<PCクエストノベル(2人)>
ミニ変化(へんげ)の洞窟〜青空の下で
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【冒険者一覧】 整理番号 / 名前 / クラス
2377 / 松浪・静四郎 / 放浪の癒し手
3370 / レイジュ・ウィナード / 異界職
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その日は気持ちの良い晴天で、雲ひとつない空は青く澄みきっていた。
静四郎「それでは、出かけましょうか」
にこりと穏やかに微笑んだ静四郎に、レイジュは静かに頷いて答える。
レイジュ「ああ」
このピクニックを言い出したのは、静四郎だった。
たまにはどこかに遊びに行きませんかと問う言葉に、これといって断る理由もなかったし。
二人が遊び先として選んだのはミニ変化の洞窟だ。洞窟の先に湖があるというのはもちろんのこと、洞窟を通ると体が縮んでしまうという話なので試しに行ってみようということになったのだ。
目的の洞窟はこれといって変わったところのない、ちょっとした遺跡という感じだ。描かれた壁画に目をやって、それから二人は歩き出す。
歩いていくと確かに。
静四郎「小さくなっていますね」
レイジュ「へぇ、なかなか面白いな」
便利なことに、服や荷物もサイズに合わせて変わっていく。
洞窟を出た頃には二人とも、すっかり三頭身サイズになっていた。
小さくなったサイズで見た湖は、話に聞いて想像いていたよりも大きく見える。いや、湖だけでなく、周囲の木々も普段より大きく感じられた。
静四郎「とりあえず、お昼にしましょうか」
レイジュ「ああ。えーと……」
どこで食べようかと視線をめぐらせたところでレイジュは、ボートがあるのを発見した。傍にはやはり三頭身の男が一人。
レイジュ「貸しボートみたいだな。湖の上で食事っていうのはどうだ?」
静四郎「ええ、楽しそうですね」
二人はさっそくボートを借りて、湖の中ほどへと漕ぎ出した。
ボートも同じく三頭身サイズ。
日傘をさして、レイジュにはサングラスを渡して。ボートの上で広げたお弁当はそう凝ったものではない。
レイジュ「美味しそうだな。静四郎は料理が得意なのか?」
静四郎「いえ、そういうわけでは……。簡単なものならどうにかなる、という程度です」
静四郎が持ってきたのはおにぎりと、手軽に作れるおかずが少しだ。
けれど自分で料理を作ることなどないレイジュから見れば、これだけでも充分に料理が出来ると思う。
静四郎「レイジュ様は釣りの経験はおありですか?」
レイジュ「釣り……? いや、やったことはないな」
静四郎「結構楽しいものですよ。こういうのんびりとした日には最適なんです」
言いながら静四郎は荷物のなかから釣竿を取り出した。
レイジュ「いろいろ持って来ているんだな」
静四郎「せっかく来るんですから、とことん楽しみたいと思ったんです」
言いながら静四郎は、レイジュに釣竿を渡してやり方を教えてくれる。
餌をつけた糸を入れるだけと聞いて、すぐに飽きてしまうかと思ったレイジュであったが、当たりはすぐにやってきた。
浮きが沈んで、糸が引っ張られる。
静四郎「引いてますね。頑張ってください」
にこにこと楽しそうな笑顔で静四郎が言う。
レイジュ「なかなか……難しいものだな」
魚と引っ張り合うこと数度。
糸はとうとう魚をボートの上へとひっぱりあげた。
静四郎「おつかれさまです。すごいじゃないですか」
レイジュ「そうか?」
静四郎「はい。初めてでこんなにすぐに釣れるなんて、すごいです」
一本の釣竿を二人で交代しながら。
レイジュが釣る時は静四郎が、静四郎が釣るときはレイジュが。日傘で光を遮りつつ、しばらく釣りを続けていた。
しかしこういうものは節度が大事。あまり釣りすぎるのはマナー違反である。
そこで二人はある程度のところで切り上げて、水辺の方へと戻ってきた。
今度は何をしようかと話し始めたところでふと、レイジュはひとつ思いついた。
レイジュ「そうだ。静四郎さん、雪の精霊を呼べただろう?」
静四郎「ええ」
レイジュ「静四郎は、スケートはやったことがあるか?」
静四郎「いえ。話には聞いたことはありますけれど」
レイジュ「なら僕が教えるから、スケートをやってみないか?」
言ってレイジュはニッと笑みを浮かべる。
レイジュ「湖を少し凍らせれば、即席スケートリンクの出来上がりだ」
幸いにも今日は他に人の姿はないし、あとできちんと溶かせば問題はなさそうだ。
静四郎「楽しそうですね」
頷き、静四郎は精霊を呼ぶ。召還された雪の精霊は、湖の一部を見事に凍らせてくれた。
レイジュ「滑るから、転ばないように気をつけて」
静四郎「え……うわっ!」
注意したのとほとんど同時、静四郎は氷の上で見事に尻餅をついた。
レイジュ「大丈夫か?」
一方のレイジュは鮮やかなスケーティングで静四郎の傍までやってくる。
静四郎「運動は苦手なんですよ……」
静四郎は苦笑しつつも楽しそうだ。
レイジュ「そう難しいものじゃない。覚えればすぐだ」
レイジュが手を差し伸べれば、静四郎はその手をとって立ち上がる。
しかし静四郎は本当に運動は苦手なようで。
静四郎「わっ、うわっ!」
レイジュ「……大丈夫か……?」
なかなかに派手な転びっぷりにレイジュは思わず噴出しかけたが、さすがに笑うのは悪いと思ってどうにか抑える。
静四郎「笑ってくださって良いですよ」
少々拗ねたような口調を見せつつも、本当に不機嫌になったわけではない。その証拠に表情はいつもと同じ穏やかな雰囲気。
レイジュ「笑わないよ。確かに、見ていて面白いけど。一緒に滑る方がもっと楽しいだろう?」
◆◇◆
楽しい時間というものは、すぐに去っていくものである。
ふと気がつけば太陽はもう西に傾きかけていた。
静四郎「そろそろ溶かした方が良さそうですね」
レイジュ「ああ」
湖の氷を溶かしながら、静四郎はたった今、ひとつの事実に気が付いた。
静四郎「そういえば……せっかく湖まで来たのに、泳いでいませんでしたね」
いろいろと他の事をして遊んでいたわけだが、こういう水場なら泳ぐという遊びは定番だろう。
レイジュ「水着は持ってきていないぞ?」
レイジュの言葉に、静四郎はにこりと微笑む。
静四郎「わたくしが持っているから大丈夫です」
そう言って静四郎が持ち出したのは、少なくともレイジュには、ただの布にしか見えなかった。
レイジュ「これのどこが水着なんだ?」
静四郎「少しコツがいるのですが……」
言いながら静四郎は、その布――ふんどしを締めてみせた。
レイジュ「へぇ、面白いな」
たった一枚の布が、見る間に着物に変わってしまうのだ。
しかし慣れないせいか、ふんどしを受け取ったはいいものの、レイジュは上手く着ることができない。
静四郎「そこはこうして……」
そんなレイジュに、静四郎が懇切丁寧にふんどしの締め方を教えてくれた。
そうして二人はふんどし一丁で、湖の中へと入っていく。
水辺付近は結構浅くて、ちょっと水遊びをするのにはもってこいだ。
レイジュ「運動は苦手と言っていたが……水泳は大丈夫なのか?」
静四郎「得意ではありませんが、持久力があるので遠泳は得意ですよ」
レイジュ「なら、ひとつ勝負をしてみないか?」
静四郎「勝負……ですか」
レイジュ「そう。湖のあちら側に先にたどり着いたほうが勝ちだ」
静四郎「負けたら罰ゲームですね」
レイジュ「当たり前だ」
そうして二人の勝負が始まった。
単純に泳ぎだけならレイジュのほうが速いのだが、後半になってレイジュのスピードが少々落ち始めた頃。持久力があるという静四郎が次第にその差を縮めてきた。
速度を上げようとするものの、消耗する体力には敵わず、少しずつ静四郎との差が縮まっていく。
結局。
レイジュ「同時か……」
静四郎「そのようですね」
第三者がいれば、きちんと見てもらえたのだろうが、審判がいない競争では、ほどんと同時に着いたのならば同着とするしかない。
静四郎「お互い罰ゲームにならなくて良かったじゃないですか」
レイジュ「そうなんだがな」
罰ゲームを指示するのもそれはそれで楽しそうだと思っていたのだが……。
引き分けだったものはまあ、仕方がない。
気がつけば、沈みかけていた太陽はそのすがたをほとんど地平線の向こうへと隠していた。
静四郎「そろそろ帰る時刻ですね」
レイジュ「ああ。今日は楽しかった」
二人は荷物を纏めて帰路へとつく。
ゆっくりと歩いていくうちに、縮んでいた身長が戻っていく。
レイジュ「どういう仕掛けなんだろうな」
静四郎「さあ……。でもすごいですね」
あちらこちらと洞窟の枝道を覗き込みながら――あまり期待はしていないが、ちょっとした宝探し気分だ――外へと向けて歩いていく。
実は静四郎は、レイジュの気晴らしになればと思ってこのピクニックを計画した。
横を歩くレイジュを見れば、なかなかの上機嫌で歩く姿が目に留まる。そんなレイジュの様子に、静四郎はほっと安堵の息をついたのだった。
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