<PCクエストノベル(2人)>
音楽に乗って ―クレモナーラ村―
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【冒険者一覧】
【3295 / ミルフィーユ=アスラ / アコライト】
【3296 / ファイ=デイビス / 吟遊詩人】
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ファイ:「クレモナーラ村に行かないかい?」
ファイ・デイビスがミルフィーユ・アスラを誘ったのは、そろそろ秋も深まってきた頃だった。
ミルフィーユ:「クレモナーラ村?」
さらさらのシルバーゴールドの髪に、輝くエヴァーグリーンの瞳を持ったミルフィーユは、ファイの突然の誘いにきょとんとした顔をした。
ファイはえへへとどこか無理に作ったような笑顔を見せながら、
ファイ:「えーとさ、僕、笛を買いたいんだ。楽器ならやっぱりクレモナーラだから」
ミルフィーユ:「あ、そうだよね。ファイちゃん吟遊詩人だもんね」
そっか、とミルフィーユはにっこりと微笑む。
――見かけ十歳ほどにしか見えない彼女は、実年齢は十三歳だ。
逆に見かけ十三歳ほどにしか見えないファイは、実年齢十六歳だったりもする。
ファイは照れたように、薄い水色の髪を黒く染めようとしてなぜか藍色になってしまった髪に手を入れて、
ファイ:「せっかく音楽の村に行くから、ミルフィーも一緒にどうかなと思ったんだ。ひとりではつまらないし……ミルフィーにも音楽の村を見せたいから」
頬が赤く染まっている。視線がまともにミルフィーユを見ることができずに変なところをさまよっていた。
ミルフィーユはそんな挙動不審なファイの様子も気にかけることなく、
ミルフィーユ:「そうだねっ。私も一緒に行きたいな」
――ファイが心の中で歓喜の声をあげたことは言うまでもない。
++ ++ ++
クレモナーラの村は、秋の収穫祭でにぎわっていた。
村人:「今年は少し寒いからねえ、無事実ってくれてよかったよ!」
村人:「おやきみら、観光かい? すみずみまでぜひ見ていってくれよ!」
この村の人々は音楽だけでなく人柄まで弾むように明るく優しく楽しい。
ファイ:「人がたくさんいるなあ……」
ファイは周囲を見渡して、それからどきどきしながらミルフィーユを見た。
ファイ:「……手でもつないでたほうが、安全かもしれないね」
ミルフィーユ:「うん、そうだね」
ミルフィーユはにこにこしながら遠慮なくファイの手をつかむ。
そしてかわいらしく小首をかしげて、
ミルフィーユ:「置いていっちゃわないでね?」
ファイ:「まさか!」
キミを置いていっちゃ話にならない、とファイは心の中で叫びながらにっこりとミルフィーユに微笑みかけた。
ファイ:「さ、笛、笛……と。どこにあるのかな……」
クレモナーラは噂にたがわずどこもかしこも音楽だらけだった。ある一画ではある地方の、またある一画では違う地方の、とにかくこの村を散策すればエルザード王国すべての音楽を制覇できそうだ。
ミルフィーユ:「あ、きれいな曲……」
ミルフィーユが旋律に惹かれて立ち止まってしまったときは、ファイもおとなしく立ち止まる。
音楽に身をひたすように、ミルフィーユは目を閉じて体でリズムを取っている。
そんな彼女を見るのが、ファイは嬉しかった。
やがて我に返ったミルフィーユが、
ミルフィーユ:「あっ。ごめんね、笛、買わなきゃいけないんだよね」
慌てて謝ってくる。ファイも慌てて、
ファイ:「あ、気にしないで! 僕もきれいだなと思ってたところだから」
――本当はミルフィーユしかほとんど目に入ってなかったのだが、そんなことを言ってごまかした。
ミルフィーユはにっこりと笑って、
ミルフィーユ:「ねえ、今の曲を演奏してたあの子――」
ファイ:「ん?」
ファイはミルフィーユが示す先を見る。
そこには小さな子供たちの楽団がいた。全員が十歳を少しすぎたほどしかなさそうだ。
ミルフィーユ:「ほらほら、右端の女の子! ファイちゃんにちょっと似てるね!」
ファイ:「………………」
ファイはがくんとうなだれた。元から童顔の上、時おり女装させられては「似合う似合う」と騒がれている身としては、ミルフィーユの言葉は嬉しくない。
けれどそこはミルフィーユの前、引きつりながらも笑顔を作って、
ファイ:「そ、そうかな、あの子のほうがかわいいと思うよ……」
ミルフィーユ:「え〜? ファイちゃんのほうがかわいいよー」
ファイ:「………………」
ファイは再びがっくりとうなだれた。
++ ++ ++
ミルフィーユ:「あ、笛……いっぱいあるね!」
ミルフィーユが見つけた店の中には、大量のさまざまな笛が並べられ、壁にも吊らされていた。
ミルフィーユ:「ファイちゃんがさがしてるのはどんな笛?」
ファイ:「そうだなあ……」
店主:「よかったら吹いてみてたしかめてみるといいぞ」
気のよさそうなおじいさん店主の言葉に甘えて、ファイはなんとなく気になるものをひとつひとつ手に取ってみたり、吹いてみたりした。
そしてひとつのフルートを手に取った。
すっと息を吹き込んでみる。得意な曲を一曲演奏してみた。
おお、と店主が拍手をした。
店主:「見事な腕前じゃの、小さいのに」
ずるうっ
『小さいのに』に激しくショックを受けて、ファイは危うく笛の並ぶ店頭へ頭からつっこむところだった。
隣でミルフィーユが「きれいきれい! 素敵な曲だったよ!」と手を叩いて喜んでいる。
ファイ:「うん、これがいいかな」
ようやくショックから立ち直ったファイは、その笛を店主に差し出した。
店主:「素晴らしい腕前だったからの」
店主はにこにこ好々爺の顔をして、店頭での値段よりもさらに安くしてくれた。
ファイ:「いいところだね……」
改めてしみじみと、ファイはつぶやく。
村のあちこちから聞こえる音楽のリズムは時に楽しく、時に優しく、彼らを誘う。
ミルフィーユがハミングを口ずさむ。かわいい声だな、とファイは思いながら彼女の隣を歩いていた。
と、
ふいにとんとんと誰かに肩を叩かれた。
ファイ:「?」
村人:「かわいいフルート奏者さん」
村人はにこにこしながらファイを見た。
村人:「さっき店先で演奏していたのを聴いていたよ――せっかくだから演奏会にも参加しないかい」
ファイ:「え……」
音楽祭は見るだけのつもりで来ていたファイは慌てた。
ファイ:「いや、えっと、僕たちはただ見に――」
ミルフィーユ:「面白そうだねっ!」
ミルフィーユが身を乗り出した。
ミルフィーユ:「ねえ、私は歌で参加してもいい?」
村人:「おお、かわいいお嬢さん。もちろん参加しておくれ」
ファイ:「ミルフィー! 本気?」
ミルフィーユ:「え? だって面白そうだもの!」
ミルフィーユのにこにこした笑顔に、ファイは勝てそうもなかった。
――本当はこんな音楽の村で、自分の腕が認められるかどうか不安ではあったのだけれど――
ファイとミルフィーユは、とある楽団の中にまじって、特別に演奏と歌を披露することになった。
ファイは緊張しながら笛の吹き口に唇を当てる――
ミルフィーユ:「ファイちゃん」
ミルフィーユにぺしんと背中を叩かれて、ファイは「わっ!」と飛び上がった。
ミルフィーユは指先をちっちっと揺らして、
ミルフィーユ:「緊張しちゃだめだめ! いつもみたいに『音楽大好き!』ってところを、見せようよ!」
ファイ:「ミルフィー……」
言われて、ファイの体からすうと緊張が抜けていった。
そうだ。ミルフィーの言う通りに、僕らは音楽が大好きなことを表現すればいいだけだ。そのことに、なんで緊張しなきゃならないんだろう。
ファイはにっこりとミルフィーユに微笑んで見せて、
ファイ:「任せて!」
と胸を張った。
そして始まる、楽団と一緒の彼らの演奏会――
ファイはフルートに息を吹き込んで、まるで生き物のようにフルートが自ら演奏しているかのような演奏を見せた。
ミルフィーユはそれに乗せて、秋の収穫を祝う歌を歌う。
それは大地の恵み
それは天からの贈りもの
そして私たちはそれを抱いて
大地に 天に 喜びを返すの
それは大地の恵み
それは天からの贈りもの
そして私たちはそれを抱いて
大地に 天に これからもあなたたちを愛しますと誓う
ミルフィーユは心の底から、ファイと楽団の演奏に身をひたしてのびのびと歌っていた。
かわいらしい彼女ののびやかな声が、人々の足を止める。
ファイのフルートの柔らかさが、人々の耳を和ませる。
――曲が変わった。楽しげな曲調に。
フルートのリズムが変わる。
ミルフィーユは楽しげにステップを踏みながら。
さあ おいでよこの村へ
さあ 楽しもうよみんなで
さあ さあ 楽しい世界が待っている
クレモナーラ クレモナーラ
さあ おいでよこの村へ
さあ 楽しもうよ せっかくだから
さあ さあ みんなの世界が待っている
クレモナーラ クレモナーラ
それは村伝統の曲。ミルフィーユもファイも知っているはずはなかった歌なのだが――
村中に流れていた曲でもあった。だからふたりは、歩いているうちに自然に覚えてしまっていたのだ。
ファイは体を揺らしながらフルートを吹く。
天に向かって。人々に向かって。
この音よ 村中に響け
楽団の誰かが大きな声でそう言った。
かわいい彼らの演奏を
この素晴らしき音と声よ 村中に響け
人々が集まってきては、にっこりと微笑む。幸せそうにぽっと赤く頬を染める。
手拍子が集まる。それにフルートの音が乗り、そしてミルフィーユの声が乗り。
ふいに、だんだんと楽団の人々が己の楽器の演奏をやめ始めた。
ファイはフルートを続けながら慌てて楽団のリーダーを見る。
リーダーはにやりとして、
行け
と口の動きだけで言った。
ファイは楽団の優しさに甘えて、ミルフィーユとふたりだけの演奏会に切り替える。
ミルフィーユの得意な曲を、フルートで村中へと広めた。
大好き 大好き ねえみんな
みんな 笑顔でいられたらいいねと
願ったら お星さまがかなえてくれた
大好き 大好き ねえみんな
みんな一緒にいられたらいいねと
願ったら お月さまがかなえてくれた
大好き 大好き ねえみんな
笑顔で一緒にいられたらいいねと
願ったらお空がかなえてくれた
でも本当にかなえてくれたのは
みんなの心 あったかい心
ねえ ねえ みんな
大好きな みんな
――――…………
++ ++ ++
村人:「たいしたもんだったよ!」
ファイとミルフィーユによる演奏と歌が終了すると、ものすごい量の拍手が湧き起こった。
ちゃりん、ちゃりんとチップが放り投げられる。
焦ってファイが楽団のリーダーを見ると、「受け取っておけ」とにこにことリーダーは言った。
リーダー:「受け取らないのは余計に失礼にあたるぞ」
楽団員:「そうそう、みんなが感動したその証だから」
ファイ:「そ、そうなんですか?」
ファイが焦っている間に、ミルフィーユがにこにこ愛嬌のありすぎる笑顔で「ありがとー!」とチップを一枚一枚丁寧に拾っていた。
ミルフィーユが拾うと、なぜかがっついているように見えない。心底嬉しそうに受け取っているからだろうか。
リーダー:「いやーそれにしても」
リーダーはしみじみとファイとミルフィーユを見て、
リーダー:「小さいのにたいしたもんだ」
――『小さい』……
ファイはがっくりとうなだれた。また小さいと言われてしまった……
本当はもう十六歳なのだから、いい加減その言葉から離れたいのだけれど。
ミルフィーユ:「ありがとう、お兄さん!」
ミルフィーユはリーダーの褒め言葉を素直に受け取ったようだ。そして、
ミルフィーユ:「ほら、ファイちゃんもっ。フルート、褒めてもらえたんだよ?」
ファイ:「あ……ありがとうございます」
ファイは慌てて礼を言った。
フルートに対する褒め言葉は嬉しいに決まってる。
そんなことも忘れてコンプレックスで落ち込んだ自分が情けなくて、気づかせてくれたミルフィーユがかわいくて、なんだか泣けそうになってきた。
もちろん泣いたりはしない。ミルフィーユの前でそんな醜態をさらすものか。
楽団から離れて、またふたりきりで歩く村――
ミルフィーユ:「ねえ、ファイちゃん」
ファイ:「ん?」
ミルフィーユ:「さっきのファイちゃんのフルート演奏ね――すっごく素敵だった!」
ファイの腕にぎゅっと抱きつきながら、満面の笑顔をミルフィーユはファイに向けた。
ファイが真っ赤になる。どうやって返事をしようとファイが考えあぐねている間に、
ミルフィーユ:「やっぱり買った笛がよかったんだね! いい笛見つけられてよかったね!」
……邪気のない笑顔がファイをがっくりとうなだれさせた。
それでも、あちこちから流れてくる音楽は少年少女を充分に楽しませて。
歌姫の歌声が耳をくすぐって。
ミルフィーユ:「いいな……こんな風に私も歌えたらいいのになっ」
ファイ:「歌えてるよ」
ファイは熱心にミルフィーユに言った。
ファイ:「僕にとっては、ミルフィーの声が一番だよ」
ミルフィーユは目を見張って――
それから、ふわりと微笑んだ。
ミルフィーユ:「ありがと!」
伸び上がって、ちゅっとファイの頬にキス。
ファイが耳まで真っ赤になる。そんなことはお構いなしに、ミルフィーユはファイの腕を引っ張って、
ミルフィーユ:「あ、ねえねえほら、あそこの楽器店素敵そう――」
ミルフィーユ:「あ、こっちもいいかもしれないよ、ねえ――」
ミルフィーユ:「楽しいね、ファイちゃん!」
ファイ:「うん、楽しいね」
でもね、一番楽しい理由はキミと一緒にいるからだよ。
言葉にはしない心。
ミルフィーユ:「ここは春の音楽祭が一番にぎやかなんだって――!」
村人たちからの情報を得たミルフィーユは頬を紅潮させて、
ミルフィーユ:「ね、春にもう一度来ようね! もっと素敵な音楽が聴けるかもしれない!」
ファイ:「そうだね、春にもう一度来よう」
ファイはにこりと微笑んだ。
ミルフィーユと手をつないだまま村を出るふたり――
ミルフィーユ:「もっと素敵な曲がいっぱい聴けるといいな……」
ミルフィーユがうっとりしながらつぶやいている。
ファイは何も答えず微笑んだ。
どんな音楽よりも、明るい少女の声が、ファイの耳には一番心地よかった。
―FIN―
ライターより-------------------
お久しぶりです、こんにちは。笠城夢斗です。
今回はクエストノベルのご発注ありがとうございました!
納品が大変遅れて申し訳ございません。
今回はかわいいふたりの音楽デートということで、歌詞等頑張らせていただきました。いかがでしたでしょうか。
よろしければまたお会いできますよう……
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