祈りの為に来てくださいね? 主は何時でも貴方を見守っておられますから」
「うん!その時は料理も持ってくるよ!」

 こうして、依頼は無事成し遂げられたのである。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3413/ラビ・クローム/男/12/コック
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■         ライター通信          ■
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 初めまして、神無月鎌です。
 この度は参加ありがとうございました。
 どういった風にやろうかなーと考えながら楽しく書かせて頂きました。
 バトルコック、いい響きですよね♪
 某ゲームのワンダーシェフを思い出してしまいました(笑)

 それでは、またお会い出来る日を楽しみにしております。