<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
『森羅の森の化け蜘蛛』
泣いている娘の言葉に思い出したのは私を包んでくれた温かな温もり。
必死にしがみついていた狼の毛の肌触り。
私の涙を拭うように頬を舐めてくれた舌のざらつき、そのくすぐったい感触。
あの娘は私と一緒。
守りたいと望んだ温もりも、
包まれていた温もりも、
そしてたぶんきっと、求めた温もりも。
だから私が彼らの前に立つのに他に理由はいらなかった。
――――――――――――――――――
【opening】
「あー、てかさ、その蜘蛛の化け物は本当に強いんだろうな?」
千獣が気分良く飲んでいるとそんな声が聴こえてくる。
どうやら森羅の森という場所にでかい化け蜘蛛が居るらしい。
そして彼らはパーティーを組んでその蜘蛛を倒しに行く、と。
ご苦労な事だ。
―――そう思う一方で、少し胸のざわめきを覚える。
だけど、それを意識して、彼らに言葉を吐いたとしても、それは詮無き事。そもそも彼女にはそれを言う理由が無い。
例えば、彼女が魔性の森に捨てられていたのを、そこにいた獣たちに育てられたのだとしても………。
軽い苛つきをごまかすための方法はいくらかある。
そのうちの一つ、食欲を満たす事で苛つきをごまかす方法を千獣は選んだ。
スープを食べよう。
ルディアにスープのお替りを頼もうとすると、
隣の席の女の子が泣き出した。
向かいに男でも座っていたら別れ話だろうと思うが、しかし向かいに男は座っては居なかった。彼女はひとりだ。
では?
「どうしたの?」
世話好きのルディアがそう訊くと、彼女は泣きながら言った。
彼らが倒しに行くと言っていた化け蜘蛛は森に捨てられていた自分を拾って助けてくれて、育ててくれた母親なのだと。
本当に凄く優しく純粋な蜘蛛なのだと。お母さんなのだと、彼女は泣きながら訴えた。
きゅっと、胸が痛んだ。
切ないぐらいのこの締め付けは何だろう?
千獣は自分の左胸をそっと触った。
その締め付けはすごく痛い。
だけど同時にとても大切な物のように思えた。
思い出すのは、魔性の森での過去。
―――千獣は口元だけで微笑んだ。
ああ、だからこの身体は動くのだ。
椅子から立ち上がる。
彼らの勇者気取りの遠足には参加する気はさらさら無かったが、しかしこのいたいけな少女の涙を止めるのに動くのには、それだけで充分足りた。
この娘は私と一緒だから。
そして泣いている少女の元へと千獣は歩いていく。
――――――――――――――――――
open→
【T】 Her reason
果たして泣いていたのはどうしてだったろう?
この世界に産み落とされた事が哀しかった?
それとも産み落としておいて、捨てられた事が哀しかった?
私は産まれたかったのだろうか?
そんな事ばかりを考えていたのかもしれない。
泣いていたのは、それが生きるための人間の赤ん坊の本能だったからじゃなくて、
ただ、産み落とされたのが哀しくって、
生まれてきた事の意味が見出せなくって、
ただただ、辛かったから………。
そんな事は忘れた。
遠い昔だもの。
いったい何年生きていると思うの?
生きたかったから生きた?
産み落とされた事を嘆いていたかもしれないのに―――。
そう。赤ん坊でもわかっていた。
包まれるべき母親の温もりに包まれないで、
冷たい森の大地の温度にさらされた事で、
私が親に捨てられた事。
それでも生きているのは、生かされたから。
泣いていた顔を、
涙に濡れていた頬を、
そっと涙を拭うために舐めてくれた狼たちの舌ざわりを、
この肌は、
心は、
魂は、
今も覚えている。
悲しみの、
絶望のどん底にあった、
その中で、
ようやっと生まれたばかりの私が手に入れた、
それが最初の温もりだったのだから。
その時に初めてきっと私は笑った。
小さな手で、優しい獣たちを、求めながら。
産み落とされた事を、
産み捨てられた事を、
呪いもするし、
怒りもする。
哀しく思う。
でも同時に感謝もしている。
だから自分は、森の獣たちに出会えた。
その温もりに出逢うために。
それは過酷で凄絶な時間だったけど、生かされた事で知った事。
爪も牙も無く、それでも魔性の森でシンプルなルールに乗っ取り生きるために必死に相手を喰らい、
喰らう事で生きて、強くなって、
生きて強くなるために喰らって、
喰らう事は生きるための方法で、理由で、
生きる事は喰らう事で、
そうやって生きて、
多くの命を取り込んで、
生きて、生きて、生きて、生きてきて、
ようやっと、なんとなくだけど、ぼんやりと、生れ落ちてきた事の意味が分かり掛けてきたような気がする。
そう。わかりたかった、私は。
どうして産み落とされて直ぐ、捨てられたのか。
それなのにどうして自分が生きたのか。
生きた意味。
存在の理由。
生きる理由。
存在の意味。
そういう事を全て。
そういうの本能で追い求めて、
そして、彼と出逢った事で、今は心で追い求め始めている。
―――ほんのぼんやりとだけど、思う事がある。
抱きしめてくれた彼の暖かい腕が、
彼が私にかけてくれる言葉が、
彼の心が、
心地良いと。
それは心からの安らぎ。
それが追い求めていたモノなのかもしれないと、
本当にぼんやりとだけど、
風がこの素肌を撫でてくれる時に心に感じさせてくれる気持ち良さのように、
水が滴り落ちる音色がとても澄んだ美しいモノであるように、
季節によって色づく自然の繊細さのように、
嬉しく感じられて、
そしてそれを知ってからは、
―――私は確かに強くなれた。
森の獣たちが居たからこそ、生きようとして、生きた事を理解した。
生きる事が本能だったからじゃない。
生きる事こそが、繋がりの、温もりの証明で、
そして縁の糸を手繰り寄せる方法だとも無意識に知っていた。
だから彼と出逢え、ただあの頃のような狼特有の孤高の強さなのではなく、
人である事の意味を感じさせてくれる強さを私は手に入れた。
―――それはまだ千獣にとっては名も無い感情。
だけどそれは、今はまだ蕾だけど、
確かに花開くために、綻び始めている。
美しい、綺麗な、千獣だけの、
千獣にしか咲かせられない、
花を咲かせようとしている。
だから千獣の心は、この純真無垢な少女の言葉に震えた。
彼女の言う言葉は、彼女にとってとても大切な繋がりである事を、同じ境遇の千獣だからこそ、誰よりも理解できて、
そして確かに母親である化け蜘蛛を想い泣いていた彼女はもうひとりの千獣だったのだから。
―――それが私の理由。
そして、それだけで充分。
私が守るために戦うのに。
【U】Their reason
幼い頃夢中になって読んだのは老いた騎士が姫を救うために魔王に立ち向かうお話だった。
その老騎士の物語を追いかけ、他にも横恋慕した騎士の物語が様々。
彼の幼い頃はそういう風だった。
日がな一日図書館や本屋などで騎士の物語を綴った本を手に取り、それを読み漁る。
憧れたのは本の中の騎士たちの生き様だった。
強さだった。
どのような権力に対しても正義を貫くその志だった。
刷り込みはおそらくモンスターに襲われていた自分を救ってくれたあの旅の剣士の姿だったのだろう。
あの時に心に深くそれが刻み込まれてしまった。
ならば自分も騎士になろうとは思わなかった。
ホビットなのだ。どれほどに鍛錬しようがたかがしれている。
ならば魔法使いやエレメンタリーなどになればいいのかもしれない。
そう思い修行に明け暮れた日々はあったのだ。
だが世界を構成する精(ジン)との契約にはこぎつける事ができず、それで諦めてしまった。
いや、あのモンスターに襲われて、自分がどれほどに無力なホビットであるかを心に刻み付けられた瞬間に、その時にはもうどうしようもできない諦めが、その心に根付いてしまったのかもしれない。
ホビットでは強い剣士にはなれない………
それが彼の壁にぶつかると、その壁に立ち向かう事無く直ぐに諦めるスタイルを作り上げてしまった。
それで彼はどうしたのかと言えば物語を書き綴る者になる事を決めた。
剣をペンに変えて、世界を旅し、そして見て聞いた勇者たちの姿を物語に書き綴ろうと決めたのだ。
ホビットの小説家、プーム・ブームの名前は少しは人々の間には知れている。
草原を歩いている時だった。
彼の鼻腔をくすぐったのは血の匂いだった。
そして空気がわずかに焼けた匂い。
戦いだ。
戦場の匂いがホビット故の感性に何かを訴えかけた。
それは生きるための警告であったのだろう。力弱いホビットが争いに巻き込まれぬように、逃げれるように。
しかしプームは自分からその争いの場に行って、そしてそこで一人の勇者と出逢った。
彼は旅の商人たちを守るべく剣を振るっていた。
敵は竜騎士団。
並みの使い手たちでは無い。
しかし彼はたった独りにも関わらず、その暴漢たちを前にして揺るがず剣を振るうのだ。
彼が振るう剣は勇者の剣、アルス。
その剣の一薙ぎは風を巻き起こし、雷神を呼んだ。
風の刃は竜騎士を切り裂き、雷神の槍は竜の固い鱗すらも貫いたのだ。
プームは夢中になってその光景を書き綴った。
そして以降、プームは彼と共に旅をしている。
若き勇者バーン・ホレスト。
プームが書き綴ったその物語は人々に広く愛された。
何よりもプーム・ブームこそが一番のその物語を愛する者だった。
しかしプームが書き綴る勇者バーンの物語が終わりを迎えるに当たっての章は、悲しい事だがやってくるのだ。
その終わりの初め、導入部分となるシーンはアルマ通りの白山羊亭。
賑やかな雰囲気とその雰囲気をメロディーにワルツを踊るように店内を立ち動き、可愛らしい笑顔を客に提供する花のような娘が居る店だった。
バーンが温かな湯気を立ち昇らせる蜂蜜酒を飲みながらラム肉を頬張っていて、プームが鳥と卵とヒヨコ豆の親子シチューをヒヨコ豆って鳥から生まれるのかしら? などと御馬鹿な事を考えながら口に運んでる時だった、その妙な風体の男が部屋に入ってきたのは。
頭の前がだいぶ禿げ上がり、酒樽のような腹を気だるそうに揺り動かしながら入ってきたその中年男はおもむろにこう言い出したのだ。
「ここより北に行った森羅の森に化け蜘蛛がおります。その化け蜘蛛はひどく凶悪なモンスターで、森を根城にして旅人を襲い、または夜な夜な村まで来て家畜や子どもを攫っていくのです。これまで何度も領主はその化け蜘蛛を退治するべく兵を送りましたが、その度に兵は全滅し、領主にももはや手を打つ術が無い状態にさせられました。しかしその化け蜘蛛を放って置く事はできないのです。その森羅の森を開く事ができれば領主の領土は活性化し、今回のこの化け蜘蛛討伐に参加してくださった皆様にも高い給金をお支払いする事が可能となります。ですからどうか、お手伝いしてくださりませんか?」
結局ヒヨコ豆が鳥から生まれるのか否か、その答えが出せなかったプームはそれを聞きバーンを見た。
バーンもプームににこりと微笑みかけながら飲み干したカップを置き、手を上げた。
プームの書き綴る物語の最後を締めくくる物語として二人はこの森羅の森の化け蜘蛛退治を選んだのだ。
【V】 A private talk of young girls
店じまいとなった白山羊亭は千獣の座る席だけを残して他の椅子はテーブルの上に乗せられていた。
千獣は温かな湯気を立ち昇らせる蜂蜜酒を口に運びながら何事かを考えているようだ。
そんな彼女にルディアは声をかけるかどうか迷った。
が、千獣が店に彼女が戻ってきた気配に気付かない訳が無い。
マグカップをテーブルの上に置き、千獣がルディアを振り返る。
揺れた前髪は千獣がわずかに小首を傾げたから。
彼女の前髪の隙間から覗く呪符を織り込んだ包帯は見る者に不安と恐怖を抱かせ、その心を浮き足立たせる物でしかないが、しかし同じ様に長い前髪の隙間から垣間見える千獣のそのルディアを窺う表情や瞳は、どこか動物の子どもが持つ無邪気さを感じさせた。
少し肌寒い夜気をルディアは揺らして首を横に振る。
それから彼女は空気を一変させるように微笑んだ。
「少し肌寒いね、ごめんね。暖炉の火を強くするから」
「………大丈夫、だったから…………」
大丈夫だったから。
千獣と初めて話す人物は度々彼女の思考もプロセスも無しに答えをぶつけるような喋り方に考え込んでしまう事もあるが、ルディアほど彼女と打ち解けた人物にとっては彼女が何を言いたいかはわかる。
大丈夫。肌寒くは無かったから、そんなに自分を責めないで、と彼女は言っているのだ。
ルディアは微笑んだ。
「うん。でも火、強くするから」
店の暖炉の前へと行ったルディアは、暖炉に薪をくべ、ついでに蜂蜜酒と干し肉も暖炉にかけたようだ。
わずか数分で蜂蜜酒の甘く濃厚な香りと干し肉の香ばしい匂いが夜の冷えた空気に温められるのと一緒に孕まれていく。
千獣は少し冷めたカップの中身を一度見て、それから蜂蜜酒と干し肉の面倒を見ているルディアの華奢だが柔らかそうな女の子特有の背中を見て、もう一度カップの中の琥珀色の液体を見てからそれを一気飲みした。
むせてしまった。
けほけほと咳をしていると、くすくすとかわいらしい声がすっかりと暖かくなった店の空気を揺らした。
そして小さな手が千獣の背中をさすってくれた。
背中をさすられる、例えば人間の赤ん坊はお母さんのおっぱいを飲んだ後に必ず背中をさすられる。げっぷを出させるために。
そういうのは千獣は前に馬車の中で見た母子を見て、知っていた。
知っているだけ。
自分の幼い頃のそんな記憶は無かった。
こうして生きている以上は、狼の乳で育てられたのだろうし、そうであるのであればげっぷだって出さされていたのであろうが、でもその方法はきっと人間のお母さんとは違う。
――――違う。
「何か言った、千獣?」
優しくルディアが言う。
千獣は首を横に振った。
背中にはルディアの手のさすってくれた感触と、
その柔らかみ、
そして温もりがあった。
「………お母、さんか…………」
「あー、お母さん、なんだったってね、あの化け蜘蛛。サーシャの」
サーシャ。それが森羅の森の化け蜘蛛に育てられた娘の名前。
ルディアは千獣の前に新しい予め温めてあったマグカップに熱々の蜂蜜酒を注いでくれた。
それと一緒に肉汁を出している熱々の厚みのある干し肉も出される。
千獣がルディアを見ると彼女はこくりと頷いた。
「サービス………んー、違うな。お礼。うん、お礼だ。サーシャの願いを聞いてくれた千獣への。ありがとう、って」
「………ルディア、は…サーシャと、…………お友達…?」
「ううん、違うよ。あの娘は今日、ここに来たんだって。そうじゃなくって、やっぱり泣いている子に優しくしてあげられる人には感謝するものよ。それが人間かな? そして千獣は泣いているサーシャに誓ってくれたじゃない、お母さんを助けるって」
千獣は真っ直ぐとルディアを見た。
それから蜂蜜酒と干し肉を見る。
他人のために何かをする。
そのための動機は人それぞれ。
千獣がサーシャのために化け蜘蛛を守ると誓ったのはそれは彼女と千獣が一緒で、その心が理解できたから。
でもルディアが言っているのは、それとはまた微妙に違う感情のように思えた。
正直、人間の感情と言われても、それは千獣には詳しくはわからない。
たどたどしい言葉遣いは彼女の育ってきた環境を示す証だし、
それにこの呪符を織り込んだ包帯を巻きつける身体の奥底に潜んでいる物との戦いに絶えず曝される心には、それは隙となる物のような気がした。
それでも、そう、それでも同時にルディアが言うその感情がどうしようもなく全てを犠牲にしてでも守らねばならぬ感情で、それ故にどのような憎しみや怒りといった負の感情よりも自分に力をくれる源である事も千獣にはわかりかけていた。
奥歯を噛み締め、
両手と両足の指で何かをもぎ取るように指に力を込めて、
全身に力を入れ、
血液全てを沸騰させ、
その癖身体のしんと凍え渡るような裡で、
自分がこれまで取り込んで来た物たちと戦うのは孤独な作業で、どうしようもできないほどの疲労を伴う作業であったのだ。
だが何時しか人間と呼ばれる種族たちと共に戦ったり、それと話したり、生活を共にし、
そしてついには彼と出逢い、
その彼の自分を抱く腕の強さ、暖かさ、抱かれている時の安心感、合わせた胸に伝わってくる心臓のリズムを知った今では、
その感情が、それらが、裡に潜むそれと戦う時の力となっている。
―――本当は、それを知る前は、実は疲れていた部位が確かにあった。
磨耗した心は薄くなり、鏡のようになったそれは確かに千獣の、まあ、こいつらに身体をくれてやってもいいかな? というような弱くなった心、投げやりな諦め、自暴自棄のようなモノを映し出していたのだ。
それは酷く凍えた、というよりも、温度など最初から無いような感じだった。
しかし彼の腕の力、温もり、声、息遣い、心臓の音色、そのリズム、彼の雰囲気、彼の全てが、その温度の無かった部位にも、確かに伝わり、それでその磨耗し、薄くなって、鏡の様になったそれに映る物は確かに換わったのだ。
彼が映る様になっていた。
まだ、本当の事を言うと、その大切な人間としての感情は、人間としての本能で感じ取れるけど、
人間として育った時間が短い千獣には、それの名前が無いから、
しっかりとは感じ取れてはいない。
それでも彼女は、
千獣の心が投影された幼い幼女の姿をした千獣は、
その太陽のような輝きと温もりを持つ、人間の誰かを求め愛する、という感情を抱きしめたがっていた。
愛するとは慈しみ。
慈しみは他者へと与える物。
指先から指先へと伝わる温もりのような、そんな感情の伝染は、千獣は知らない。
それでも微笑むルディアの感情が伝染したように千獣も微笑んだ。
そして千獣はそっと、ルディアの小さく膨らんだ胸を右の手の平で包んだ。
「…………ルディアの、ここには、温かい形がわからない、そんなモノがあるんだよね………それは、私と一緒…………私にもあるの…ルディアと一緒………温かくって、形は無いけど、でも確かに…どんなモノよりも強いもの…」
―――――温かくって、形は無いけど、でも確かに…どんなモノよりも強いもの
それは、まだ名前の無い愛情と言う感情。
ルディアはにこりと微笑んだ。
「そうだね」
「………うん。あ、でも………」
「でも?」
「………胸の大きさは全然、違う…………」
「千獣。めっ」
【W】 Takayuki Mother
朝日が昇っていく中で、千獣は一日の中で一番空気が澄んでいると言われる早朝の空気を吸った。
冷たい凍え渡るような空気を灰で満たすのはどこか自分さえもこの静謐な世界の一部となったような気がした。
世界の一部に、
そして世界を一部に。
そんな感覚が、千獣の頭の天辺から足のつま先まで満ち満ちていた。
身体は充実していた。眠った時間はわずか数時間だけど、それで充分だった。
あの森ではそれこそわずか数分の睡眠時間でも良く寝られた方だといえる時さえあったのだ。
野生の鋭い時間を忘れた時など一時だって無かった。
だけど、最近は微温湯の中に浸かっている様な、そんな安心できるけど、何かが殺がれていくような心許無さを感じる時はあった。
行く場所は森だった。
人間の手が入っていない深い森だ。
血が、騒いだ。
自分の中で眠っていた何かが、目覚めていくのを感じた。
殺ぎ落とされていった物が蘇るような感じがした。
興奮していた。
肌が微熱に犯されている時のような熱さを持ち、紅潮しているのを感じる。
息苦しいのは心臓がいつもよりも早く脈打っているからだ。
わずかに顎の角度をあげて、まだ星と月が残る天上を見上げて、もう一度胸いっぱいに冷たい空気を千獣は吸った。
その冷たさは刃物の冷たさを思わせた。
刃に傷つけられた傷から迸り、肌を愛撫する血液の冷たさを思わせた。
全身を走った震えは、武者震いと言うよりも、歓びだったのかもしれない。
戦える、歓び。
「………あなたたちに私の、身体はあげない…でも、力は、使わせて…もらう…」
どくんと、千獣の両足が脈打った。
裡に潜むそれらが歓喜の雄叫びをあげるように、胸に何ともいえない感覚が湧き上がった。
それらは酔いしれるように早く自分たちを使え、と千獣に訴えかけていた。
千獣の裡にある事の屈辱の憂さを晴らせるのが嬉しいのだし、
それに、そう、それにそれらは今もってまだ尚、千獣の心を喰らい、自分こそが千獣の美しく、豊満な女の肢体を奪い取ろうとしているのを諦めてはいないのだ。
――――隙あらば、この身体を奪い取る。
それを千獣はわかっている。
だが、彼女は自分の両足の呪符を織り込んだ包帯を外した。
それによって彼女のすらりとした、しかし確かに女の柔らかさとしなやかさを感じさせる脚は、醜い獣の発達しすぎた強靭な脚へと変化していく。
そして彼女はその脚で、大地を蹴って、まだ早朝の湿気を含んだ、水の膜のような空気の壁を打ち破って、風よりも早く走り出した。
そう。それらがそれを考えているなど百も承知。
それを知った上で彼女は使うのだ、その力を。
守りたい感情があるから。
そして彼が居るからこそ、千獣は絶対に自分をそれらから守りきって見せると心に誓うのであった。
森羅の森とは、たとえペガサスの翼を持ってしても一日はかかる距離であった。
しかし千獣の脚はそれをわずか半日で走破したのである。
森羅の森へと来る途中であの勇者一行を乗せた馬車を見た。
おそらくは彼らが仕掛けてくるのは明日の早朝だろう。
森の入り口に夜に到着し、日の出と共に戦闘を仕掛けてくるはずだ。
だから獣を使った身を休める時間は充分にあった。
そしてそれこそが夜に獣を使う事を避け、早朝と共に一気に森へと駆けてきた千獣の計算であった。
森の入り口に到達した千獣は獣を引っ込めた。
素早く呪符を織り込んだ包帯で身体の封印にかかる。しかし、それで酷使した身体の反動を抑えきれるかと訊かれれば答えは否、と答えざるを得ない。
千獣は湿った黒土の上に転がり、身体を丸めて、苦鳴をあげた。
捲し上げたズボンから覗く彼女の細い足は女の足とは言え白すぎた。それは蝋の様に白く、血の気が無い。
そして、血管が透けて見えるほどの彼女の細い足の筋肉は絶えず痙攣し続けているのだ。
早朝でこれだ。
もしも夜に使っていれば、それは千獣の下半身を完全に掌握していただろう。
自分のモノでありがながらしかし、もはや自分のものではなくなったかのように温度が無く、痙攣し続けている足に千獣は奥歯を噛み締めながら耐え、ようやく朝日が昇った空を見上げた。
両手で湿った土を掻き毟りながら。
荒い呼吸はうるさいほどに耳朶を叩く。
森から野鳥が奇怪な声をあげて羽ばたいた。
そして、それはある予感を千獣に抱かせた。
弾かれるように彼女が無理やり身体を動かしたのと、転瞬前まで彼女が居た場所に剣が振り下ろされたのとがほぼ同時であった。
もしも千獣の判断がもう少し遅ければ今頃そこには血黙りに沈む彼女の死体があったはずだ。
千獣は立ち上がった。
痙攣する足を酷使しているのは丸わかりだ。
それでも彼女は凛とその剣を構える風体の悪い男たちに対峙した。
男たちの人相はどれも凶悪だ。最低だった。
その濁ったような目は、千獣の顔、剥き出しにされている汗ばんだ太もも、それから豊かなふくらみが服の上からでもわかる胸、薄い腹、腰のくびれ、首、と来て黒髪に縁取られた彼女の美しい顔へとまた視線を戻した。
5人居る中でも一番気持ちの悪い嘗め回すように視線を向けてきていた男が舌なめずりをした。
「へっ。まさか化け蜘蛛と睨めっこする退屈な時間にこんな美味しいおまけがくっついてくるとは思っても見なかったぜ。俺が一番だ。文句はネーよな」
「どうする? 順番でひとりずつでやるか? それとも全員でやるのか?」
「時間はあるだろう。一人ずつでぎりぎりまで遊ぼうぜ」
「はっ、親分、悔しがるだろうな。こんな上物と遊べネーなんてよ」
「良い声で鳴けよ」
と最後に言った男が、千獣の胸に伸ばした方の腕を足下に転がしながら悲鳴をあげた。
うるさい絶叫を上げて、男は地面の上を転がった。
もあっと広がった血の匂いに、まるで興奮しているように千獣の細い足の筋肉が痙攣…いや、蠢いている。
そう。それはまるでその皮膚の下は別の生き物であるかのように蠢いているのだ。
仲間の腕が目に見えぬ何かに落とされた事に慄いていた男たちはさらに千獣のその足を見て、完全に我を失い、
そして千獣に一斉に襲い掛かってきた。
剣を、槍を、斧を振り上げ肉薄してくる彼らに千獣は聖獣装具【疾風刃・スライシングエア】を投げつけた。
硝子のような透明なそれは男たちの武器を粉々に粉砕した。
そしてそれに目を見開き、恐怖で固まった彼らの身体を彼女はそれの鎖で絡めたのだ。
そうして敵である彼らの動きを止めた。それによって彼らを救った。
千獣の足の痙攣はいつの間にか止まっていた。
気配に敏感である者がもしもその場に居れば、千獣の裡に潜む者たちが、まるで夜が過ぎ去るのを息を殺して待つ小動物のように息を潜めていた事に気づいた事であろう。しかしこの場においてそれに気付けるのは彼女だけであった。
そして、千獣は森へと視線を向けた。
そこに居たのだ。
先ほど、吐いた糸を使い、千獣の胸を鷲掴もうとした男の腕を肘から落とした化け蜘蛛が。
彼女の裡に潜むそれらは明らかに化け蜘蛛を恐れていた。
それはそれほどのモノであったのだ。
果たして千獣ですら敵うかどうかわからないほどの強靭な力を持っている。
千獣はもはや鎖に絡まれて動けぬ男たちに一瞥もくれる事無く森の中に入っていった。
森は深く、様々な動物たちが息づいていた。
人間の手が入っていない森は整理された公園の動植物の美しさは無いが、その分自然の呼吸が聞こえてくるような強さと、静謐で神秘的な森の気配が凄まじく強かった。
そしてその森の気配も、豊富な植物たちによる光合成の結果である濃い酸素も千獣に生まれ育った森を思わせた。
森の奥深く、そこにその化け蜘蛛は居た。
美しい蜘蛛の巣にそれは張り付き、蜘蛛の目で千獣を見ている。
「やれやれ。困ったお嬢さんね。こんな場所にまで入ってきて。ここが危険な場所だって、知らないのかしら? 蜘蛛は肉食なのよ? 食べられちゃうわよ。さっきの男たちは不味そうだったから食べなかったけど、お嬢さんは柔らかそうで美味しそうだから、食べちゃうわよ?」
人間ならきっと言いながら笑っているのだろう。
そんな事を思わせる声でその化け蜘蛛は言った。
それに千獣は、長い睫を上下させて、それから小さく小首傾げた。
「………だったら、どうして、………あいつの腕を落とした時に………私を食べなかったの? ………糸で捕らえて…そっちの方が正解…………」
「まあ。意外と鋭いツッコミをするわね。そうね。そうしなかったのは、怖いのがこっちに向かっていて、今はあまり食べ過ぎて、お腹にもたれると、動きが鈍くなって不利になるからよ」
「でも蜘蛛の巣に………保存食にしておけば………」
「うぅ。意外と食いかかるわね」
化け蜘蛛はうめくようにそう言った後にくすくすと笑った。
そして千獣は、背負っていた鞄から魔法瓶とバスケット、それから一枚のハンカチを取り出し、
「街で………人間の、女の子と、会った…その子、は………あなたの、こと…おかあさんって、呼んで、た…」
サーシャの事だよ、と千獣はそのハンカチを彼女に見せた。
「まあ、サーシャを知っているの?」
千獣はこくりと頷く。
「私は、あなたの、こと…よく、知らない………でも」、とそこで言葉を区切り、何かを思い出すような顔をした千獣が次に浮かべた表情はとても優しくって温かな表情だった。その表情を浮かべたまま彼女は言った。
「良い、おかあさんなんだね、あなたは。………だから私は、あなたを守るって、サーシャに約束、したの」
「そう。サーシャと。サーシャは元気だった?」
「…うん。………元気に、してた。………でも、もう直ここに………来る…奴らが、あなたを…殺すって…それを聞いて…泣いていた…」
「それであなたは、あたしを守るって?」
「そう」
「何で? あなたはサーシャとは無関係でしょう?」
そう言われて、千獣は自分の左胸に両手を重ねた。
「ここにある…温かくって…優しくって………だけど形の無い物が…サーシャの涙を止めてあげたいと思ったから………そしてサーシャは私と一緒だから…」
「一緒?」
「………私は狼に、育てられた、から…………。私は、狼がお母さん………」
「そう」
化け蜘蛛はどすん、と降りた。
そして千獣の目の前にまで来る。
「サーシャは人の中に居る?」
「………ルディアと一緒に、居る………ルディア、良い人…」
「そう。あなたは? 狼に育てられたあなたは、人間と一緒に居れる? 好いた男は居る?」
「人間と一緒に、居る。…………好いた?」
好いた、という部分できょとん、と彼女は小首を傾げた。
「大事だと思う、誰よりも一緒に居たいと望む男は居る?」
「…………あなたの言っている事と一緒なのかは、わからない………でも、とても温かくって、安心できる腕なら、私は知っている………」
「そう」
彼女はにこっりと笑ったようだった。
「願わくばサーシャも。あたしはね、あの娘をここから追い出したの。でも、あの娘はあたしをまだ母と慕ってくれているのね。サーシャ。サーシャ。どうか人間として幸せに」
蜘蛛の目から零れ落ちた涙を千獣はとても美しいと思った。
そしてあの、遠い日を思い出した。
木漏れ日の中で母と呼んだ狼に抱かれながら眠った、あの日々を。
あたたかい、おもいで。
だから、それを言ったのにもやはり、躊躇いは無かった。本心だった。
「………これが、終わったら、私がサーシャとルディアを、連れて………来てあげる」
にこりと微笑みながらそう言うと、化け蜘蛛はとても嬉しそうにくすくすと笑い、「ええ」、「ええ」、と何度も頷いていた。
そして、朝日を迎える。
ルディアが持たせてくれた温かな蜂蜜酒で身体を温め、干し肉とサンドイッチでお腹を満たした千獣は森の入り口で彼らを出迎えた。
【X】 The pen is mightier than the sword
森羅の森へと向かっている馬車の中から見たそれは凄まじく禍々しくって、まさしく化け物と呼ぶに相応しい物だった。
足は完全に怪異だった。
発達した筋肉は黒光りしていて、それ自体はともすれば美しいと言えたかもしれない。
だけどケンタロウスを思わせるかのように人間の姿をした上半身が美しい少女のモノであった分だけ本当に彼女は凄まじく怖いと思わされるモノだった。
それは風のように馬車の横を走り抜けて行った。
そしてそれを見てバーンはふむ、と鼻を鳴らして、おもむろに腰のリボルバーの手入れを開始した。
それを見てプームは驚いた。
彼がリボルバーをつかう事はまずは無いからだ。
それでも手入れは欠かさずにしているが、しかし絶対に彼はそれをこれまで使わなかった。
そんな彼が、リボルバーの手入れをしだした。
「バーン?」
プームは訊いた。
するとバーンは言った。
「本当は剣士としてこんなモノには頼りたくは無いのだけどね。だが、彼女を敵にするなら、これに頼らざるを得ない」
「彼女?」
「先ほどのあの彼女だよ」
「あ、あの、化け物を知っているの?」
「あれは千獣と言う。唯一私が未だに勝てない存在だ」
それは大いにプームを驚かせた。
勇者バーン・ホレストは彼にとってはヒーローだったのだから。
そしてだから、プームはぎゅっと小さな手を握り締めた。
ホビットの手を。
「悔しい」
彼は涙を流した。
身体を震わせた。
だがそんな彼をバーンは厳しい目で眺めながら、ただ一言、
「真実だ」
と、そう言った。
プームは絶対に信じない。
そう思った。
しかし、勇者バーンは…………
千獣は最初こそわからなかったが、しかし彼が背中に背負う鞘から抜いた剣を見て、今自分の目の前に立つ彼があの、バーン・ホレストだと気付いた。
信じられなかった。
あの勇者が………。
振られる剣の太刀筋は紛れも無く彼のものだった。
だけど、その剣を振るうスピードも、力強さももはや千獣の命を狙い、彼女に一日にわずか数分の睡眠しか許さなかったあの狡猾で計算高い、そんな必殺絶対の剣士であり狩人であり、勇者である面影を感じさせなかった。
ああ、でもこれが人間なのだ。
どれほど強かろうが、人間はいずれは歳を取る。
獰猛な肉食獣の咆哮のような鋭く暴力的な音が千獣の耳朶を貫くように叩いた。拳銃の発射音だ。
弾丸が千獣の左肩を貫いていた。
肉が焦げ付いた銃創からはどす黒い血が迸り出る。
しかしそれを構いもせずに千獣は驚きに見開いた瞳を、次には鋭く細めた。
歯軋りさえしていた。
怒っていた、彼女は。
「………どうし、て? バーン。あなたは、剣士だった。拳銃には頼らなかった…ずるかったけど、卑怯じゃなかった…その、あなたが………」
「何を言う、千獣。人間とは歳を取るのだ。歳を取る生き物なのだ、人間とは。おまえが知っている私は若き日の私。今この場に居るのは、老いぼれ、己の信念すらももはや貫けぬ老人なのだぁー」
剣を振り上げようとして、しかしその剣をもはや振り上げられない彼は、だがその光を失わない眼光で射殺すように千獣を見た。
そしてそれで、千獣は彼が連れているホビットを見た。
ホビットは千獣を睨んでいるが、だけど…………
「わかった………勇者バーン・ホーレスト…あなたの物語は私が…終わらせてあげる…」
そうして彼女は右手の呪符を織り込んだ包帯を引きちぎり、ついで彼女の腕は、奇怪な腕と変わり、
勝負はもはや一瞬だった。
「バーン」
プームは叫んだ。
悔しかった。
本当に悔しかった。
本当になんで自分は無力なホビットなのだろう?
それが悔しい。
すごく悔しい。
そして彼は、バーンの手から落ちた剣を握った。
本当は勇者への夢を忘れられなかった。
いつも毎晩バーンに隠れて剣を振るっていた。
鍛錬はしていた。
でもホビットだから………
ホビットだから、何?
そんな壁を作ったのは何時からだったろうか?
そんな自分にこそプームは腹が立った。
そして、切れた。
「…………」
千獣は肌が粟立ったのを感じた。
勇者バーンですらその真の力を引き出せなかった勇者専用の魔法剣アルスの力を目の前のホビットが引き出したのだから。
千獣はバーンを見た。
そしてにこりと微笑んだ。
多大な剣の才能、そして魔法使いの最高位賢者の魔力、エレメンタリーとしての素質、たゆまぬ努力を続ける精神など数々の制約と誓約が必要とされるそれの力を引き出せるホビットの力を目覚めさせるためにバーンはここに来たのだ。
「ああ、そうか。それがあなたの理由だったんだね。あなたは父親なんだね、このホビットの」
ならば自分は彼の父親と幾度と戦った好敵手として、彼の大切な息子が今後その力と才能に奢る事無いように、完全に、ずたボロにしてやろうと思った。
そうされて尚、立ち上がる事ができ、彼が認めた正義を失う事無ければ、このホビットは真の勇者となれる。
それがもう病に侵されて、余命幾ばくも無いバーンという好敵手にしてあげられる事。
千獣はもう片方の腕の封印を解き、両腕でホビットを瞬殺した。
「相変わらず容赦無いな」
「でも殺しては、いない」
「当たり前だ」
バーンはくすくすと笑った。
そしてありがとう、と言った。
だが、千獣の前に立ったのは、あの酒樽のような腹をした男だった。
手には魔法銃を持っている。
「ちぃ。役立たずめ。あの化け蜘蛛が持つ魔法石を取らねばならぬというのに。何が勇者だ。が、まあ、いい。おまえの剣はこの俺様が使ってやる」
そして魔法銃の銃口が千獣に向けられる。
千獣の瞳が彼を見据える。銃口が照準されているのと同じ様に。
「………それが、あなたの理由で………それで、私たちの命を奪うんだね…でも、奪おうとするのなら、奪われる覚悟もできているよね?」
言いながら千獣は呪符が織り込まれた包帯を外していく。
そして呪符を織り込んだ包帯という枷から解放された千獣の赤い瞳の光りが、その紅さを増していく。
紅く、紅く、紅く、冷たく―――
しゅん、という大気が切れる音がその場に奏でられたと思った時には千獣の姿は消えていた。
男は銃を構えたままたじろぐ。
世界の空気はもはや完全に変わっていた。
そして獣の濃い臭いと血の臭いがうずまくその空気に彼は吐き気を催し、
その恐怖に気おされ、
失禁した。
動けぬ彼の後ろに何かが立った。
空気の切れる音、
魔法銃が手元で切れ、
宙に舞ったそれはさらに粉みじんに切られる。
凶悪な獣の吐息が、彼のうなじを触ったその瞬間に彼は自分の首がもぎ取られた白昼夢を見て、気絶した。
正確には後ろから千獣に殴られて、気絶した。
【ending】
森羅の森には温かな蜂蜜酒と美味しそうな料理の香りが広がっていて、森の動物たちは草木の下からひょっこりと顔を出して、
シートの上に座って美味しそうに料理を食べたり、温かな蜂蜜酒を飲みながら楽しそうにお喋りする女の子たちとこの森に生きる者たち全てのお母さんである蜘蛛を平和そうに眺めていた。
→closed
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3087 / 千獣 / 女性 / 17歳 / 異界職
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、千獣さま。
はじめまして。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。
今回はご依頼ありがとうございます。
ソーンの依頼は2年ぶりだったりするので、すごく依頼していただけたときは嬉しかったですし、書いててすごく楽しかったです。^^
プレイングで千獣さんが蜘蛛に語りかけて、微笑むシーンがありましたよね。
あのプレイングを読んで凄く書きたいと想いましたし、また千獣さんの狼に育てられたと言う設定が今回の依頼と重なって、それですごくすごく千獣さんの内面、心理描写がばぁーっと浮かんできて、それを文章にしていく作業が本当に面白かったのです。^^
だから本当に千獣さんのプレイング、設定を読んで、すごくテンションがあがったのですよね。^^
本当に本当にご依頼、ありがとうございました。
お待たせしてしまった分だけ、PLさまにお気に召していただける物となっていれば本当に幸いです。
それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
ご依頼、本当にありがとうございました。
失礼します。
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