<バレンタイン・恋人達の物語2007>
+sweet day+
甘い香りに囲まれて──
大好きな人の傍に寄り添って──
あなたはどんなバレンタインを過ごしますか?
+++ +++
朝早く、と言うには陽は昇り、お昼と言うにはまだ纏わりつく空気は朝方の冷たさを伴い来る。
そんな中途半端な時間の尋ね人の相手を弟のクール・シャルトルーズに任せ、ネイプル・シャルトルーズは一人優雅にブランチを楽しんでいた。
尋ね人は二人の共通の友人である沢・蘭花であることは容易に知れたが、途中で割り込むのもお邪魔虫になってしまいそうで気が引ける。
まあ蘭花の側には暁・影月というガーディアンが佇んでいるはずなので、ネイプル一人がお邪魔虫になってしまう確率は低かったのだが。
その内家の中へ入ってくるだろうと高を括り、ネイプルは自ら動こうとしない。
が、待てど暮らせどクールと蘭花の声が近付いてくる気配は感じられない。
どうしたのかしら、と様子を窺いに行くと、そこに居たのは弟一人。
「あら。蘭花ちゃん、帰ったの?」
蘭花と影月が去るのを見守るクールの背後に、声をかけた。
「あぁ、たった今」
今日の待ち合わせ時間と場所を決めていただけだ、とクールは素っ気無く返答する。
「ふうん、そう。──……今日?」
あたしに挨拶もなく珍しいわねえと、ネイプルは小首を傾げた。
──あぁ、そうか。今日は。
ネイプルは艶やかな笑みを一つ、浮かべた。
◇◇◆
アフタヌーンティータイムを楽しむネイプルを尻目に、クールが出掛ける準備をしている。
浮き足立つ雰囲気のないクールをネイプルは気にするも、見せびらかすような性格ではないのでまあこんなものだろうとクッキーを一つ抓んだ。
「兄貴、今日は何かあるのか?」
「バレンタインデーよ。知らないの?」
恋人のイベントに疎い弟に、ネイプルはびっくりしたように目を丸くした。
そんなネイプルに、クールは素直に頷く。
「そのバレンタインデーってなんだ?」
蘭花はきっとクールにチョコを手渡すはずだ。そしてクールはそのチョコを受け取る。
だが、恐らくその意味を理解しないだろう。
「そうねえ……」
ネイプルは勿体ぶってにこりと笑って言った。
「花を贈る日よ」
「花を? そうか……」
蘭花は花を持っていなかった。
だからきっとその準備のために一旦帰ったのかもしれない。
ネイプルの悪戯っぽく笑う笑顔に気付かず、クールは素直に納得した。
からかいがいのある素直で可愛い弟に、ネイプルはついくすくすと笑ってしまう。
自分が笑われているのに気付いたクールはネイプルを横目で睨んだ。
「待ち合わせ、遅れるぞ」
「まだ早いわよ」
湯気の立つティーカップを持ち上げ、優雅に香りを楽しむ。
「……クールこそ、蘭花ちゃんとデート?」
口中に広がる味に満足げに吐息を漏らした後、ネイプルはちらりとクールを伺う。
「別に……。会う約束をしたから、会いに行くだけだ」
「それがデートってものでしょう?」
気まずげに視線を逸らしたクールにネイプルはくすくす笑った。
「俺はもう行く」
「はいはい。いってらっしゃーい」
逃げるように出掛けるクールの背中に手を振り、ネイプルは楽しげに笑ってティーカップを傾けた。
何気なく目をやった時計は、約束の時間を過ぎていた。
「──……あら」
ちょっと過ぎちゃってるわねと一人ごち、そろそろ出掛ける準備でもするかと考える。
結局ネイプルが家を出たのは、約束した時間より一時間も後のことだった。
◇◇◆
地に足を付けて歩行することはしない。
ネイプルやクールはふわふわと浮遊して移動する。
その浮世離れした移動方法は人目を惹くが、しかし彼女(?)の所作に独特の空気を纏わせ、その風貌を一層惹き立てる。
行き交う人の目を集めながらもネイプルは慣れているため気にも止めず、のんびりと待ち合わせ場所へ向かう。
白いバラの花束を抱えて、影月はネイプルを待っていた。
約束の時間になっても、その姿は見えない。
多少遅れてしまうということもあるだろう。
影月以外にも待ち合わせをしているらしい人影はちらほら見える。
しかしその人影も待ち人とともに何処かへ歩き去って行く。
ネイプルがやってくる様子は、全く無い。
「…………」
待ち合わせ場所を間違えたのだろうか。影月は蘭花から渡された地図を取り出し、現在位置と照らし合わせる。
目印となる建物も現在位置の待ち合わせ場所も、会っている。
時間も今は少し過ぎてしまっているが、影月が着いたのは約束の時間の少し手前だった。
それでは、何故。
不安が徐々に募る。
まさかネイプルに何かあったのだろうか。
ここへ向かう途中で事故に遭ったのか。
それとも何か事件に巻き込まれてしまったのだろうか。
嫌な予感が次々と脳裏を過ぎり、影月は居ても立っても居られない。
だが探しに行こうかとこの場を動くことを考えた端から、ただ遅れているだけならばすれ違いになってしまうと、冷静な思考が影月の行動を押し留める。
二つの拮抗した思考により、影月は焦燥感に苛まれながらもその場から動けずにいた。
一歩でも動いてしまうと、この先一生ネイプルに会えない気がする。
ふらふらと待ち合わせ時間から大幅に遅れて登場したネイプルは、待ち合わせ場所に影月の姿を見つけて足を止めた。
普段無口で表情の変化も乏しい彼だが、今日は何とはなしに焦っているように見えるのは、気のせいだろうか。
「影月くん、お待たせ」
名を口にしてにっこり笑い、手を振るネイプルを見つけ、影月は駆け寄る。
「心配しました」
表情は変わらず声も平坦なまま、影月はネイプルを抱き締めた。
珍しいその行為にネイプルは驚くも、反射的にそのまま軽く抱き返す。
それから向き合い、変化の無い影月の顔を悪戯っぽく笑いながら覗きこむ。
「心配したって、どう心配したのかしら?」
問われ、影月は表情を変えることなく答えた。
「マスターの大切な方ですから」
とびきり綺麗な笑顔を浮かべたまま、ネイプルは影月の足にヒールの先を思い切り振り落とした。
笑顔だが何やら怒っているらしいネイプルをエスコートし、影月は予約していたレストランへ向かう。理由を聞いても「怒っていない」と言われてしまい、影月にはネイプルの胸の内が解らない。
レストランはとっくに予約時間は過ぎていたにもかかわらず、席は確保しておいてくれたらしい。
食事を必要としない影月だが、食べる真似は可能だ。
ディナーコースを進めていくうちにネイプルの機嫌も良くなっていく。──始めから機嫌が悪かったということでもなかったらしいが、それはネイプルにしか解らない事実である。
デザートを食べ終えた頃、影月は漸く持っていた花束をネイプルへ手渡した。
もって来る時は蕾だった花束も、今では満開になっている。
白くハート型の花弁が、可愛らしく咲いている花束だ。
「あたしに?」
「はい」
マスターから命じられて、という余計な事は普段から無口なことが幸いして声になることはない。
差し出された花束をネイプルは頬笑みを浮かべて受け取る。
「ありがとう」
礼を口にして、ネイプルは影月くん、と呼びかける。
「はい」
名を呼ばれ、影月はネイプルを見た。
花束を抱えたまま影月に近付くネイプルの所作を、影月はただ見守る。
影月の肩にそっと手を添え、ネイプルは影月の頬に軽く口付けを落とした。
「今日のお礼」
ふわりと髪を靡かせて笑うネイプルを見つめる影月に、動揺の色はない。
が、変わらぬその相貌の下でどのような感情が渦巻いているかは、影月本人にしか知りえないものである。
「いえ、……」
だが何かを言いかけて止め、一瞬視線を下に落とす影月は戸惑っているらしいことが伝わりくる。
普段見る事のない彼の戸惑いに、ネイプルはくすくすと笑う。
その変化をもたらしたのが自分であるのが、嬉しかった。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 3220 / 沢・蘭花 / 女性 / 12歳(実際年齢999歳)/ 傀儡師 】
【 3219 / 暁・影月 / 無性性 / 27歳(実際年齢4歳)/ ガーディアン 】
【 2468 / クール・シャルトルーズ / 男性 / 19歳(実際年齢175歳)/ 鏡面反射師 】
【 2475 / ネイプル・シャルトルーズ / 男性 / 23歳(実際年齢203歳)/ 大地の魔法師 】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は発注ありがとうございました。初めまして、葵 藤瑠といいます。
姉御肌で凛々しく格好いいネイプルさん。個人的にネイプルさんのような方は大好きです♪(^^
情熱的な赤より、ネイプルさんには凛とした美麗さのある白バラが似合うかなー、と思いましたのでスプレーウィットという白バラをチョイスさせてもらいました。
発注枠の設定ミスでご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。
最後に。
三連休のため、納品が遅れましたことをお詫び申し上げます。
また何処かでご縁がありましたら、よろしくお願いします。
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