<PCシチュエーションノベル(グループ3)>
『激突!賞金首を狙え!』
町外れにあるその墓地に、普段訪れる者はあまりいない。ましてもうじき夜になるという時間に、わざわざ薄気味悪い墓地に、行こうなどという考えの者の方が珍しいだろう。
ところが、間もなく墓地に眠る死者ですら目覚めてしまう様な出来事が起きるのである。
「追い詰めたわ!諦めて観念しなさい!」
その場におおよそ相応しくない、真っ黒で可愛らしいゴシックロリータの服に身を包んだ天井麻里(あまいまり)の拳は硬く握られ、まだ幼さなさの残る顔に、険しい剣幕を浮かべている。外見からは想像できないが、麻里は格闘家であり、一番の(美少女)格闘家を目指して日々、努力をしているのである。
そんな麻里を見つめる1つの視線があった。麻里と一緒にこの墓地に駆けつけたもう一人の美少女武道家、ミリア・ガードナー(ミリア・ガードナー)である。ミリアも麻里に負けじ劣らずの美少女で、麻里とは対照的な真っ白なドレスを着ており、いつ相手に飛び掛っても良いように構えながらも、ライバルである麻里を見つめているのであった。
「麻里さん?その相手はわたくしが倒しますの。邪魔はしないで欲しいですわね」
黒と白と対照的であるのは色だけではない。二人はライバル同士であり、どちらが真の(美少女)格闘家であるか、白黒つけようと日々戦いを繰り広げている仲なのである。
二人の視線の先には、体のあちこちに傷跡が残る、まるで男のような筋肉質の体をした大女が立っていた。女の手には血がこびりついた剣が握られている。
麻里とミリアは、もともとは別々のルートでこの大女を追っていたのであった。女は、この5年間で数十人という裕福な人間を殺害し、大金を奪っては逃走を続けていた。これまでに何人もの賞金稼ぎが女の首を狙い挑戦をしていったが、いまだに勝った者はいない。
それもそのはず、その女はもともとはとある国で名をはせていた凄腕の剣士で、剣の腕で彼女の右に出るものはいないとまで言われていたのであるから。そのおかげで、彼女の賞金は年を追うごとに膨らみ、さらに彼女の首を狙う者が増えたが、それに比例して彼女の手にかかり命を落とす者も増えていったのであった。
麻里は街の酒場で彼女の存在を知り、そのあまりにも高額な賞金を目の当たりにし、これは必ず自分がしとめるのだと思い、街で情報を集めて賞金首の行方を追った。そして、ようやく賞金首を見つけ、追い詰めていく途中の道で、ミリアに出くわしたのであった。
ミリアもまた、どこかでこの賞金首の話を聞きつけ、やってきたのだろう。麻里は見知った顔の出現に半ば驚いたが、すぐにライバルに先を越されてはなるまいと思い、最初はミリアをこの場から追い出そうと考えていた。
しかし、賞金首があまりにも巧みな剣術で挑んでくる為、麻里はミリアと力を合わせてとにかくこの賞金首をどうにかして倒してしまおうとしたのであった。そして、どうにか街の外れにあるこの墓地まで追い込むことが出来たのであった。
「ライバルだか親友だか知らないけどねえ、アタシにはんな事どうでもいいんだよ。二人で来れば、アタシに勝てると思ったのかい?」
賞金首の女は、細い目で麻里とミリアを交互に見つめた。女らしさのまったくない、大きな体は鎧を着こなし、声も男のように太い。この女は生まれた時からこんなだったのだろうかと、麻里は一瞬思ってしまった。
「アタシの首を狙っているみたいだけどね、屈強な男が何十人も一度にかかってきた事もあったさ。笑わせるよ、一人の女を、男が何十人もよってたかって来てさあ」
賞金首の女が、真っ赤な唇に僅かな笑みを浮かべる。
「ま、その男どもは太陽が沈む前に、全員胴体と首を切り離してやったがね」
「だから、何だというのよ?」
麻里が呟いた。
「わからないのかい?あんたらみたいな小娘が、2人いたところでアタシには適うわけないってことさ!短い人生だったね、お嬢ちゃん達!」
女の動きは、麻里も認めざるを得ない程、まことに見事なものであった。洗練された機械のような動きというのは、まさにこのことを言うのであろう。剣の腕で右に出るものはいないと言われただけはある。
麻里は女の剣を避けつつ、その体にばねのような動きでけりを加えるが、女の左腕に足を掴まれて足を捻られてしまった。
「まったく、相変わらず油断ばかりしていますこと!」
麻里の横から、ミリアが顔を出し女にミドルビートを食らわす。女にその打撃は打ち込むことが出来たものの、あまり効果がなかったようにも思えた。
さらに麻里は、捻られた反対の足で蹴りを加えるが、その前に女が剣を振り下ろしてきたので、それを避けるだけで精一杯であった。後ろに飛びすさった後、痛む足首を押さえながら、女の動きを目で追う。
ミリアもまた女と距離を取り、様子を伺っているようであった。
「あんた達には連携という言葉はないようだね。まるで攻撃がバラバラじゃないか。そんなんで、格闘家を目指しているってのかい?まったく、どうしようもないね」
賞金稼ぎが言うとおりかもしれない。二人は初心者の格闘家ではないから、相手の動きを読み取り次にどのような攻撃をしたらよいか、それなりにわかっているつもりだ。だが、二人で攻撃をしているせいで、お互いの攻撃をお互いに邪魔しあう形となってしまっており、苛立ちすら感じていた。
それでも倒せる相手であれば、ここまで苦戦はしなかっただろう。
「これはお嬢ちゃんの遊びじゃないってことさ。さてと」
攻撃は一瞬であった。ミリアの頭に目掛けて、賞金首の剣が振り下ろされたと思った瞬間、麻里は目から火花が飛び散る程の強い衝撃を暗い、次第に目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
「墓場に、あの賞金首の大女がいたぜ。それに、女の子二人も」
最初、ジュリス・エアライス(ジュリス・エアライス)は、隣のテーブルで話をしている男達の会話など、まったく気にも留めなかった。腰まである艶やかな黒髪を、かきあげて、ジュリスは夕食をこの酒場で取っていたのであった。大好きな、甘いパンケーキをデザートにつけて。
「お前、何で墓場にいったんだよ。あんな薄気味悪いところ」
もう一人の男が呟く。
「昼間墓参りをしたって言っただろ。そん時に、あそこに忘れ物をしたんだよ。あとから気付いて、取りに戻ったら、賞金首がいたんで、慌てて引き返したんだ。ほら、あの壁の女」
男が壁に指を指したので、ジュリスもつられて壁に目を向けた。そこには、男じゃないのかと思うほどの凶悪そうな女の絵が書かれており、その賞金は他の賞金首と比べ一桁は違っていたのであった。
「で、10代ぐらいの女の子二人が、そいつと戦っていたんだよ。二人ともドレスみたいなひらひらの服を着ていて、賞金稼ぎには見えなかったけどさ。けど、彼女達も結構洗練された動きをしていたから、タダもんじゃねえな、と俺は思うわけよ」
世の中には、自分の知る友達と似たような人がいるのね、とジュリスは思ったが、次の男の話でそれが自分の友人の顔を思い浮かべることとなる。
「白い服のお嬢様みたいな子と、ゴスロリ来た可愛らしい女の子だ。ああいうのが格闘家になれるなら、俺も出来るかも」
「逃げてきたくせに何言ってるんだよ。そいで、賞金首はどうなったんだ?」
「それがさ、その女の子達、賞金首にやられちまったみたいで」
「その子達、どこにいたの?」
ジュリスは男の話を聞き、胸が騒がしく落ち着かなくなった。何となく話を聞いていたが、賞金首と戦っている女の子が、ジュリスの友人のミリアであると、確信したからだ。
「墓場だよ。街の外れにある古い墓地だ。あまりにも古い墓地だから、行く人も少ない。薄気味悪いところだしな。けどあそこには今」
男の話を最後まで聞いている余裕はなかった。おそらくは、ミリアと誰かが墓地にて賞金首に戦いを挑み、敗れてしまったのだろう。
ジュリスは自分の大切な友達、その友達が殺されそうになっているというのに、何もしないわけがなかった。
すでに時刻は夜になっており、太陽はすっかり隠れてしまっていた。ジュリスは暗い夜道を走り、墓地を探した。幸いだったのは、墓地までの道が一本道で、ジュリスは迷うことがなかったことだ。
墓地らしきものが視線の先に見えた時、ジュリスは一人の荒々しい戦士とすれ違った。どこかで見たことのあるその顔。いや、そうではない。自分が探しているのはまさにその戦士であるはずだ。
「待ちなさい。ミリアの仇、取らせてもらうわ!」
後ろを振り返り、ジュリスが叫ぶ。
「何だい、あんたもアタシに挑もうっていうのかい。相手にするのはいいけどね、命はもっと大切にするもんさ!」
その大女はすぐに剣をジュリスへ振り下ろしてきた。
「何て重い剣!」
愛用の長剣で攻撃を受け止めたものの、その力に押され、ジュリスは手に痺れを感じた。ジュリスは、友人ミリアがやられてしまった理由を、体で感じたのだ。体を翻し、剣で切りかかろうとするものの、女の動きの方が一瞬早く、ジュリスは腹に強烈な一撃を食らった。思わずうめき声が口から漏れる。
「何の仇か知らないけどねえ。大人しくしていれば良かったんだよ、死なずに済んだんだから」
女の攻撃は止まず、ジュリスは肩を切りつけられた。肩から温かな物が流れ落ちるのを感じだが、それは自分の血であった。
「もう駄目なのかい?もっと骨のあるやつに会いたいねえ」
その時、女の体が斜めに傾いた。
「ジュリスさん!油断してはいけませんわ!!」
それは友の声であった。
「ちょっとお、邪魔しないでくれない?一人で倒して賞金を全部貰うんだから!」
黒い服の少女が目の前に飛び出した。彼女の顔は知っていた。確か、ミリアのライバルである少女のはずだ。
「どうして来たんだい。生かしてやったというのにさ」
賞金首が言った言葉からして、二人は生かされたのだろう。しかし、二人ともかなりの深手を負っており、まともに戦えるとは思えなかった。
「そいつはかなりの腕ですわ。一人では倒せない!」
ミリアが声を上げる。
「しょうがないから、今は皆で協力して倒さないと。お金のためにもね」
記憶では麻里という名前の少女も、ミリアの言葉に同意をしていた。
「そうね。確かにそのようね」
ジュリスは二人の言葉に頷くと、一度賞金首と距離を取り、後ろにいるミリアと麻里、3人で囲んだのであった。
「人数ばかり増えても、意味がないがね!」
それでも、その賞金首は強敵であった。まるで後ろにも目があるかのように、まったく無駄のない動きで3人の攻撃をかわしてしまう。うまく連携を取らねば、決して勝てない相手だとジュリスは悟った。
ジュリスは目でミリアに合図を送った。それをもう一人の少女、麻里も受け取ったのだろう。ジュリスは意を決して体ごと賞金首に飛び込んでいき、体に抱きついた。無謀ともいえる行為であることは自分でもわかっていた。
すぐにジュリスは、長い髪の毛をつかまれ油断すれば気絶しそうなほど頭を殴られたが、賞金首の体を決して離すことをしなかった。
賞金首の動きが鈍った時、ミリアが後ろから殴りかかる。賞金首は右腕でミリアの体を殴り飛ばしたが、ミリアのすぐ後ろから連続して攻撃をしかける、麻里の動きまで予測することはできないようであった。
麻里の蹴りが賞金首の首筋に直撃し、その手から剣が落ちる。ジュリスは気を失いそうになりながらもその剣を奪い取り、相手から武器を奪う。
「さあ!今がチャンスよ!」
ジュリスの叫びと共に、ミリアと麻里が同時に賞金首の腹と背中に蹴りを食らわせた。お互いの動きを読み取り、違う場所にそれぞれ攻撃をする見事な連携技であった。ついに賞金首の女は地面に倒れ付し、夜の静けさが訪れたのであった。
「ジュリスさん、しっかり」
「私は大丈夫よ。そっちこそ、そんな体で」
ミリアがジュリスの腕をつかみ、体を起こそうとしていた。
「あの賞金首にやられて、町へ戻ろうとしたのです。でも、途中でジュリスさんが戦っているのに気付いて。心配だったから加勢しましたの」
「私は単に賞金が欲しかっただけだけどねー。たまたま強い相手だったから、協力したけど」
麻里がミリアに続けて答えた。
「町で女の子が戦っていると聞いて、いてもたってもいられなくなったわ。ミリア達がやられたって聞いたから」
ジュリスが傷ついた顔に笑顔を浮かべる。
「でも、皆無事でよかった。さあ、早く町に戻りましょう」
気絶している賞金首をかかえ、ジュリスとミリア、麻里は町へと戻る。世の中には強い者がいるのだと、つくづく感じたが、今はこうして自分と友人達が無事であったことを、喜ぶばかりだった。(終)
★ライター通信☆
初めまして。WRの朝霧・青海と申します。このたびはノベルの発注を有難うございました。
3人の女の子たちが賞金首と戦うという、面白い演出を書かせて頂きました。格闘家なのですが、ゴスロリだったり白いドレスだったりと、設定の方を参考にしつつ、楽しく書いてみました。
賞金首の設定はお任せというのであったので、屈強な女戦士にしてみました。最初は屈強な男にしようとしたのですが、賞金首としてはありきたりすぎてしまいましたので(笑)
それでは、どうもありがとうございました!
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