<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
閉じた門、開くべきは今
オープニング
ベルファ通り、黒山羊亭の近くにずっと閉ざされたままの門が存在する。
その門がいつから閉じられているのか、それは誰も知らない。
ただ、何かを封印してあるのだと古い文献には記されてあった。
「これ以上は読めないか…」
古い文献をバサリとテーブルに投げ捨てる。
かろうじて読めたのは、封印されているのは『女』だと言うこと。
かつてソーンに大きな被害をもたらしたからだと言うこと。
「とりあえず門まで行ってみるか」
長い髪をなびかせ、大きな剣を携えて女性は歩き出す。
その場に偶然居合わせた貴方は、彼女へと向かい歩き出す。
視点→千獣
ベルファ通り、いつものように千獣が歩いていると『開かずの門』で有名な門の前に一人の女性が立っていることに気がついた。
「……門……?」
そう千獣は呟いて、門をぼんやりと見上げる。門は所々に錆が目立ち、重苦しい雰囲気をかもし出していた。
「……そう、いえば……開いて、る、とこ……見た、ことない……」
そう呟いた時、門の前に立っていた女性が千獣に気づいたのか、にこりと笑ってこちらへと歩み寄ってくる。
「こんにちは、…その前に初めまして、かな。あたしはリラ、見ての通りの剣士よ」
よろしくね、そう言いながらリラと名乗った女性は握手を求めて手を差し出してきた。
「……私、は…千獣……」
よろしく、そう答えながら千獣も握手をするために手を差し出した。
「貴方も門に興味があるの?」
興味があるのか。そう問われて千獣は思案する。
確かに門が開いている所を千獣は見たことがない。それはソーンに住む人間全てに当てはまることだろう。門が開こうが、閉まったままだろうが特に千獣は関係がなかった。
ただ、門の前でジッと睨み付けるように見つめるリラが目に入って、門ははっきり言ってそのついで…と言ってもいい。
「…何も答えないところを見ると、門を開けることに興味があるワケじゃなさそうね」
「……この、門……開ける、の……?…どう、して…?」
千獣の問いにリラは困ったように笑うと「何でだろうね」と曖昧な答えを千獣に返してきた。
「門、開けて……どう、するの……?」
「反逆を起こして、あの門に封印されているって女、あたしの身内なんだぁ。…って言っても遥か昔の身内らしいケドね。詳しい事は文献自体も古くなってて分からないんだ」
リラの口から発された言葉に、千獣は少々驚きを隠せなかった。
そして、先ほど門を睨み付けるような視線の意味をおのずと理解した。
身内から反逆者が出た。それも封印を施されるほどの反逆、並大抵の罪で封印まではされるはずもない。一番不幸なのは身内だ。身内が反逆を起こした事で罪を起こしてもいない身内までもが反逆の目で見られるのだ。
それは何年、何十年、何百年と消えることのない傷跡のように身内の彼女達を蝕んでいるのだ。
「……その、人……憎、い……?」
「…憎いわ。顔も知らないのに、身内ってだけであたし達の一族がどれだけ迫害されてきたか…貴方に分かるかしら…?」
リラの淡々と語る言葉にズシリと圧し掛かるようなものを感じて千獣は黙ったままリラの言葉を聞いていた。
「…あたしは、この門に封印されている女にトドメをさしたいのかもしれないわ。今まであたし達を苦しめた罰よって」
だから!そう言い門を開けようとした時に「…ま、って…」と千獣がとめた。
「何?いまさら止めようって言うんじゃないわよね?」
少しだけ眉間に皺を寄せるリラの間をすり抜け、門に手を触れさせた。特有の冷たさが千獣の手に伝わってきたが、構うことなく目を伏せた。
「ちょ――…」
何のつもりと続くはずの言葉はリラの口からは出なかった。千獣が話し始めたからだ。
「……こ、の先に……いる、女、の人……悲しんでる…そし、て…憎んで、る……」
目を開き、リラを見つめる。その視線には『本当に開けるのか』という意味をこめて。
「悲しみたいのは…憎みたいのは…こっちだわ!」
そう言って門にガッと手をかけた。
「…さぁ、開きなさい!開くための鍵はあたしの中を流れる血!さぁ、開きなさい!」
突如、パァッと輝き、千獣は目を開けてはいられなくなり目を一度閉じた。
そして―――…。
「…な、にこれ…」
目の前に広がる光景は、今まで開かなかった門が開いている、そして…その中には荒地の中で鎖にがんじがらめにされている女性の姿があった。
「……あ、れが…反逆を……起こ、して……封印、さ……れた人……?」
草も生えていない荒野にぐったりと横たわる女性に千獣とリラは徐々に距離を縮めていく。
「……誰…です?」
女性との距離が近づくと、閉じていた瞳を開いてポツリとか細い声で呟いた。
「懐かしい血流を感じる、私の…血を継ぐ人間?」
「…あたしは…あんたの…子孫にあたるリラ。あんたが…あんな事をしたせいで…」
がちゃ、と剣を手に持ち女性に突きつけた。千獣は女性から害意を感じる事がなかったので、特に何をすることもなく成り行きを見守ることにした。
「そう、あれからどれほどの時が流れたのか分からないけれど…貴方は私を殺してくれるの?」
そう呟くと、女性は横たえていた身体をゆっくりとした動作で起こし、リラと千獣を見据えた。
「確かに私は反逆を起こしたわ。だけど、その火種が何か知っているのかしら」
「…原因?」
「そう、私は恋人を殺されたの。王国の騎士に。彼は何もしていなかった。無罪だったわ。だけど…王国の人間は自分達に罪もない人間を捕まえた、その事を汚点に感じ、ありおしない強盗劇を演じて見せたの」
彼を殺すためだけに。そう呟く女性の言葉に千獣は嘘は感じられなかった。遥か昔には己の保身ばかりを願う人間もいたのだろう。彼女の恋人はそれらの犠牲者とも呼べる。
「…だけど!貴方が王国に反逆を起こさなければ、あたし達はっ!」
「それは…お互い様だわ。私には貴方の気持ちは分からない。だけど、貴方も恋人を目の前で殺された私の気持ちなんて理解できるはずがないもの」
だけど、もう疲れた。彼女はため息混じりに呟く。
「この門の封印の中では時の流れは関係がない。私には永劫の孤独と闇しか残っていない。だから、私をいい加減に楽にして欲しいの」
私が憎いのでしょう?とまるで剣を振り下ろすことを促すかのように言葉を続けた。
「……リ、ラ……」
下を俯いたまま何も言わないリラを心配したのか、千獣がリラの名を呼ぶ。
「…ずるい。そんな言い方はずるい。そんな話を聞かせられたら殺せないわ」
カランとリラが剣を落とす音が荒野に響いた。
「…時間だわ。早く門から出なさい。門が開き、一定時間が過ぎると防護プログラムが発動するの。侵入者を排除するために…どちらにしても、私は殺せないのよ。そういう呪いを受けてるから」
ごめんなさいね。そう言って女性はリラの頬を撫でる。
「この門に入ったら、二回目の侵入はありえないの。門が入ってきた人間を拒絶するから。だから、最後に言いたいの。私のせいで苦しんだのに、私が言える言葉ではないけれど…幸せになってね、私の血流を継ぐ者よ…」
その言葉を言い終えると同時に女性は千獣とリラを強く突き飛ばして、門の外に出させた。二人が出ると同時に門がガタンっと大きな音を立てて閉まる。
「…ねぇ、千獣…あたしは…どうしたらいいのかな」
「…あ、の人が……最後、に、言った…こ、とをす……れ、ば…いいと……思う、こ、れか…ら、幸せ…に、な…れば、いい、と……」
結局、あの門の向こうには一人の全てを諦めた女性がいただけだった。
だけど、千獣は思う。
リラとあの人が出会ったのは、きっと無駄にはならないと。
ベルファ通りの『開かずの門』
それは今日もいつも通りに開かない。開くことすら人々はきっと知らないまま年老いて死んでいくのだろう。
だけど、その中で千獣はただ一人、あの門の向こうにいる悲しい女性のことを知っていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【3087/千獣/女性/17歳(実年齢999歳)/異界職】
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■ ライター通信 ■
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千獣様>
初めまして。
このたびは『閉じた門、開くべきは今』に発注をかけてくださいまして
ありがとうございました。
細かなプレイングに感謝しつつも、きちんと書けているかが不安です。
何か御意見&ご感想などありましたら、遠慮なくくださいませ^^
この話が少しでも楽しめるものになっていることを切に願います。
それでは、またお会いできる事を祈りつつ、失礼します。
−瀬皇緋澄
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