<PCクエストノベル(3人)>


七色に輝く空と石 〜 貴石の谷 〜

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 【冒険者一覧】
 【整理番号 / 名前 / クラス】

 【 2408 / ホリー・シャルトルーズ / 法力魔具職人 】

 【 2557 / エルシア・エルミナール / パラディン  】

 【 2679 /   マ  ー  オ   / 幽霊     】

 【助力探求者】
 【 なし 】

 【その他登場人物】
 【 宝石喰い 】

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○オープニング


 目に痛いほどに明るい太陽の光を浴びて、ホリー・シャルトルーズは広い高原を楽しそうにふわふわと漂い出した。
 吹く風は冷たく、上着を着ていないと外に長時間いる事は出来ないような鋭さを持っていた。
 けれどそんな厳しい風も、柔らかい太陽に熱せられて些か丸くなっているらしい。
 足元で風に靡く花を見詰め、ホリーは地面に下りると咲いていた綺麗な花に顔を近づけた。

エルシア「珍しい花が咲いていますね」

 背後から聞こえた声に顔を上げる。
 漆黒の髪が風に靡き、闇色の優しい瞳がホリーの前、咲き誇る美しい花に注がれる。

ホリー「これってぇ、珍しい花なのぉ〜?」
エルシア「えぇ。どこからか種が飛んできたのでしょうか」
マーオ「ここは風が強いからねー」

 マーオが輝く向日葵色の短い髪をそっと押さえる。
 幽霊である彼の体をすり抜けていく風は、微かに髪を揺らすか揺らさないか程度だったが、マーオは細い指で前髪を払うとホリーの隣に立った。

マーオ「このお花、1本だけしかないんだね」
ホリー「あ、本当だぁ〜。他はみーんな黄色いのにぃ、このお花だけ白だねぇ〜」
エルシア「さぁ、早く行きましょう。日が暮れると寒くなりますし・・・物騒ですから」

 エルシア・エルミナールに急かされて、ホリーは地面についてしまっていたバッグを持ち上げると、手で払ってから肩に掛けた。

ホリー「それじゃぁ〜、貴石の谷へ向かってぇ、しゅっぱぁ〜つ!」
マーオ「おーっ!!」

 腕を振り上げて意気揚々と歩いて行くお子様の元気の良さに、エルシアは微かに口元に笑みを浮かべ、広がったスカートの裾に叩かれた花をそっと撫ぜた。


●貴石の谷の前で


 長い登りの山道を進み、少し開けた場所に出ると、マーオがポケットの中からお重を取り出してシートを広げた。
 ポケットの構造がどうなっているのかは不明だが、次々と出てくる昼食セットにホリーが目を輝かせる。

ホリー「良かったぁ〜、ボクぅ、お腹空いて倒れそうだったんだぁ〜」
マーオ「倒れる前に間に合って良かった」

 嫌味ではなく、心底そう思っているらしいマーオ。
 やや天然気味だが、そこが可愛らしい。

ホリー「それじゃぁ〜、いっただっきまぁ〜す!」
エルシア「いただきます」
マーオ「美味しく出来てると良いんだけど・・・」

 端に置いたお菓子の出来には自信があるのだが、お弁当の方はあまり自信が無いらしいマーオ。
 心配そうな表情でエルシアとホリーの顔を見比べ・・・

ホリー「おいしぃ〜!!マーオはぁ、やっぱりお料理の天才だねぇ〜!」
エルシア「本当に美味しいです」

 はしゃぐホリーと、柔らかい表情を浮かべながら口元に手を当てるエルシア。
 安堵の表情を浮かべたマーオが神経を集中させ、サンドイッチを1つつまむと口の中に入れる。
 ゆっくりと咀嚼をして味を楽しみ・・・

エルシア「それで、これから行く貴石の谷ですが、宝石喰いと言うモンスターが出ます。名前は宝石喰いですが、宝石ではなく人間を喰らいます」
マーオ「そうなんですかー」
エルシア「かなり危険な場所ですので、気を引き締めて行かなくてはなりませんね。今回は虹の雫を採りに行きますが、それは深部でしか見つからない宝石です」
ホリー「何だかぁ〜、大変そうだねぇ〜」
エルシア「宝石喰いだけでなく、崩落の危険性もありますし・・・先ほども言いましたように、かなり気を引き締めて行かないと・・・」
ホリー「あ、マーオ、そのプチケーキ取ってぇ〜!」
マーオ「はい、どうぞ」
エルシア「・・・あの、私の話を真面目に聞いてます?」

 かなり危険な冒険だと言うのに、お子様2人は何処吹く風で、彼らの注意はマーオの作ったふわふわのプチケーキに注がれている。
 確かに魅力的なヴァニラの匂いがするが・・・ピクニック気分で行って帰って来られるような所ではない。

エルシア(大丈夫でしょうか・・・)

 少し不安になったエルシアが頬に手を当て、ホリーが口元に生クリームをつけながらにぱっと可愛らしい笑顔を見せる。

ホリー「だぁいじょうぶだよぉ〜!いざとなったらぁ〜エルシアにぃ守ってもらえば良いんだもーん。なーんてねぇ〜」

 ニコニコとお子様笑顔を見せるホリー。 

エルシア(まぁ、何とかなりますよね・・・?)


○いざ、貴石の谷へ!


 ぽっかりと開いた坑道の入り口で、ホリーは肩から掛けた鞄の中から道順を覚える魔具『進君』を取り出した。
 見た目は犬のぬいぐるみだが、GPS機能つきと高性能だ。
 大きさ的に、鞄との質量がどうにも比例しないように思うが、そこはご愛嬌だ。
 坑道の中に足を踏み入れ・・・はしゃぎながら中へと入って行く2人の後姿を見詰め、エルシアは『ある事』に気がついた。
 この坑道は崩落の危険性があり、足元も舗装されているわけではない。

エルシア(けれど2人とも、足元に気をつける必要はないんですね・・・)

 宙を漂っているホリーと、足はあるものの、そもそもマーオに物理攻撃はきかない。
 上から岩が落ちてきても、彼ならば生命の危機は無い・・・いや、そもそも既に生身の人間ではないが・・・
 お子様2人の足元に気を配る必要が無くなったエルシアが、思わずほっと安堵の溜息をつく。
 だが、安心している場合ではない。
 マーオはともかく、ホリーの上に岩が落ちてきたら惨事だ。
 それに何より、深部まで行くのだから宝石喰いが出ないとも限らない。

エルシア(むしろ、出ると思って行動した方が良いですね)

 少しだけ緩めた表情を、再びキリリと引き締める。
 足元を注意しながら進み・・・突然ホリーがピタリと止まったのに、エルシアが首を傾げる。
 坑道の入り口からそれなりに入ったところでは、採取されていない貴重な宝石がチラホラと転がっている。
 気休め程度にポツポツと取り付けられている明かりに、宝石がキラリと反射する。
 ルビーにサファイア、エメラルドにアレキサンドライト、スピネルにオパール・・・
 ホリーが宝石にも負けず劣らずのキラキラとした目で、あっちこっちを散策しだす。
 初めての場所でわくわくしながら宝石を発掘しては、薄暗いライトの下にかざすホリー。
 マーオがその様子を見て、これはと思うものを見つけ次第ホリーを呼んで指差して行く。

エルシア(あらあら・・・)

 何時の間にか虹の雫ではなく、綺麗な宝石探しになっているような気がして、無邪気にはしゃぐ2人に苦笑交じりの視線を向けるエルシア。
 幾つかバッグの中に入れたホリーが、当初の目的を思い出して再び深部へと歩き始める。

マーオ「モンスターも出ないし、良かったね」
ホリー「きっとぉ〜、ボク達の日頃の行いが良いからだよぉ〜」
マーオ「悪い事をする人はモンスターに襲われちゃうんだね・・・」
ホリー「そうそう!だからぁ〜、ボク達は良い子なんだよぉ〜!」

 子供独特の、無理矢理とも思えるような理由付けだったが、とても微笑ましい会話だった。
 しっとりとした洞窟独特の空気に、敵の気配が無いかを探っていたエルシアの前で、突然ホリーが小さな声を上げた。

ホリー「もしかしてコレ・・・」

 拾い上げた小さなソレは、白い半透明の石だった。
 山にかかる霧を濃縮したような、淡い乳白色の石は、坑道内の薄暗い明かりを反射して虹色に輝いた。
 角度を変えるごとに様々な色に変化をする虹の雫は、小さな欠片程度の大きさだった。
 虹の雫を発掘した誰かが帰る途中で落としてしまったものだろうが・・・
 元はもっと大きかったのだろう。欠け方からして、何かしらの大きな力がかけられたようだ。
 それは、誰かが何かしらの意志を働かせて綺麗にカットしたのではない。
 それこそ、不測の事態で欠けてしまったのだろう。
 周囲にはそれらしきものは他にはない。
 持って来た者が持ち去ったのか、それとも・・・

ホリー「欠片があるって事はぁ、もっと奥に行けば大きいのがあるって事だよねぇ〜?」
マーオ「行ってみよう!」
エルシア「ちょっと待ってください!」

 欠片を保管用の硝子ポットに入れたホリーが歩き出し・・・マーオがそれに続こうとするのをエルシアが制止する。

ホリー「どうかしたのぉ〜?」
エルシア「・・・何か、聞こえませんか?」

 真剣な表情のエルシアに、ホリーとマーオが耳を澄ませる。
 ポタリと、雫が落ちる音しか聞こえない・・・。
 ホリーとマーオが眉根を寄せながら顔を見合わせ・・・次の瞬間、彼らの耳にもはっきりとその『異音』は聞こえて来た。
 パラリと砂が落ちる音と、ドスドスと何か ――― 恐らく四足歩行の何か ――― がこちらに向かって来ている。

マーオ「前から聞こえる・・・!」
エルシア「この足音・・・かなり大きいですね」

 エルシアの脳裏にチラリと宝石喰いの事が浮かんだが、もしかしたら違うモンスターかも知れない。
 けれど、噂に聞く宝石喰いは大型の両生類のような外見と聞く。
 マーオとホリーの前に立ち、エルシアは大きな剣を真っ直ぐに構えた。
 柄の部分に埋め込まれた石がキラリと光り、前方から吹いてきた微かな風に前髪が揺れる。
 だんだんと近付いて来る足音に息を殺し・・・薄暗い中に、モンスターの全貌が曝される。

エルシア「宝石喰いです!」

 大きな口に鋭い牙、瞳はギラギラと光っており、歩行速度はそれほど速くは無い。
 宝石喰いとの距離はまだ安全圏内だろう。

エルシア(今なら、走れば逃げられますね)

 冷静にそう判断を下すと、エルシアは剣を下ろして振り返った。

エルシア「逃げましょう!」
マーオ「そうだね」

 コクリと頷いたマーオが踵を返し・・・

ホリー「わぁ〜!あれが宝石喰い〜?面白い外見してるんだねぇ〜」

 面白がって近付こうとするホリーの首根っこをマーオがガシリと掴み、引き摺るようにして来た道を引き返す。

マーオ「早く逃げないと・・・!」

 ズリズリズリ・・・
 ホリーは宝石喰いを見ながらはしゃいでいる。
 エルシアがマーオからホリーを引き受け、担ぎ上げると走り出す。
 足元が非常に不安だったが、そこは彼女の運動神経の良さが幸いした。
 出っ張った岩に足を取られることもなく、一直線に出口へと走り出す・・・


●今回の収穫


 日が傾き、オレンジに近い色をした空を見上げながら、エルシアが肩で息をする。

エルシア(コレくらいの事で息が上がっていてはダメですね。もっと鍛錬しないと・・・)

 ホリーを担いで足場のあまり良くない坑道内を全力疾走したのだ。息が上がって当然と言う気もするが・・・。
 マーオが地面にへたり込むと空を見上げる。
 体力的と言うよりは、精神的に疲れたのだ。
 そんなお疲れの2人をそのままに、ホリーはバッグを開くと中から虹の雫の欠片を取り出した。
 傾いた陽光に石をかざし・・・

ホリー「ちょっと小さいけどぉー、魔具の材料になるかなぁ〜?」

 七色に光る虹の雫を、少しずつ角度を変えて色の変化を楽しむ。
 無邪気なホリーの様子にエルシアが微笑み、息を整えると立ち上がる。

エルシア「さぁ、暗くならないうちに帰りましょう」
ホリー「そうだねぇ〜。ボクぅ、早く帰ってコレを使いたいしぃ〜」

 わくわくと言った表情のホリーが取り出した虹の雫を保管用の硝子ポットに入れ、大事そうにバッグの中にしまうと首を傾げる。

ホリー「マーオ、どうしたのぉ〜?」

 ボーっとしたまま動かないマーオの様子にホリーが眉根を寄せ、エルシアがホリーと同じ様に首を傾げる。

エルシア「疲れてしまいましたか?」
マーオ「あ、そうじゃなくて・・・」

 胸元に手を当て、ギュっと服を掴むマーオ。

マーオ「何でもないんだ」

 小さな笑顔を浮かべながら、ホリーとエルシアのところまで歩き出す。
 ・・・彼の視線の先には、毒々しいまでに真っ赤な花が1輪咲いていた。
 あまりに強烈な赤に目を奪われ・・・マーオが見詰めていた先で、赤い花は風に揺られてハラリと儚く散り落ちた。
 花弁が1枚、また1枚、風に流されていく。
 その行方を追っていた時、不意に何故だか分からないが胸が痛んだ。
 だから、エルシアとホリーの呼びかけに遅れてしまったのだ。

マーオ(少し、疲れたのかな・・・?)

 マーオは首を傾げながらも、刻一刻と色を変え、表情を変えていく空を見上げた。
 ホリーがエルシアとの談笑を止め、同じ様に視線を上にあげる。
 エルシアもつられたように上を見・・・思わず、3人の足が止まった。

ホリー「綺麗だねぇ〜」
エルシア「・・・怖いくらいに綺麗な空の色ですね・・・」

 紫色にたなびく雲、淡いピンク色に染められた丸い雲。
 幻想的な色合いは、絶対的な自然の力をまざまざと見せつけているようで・・・
 3人は無意識のうちに手を繋ぐと、黒く伸びた自身達の影を見詰めながら帰路を急いだ ――― 。





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