<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


ちっちゃなトモダチ


 ルディアは自分よりも背の低い相手と真顔で話しこんでいた。当たり前だ。相手は子どもなのだから。ただ、常連客からすれば面白い光景に見えるのだろう。ただでさえ「お嬢ちゃん」と呼ばれることの多いルディアが、正真正銘のお子様とお話している……お姉ちゃんが弟に何かを言い聞かしているような仕草は、その場を和ませたり、一部の客を笑わせたりして酒場の雰囲気を明るくさせていた。
 弟……そう、話し相手は男の子。キラキラしたその瞳は夢見がちな彼の心を如実に表していた。ところがその性格はとんでもなく頑固で、何をどう言っても自分を貫こうとする若さがある。お嬢ちゃんは今の今まで、ずーっと聞き分けのない少年と話を続けていた。

 「だから行っちゃダメなの。あの森は危ないんだから。ルディアもひとりじゃあそこに行かないんだから」
 「それはおねーちゃんがよわむしだからじゃん!」
 「弱虫とかそんなんじゃなくて……あそこには、ちょっと、ね」
 「あーっ、やっぱりいるんだ! 子どものドラゴン! ボクね、その子とね、ともだちになるんだ!」

 ルディアが口篭もったのが証拠だとばかりに大騒ぎする少年。その抜け目のなさに、彼女は思わず唇を噛んで自分の失敗を悔やんだ。
 ドラゴンの住まう森……それは確かに存在する。岩肌をあらわにした大きく高い山のふもとにある密林が、今の彼らの住処なのだ。人の心を介して話すことから、非常に知的で温和な性格であると言い伝えられている。そんなドラゴンたちは無用な争いを避け、永遠とも思える時の流れを固い肌で感じながら悠然と過ごしているそうだ。
 ルディアは「そんなドラゴンから子どもを奪うなんてダメじゃない」と言い聞かすが、この少年の聞き分けのなさは天下一品である。

 「パクッと食べられちゃうんだよ! ほら、そこにあるエビフライみたいに! 丸かじりなんだから!」
 「その子とともだちになったら、おかーさんドラゴンともともだちだもん。だから、ルイのこと食べたりしないもん」
 「でも、そんなとこに行ったら、ルイくんのおとーさんとおかーさんが心配するでしょ?」
 「おとーさんが『おっきなお店に行ったらいるんじゃないか』っていうから来たけど、そこに行かないといないんだね。わかった」

 そう言い残して、たたたっと元気よく走り去っていくルイ少年。今はまだ昼前。この調子だとそのまま一直線にドラゴンの森へと行こうとするだろう。本当に小さな子どもなら放っておいてもよさそうなものだが、彼は簡単な文字なら読めそうな年頃に見えた。また着ている服もずいぶんと裕福そうなので、両親の教育が行き届いていると考えた方がいいだろう。ルディアは胸騒ぎがした。おそらく彼は地図が読める……そう感じたからだ。
 さらに彼女の心配は「ルイがドラゴンに食べられるかもしれない」ということだけではなかった。最近になって盗賊顔負けの似非傭兵団『獣狩りの夜』がむやみにドラゴンを狩っては、メンバーや金のために最強の鎧という触れ込みで『ドラゴンスケイル』を作っているという噂がある。もしルイがその現場を目の当たりにしたら、それこそただでは済まないだろう。しかもドラゴンを倒すほどの傭兵団ということはよほど人数が多いか、それとも実力を持つ傭兵がたくさんいるのか……ルディアは心配のあまり、手当たり次第に酒場にいる客へ声をかけた。幼い子どもと小さなドラゴンとの友情を守るために、そして危険な森を救うために。

 ふたりのやり取りはずいぶんと派手なもので「聞かなかったことにして下さい」という方が難しかったようだ。お食事中だった数人は小銭をテーブルに置くと少年を追って歩き出す。何が目的かはわからないが、とにかくこの事態をなんとかしてくれるらしい。ルディアは胸を撫で下ろすと、改めて酒場を見渡した。するとコソコソ喋っている女性客がふたり、しかも見るからに冒険者である。

 「……エヴァ、お前……傭兵団が狙いなん」
 「あの、もしお話を聞いて下さってたのなら……」
 「ああ、いや、なんでもないデス。下心なんて微塵もございません!」
 「ジュドー、そのセリフで儲けが減ったら……本気で頬を打つからね」

 長髪を後ろで束ねたクールビューティーのエヴァーリーンと、片刃の剣『刀』を腰にした金髪の戦士・ジュドー。この会話だけを聞けばただのデコボココンビにしか見えないが、それぞれが信念を持ってこの世界を駆け巡っている。今日は気楽に依頼を探しにきたようだが、思わぬところで面白いネタが手に入れた。今から相談タイム……というところでルディアに見つかったというわけだ。エヴァはビンタ予告されて戸惑うジュドーを横目にさっさとスパゲッティを平らげると、ルディアに話の続きを振る。

 「確かにあなたの言う通りよ。ドラゴンは時として人間の脅威となる……でも、害のないものを私利私欲のために殺すのはよくないわね。そんな輩がいるところに子どもひとりで行かせるのは危険だし。わかったわ……その子の護衛、私も手伝うわ」
 「エヴァもそう言ってることだし、私も協力しよう。ただ、ルイがドラゴンの子どもと会うのは止めない」
 「あれだけの人がルイくんとご一緒されたんで、大丈夫だとは思いますけど……とにかくよろしくお願いします」

 ふたりが財布の袋からお金を取り出そうとすると、ルディアはさっさと空になった皿を持っていった。どうやら今回の会計はさっきの約束でチャラにしてもらえるらしい。ジュドーは『これが毎回のサービスならありがたいんだけど』とつぶやきながら、壁際に立てかけてあった愛刀『蒼破』を腰に下げた。一方のエヴァは最初から武器を忍ばせてある。ふたりはすっくと立つと、大人たちに囲まれた少年を追った。何も彼らに追いつく必要はない。むしろエヴァに限ってはそんなことなど微塵も考えてなかった。彼女の目的は似非傭兵団の早期発見である。


 元気いっぱいのルイ少年はルディアの予想通り、ドラゴンが潜む森の方角へと正確に向かっていた。あの口振りからして『実は最初から居場所を知っていた』と考える方が自然かもしれない。その小さな足はこの先にある喜びに向かって車輪のように動く。そんな純粋な彼を背後から見て豪快に笑う男がいた。見た目はまるっきりライオンだが、どこか愛嬌のある顔立ちである。

 「おじさん……もしかしておねーちゃんに言われてきたの? とめてって?」
 「いんや、その逆だ。俺はトゥルース、よろしくな。ルイよ、友達ってのは一方的になりたいっていう気持ちを押しつけるもんじゃねぇぜ。相手の気持ちがあってこそだ。あちらのお嬢さんたちもそれが心配で追いかけてきたってこと。ご両人、そういうことでいいかい?」

 巨躯にして豪胆な男が両手を広げると、左右から黒装束の女性が現れる。どちらも身の丈が高く、一目で女性とわかる風体だ。ひとりは銀の髪をなびかせて刃を束ねたような槍を手にしたアレスディア、もうひとりは全身に呪符を織り込んだ包帯を巻きつけた黒髪の千獣。ふたりが少年に自己紹介しやすいようにトゥルースがいったん後ろに下がる。

 「ドラゴンと友達……か。微笑ましいな。小さな勇者の友をすべく、このアレスディアも同行させていただく」
 「ねぇ……どうして、ドラゴンと……友達、に、なりたいの……? ドラゴンって……人間、とは、違う、生き物、だよね……? 怖く、ない……?」
 「ボク、どうぶつだいすきなんだ! ちっともこわくなんかないよ!」
 「おーおー、怖いもの知らずってのが一番怖いな。だからってよ、見ず知らずの人間から『俺と友達になれーっ!』って具合に迫られたら、お前だってびびらねぇか?」

 トゥルースの突然の大声にさすがのルイもたじろいだが、それでも彼の信念までは折れない。逆に強固になったほどだ。

 「みんながボクにしゃべってくれるみたいにすればいいんでしょ。だいじょうぶだよ、今のでちょっとビックリしなくなったと思う」
 「そりゃよかった。とりあえずドラゴンを見つけたからって、むやみに突撃しないようにな」
 「獣は……怖い、と、吼えたり、牙、剥いたり、しちゃう、かも、しれない……だから、ドラゴン、と、会う、ときは……怖がらせ、ない、よう、気をつけて、あげて、ね……? ルイ、私……千獣、と、約束、して、くれる?」

 千獣は身を低くして少年の目の前に小指を差し出す。彼も快く指を出して約束をした。そんな彼女の姿をじっと見ていたトゥルースは堪らずもうひとりのお供に声をかける。

 「アレスって呼ばせてもらうぜ。お前の狙いって、実際のところは傭兵団なんだろ?」
 「そうですね。ところでトゥルース殿、あなたは千獣と名乗る娘が目的なのですか。さっきから何の意味があって、そんな刺すような視線を……」
 「ああ、悪りぃ悪りぃ。職業病でな、あの雰囲気にはつい嗅覚を発揮しちまう。別に後ろから殴ったりしねぇって。ルイのような純粋な奴があんなに懐くんだから間違いねぇだろ」
 「もう手を繋いでいる……ルイ殿は誰とでも友達になれるのか。もしかしたら将来の大器かもしれぬ」

 ルイは千獣と手を繋いでドラゴンのいるという森へと遊びに出かける。彼女は思いもよらぬ展開に多少戸惑っていたが、そのまま少年のペースに乗せられたまま、とたとたと歩いた。繋がれた手からはほのかな温もりが伝わってくる……千獣はルイを信じようと心に決めた。そして必ず守り抜こうとも。


 ドラゴンが身を潜めるというだけあって、ルディアの忠告以上に鬱蒼とした森が目の前に広がる。千獣はかなり敏感に周囲の様子を捉えているようだが、今のところトゥルースやアレスに向けての警告はない。もし何らかの異変があったなら、この3人の誰かが気づくはずだ。その辺の心配は後ろを守るふたりも重々承知している。まだ森に入って間もない。敵もすっかり油断しているといったところか。
 さらにしばらく歩くと、千獣がふと立ち止まった。それと同時に、ルイの気持ちは高まる。皆が視線をその辺に向けると、なんと左手の朽ちた木の上に小さなドラゴンがこっちを向いているではないか。身の丈は少年の顔くらい。背中に翼を持っているが、くたびれた傘のようにしぼんでいる。まだ大空を舞うほどの力は備わっていないようだ。それは爪も牙も同様で、子どもの手を切り裂くほどの硬さを持っているようには見えない。安全といえば安全、まさにお手頃なお友達候補が現れてくれた。

 「俺、正直……あのサイズでちょっと安心した」
 「さすがに景色が変わるほどの大きさなら考えたが……あれならちょうどいいくらいだ」

 胸を撫で下ろした保護者たちだが、この森を出るまでは安息の時は来ない。彼らは背後から迫る存在に気づいた。わずかではあるが森の木々を揺らし、何らかの行動を取っている。そして一直線に向かってくる者がひとり……よほど腕に自信があるのか、地面を踏みしめ折れた枝をパキパキと鳴らしながらこちらに向かってきた。まるで「気づいてください」と言わんばかりの行動にトゥルースは額に嫌な汗をにじませる。

 「ったく、これからって時に邪魔する気か? 風情のない連中だぜ」
 「トゥルース殿、あれは酒場にいた戦士だ。間違いない。見覚えがある」
 「失礼……用心棒は足りてるか?」

 予想外の強敵出現……かと思いきや、後ろからやってきたのはジュドーだった。ということは、後ろで細工しているのは相方のエヴァである。彼女は保護者たちに事情を説明し、ルイの護衛と傭兵団の壊滅を目的にしていることを明らかにした。このコンビはルイが入った瞬間から敵の追跡があるのではないかと予想し、先行した3人と挟撃しようと策を立てた。ところが追っ手が来る気配がなかったので、さっさと方針転換。エヴァは戦力を削ぐためのワイヤートラップを背後に仕掛け、ジュドーはルイと新しい友達の護衛をすることにした。この話を聞いたアレスは大いに首を傾げる。

 「よほどの実力者がいるのかと思っていたが、相手はただの烏合の衆と考えていいのかもしれないな」
 「鎧の丈夫さにモノを言わせてるだけだと思う。アレスが私の接近に気づいたのなら、何の心配もいらない」
 「あんたと戦うのはゴメンだぜ。ったく、模擬戦でもお断りだ」

 大男が肩をすくめてひらっと両手を振ると、ジュドーも「それは私も同じこと」と切り返す。むやみに気配をたどる必要もなくなったので、全員の視線はルイに注がれた。先ほどから千獣が見守る中、いかにも子どもらしいアプローチが続いている。どこから取り出したのか、小さなガラス玉を手のひらで転がす少年。光の具合で輝きを変える不思議な物体に、千獣も興味津々だ。

 「キレイでしょ〜。目がパチパチする?」
 「キー?」
 「いっしょにあそぼ。ね?」
 「キー、キー」

 意味を理解したのかはわからないが、ドラゴンはガラス玉を嘴で突っついてはルイの手のひらでコロコロと転がす。それがたまに曲面ですべり、少年の手に当たった。それでも彼は弱音を吐かない。大人たちから言われたように、決して怯えることなく友達と接していた。その姿を見て、ジュドーは「今のルイに言うことは何もない」と自分が用意した言葉をそっと胸に片付ける。知らず知らずのうちに、皆その状況に心癒されていた。

 突如、背後で悲鳴が轟く。男どもの声だ。どうやら早くもエヴァの罠にかかったらしい。こんな森の中を彷徨うマヌケな連中は『獣狩りの夜』以外に考えられない。アレスは槍を構え、トゥルースは指を鳴らし、ジュドーは刀に手をかけてルイたちの傍へと近づいた。その間、軽い身のこなしでエヴァも姿を現す。

 「傭兵団の姿を知ったルイ、そしてドラゴンなら見境なく狩る連中……守り抜いてみせる!」
 「時間がないから適当に罠を張ったんだけど……その全部に引っ掛かる傭兵なんて初めて見たわ。足元ならともかくとして、網にまで絡め取られて……見てるこっちが恥ずかしくなった」
 「……まぁ、なんだ。有象無象がご苦労なこった」

 罠にかかったとはいえ、ドラゴンを倒すだけの頭数は揃っているようだ。続々と背後から現れる烏合の衆に、トゥルースはげんなりした表情でお出迎えする。

 「相手がおとなしいのをいいことに好き勝手にドラゴン狩りか……ちょいとお痛が過ぎやしねぇか?」
 「うるせぇ! 俺たちの狩場にのこのことやって来たから狩ってるだけだ!」
 「確かに、人は生きるために他の生物を飼いならし、その命を奪い、自らの糧にする。牛や豚はよい、ドラゴンだからだめだなどとは言わぬ。それは差別だ。しかしドラゴンたちは、なぜこの地に住まうのか。人との諍いを避けるがため、傷つけあわぬようにではないのか? 自ら身を引いた彼らの地へ土足で踏み入り荒らすその所業は許せぬ……あまりよい噂を聞かぬ連中だけに、叩けば埃も出そうだ」
 「……獣、は……生きる、ため……必要な、分、だけ……殺す……その、鎧……それ、は、必要な、だけの、殺し……? 違う、よね……?」

 傭兵の誰もが身に付けているドラゴンスケイル……それはアレスや千獣の言葉を否定する揺るがしようのない事実。もはや爆発寸前の保護者たちは人数と装備で圧倒しようとする敵に向かって猛然と向かっていく!

 「心配するな、ちょっと撫でてやるだけだ!」
 「奴らを生きて帰すな! 我々には最強の鎧『ドラゴンスケイル』があ、ぼごおっ!!」
 「お、おじさん……すっげー!」
 「キーキー!」

 まさに百獣の王の一撃。トゥルースが腹に食らわせたパンチは鎧をめり込ませ、リーダー格をあっさりと気絶させた!

 「おいおい、大切な鱗が剥がれてくじゃねぇか。素材を活かせないのなら、最初から商売なんかするなよ」
 「こ、こんなのは偶然、あがっ!!」
 「その鎧は全身を覆っていない。たとえ武器に威力がなくとも、弱点さえ的確に狙えば何の問題もない」

 アレスの一撃は鎧以外の部位を槍の腹や柄で殴打し、敵を戦闘不能にさせていく戦法だ。これなら無敵のドラゴンスケイルも関係ない。千獣は許されざる者たちに対し、その身に宿した獣の腕を振り回す。丸太のようなそれは幾人もの敵を一気に薙ぎ倒していく。トゥルースが引っ掛かっていたこととは、まさにこの力のことだ。しかしそれが正しいことに使われているのならば、それを調伏する必要はないと彼は改めて思った。この攻撃手段を選んだのも、おそらく子どもであるルイに血を見せないようにしようとする配慮からだろう。
 前衛に立った3人だけで戦いは決まったかのように思われた。しかし次々と現れる増援組は、不幸にも彼らの強さを聞かされていない。そのせいでまたひとり、またひとりと犠牲者が増える。ついにはアジトも恥も捨てて逃げ出そうとする輩が現れるが、背後にはエヴァの仕掛けたトラップは健在だ。少し退いただけで被害者となった哀れな仲間たちがいる……結果的にジュドーが説明した挟撃と同じ状況になった。最後にはヤケクソになったのか、ひとりの傭兵がとんでもないところに剣を投げつけた。誰もが降伏のサインかと思ったが、実はルイを狙った渾身の投擲だったのだ!

 「ちっ、しまった!」
 「ここは任せろ! エヴァ!」
 「言われなくても……やるわよ」

 ジュドーはとっさに鞘を地面に突き刺し、澄んだ湖面のような蒼い刀身の『蒼破』を構える。それと同時にエヴァもあらぬ方向へと走り出した。放たれた剣はジュドーの絶妙な手加減で繰り出した一撃で持ち手を叩き、その威力を完全に殺して誰もいない地面へと転がす。攻撃が失敗に終わったと知るや、張本人はその場から逃げ出そうとするが、すでに彼の首には鋼糸が毒蛇のように巻きついていた!

 「なっ! いっ、いつの間に!」
 「……鞘……を、刺した、ところから……糸、が、伸びてる……」
 「無関係な子どもに手をかけるなんて……最低を絵に描いたような人間ね。さ、答えなさい。あなたたちのアジトは……どこ?」
 「エヴァ……ああ、狙いはそれだったのね。だからすんなり引き受けたってわけ。納得したわ」

 何も彼女は敵の居場所を聞いて殲滅しようというのではない。そこにはドラゴンスケイルと一緒に多額の金があるはずだ。ましてやここはドラゴンが住まうとされる危険な場所。がっちり溜め込むには最適な場所である。エヴァはこのチャンスを待っていたのだ。もちろんルイたちを狙ったことに対する怒りは決してウソではない。


 大勢は決した。エヴァの不意打ちが決定打となり、傭兵たちは武装を解除。自ら縛につくことを望んだ。エヴァは手際よく連中を拘束する。
 戦いの最中、ルイはずっとその小さな身体でドラゴンを包み込んでいた。周囲が怒号で包まれても、剣を投げつけられても、友達のことを守り抜いたのである。アレスが言うように、彼はいつか大物になるかもしれない。少年はドラゴンを肩に乗せ、もうひとりの友達である千獣と手を繋いでいた。彼女もまんざらでもない表情だ。トゥルースは「友達がふたりになったな」と言うと、ルイは嬉しそうに「うん!」と答えた。
 悪事を働いた傭兵団はアレスの希望もあり、王国に引き渡されることとなった。そしてこの森を保護するように訴えると、それを伝え聞いた王がすぐに勅令を出した。ドラゴン狩りの禁止令である。彼女が一番恐れていた『王国によるドラゴン狩り』の可能性もなくなり、徴収したドラゴンスケイルもすべて供養のため聖職者たちで手厚く葬られることとなった。アジトの捜索の際、兵士長は戦った皆に気を利かせて売上金の一部を報酬代わりに振る舞う。一部とはいえ、これだけの額を手にすることはなかなかない。特にエヴァはずいぶんとご満悦だった。

 ルイが友達とともに家へ帰る時、皆から「友達なんだから」と十分に言い聞かせた。ペットではない。子どものドラゴンはルイにとってかけがえのないトモダチだから。
 しかし誰もが思った。あのドラゴンは大きくなったらどうやって飼うのだろうか……そんなことを白山羊亭のテーブルを囲んでみんなで話し合った。あの森もこのテーブルも、今はさわやかな風が通り抜ける。


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1149/ジュドー・リュヴァイン    /女性/19歳/武士
2087/エヴァーリーン        /女性/19歳/鏖(ジェノサイド)
3087/千獣             /女性/17歳/異界職
3255/トゥルース・トゥース     /男性/38歳/異界職
2919/アレスディア・ヴォルフリート /女性/18歳/ルーンアームナイト

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

「聖獣界ソーン」では二度目の登場、シナリオライターの市川智彦です。
今回もまたまた「白山羊亭冒険記」として依頼を執筆させていただきました。
心暖まる物語と心躍る戦闘シーンで構成してみましたが、いかがでしょうか?

トゥルースさんは……なんと今回は唯一の男性参加者だったりします!(笑)
おひとりだけ男性で、しかもワイルドな方なので書いてて楽しかったです。
個人的にはルイくんに「男の友情」ってのを説いてる姿が大好きです(笑)。

今回は市川智彦の依頼に参加して頂いて、本当にありがとうございました!
また依頼やシチュノベなどでお会いできることを楽しみに待ってます!