<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


勇者様、ご来村〜!

 その村は呪われている。
 何1つ、自らの力で新しい物を生み出すことが出来ず、村周辺から外へ行くことも出来ない。
 そんな村バローンに、ある日。1人の冒険者がやってきた。
 これは、10日間限りの勇者様となった青い髪の少年と、村人達の物語。

○1日目
「うん、分かった。いいよ」
 村人達に囲まれ、『勇者様この村をお助けください。どうかお願ぇしますだ』と懇願された少年、湖泉・遼介(こいずみ・りょうすけ)は、あっさりと頷いた。
「ありがとうございます、勇者様!」
「そう呼ばれるのも悪くないしさ」
 村の呪いを全く受けない唯一の存在。それは、村の外からやってきた人間で、尚且つ旅人でなければならないらしい。あちこちを旅している人だけが何故か、この村に自由に出入りができる。
「じゃあ、旅人じゃない人が一度この村に来たら、どうなるんだ?」
「わしがその1人ですが」
 頭にねじりターバンを巻いた男が、前に進み出た。
「隣町、ラングルから来やした、ランってぇ言います。前からバローンには時々邪魔して、いろいろ作っていやしたんですが、呪われてから来たときには、もうさっぱりでやして」
「つまりもう、勇者様にしかおすがりするより他、ないわけでございます」
 もう老域にある村長が、うるうるした目で訴えると、他の皆も頷いた。
「じゃ、やれることを考えてみるからさ。村の人達のこと、紹介してくれないか?」

○2日目
 前日、村人全員を紹介してもらった遼介は、小さい村の中でも外れのほうに住んでいる老人、マドゥの家を訪ねていた。
 魔道具作成を職としている彼に、ヴィジョン使いである遼介は幾つかのヴィジョン能力を、村の為に役立ててもらおうと考えたのである。しかし。
「残念じゃが、わしは超常魔道士ではないのだよ。マテリアル・クリエイターでな」
 申し訳なさそうに、マドゥはそう告げた。
「確かに、お前さんの持つ能力を、カードに封じ込めることが出来れば、とは思うが、わしにはそんな力は無い」
「それじゃ、魔法道具を作る材料とかは?」
「それも残念じゃが、切らしておる。宝石も、神木も・・・・」
「そっか。村を守るのに役立つ、って思ったんだけどな〜。幻影とか結構いいと思うんだけど、仕方ないか」
「すまんのぅ」
 すっかり眉も目も下がってしまって、心底すまなそうにしているマドゥに、遼介は笑って手を振った。
「気にすんなよ。マドゥさんの能力で何か出来ないか、他に考えてみるからさ。マドゥさんも考えてみて、もし俺に出来そうだというのが思いついたら、いつでも言ってよ」
 孫を見るかのように目を細めて頷くマドゥ。
 しかし遼介は、既に次の策を考えていた。

○3日目
 その日遼介は、自分腕の長さほどの大きな紙を持って、村中をうろうろとしていた。その紙は村と周辺の簡素な地図が描かれており、遼介がびっしりと書いたメモが、その周りに付け加えられている。それを見ながら彼は村の中をチェックしているのだった。
「勇者さまぁ〜〜」
 村長の粗末な家から1人の娘が出てきて、遼介に向かって大きく手を振った。村長の孫娘、ミィである。
「何か、お探しですか?」
 長い髪をおさげにして小首を傾げる彼女だが、歳は20歳頃のように見える。声を掛けられて、遼介は頷いた。
「隣町まで行こうと思って」
「え、もう帰っちゃうんですか?」
 驚く彼女に、笑ってメモ書きを見せる。
「今、村にある物とか必要な物とか、いろいろ聞いたんだけど、あんたは何かいるものある?」
「え、あ、私ですか・・・・?そう、ですね・・・・」
 村として欲しいものは沢山ありますけれど、と言ってから、ミィは連なる山の峰を見つめた。頂にかかる雲以外に、青い空を覆うものは何一つ無い。
「・・・・人が。人が、足りないんです」
 そして、ぽつりと彼女は呟いた。
「そうだな。村の人、半分位いないんだろ?炉とかも煤かぶってたし、あれって鍛冶屋の家じゃないのか?」
 遼介が指した先の家は、確かに空家だった。しかし、村の半分近くの粗末な家も同じように、住む者がいない。
「えぇ、そうです。鍛冶師のジートンさん。元々は隣町の人で、5年前に村に移り住んでくれた人なんです」
「やっぱり、帰ってこない村人の話は、聞いてこなきゃ駄目だろうな。・・・・んー、名前はリストにしてもらったけど」
「これから冬になりますから、畑のことも心配です。放っておかれてる所が幾つかありますから。でも、人が来たらそれだけ食べ物が早く無くなりますし・・・・」
「あ、勇者さま〜」
 舗装もされていない道の真ん中で話す2人に、村人が気付いて近付いてきた。
「言われてました馬車ですけど、他の馬も馬車もみんな、隣町に行った連中が乗って行ってしまってまして。残ってたのが、もう若くないヤツと、1頭立ての馬車のみで・・・・」
「いいよ。木材1軒分しか載せないし。村人が見つかったら、乗ってった馬車で帰ればいいし、村人じゃない人でも、そんなに沢山連れては帰らないだろうしな」
 行動の早い遼介に驚いたのか、ミィは目を丸くして彼を見つめている。
「ですけど、普段使わない馬車でしたんで、ランさんに壊れた所が無いか見てもらってるんです。今日中に村を出るのはちょっと、無理かもですけど」
「分かった。・・・・えーと、必要な物は『食料、人、防寒用の服』。服のまま買うと高いだろ?生地から仕立てないと」
「新しく縫うことが出来ないので・・・・」
「そっか」
 結局、基本的な事が足りていないのだ。じきに冬が来る。それに対する備えが全く出来ていない。
「今は木材が余ってるみたいだから、これを売って、買えるものを買っておこう。俺も冬まで居ることは出来ないし」
「あれ・・・・。父が、申しておりませんでしたか?」
 驚いたようなミィの言葉に、遼介は振り返った。
「前の旅人の方は、自分から村をお出になったわけではないのです。10日後、突然村から外に弾き飛ばされてしまったのです」
「いきなり呪われた?」
「多分・・・・勇者様には、時間制限があるのだと思います。その後、何度か村に入ろうとして下さいましたが、結局無理でしたから・・・・」
 ならば、尚更のんびりしているわけには行かないだろう。遼介は、大工のランと馬車のある場所へ急ぎ、村人達と協力して木材を載せる。今から出れば、何とか夜がとっぷり更ける前には森を出ることが出来るはずだ。
 遼介は急ぎ、馬を走らせた。

○5日目
 馬車は昼前には、隣町ラングルに着いた。
 祭りの町と言うだけあって、町のあちこちで屋台の準備が行われている。そんな慌しい中を遼介は馬車を駆って進み、木材を売って金に換えた。そしてそのまま、『必要な物リスト』を見ながら買物を進める。しかし、家1軒分の木材を売った程度の金銭では、全てを揃えることは出来ないだろうと思われた。
 遼介は、あちこち店を回って商品の値段などをチェックしつつ、ついでに村人達の情報を集めることにした。
「え・・バローンからいらっしゃったんですか?」
 町人達は、誰もが驚きの声を口にする。どうやらラングルでも、村へ向かう人が何人も辿り着けずに戻ってきているので、多少騒ぎになっているらしい。遼介は、呪われている事など村の現在の状況を説明し、町人達はいつの間にか彼の周りに集まって、熱心に話を聞いた。
「バローンの者なら、何人かはここに残っています」
 やがて1人がそう告げた。
「後の者は、別の町へ行ってしまったとか・・。今度、村から誰かやって来るまでに、彼らのことは探しておきますよ」
「じゃあ、残ってる村の人の所へ案内してもらってもいいですか?」
「勿論だとも」
 村人達は、町の一角で祭りの準備を手伝いながら日々暮らしているらしい。遼介と町人達が訪れたとき、彼らは涙を流して喜んだ。
「ラングルを出て行った奴らは、村の呪いを解く、って言ってたヤツもいたけど、村に戻りたくない、ってヤツもいた。・・前に一回、旅人が来たとき、村に戻ったらもう出れない、って聞いて嫌になったみたいだ」
「とにかく、ゆっくりして行きなさい。私は、『小祭通り』の世話役だ。我が家で部屋を用意しよう。泊まって行かれるといい」
「じゃ、お世話になります」
 どちらにしても買物はまだ終わっていないし、連れて帰る村人達の支度もあるだろう。その日、遼介はその家に泊まることになった。

○8日目
 結局、遼介と5人の村人がバローンに戻ってきた。その中には仕立屋もいて、沢山の毛織物と毛皮を持ち帰っている。
 遼介は言われた通り、塩漬けや干した果物、魚、肉と、村にはない果物や野菜の種を大量に買ってきていた。又、村の食事情を考え、町で様々なレシピを教えてもらい、メモをしていた。最も、そのレシピが役立つにはもう少し、村にある食材の種類が必要だろう。
「この種は秋蒔き。こっちは冬前。んで、これは春な」
 種の種類と教えてもらった育成方法を告げると、次は村人達の防寒具作りだ。とにかく、沢山の枚数の作りかけを指示しておけば、自分がいなくなっても仕立屋が後は仕上げてくれる。
 遼介は2日間、ばたばたと走って過ごした。

○10日目
 そして、最後の日の朝がやって来た。
 皆が見送る中、遼介は荷物を持ち村の出口へと向かう。
「・・勇者様。助かりました。本当に・・ありがとうございました」
 村長が深々と礼をすると、皆も頭も下げる。
「もっと時間があれば、いろいろ出来たんだけどさ。中途半端でごめんな」
「とんでもない。勇者様がお越し下さらなければ、我らはこの冬を越すことも出来なかったでしょう」
「・・今度、誰かが来るまでにさ。この呪いの原因に心当たりが無いか、よく考えておきなよ。それで、人が呼べそうな、観光が出来そうな場所とか、遺跡とかないか、とかさ。今は無理かもしれないけど。でも、いつか」
 呪いが弱まって、もしかしたら、旅人以外でもここを訪れることが出来るようになるかもしれないから。

 青い髪の勇者が、何度も村へと手を振りながら、朝日の昇る方角へと帰って行く。
 そうして、1人の勇者が村を去った。

 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1856/ 湖泉・遼介 (こいずみ・りょうすけ)/男/15歳/ヴィジョン使い・武道家

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■         ライター通信          ■
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来村、ありがとうございます。史穂君虎でございます。
文字数の関係上、足早な展開となってしまい、申し訳ありません。
マドゥに関しましては、以上の通りです。
次回がもしございましたら、お会いできれば幸いです。
それでは。