<PCクエストノベル(2人)>


地下に眠る意識


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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 3458/ マリア・ランスロウ/冒険者】
【 3459/ ハインツ・ゲルデン/賞金稼ぎ】

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現れ出でたる風貌は中々の迫力、風雨に晒され見事な装飾を施された門は所々欠け落ち汚れていた。森を抜け、ようやっと地下墓地へと辿り着いたのは、淡い金髪は太陽の光を反射し銀にも見える。おっとりとした目線を上げ、辿り着いた目的の場所、ムンゲの地下墓地の入り口を見上げた。

マリア:「ここ、ね」

女性の騎士、にしては装飾の少ない鎧を着け、門を眺めるのは冒険者、マリア・ランスロウ。風が仄かに金の髪を掻き揚げるのを、心地良さそうに目を伏せた。そうして、心中、頼まれたものを思い出す。
…知り合いである、女性の懇願する様子が脳裏に浮かんだ。よし、…そう自分に言い聞かせるように声をあげ、気を昂ぶらせる。いざ、臨むはムンゲの地下墓地。アンデッドが出ると噂、準備万端、腰に聖水を提げている。それが、歩くたびにかちゃかちゃと音を立てた。
苔生す石はすべりも良く、マリアの足元を危なっかしくさせた。気をつけながら、数段の階段を歩みながらも門の前へと…マリアは携えていた剣へと素早く手を伸ばし、いつでも抜けるよう柄へと手を掛けぐっと力強く握った。…誰か居る。

ハインツ:「…そこまで警戒する事は無いだろう?」

門の内側より…―マリアの構えを解こうとしてか―、両手を挙げ出てきたのは…鈍い色の鎧を纏った戦士、ハインツ・ゲルデンだった。マリアの厳しくなった面持ちも、ハインツの顔を見ればすぐに目を丸くした。そして、何かを思い出そうとしているのか…、眸を彼方此方へと回しああでもないこうでもない、考えあぐね始めた。

マリア:「ああ、何処だったかしら…あの、お会いした事…ありますよね?」

何をやっているのかと、ハインツは不思議そうに見ていたが急に此方へと振られるマリアの言葉。少し考えた後にああと声を上げる。

ハインツ:「ギルドで顔を見た程度だと、思うがな」

なるほど!と叫んだマリアはどうやら、合点が言ったようでスッキリした表情で手を叩いた。しかし、後に考えるのはハインツは何をしに、この墓地へやって来たのだろうという疑問だった。墓荒らしをするような人物にも見えはしないが…、ううん…と、唸るマリアの勘繰りは中々上手くいっていないようだ。

マリア:「…お名前、教えていただけませんか?私はマリア・ランスロウと申します」

胸に手を当て、金の髪を揺らし軽く会釈をハインツへと送る。それにはハインツも反すようにゆっくりと頷いた。

ハインツ:「ハインツ・ゲルデン。賞金稼ぎをやってる」

マリア:「賞金稼ぎ…この墓地に、賞金がかけられている物でも?」

マリアの質問にハインツは緩く首を数度振るった。多少言うのは躊躇われるのか、一文字に口を結んだままに少し考えるように目線をマリアから外す。

ハインツ:「…そういうマリアはどうなんだ」

急に呼び捨てと来れば、少々びっくりしたように目を見開いてしまうが、流された事には触れる事はしない。

マリア:「……落し物を、取りに行ってほしいと頼まれたのです」

そうか、ハインツは短く返事をし、踵を返すともう一度墓地の中へと足を進め始めた。あっと声をあげ、マリアも慌てて後へと続くように地下墓地への道を歩む。かしゃん・かしゃんと、鎧の重なり合う音が暗い地下道へ響いた。落ちた音は暗い階段の中へと吸い込まれ、深淵の底へと真っ逆さまだ。


ハインツ:「…で、何で付いて来てる?」

振り返らずに、後に続くマリアへと声をかけた。マリアといえば、瞬きを数度繰り返す。そうして当然の言葉をつむいで言った。

マリア:「入り口を此処しか知りませんから」

…地下墓地、ともなれば、入り口は一つか二つほどしかないだろう。暗い階段は何処を見回そうともハインツの目の前のみにしか在らず。ただ門から入る光以外は全て遮断され、階段はただの穴にしか見えない。マリアは先の事を思い、小さなランプを取り出した。

ハインツ:「まあ、行き先は同じ…か。一人で行かせるのも心配だ、一緒に行ってやる」

マリア:「有難う御座います、あ、でも…ハインツさんの用事は?」

ランプへと火をつけながら、先ほどは流された話題をマリアは再度持ち返した。ハインツはマリアが横へと並ぶまで足を止め、少しマリアのほうを振り返る。

ハインツ:「呪いの手がかりを探しに。…持つ」

…マリアを見る限り、さして問題は無いだろう。ハインツは一言簡潔に、用件を述べ上げた。そうして片手を差し出し、マリアもゆっくりとランプを渡した。火が揺れ、日とランプの灯りで作られた二人の、二つづつの影もまた揺れる。

マリア:「それはハインツさんの…それともお知り合いの方ですか」

ハインツ:「私だ、随分昔に受けた呪いでな…、行こう」

足が止まっていたまま、話に興ずるのは場所柄ではない。顎で階段の奥を指し示し、ハインツは足を踏み出した。マリアも少し遅れて歩みだす、ハインツよりは一歩後ろだ。
地下墓地の階段は、洞穴に近く山より染み出でた雨水が所々漏れていた。壁伝いに雨水が這い、石造りの床へと染み込んでいる。トン・トン・トン、水垂れの音が石の床を打つ音が通路中へと響き、ランプの灯りの揺れと不思議に調和している。

マリア:「狭い…ハインツさん、頭をぶつけないでくださいね…っわ」

天井はハインツの頭すれすれ…とまでは行かないが、斧槍は多少傾けねばならないほどに低かった。そんなハインツの事を考えてか、マリアは忠告をするが行っているうちに床に生す苔で足を滑らした。…しかし、何処にも鈍い痛みは訪れる事は無く、マリアの右腕に強い力がかかって倒れるのを防いでくれている。

ハインツ:「マリア、私の事はいいから…お前が気をつけろ」

ゆっくりとマリアの右腕を掴む左手を持ち上げ、マリアが立てるようにハインツは助力した。マリアは照れ笑いを浮かべながら、態勢を持ち直す。

マリア:「お、お恥ずかしい限りです」

軽く笑いながら、ゆっくりとマリアは歩みを再開した。ハインツはマリアの歩調に合わせ、今度は横並びに歩いている。ランプが照らし出す先にようやっと階段の終わりが見えた、其の先にあるのはどうやら部屋ではなく路地。

マリア:「もうすぐ…墓地に着くのでしょうか」

ハインツ:「さあ…、とりあえず、行ってみよう」

マリアは小さく頷くと、再度滑らぬように、慎重に階段を下りて行く。最後の段を降りれば、階段よりは天井は多少高くはなっている。階段と同じように殺風景な路地が延びていた、ハインツが腕を掲げランプで照らそうとしても路地の先は見えない。

ハインツ:「…私が先を行こう」

マリアの横をすり抜けるようにしてハインツが先を歩み始めた、マリアは慌ててハインツの背を追いかける。長く続く路地に二人の足音が重なるが、依然として先は暗闇に覆われたまま。少し振り返ったマリアの目には、先ほどの階段の出入り口は既に見えなくなっていた。

マリア:「この路地、何処まで続いているんでしょうね」

ハインツ:「恐らく、まだ階段はあるだろうから…そこじゃないか」

詳しいのですね、とのマリアの褒め言葉には、ハインツはいいやと短く返すだけだった。
…ランプ光が曲がった、もう一度現れる階段の姿にマリアは感嘆の息を吐く。

マリア:「本当…。ハインツさん、どうして知っていたんですか?」

急に現れたハインツ、とてもよくこの地下墓地の内部を知っているようにマリアには思え、少々内心にはこの人物は信用してよいものだろうか…と、マリアは訝しんだが返って来るハインツの返事は、とても淡々と当然のように返された。

ハインツ:「情報を集めていたからな。噂通りなら、この階段の先に墓地があるはずだ。…そのくらいしておけよ」

ハインツの忠告に、マリアはきょとんとした後に尤もだ、と納得してしまった。…自分がただ緩いだけなのだろうか?マリアの疑問は耐える事は無いが、足はさくさくと先へと進んでいく。二人は階段を下っていき、今度はどうやら短いようだ、すぐに路地の入り口がランプの灯りに照らされる。



マリア:「はぁ、ようやく広い所に出ましたね」

天井は今までより一番高いだろう、とはいっても民家の天井と同じくらいの高さだが。墓地と言うより、階段の踊り場…若しくは、小さな広場を連想させた。いくつもの入り口があり、近くの一つの中へとハインツはランプを翳す。

ハインツ:「…ここか」

大小の墓石が規則正しく整列し、静かに暗い部屋の中に鎮座している。墓地の中へと足を踏み入れようとしたハインツの耳へ、マリアの声が届いた。

マリア:「ハインツさん、此方にも階段が…」



ハインツ:「…まだ下が?」

覗き込んだハインツの顔に生温い空気が当たる、階段の底は見えず…とても暗い。

マリア:「下を先に行きましょうか」

ハインツ:「…そうだな」

マリアの言い分に、一つ頷けばハインツは階段を下りようと足を踏み出した。腕を伸ばしてランプをかざすが、奥はどうやら更に深い様子。全く持って底は知れない、…ハインツの靴底が少しばかり滑った。眉間に皺を寄せ足を留めると、手を後方へと差し出した。

ハインツ:「掴まれ」

少しばかり、マリアの中では時が止まってしまった。その後すぐに、ええっと声を上げて石造りの壁を震わした。

マリア:「そんな、大丈夫ですよ」

ハインツ:「良いから掴まれ、マリアは危なっかしい」

マリア:「えっ、は、はい…」

そうもはっきり言われてしまうと、どことなくガッカリとしながらも、マリアはハインツの手へとそっと手を重ねた。かんかんと、床を踵で叩き階段を下りて行く。それは長かったが、暗いお陰で時間の浪費がいかほどか、などは二人には判りはし得ないだろう。…ランプの灯りが曲がる、そろそろ階段も終わる頃だ。

ハインツ:「…そろそろ着くぞ、気をつけろ」

マリアの手からするりと、大きな手は抜けていった。マリアはふと足を留めて、先ほどまで別の温もりに引かれていた己の手を見遣る、少し残念そうに指を動かした後、先へと行くハインツの後へとゆっくりと続いた。



マリア:「ここも…墓地、ですよね…」

ハインツ:「恐らくは」

二人ともが、此処は墓地と呼んでも良い代物だろうか?などと、疑問を抱いてしまうような風景が、そこには広がっていた。階段を下り、恐らく最下層の部屋の入り口を潜ったその先。幾つもの扉があるのは先ほどの場所と同じだが、先ほどの部屋より以上に広く…部屋の一番向こう際には何やら祭壇めいた物が見受けられた。そして、其の前には、大量の屍たちが折り重なり、崩れ、腐敗していた。

ハインツ:「墓地以外の、役割もしていたようだがな」

マリア:「あっ、ハインツさん、危ないですよ…あんまり近くに寄らないほうが…」

ハインツ:「マリアは来るな、そこで待っていろ。私は、確かめたい事がある」

金細工のような睫を揺らしてマリアは瞬きをした、ハインツの目的をもう一度思い出すように、唇の動きだけで言葉を紡いだ。屍の山へと向かうハインツの背中はいやに遠い。

マリア:「…」

ハインツの背をマリアは何も掛ける言葉が見つからず、唇を開けては締めての繰り返しをするしか出来なかった。ハインツの足取りは速く、戸惑うように立ち止まってしまったマリアを遠く離してしまっていた。
眼に映るのは小さな石、白いチョークで隙間なく色々な字が埋め尽くす。

ハインツ:「…なんだ、これは…ッ?!」

石を持ち上げたとたんの事だ、ハインツの足元が掬われた…違う、大きく揺れたのだ。斧槍の柄を強く突いて何とか、ハインツは立ち止まった。

マリア:「ハインツさんっ」

マリアの足元にはどうやら異常はない様子、早い調子でハインツの方へと駆け寄る足音がハインツの耳へと届いた。

ハインツ:「来るな、引き返すんだ!」

斧槍を持ち直し、ハインツは出入り口へと大きく足を踏み出した。後方…慣れた気配がハインツの背筋を辿る。ハインツの言葉を理解し、立ち止まったマリアは大きく目を見開いている。

ざざざざざ

素早い物音、衣擦れの音に近い。マリアが見たのは…、屍の山の住人達が眼光らせ這いずってくる姿。慌てて剣を抜こうとするが、中々上手く抜けはしない。そうしているうちに、ハインツが追いつきマリアの腕を掠めるように掴み引っ張った。

マリア:「ッ…ハインツさん、あれは…?」

腕を引かれながら、必死でハインツに付いて走る。階段へと差し掛かり、二段…時には三段と段数を飛ばして昇っていくが、マリアが少し振り返れば生々しい肉片を所々に纏った屍たちも同じように昇ってくる。

ハインツ:「アンデッドだ!無駄口は叩くな、舌をかむぞ!」

やっと、先ほど見た第一階層まで辿り着く。階段の終わりが見えれば、ハインツは放り投げるようにマリアの腕を引っ張り上げ、先へとマリアを押し上げた。

ハインツ:「先に行け、少し片してから追いつく!」

片手に持っていたランプをマリアの方へと放った、その衝撃でランプの炎は揺らめき弱まったが、何とか消えずに済んだ。マリアは見事にランプを受け取り、腰のベルトへとランプを通す。聖水の入った瓶とランプのカバーがかち当たり、キンキンと甲高い音を出した。そして、マリアは今度はゆっくりと剣を鞘から引き抜く。

マリア:「私も、お手伝いくらいは…!」

剣を握り、ハインツの様子を伺いながらマリアは援護に回ろうとハインツのほうへと駆け寄るが、ハインツは斧槍を振るうが狭い階段ではろくな攻撃はできないからか、何体かの屍を蹴り落としながらハインツの方が早くマリアの元へと走り寄った。

ハインツ:「無駄だ、逃げるぞ。…多勢に無勢だ」

ハインツの言葉の通り、無数の屍たちは異様な速さで追ってくる。全てが全て這いずっている訳ではないにしろ、絡み合いながら此方を追ってくる様はまるで蛇のよう。死臭の匂いを撒き散らせながら階段を這いずって来る。その強烈な死臭はマリアの鼻を突いたか、マリアは少し眉間に皺を寄せた。

マリア:「っ、何処まで追ってくるんでしょうか…」

ハインツ:「走りながら喋るな」

頼りないとでも思ったのか、ハインツが再び手を伸ばしてマリアの手を取った。ぐいと引っ張り上げるようにして、階段を上っていく。もうすぐ最初の階層に出るはずだ。微かな明かりは緋色の物で、地下に潜っていた時間がどれほどの物なのかを、ハインツとマリアへと教えてくれた。

ハインツ:「もうすぐ夜か…しつこくなりそうだ…」

チッ、ハインツの舌打ちは屍たちの這いずる音に掻き消され、マリアの耳へと届く事は無かった。

マリア:「…あっ」

そういえば…、マリアの小さな声はハインツの耳へとちゃんと届いた様子。ハインツは階段を上りながら、振り向く事は無いが目線だけマリアの方へとやった。

ハインツ:「どうした」

マリア:「とっときの、物があるのを忘れていました」

マリアはふっと足を止めてしまう、ハインツは眉間に皺を寄せマリアの手を引っ張った。

ハインツ:「良いから、今は逃げる事が先決だ…こんな階段で何をすると言う?」

マリア:「階段だからこそ、まんべんなく、ですよ」

ふわりと笑うマリアの表情にハインツは疑問符しか出ては来ない、しかし、頑として動かないマリアを放っておくわけにも行かず…。

ハインツ:「すぐに終わらせるのだろうな」

マリア:「勿論です、そんなに効果が持続するとも思っていませんし…では」

早速と、マリアは腰に提げていた小瓶を振り上げ、中の液体を屍たちへと振りかけた。小瓶と言えども結構な量で、屍たちは嫌な音を立てながら、塩をかけられたなめくじの様に萎縮し溶けて行く。そうして、今度はマリアがハインツの腕を引っ張った。

マリア:「さ、行きましょう。きっと長くは持ちません、次のアンデッドたちが来ます」

ハインツ:「…そうだな、早く思い出せ。ああいう物を持っているなら」

ハインツの忠告にはマリアは照れ笑いをするしかなく、そのまま二人で何とか地下墓地の門を出る事が出来た。黄昏時の陽は木々に遮られ全貌を見る事は出来ない、緋色の光りは門を照らし紅く血塗られたようにも見える。互いの手は自然にするりと、互いの手から抜けていった。




マリア:「っはー…、よかった…無事に出られましたね」

ハインツ:「ああ…結局、あまり情報は、得られなかったがな」

ハインツは少し肩をすくめ、息を吐いた。マリアも残念そうなため息を吐く、二人共に実りある収穫とは行かなかったようだ。

マリア:「私も…探し物を探す前に、出ちゃいました」

ハインツ:「そういえば、探し物と言うのは何だ?」

ああ、マリアは相槌を打つと自分の腰に携えた剣を指差す。

マリア:「知り合いの剣なんです。この地下墓地で、落としたと奥様から聞いて…。お年を召した方なので、この地下墓地へまた取りに行くのも危険だという事で、私が行く事になったんです。…ああ、でも、どうしよう」

またここへと、行く事になるのだろうな…、そう考えが頭に浮かべばマリアの気も重くならざるを得ない。
…何か、また思い出したのかマリアは瞬きを数度して視線を動かした。

マリア:「そうだわ、ハインツさん」

ちらと、横に居るハインツへと目線を向けた。マリアはにこりと、また微笑んだ。

マリア:「宜しかったら、また…此処を探索する時、パーティーを組んではいただけませんか?」

ハインツ:「…私と?まあ、私もまだ調べたい事はあるからな…判った」

軽く口端を上げて笑うハインツの顔は逆光になっていたが、表情の変化は具に判る。マリアもにこにこと依然笑ったままで。

マリア:「頼もしい方ですから、是非とも」

ハインツ:「…どうも」

不器用な返事を返すハインツに、マリアはくすくすと笑いゆっくりと、ハインツより先に足を踏み出した。そろそろ日が暮れる、夜に森を抜けるのはとても億劫だ。それは、ハインツにだって判っている事で、ハインツもまたゆっくりと足を踏み出した。

マリア:「近くに街がありましたよね?」

ハインツ:「ああ、もう暫く行った所だ」

二人でゆっくりと、他愛の無い話をしながら森を下り街道に出る頃には日は暮れ月が顔を覗かせていたが、街へと向かう二人の足取りは軽い。大した情報は得られはしなかったが、情報よりも頼もしい仲間が出来た事に喜びを感じている風だった。空にたなびく雲は薄く、月に被さっては流れ行く。何度目かの絹雲が月に被さった頃には、ようやっとそれぞれの宿に着き、疲れを癒しに二人ともが小さな街特有の粗末なベッドで息を休めているだろう。