<PCあけましておめでとうノベル・2007>
初夢旅情 2007
アレスディア・ヴォルフリートは、気がつけば全く知らない場所に立っていた。
街…だと思う。
けれど、今まで自分が暮らしてきた街並みとは全く持って似ても似つかない街並みが、目の前に広がっている。
どうしたものかとしばし考え、アレスは小首をかしげ、考えるように口元に手を当てた。
ポツンとその場で立ち尽くしてしまったアレスだが、ふと気配に視線を向ければ、元々済んでいた世界にもいるような中年の女性たちがアレスを見てなにやらこそこそ話している。
「人が…」
居たのか! アレスは、ほっと安心したように息を吐いて、この街のことを訪ねようとおばさんたちへ歩き出す。
「すまな―――」
「っちょ! 勘弁してくださいっすよぉ!!」
尋ねかけたアレスの声を遮ってその場に響いた少年の声。
つい、そちらへと顔を向ける。
「こ、これは…!?」
振り返ったアレスの目の前を駆け抜けていく大量の……猪たち。
いや、多分亥だとは思うのだが、アレスが記憶している猪とは全く違う。
どうもこう、筆か何かで書かれたものがそのまま動いているような。
この世界の猪はこういった姿なのだろうか。いや、そもそも街中を猪が走り回っているというのもおかしいのではないか。
アレスの中で数々の思いが駆け巡る。
「あ、もしかして君はっ」
先ほど走り抜けていった少年とは違い、アレスとそう年の変わらなさそうな少年が立ち止まり、その手を掴んだ。
「………!?」
あまりの驚きに硬直しながら、行き成りつかまれた手と、少年の顔を交互に見る。
「君がお客様だねぇ! 待ってたよぅ!!」
俺は、天津拓海! と、多分かっこつけて宣言した少年に、アレスは、つい流されるままに自らの名を告げる。
「何やってんすかぁあ!!」
ゴッフゥ☆
あぁ綺麗な弧を描いて飛んでいく拓海。
まるでその様はスローモーションのよう―――
「………」
と、そんなナレーションは関係なく、アレスはただその一連の邂逅を呆然と眺めるほか無かった。
見事な右ストレートを食らった拓海は、よろよろと黄昏お嬢様ポーズで路地に転がりながら、
「だって、別の世界のお客様が来るっていうから」
「来るからってやりすぎでしょうが!」
しくしくしく。などという擬音を自分で言いながら、その場で崩れる拓海。
そう、街中を走り回っている亥は、元はこの街にある神社、清比良神社のお守りや絵馬に描かれていたもの。
おもてなしにと実体化させたはいいものの、それを拓海がちょっと張り切りすぎて、大小様々な亥たちが、街中を走り回っている状態となってしまったのだ。
少年はぐるりと振り返り、深々とアレスに頭を下げる。
「すいません! 亥たちを捕まえるのを手伝ってもらえませんか」
その言葉に拓海が後を続ける。
「きっと、捕まえれば君に、幸せが訪れると思うんだぁ」
「……捕まえれば縁起が良い、とか言っている場合ではないような気がするが…」
話しかけてもらえたのは良かったが、二人は全く持ってアレスにこの街のことを説明はしてくれず、いまだにここがどんな場所であるのかアレスには分からず仕舞い。
けれど「しかし…」と、辺りを見回してみれば、アレスが最初見たときよりも、尚多くの亥が辺りを走り回り飛びまわり好き勝手し放題。
多分普通の人ならば頭を抱えたかもしれないその光景を、アレスは至極まじめな表情で拓海に振り返った。
「あの亥たちが本物ではないとしても、放っておけぬ。捕獲、協力しよう」
「ありがとう!」
ゴキ○リ並の生命力で立ち上がった拓海は、またもアレスの手をぎゅっと握って宣言する。
嗚呼、アレスディア・ヴォルフリートその人よ。君は苦労性と言われはしないだろうか―――?
そんな外野の嘆きはさておき、拓海はよいしょっと何かを持ち上げた。
呆然として拓海の手にもたれているソレを見ている少年と、なるほどとどこか納得して小さく頷くアレス。
そう、拓海の手に持たれていたのは、虫取りアミをそのまま大きくしたようなソレだった。
少年の米神が些か引きつっている。
拓海は、もう世界を救うにはこの道具を使うしかないと言わんばかりの哀愁漂う表情で、アレスに亥取りアミを手渡す。
「では行ってこよう」
アレスは大仰に頷き、そのアミを受け取る。
走り出したアレスの背を見つめるその表情は慈愛に満ちていた。しかし、そんなシリアス顔何秒と持つはずもなければ、今のこの状況がシリアスだ何て口が裂けても言えない。
「亥すくいの道具だよ☆ なんちゃってー!」
案の定、破顔した拓海だったが、その言葉の裏で、またも盛大な突っ込みを受けていた様は、聞かなかったことにした。
走り回る亥たちは、取り立てて人に危害を加えているわけではなく、ただ自由自在に走り回っている。
時々人にぶつかっている亥もいるようだが、故意的ではないため偶然の事故だろう。
しかし、捕まえてくれと言うには数が多い。
どうやらあの拓海という彼がこの亥を作り出した張本人で、彼の力が及ぶ範囲内しか走り回ることができないようではあるが、彼の統制化には置かれていないらしい。
その上――予想通りというか――やはり元はイラストであろうとも猪であることに変わりはないらしく、走る速さが野生と同じ。
これでは、安易に後ろから追いかけていても追いつくことは容易ではないだろう。
お守りや絵馬に描かれた亥たちにとって、絵から抜け出し、こうして形を得たことは、野に生きる猪達のように思う存分走り回る事ができる機会を得たと言ってもいい。
しかし、それが山など人間があまり立ち入らない場所ならば良かったのだが、ここはアレスが知っているものと作りは違えどれっきとした街中。
走らせてやりたいという気持ちもあるが、暴走行為は許されない。
一網打尽とまではいかずとも、一度の多くの亥を捕まえる手段をアレスは考える。
「姑息ではあるが罠が一番得策か……」
どこかに罠を張り、そこへ追い込むように追いかけていく。
あえて名をつけるならば、コードネーム:羊飼いの犬作戦。
羊飼いの犬は、羊が群れから離れないようにしたり、牧舎へ移動させたりすることが仕事だ。その方法は、吠えて羊を追い込み、移動させるというもの。亥は羊ほどおっとりとはしていないが、やることはほぼ同じような事だ。
ただその先にあるものが、罠か牧舎かの違いなだけで。
え? なんで牛じゃなくて羊かって?
うん。まぁ、牛飼いの犬でもいいんだけどね。
そんな裏事情はさておいて、我らがアレスは罠を張るために最適な場所を探すため、しばし街中を散策し始めた。
拓海から専用の捕獲網を渡されたという事は、やはり普通の罠を張ったとしても“生き物”ではないため、すり抜けてしまうのかもしれない。
とりあえずこの亥たちはほぼ猪突猛進。
急なカーブは曲がれません。
そうなればやる事は袋小路に追い詰める、ないし追いかけられればいいというもの。
しかし、追いつくことに難有り状態で追いかけられても亥の勝利だ。ここはやはり追い詰めるしかないだろう。
アレスは手に入れた町内マップと散策した道を確かめ、罠をはる袋小路に×をつける。
「拓海殿、こことここにあの網の罠を張ることを可能だろうか?」
「ん、いいよ。大丈夫」
追いかけて捕まえる事ばかり考えていたけど、他の世界の人は違うなぁと感心している拓海に、やはり苦笑しか浮かばない。
拓海はうんうんと頷くとスチャっとメガホンを取り出して、空に向かって叫んだ。
「みなさーん集合!」
あまりの大声にアレスは瞳をぱちくりとさせてその場に立ち尽くす。
「た…拓海殿?」
おろおろと声をかければ、
「どうした? 拓海ちゃん」
亥を追いかけていたらしい街のお仲間がぞろぞろと集まってきた。
「……………」
どうやらソーンとは違う世界だが、ここもまた不思議世界のようである。
集まった人々は、罠の数分にグループ分けをし、それぞれ分担の場所へと向かった。
1つの罠に掛かる亥が多くとも少なくとも、結果的に全ての亥が捕まれば問題ない。
「一般人に迷惑をかけてはならぬ」
眼前に亥の一個師団(?)。アレスは牽制するように槍…じゃなくて、亥取り網を亥に向ける。
そう、これからこの亥たちを追いかけ逃げ込ませ、アレスが担当になった罠へと追い込むのだ。
地面を蹴り、鼻息が荒い一際大きな亥が走りこんでくる。
アレスはすっとその猪突猛進な亥を避け、網を真横に凪ぐようにして走りこんだ亥を掬い取った。
ヒュン! と、網に捕まった亥が、神社の方向へと強制的に飛んでいく。
そう、この網で捕まえた亥は元の絵馬やお守りに戻るのだ。
アレスは、亥たちに振り返った。
団長を失った亥たちは、アレスに背を向けて走り出す。
「よし」
走る亥。追いかけるアレス。その先にはあの網の大きな罠がある。
亥たちが変な方向や罠の方向へ進まないよう、同じチームになった町の人が網を手に、脇道を塞ぐ。
アレスの行動によって網に恐れを抱いている亥たいは、簡単に誘導だと気付かずに罠の方向へと逃げていった。
袋小路といえどソレは人間にとってであって、亥たちは塀を簡単に壊し乗り越えていってしまう。しかし、そんな事は百も承知。
「来た来たぁ!」
おとりの網を塀に括りつけた袋小路に追い込まれる亥を、屋根の上から罠を手にした拓海が嬉しそうに声を上げる。
あの網だ! と、亥たちが足を止めた一瞬。
「今だ!」
アレスの声に拓海たちは罠を支えていた手を放す。
空から落ちる網。
狼狽する亥。
だがそれも一瞬の事で、ヒュン! と、神社へと向かって亥たちは飛んでいく。
その光景は、まるで流星のように空を覆いつくした。
☆
「ありがとね!」
「ありがとうございました」
拓海は笑顔でアレスの手を取り、少年は深々と頭を下げる。
「でも、折角なのに亥捕獲だけで時間が終わっちゃった。残念」
「時間?」
「はい。アレスさんはこの世界の人じゃないんで、時間に制限があるんすよ」
まぁその時間がほとんどなくなっちゃったのも、ここに居る人が全ての原因なんですけどね。と、刺々と嫌味を込めて言われた言葉に拓海が小さく縮こまり、瞳を泳がせる。
「いや、なに、いい運動になったさ」
それに、亥を捕まえるために町も見れたし?
笑顔でそう答えれば、感動したように拓海が男泣きしている。
「あぁそうだ。あなたの名前を―――」
少年の名前を聞いていなかったとアレスは顔を向ける。
が、少年の顔が霞かかりよく見えなかった。
「…!?」
アレスは驚きに瞳を大きくして辺りを見回す。
そこは少年の顔どうよう、拓海の顔さえも霞かかり、アレスの視界は徐々に無くなっていった。
「君がこれから進む道に幸あらん事を」
気がつけばアレスはベッドの上に居た。
窓から外を見れば、ここがエルザードだと分かる。
「夢か…?」
いや、あれは夢ではない、きっと現実。
なぜならば、アレスは黒装でベッドに寝ていたのだから。
「結局名前を聞きそびれてしまったな」
アレスはふっと微笑んでベッドから起き上がる。
しかし、変なところについている服のしわ。
「…………」
やはり夢だった?
その答えはきっと気紛れな神様だけが知っている。
fin.
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【2919】
アレスディア・ヴォルフリート(18歳・女性)
ルーンアームナイト
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■ ライター通信 ■
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初夢旅情 2007にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
相変わらずの中途半端ギャグっぷりを発揮しているような気がしてなりません。
そしてあけおめでありながら長く時間を頂き申し訳ありませんでした。
それではまた、アレスディア様に出会えることを祈って……
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