<PCクエストノベル(1人)>
旅は道連れ、世はトラップだらけ ―エルフ族の集落―
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【冒険者一覧】
【3342 / ベーレン・アウスレーゼ / フードファイター】
NPC
【エィージャ・ペリドリアス / 紋章術士】
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エルフ族の集落に、美味しいワインがある――
その情報をキャッチしたとき、歓喜で震えた娘がいた。
ベーレン:「素敵ですわ〜〜〜〜!」
ベーレン・アウスレーゼ。青い長い髪に、銀色の輝く瞳を持つ有翼人の彼女は、フードファイターとして身銭を稼ぐ、無類の大食い……というか別腹の大きさを持つ娘である。
そして何より、ワインに目がない。各地のワインを探し歩いては、そのワインを堪能している。
ベーレン:「今回は、エルフ族の集落ですのね。簡単に行けますわ」
――エルフ族の集落と言えば、自然のトラップに囲まれていてそう簡単に行ける場所ではない。
だが、ベーレンにとってはそんなことは問題ないのだった。
ベーレンは軽い旅支度を整えると、早速エルフ族の集落へと旅立った。
ベーレン:「美味しいワインはどこかしら♪ らんららん♪」
上機嫌で時に翼で飛び、時にてくてく歩いていると――
ベーレン:「あら?」
視線の先に、不思議なものが見えてきた。
ベーレン:「あれは……大蜘蛛の巣かしら?」
こんなところにそんなものあったかしら、と首をかしげながらも、ベーレンは気にせず前に進んでいく。
と――
???:「わたくしとしたことが……こんなところでこんな失態をさらすなんて……」
人間の声がした。
不思議に思ってベーレンが横を向くと、そこに――
蜘蛛の巣に引っかかっている、美しい女性がいた。
長い銀髪に輝く金色の瞳。少し露出度の高い服に包まれた体は豊満で、女であるベーレンさえも一瞬見とれた。……蜘蛛の巣に引っかかっているという見てはいけない状態だったが。
ベーレン:「どうしたのですか?」
ベーレンは声をかけた。
???:「見て分かるでしょう?」
艶っぽい声の女性は、疲れたように、また情けなさそうに返事をしてくる。
ベーレン:「そうですわねえ……ええと、助けたほうがよろしいのでしょうか?」
???:「できればそう願いたいわ」
ベーレン:「任せてください」
ベーレンは旅道具の中から念のため持ってきていた剣を手にとり、
ベーレン:「たしか……蜘蛛の巣は横糸には粘液がつかないのですわよね」
るん、と上機嫌のまま剣を振るった。
ぴし、ぴし、ぴし、と銀髪の女性の拘束が解けていく。
ベーレン:「剣に粘液がつかない、一石二鳥ですわ♪」
ぴし、とある程度の蜘蛛の巣を切り払ったとき、銀髪の女性が「もういいわ」と言った。
ふと見ると――巣の主である大蜘蛛が、近くまで寄ってきていた。
ベーレン:「あら。あれを倒さなくてはいけないのかしら」
???:「あなたがやる必要はなくってよ」
大分拘束の解かれた銀髪の女性は、色っぽい流し目で蜘蛛を見る。
そして――
ひゅおう
ベーレン:「きゃっ。寒い!」
???:「あら失礼」
突然起こった冷たい空気に、ベーレンが悲鳴をあげる。
色っぽい服装をした女は、何か寒さを起こす魔術を発生させたらしい。残り少なくなっていた蜘蛛の巣をすべて切り裂き、そして――大蜘蛛をも凍らせた。
ベーレン:「まあ!」
ベーレンは両手を組み合わせて驚いた。
ベーレン:「素敵ですわ!」
???:「その言葉は素直に受け取っておくことにするわ」
銀髪の女性は、蜘蛛の巣に引っかかってくしゃくしゃになった銀の髪を整えようとする。慌ててベーレンは手伝った。
長く、艶やかな髪だった。……今は少々べとついていたが。
???:「色々と世話になったわね」
髪をまとめた後、女性は改めてベーレンに向き直る。
エイージャ:「わたくしの名はエイージャ・ペリドリアス。あなたは?」
ベーレン:「ベーレン・アウスレーゼですわ」
エイージャ:「そう。ベーレンね」
エイージャが手を差し出してくる。ベーレンは快く握手に応じた。
……手がべとついたが。
エイージャ:「あなた、これからどこへ行く気なの? ずいぶん軽い旅装だけれど……」
ベーレン:「エルフ族の集落ですわ。ワインを飲みに行きますの」
エイージャ:「あら……」
エイージャは頬に手を当てて、
エイージャ:「それなら、わたくしも同じ目的地だわ」
ベーレン:「まあ!」
ベーレンは手を叩いて喜んだ。
ベーレン:「これは偶然ではありませんわ! きっと一緒に行くことが運命づけられているのですわ! エイージャさん、ご一緒しませんか?」
エイージャ:「そうねえ……」
エイージャは色っぽい姿勢でベーレンを見つめ、しばらく考えた後、
エイージャ:「あんたなら旅の邪魔にはならなそうね。一緒に行かせてもらおうかしら」
ベーレンは満面の笑顔になった。
ベーレン:「はい! ぜひふたりで集落にたどりついて、素敵なワインを堪能しましょう!」
エイージャ:「そうね」
ふたりは笑いあった。
そんなわけで、ベーレンとエイージャはふたりでエルフ族の集落へと向かうことになったのである。
エルフ族は森の奥に住んでいる。
エルフ族の集落周辺にはトラップが多い。これがまた人工ではなく自然のトラップだからタチが悪い。
ベーレン:「あら……」
ベーレンは目の前にあるものを見て、頬に手を当てた。
ベーレン:「これは、人も食べると言われている食虫植物では……」
エイージャ:「のんびりしてる場合じゃないくってよ」
びよん! と食虫植物が獲物を捕らえようと、まるで舌のような蔓を伸ばしてくる。
ベーレンは危うく捕まりそうになり、とっさに得意の金切り声をあげた。
人間の鼓膜さえ破れる超高音。人の声を聞くという植物にも効果があったらしく、驚いたように食虫植物の蔓が引っ込んでいく。
ベーレン:「撃退は簡単ですのね」
ベーレンが笑顔でエイージャを振り返ると、
エイージャ:「………」
エイージャは耳を押さえてその場にぶっ倒れていた。
ベーレン:「あら、どうしましたの?」
エイージャ:「あんた……わたくしの鼓膜を破る気……」
ベーレン:「そんなつもりでは……!」
幸い、ベーレンが出した高音は食虫植物にだけ向けられており、エイージャはその余波をくらっただけだったので鼓膜は破れずにすんだ。
エイージャの耳が落ち着いてきたころ、ふたりはようやくその場から奥へと進み始めた。
ベーレン:「あら? 道がないわ」
エイージャ:「いばらで埋まっているのね……」
目の前の道が、いばらで通れなくなっている。
エイージャが己の体に刻み込まれている紋章を発動させ、魔術を放つ。
いばらたちが、一瞬にして凍りついた。
ベーレン:「まあ……素敵ですわ、エイージャさん」
エイージャ:「これで通りやすくなったんじゃなくて?」
ベーレン:「ええ!」
ベーレンは笑顔で剣を取り出し、凍りついたいばらをばきばきと簡単に割っていく。
いばらは思いのほか長く続いていた。凍り付いていない場所までたどりつくたびに、エイージャは魔術でいばらを凍りつかせ、ベーレンが剣で折っていく。
ベーレン:「……さっきから、水の音が聞こえてきませんか?」
エイージャ:「そうねえ。近くに水源があるようだわ」
そんな会話をしながらふたりがいばら道を通り過ぎたとき――
目の前に、ひどく幅の広い川が広がった。
ベーレン:「まあ。さっきからの水音はこれでしたのね」
ベーレンは流れが早そうなその川を見つめて困ったように嘆息する。
ベーレン:「私は飛べますけれど……エイージャさんは向こう岸に飛び移ることはできそうにありませんわね。どうしましょう」
エイージャ:「あんた、わたくしの能力をもう忘れているの?」
ベーレン:「――あっ」
ベーレンが思い出した瞬間にはもう、エイージャは魔術で川を凍らせていた。
エイージャ:「わたくしの魔術は完璧よ。翼で飛んでもいいけれど、気が向いたら歩いてごらんなさいな。完全に凍り付いてるから」
ベーレン:「ええ!」
その言葉に甘え、ベーレンは走って、エイージャはのんびりと、凍った川の上を渡る。
幅広い川も簡単に突破。
次に現れたのは――
ベーレン:「あら、これは……道をふさぐ岩かしら?」
エイージャ:「まあ、大きな人の顔でないことはたしかかしらね」
ベーレン:「どう突破しましょう」
エイージャ:「……わたくしのほうは、札がないわ」
うーん、とベーレンは悩んだ。方法は色々あるけれど……
ベーレン:「ここは森ですし、私の仲間を呼ぶのは得策じゃありませんわね」
そしてすうっと息を吸って――
――――――!!!
岩が――
内部から――
分子破壊され――
がらがらと崩れ落ちていく――
やがて岩が前に進む邪魔にはならない程度に破壊された後、ベーレンは特定周波数を放つ声を出すのをやめて、にっこりと笑った。
ベーレン:「フォノン・メーザー……久しぶりに使いましたけれど、衰えてなくてよかったですわ。ね、エイージャさん」
エイージャ:「………」
ベーレン:「エイージャさん?」
ベーレンがエイージャのいた場所を振り返ると、エイージャは近くの茂みにしゃがみこんで口を押さえていた。
ベーレン:「どうかなさいました?」
きょとんとベーレンが小首をかしげる。
エイージャはフォノン・メーザーの余波を受け、吐き気をもよおしていた。
何とか吐くまいとプライドで耐え切ったエイージャは、
エイージャ:「あんたの技……周囲に迷惑をかけないようにするものはないの……」
と訴えるようにベーレンを見る。
ベーレンはえへっと頭に手をやった。
ベーレン:「すみません、ないみたいですわ」
エイージャ:「………」
エイージャはもう、色々諦めたようだった。
ふたりはひたすら前に進む。薄暗い森の奥へ、奥へ――
と、ふとエイージャが足をとめた。
ベーレンがエイージャを見る。エイージャはひどく真剣な顔をして、
エイージャ:「何か……いる。大量に」
ベーレン:「え……」
エイージャ:「――向かってくる!」
そう言った瞬間に、ふたりの視界が真っ暗になった。
実際には、真っ暗になるほどの大量の黒い生物が――目の前を埋め尽くした。
ベーレン:「あ……コウモリ型魔物ですわね」
エイージャ:「のんきに言ってるんじゃないわよ!」
ベーレン:「ですが、この程度でしたら私の声でいくらでも――」
エイージャ:「あんたの金切り声はもういいわ! わたくしが凍らせて落とすから、あなたは剣でとどめをさしなさい!」
ベーレン「? はい」
エイージャは宣言したとおり、大量につきまとってくる魔物コウモリを片っ端から凍らしてゆく。
ベーレンはそれが地に落ちる前に、見事な体さばきで斬り払っていった。
ふたりは今日出会ったばかりだというのに、コンビネーション抜群だった。
やがて、すべてのコウモリが視界から消えた頃。
エイージャ:「いたた……ちょっとかじられたかしら。まあ、仕方ないわね」
露出の多い服を着ているエイージャは少しだけ顔をしかめる。
ベーレンは道具袋の中から傷薬を取り出してエイージャの傷に塗りながら、
ベーレン:「ごめんなさい……私回復系の声は出せないのです……」
エイージャ:「……出せたとしても何か副作用がありそうで怖いからいいわ」
ベーレン:「???」
エイージャ:「さあ、もっと奥へ行こうかしら?」
ふたりは進む。自然が組み合わさってできたトラップの中を、時に片方の能力で、時にコンビネーションで突破しながら。
やがて……
エイージャ:「……魔物でも獣でもない気配がするわ」
ベーレン:「まあ! それじゃもしかして……」
エイージャ:「ええ。目的地は近そうよ」
エイージャが歩きながら言った瞬間――
目の前に、村が見えた。
ベーレン:「ワインーーー!」
ベーレンが銀色の瞳をきらきら輝かせながら村に突進する。
エイージャ:「あ、待ちなさい! そこは――!」
エイージャが制止しようとしたが遅かった。
ばきっ。ベーレンの足が何かを割る。
ベーレンは唐突に自分に降りかかった浮遊感に、びくりと体を震わせる。
そこは――
断崖絶壁――
ベーレン:「きゃああああ!」
ベーレンは慌てて翼をはためかせた。
しかし翼を開くのが遅すぎた。地面に叩きつけられるまでに間に合わない!
ベーレン:「みんなああああああ!」
ベーレンは落ちながら叫んだ。
とたんに、空がくにゃっとゆがんだかと思うと――
何千人もの『サイレン』族が飛んできた。
サイレン族は素早く落ちてゆくベーレンの下に回りこみ、受け止める。
ベーレンの体が落ちていく嫌な浮遊感から解放された。抱きとめられた安心感に、ほっと安堵する。
サイレン族:「姫、お怪我は!」
ベーレン:「な、ないですわ……ありがとう」
ベーレンは水棲の魔鳥サイレン族の王女なのだった。一声かければ時空を越えて仲間がやってくる。
ベーレンは上を見た。
呆れたような顔をして断崖絶壁を見下ろしているエイージャがいる。
ベーレン:「みんな……あのお方も下におろしてさしあげて」
サイレン族:「はっ!」
残っているサイレン族のうちの数人が、エイージャの元へ飛ぶ。
ベーレンが地面に降り立つと同時に、エイージャもサイレン族の力を借り、すとんと降り立った。
エイージャ:「たいしたもんじゃないの」
エイージャは呆れて何千人と空を浮遊しているサイレン族を見上げる。
ベーレン:「もうみんな帰ってもよろしいですわよ!」
ベーレンが声をかける。サイレン族はベーレンに礼をして、そのまま時空を越えて消えてしまった。
サイレン族がいなくなったその場所に――
代わりに集まってきたのは――
村人:「なんだお前ら」
サイレン族にすっかり気をとられていたエイージャがはっと振り向く。
そこには、大量の――村人らしき人々がいた。人間によく似た、しかし違う姿の。
村人:「おぬしら、このエルフの集落に何の用かのう」
かなり高齢そうな村人――エルフが前に進み出てくる。
警戒心が、その瞳ににじみでていた。
エイージャはどうしたものかと柳眉を寄せる。しかしベーレンは両手を叩いて大喜びをして、
ベーレン:「ここがエルフさんたちの集落なのですね! ようやくたどりつけました!」
老人:「な……なんじゃおぬしら」
ベーレン:「私、この村にとーってもおいしいワインがあると聞いてやってきましたの。ぜひ、ワインを分けていただけませんか!?」
きらきらきらきらと瞳を輝かせてベーレンは高齢のエルフに迫る。
エイージャ:「少なくとも族じゃなくってよ、わたくしたちは」
エイージャがベーレンの後ろで肩をすくめた。
エイージャ:「その子が族に見えるの?」
村人:「いや……」
村人:「たしかに……」
村人:「見えない……な」
若い村人たちが、ベーレンの様子を見て口々に言う。
老人:「ふむ……ワイン目当てか」
高齢のエルフはひげを撫でて、
老人:「まあ、ここまで来るのも大変だったじゃろうて。本当に族ではないようじゃし、特別に分けてさしあげるとしよう」
ベーレン:「まあ!」
ベーレンはうっとりとした顔になった。
ベーレン:「ああ……私って、なんて幸せなのかしら……」
エイージャ:「その幸せは飲んでからにとっておいたらどう?」
ベーレン:「飲んでしまってからは、さらに違う幸福が待っていますもの……!」
エイージャ:「………」
エイージャは苦笑する。
ベーレンの言うことに、少しだけ納得できてしまったから。
その後――
エルフ族の集落に正式に迎え入れられたふたりは、ちょうど夕刻だったこともあり、夕食をご馳走してもらった。
ベーレンはワイン一筋。エイージャもそれに乗せられて。
ベーレン:「ああ、いい香り……! 素敵なお味……!!!」
エイージャ:「悪くないわね……」
酒樽を飲み干しそうな勢いで、ふたりはワインを飲み続けた。
老人:「わしらの分がなくなってしまうんじゃがなあ……」
なんてエルフたちがぼやいたりもしていたが――
ベーレンとエイージャは、ワインを飲みながら「とてもすごい偶然の出会い」を語り合っていた。
しかし――、ふたりはこのとき、まだ知らなかったのである。
このときこそが、ふたりの深い縁の始まり――いわゆる腐れ縁の始まりだったということを――
―FIN―
ライターより----------
初めまして。このたびはクエストノベルのご発注ありがとうございました。
納品が遅れ気味となり大変申し訳ございません。
ベーレンさんとエイージャさんの初めての出会い編ということで、緊張して書かせて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?
よろしければまたお会いできますよう……
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