<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


公爵令嬢によるメイドカフェ

ACT.0■PROLOGUE――『フランの工房』販促強化作戦――

 異世界エル・ヴァイセを出奔した公爵令嬢フランチェスカ・アイゼン(以後、フラン)と、世継ぎの座から降ろされた王子クラウディオ・ヴァイセ(以後、クラウ)が、、聖獣界ソーンに亡命してのち、ひと月が過ぎた。
 幸いというか何というか、ふたりには魔道錬金術師の素養があったので、手の職を生かし、アルマ通りの『シェリルの店』裏手に工房を開いたのだが――
 ひとりもお客は、こなかった。
 いや、時折、こわごわと中を覗いていく者はいる。しかし、フランと目が合い、「いらっしゃいませぇ〜〜♪ さ、ご注文をどうぞ。あなたにぴったりの強力な武器を造ってみせるわ!」と声を掛けられた瞬間、身を翻して逃げていってしまうのだ。
 したがって、今日も今日とて、『フランの工房』には、閑古鳥が舞い踊っている。
「おっかしいわねぇ。シェリルの店はあんなに繁盛してて、人通りは多いはずなのに。どうしてここにはお客さんが全っっ然流れてこないのかしら?」
 その原因が自分にあることに、フランは気づいていない。
「営業努力の方向性を間違えたからだよ。フランがレーヴェさんに強引に営業かけて、呪いつき武器を受注・納品しちゃったことは、エルザード中の大評判になってるもの。……悪い意味でね」
 もう、溜息をつくことにも疲れたクラウは、暇を持てあましたあげく、取りあえず護符を造っている。今後、一番需要がありそうな、「聖」の護符を。
「そっか! 開店記念割引券の配り方が足らないのね」
「違うっ! どうしてそういう結論になるんだよ」
「うーん、まだまだ宣伝不足なんだわ」
「だーかーらー」
 良い意味でも悪い意味でも天才肌のフランは、段階的な思考を経ずに、とんでもない結論に辿り着く。それは時として、思いがけない成果を得ることもあったけれども、まず、大抵は、周囲を混乱の渦に巻き込んでしまうのだ。
「ふっ……。わかったわ、しょうがないわね。17歳のきらめく魅力を前面に押し出してアピールするのはあくまでも最終手段だと考えていたんだけれど、こうなったら」
「あのう……フラン? なに言ってるの?」
「わかってるわかってる! まかせてよ! あたしのメイド服姿はお母さまゆずりの天下一品なんだから。その格好で割引券配れば、宣伝効果抜群よね」
「……その、だからなに言って……?」
「街頭で配るのも芸がないわね。そうだっ! 白山羊亭にお願いして、1日だけ貸し切らせてもらおう。お友だちになってくれたハルちゃんとか、オティーリエちゃんにも協力してもらって、と。ほら、メイド喫茶って『東京』とかでも大人気らしいじゃない?」
「白山羊亭で、メイド喫茶って……それは、ちょっと」
「ん? まだ人数足りない? じゃあ、エルファリア王女のところのぺティと、あとは……そうね、この際クラウも着なさいよ。何事も社会勉強よ」
「…………着るって…………。なにを…………?」
「メイド服に決まってるでしょー。もう少し成長しちゃったら筋肉ついて似合わなくなるんだから、青春の1ページとして女装に挑戦するのは今のうちよ」
「いや……あの、ぼくは」
 フランの両手には、いつの間にやらメイド服一式が抱えられていた。身の危険を感じたクラウは後ずさったが、あっさり取り押さえられてしまう。
「ほぉら、このデザインだとうまく翼を生かして可愛く着れるわ。このリボンをこうして……」
「………!!!!!」
「ごめんごめん、翼の生えかけ部分は神経過敏になってんのよね。うっかり触っちゃった」

ACT.1■「エルザード☆ドリーム」へようこそ

 そして、開店当日。
 お馴染みの白山羊亭の看板は、薔薇と蔓草模様で装飾された「メイドカフェ『エルザード☆ドリーム』」という代物に差し替えられた。
 メイド服に身を包んでご主人様を待ちかまえているスタッフメンバーは、フラン、クラウ、ハル、オティーリエ、ペティに加え、恐れ多くもエルファリア王女までがご協力くださるという布陣となった。
 ところが、である。
 開店後、数時間が経過し、とうとう陽が傾いてしまっても、来店客の姿はなかった。勘の良い冒険者たちは、看板を見ただけで怪しい雰囲気を悟り、スルーするらしいのである。
「ねー。フランちゃん。お客さんはいつ来るの? 早く、割引券配るお手伝いしたいよー?」
 ハルが無邪気に、にこにこと、思いっきり核心を突いてくる(本人に他意はない)。
 その隣では、ハルに引っ張られてサクラとして連れてこられたシュセルスが、ぼやきながら首筋を掻いていた。
「まったくだ。俺はいつまで、ここでぼーっとしてなきゃならないんだ?」
 今のところ、メイドスタッフ以外で店内にいるのは、ご主人様役のシュセルスと、厨房スタッフのヨアヒムだけである。しかしフランは、厳しい現実を突きつけられてもめげる様子はない。
「大丈夫よぉ。きっとみんな、活動は夕方からなのよ。頑張って準備したんだから報われるわよ。ね、オティーリエちゃん」
「そうね。努力が結果に結びつくとは限らないけれど。ヨアヒム! お菓子の種類はもっと用意してちょうだい。材料はたくさんあるみたいだから」
「……ああ」
『ブリーラー・レッスルの食事処 』のパティシエ、ヨアヒムは、オティーリエに顎でこき使われつつ、スイーツ作りに余念がない。工房からは、怪しい植物や果物を大量に運んであるので、材料に不自由はしないのだ。寡黙なパティシエは無言で作業を続けているが、オティーリエが心配で仕方ないらしく、時折、ちらりと視線を走らせる。
「どうもー。幻獣マークが目印の異世界宅配便でーす。ここにお受け取りのサインをお願いします」
 慌ただしく扉が開く。入ってきたのは、顔を隠すようにキャップを目深にかぶった宅配人である。
「何か届く予定はないんだけど、まあいいわ。ご苦労様。あらっ? あなたは……」
「はい、確かに。では、私はこれでっ!」
 荷物を引き渡すなり、猛スピードで走り去った後ろ姿が知り合いに似ている気がしたが、特に追求はせず、開封してみる。
 謎の宅配便の中身は、大量のメイド服と、各種けも耳つきカチューシャであった。

 ――ソーンに亡命中の公爵令嬢へ。差し入れじゃ。遥か『東京』より、メイド喫茶の成功を祈る。〜匿名希望〜

 折り込みチラシの裏に黒マジックで殴り書きされたメモを横合いから覗き、怪しさに目眩がしたシュセルスは、そおっと店から出て行こうとした。が、フランは逃がすまいと、服の裾をがっちり掴む。
「これから混み合うはずだから、今のうちに、メイドさんたちにちやほやされておくのがお得よ、シュセルスさん。じゃなかった、ご主人様♪ ほら、クラウも呼びかけの練習して!」
「……ご、ご主人様……」
 がっくりと肩を落として、渋々と、クラウは頷く。同じく脱力したシュセルスが、不憫そうにその肩をぽんと叩いたとき――
 入口扉に設置した、呼び鈴の音に模したチャイムが、優雅な音を立てた。
 待望の「ご主人様」が、現れたのだ。
 しかも、次々に。

 ◇◆ ◇◆
 
「おや? 白山羊亭はいつの間に模様替えをしたのかね?」
 最初に「帰宅」したのは、しなやかな身のこなしの紳士であった。常連特有の慣れた仕草で席につき、すらりと長い足を組む。
 白天鵞絨のように艶やかな髪から覗いているのは、柔らかそうな猫の耳。オレンジ色の瞳を悪戯っぽく細め、紳士は店内を見回した。
「お帰りなさいませぇ〜〜。ご主人様ぁ〜♪」
 いつもより1オクターブほど高い声を張り上げて、フランが駆け寄る。
「ははは。メイドは、普段、屋敷で見慣れているが、顔ぶれが違うと新鮮な感じだね」
 しかし紳士はフランに微笑みかけてすぐに、ばつが悪そうな表情のペティを見つめるのだった。
「ふふん、ペティよ。王宮はアルバイト解禁なのかな?」
「そ、そういうわけじゃ。これには深い事情が!」
「そのようだね。エルファリア王女に似たメイドもいらっしゃるところを見ると」
 紳士は楽しそうにペティをからかい続ける。その貴族的な横顔と猫のロゴ入り眼帯に見覚えがあり、フランは肘でクラウを突っついた。
(ね、このひと誰だっけ? 時々、天使の広場でお昼寝してるわよね?)
(スフィンクス伯爵だよ。エルザードにいくつもお屋敷を構えている伯爵さまだけど、実はネコネコ団の総帥らしい)
(……ネコネコ団? なにそれ?)
(世界を猫で埋める事を目的とした秘密結社らしいよ。昨日もアルマ通りで、通りすがりの猫や犬や狸や狐やハクビシンやレッサーパンダやグリフォンやドラゴンやサラマンダーの前足をそっと握って、片膝ついて薔薇の花を一輪渡して勧誘にいそしんでた)
(猫以外を勧誘しちゃったら、「ネコネコ団」じゃなくならない?)
(動物は何でも好きらしいんだ)
(ふぅん。……で、なんであんた、そんなに詳しいのよ)
(なんでって、別に。目立つ人だし)
(わかった! 猫耳ね! 猫耳だから、伯爵のことが気になるのね!)
(違うよ)
(嘘。エル・ヴァイセの男性は例外なく猫耳に弱いもの。無条件で反応するもの!)
 妙な方向に揉め始めた店主と見習いをよそに、スフィンクス伯爵はささっと紅薔薇の蕾を一輪ずつペティとエルファリアに差し出して、からかったことを詫び、食事を注文するのだった。
 そんな矢先、次なるご主人様が登場する。
「エルファリア! もう、びっくりしたよ。目覚めたら誰も部屋にいないんだもの」
 鮮やかな青い髪の踊り子である。流れるような美しい歩き方は、その舞踏の技量の高さを彷彿とさせた。
 誇らしげに張られた豊かな胸の谷間は、思春期の少年には目の毒であるらしく、クラウは真っ赤になって目を逸らす(つまり一瞬釘付けになっていた)。
「ごめんなさいね、レピア。開店時間に間に合わせた方がいいって、ペティが言うものだから」
「なーんだ。レピアも来ちゃったのぉ? 事情はエルファリアさまが手紙に書いておいたはずだけど?」
 薔薇を手にしたまま、ペティは挑戦的にエルファリアの腕を取って組み、ちろーんと踊り子を見やる。
「そうだけどさ。手伝いならペティだけでいいじゃない。何もエルファリアが一緒じゃなくったって」
「だってあたしとエルファリアさまはとっても仲良しなんだもん。ホントの姉妹みたいに、ねー?」
「何だって! あたしとエルファリアは無二の親友なんだよ! あんたなんかの入る隙間はないよ」
「お取り込み中すみません〜。お帰りなさいませ、ご主人様〜♪ 最初、ペティにお手伝いをお願いしたのはあたしなの。ごめんなさぁい〜〜〜」
 フランが胸の前で両手を組み、踊り子に詫びる。ペティを睨みつけていた踊り子は、打って変わった微笑みを見せた。
「…………(可愛いじゃないか。エルファリアのメイド姿も悪くないし、来て良かったかもね)。メイド服が似合うねぇ、フラン。いやいや、あんたが謝ることなんて全然ないんだよ。あたしはレピア浮桜。神罰〈ギアス〉のせいで昼は石像になってしまうから、動けるのは日没後なんだ。夜はたいてい、黒山羊亭で踊ってるよ」
「わあ! 今度、レピアさんの踊りを見に行ってもいいですか?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます! ……あのう、今度、あたしの工房に来てくださいますか? これ、割引券ですぅ〜〜♪」
「武器みたいなものは持ってないんだけど。そうだ、この衣装の飾り、ちょっと彫金部分に不具合があってね。修繕できるかい?」
「それはもう、おまかせください。今、ちゃちゃっと直しちゃいますから。今日は無料で作業させていただきますねぇ」
 踊り子の衣装飾りを、フランは検分する。特に別室で外さなくとも、このまま修理できそうであった。
「まあ、これがメイドカフェというものですのね」
 続いて現れたのは、これぞ深窓の令嬢! という物腰の少女である。クリーム色のシフォンワンピースの仕立ての良さと、施されたレースの繊細なつくりが、彼女の気品を引き立てていた。珍しげに店内を見回すごとに、蒼銀の髪がさらりさらりと揺れる。
「異世界では、不可思議なものが流行りなのですね」
「お、お、お帰りなさいませ、ご、ご主人様」
 この令嬢だったら、何とか接客できそうだと判断したクラウは、意を決して話しかけた。
「こんにちは、クラウ様。ご営業、ご苦労様です。私、カトラス・エルクラウドと申しますの」
 花のような笑みを見せたカトラスは、確かに、上品な令嬢に他ならなかったが、しかし只者ではないようだった。
 クラウの置かれた状況を一目で見抜いた上で、こう提案したのである。
「クラウ様のメイド姿、そのままでも十分素敵なのですけれど、もっと可愛らしくなるように手ほどきしましょうか?」
「え、あ、そんな」
「ご遠慮なさらないで。私、変装は得意なのですよ♪」
「変装……」
「お嫌でしたら諦めますけれど……」
「思う存分やっていただきなさいっ、クラウ! せっかくご主人様が仰ってくださってるんですからっ!!!」
 レピアの衣装飾りの修理に取り組みつつ、フランが叫ぶ。
「……………はぁ」
「嬉しい♪ 髪型をちょっとアレンジしてみましょうね。あと、このスカートですけど、もっと短い方が可愛いと思いますの。靴下は長めにして、レースでフリルを……」
 着々と加工されていく自分の姿に、クラウはなすすべもなく立ちつくしている。
 横合いからひょいと、ハルが手持ちの割引券を配った。
「こんにちはー、ご主人様。工房の方もよろしくお願いしますー」

 その日、シェアラウィーセ・オーキッドは、腕の良い彼女でさえも難儀したほどに面倒な納品を終え、ひと息つきがてら、白山羊亭に寄ることにした。
 いつもどおり夕食でも食べて帰ろうと店へ足を踏み入れ、尋常ではない様相に気づいて回れ右――しようとしたときにはもう、手遅れだったのである。
「「お帰りなさいませー!!!! ご主人様ぁー!!!」」
 フランとハルに、両側からがっつりと、腕を押さえられてしまったのだ。
「……何事だ?」
「初めましてー! シェアラウィーセ・オーキッドさんですよね? 織物師の。素敵な布を織られるって、エルファリア王女から聞いてますよ」
「それはどうも」
「アルマ通りに、魔道錬金術師の工房を開いたばかりの、フランチェスカ・アイゼンですー! 武器のご用命がありましたら、是非お願いしますね〜。これ、割引券ですぅ」
「……変わった営業だな」
 シェアラウィーセは、剣のたぐいは使わない。必要とあらばロッドを使用するが、彼女の魔力に耐えうるものであるため、予備はいらないのである。つまり、フランの営業攻勢は人ごとであった。
(白山羊亭の内装が、ちょっと変わっただけだと思えばいいか。食事が出来れば良しとしよう)
 見れば、ベルファ通りにある食事処のパティシエとウエイトレスの姿もある。メニュー内容は、いつもの白山羊亭の美味しい料理がさらにバラエティ豊かになり、特別スイーツとお茶の種類が増えたといった感じで、かなり充実しているようだ。
「取りあえず、そうだな、彩り野菜とアルファベットパスタのマリネサラダ、金目鯛のポシェ、巻き貝のマリニエールをもらおうか」
 メイド服の少女たちは単なる風景だと割り切って、シェアラウィーセは腰を据え、食事にいそしむことにした。

 ◇◆ ◇◆

「あれー? 羽月さんとリラさんだ!」
 控えめに響くチャイムに、ハルは振り向いた。見開かれた瞳に、懐かしいふたりが、仲睦まじく揃って映る。
 藤野羽月とリラ・サファトは、かつて、ハルたちが住まうエルファリア別荘に訪ねてきてくれた知己であった。去る夏の日、海人の街フェデラで共に休日を過ごしたこともあれば、浴衣に身を包んだふたりと一緒に、夕涼みをしたこともある。あのときもらった金魚は、『atelier Anima』に置かれた大きな水槽の中で、今も元気に泳いでいる。思いがけぬ再会に高揚し、ハルは飛び上がって喜んだ。
「びっくりしたー! 嬉しいな」
「ハルさんがメイド喫茶の店員をなさってると聞いて、見学に来た」
「わぁいハルさん、お久しぶりです。遊びに来ました。……白山羊亭の雰囲気、いつもと違うのですね?」
 相変わらず、初々しい恋人同士のようなふたりであるが、同時に、強いきずなと確かな愛情に裏打ちされた夫婦のみが持ち合わせる、あたたかな信頼感もまた一層、深まったようだ。
 メイドの演技を、思わずハルは失念してしまった。しかし、羽月のきりりとした和装は、貴族の館風にデコレートした店内では、その違和感がかえってさまになり、なかなかの「ご主人様」的ムードを醸し出しているので、無問題であろう。
「ハルちゃんのお友だちですか? ようこそー! 是非是非、あたしとも仲良しになってくださいねっ! おふたり分の割引券、どうぞぉ〜♪」
 目を輝かせて、ちゃっかり割引券を差し出すフランに、リラはふうわりと柔らかな笑みを浮かべる。
「フラン、さん? わぁ……。綺麗なメイドさんなのです。ハルさんも可愛いですし……。ソーンにも『メイド喫茶』という文化があったのですね……! 知りませんでしたー」
 フランとハルのメイド服を交互に見て、リラは小首を傾げる。白い頬が、ほんのりと薔薇色に染まった。
「何だか、メイドさんって……あんまりご縁がなくってドキドキします……。お洋服、可愛いですね……」
 リラの様子を見て、羽月がハルを手招きし、
「……ハルさん、少しばかりお願いが」
 そっと耳打ちをする。
(何ですかー?)
(その、リラさんにも、メイド服を着させ……てほしい……なあ、と)
(え)
(似合うと思うんだが、中々着せてみる機会が無くて。いや、できれば、でいい)
(あ、きっと大丈夫ですよー。さっき、異世界宅配便で予備の衣装が届いたみたいだし。フランちゃんに言ってみますね)

 ◇◆ ◇◆

 丁度その時間、白山羊亭を訪れた夫婦は、もうひと組いた。
 ストイックな僧服の美女、清芳と、日本刀を携えた、すがすがしく姿勢の良い地術師、馨のふたり連れである。買い物帰りに寄ってみたのだが、差し替えられた看板の異様な雰囲気に、ふたりは顔を見合わせた。
「『エルザード☆ドリーム』……? ここは白山羊亭だったはずだが……」
「いつもと違う感じがしますね」
「めいどかふぇ……。冥土? いや、まさか、そんな奇妙な建物があるはずないな……」
「メイドカフェ……! 見果てぬ男の夢が、とうとうソーンにも進出っ……いや、ともかく入ってみましょう、清芳さん」
 やや尻込みしている清芳の背を押すように、どこか浮き浮きとしつつ、馨は店内に入った。
「お帰りなさいませっっ! ご主人様っっ!」
 髪にレースのリボンを可愛く結ばれ、ミニ丈と相成ったメイド服を着て、クラウはもうすっかり開き直っていた。
 優雅に食事中のスフィンクス伯爵からは、
「『フランの工房』の見習い魔道錬金術師に女装趣味があったとは! 新情報だね」と言われ、
 彫金の修理が完了し、さて、このあとどう過ごそうかと考えていたレピアからは、
「……男にしておくのが惜しいねぇ」と囁かれ、
 リラさんにもメイド服を、と言う羽月の要請に張り切ったフランが、山のような予備の衣装を広げてみせても、それまで申し訳なさそうに固辞していたリラからは、
「わぁ……やっぱり可愛いのです。私も……着てみてもいいですか……?」
 と、着こなしの参考例としてしみじみと眺められた後のことである。
 ちなみに、クラウの変身にすっかり満足したカトラスは、お茶とお菓子のメニューからいくつかチョイスし、ご機嫌で注文を開始していた。
「ご、ご主人様だと!? 待てっ、私は貴方の主人に成ったつもりはないぞ!」
 クラウの呼びかけに面食らった清芳が、はっとして夫を見る。
「……まさか馨さん、此処で女性を囲っていたのか?」
「誤解です奥様! ぼくは男です!」
 慌ててクラウは言ったが、それはより深い墓穴を掘っただけだった。
「……………男……!? 馨さん……! よもや、此処で少年を囲って……」
 すわ、夫婦の危機! 誤解が誤解を呼び、風雲急を告げるかと思われた矢先、何皿めかの食事を平らげたスフィンクス伯爵が、いったいどこから手に入れどうやって取りだしたのか、小型ノートパソコンを清芳の前に差し出した。
「マダム。これは俗に『うぃきうぃき』と呼ばれる、異世界のフリーデジタル百科事典です。『コスプレ系飲食店』の項目を見てごらんなさい」
「『――こうした中で、オタク文化の中に〈メイド〉という一ジャンルが定着し始める。これを受けて、コスプレ系飲食店もメイドというジャンルを取り込み始め……』なるほど、今日の白山羊亭は、異世界の現代風俗を取り入れた営業形態になっているということか」
 スフィンクス伯爵の機転(?)のおかげで誤解は解けた。清芳は何とか納得し、最悪の事態は免れたのである。
 馨はと言えば、危機を危機とは思っていなかったようで、フランとハルから差し出された割引券をにこやかに受け取り、
「ご主人様……良い響きですね……いえ、何でもありませんげほんごほん」
 と、呑気なことを呟いている。
 愛らしいメイド服に着替えた他所の奥さん(注:リラさん)に思わず目を奪われて、
(清芳さんも着てくれたら良いのになあ……。いいなあ、メイド服は……)
 などと脳内妄想爆裂中なあたり、ある意味大物と言えようか。

 ◇◆ ◇◆

「なんだここは! 私は依頼を受けに来たのだぞ!」
「おかしいわ。私はここに食事に来たはずなのに」
 新たなる犠牲者、美女ふたり。
 偶然、同時期に訪れた、美貌の付喪神、翠嵐と、クールビューティーな旅の賞金稼ぎ、ユリアーノ・ミルベーヌは、やはり偶然にも、同じ運命に流されることになった。
「エルザード☆ドリーム」という看板にいやーな予感を感じつつもドアを開けてみた翠嵐とユリアーノは、中の様子を伺うなり、いったん、ばたんと閉め、驚愕のあまり飛び跳ねた心臓を押さえて肩で息を整えてから、再度こわごわと覗き、まじまじとメイドたちを眺め――それでもう、運命の荒波は彼女たちを呑み込んでしまったのである。
「こんなところによく来たわね。あたしだって暇じゃないんだから、たいして構ってあげられないけど、まあ、入りなさいよ」
 高慢な調子で言い放つオティーリエに、翠嵐もユリアーノも、いったい何が起きたのやらわからず目をぱちくりさせる。
「こんにちはー! うわ、美人さんがふたりも! お帰りなさいませ、ご主人様♪ ……あ、オティーリエちゃんの呼びかけは専門用語で言うところの『ツンデレ属性』に分類されていて、これはこれで根強い需要があるんだけど、ちょっとマニアック過ぎる?」
 にこにこと駆け寄ってきたフランに、翠嵐は根本的な質問を投げた。
「……聞いてもいいか? その奇妙な衣装は何だ?」
「メイド服よ。あのね、今日の趣向は……」
 耳元でごにょごにょと説明された内容に、翠嵐はカルチャーショックを受けた。
「ご主人様にご奉仕だとー!? おい、そこの翼の生えた男! 正気か!?」
 その時クラウは、カトラスが注文したスイーツを運び、紅茶をサーブしていた。翠嵐の言葉に肩をびくっとさせ、次の瞬間、涙目になる。
「……男だってわかってくださいますか? ありがとうございますー」
「礼を言われてもな。……しかしなるほど、何となく理解した。異世界の文化か……」
 翠嵐の脳裏を、パラレルな世界がよぎる。今の所有主に、19世紀ヴィクトリア朝あたりのメイド服を着て、香り高い紅茶を銀の盆に乗せて運んでいる自分……。
(如何でございますか、ご主人様)
(翠嵐の入れる紅茶は、いつも最高だよ)
(まあ……)
 はっと我に返った翠嵐は、小声でフランに聞く。
「……ところで、どうしたら、メイドとやらになれるのだ?」
「んっと、プロフェッショナルなメイドへの道程を1から始めると大変だけど、コスプレならいますぐここで可能よ?」
「そうか。いきなりだが、見習いで1日メイド体験をさせてもらえないだろうか。割引券も配ってやるから」
「ほんと!? 大歓迎だけど、どうして?」
「べ、別にやましいことを考えているわけではないぞ!」
 急におろおろし始めた翠嵐に、やましくてもいいのよ、と呟いて、フランは着替え一式を手渡した。
「ユリアーノさんもツンデレ系メイドが似合いそうね。はい、どうぞ」
「私もか?」
 当然のように差し出されたメイド服を、ユリアーノは反射的に受け取った。
(……そうか。ソーンはさまざまな異世界の風俗が伝わっている場所だものね。要望に合わせて、白山羊亭が商売替えしても不思議ではないってことかしら)
 ユリアーノには、フランと翠嵐のやりとりが、断片的にしか聞こえていなかった。なのですっかり、白山羊亭は完全にメイド喫茶へ転向したのだと思いこんでしまったのである。
(ん……?)
 ユリアーノに渡された一式には、付属品がついていた。猫耳、狐耳、うさぎ耳。けも耳カチューシャ3点セットである。
 少し考えてから、ひとつ選んで手に取り、セットしてみる。けも耳ツンデレメイドの、誕生であった。

ACT.2■メニューがいっぱい、メイドさんがいっぱい

「さて、ペティ。次なるひと皿は、ウェルゼ産魚貝類のラビオリと、極上フィレ肉のハーブソースオレンジ添えと、秋野菜のテリーヌ3種を」
「どこがひと皿ですかー! まだ食べる気ですか、伯爵さま!」
「『ご主人様』だよ、ペティ」
 スフィンクス伯爵は健啖家であった。テーブルにバベルの塔でも築くがごとく、空になった皿が積み重ねられていく。
「クラウ様。もし他にもお勧めのお茶とお菓子がありましたら、教えてくださいな」
 華麗なアクセサリーのように、白い指先に銀の匙を持ち、カトラスはにっこり微笑む。彼女もすでに、スイーツメニューをかなり制覇していた。
「……えっと、異世界直輸入のアッサム紅茶セカンドフラッシュ、アップルシナモンチャイ、梨の赤ワイン煮アーモンド風味、黄金桃を使ったソーン風ピーチメルバ、ぶどうのタルト、リコッタチーズのアイスクリームはもうご注文いただきましたから……あと残っているのは……」
 別のテーブルにメニューを広げて並べ、まだオーダーされていないものを探すべく、クラウは指で追う。
「馨さん……! 大変だ!」
「どうしました、清芳さん」
「甘味がっ! 甘味メニューがこんなにたくさんっ! どれもこれも美味しそうだ!」
「……良かったですね」
「どうしよう……。どれから注文すればいいんだろう……」
 うっとりと悩み始めた清芳に、メイドスタッフとなった翠嵐とユリアーノが、異口同音にアドバイスをする。
「「そういう時は、メニューの端から順番に頼めばいい。きっと、あんたなら食べきれる」」
 ツンデレメイドたちは非常に合理的な考えの持ち主だった。清芳は目を輝かせて、大きく頷く。
「じゃあ、端から順番に、全部」
「全部っ!?」
 甘味好きな奥様の思い切りの良いオーダーに、スイーツ系は程々にたしなむ程度の馨は、思わず突っ込みを入れる。
「駄目か?」
「いいえ、清芳さんの幸せは私の天国でもあります。遥かなる甘味の国へ旅立つ貴女を、物陰から見守ることにしますよ」

 ◇◆ ◇◆

「うん……。やはり、よく似合ってるな……」
 メイド服のリラをしみじみと見て、羽月は満足そうににっこりと頷いた。
 ライラック色の髪は、両側だけを少し垂らして編み込みにし、トップにはメイドキャップ。短めのスカートはペチコートでボリュームをつけ、可愛らしいリボンレースのホワイトニーソを合わせている。異世界宅配便で届いたという、少しずつデザインの異なる衣装の中から、フランが勧めたコーディネートであった。
(羽月さん……。何だか嬉しそうですね…?)
 視線を受け、ちょっとくすぐったそうに、リラは笑う。
「……お帰りなさいませ、ご主人様。……ふふ、あんまりうまくは、言えませんね……。何かご注文を、なさいますか?」
 メイドになったついでに、リラは羽月のオーダーを取ろうとした。が、別のメイドが、その肩をそっと押し、席に着かせる。
 それは、いつの間にやら、真っ白なエプロンドレスのオーソドックスなメイド服に着替えていたレピアであった。妖艶な踊り子から一転して、人が変わったように従順で清楚な雰囲気になっている。
「リラ様は羽月様だけの大事なかたなのですから、どうぞ、お座りになっていらしてくださいませ。ご注文はわたくしが取らせていただきますわ」
 実はレピアは、深層心理の中に、いったんメイド服を着るとその人格までもメイドに切り替わるという暗示を、過去にすり込まれている。単純にフランを手伝うつもりでメイド服に着替えたのだが、どうやら、「メイドスイッチ」が入ってしまったらしい。
 そうとは知らぬまま、しかしありがたく、リラは席についた。
「……ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」
「それでは折角なので、リラさんには、ホワイトチョコと苺のバルドロアールにキャッスルトン茶園の紅茶を、私には紅茶のみを所望しようか」

 ――なお。
 その間ずっと、ハルからオティーリエからペティからエルファリアからレピアから翠嵐からユリアーノから割引券を配られながら、シェアラウィーセはマイペースを崩さずに、淡々と食事を続けていた。
 ふと手を止め、束になって置かれた割引券を1枚、つまみ上げる。フランの作る武器が呪いつきであることは噂に聞いているが、それは一体、どれほどのレベルのものなのか、少々興味が湧いたのだ。
(後で、短剣のひとつも発注してみるか)

ACT.3■護符はあなたを守るため

 店内がメイドとご主人様で満ちあふれたのを見計らって、シュセルスは早々に控え室に避難していた。
 狭い部屋はさながらミニ工房化したように、魔道錬金術に使用する材料が所狭しと置かれ、足の踏み場もない。適当にかき分けて自分の居場所をつくり、大きく欠伸をひとつ。
「さぁて。サクラの役目が終わったところで、そろそろ帰らせてもらおうか」
 ぼりぼりと頭を掻いたところで、新たな避難民がやってきた。
「……ぼくをひとりにしないでくださいよ……」
 メイドスタッフが増えたので、しばしの間、逃げることが可能になったクラウだった。美女たちからさんざん、ぎこちないところが新鮮と言われ、涙で目が腫れているのも可愛いと言われて、ちょっと人生に行き詰まって退散してきたのである。
「クラウくん。男も愛嬌ですよ」
 クラウの後を追うように、やってきたのは馨だった。
 馨は馨で、清芳がそれはそれは美味しそうにまくまくと各種甘味を平らげつつ、
「美味しいなぁ。甘いものを食べるって、幸せだよね。馨さんはあんまり食べなくって、勿体無い気がする」
 などとメイドたちに訴えて大いなる同意を得、やがて、善意の彼女たちから取り囲まれて、口々にお勧めスイーツをプッシュされたので、笑顔で煙幕を張り、席を立ってきたのである。
「……ありがとうございます。ってあの、それは慰めてくださってるんですよね?」
 全然慰めになってないような気もするが、取りあえず、クラウは頭を下げる。
「そうよぉ。27歳のきらめく魅力を前面に押し出してる馨さんを、少しは見習いなさいよ」
「うわ。何でフランまでここに」
「護符の発注をいただいたの。さぼってないで、さっさと作成にかかってちょうだい。カトラスさんからは『雷』の護符。シェアラウィーセさんからは『聖』の護符。シェアラウィーセさん、少しでも呪いをカヴァーするには、やはり聖の属性だろうなって呟いてたけど、どういう意味かしら?」
「フランさんに、武器をご発注なさるおつもりでしょうかね。チャレンジャーだなぁ」
 馨は、まるで工房の一員であるかのように腕組みをする。
「あと、羽月さんからは、リラさんを守るための護符。属性不問。リラさんからは羽月さんを守るための護符。やっぱり属性不問。自分のことよりも、相手を護れることの方が大事なんですって……。仲のいい夫婦って羨ましいなぁ。馨さんのところも絶妙なコンビだし――どお、馨さんも2、3枚」
「あっはっは。フランさんはいろいろお上手ですね。もちろん護符は作っていただこうと思います。ところで」
 メイドの格好のまま、さっそく護符製作にかかりはじめたクラウを見て、馨は呟く。
「工房の発展のために、『商売繁盛のお守り』というのを研究なさってみるのは、どんなものでしょうか?」

ACT.4■EPILOGUE――販促効果、未だ不明――

 クラウが羽月とリラのために作った護符は、危険回避に重点を置き、「聖」と「運」を組み合わせた特製のものだった。
 お互いがお互いに手渡して、夫婦は微笑み合う。
 馨は、「水」と「風」の護符を2枚ずつもらい、未だ甘味制覇に挑戦中であるところの、清芳のテーブルに並べて置いた。……応援の、つもりらしい。
「雷」の護符を受け取ったカトラスは、にこりと頷いてから、クラウに問う。
「ひとつお訊きしたいのですが、護符は魔法と組み合わせて使用は出来るのでしょうか?」
「防御魔法とでしたら、併用可能ですよ。身を守るためのものなので、攻撃用には使えませんが」
「それでは、冒険で遠出するときに携帯させていただきますわね。ありがとうございます」
 護符の授受の様子を見ていたユリアーノが、店内に横たえておいた自分の持ち物を手にする。
「そうだ。武器の修繕をしてもらえるんだったわね。私、棒術で使っているものがあるんだけど、これをカスタマイズしてほしくて」
 けも耳ツンデレメイドが棒術用武器を構えるさまは、ある種のマニアにはたまらないであろうが、それはともかく、フランは喜色満面笑顔全開になった。
「カスタマイズ? ね、今、カスタマイズって言った?」
「ええ。『火』の属性を付けられたらいいなって」
「それって、修繕っていうよりは作り直しに近くなるけど、構わないわね? いいのね?」
「……あの、ユリアーノさん。よく考えた方がいいですよ」
 思わずクラウが止める。作り直しとなれば、それは新作同様の仕上がりとなり、つまり。
 ――呪いが、ついてしまうのだ。
「どうして? だってフラウさんは、メイド兼天才魔道錬金術師なんでしょう?」
「もしかして、ご存じ、ない?」
 ユリアーノはどうやら、白山羊亭が完全にメイド喫茶になったと思ったばかりか、フランの工房が閑古鳥飛び交うそもそもの理由を知らないようだった。
 そして、武器はフランの手に渡され――やがて「火」の属性と、ある呪いを伴ってカスタマイズされた。
 使用時には、けも耳3種類がランダムに発現してしまうという呪いであるのだが……その程度ですんで良かったと言うべきかどうか、クラウには判断不可能であった。

「聖」の護符を受け取って、シェアラウィーセは言う。
「私も、短剣を発注したいのだが」
「やめたほうがいいですっ!」
 今度は、クラウは全力で止めた。新規作成は、リスクが大きすぎる。
「何てこというのよクラウ! せっかくご注文くださってるのに! おまかせくださいな、シェアラウィーセさん。あなたにぴったりの素敵な短剣を作ってみせるわ。あ、ご新規オーダーメイドだと、割引券使ったとしてこれくらいの料金に」
 提示された作成料に、シェアラウィーセは少々逡巡した。
「かなり高額だな。3分の2くらいにならないか?」
「えーっ? これでも超サービス価格なんですよぅ〜〜」
 ……どうやら「経済観念」が、聖の護符よりも強く、シェアラウィーセを守ったようである。

「ふーむ」
 翠嵐にさらなる食事を注文し、レピアにワインを注いでもらい、相変わらず絶好調のスフィンクス伯爵の瞳が、きらーんと輝く。
「フランご店主。貴女の腕を欲している耳寄り情報があるのだが……興味はあるかね?」
「なになに? 新規武器作成? お客様を紹介してくれるの?」
「ああ。黒山羊裏に、とある青年が住んでいてね。少々顔色の悪い優男だ。非常にシャイゆえ、レーヴェをも落とした店主の魅力で押して押して押しまくればたちどころに注文は取れよう」
「ほんとっ? ねね、もっと詳しく聞かせて?」
 フランは獲物を狙う鷹のように目を光らせ、やる気十分である。
「あの……。でも、その人がお気の毒……」
 不安そうなクラウと、耳をそばだてていた一同に、スフィンクス伯爵は茶目っ気たっぷりにウインクをする。
「なに。その男には、か弱い小動物に対する暴力趣味があってね。フラン嬢に懲らしめてもらうのもいいだろう?」

 ――結局、営業効果はあったのか、どうか。
 少なくとも、今日、訪れてくれた彼らと面識を得られただけで良しとしようか。
 クラウはそう結論し、女性ものの靴を履き続けていたせいで痛む足をさすったのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0520/スフィンクス伯爵(すふぃんくすはくしゃく)/男性/34歳(実年齢50歳)/ネコネコ団総帥】
【1514/シェアラウィーセ・オーキッド(しぇあらうぃーせ・おーきっど)/女性/26歳(実年齢184歳)/織物師】
【1879/リラ・サファト(りら・さふぁと)/女性/16歳(実年齢20歳)/家事?】
【1926/レピア・浮桜(れぴあ・ふおう)/女性/23歳/傾国の踊り子】
【1989/藤野 羽月(とうの うづき)/男性/17歳/傀儡師】
【3009/馨(カオル)/男性/25歳(実年齢27歳)/地術師】
【3010/清芳(さやか)/女性/20歳(実年齢21歳)/異界職・僧兵】
【3188/ユリアーノ・ミルベーヌ(ゆりあーの・みるべーぬ)/女性/18歳/賞金稼ぎ】
【3397/翠嵐(スイラン)/女性/24歳(実年齢500歳)/異界職・鉄扇の付喪神】
【3408/カトラス・エルクラウド(かとらす・えるくらうど)/女性/18歳/異界職・宮廷魔術師】

(協力者)
【ハル・アルテミス&シュセルス・アニマ/atelier Animaより】
【オティーリエ&ヨアヒム/ブリーラー・レッスルの食事処より】
【ペティ&エルファリア/公式NPC】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ソーンの依頼では初めまして。神無月まりばなと申します。
まだ、おのぼりさんのごとく、聖獣界をうろうろ調査中でございます。
ご挨拶かたがた、開いてみたのがメイド喫茶というのがあからさまに今後の方向性を決……いえ、あの、今後とも、宜しくご指導いただければ幸いです。

ノベル反映後、mag絵師の【atelier Anima】にて、冒険界紀行ピンナップを募集予定です。宜しかったら「エルザード☆ドリーム」でのひとときを、新たなる記念絵にしてみませんか?

□■スフィンクス伯爵さま
ネコネコ団総帥さまにご来店いただけるとは光栄の至りでございます。お客様のご紹介も、ありがとうございました(笑)。団員の皆さまに、どうぞ宜しくお伝えくださいませ。

□■シェアラウィーセ・オーキッドさま
あくまでもマイペースを崩さなかったシェアラウィーセさまですが、さらっと新規武器作成をご依頼なさるあたり、漢らしく(?)ていらっしゃいます! 巻き込むつもりが、巻き込まれたのは、実は工房側の連中だったり。

□■リラ・サファトさま
これはまた、可愛らしい奥様でっ! リラさまのメイド姿は、想像しながらどきどきいたしました。メイド服のデザインは各種取りそろっておりますので、開店中は別バージョンを試してごらんになることも可能でございますよ〜。

□■レピア浮桜さま
いつもお世話になっております! 依頼では初めまして。メイドバージョンのレピアさまは、やはりあちこちで伝説を創っていらっしゃったことと推察いたします。ペティに張り合っているあたり、ちょっと和みましたv

□■藤野羽月さま
リラさまとご一緒のハルさん見学(笑)、まことにありがとうございます。我が身よりも相手を先に思いやる素敵なご夫婦で、うっとりいたしました。どうぞ、今後もずっと、おふたりが幸せでありますように。

□■馨さま
優しげな馨さまですが、なかなか一筋縄ではいかないタイプとお見受けしました。「男も愛嬌」。素晴らしいアドバイスをありがとうございます。こちらも素敵なご夫婦ですね!

□■清芳さま
甘味はご堪能いただけましたでしょうか? 清芳さまにいらしていただいて、某食事処から拉致してまいりましたパティシエも、さぞや作り甲斐があったことと思います。ところで、馨さまもああ仰っていることですし、メイド服をお召しになってみては?

□■ユリアーノ・ミルベーヌさま
何とか3種類に絞り込みましたが、ユリアーノさまが選んだけも耳カチューシャが果たして何であったのかは、ノベル中では謎のままでございます。どれもこれも捨てがたく(妄想中)、お好みでご想像いただければと。

□■翠嵐さま
翠嵐さまの所有主さまはお幸せでございますね! いつか、メイド姿でお仕えあそばされる日が実現することをお祈りしております(祈るのかよ!)。メイドスタッフにご協力下さり、割引券までご配布いただいてありがとうございました。

□■カトラス・エルクラウドさま
はっ。もしや、最初のご発注が私めでございましょうか(責任重大)。クラウを構っていただいて、まことにありがとうございました。護符が役立つことを祈りつつ、今後のご活躍を楽しみにしております。