<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


護衛承ります 〜盗賊王ゾールの墓所 後編〜


 真ん中に凪とソルティア、そして前後を虎王丸とジェイで固め、一行は墓所の最奥にあるという宝物庫を目指す。
 先頭で虎王丸が掲げるランタンの光は、濡れた壁にてらてらと反射している。
 自然に出来た地下水路の跡を利用しているので、道が不規則かつ長かった。一体道がどこに宝物庫があるのか予想がつかない。
「とりあえず、一番奥まで行けばいいんだと思うぜ。……ロティーナの言葉を信じるならな」
 時々後ろを振り返りながら、ジェイが言う。先ほど遭遇したゾンビが追ってくるのではないかと少々不安らしい。
「そりゃ俺もロティーナの言葉を信じるけどよ、この道はどこまで続くんだよ……」
 いささかうんざりした様子で虎王丸が唸る。
「ソルティアさん、大丈夫ですか?」
「……うん」
 ゾンビと遭遇して以来青い顔をしているソルティアを気遣う凪。
 そして虎王丸は、そんな凪を見て顔をしかめる。
 ――再び訪れる沈黙。
 地下の暗闇にいると時間の感覚が薄れてくる。それに加えてたまに訪れる沈黙が、時間を薄く長く引き伸ばしているように思えた。
「ゾールって……」
 暗闇と沈黙に耐えかね、凪が誰にでもなく口を開いた。
「ゾールって、よっぽど部下たちに好かれてたのかな」
「……どうして、そう思うんだい?」
 はっとして凪を見るソルティア。その瞳は、色々な感情がない交ぜになって揺れている。
「中は地下水路跡を利用したものでも、入り口や階段はかなり手間をかけて作られていました。それに腐っても盗賊なんです、財宝をそのまま墓に収めるなんていうことは、普通しないでしょう?」
「ま、本当に財宝があるのかは分かったもんじゃねぇけどな」
 虎王丸が話の腰を折るが、凪もソルティアも気にした様子はない。
「そういや、ここにはどうしてゾンビがいたんだろうな?」
「そりゃあ、財宝を盗まれないようにゾールの部下たちが配置したんじゃねぇのか?」
「……虎王丸よぉ。お前、一介の盗賊がゾンビなんか作れると思ってんのか?」
 ジェイに馬鹿にするような目で見られ、虎王丸はムッとしてジェイを睨んだ。
「ゾンビを作るっていやぁ魔術師か吸血鬼、ってのが常識だろーが」
「常識知らずで悪かったな」
 虎王丸とジェイが口喧嘩を始めると、凪は内心ほっとした。
 ――ありていに言えば、恐怖心が和らぐのだ。
 ソルティアほどゾンビに対して敏感に反応はしないが、やはり人の死体が腐敗してもなお動いているのかと思うと、少なからず嫌悪感や恐怖感を抱くものだ。
 一行は最奥に眠る財宝を求め、ひたすら歩を進めた。



 + + +



 墓所に下りてからどれほどの時間が経っただろう。暗闇を歩く彼らは、完全に時間の感覚を失っていた。
 暗く長い道を歩いているうちに、彼らはすっかり疲弊してしまった。肉体的にではなく、精神的に。
「あー、くそっ! 一体どこまで行きゃいいんだ!?」
 最初に立ち止まったのは先頭を行く虎王丸だった。目の前に憎い奴がいるとでもいうように拳を握り、溜まりに溜ったイライラをどこかに開放せんと辺りを見回す。
 当たり前ではあるが、岩壁と仲間しかいない。
 ――仕方なく、ガツンと壁に一撃をくれる。むろん壁は固く、時間が経つにつれ拳はズキズキと痛んできた。蹴りにすればよかったと思っても、後の祭りだった。
「えーと……」
 凪も立ち止まる。あとどれだけ歩けばいいのかと考えると、気が遠くなった。
 ため息のひとつでも吐きたいところだが、ゾールの墓所を探検場所に選んだのは彼自身なのだ。そんなことをしたら、岩壁の代わりに殴られかねない。
「ちょっとこの辺りで、腹ごしらえをしませんか。満腹になれば、多少は落ち着くと思うんですが」
「そりゃいい案だ。ついでに温かいモンを食えりゃ文句ねぇな」
「煙で窒息死をご所望なら、熱いお茶から闇鍋までご用意しますよ?」
 冷えた指先を揉むジェイの言葉に、凪はにっこりと笑って答える。……ただし、目は全く笑っていないが。
「冗談だろうが、冗談! 場を和ませようとしただけだっつの!」
 ぶつぶつ言いながら、腹ごしらえをするために腰を下ろす。辺り一面じっとりと湿っているので、尻を濡らさないためにバッグを椅子代わりにした。
 虎王丸も座ってランタンを地面に置き、懐から保存食を取り出す。
 そして、ちらりと横を見た。
 ソルティアだけは座らず、闇に閉ざされた墓所の奥をじっと見つめているのだ。
 彼はまだソルティアのことを疑っているので優しい言葉をかけるつもりもなかったが、そうして立っていられると落ち着かなかった。
 舌打ちして睨みをきかせると、ソルティアは虎王丸の考えを察したようで、三人から少し離れたところに腰を下ろした。
「ソルティアさんは食事をとらないんですか?」
「あぁ……うん。いらないよ」
「食料を切らしているのでしたら、お分けしますよ」
 保存食を差し出す凪を見て、ソルティアはふっと微笑む。
 その微笑みは、どこか悲しそうでもあった。
「いや、一身上の都合で食べれないんだ。……気遣ってくれてありがとう」
「? そうですか……」
 宗教の関係で断食でもしているのかなと思いつつ、凪は保存食をしまう。
 一行は簡単な食事を済ませると、再び道を進んだ。
 そして……虎王丸が再びイライラし始めた頃、進行方向に見える闇の性質が、少し変わった気がした。
 そう、まるで黒光りする鉄のような……。
「――扉だ!」
 思わず虎王丸が駆け出す。
 ……自分がランタンを持っているということを忘れているのだろう。彼が走り去ると、取り残された三人は足元が見えなくなってしまった。足元は水流で削れて凹凸だらけだというのに、これでは危険でろくに進むことも出来ない。
 手探りで、凪が神機の取り付けライトを点灯した。
 虎王丸は重そうな観音扉の前に立ち、太い閂を外そうと奮闘していた。
 閂と、扉の両側についた鍵穴。それらが扉を固く閉ざしているようだ。
「鍵のほうは俺に任せろ。本職じゃねぇからちょっと時間かかるかもしれねぇけど」
 ジェイはピンのようなものを二本取り出すと、先端を折り曲げて鍵穴に差し込む。しばらくピンをぐりぐりと回したり押し付けたりしていたが、顔をしかめて新しいピンを取り出した。
 どうやら鍵穴が錆びていて、面倒なことになっているらしい。
 することのない凪は――虎王丸の手伝いをしようものなら、馬鹿にするなと噛み付かれそうな気がしたのだ――、扉の様子を冷静に観察する。
 扉の高さは四メートルほともあり、横幅も三メートルはあるだろう。
 材質は黒っぽい金属。赤錆が浮いていないので、おそらく鉄ではない。
 模様はなく、まるで調理用の鉄板のようだった。進入を阻めればいい、という作り手の意思がひしひしと伝わってくる。
 それがただの鉄板ではないと分かるのは、取手と鍵穴、そして閂があるからだ。
 ――閂?
「……なんで外側に閂があるんでしょう? これではまるで――」
「――中に、何かを閉じ込めているみたい?」
 ソリティアに言葉を継がれ、凪ははっとした。
 ――まただ。
 また、ソリティアの瞳が悲しそうに揺れている。
 凪はソルティアを信用していたが、全く疑っていないわけでもなかった。
 ゾンビにあそこまで過敏に反応するのはなぜだ?
 悲しそうに微笑むのはなぜだ?
 キンっという小気味のいい音をたて、扉は開錠された。
「よっしゃ、ついにお宝とご対面だ!」
 既に閂を外した虎王丸は、鼻息荒く扉を押し開ける。
 ――扉の先は、これまで歩いてきた道とは違い、きちんと石畳で舗装してあった。なかなかに広い部屋のようで、虎王丸のランタンでは中の様子がほとんど分からない。
 凪が壁伝いに歩いていると、立派な燭台を発見した。ライトで先のほうを照らしてみると、さらに複数の燭台を発見した。
「虎王丸、蝋燭に火をつけてくれないか」
「おう」
 虎王丸が白焔で燭台の炎を灯していくと、次第に部屋の全貌が明らかになってきた。
 揺らめくいくつもの蝋燭に照らされ、整然と並べられた剣や斧、盾などがキラキラと煌めく。
 そして、部屋の奥には黒地に金で模様を施された棺桶があった。にもかかわらず、不思議なことに霊廟独特のすえた臭いはしない。地下という通気性の悪い空間なのだから、もっと空気が悪くて当然だと思うのだが……。
「うおー、こりゃすげぇな!」
 立派な武器に囲まれ、虎王丸はうきうきと物色し始めた。報酬になるのでジェイも武器を眺めているが、ナイフはないのであまり気が進まないようだ。
 武器を扱うのがあまり得意ではない凪は、武器よりも棺桶の方が気になるようだった。
 金で施された、魔法陣にも似た美しい模様。
 近付いて、棺桶の蓋が半分ほど開いていることに気がついた。
 そして、愕然とする。
 棺桶の中に横たわる人物は、まったく腐敗していなかった。虎王丸の首に巻かれたそれと似た金鎖に戒められつつも、安らかな表情を浮かべている。
 しかし、凪が驚いたのはそこではないのだ。
 黒髪に白い肌。そして、唇だけが妙に鮮やかなその顔。
 そこに眠っていたのは――。
「……ソルティアさん……?」
 凪は思わず扉の方を振り返った。彼らと一緒にここまできたソルティアは、たしかにそこに立っていた。あの悲しそうな微笑を浮かべ、三人の様子を扉のそばから見守っている。
「ソルティアさん、あなたは一体……誰なんですか?」
 凪の緊張した声に違和感を感じた虎王丸とジェイは、武器の物色をやめて凪に近付いた。そして、棺桶の中を見て同じように驚愕した。
「言ったでしょ、私はソルティア。ソルティア・ゾールだよ」
「えぇっ!」
 三人の声が綺麗に重なった。
「いや、でも……」
 虎王丸が棺桶に書かれた『ソルティア・ゾール』という文字を見ながら口を開く。
「お前が盗賊王だとして、この棺桶の中の奴は何なんだ? それに、ウィンダーなのに何で200年も生きてんだ?」
「……昔話を聞いてくれるかい?」
 ソルティアは扉の前にずるずると座り込む。それはまるで、外から扉が開かれるのを恐れているかのように見えた。



 + + +



 二百年ほど前に巷を騒がせていた盗賊団の女頭。
 その名を、ソルティア・ゾールといった。
 彼女は金銀財宝より、優れた武具を好んで盗んだという。
 ゾールは戦いのエキスパートでもあった。武器は一通り使え、魔力が封じ込まれた魔剣を用いての魔法も使えた。
 彼女は盗賊団の女頭だったが、自ら盗賊団を立ち上げたというわけではない。彼女を慕う盗賊がどんどん集まり、やがて大きな盗賊団となるに至ったのだった。
 よほど大きな獲物を狙うとき以外は団体行動をしなかったが、まるで家族のようなとても仲のいい団員だった。


 ある日、彼女のアジトを飢えた吸血鬼が急襲した。
 数十人の部下がゾンビに、そして、なぜか彼女だけが吸血鬼へと変化した。
 ゾールは仕事を終えてアジトに帰ってきた部下たちに、墓所を作るように頼んだ。そしてゾンビとなった部下たちとゾールを殺し、墓所に埋めるようにと言った。
 ゾールは吸血鬼となった自分を嫌悪していたのだ。
 だが部下たちは、すでにモンスターとなってしまった者たちはいざ知らず、以前と変わらぬ自我が残っているゾールを殺すことを拒否した。
 こうして、ゾールは墓所の最奥に封印されることになったのだ。


 封じられて百年ほど経ち、生きていた部下たちもみな死に絶え、ゾールの親しい人物がいなくなった頃。
 ゾンビと化した部下たちが再び墓から起き上がり、墓所の中を徘徊し始めた。その姿を見ているとどうしようもなく胸が締め付けられ、どうにかして彼らを永眠させてやろうと決心する。彼女は何十年もかけて封印を薄れさせ、自らの分身を封印の間から出すことに成功した。
 棺桶の周りに並べてあった武器を手に取りゾンビたちを倒した。だがゾンビは何度でも起き上がり、やがて彼女はゾンビを恐怖するようになる。
 盗掘に訪れた者たちにゾンビを鎮めてもらおうと思ったが、彼らがゾンビを完膚なきまでに倒そうとも、ゾンビが完全に鎮まることはなかった。
 盗賊王ソルティア・ゾールは、暗い墓所の狭い棺桶の中で絶望した。



 + + +



 まさかと思いながらも、虎王丸はソルティアをもう一度見直さずにはいられなかった。
「お前が本物の盗賊王なのか?」
「正しくは、私はただの分身。物理的な肉体を伴った――棺桶の中で眠るソルティアの夢にすぎない」
 ソルティアは棺桶の中の自分が握る虹色の刃を指差した。
 それは和槍の穂だった。表面を油膜のように揺らめく虹色が漂う、怪しげな刃。
「夢見の槍。それのおかげで私はここにいることができるんだ。ゾンビを永久に鎮めてくれる人を探すために。……ねぇ、ゾンビたちを鎮めてくれないか? そうしたら、ここにあるもの全てをあげたって構わないよ」
「もちろん、ゾンビを鎮めるのには協力させていただきます。ですが……ソルティアさんが何度倒しても駄目だったのに、俺たちが簡単に鎮められるとも思いません」
「……それもそうだね」
 凪の言葉に、ソルティアは悲しそうにため息をつく。
 彼女の悲しみは、いつ終焉を迎えるのだろうか。
 ――四人が押し黙ってしまうと、またあの不吉な音が聞こえてきた。
 湿ったものたちが、ずるりと這いずる音。
 ソルティアは体を硬直させるとぎこちない動きで立ち上がり、三人の近くまで移動した。
 ぎぃぃと、錆びた蝶番が大きくないた。
 蝋燭の光の中に現れたのは、先ほど遭遇したゾンビの一団だった。……ソルティアの部下たちの、なれの果てである。
「くそっ、とりあえず倒すしかねぇよな!?」
 二十体ほどのゾンビを目の前に、虎王丸は火之鬼を抜き放った。
「ふふっ、威勢がいいな。せいぜい抵抗して、私を楽しませてくれ」
 そして、ゾンビの後ろから現れた一人の男。白い肌に黒い髪、赤い唇。
 その男は、まるで――。
「お前は、アジトを襲った吸血鬼……ッ!」
 それまで青い顔で震えていたソルティアが、爆発せんばかりの怒りを表情に表した。
 この男に血を吸われたせいで部下たちはゾンビとなり、ソルティアは吸血鬼になってしまったのだ。
「覚えていてもらえたとは光栄至極」
 おどけた様子で吸血鬼が一礼する。
 ソルティアが、その翼でゾンビたちの頭上を飛び越えた。そして、固く握ったハンマーを吸血鬼に向けて振り上げる。
「俺たちはどうする? ゾンビを倒しても、何度も起き上がるんだろ!?」
「……吸血鬼を倒せば、その配下であるゾンビも消滅するかもしれない」
「よっしゃ。ゾンビを牽制しながら吸血鬼退治だな!」
 言うが早いか、爛々と目を光らせながら虎王丸が飛び出した。舞術を使う凪を庇うように白銀の刃を走らせつつ、吸血鬼を目指す。
 ジェイは右手に一本、左手に二本のナイフを持ち、状況に応じて切りつけたり投げたりして対応する。
 ソルティアのハンマーは吸血鬼の頭をとらえ、粉砕したように見えた。だが、吸血鬼はソルティアの必至さを嘲るように無数の蝙蝠へと姿を転じ、宝物庫の高い天井へと舞い上がった。歯噛みしながらソルティアも後を追う。
「蝙蝠なんて面倒なモンになりやがって、この腐れ野郎が!」
 毒づきながらゾンビを一蹴し、刃に白焔を込め始める。
「ったく、ナイフを当てにくいったらありゃしねぇ」
 ジェイは文句を言いながら襲来する蝙蝠にナイフを投げるが、その九割以上は蝙蝠を貫いている。武器の本数に限りがあるのは弱点だが、一度貫かれた蝙蝠は二度と起き上がることがなかった。
「……いくよ!」
 長い間舞っていた凪が、ついに『灰燼緋祭』を発動させる。
 彼が見据えた相手に向かって手を払うと、その体から煙と、真紅の炎が上がった。
『……厄介な術だな』
 一匹の蝙蝠が凪の肩にとまる。その位置で炎を放とうものなら、凪自身にも炎が燃え移るだろう。
「動くなよ!」
 虎王丸はそう叫ぶと、凪の首筋に歯をたてようとしている蝙蝠に鋭い突きを繰り出した。
 耳元で風を切る音がして凪は思わず目をつぶる。
「……俺の耳、ついてるよね?」
「安心しろ、象みてぇに立派な耳がついてるぜ」
「それは何より」
 ゾンビが全て倒されると、吸血鬼は再び人型に戻った。蝙蝠を倒されかなり消耗したのだろう、よろよろと部屋の奥に後ずさる。
 四人は武器を手にじりじりと包囲網を縮め、ソルティアが吸血鬼にとどめを刺すのを待った。
 200年恨み続けた仇をとるのはソルティアだと、全員が分かっているのだ。
「あんた、最低の野郎だった」
「……それは……光栄だ」
「あの世で、私の部下たちにちゃんと謝っとくれよ」
 後ずさっていた吸血鬼の足がついに止まった。そして、にやりと笑む。
 ソルティアのハンマーが渾身の力を込めて振り下ろされる。
 吸血鬼と、その背後にある棺桶に向けて――。



 + + +



 その日、二人の吸血鬼と多数のゾンビがこの世を去った。
 それを目撃した三人の冒険者は手に新たな武器を携え、エルザードの護衛屋【獅子奮迅】に帰還した。
 護衛屋の面々は三人を温かく迎えたが、肝心の三人は浮かない顔をしている。
「ちょっと何よ、お目当ての武器は入手できたんだよね? もっと喜んでもいいでしょ」
 当惑した顔でロティーナが言うが、依然三人は暗いままだ。
「そうか……ソリティアが逝ったんだね」
 突然、ヴィルダムがそう言った。
 ジェイが目を丸くして問い返す。
「ヴィルダム、お前……ソルティアがどうなってるか知ってたのか?」
「まぁね」
 ――なら何で、ソルティアを助けてやらなかったんだ! 彼女は200年もの間、暗い闇の中、孤独にさいなまれつつ苦しんだというのに!
 ジェイはそう叫びたかったが、ヴィルダムの答えが薄々予想できたので口をつぐんだ。
 つまり――。
 ――なんで僕が、他人のために危険を冒さなきゃならないんだい?
 という答えだ。


 虎王丸と凪はジェイと別れて護衛屋を出ると、宿に向かってぶらぶらと歩き出した。
 虎王丸の懐で布に包まれている虹色の穂は、まだソルティアのぬくもりが残っているように感じられた。
 それは錯覚だろうが、そう思うと少し心が慰められる気がしたのだ。
「なぁ、虎王丸」
「……何だ?」
 いつもとは違い、勢いのない声で返事をする虎王丸。
「今晩はおでんにしよう。卵に昆布、チクワにハンペン……」
「エルザードのどこに、練り物が売ってるんだよ」
「がんばって探せばあると思う。……なかったら自力で作るとか、どう?」
「俺は練り物の作り方なんてしらねぇぞ?」
「うん、俺も」
 真面目に頷く凪の様子が、虎王丸はなぜか無性に面白かった。
 凪に寄りかかるように肩を組み、近くの酒屋へ進路を変えた。
「じゃあ酒を買って帰ろうぜ」
「……一応言っとくけど、虎王丸も俺も未成年だぞ」
「どーだっていいだろ、そんなの」
 通りの正面から差し込む夕日が、茜色の光で二人の影を長く永く引き伸ばす。
 間もなく夜の帳が下りてくる。それは確かに暗いだろうが、無数の星に見守られているのだから、孤独など感じない。
 二人で歩いていれば、なおさらだ。


 少年たちは寄り添ったまま、人ごみに紛れて消えた。
















入手アイテム:夢見の槍
効果:念じることにより、使用者の分身を一体作り出すことが出来る。分身自身に自我はなく、使用者が常に念じていなければ分身が活動することはない。よって、本体と分身の両方を動かすのはかなりの訓練が必要。槍としての攻撃力は一般的なものと大差ない。完全ではないが、魔法を弾く効果がある。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【1070/虎王丸/男性/16歳(実年齢16歳)/火炎剣士】
【2303/蒼柳・凪/男性/15歳(実年齢15歳)/舞術師】


NPC
【デリンジャー/男性/47歳/護衛屋(所長)】
【ジェイ/男性/23歳/護衛屋(次期所長)】
【ロティーナ/女性/17歳/護衛屋(情報収集班班長)】
【ヴィルダム/男性/584歳/護衛屋(魔術班班長)】
【ソルティア・ゾール】
【古の吸血鬼】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、糀谷みそです。
これで『盗賊王ゾールの墓所』は完結となります。
お付き合いありがとうございました!

納品が大変遅くなり、申し訳ありませんでした……!
ソルティアの正体やら何やらを詰め込んだら、ぎゅうぎゅうで消化不良な感じになっていましました(^_^;)
今回は虎王丸さんが魔法的効果のついた槍を入手しましたが、使いどころが少なそうでもあります。
分身云々の効果は、凪さんが使用したほうが上手く利用できるかなぁと思ったりしますが……いかがでしょう。
あ、『夢見の槍』はただの穂なので、柄をつけないと武器として使用できません(笑)。

ご意見、ご感想がありましたら、ぜひともお寄せください。
これ以後の参考、糧にさせていただきます。
少しでもお楽しみいただけることを願って。