<PCあけましておめでとうノベル・2007>
ドキワクスゴロク2007
■序
2006年、不可思議な年の幕開けが密やかに行われたのを覚えているだろうか。いや、覚えていなくとも知らなくとも全く関係はない。そういう事があったのだ、という軽い認識だけでいい。気にせず「へー」とでも言っておけばいい。
その不可思議な幕開けを、2007年もしようと目論む男がいた。スゴロクに全力を注ぎ、全てを手作りで統一し、商品として巨大黒豆を手渡した、正田・月人(しょうだ つきと)である。
「コマは全て作り直したし、2007年はイノシシ年だから」
正田はそう言い、小さく「ふっふっふ」と笑う。企んでいる顔なのだが、連日の作業のため、疲れた顔になっている。
「正月といえば、スゴロク! スゴロクといえば、正月!」
正田ルールを高らかに宣言し、正田は笑った。「はっはっは」と大声で笑い、次に何かを取り出した。
それは、巨大な黒豆が一粒。2006年度版と同じと思う事なかれ。更にパワーアップを成し遂げた黒豆は、より美味しく、より巨大になっている。その大きさ、直径約一メートル。
「さあ、集え! 商品は勿論黒ま……」
そこまで言った所で、盛大なクシャミが出た。ついでに鼻水もたり、と垂れる。
正田はポケットからそっとティッシュを取り出し、鼻をかむのだった。
■集合
正田がずびずびと鼻を啜っていると、シュライン・エマ(しゅらいん えま)がやって来た。
「また今年も風邪引いてるのね、正田さん。これで、ビタミン補給をしてね」
シュラインはそう言って、正田に持ってきた干し柿を手渡す。正田は「どうも」といいながらそれを受け取り、嬉しそうに収める。
「早めの時期に食べておくと、冬風邪をひかないって言うんだけど……まあ、今から食べても幾分はましかな、と思うし」
シュラインがそう言い終えるのとほぼ同時に、正田はクシャミをする。また、たり、と鼻がたれた。ポケットからティッシュを出そうとする正田に、シュラインはすっとティッシュを差し出す。鼻をかんでも痛くならないという、やわらかい素材のティッシュだ。
「よっ、正田。元気か?」
もらったティッシュで鼻をかんでいると、今度は門屋・将太郎(かどや しょうたろう)がやってきた。将太郎は正田を見、そっと目をそらす。
「もう、風邪ひいてたのか」
「そんな、もう手遅れみたいな言い方はやめてくれ」
正田があわてて言うと、将太郎は「冗談冗談」と言ってから、正田の背をぽんとたたく。
「今年もやるんだろ? ドキワクスゴロク」
「勿論だ。今年は、さらにグレードアップだ」
どん、と正田は胸を叩く。強く叩きすぎて、げほっと咳き込み、また可哀想なものを見るような目で見られたが。
「正月と言えば、誕生日。誕生日といえば正月……!」
はあはあと正田が息を整えていると、どこからか声がした。きょろきょろと声の主を探すと、それは正田の足元の方であった。
「今年もありがとうなのでぇーす!」
高らかなる感謝の意の後に「よいしょっ」という声が聞こえてきた。そちらに目をやると、露樹・八重(つゆき やえ)が正田によじ登っているのが見えた。
「な、何をしているんですか?」
「正田しゃん登りなのでぇす。今を逃すと登れない、レアなひとでぇすからね」
八重はそう言って正田に登っていき、肩の辺りに到達すると「どうぞでぇす」と言ってティッシュを手渡す。
「おとしだまなのでぇす」
「あ、有難う」
正田は素直にティッシュを受け取り、大事そうにポケットにしまった。これで、スゴロク中に鼻水が垂れても安心だ。
「君は寒くないのかい?」
ローブ姿の八重を見て、正田が尋ねる。すると、八重は「ふっふっふ」と笑った後に胸を張って答える。
「綿入りだから、大丈夫なのでぇす」
「そ、そうか」
正田は頷き、こほん、と咳払いをする。
「それで、今回の景品だが」
「……わあ、おっきなお豆ねぇ」
正田が嬉しそうに巨大黒豆を取り出そうとすると、そこにはミルカ(みるか)の姿があった。じっと景品である巨大黒豆を見つめ「ふふ」と笑っている。
「おいしそー……」
ごくり。思わず生唾を飲み込んだ後、ふと皆がこちらに向いていることに気づく。ミルカは慌てて口元をぬぐい、ぐっと拳を握り締める。
「あたしも参加します。さあ、頑張るわよう!」
「君、その黒豆を食べようと」
「あたしの運の良さを見せ付けちゃうんだから!」
正田の突っ込みも、ものともしない。正田は肩を震わせながら、小声で「すぐに食べないでほしいんだが」という。せっかく作った黒豆なのだから、もっと鑑賞してほしいのが本音であるらしい。ただ、小さな声で言っているあたり、いつしか食べられるものだと理解しているらしい。
「今年のは、さらにでかいな。去年もらった黒豆も持ち帰るのを苦労したんだが」
将太郎の言葉に、ミルカは「ええ」と声をあげる。
「食べたの? 黒豆を」
「ああ。これと同じくらい、巨大だったぜ。味は、なかなかのもんだったし」
「こ、今年は去年よりちょっと大きくなってる!」
正田が慌てて突っ込む。そう言われれば去年よりも大きい気がするが、あまり変わっていないといわれればそうかもしれない。
「去年は逃しましたでぇすけど、今年こそは食ってやるぞぅ! なのでぇす」
八重がぐっと拳を握り締める。こちらも食べる気満々である。さらに「一メートルとは、食べ応えありなのでぇすね」と付け加えてもいる。
そんな中、シュラインはじっと黒豆を見つめる。そして「えーっと、ね」と口を開く。
「正田さん。やっぱりね、黒豆にあわせて黒豆クッションも作りましょうよ」
真顔だ。真顔で、正田に言っているのだ。
「く、クッション?」
「そう。そうしたら、どっちが当たっても幸せそうでしょ」
それはそうだが。結局四人は黒豆の前に集合し、黒豆談義に花を咲かせ始めた。味はどうか、重さはどうか、中身はどうなのか。
正田はそんな四人に対し「ごほん」とひとつ咳払いをする。
「それじゃあ、始めようか。これから、スゴロク大会2007を開催します!」
参加者たちがぱちぱちと拍手をする。そうしてやっぱり、正田はクシャミをするのだった。たり、と鼻水をたらしながら。
■1巡目
サイコロを振る順番はこのスゴロク会場に着いた順で、シュライン、将太郎、八重、ミルカの順となった。
「今年はどんな目に止まるかな? 亥年だけに、牡丹鍋のマスとかあったりするのかしら」
シュラインは嬉しそうに言いつつ、サイコロを両手でくるくると回す。目の前に広がる巨大スゴロクは、升目だけがあるだけで、内容は全く分からない。その升目に止まってからのお楽しみである。
「それじゃ、行くわよ」
シュラインはそう言い「えい」とサイコロを転がす。そうして出てきた数は、3だ。シュラインは「3ね」といいながら、とんとんと升目を進んでいく。そうして、3つめのマスに止まると、いきなり「アミーゴ!」という叫び声が鳴り響く。
『サンバのリズム! 今年もアツイ!』
「またサンバなのね。しかも、ヒートアップしているみたい」
シュラインはくすくすと笑っていると、マスの中心がぱかっと開いて、機械音をさせながら机が出てきた。机の上には、派手な衣装が乗っかっている。実に煌びやかだ。
「さあさあ、それを適当につけて、レッツ・サンバー!」
正田の掛け声とともに、シュラインは踊り始めた。熱い音楽、激しいリズム。正田も嬉しそうにサンバを踊っている。
踊りきった瞬間、一同から拍手が起こる。2007年のサンバも、なかなか熱い。
「次は俺だな」
将太郎はそう言い、サイコロを手にする。そうして、勢いよくサイコロを転がした。そうして出てきた数字は、2だ。
「2か。ま、最初だしな」
将太郎はそういうと、2マス進む。そこに出てきたマスは「1つ進む、イエイ」だ。
「1つ進むって……まさか」
将太郎の進む先には、汗をタオルで拭うシュラインがいた。シュラインはにっこりと笑い、机の上においてある派手な頭飾りを渡した。
「頑張ってね、門屋さん」
「サンバか、また今年も行くか」
将太郎はそういうと、シュラインから頭飾りを受け取り、さらにマラカスを手にする。相変わらず正田はノリノリで踊っており、負けじと将太郎もノリノリで踊る。実に楽しそうである。
そうして踊り終わると、再び拍手が起こった。熱い踊りが続いている。
「次はあたしでぇすね」
八重はにやりと笑い、サイコロを手にする。手にするというか、押す準備をするというか。何しろ、体長10センチくらいしかないのだから。
「去年は6を出して、失敗したでぇすからね……今年は違う数字を出すでぇすよ」
「別に、去年と同じスゴロク盤じゃな……」
「いくでぇすよ!」
正田の言葉を遮り、八重はスゴロクを押す。ころころと転がり、出てきた数字は2だ。
そう、2。
八重がマスを進んでいると、シュラインと将太郎がひらひらと手を振っている。その手にはそれぞれ小さな衣装とマラカスを手にしている。
「今年は君がくるかもしれないと思って、ちゃーんと用意しておいたよ」
妙に誇らしげな正田。
八重は「仕方ないでぇすね」と言いながらそれらを身につけ、ばしっとポーズをとる。サンバの音楽が流れ始めると、ノリノリで踊り始めた。正田も軽く息切れしながら、必死で踊っていた。サンバがそんなにも好きなのか、どうしてそんなに好きなのか、全ては謎である。
サンバを踊りきると、また拍手が起こった。可愛らしく、楽しそうに踊った八重にはもちろんのこと、既に3回続けて踊りきった正田に。
「これで時間が余るでぇすね。その隙に、おもちでも食べるでぇす」
八重は汗を拭った後、にっこりと笑う。正田も同じく汗を拭いつつ、どこからか袋を取り出して八重に手渡した。中に入っているのは、かきもち。
「それでも食べてて。余った餅で作ったから」
「ありがとうなのでぇす」
早速かきもちを食べ始める。ぼりぼりと嬉しそうに食べているところを見ると、おいしいのだろう。
「次はあたしね。……良い目が出ますようにー」
ミルカはそう言って、巨大黒豆に向かって両手を合わせて拝む。小さく「なむー」といいながらも、表情は妙に嬉しそうだ。頭の中では、巨大黒豆を幸せそうに笑いながら食べるという、素敵な光景が広がっているからであろう。
「や、そんな拝まなくても……ご神体って訳じゃないし」
「ううん、こうやって拝むことに意味があるのよう。黒豆の恩恵があるかもしれないし」
黒豆の恩恵とはこれ如何に。
ミルカはひとしきり拝んだ後、勢いよくサイコロを振る。ごろごろと転がっていった先で出た数字は、6だ。
「ほら、大きな数字が出たわよう。今年さいしょの運試しは、ばっちりねえ」
ミルカはそう言い、マスを進む。そうして6マス目についたとたん、放送が流れる。
『スタートに戻る。ゴメンね』
「去年と同じでぇすよ!」
同じスゴロク盤じゃないといっていたのを思い出し、八重が突っ込む。
「いや、でもほら。これはお約束というか」
正田は目を逸らしながら言う。ミルカは「ひどいわよう」といいながら、とぼとぼと再びスタートに帰った。大変残念な結果であった。
■2巡目
現在は、3コマ目にシュライン、将太郎、八重が、スタート地点にミルカがいるという状況である。
「それじゃあ、また私からね」
シュラインはそう言い、再びサイコロを振る。出た目は1だ。シュラインは「あら」といいながら、1マス進む。
『新春ボーリング! レッツトライストライクー』
アナウンスの後、がらがらとボーリングのピンが現れる。そこまで距離はないものの、本格的なボーリングレーンになっている。
「すごいじゃない」
「さあさあ、ぼーんと投げてくれよ」
ごろん、と出てきたボーリングの玉を持ち、転がす。ボールはまっすぐ向かっていき、ガコーン、と心地よい音を響かせた。
「ああ、惜しい!」
しかし、倒れたのは8本だけであった。あと2本が倒れない。
「残念ね。後ちょっとだったのに」
シュラインも残念そうだ。
「次は俺だな。よっしゃ」
将太郎はそう言い、サイコロを転がす。そこで出てきた目は、1だ。という事はつまり、シュラインと同じボーリング。
「気が合うな」
「本当。なかなか難しいから、頑張ってね」
シュラインの激励を受け、将太郎は「うっしゃ」と気合を入れながらボーリングの玉を持つ。
まっすぐピンに狙いを定め、玉を転がす。ボールは緩やかなカーブを描きながら、中心へと向かっていく。
ガコーン、という心地よい音が響き、ピンがいっせいに倒れた。
ストライクだ!
「よっしゃ!」
ぱちぱち、と拍手が起こる。ばっちりストライクだ。
「一発でストライクを出したということで、景品があるよ。AとBのどちらの箱が良い?」
「そうだなー……んじゃ、Aで」
Aと書かれている箱を開けると、中から重箱が出てきた。正田お手製のお節である。
「今年は景品として作ってみたんだ。どうかな?」
将太郎はお節の中から出し巻き卵を取り出し、口に放り込む。とたん、口いっぱいにだしの奥深い味が広がっていく。
「おお、うっめぇー!」
将太郎は「おかわりっ」といいながら、ぱくぱくとお節を食べる。正田はそれを照れたように笑う。
「じゃあ、次はあたしなのでぇすよ」
八重はそう言い、気合を入れて「えいっ」とサイコロを転がす。そうして出てきた数字は、5だ。
「なかなか良い数字なのでぇす!」
八重は誇らしげにそういうと、5マス進んでいく。途中でシュラインと将太郎を横目で見つつ、ふっふっふ、と笑いながら進んでいく。
『レッツゴー、ヒゲダンス!』
だんだんだんだんだーんだーんだーん……。
例の軽快な音楽が鳴り響く。マスの中心からはサンバと同じような机が出てきて、付け髭と蝶ネクタイ、それにレイピアが置いてあった。
しかも、八重の体に合わせた小さなサイズで。
「な、なんでぇすか、これは」
「ヒゲダンスだよ。さあさあ、レイピアを持って」
正田に促され、しぶしぶレイピアを持つ。八重のレイピアは小さいため、竹串のようだ。
そうしていると、音楽に合わせてやけに等身の大きな猪がやってきた。顔は愛らしい猪の顔をしているのだが、ボディがまるでマネキンのような見事な八頭身。
「ひい、怖いでぇす!」
「猪君1号だよ。怖くなんてないさ」
正田が言うと、猪君1号がこっくりと頷いた。どう見ても、怖い。
「ウリ坊なら、かわいいのにね」
シュラインが苦笑交じりに呟く。
猪君1号は、すっと何かを取り出した。よく見ればそれは、小さな金柑だ。それを投げるから、八重の持つレイピアに突き刺せといっているのである。
金柑は放たれる。大きな弧を描き、八重のレイピアに向かって行き……落ちた!
「はい、残念。もう一回ね」
正田の言葉に、八重は頬を膨らませる。
「じゃあ、次はあたしねえ」
ミルカはそう言い、サイコロを放つ。出てきた数字は、5だ。今度はスタートに帰る羽目にはならなかった。
『クイズ、KUROMAME!』
ばばん、という威勢の良い音とともに、アナウンスが響く。
「クイズね。ううん、頑張るわよう!」
ぐっと拳を握り締めるミルカ。マスの真ん中がぱかっと開き、解答ボタンが出てきた。
『問題! 今年の干支は猪ですが、来年の干支は何でしょう』
「え。ええと……ネズミ?」
ぴんぽーん。軽快な音が響き渡り、ぱちぱちと拍手が起こる。
「なかなかやるね。問題、簡単すぎた?」
「ううん。運が良かっただけなのよう」
ミルカはそう言いながら、ぱたぱたと手を振る。嬉しそうだ。
こうして、順位は八重、ミルカ、シュラインと将太郎、という事になった。
■3巡目
再びシュラインに順番が戻る。シュラインはまだボーリングのピンが2本残っているため、もう一度ボーリングだ。端と端だった2本は、倒しやすいように真ん中にやってくれているのはある意味思いやりがあるが。
もう一度狙いを定め、ボーリングの玉を投げる。真ん中にまっすぐ向かったボーリングの玉は、残り2本のピンを綺麗に倒した。
「これでようやく、先に進めるわね」
シュラインはちょっとだけ、苦笑気味だ。
「悪いが、先に行かせてもらうぜ」
将太郎はシュラインにそう言い、シュラインも「行ってらっしゃい」と手をひらひらと振る。そうして、将太郎はサイコロを投げた。出てきた数字は、5だ。
「お、結構進めるんじゃないか?」
5マス進むと、一番先に行っている八重よりも1マス先についた。
『正月だ。餅を食べよう!』
「も、餅?」
怪訝そうに言うと、またいつものように机がマスから出てくる。そこには、砂糖醤油と餅が、ちょこんと乗っていた。
「お、うまそう!」
将太郎は早速箸を持ち、餅を食べる。砂糖醤油の味も抜群で、餅にばっちり合う。
「うっめぇー! おかわりっ」
「お代わりはないよ」
さらりとした返しに、将太郎は小さく「ちっ」と舌打ちをした。
「次はあたしでぇすね。今度こそ、今度こそクリアするでぇすよ」
八重はそう言い、レイピアを構える。猪君1号も、緊張の面持ちで音楽に合わせながら金柑を握り締める。
タイミングの良いところで、金柑が放たれた。金柑は再び緩やかな弧を描き、八重のレイピアへと向かっていく……!
ぷすっ。
「やりましたでぇすよ! ささりましたでぇすよ!」
八重のレイピアに、ちょこん、と金柑が突き刺さっていた。皆が「おおー」といいながら、ぱちぱちと手を叩く。これで、次に八重は進めることができる。
「あたしも頑張らないといけないわねえ」
ミルカはこっくりと頷き、サイコロを抱え込む。そうして、おもむろにサイコロを転がした。出た数は、5だ。
「5……5?」
正田の声に小首を傾げつつ、ミルカはスゴロクのマスを進んでいく。そしてたどり着いたのは……。
『ゴール! コングラッチュレーショーン!』
「きゃあ、優勝したわよう!」
ミルカは、ぴょんぴょんとその場ではねた。こうして、ついに2007年の黒豆獲得者が決定したのだった。
■表彰式
今年の優勝者に、黒豆が授与される。巨大な、去年よりグレードアップしたとか言われる黒豆。
「黒豆の恩恵がちゃんと受けられたわよう。どうやって食べようかしら」
黒豆を受け取りつつ、うっとりとミルカは笑う。脳内では、様々な黒豆料理が展開され、おいしく食べる自分の姿が映し出されている。
「にしても大きいわね。持って帰るのは大変そうだけど、台車つきだったりするの?」
シュラインの問いに、正田ははっとした表情のまま首を横に振る。シュラインは「正田さんらしいわね」と苦笑を漏らす。料理も器用にこなす正田だが、どこか詰めが甘い。
「マジかよ。去年も大変だったんだぜ? ま、味は悪くなかったけど」
将太郎はそう言い、じっと黒豆を見つめる。今年は得られなかったことが、ちょっと残念だ。楽しんだことには変わりないのだが。
「今年こそ、くろまめさんを食べたかったのでぇす」
「かきもちなら、いっぱい食べたじゃないか」
正田の突っ込みに、八重は「それとこれとは別なのでぇすよ」と、ちっちっちっと指を振りながら言う。
「ま、来年もやるかもしれなからね。そうしたら、また来てくれよ」
「また黒豆? その場合は、クッションもよろしくね」
シュラインの言葉に、正田は「あ、うん」と頷く。熱心さに心が動きそうだ。
「来年やるときゃ、もっといいもの作れよ。いいな!」
将太郎がそう言いながら背を叩く。正田は「分かった!」と力いっぱい答える。
「来年こそ、くろまめさんを食べるのでぇすよ」
ぐぐっと拳を握り締める八重に、正田は「来年こそね」と言って頷く。
「今年の運は、ばっちりな気がするわねえ」
ミルカはそう言って黒豆をなでなでする。今年最初の運試しが、すばらしい結果になったのだ。良い年になりそうな予感がする。
「そうだ、今年も宴会の準備をしているんだ。良かったら、食べていくかい?」
正田の言葉に、皆が賛成の声を上げる。八重に手渡したかきもちや、将太郎が景品として手に入れたおせち、それに餅は全て正田が作ったものだ。なかなか料理の腕が高い正田が準備した宴会には、当然のようにおいしい食べ物が待っていることだろう。
「黒豆もいいけど、他のも楽しみねえ」
ミルカはそう言って、黒豆をぎゅっと抱きしめた。妙にずしっと重い、だがきっとおいしいであろう黒豆を。
<2007年は始まり・了>
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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2007★┗━┛
<東京怪談>
【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 1009 / 露樹・八重 / 女 / 910 / 時計屋主人兼マスコット 】
【 1522 / 門屋・将太郎 / 男 / 28 / 臨床心理士 】
<聖獣界ソーン>
【 3457 / ミルカ / 女 / 17 / 歌姫/吟遊詩人 】
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■ ライター通信 ■
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お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度は「ドキワクスゴロク2007」にご参加いただき、有難うございます。
あけおめノベルといわれ、再びスゴロクにしてしまいました。NPCも変わっておりません。商品もまた黒豆……と、微妙なものになりました。でも、スゴロクのマスを考えるのは本当に楽しかったです。
ミルカ様、初めてのご参加有難うございます。いかがでしたでしょうか。可愛らしいしゃべり方にドッキドキでした。イメージを崩していなければ良いのですが。何より、黒豆ゲット、おめでとうございます!
今年一年が皆様にとって素敵な年になられる事を、陰ながらお祈り申し上げます。
ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時迄。
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