<PCクエストノベル(3人)>
それぞれの思惑 ―封魔剣ヴァングラム―
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【冒険者一覧】
【1070 / 虎王丸 / 火炎剣士】
【1559 / クラウディス / 旅人】
【1859 / 湖泉遼介 / ヴィジョン使い・武道家】
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封魔剣ヴァングラム――
強力な魔物が封じられているその剣は、剣としては恐ろしいほど性能がいい。刃こぼれすることはなく、魔法さえも切り裂くという。
しかし、精神力が弱い者は剣の魔物に取り憑かれてしまい、自ら魔物になってしまう。
――逆に魔物を支配すれば、剣から魔物を呼び出し使役することも可能だという。
虎王丸:「へえ、その伝説のヴァングラムがあの遺跡にあるってのか?」
虎王丸は行きつけの冒険者の酒場でその話を聞き、大いに興味を持った。
虎王丸:「封魔剣か。そりゃいいや、取りにいってやるかな」
やる気まんまんで宿屋で旅支度を始める虎王丸――
と、宿の部屋から出ようとしたそこへ。
遼介:「久しぶりー」
虎王丸にとっては見たくもない顔が、目の前ににっこにっこしながら立っていた。
虎王丸は無視した。しかし、
遼介:「ひ・さ・し・ぶ・り!」
虎王丸の前にわざわざ回りこんで、湖泉遼介は虎王丸の顔を覗き込む。
虎王丸:「うるせってんだよ!」
虎王丸は犬歯を見せてうなった。このあたり、霊獣人の迫力がある。
しかし、遼介はひょうひょうとした顔で、
遼介:「あんたがさあ、封魔剣ヴァングラムを取りに行くっていう噂聞いてさあ」
虎王丸:「そんな噂は嘘だ」
遼介:「じゃ、その旅支度はなに」
虎王丸:「たまにはひとりで誰もいないところへ行ってたそがれてみたくなったんだよ」
遼介:「うっわー似合わねー!」
虎王丸:「ほっとけ!」
遼介のことはあくまで放っておいて、虎王丸は宿屋から出ようとした。
しかし、また目の前に誰かがいて前に進めなかった。
虎王丸:「誰だお前!」
虎王丸が怒鳴りつけた相手、水色の髪をした十二歳ほどの少年は、「遼介をさがしにきましたー」とあっけらかんと言った。
虎王丸はえたりと遼介を振り返った。
虎王丸:「迎えだってよ。ほら、行っちまえ行っちまえ」
遼介は嫌な顔をした。
遼介:「クラウディス……お前なんだってこんなところまでついてくんだよ。俺は今からこっちのやつと遺跡探検だよ」
虎王丸:「何決定事項みたいな言い方してやがんだ!」
遼介:「え、だって決定だろ?」
虎王丸:「いつ決まったんだよ!」
クラウディス:「えー、遼介遺跡探検に行くのか?」
子供に見えて実は何百年と生きている、自動人形【ドール】であるクラウディスはすぐさまくらいついてきた。彼はずっと昔に『マスター』をなくして以来、新しい『マスター』をさがしており、今のところ遼介がその第一候補なのだ。
クラウディス:「遼介の行くところ俺あり! 俺もついてく!」
げっ、と虎王丸が目をむいた。
虎王丸:「まじかよ!?」
クラウディス:「まじ」
遼介:「いい加減にしろよクラウディス。お前邪魔」
クラウディス:「えー、だって俺遼介の役に立つぜ? 絶対」
遼介:「存在自体が邪魔だ!」
虎王丸:「そりゃお前のことだ!」
宿の廊下で三人、かけあい漫才をやっていると、
宿の人:「すみません、他のお客様のご迷惑になりますので……」
……宿の人にたしなめられてしまった。
虎王丸:「……くそっ」
虎王丸は吐き捨てた。
虎王丸:「ついてくるなら勝手にしやがれ!」
遼介:「よーっしゃ!」
クラウディス:「やったな遼介! やったな俺!」
遼介:「だからお前はいらん!」
虎王丸の腹の底はと言えば、簡単なこと。ついてくるならこのふたりをこき使ってやろうという魂胆だ。
遼介としては、単に面白がっているだけ。前々から一緒に旅をしてみたかった虎王丸が一緒だということで、魔剣については面白いものならいーなーと気楽に考えている。
ついでに言うなら、クラウディスがついてくるならクラウディスの『マスター候補』が自分から虎王丸にうつってくれないかなと淡い期待を抱いていた。
クラウディスは――
やはり虎王丸が自分の『マスター』になりうるかと観察するのを忘れなかったが――
遺跡につき、まず最初に誰が先頭に立つかでもめた。
虎王丸:「おら、お前らどっちか先に行け」
遼介:「なに、虎王丸怖がってんの?」
虎王丸:「ばか言え、遺跡探検ってのは背後が肝心なんだよ。危ない背後を俺様が守ってやろうってんだよ」
クラウディス:「でも遺跡はトラップがあるから、先頭が一番危ないと思うけどなあ……」
虎王丸:「いいからお前ら行け!」
虎王丸はクラウディスに腹の中を読まれたような気がして、思わず怒鳴りつけた。
そう、彼はやっぱり単にトラップよけにふたりを先に行かせたかっただけなのだ。
遼介:「じゃ、まあ俺先に行くなー」
遼介が軽い口調で決め、歩き出す。
虎王丸が偉そうな態度で、
虎王丸:「よーし。じゃあ俺様は最後尾につくからな」
クラウディス:「置いてかれないようにしろよー」
虎王丸:「うるせ! それは先に行くお前らが気をつければいいこった!」
虎王丸は非常に理不尽なことを言った。
クラウディス:「けっ。むちゃくちゃでやんの」
クラウディスは頭の後ろで手を組みながら、とととっと遼介の後ろについた。
遺跡が奥まってくると、少しずつ暗さが増していく。――入り口から入ってくる陽光がなくなるためだ。
幸い虎王丸がたいまつを持ってきていたので、それに火をつけ、遼介が持った。
照らし出された遺跡は、どうやらほぼ天然に近い造りだ。周囲の岩場をうまく利用して穴を掘った、という感じである。
遼介:「奥に剣が奉納されてるとか……安直すぎかな?」
クラウディス:「一本道だからとりあえず奥に行っときゃいいんじゃない」
虎王丸:「うらうら、行けっ」
虎王丸に後ろからせかされて、しょうがないなーと遼介が足早に歩き出す。
と。
奥から獣のうなり声が聞こえてきた。
遼介:「魔物か……?」
クラウディス:「まあ、いてもおかしくないよねー」
ちゃきっ。
遼介が剣を抜くより先に、虎王丸が刀を抜いた。
虎王丸:「俺の行く先を邪魔するやつは全部ぶった斬る!」
クラウディス:「……てことは俺たちも斬られるのかな」
虎王丸:「そういう細かいことをつっこむなお前は!」
うなり声が複数になった。
遼介:「こりゃうかつに近づけないぞ……」
虎王丸:「ばっか言え」
慎重に歩みを遅くした遼介がつぶやくと、虎王丸は初めて遼介の前に立った。
虎王丸:「何匹いようが、ぶった斬ってやればおんなじこった!」
そして虎王丸は、一体何匹の魔物がいるかも分からないスペースに、一気に飛び込んでいく。
遼介:「ちょ、待て虎王丸!」
遼介も慌てて剣を抜き追いかける。
クラウディス:「何あの猪突猛進さ」
クラウディスが呆れて最後尾を行った。
バトルフィールドは、広くつくられた広間のような場所だった。口からよだれをたらしている死者の霊だか骸骨だかがふらふらと歩き、前と後ろにひとつずつ頭がついている狼が数匹。
虎王丸は刀を振り下ろし骸骨を叩き割りながら、一方で白焔を生み出して幽霊を消し去っていた。
その後ろから遼介が、高速移動を利用して二首狼を斬り飛ばしていく。
遼介:「おい、そっちに一匹行ったぞ! 気をつけろ!」
虎王丸:「ばっかやろ、お前が討ち漏らすのがいけねーんだ!」
クラウディス:「………」
クラウディスが光の魔法を放つ。虎王丸に今にも飛びかかろうとしていた一体の狼が光に呑まれて消えた。
虎王丸がふらりと寄りかかってくる骸骨を横薙ぎに斬る。がしゃんと音がして、骸骨が崩れ落ちる。
遼介はヴィジョンを呼び出すかどうかで一瞬迷ったが、それほどの敵でもないかと判断し、高速移動に合わせた剣のコンボで狼を斬りまくった。
クラウディスは基本的には何もしないが、遼介が背後から襲われそうになっているときのみ、光の魔法で敵の目をくらまし遼介の保護をした。
やがてすべての魔物が消えたとき――
遼介:「血の匂いをかぎつけて集まってこないといいけどなー」
少々傷を受けた遼介に、クラウディスが回復の魔法をかける。
虎王丸:「おい、俺にも回復の魔法かけろよ」
クラウディス:「やだ」
クラウディスはにべもない。
虎王丸はクラウディスをものすごい目でにらみつけてから、
虎王丸:「あーもー! 先行くぜ!」
とどんどこ先に進み始めた。
遼介:「おーい、たいまつはこっちだぞー」
虎王丸:「俺を追い越して前に来い!」
遼介:「……お前、むちゃくちゃすぎ」
呆れ果てながらも、遼介は仕方なく走っていき、虎王丸より前を歩き始めた。
クラウディスが、今度は最後尾になった。
また少し歩くと――
今度は三つの分かれ道にぶつかった。
遼介:「こーゆーときは……」
遼介が片腕だけで腕を組むようなしぐさをし、
遼介:「マッピングでもしながら慎重に行くかー」
虎王丸:「面倒くせえよ」
虎王丸は遼介からたいまつを奪い取り、とっとと一番右の道に走りこんで行った。
遼介:「んー……暗くなっちまったから俺らは動かないほうがいいとして」
クラウディス:「俺暗いとまずいんだけど……まあとにかく、光の魔法で明るくたもとうか?」
遼介:「……まあいいや、何かほら、予感というか……」
遼介が言わんとしていることはすぐに分かった。
一番右の道から、明かりが差してくる。
どどどどどと足音が迫ってくる。
クラウディス:「なーんか……足音増えてね?」
遼介:「よかった、俺の耳がおかしいわけじゃないんだな」
遼介は引きつった笑いを浮かべながら、剣を構えた。
虎王丸:「たーすーけーろー!」
叫びながら、たいまつを持った虎王丸が戻ってきた。
背後に大量の二首狼をつれながら。
遼介:「だから言わんこっちゃない!」
遼介はすぐに聖獣カードを取り出した。虎王丸が引き連れてきた狼の数は並じゃない。
遼介:「召喚! ミズキ!」
空間がねじまがり、ミズキこと守護聖獣ティアマットが姿を現す。
遼介:「水流弾! 行け!」
遼介の命じるままに、ミズキは水流の弾を放った。
虎王丸:「どわあああ!?」
虎王丸にまで当たりそうになり、虎王丸は真っ青になって逃げ出す。
虎王丸:「ばっか、俺に当てるなよ!」
遼介:「当たらないように逃げろよ!」
虎王丸:「俺は火属性だぞ……っ!」
クラウディス:「あー……」
クラウディスが何かに納得したかのようにうなずいた。
クラウディス:「そうか……だから遼介と虎王丸って合わないんだ」
遼介:「いまさらそんなこと納得するな!」
ミズキの水流弾はいい効果を狼たちに与えた。そのまま貫かれるもの、動きをとめられたもの、混乱したもの、狼たちの咆哮が遺跡内に響く。
その隙に遼介が動きをとめられた狼を斬り払う。混乱したものがむちゃくちゃに突進してくれば高くジャンプして避け、軽業師のように天井に両足をつけて飛び降りざまその狼を斬った。
虎王丸もようやく体勢を整えて、遼介が討ちもらした狼を力技で斬り払い出した。
遼介の軽々とした動きに比べると、虎王丸の戦い方はいかにも乱雑だった。けれど白焔の威力は素晴らしい。
やがて最後の一体を白焔で燃やし尽くすと、はあ、と虎王丸は息をついた。
虎王丸:「お前らが後をついてこねーからこんなことになったじゃねえか」
遼介:「虎王丸が一気につっこみすぎなんだろが」
クラウディス:「遼介に一票♪」
虎王丸はちっと舌打ちすると、
虎王丸:「やっぱり右端の道を選んだのが悪かったな。大切なものは中央にあると決まってら」
遼介:「あ? ちょっと待て、虎王丸!」
虎王丸は聞く耳もたず、またもやひとりでたいまつを手に中央の道に突進していった。
クラウディス:「……どこまでも猪突猛進なやつ……」
遼介:「まあ、虎王丸だから」
遼介の言葉の意味は、ある意味納得できるような気もしなくはなかった。
数分後――
虎王丸:「なんでだああああああ!?」
遼介:「またか……しかもこの足音の量の多さ!」
ミズキを消しておかなくてよかったと、遼介は思った。
虎王丸の後ろを追ってきた二首狼は、またもやミズキの水流弾で半分が戦闘不能になり、残りも遼介と虎王丸が、時々クラウディスがサポートに回って斬って斬って斬りまくった。
――すべてが消えたころ、さすがに遼介も虎王丸も息があがっていた。
クラウディス:「大丈夫か? 遼介」
遼介:「ま、まあ何とか。虎王丸は?」
虎王丸:「へん!」
虎王丸は強がって胸を張ったが、疲れで顔がぱんぱんに腫れている。
虎王丸:「道はやっぱり、俺が思った通り一番左だったな!」
遼介:「はあ!?」
虎王丸:「最初に念のため違うところも調べておく! これが俺流のやり方だ!」
遼介:「………」
遼介は呆れて声も出なかった。
まあそれはそれとして――
一行は今度こそ、一番左の道を選んだ。
虎王丸はたいまつを「ん」と遼介に押し付け、遼介を先に行かせた。
遼介:「まあいいけどね……」
遼介は慎重に慎重に、何も見落としがないかどうか周囲を見渡しながら進んでいく。
遼介:「クラウディス! お前も後ろつくならよく見といてくれよ!」
クラウディス:「オーケー」
虎王丸:「のろいんだよ! さっさと先に進め!」
思った通り虎王丸が怒り出す。
遼介はうるさそうに虎王丸を振り返り、
遼介:「横道があるかもしれないだろ。よく見ておくにこしたことはねえよ」
虎王丸:「道は前に進むためにある!」
遼介:「そんな単純明快な造りな遺跡ばかりだったら世の中楽なんだけどさあ……」
クラウディスが最後尾でにこにこしながら、こんこんと横の壁を叩いている。
遼介はそちらに近寄り、
遼介:「どいてろクラウディス」
クラウディス:「おう」
クラウディスがのくなり遼介はミズキを召喚し、水流弾をクラウディスが叩いていた壁に叩きつけた。
ぼこっ
――穴が開き、道が現れる。
クラウディス:「ま、宝物のありかとしてはこういう隠された道のほうが確率は高いよな」
虎王丸:「だから俺の行った通りこの道だったろ!?」
虎王丸は訳の分からないことを言い出し、「貸せ!」と目をらんらんと輝かせながら遼介からたいまつを奪い取ると、横道に突っ込んだ。
クラウディス:「あーもー、俺光ないとだめなんだってばー!」
遼介:「俺たちも行くか」
遼介とクラウディスは急いで虎王丸の後を追った。
虎王丸:「あった!!!」
虎王丸の声がやけに響いて聞こえて――
遼介たちがもう少し進むと、唐突に前から明かりが差し込んできた。
遼介:「………?」
クラウディス:「お、明かりのあるとこ。ラッキー」
クラウディスがひょいひょい前に進んでいく。
遼介:「どこから光が入ってきてるんだ?」
遼介はしきりに首をかしげたが、虎王丸のいる部屋まで到達して、その疑問は簡単に解決した。
天窓だ。
そこから光が差し込み、部屋中を照らしている。虎王丸はとっくにたいまつを手放していた。
そして――
部屋の中央に、いかにも! という感じの台座に刺さっている剣の前で、体を打ち振るわせえていた。
虎王丸:「封魔剣ヴァングラム……ついに見つけた……!」
クラウディス:「ほとんど俺たちのおかげで見つけてんじゃん」
遼介:「というかそれがヴァングラムだってよく分かるな?」
虎王丸:「これを見ろ!」
虎王丸がしきりに台座を指すので、遼介とクラウディスは仕方なく見に行く。
と、虎王丸が指差す先――台座に、
『封魔剣ヴァングラム、ここに眠る』
とソーン文字で刻まれていた。
クラウディス:「うわ、怪しさ二百%」
クラウディスが呆れ声でつっこむ。
剣自体は、何の変哲もない――武器屋で一番安く買えそうな形をしたシロモノだった。
しかし虎王丸はこれがヴァングラムだと信じきっているようだ。
虎王丸:「よし、抜くぞ……っ」
遼介:「よくある、本物の勇者じゃなきゃ抜けないってやつだったりして」
虎王丸:「なら俺が勇者になる! それでいいんだろうが」
遼介:「………」
こんな猪突猛進の勇者は正直嫌だな、と遼介は思った。
虎王丸は気合を入れ、そっと手を伸ばしてヴァングラムに触れる――
瞬間、
クラウディス:「!!」
クラウディスがとっさに防護結界を張った。虎王丸と遼介のふたりに。
カカカカカ!
防護結界やクラウディスの体に、四方八方から矢が当たる。
罠が作動したのだ。
遼介:「クラウディス!」
遼介は血まみれになって倒れこんだクラウディスの体を抱きかかえた。
遼介:「馬鹿、何で自分にも張らなかったんだ!」
クラウディス:「あてて……ま、間に合わなかっただけ……」
大丈夫、とクラウディスは自分に回復魔法をかける。
クラウディス:「ここには充分な光があるから……」
傷は見る間に治り、ふらふらしながらクラウディスは立ち上がった。
遼介はさすがに心配になり、クラウディスを支える。
虎王丸が、どうしていいか分からなくなったらしくうろたえていた。
遼介は虎王丸をにらみつけた。
遼介:「後先考えずにとっとと手を出すからだぞ、虎王丸」
虎王丸:「………」
さすがに何も言えず、虎王丸はうなだれた。
クラウディス:「で……剣は抜けるのか?」
遼介に支えられたクラウディスが尋ねると、
虎王丸:「……こいつ、固ぇ」
どうやらさっきから必死に抜こうとしているらしいのだが、剣はうんともすんとも言わない。
クラウディス:「やっぱ勇者じゃなきゃねえ」
クラウディスはからかった。
遼介:「俺も挑戦してみるか……面白そうだし。クラウディス、自分にも結界張れよ」
クラウディス:「おー」
虎王丸をのけて、遼介は剣の柄に手を伸ばす。
緊張の一瞬――
触れた瞬間、
カカカカカカカッ
再び矢の罠が発動した。
遼介:「こりゃ……普通なら柄に触った時点でおだぶつだな」
つぶやきながら、遼介は剣を引っ張った。
たしかに、うんともすんとも言わない。
遼介:「あー、だめだわ。無理。手に入んない」
遼介はあっけらかんとそう言った。
虎王丸:「ふざけんな!」
顔を真っ赤にした虎王丸が、再度挑戦する。
しかし、矢の罠が発動するだけで、剣は抜けない。何度やっても抜けない。
虎王丸はうなだれた。
虎王丸:「ちくしょ……これじゃ本物か偽モンかもわかんねえじゃねえか」
クラウディス:「案外、本物かもな」
最後にクラウディスが剣を抜こうと試みた。
矢の罠が発動する以外に、何も起こらなかった。
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虎王丸:「くっそー! ガセかよー!」
遼介:「ま、いいんじゃね?」
遺跡から出ても畜生畜生とうるさい虎王丸と対照的に、基本的にお遊びで来た遼介は最後まで楽しそうだった。
クラウディスは虎王丸をじっと見つめ、
クラウディス:「俺のマスター……」
遼介:「お!? 虎王丸に変えるか!?」
クラウディス:「こんな猪突猛進なやつ嫌だ」
やっぱ遼介が一番! とクラウディスは遼介にべったりひっついた。
虎王丸:「何だよお前ら、そーゆー関係?」
虎王丸が白い目で見る。
遼介が青くなって必死に首を振った。
虎王丸:「ま、俺にはどうでもいいけどよ」
虎王丸は空を見た。
空は虎王丸の心を表すようにどよよんと、やけに重い色をしていた。
―FIN―
ライターより---------------------------
いつもありがとうございます、笠城夢斗です。
今回もクエストノベルありがとうございました。納品が大変遅れて申し訳ございません。
今回の三人の組み合わせは新しかったので、また楽しく書かせていただきましたvお気に召しますよう祈っております。
よろしければ、またお会いできますよう……
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