<PCクエストノベル(2人)>
『朽ちた遺跡に眠るもの』
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【冒険者一覧】
【1070 / 虎王丸 / 火炎剣士】
【2303 / 蒼柳・凪 / 舞術師】
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【1】
虎王丸:「うっわ……なんだここ!?おい、凪!こんな所に財宝なんてあんのかよ?」
凪:「あるはずだけどな……」
一陣の風が土埃を舞い上げる。そして、間をおかず次なる風が更に土埃を舞い上げるが……それでも長い時間をかけて積もった土埃を払いのけることは不可能だった。
二人が前にしているもの、それは遺跡だ。名をチルカカ遺跡という。どこかで聞いた一説によるとここは遥か昔は城であり、地下の洞窟は城が沈んでしまったために出来たもの、ということらしいが……遺跡の地下には人の手によって作られた巨大な洞窟があるため、全てが沈んだ城によって出来たものとは言えないようだ。
何かを象っていたのだろう岩の塊が転がり、柱だったであろう石材が地面に突き刺さり、床だったと思われる部分は土にまみれて見えない……見事に過去の産物と化しているその元城に、虎王丸は率直な感想をぶつけ、凪は相方に賛同したくなる気持ちを抑えつつ頷いた。
凪:「百聞は一見にしかずって言うし、行って見てみるしかないな」
虎王丸:「まぁここには何かいそうだしな!いっちょ行ってみるか!」
虎王丸を先頭に、二人は岩などの障害物を避けつつ、遺跡に向かって進み出した。
【2】
凪:「この辺の石畳は残ってるんだな」
虎王丸:「でもなんか変だぜ?これ天井だったんじゃねーの?」
凪:「あぁ……そうかもしれないな。今日の虎王丸は冴えてるな」
土に刺さっていた障害物を越えると、そこには傾きかけて踏みとどまった遺跡の入り口が姿を現した。四本の太い石柱がかろうじて入り口の天井や壁の部分を支え、訪問者が入れるようにしているが……天井は抜け落ちて光が差し込み、壁は風雨にさらされて崩れ落ちている。
二人は崩れ落ちないかどうかを調べながら入り口をくぐり、奥へと続く元廊下を歩いて行く。途中、床に散らばった色付きの石や何か平たい物を拾ってみて検分してみるが……返金できそうな物はみつからない。
虎王丸:「遺跡っつーか廃墟だよなぁ?あるのはこんなんばっかで相手になるやつもいねーしよっ!」
凪:「……」
虎王丸:「凪?」
つまらなそうにぶつくさ言い始めた虎王丸の隣で、凪は呼びかけに応じず真剣な表情をしてあることを考えていた。それは……生活費のことである。
今回このチルカカ遺跡に来た目的は、何か収入を得られる物をみつけるためである。家事と家計を担当している凪にとって、収入があるか無いかは実に切実な問題であり……もし今回の冒険で得るものが無かった場合、生活費を切り詰めるか、虎王丸にも街で働いて稼いでもらうしかない。それなのに……この遺跡にあるものといえば石、小石、土、崩れかけた壁、壊れかけた石柱……といった類で、持ち帰っても逆にマイナスになりそうなものばかりである。
ずーん……と半ば落ち込みかけている相方に、虎王丸はばしばしっと背中を叩きながら言った。
虎王丸:「あんまり悩みすぎるとハゲるぜ?っつーかよ、そんなに悩むんだったら貯金なんてやめちまえばいいんじゃねぇの?」
どこからそんな発想が出てきたのかは謎だが……虎王丸はどうやら、最近凪が悩むのは貯金なんてしてるからだ、と考えているらしい。
凪:「…虎王丸、貯金をする意味わかってないだろ…?」
虎王丸:「あ?貯金になんか意味あんの?」
本気で言ってるよ……と虎王丸の顔を見ながら溜め息をついた凪は、彼に貯金の意味を説いても仕方が無いのをわかっているため、背中がひりひりするのを我慢しながらぐっと拳を握った。
凪:「何も無いなら何かあるまで進むしかないよな。行くか、虎王丸」
虎王丸「? おう!」
何がどうなって相方に気合が入ったのかわからないが、虎王丸はいつもの調子で応答した。
【3】
二人が遺跡に入ってどのくらいの時間が過ぎただろうか?時折、天井から漏れてくる光があるが……これでは時間の経過を知ることは出来ない。時間の経過は自身の感覚で知るしかないのだが……何も無い、目的の物がみつからない場合、人は実際の時間よりも多く時を過ごしたように感じるものである。もちろん、二人も例外ではなかった。
虎王丸:「っだーっ!!何もねぇっ!何もいねぇっ!!なんなんだこの遺跡は!?」
凪:「あぁ……見事に何も無いな」
歩いても歩いても廊下。時々扉があり入ろうと試みるがその先は土壁が待っていたり。部屋に入って探索が出来ると思ったら何も置かれていない部屋であったり。今のところ、はずれしか引いていない。
そして今も何度目かのはずれの扉を開けたところで……虎王丸は地団駄を踏み、凪は深く溜め息をついた。
凪:「また土壁か……」
虎王丸:「土壁多すぎるんだよっ!!さっきも!その前もっ!んで今回もっ!!」
だんだんだんっ!と尚も地団駄を踏む虎王丸を見つつ、凪は振動の度に自分の上にパラパラと降ってくる土を払いのけていた。
凪:「この土壁じゃ虎王丸の刀を使っても無駄だろうな……せいぜい今みたいに土を被るぐらい……あ!」
虎王丸:「どうした?」
凪が何かに気付いて小さな声をあげたのを聞いて、虎王丸は地団駄を踏むのを止め、相方の顔を見た。
凪:「虎王丸、後ろ」
虎王丸:「後ろ?……んだよこれっ!」
自分の後ろを指で示され、素直にくるりと振り返った虎王丸が見たものは……土壁から少しだけ顔を覗かせた青銅の何かであった。
凪:「虎王丸のおかげで何かみつかったな。これはとび……」
虎王丸:「何かあるとわかりゃあこっちのもんだぜっ!!今までの鬱憤晴らさせろっ!!」
凪:「あ、ちょっと待っ……」
虎王丸:「でぇぇいっ!!」
余程何かあったのが嬉しかったのだろう。虎王丸は封印された刀を手にとると、凪の発言にも気付かず、待ったにも気付かずに鞘ごと何度も土壁を殴りつけた。
そして、数分後……。
虎王丸:「っはー!すっきりしたぜっ!!ストレス発散にはもってこいだったな」
凪:「……」
封印された刀は不死者シマモリの鎖の力で、鞘ごとの攻撃で損傷を受けた物品を一瞬で腐食・土に変え崩壊させてしまう能力を持つ。今回もその例に違わず……虎王丸が刀で殴りつけた土壁はぼろぼろの土塊に変わり、その先に続く道があることを示した。だが、ここで問題が一つ……。
虎王丸がすることを大人しく離れて見ていた凪であったが……相方が刀をしまい、腰に手をあてて満足そうに頷く様を横目に見ながら、そのぽっかりと開いた穴に近づき、ぐるりと見回して今日何度目かの溜め息をついた。
虎王丸:「何辛気臭い顔してんだよ?せっかく進める道が出来たってのによぉ」
凪:「虎王丸はやっぱり気付いてないか……」
虎王丸:「あぁ?気付いてないって何が?」
さっぱり心当たりが無い、という様子の虎王丸に凪は手で額を抑えながら言った。
凪:「虎王丸……さっき見えたのは何だ?」
虎王丸:「は?見えたの?金属っぽいやつだろ?」
凪:「あぁ……金属っぽいのが見えたな。で、今その金属っぽいのはどこにいったんだ?」
虎王丸:「どこいった?どこいったってそこに……」
虎王丸は自分が先ほど殴りつけた土壁を指差した……が、そこにあるのはぽっかりと空いた穴だけである。
虎王丸:「ねぇな?」
凪:「ようやくわかったか……」
すかすか、と宙を切る自分の手を見ながら、虎王丸はもう片方の手で頭を掻いた。
虎王丸:「いや〜わりぃ……金属っぽいのごと土にしちまった」
凪:「事実を把握してくれて良かったよ」
苦笑いをうかべる虎王丸に、やや疲れた笑いを返しつつ、凪は目の前の穴をみつめた。
凪:「まぁ過ぎたことを言っても仕方が無いしな。この先を探索しに行くか」
虎王丸:「おうよ!待ってましたってな!!何があるか楽しみだぜ!」
行くぜっ!と瞬時にいつもの調子に戻った虎王丸が早速、と穴の中へ向かってずんずん歩き出した。その後に凪が続く。
凪:「何があるかわからないから気をつけて進めよ」
虎王丸:「おうよっ!」
【4】
穴の中は足元が見えるか見えないぐらいの暗さだった。人一人が通れるほどの幅しかなく、高さも無いために二人はやや身を屈めないと進めないような状況である。
凪:「俺が先に行った方が良かったな」
虎王丸:「そうかもしれねぇな。これじゃあ何か出てきても刀なんか振りまわせねーし……」
凪:「明るさだけでも確保したいところだが……この狭さでは無理だな……」
足元が見えるか見えないかという暗さのため、先に何が待っているかも当然分からず……明かりを点けられたらと思うものの、この狭さと先に待っているかもしれない害ある何かに気付かれる可能性があるために火は使えない。
現状を維持したまま、慎重に歩みを進めていくこと数分……。
虎王丸:「なんだ?あれ?」
凪:「何かあったのか?」
虎王丸:「あぁ。なんか丸っこい物が見えるぜ」
先頭を歩いていた虎王丸が何かみつけたらしい。虎王丸になんとかしゃがんでもらい、凪もそれを確認した。
凪:「確かに丸い何かだな……」
まだ自分たちがいる所とその丸い物体のある場所が離れているため、それが何であるか不明であるが……何かがある。
凪:「……?なんか光ってるように見えるな」
虎王丸:「そうか?」
凪:「これだけの暗さの中で見えるんだぞ?」
虎王丸:「そう言われりゃ確かにそうだな」
しばらく動きを止めていた虎王丸であったが……不意にしゃがんだ姿勢から立ち上がると、残りの道程をすたすたすたと歩いて行き、ためらいも無くその丸い物体を手にとった。
凪:「あ……!」
虎王丸の突然の動きに対応出来なかった凪は、驚いて声をあげた。
虎王丸:「へぇ……綺麗だな。熱くもねぇし、冷たくも無いぜ?凪も早く来いよ!」
凪:「……はぁ」
まるでおもちゃを与えられた子供のように、丸い物体をくるくると回しながら見ている虎王丸に、凪は大きな溜め息をついてから自分も丸い物体に近づいた。
凪:「虎王丸、警戒心無く不用意に触るのは危険だぞ」
虎王丸:「大丈夫だってぇの!そんなに警戒してばっかりじゃ動けねーだろ?」
虎王丸が持っている丸い玉を横目で見つつ、凪はそれがあった場所を見た。何故かこの場所だけ開けており、天井は高く、虎王丸と並んで立っても後二人は余裕で入れる広さがある。そして、丸い物体が置いてあったであろう奥の棚には小さな窪みが掘ってあり、何かを置くようになっていた。虎王丸が持っている丸い物体が小さな窪みの上に転がらないように乗っていたのだろう。
虎王丸:「それにしてもよ。なんだろな?これ」
凪:「そうだな……水晶球に似てるけど何か違うしな……」
???:「それはあたしのよ。返して」
二人:「!?」
二人で丸い物体を検分し始めたそのとき。二人の頭上から女性の声が降ってきた。
声のした方を瞬時に見た二人は、その声の主の姿を認めて驚いた。なぜなら……手に炎の塊を持った短い金髪の、黒服を来た女性がそこに浮かびあがっていたからである。
凪:「虎王丸!」
虎王丸:「わかってるっ!!」
女性が炎の塊を持っているということは、すぐに戦闘に入ることができる態勢が出来ているということであり、今の二人には戦闘手段はあれど、お互いを傷つけてしまう可能性のある広さと環境にいることがわかっている。
凪は虎王丸から丸い物体を受け取って先に元来た道へと入り、虎王丸は火之鬼をすらっと抜いて女性に切りかかった。
女性:「あらあら、物騒なこと」
虎王丸:「女に切りかかるのは趣味じゃな……!?」
趣味じゃないんだけどなっ!、と言おうとしたところで虎王丸の口がぴたっと止まる。その理由は……女性の服が大きく胸元の開いたものであり、豊満な胸をしていることを視覚で捉えてしまったからである。そして、顔……白い肌で綺麗な整った造りをしている。
虎王丸:「う……」
虎王丸は思わずたじろいだ。セクシーなお姉さんは好きですか?と問われれば、即答ではいっ!!と返事が出来るほど、セクシーなお姉さん好きの虎王丸である。それが例え……魔物であっても。
女性:「ふふふ……もしかしてあたしはあなたの好みなのかしら?」
虎王丸:「そ、そんなこと……!」
それを素早く察知したのか、女性は笑顔で虎王丸へと歩み寄る。ずずいっと寄って来る女性に虎王丸はじりじりと後退して必死で否定するが……明らかに顔に出ている。
女性:「いいのよ〜?ここ、触っても」
虎王丸:「さ、ささ触るっ!?」
女性:「えぇ。どうぞ〜?」
胸元を示しながら近づいてくる女性に、虎王丸はなおも必死に否定しながら後退を続けたが……どすっと背中に壁が当たった。つまり……後が無くなった。
後が無くなったこと、セクシーな女性が迫ってくることで虎王丸の頭は混乱していた。この事態はまずい、と。だが後にはもう下がることが出来ず……女性の手が自分の頬に伸びてきた、と思ったそのときである。ガゥンッガウンッ!!と来た道から銃声が聞こえてきたのは。
虎王丸:「あ!!」
その音ではっと我に返った虎王丸は、近づいてきていた無防備な女性を思いっきり突き飛ばすと元来た穴の道へ駆け入った。
虎王丸に突き飛ばされ壁にぶつけられた女性であったが……すぐに態勢を立て直すとくすっと笑んで右手をあげた。
女性:「ふふふふふ……あたしが逃がすと思って?」
早く凪の元へ戻ろうと狭い穴の中を全速力で駆ける虎王丸の耳に、何か異音が聞こえてきたのは少し経ってからのことだった。
虎王丸:「? 風の音か……?……違うなっ!!」
ごぉぉ……っと言う音を判別した途端、虎王丸の表情に焦りが浮かんだ。なぜなら……自分の後ろを追ってくるのはさっきいた女性ではなく……炎だ。さっきの女性が放ってきたのだろう。
自分が凪の元へ着くのが早いか、追いつかれて炎に焼かれる方が先か……虎王丸は後者を考えないようにするため、ひたすら走ることだけを考えることにした。
虎王丸にとって、この時間はさっき以上に長かった。一日で何回も長い時間を経験することは滅多に無いだろうが……当分、いや一生必要無いっ!!と走りながら心底思っていた。背中に感じてきた熱さは走っているためか、それとも最悪の事態が起き始めたか……それを知る術は無い。だが、希望の光がようやく見え始めていた。
出口の光が見え始めたところで、虎王丸は今自分に出せる精一杯の声でその穴に向かって叫んだ。
虎王丸:「凪―っ!!!」
銃声が虎王丸に届いてればいいが……と思いながら舞っていた凪は、はっとして穴の方を見た。今、虎王丸が自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
凪は舞い続けながら耳を澄ます。……こちらへ向かって走ってくる足音が、微かにだが聞こえる……。
何か良くない状況になっているような予感を、凪は感じていた。それならば……。
凪:「この距離なら……!」
穴に向かってすっと手を伸ばすと、凪の手からするするっと衣が伸びていった。
凪の手から伸びた衣は虎王丸をみつけると、ふわっと優しく彼を包み込んだ。もう大丈夫、と子供を抱く母の手のように。
虎王丸は自分を包む薄い衣が現れたことに気付くと、走るのを止め、ぜいぜいと荒い息をしながら歩いて出口へと向かった。途中で、後ろからぼふっ!と炎が消える音がした。
凪:「虎王丸!無事で良かった……」
無事な虎王丸の姿を見て、凪はほっと安堵の息をついた。ああするしかなかったとはいえ、やはり相方を置いて自分だけ逃げる形になってしまったのは心苦しく、心配でいっぱいだった。
虎王丸:「ったりめーだっ!!あー……でも助かったぜ……」
凪の隣までよろよろと歩いていった虎王丸は、相方の肩をぽんっと掴んでから、死ぬかと思った、とぼそっと呟いた。
女性:「あら残念。カリカリに焼いて突き出してあげようと思ったのに」
凪:「……悪魔か?」
くすくすくす……と笑んでいる女性の姿が、外に出てようやく判明した。遺跡の中にところどころ差し込む夕日の明かりに照らされて見えたのは、尖った耳、深紅の瞳、露出度の高い黒い服、漆黒の蝙蝠に似た翼、手から不気味生えた鋭く長い爪……。
凪:「……虎王丸、よく無事に出てこれたな」
虎王丸:「おうよ……自分でも不思議に思ってるぜ」
虎王丸がセクシーな女性に弱いことを凪はよく知っている。悪魔の女性を見て、凪は本当に無事に出て来れて良かったと思いながら銃口を悪魔の女性に向けた。
女性:「あらあら、あなたも物騒な。穏便に話をする気は無いの?」
凪:「穏便も何も、始めから戦闘態勢に入っていた人に言われたくないな」
女性:「あら手厳しい」
相変わらず人を馬鹿にしたようなくすくす笑いに凪はむっとした表情をうかべた。
女性:「ヤダ、そんな顔しないでよ。封印を解いてくれたあなたたちには感謝してるのよ?だからここは穏便に、それ、返してって言ってるの」
凪:「断る、と言ったら?」
ふざけ口調の女性に厳しく切り返す凪。二人の間に冷たい空気が流れる。話し合いの余地は……無い。
銃口が火を吹くのと炎の塊が飛んでくるのはほぼ同時だった。
炎の固まりは衣によって消され、銃弾は女性の頬を掠めた。女性の頬からつー……と血が流れ出る。
女性:「……顔、傷つけたわね……」
凪:「避けきれなかった結果そうなっただけだ」
滴り落ちる自分の血を指先で拭い、ぺろんと舐めた女性は次の瞬間、にぃっと不気味な笑みをうかべた。
女性:「ブスになるからヤダったけど……しょーがないわ。消し炭になるがいいっ!」
ヴンッと妙な音と紫色の光が悪魔の女性を包んだ次の瞬間……女性だった姿は跡形も無く、蝙蝠の羽を持った獣へと姿を変えていた。形容は獅子に近いが、紫と黒の皮脂で覆われた不気味な肉体は実際に生きているものには無いものである。
獣は口をガバァっと開けると、雄叫びに似た咆哮と共に先ほどよりも遥かに大きい炎の塊を二人に向けて吐き出した。
炎の固まりは容赦せず二人に襲いかかったが、凪は横に跳んで避け、虎王丸もギリギリのところで立ち上がってやり過ごす。
凪:「この物体のおかげで力が減退しているとはいえ……くらったら一たまりもないな」
虎王丸:「だな……女って奴は化けると恐えぇっ!!」
少し休んだおかげでようやく息を整えた虎王丸は、抜いたまま持っていた火之鬼を構えながら言う。
虎王丸:「だけどよ。一ついいことがあったぜ!セクシーな姉ちゃんが相手じゃなくなったからよ!思いっきり戦えるぜっ!!!」
凪:「ああ、期待してる」
にっといつもの調子に笑った虎王丸は凪の言葉を背に受け、獣へと切りかかる。
虎王丸:「さっきの分返してやるぜっ!!」
白焔を纏わせた刀がぶんっ!!と勢い良く払われる。その瞬間、獣の前足がごとっと落ち、飛沫があがる。火之鬼は切れすぎる切れ味を持っているため、軽く一振りしただけでもかなりの凶悪さを発揮する。
前足を落とされた獣は耳を劈くような咆哮をあげると、残った前足を振り上げて虎王丸に襲いかかる。脚力が良いためその勢いと速さは虎王丸に防御する時間を与えなかったが……
凪:「『氷砕波』」
すかさず凪の放った吹雪が獣に激突した。獣の身体が吹雪によって空中で揺らぎ、背中から地面に激突する。
凪:「虎王丸、今のうちに」
虎王丸:「おうよっ!!」
獣が地面に落ちた音を聞いて凪は吹雪を操る手を止め、虎王丸へと振り返った。
下敷きにならないように獣を避けた虎王丸は、凪に向かって返事をし、刀を勢い良く振り上げた。が、そこで気付いて叫んだ。
虎王丸:「!? 凪っ!避けろっ!!!」
凪:「!?」
二人の一瞬の隙をついてのことだった。炎の塊が一直線に凪へと飛んでいき、そして……凪に激突した。
虎王丸:「このやろうっ!!」
それが見えた瞬間、虎王丸の手は振り上げた勢いそのままに獣の首へと振り下ろしていた。
【5】
虎王丸:「ったく。慌てた俺が馬鹿みてーじゃんっ!」
凪:「そんなこと言われてもな……」
沈みかけた夕日と遺跡を背に、虎王丸と凪は歩いていた。
虎王丸:「まさかまだ効果があったなんてなっ!『八重羽衣』っ!!」
凪:「俺もびっくりしたよ」
『八重羽衣』を発動してから攻撃を受ける回数が少なかったものの……『氷砕波』を発動したので、その効果は消えたと二人とも思っていたのだ。
凪:「おそらくあの悪魔のエネルギー体があったからだろうな。いつの間にか消えていたし」
虎王丸:「ふーん」
咄嗟に袖の袂に入れたのをさっきまで忘れていたのだ。だが、袂を探してみても無く、途中で落としたのかもしれない、と持って歩いた道を探してみてもみつからなかったため、そういう結論をするしかなかった。
凪:「それにしても……結局何も無かったな……」
大きな溜め息をついてがっくり肩を落とす相方に、虎王丸はバンバンっと背中を叩きながら言った。
虎王丸:「まっ、セクシーな姉ちゃん見れたから俺はいいや。それによ、貯金ってのがあるだろ?それ使えば問題ねぇじゃん?」
凪:「……痛いぞ」
自分の背中も、懐も、痛い。今の凪の口から出るものは溜め息しか無かった。
そんなこととは露知らず。虎王丸は空に向かってぐぐーっと伸びをして叫んだ。
虎王丸:「今日もいっぱい動いたしっ!!いっぱい飯食うぜっ!!!」
今日も今日とて凪の気苦労と虎王丸の欲求は絶えないのであった。
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■ライター通信■
はじめまして、こんにちは!今回執筆を担当させていただきました
月波龍といいます。ご依頼ありがとうございました!そして、お届け
するのが遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。
カッコ良いお二人をどのように活躍させるか、悩みに悩んでこのよ
うな展開にさせていただきました。少しでも気に入ってくだされば嬉
しく思います。
また機会がありましたらよろしくお願いします。
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