<PCクエストノベル(4人)>
本物の戦い ―ルナザームの村―
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【冒険者一覧】
【0812 / シグルマ / 戦士】
【1800 / シルヴァ / 傭兵】
【3241 / 月 / 巫師】
【3290 / ルナフェス=ノルーヴァス / マテリアル・クリエイター】
NPC
【観衆の皆さん】
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シグルマ:「よっしゃあ!」
何杯目か分からない大ジョッキを飲み干した多腕族・シグルマが、突然大声をあげた。
酒場が騒然となる。視線が、ひとつのテーブルに集まる。
シグルマの他に三人の人間が座っているテーブルだった。
シグルマは立ち上がり、
シグルマ:「俺らは明日、浅瀬で修業だ! 見に来るやつは見に来い!」
村人:「ほほう、修業とは戦うということかね?」
シグルマ:「その通りだ爺さん! 俺たちは明日二対二に分かれて腕を磨きあうぜ!」
村人:「あの! その様子を報道してもよいでしょうか!」
シグルマ:「願ったりだ!」
と言ってから、シグルマは四本あるうちの二本の腕を組んで少し考え、
シグルマ:「そうだな――今回の修業に賞金をかけようかお前ら」
話しかけた相手は、同じテーブルにいた仲間たち――
シルヴァ:「別に金目当てじゃねえけど……」
赤い髪に銀の瞳をした、ハーフドラゴンの青年・シルヴァがあまり気のなさそうな声で応える。
月:「純粋に戦うのもようございますが……それについてくるものがあるのなら謹んでいただきまする」
こちらは銀髪に赤い瞳をした――男でもなく女でもない、不思議な雰囲気をあわせもつ青年、月。
ルナフェス:「いいんじゃないか? そんなおまけつきでも」
ぐいっとグラスを傾けて、青い髪に金の瞳を持つルナフェス=ノルーヴァスが楽しそうに言う。
よーし、とシグルマは腕組みをしたまま満足そうな顔をして、
シグルマ:「おい、誰かスポンサーはいねえか! 俺たちの勝負を報道する代わりによ!」
ぱらぱらと声をあげる者たちがいた。彼らはきっと、この勝負を博打にも使うだろう。
にやにやとしながらシグルマは同じテーブルの三人に言った。
シグルマ:「これで楽しみも増えるってもんだ」
シルヴァ:「まあ、いいけどよ」
修業の最初の提案者だったシルヴァは、苦笑してシグルマの楽しそうな顔を見ていた。
++++++++++
当日――
シルヴァ:「……何だこりゃ?」
ずらーーーーーーーーーーーーーっ
……という擬音語はこんなときに使うのだろうな、とシルヴァは思った。
まさしくずらずらずらずらずらーーーっと。四人が戦う予定だった浅瀬を囲むように村人たちがいたのだ。いや、このルナザーム村の者だけじゃない。おそらく近隣の町村から集まってきている。それほどに多い。
月:「まさかこんなにお集まりになるとは……予想外にございます」
ルナフェス:「普段の楽しみが足りないんじゃないか?」
シグルマ:「お前ら、こっちだー!」
すでに浅瀬についていたらしいシグルマが手を振ってくる。その姿に、シルヴァはぎょっとした。
シグルマは、いつも着ているいかめしい鎧を脱いで、ふんどし一丁になっていた。
シルヴァ、月、ルナフェスが揃って浅瀬へと降りていく。
すでに万の桁になっていそうな観衆が、大きく湧いた。
シルヴァ:「おいシグルマ、お前なんでそんな格好してんだ?」
シグルマ:「鎧が海水にひたってさびたら嫌なんでな」
シルヴァ:「武器は」
シグルマ:「さっき見つけてきた。この――」
シグルマは傍らに置いてあった、ひとかかえもある大きな流木を持ち上げた。
シグルマ:「こいつで勝負してやる。安心しろ」
シルヴァ:「安心……というか……」
ルナフェス:「その姿を報道されたら滑稽だな」
ルナフェスが肩をすくめる。
シグルマははっはと笑った。
シグルマ:「男ってぇのは体で勝負するもんさ。それを証明できるじゃねえか」
月:「……私は男ではありませんが……」
ひそかに月がつっこんだ。
というか月は女でもない。無性である。
シグルマ:「それにしてもこの浅瀬……歩くより泳いだほうが早そうだな」
シルヴァ:「そんなところで戦うことに意義があるのさ。さて」
村人:「早く始めてくれやー兄ちゃんたちー!」
シルヴァは観衆のやじを放っておいて、改めて三人の顔を見比べた。
シルヴァ:「勝負は俺と月対、シグルマとルナフェスだ――念のため最後に訊くが、異存はないな?」
ルナフェス:「承知」
月:「異論はございません」
シグルマ:「もったいぶってないで早く始めようぜ」
流木をかついだシグルマがにやりと笑う。
シグルマ:「――この流木が、腐っちまう前によ」
++++++++++
勝負は翼持つ月とルナフェスの動きが重要だった。
力任せにシルヴァが斬りこんだ大剣は、シグルマの流木に半分ほどしか刺さらない。
おまけに、刺さったままぬけなくなった。
シルヴァ:「くそっ! こんなのありかよ!」
シグルマ:「戦場では何でもありだな!」
シグルマはシルヴァの剣が刺さったままの流木を振り回す。シルヴァの剣が、シルヴァの手から離れてしまった。
すかさずルナフェスが、低空飛行のままシルヴァに突進して闇剣を一閃する。
キィン
――軽やかな金属音が鳴った。
シルヴァの脇腹あたり、ルナフェスの剣に割り込む形で月の剣が現れていた。
神器・界――
そう呼ばれる剣を、月は軽やかに流麗に操りルナフェスの剣を弾いて後退させる。
ルナフェスは元々力押しの戦士ではない。月の軽やかな動きにも舌打ちして大きく一歩退いた。
シルヴァ:「月!」
ひとりでシグルマとルナフェスのところに飛び込んでいく翼人を、シルヴァは大声で呼ぶ。
月:「今剣を取り返してさしあげます」
月が言った瞬間、
銀色の閃光が走った。
――それが月の剣の残像だと分かるのに、少しの時間がかかった。
シグルマが唖然とする。
月は一回転するほどの動きで流木に刺さったシルヴァの剣の柄を弾き、刺さりを弱くした。
そしてさらに舞うような動きで――
力の微調整をしながら、シルヴァの剣の柄を弾き続け、やがて。
キィン
――シルヴァの剣が、流木から抜けた。
弾かれた剣が虚空を舞う。くるくると回って浅瀬へと落ちる。
シルヴァは慌てて走った。
しかし、ルナフェスのほうが早かった。
ルナフェス:「そんなに簡単に返すと思うのか?」
ルナフェスが片頬をつりあげてにやりと笑う。
シグルマが流木を月に向かって振り下ろす。流れる水のような動きで、月はそれをかわす。
流木を使っていては、大振りになりがちだ――
月のように、身軽すぎる相手には、シグルマは不利だった。
シグルマ:「ちっ」
シグルマは相手を月からシルヴァに切り替える。
ちょうど剣を取り戻しに、シルヴァが横を通り過ぎるところだった。
シグルマはシルヴァに向かって流木を振り下ろした。
シルヴァ:「―――っ!」
シルヴァは寸前に気づき、ぱんと掌底で流木を払う。
簡単に払える重さではない。シルヴァの腕にしびれるような痛みが走る。シルヴァの動きが止まった。
ルナフェスがシルヴァの剣を投げた。
――シグルマの四本の手の一本が、それを受け取った。
じゃぶり、とシグルマの足元で水が鳴る。シグルマはもう一度シルヴァに向かって流木を叩き下ろそうとした。
シルヴァはぎりぎりで避けた。そこをルナフェスの剣が狙う。ルナフェスの剣を月が払う。月はルナフェスと数回剣を斬り結ぶ。
互いに翼人。それは空での攻防だった。
シルヴァ:「くそ……いいとこなしだぜ、俺」
月:「焦らなくてもよろしゅうございますよ、シルヴァさん」
月がルナフェスから後退してくると、シルヴァに囁いた。
月:「シグルマさんはひとつ誤りました。あの流木は大きすぎる――大人ひとり分ほどに」
その言葉に、シルヴァははっと目を見開いた。
月は微笑んで、ルナフェスの元へと翼をはためかす。
シルヴァ:「なるほどな……」
シルヴァは唇の端を笑みの形にした。そして改めてシグルマに向き直る。
シグルマ:「何だ、素手で来る気か?」
シグルマは不敵な笑みでシルヴァに向き直った。
上空では月とルナフェスが再び剣を斬り結び始めている。
シルヴァは――
思い切って、シグルマに飛びかかった。
シグルマ:「―――!」
シグルマは慌てて流木を動かそうとする。しかし流木が動かない。
シルヴァは流木にしがみついていたのだ。
シルヴァ:「体術なら――得意分野だ!」
流木を人間に見立てて、シルヴァは技をかける。ローキックから肘打ち、そして掌底での打撃。
ぼく、ぼくと流木に穴が開き始めた。
流木を人に見立てての攻撃。流木には攻撃できる場所が多すぎた。
シグルマ:「ちいいっ!」
シグルマは腕力に遠心力を混ぜて流木をまわす。しかし腕力ならシルヴァも自信がある。ぎりぎりでしがみついた。
ふいに流麗な剣筋が――
シグルマの眼前を行きすぎ、シグルマの動きをとめた。
月だった。ルナフェスと斬り結びながらもシグルマとシルヴァの取っ組み合いをしっかり見届けているようだ。
ルナフェス:「俺ばかり格好悪いのもしゃくだな……」
ルナフェスは金色の瞳を細めた。
そして闇剣をすっと動かし――
月:「!!」
月の目の前には残像だけが残った。
シルヴァ:「ぐわ……っ」
シグルマの流木にしがみついていたシルヴァが、その手を放してうめき声をあげる。
血が舞った。跳ね飛んで、シグルマの顔にも降った。
ルナフェス:「少しやりすぎたか?」
再び月の前に姿を現しながら、ルナフェスが薄く笑う。
月が初めて冷や汗を一滴流しながら、目の前の青年を見た。
月:「……素晴らしいスピードです」
いや、スピードだけではない。ほんの数瞬の間に何回も対象を、それも深手を負わせずに斬るには相当の腕がいる。
月:「失礼ながら、あなたをあなどっていたようです」
月は剣をルナフェスに突きつけた。
月:「しかしこの先は、こうもうまくいかせませんよ――私のことも、シルヴァさんのことも」
ルナフェス:「さて、どうかな?」
ルナフェスは片手をかかげた。
きん、と空気が震えて、ルナフェスの前にバリアが張られた。
そしてルナフェスは月に斬りかかる――
シルヴァ:「ったく、体力あってよかったぜ……」
シルヴァはぶつぶつ言いながら、体中を引き裂かれた自分を見下ろした。
シルヴァ:「なーんか俺らしくないな……思うようにいかねえな」
シグルマ:「それが戦場というものだろう……っ」
シルヴァの血を頬につけたままのシグルマが、流木をシルヴァに振り下ろす。
シルヴァは瞬時に足腰に力をこめ、流木を下から受け止めた。
しばらく力の押し合い――
かと思えば、シルヴァは数秒後に流木を受け流した。
バランスを崩して、シグルマの体勢が流れる。シルヴァはその隙にシグルマの背後に回った。
シルヴァ:「剣、返してもらうぜ!」
シグルマの四本腕のうちの一本、シルヴァの剣を握っている腕に関節技をきめて、シルヴァはようやく剣を取り戻した。
そしてすかさずシグルマの太い足に足払いをかける。
バランスを崩していたシグルマはあっさりとそれに引っかかった。ざばん! と派手に浅瀬の飛沫が舞った。
シルヴァ:「鎧じゃなくてよかったな。起き上がるのに一苦労だぜ」
シルヴァは自分の足を持ち上げた。
靴にすっかり水が入ってしまっている。革靴のためにしみこんで、やたらと足が重い。その重さが今後シルヴァのハンデとなりそうだ。
シグルマと同じように脱いでしまうのも手だが……
シルヴァ:「今日は『修業』に来ているからな……っ!」
シルヴァは大剣を倒れているシグルマに向かって振り下ろす。
シグルマは横に回転してそれを避けた。しかしシルヴァは連続して大剣を振り下ろした。
シグルマが腕の一本を――
盾の代わりにして、シルヴァの剣を受け止めた。
シルヴァ:「………っ!」
シグルマの腕にシルヴァの剣が食い込む。血が流れる。しかしシグルマはにやりと笑うだけ。
ひゅっ――
シルヴァの耳元で空気を裂くような音がした。
しまったとシルヴァはシグルマの腕から剣を抜き、とっさに防御の体勢を取る。
ひゅんひゅんひゅん
月:「させませんよ……っ!」
ルナフェスのシルヴァへの連撃に、月が割って入った。
ルナフェスの闇剣が月の白い肌の上を滑っていく。しかし月の剣はたしかにルナフェスのそれを受け止めた。
と――唐突にがくん、と月の体が重くなる。
シグルマの腕の一本が、月の足をわしづかんでいた。
シグルマ:「だんだん、団体戦っぽくなってきたぜ……!」
シルヴァの剣が閃く。月をつかんでいるシグルマの腕に。
しかしシグルマの腕は頑丈で、一撃では月の足を解放しなかった。
ルナフェスがスピードに技を乗せた連撃を放つ。
とっさにシルヴァは月の前に出た。――盾役なら自信があった。
しゅっしゅっしゅっと情け容赦なくルナフェスの技がシルヴァの服を切り裂いていく。
シルヴァ:「修業が終わったら弁償してもらうぜっ!」
ルナフェス:「勉強代だ。自分で払え」
シルヴァはシグルマの手を踏みつけた――自分の足をわしづかもうとしていた手を。
革靴の底で、遠慮なくぐりっと手の甲をえぐる。
シグルマがうめく。シルヴァは低空飛行中のルナフェスに大剣を放つ。
月はシルヴァの剣筋に合わせてルナフェスを別方向からの剣撃で襲った。――足をつかむシグルマの手は、月自身ではとても払えそうにない。
ふたり同時に放った剣は、ルナフェスのバリアにふさがれながらも衝撃を与えるに充分だったらしい。ルナフェスがぎりぎりで退いていく。
唐突に、月の体を浮遊感が襲った。
シグルマが立ち上がった――手に月をぶらさげたまま。
月は翼で空中に浮かびながら、どうやって逃れるかを考えた。
と、シルヴァが軽い口調で、
シルヴァ:「人間の体ってのはな、関節が異常に多くてさあ」
月:「―――!」
月は自ら飛んで、自分の足をつかむシグルマの腕をシグルマの背後に回そうとした。
にやりとしたシルヴァはそれを助けるように、シグルマのその腕に剣撃をしかける。
ルナフェスが月の後姿に闇剣を放とうとする。
シルヴァ:「おっと」
シルヴァはすぐさま攻撃対象をシグルマからルナフェスに変え、ルナフェスに一撃をくれた。
カシィン
ルナフェスにかかっているバリアの魔法が、シルヴァの剣を弾く。
構わず二撃、三撃。
ルナフェス:「案外しつこいな……」
ルナフェスはいったん後退して、シルヴァに向かって手をかざした。
シルヴァ:「!?」
シルヴァの体がゆがむ。――空間がゆがむ。
闇に――呑まれていく。
どうしようもない精神的圧迫を相手に与える闇魔法。放っておけば廃人にすることも可能なものだ。
しかし、
シルヴァ:「あいにくだな……!」
シルヴァは剣の一閃で、闇を切り裂いた。
シルヴァ:「俺に魔法は効かねえぜ」
ルナフェス:「……頑丈なやつだ」
ルナフェスがため息をついたころ、月がシグルマの背後に回ろうとしていた。
しかしうまくいかない。シグルマの他の腕まで月をつかまえようとする。
月はふう、と嘆息した。
月:「……仕方がありません。多少威力は落ちますが……」
月は剣をそっと自分の前に構え――
そして足をつかまれたまま、舞い始めた。
それはまさしく、羽毛と流水のごとくの軽やかさ、なめらかさ――
足をつかまれていることさえ、舞踏の一端に変え。
剣が虚空を――そしてシグルマの腕を――すべるように斬っていく。
シグルマ:「ぐ……っくそっ」
シグルマはまだ抱えていた流木で月を叩き落そうとした。
しかしそれは、羽毛のごとくの軽やかさでかわされた。
シルヴァ:「そーいやその木、邪魔」
シルヴァが一度自分が剣を食い込ませた場所を狙って、もう一撃の剣撃を放つ。
ばきっ
一度シルヴァが体術で衝撃を与えていることもあってか、流木は簡単に折れた。
シグルマ:「ちっ!」
シグルマは流木の、折れた部分の鋭さを利用することにしたらしい。シルヴァに向かって突き出してくる。
シルヴァはそれを受け流した。受け止めていてはルナフェスの相手ができない。
ルナフェスはうまいタイミングでシルヴァを攻撃してくる。――足。
避けようとすれば、水に足を取られることを分かっていてそこを狙っているのだ。
シルヴァ:「これでこそ……訓練だぜ!」
ばしゃん! 踏み込んだ足元で飛沫が散った。
足が重い。靴だけじゃない、重さがだんだん上のほうまでのぼってくるように、下半身にまで負担がかかる。
シルヴァは負けじと歯を食いしばり、剣を下から斬りあげた。
ルナフェスの羽根が散る。シグルマがルナフェスのほうを向いたシルヴァに向かっておおおと雄たけびをあげながら流木を突き出す。
さらり
シグルマの視線を、柔らかな翼がさえぎった。月だ。
シグルマ:「く……っ」
シルヴァ:「サンキュー、月」
月:「シルヴァさんも、お気をつけて」
ルナフェス:「なかなかねばるな」
ルナフェスは、少し傷ついた翼を気にしながらも平然とした表情を保った。
村人:「そこだ! そこを行け!」
村人:「負けるな!」
無責任な村人たちの声が飛んでくる。
力が、拮抗していた。
ルナフェスはシルヴァの攻撃を空中で避けながら、時おり月に闇魔法を放った。月に魔法耐性はあまりないらしく、月が苦しげに声をあげる。そのたびにシルヴァが大声で月を呼んで、我に返らせた。
月は剣舞を舞い続け、シグルマは月の剣舞に何度も腕を斬られ、だんだん月をつかんでいる手に力が入らなくなっていく。
シグルマの折れた流木を避けながらも、ルナフェスを攻撃するのはシルヴァ。下半身の重さに耐えて、空中にいるルナフェスを斬るためにジャンプまでもした。
その空中に高くなったシルヴァの足を、シグルマがすくいとろうとする。
月が再びシグルマの視線をさえぎった。そのとき、
シグルマの月をつかむ手の力が抜けた。すかさず月はシグルマから離れた。
くるりと流麗に剣を流した先――ルナフェス。
かしぃん
バリアに当たったが、その感触が違ってきたのを月は感じた。
弱くなっている――
ルナフェス:「まったく、お互いしぶといな」
ルナフェスは不敵に口角をあげて月とシルヴァに向き合った。
月とシルヴァを、ルナフェスとともにはさむようにして、シグルマが立つ。
シルヴァ:「……月」
月:「ええ」
シルヴァはルナフェスへと、重い足を踏み込んだ。
月はさらりとシグルマに剣を走らせた。
月の羽毛のような動きは、シグルマの四本腕でもつかまえるのは容易ではなかった。
ルナフェスはシルヴァの剣を受け流しながら、詠唱を終え月に向かって闇魔法を放つ。
シルヴァ:「月!」
シルヴァの一喝ですぐさま闇魔法の効果から復活した月は、すんでのところでシグルマの腕につかまらずに済んだ。
月がシグルマをだんだん追いつめていく。シルヴァは低空飛行のルナフェスに何度も斬りかかる。
やがてルナフェスに疲れが見え始めた。
ルナフェス:「……低空飛行ってのは却って疲れるんだ……」
つぶやき、逃げるように大きく空を飛ぶ。ばさりとはためいた翼を――
シルヴァが跳んだ。
そして、思い切りルナフェスの翼をわしづかんだ。
ルナフェス:「………!!!」
ルナフェスの羽根が大量に散る。
ルナフェスの、あまり動かなかった表情が苦痛に揺れる。
シルヴァがえたりと剣を構えた。
ルナフェスが激昂して、逃げるのをやめ闇剣を振りかざしてくる――
シグルマ:「よせ、ルナフェス!」
シグルマが警告を与えたときには遅かった。
シルヴァの剣が――
ルナフェスの剣を払い、そのまま突き出されて――
シルヴァ:「はい、チェックメイト」
ルナフェス:「………」
喉元に剣先を当てられ、ルナフェスは肩をすくめる。
月がふんわりと微笑んだ。
月:「では、ルナフェスさんは戦線離脱ですね」
ルナフェス:「……この借りは別のところで返す」
ルナフェスのドスのきいた声に、シルヴァがうひゃあと縮み上がる。よほど羽根をむしられたのが気に入らなかったらしい。翼人にとってはそりゃあそうだろうが。
月:「あとは……シグルマさんだけです」
シルヴァ:「二対一なら楽勝だぜ」
シグルマ:「なめるな……!」
シグルマの流木が風を切る。二人を寄せ付けないかのような勢いで流木が円を描く。
月は流水の動きでそれをかわし、するりとシグルマの懐まで到達した。
シグルマがとっさに上半身をかばう姿勢になる。
にやりとしたシルヴァが、シグルマに足払いをしかける。
上半身をかばうために、重心を前にしていたシグルマに、その足払いは致命的だった。
ばっしゃん!!
顔からまともに浅瀬に倒れ、派手な水飛沫があがる。
シグルマが必死に上半身を持ち上げた時にはすでに遅し。
月:「チェックメイト……でございます」
シルヴァ:「それも二乗」
月とシルヴァの剣が、クロスしてシグルマの後ろ首を押さえていた。
シグルマはぺっと口の中に入った水を吐き出してから、苦笑した。
シグルマ:「あいよ。降参」
シルヴァ:「大人しくしてくれてありがたいぜ」
シルヴァが茶化して言った。
ルナフェス:「もう少しねばってほしかったな」
シグルマ:「うるさい。お前が先に落とされたんだろうが」
ルナフェスとシグルマは互いに横目でにらみあう。
それから――がしっと、両腕をからめた。
月がそっとシルヴァに手を差し出す。シルヴァは快くその握手に応じた。
それから、今まで敵同士だったチーム入り乱れての握手会――
ぱち ぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱちぱち
少し離れた場所で円形に四人を囲んでいた人々が、拍手を始める。
村人:「いい試合だったよ!」
村人:「このやろ、3000負けちまったじゃねえか!」
村人:「またやれよ、なあ!」
村人:「立派な記事にしてみせるわよー!」
すでに数万人の域に達していた観衆がどっとわめきだして、言葉が聞こえなくなってきた。
四人は耳をふさいだ。
シグルマはつぶやいた。
シグルマ:「うるさくしてほしくて呼んだわけじゃねえんだけどよ……」
ルナフェス:「約束通り賞金は出るのか?」
シルヴァ:「賞金てぇか――」
シルヴァはひとり一番ぼろぼろな自分の服を見下ろし、
シルヴァ:「俺の服くらいは買える金出してくんねえかな……」
月:「万が一でなければ、私やルナフェスさんが持ちよってお金をお出ししますよ」
ルナフェス:「俺もか」
月:「張本人です。当然でしょう」
ルナフェスがあーあと片手で顔を覆う。
しかしその心配はすぐに払拭された――
ちゃぽん
ちゃぽんちゃぽん
浅瀬に、放り入れられていくコイン。やがて雨あられとなって、四人にこつこつ当たってまで降ってくる。
シグルマ:「チップのつもりかねえ……」
シグルマがため息をついた。
シルヴァ:「拾い集めるのシグルマがやれよ。ちょうど裸なんだし」
シグルマ:「俺も怪我してんだぞ!? シルヴァこそもうその服だめなんだから脱いで浅瀬につっこめ!」
地上に立つふたりがけんかを始める。
月:「………」
ルナフェス:「………」
翼を持つふたりは、知らん顔して横を向いていた。
++++++++++
二日後。ルナザームの村では大々的にシルヴァ、シグルマ、月、ルナフェスの戦いの様子を描いた回覧版がまわされた。
四人はスター扱いされた。シグルマは酒の呑み放題で上機嫌だ。
シルヴァは何とか服を新調できた。
月とルナフェスの翼の怪我はまだ少し治っていないが――
月:「大量の視線の中で戦っていたはずですが……やはり勝負に入ると視線を感じなくなるものですね」
ルナフェス:「それぐらいの神経でなければ、戦いにはすぐ敗れる」
ルナフェスがグラスをかたむけながら静かに言った。
ルナフェス:「……少しでも余計なことに気をやったほうが負けだ」
月:「ではあの時、ルナフェスさんも何か別のことを?」
ルナフェス:「聞くな、うるさい」
あんまり怪我をしては、自分の養い子が泣くだろうな、と思ってしまったルナフェスは眉間にしわを寄せた。
月は笑って、
月:「今回は訓練。……勝っても負けても、得ることは多かったはずです」
ルナフェス:「……そうだな」
シルヴァ:「悪い、遅くなった!」
外で村の女性陣に囲まれていたはずのシルヴァが、ようやく酒場に入ってくる。
シグルマ:「遅すぎだ!」
シグルマは上機嫌のままシルヴァを手招いた。
四人は同じテーブルに座る。――戦いの詳細を決めたあのときのように。
シグルマが大ジョッキを持ち上げて、
シグルマ:「さあ、宴会と行こうぜ――!」
おう、と返事をしたのは酒場全体――
他の三人は苦笑した。自分たちを囲んでいるのは大量の村人。
月:「まあ、今宵は楽しみましょう」
月がグラスを持ち上げ、続いてシルヴァが、ルナフェスが。
シグルマ:「お前ら、ありがとうよ!」
四人の容器が打ち鳴らされた。
村人をまじえての宴会が、今始まろうとしていた――
ライターより-----------------
皆様初めまして。笠城夢斗と申します。
このたびはクエストノベルを書かせていただきありがとうございました。
せっかくプレイングがありましたので、戦闘以外はギャグ方面でいかせていただきました。(あまり笑いはありませんが……)
戦闘、皆様のご満足のいくものになればよいのですが……
よろしければ、またお会いできますよう。
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