<聖獣界ソーン・PCゲームノベル>


くるくる赤い糸

 青い幸せになれるという花を探して、少女は森を行く。
 恋に恋するお年頃。
 初恋が叶うかも、なんて夢のような話。
 素敵な王子様が……。なんて柄じゃないけれども。
「一度ぐらい、素敵な恋に身を焦がしてみたいもの」
 なんて独り言をつぶやきながら、彼女は森の中を急ぐ。
 青い小さな花を目指して。
 目指す花と良く似たもうひとつの花があること、そうして自分を狙うかもしれない、危険な存在の事なんてしらずに、我が恋の道を行くように軽やかな足取りで進んでいく。

 

● 
 小さな花屋ではエイトとキャダンが顔を見合わせて、ため息をついていた。
 さて、どうしたものか。
 連れ戻そうとしたところで、プリシラが聞き分けよく戻ってくるはずもない。
「何かあったでござるか?」
 勢い良く飛び出した少女とそこですれ違い、何かあったのかと尋ねたのは鬼眼・幻路。
 その声にエイトとキャダンは体躯の良い男性を見た。
「……こま…ってる………?」
 そこへ更になんだか思惑気な二人に、近寄り声をかけたのは千獣。
 ため息混じりに、コレまでのいきさつをふたりに話すキャダン。
 一人の少女が初恋が叶うと言われている『ブルーワンダー』という花を探しに出たのだが、問題が発生してしまった。
 ひとつは、森には野犬が多く生息してるということ。
 『ブルーワンダー』とは別に良く似た花が咲いているということ。
「いきなり飛び出していったから、何事かと思いきや……なるほど、恋の花でござるか。微笑ましい話と和んでおれたらよかったのでござるが、野犬たむろう森に向かったとあればそうともいかぬ。」
 それに自分は草花の事については、明るくない。
 エイトの方に向き直り、花の違いについて尋ねてみる。と、千獣もそれにあわせて言葉を発した。
「……カンパ、ニュラ……ていう、花……何か、危険……?危険な、花、なら……何となく、わかる。それ、以外、だと、よく、わから、ない、から……ブルー、ワンダー、と、カンパ、ニュラの、違い、教えて……? 」
「いえ、毒などはないので普通の花です。花の違いは、お嬢さんが探しているのは初恋草と言われる、小さな蝶が飛ぶような花弁の花。それに良く似ているのはカンパニュラ。釣鐘草とも呼ばれてベルのような形をしています。両方とも青い色は良く似ているけれども、花弁の形が違うので分っていればすぐに見分けがつくのですが……」
 尋ねられればエイトは相手にわかりやすい様に、花の説明をしていく。
 すると千獣は、分ったと言うように軽く頷き、幻路も腕を組みながら大きく頷いた。
「明日の新聞に子どもが野犬に襲われた、なんて記事が載っても後味が悪い……わかった、俺も手伝おう」
 店先でのやり取りを聞いていた、ジェイドック・ハーヴェイも森へいくと申し出た。
「……あの、子、の……持ち物、何か、ない……? 匂いが、あれば、追う、のは、簡単」
 花の違いを確認し、森へと向かおうとした時、千獣がエイトとキャダンを見て尋ねる。
「…あ?あぁ、これでも大丈夫かな?」
 慌てたキャダンが荷馬車に戻り、仲間から受け取ったのは白いレースの縁取りがされている小さなハンカチ。それを千獣の前に差し出してみる。
「……うん、…大丈、夫………ありがとう」
 千獣は受け取ったハンカチを鼻先にあてて、くん。と、鼻を鳴らす。と、森の方へと向かって歩き出す。
「俺は浄天丸を空へと放ち、空からお嬢さんを探すこととしよう」
 千獣の獣としての能力とは他に、 幻路が黒曜石の宝珠型聖獣装具を取り出し念ずるとそれは黒が美しい一羽の鳥に変わり森の方角へと飛んでいった。
 これで上空からの視覚も得ることが出来る。
「まぁ、任せて置きなって。お嬢さんはちゃんとみつけてくるからさ」
 千獣が歩き出すと、それに続いて ジェイドックがエイトとキャダンに向かってニッと笑うと、千獣の後についていく。
 きっと居場所なら、千獣と幻路で簡単に見つけてしまいそうな気がしたから。
 しかしながら、悪い話ではないのだが……。
「人の話を最後まで聞かずに飛び出したのはいただけないな」
 と呟く独り言。それも、若気の至りでかるく流しながら森へと向かう3人。


 陽射しがキラキラ光るのは、森の木々の葉に光りが反射して降り注ぐから。
 そんな光景に楽しそうに、歩いていくのはプリシラ。
 自然となにやら鼻歌ばかり歌っていたりもする。
 周りがどれだけハラハラしてるとかなんて、きっと知らず今目指すのは青い小さな花。
「で、その花はドコにあるのかしら?」
 ぴたりと足を止めて、少し考え込む。
 考えたって聞いては居ないのだから、答えは出てこない。
 元々能天気なのもプラスして、プリシラはまぁ、いいか。この森の中にあるのは確かなんだし、と、想いなおすと、軽くスキップして更に奥の方へと向かっていった。
 奥へ奥へ。
 その先に多数の野犬がたむろしているとか、まったくしらずにプリシラは無邪気に進んでいく。
 時折、森に咲いている花を見つけると、近寄り見てみるも探してる花ではなく、肩を落としたりもしながらそれでも恋を実らせるために少女は進む。
 
「……こっち……」
 千獣がプリシラの通った後を的確に見つけ出して、歩いていく。
 それにジェイドックが続き、幻路は先に空を行く黒い鳥の空からの見た目でプリシラの姿を探す。
「むぅ……お嬢さんの姿はまだ見えぬなぁ」
 森の木々の間から垣間見える森の中。そこに少女らしき姿は見えなかった。
「……でも、もうすぐ、まで……来てる……はず」
「しかし、野犬がもう既に襲ってしまったって事はないかね?」
 手に持ったレースのハンカチを見ながら、もう一度鼻先に当てて、千獣が歩く先を見る。それにジェイドックが何時野犬が飛び出してきても大丈夫なように、サンダーブリットを手に取っておく。
「…ん…血の匂い、は……してないから……大丈夫、だと……思う」
「ややっ。あれは!?」
 千獣がハンカチを鼻先から放し、くんと鼻をもう一度鳴らした。
 血の匂いはどこからもしてこない、それよりも彼女のにおいの方が濃くなってきているから、大丈夫だと思う。
 そんな会話のやり取りの途中、幻路が少し大きな声を上げた。
「なんだ?お嬢がみつかったか?」
「いや、お嬢さんよりも先に、野犬の群れを見つけたでござるよ」
 ジェイドックの言葉に、神妙な面持ちで幻路が答えた。
 少女を保護するよりも、先に野犬をどうにかしてしまってから少女を追う方が、良いかもしれないと、3人は幻路の飛ばした黒い鳥が待つ場所へと駆け出した。
 
 それはさほど離れてない距離で、幻路が先頭につき走り出してからしばらく行けば少し開けた場所にたどり着いた。
 そこには10数匹の野犬のグループがどこかに向かおうとしているところだった。
「ま、今日はタイミングが悪かったと思ってくれ」
 ジェイドッグが野犬を見つけるや否や、すぐにサンダーブリットを構え威嚇射撃をする。
 乾いた音に野犬は、びくりと体を竦ませた後、数匹が飛び掛って戦闘をしかけてくる。
「…ちょっと、…どこかに、行って………」
 飛び掛ってきた野犬に向かって、千獣が野生の気迫の低い低い声を発せれば、飛び掛ってきた野犬は攻撃性を失い、力なく地面に着地する。
 そこへ更に、無数の大きな爆音と火薬の音。
 幻路が投げ込んだ爆竹が鳴り響く音。
 それが止めとなり、野犬は文字通り尻尾を巻いてどこかへと散っていった。
「……アラ? 何かあったの?」
 そこへ能天気な声が聞こえて、一同は声のした方向を見た。
 きょとんとした、ひとりの少女の姿があった。
 一瞬に緊張した空気が崩れ落ち、3人はため息を吐き出してしまった。
 知らぬが仏とはきっとこんなこと。


「……プリシラ?」
「えぇ、そうよ。こんにちは。はじめまして?よね、なのにどうして私の名前をしっているのかしら?」
「それはだな………」
「あぁ、そうそう。そんな事より、この辺で青い花見なかった?ブルーワンダーって言うんだけれども……」
 千獣が一歩、少女の方に近いより尋ねた。
 それにプリシラは頷きながら、千獣の顔をまじまじと見つめる。
 今日はじめて逢った相手なのに、なんで自分の名前を何故知っているのか不思議に思っている顔。
 その表情に幻路が、こうなったいきさつの説明とした矢先、すぐにその言葉はプリシラの言葉にかき消されてしまった。
 プリシラはパンと、勢い良く手を合わせて、若干目をキラキラさせて3人を見て尋ねる。
 『ここは危ないから帰れ』と、言おうとしたジェイドック。しかしその言葉は発せられる事無く飲み込んでしまったのは、少女の様子を見てから。
 たとえ帰れといったところで帰りそうな雰囲気ではなかった。花を見つけない限り、今日はこの森からも出れないような気がしてしまい、人知れずまたため息をついた。
「さぁ、ここにあるかどうかわからないが、いいよ、お嬢さん、一緒に探してやるよ」
「まぁ! 本当に?うれしいわ、ありがとう、オニーサン」 
 負けたとばかりにジェイドッグが、花を探すことを手伝うと告げれば、プリシラはそれはそれは嬉しそうに目を細めてお礼を言う。
「野犬を追っ払ったといえども、また何時戻ってくるか分からない故、拙者もご一緒していいかな?」
「えぇ、もちろん。とてもうれしいわ」
「……ん、……私も、一緒に………」
「本当? こんなに沢山の人に手伝ってもらえるなんて、何て素敵な日なのかしら」
 幻路の申し出に更に笑顔は輝き。それに千獣の言葉には自ら千獣の方に一歩近寄り、小さなその手をきゅっと握りしめた。
 その行動に千獣はどうしたらよいものか、戸惑ってしまった。


「……ねぇ……こいって……何?」
 並んで青い花を探していた千獣がプリシラに尋ねた。
「…うん?恋?」
 地面に落としていた視線を上げて、隣の千獣をまじまじと見てしまった。
 千獣の瞳はこっちにむいていて、これから恋についての哲学書でも書こうとしてる哲学者の様な面持ちで、その瞳の色は真剣。
 そんな千獣の様子に、プリシラはうん?と小首をかしげた。
 ちょっと考え込んでしまう。
 言葉にするのはちょっと難しい。
「そうねぇ……そのね好きな人の事を考えるだけで、胸が痛くなったり。しばらく逢えないでいると切なくなったり……」
「……せつない?」
「そう切ない。何ていうのかなー。ヤッパリこの辺が痛くなるような感じかな?」
 真剣にプリシラの話を聞いている千獣。
 その言葉の中、良く分からない言葉が出てくると、思わず聞き返してしまう。
 それにプリシラは小さく笑いながら、自分の胸を指差した。ココの辺り。とかいいながら。それにつられて千獣も自分の胸の辺りを見つめてみる。
「それからね……好きな人の一言が凄く嬉しかったり、凄く哀しくなったり。自分が感情がコントロールできなくなっちゃうの………それに……」
 千獣の様子を見ながら、更に言葉を続けていく。
 自分だけじゃどうにもならない気持ちのこと、どこまで相手に伝わるか分からないけれども。そうして少し言葉が止まった。
 千獣は止まった先の言葉を促すように、じっと変わらぬ表情でプリシラを見つめる。
「…それにね……物凄く自分がわがままになるの……もっと好きでいて欲しいとか、もっと自分を見て欲しいとか……」
「………………」
「千獣はそんな気持ちになったことがある?」
 千獣が黙っていれば、言葉の続きをゆっくりと再開し、ちょっと照れた様にはにかんだ様に、千獣に向かって笑ってみせる。
 千獣のまだ胸にある手がきゅっと衣服を握り締めた。
 プリシラの言葉に、身近な男性の事を思い出してしまうから……。
 プリシラに尋ねられても、千獣は答えることが出来ずに、変わらない表情のままプリシラを見ていた視線を落すしかなかった。
「ねぇ、もし、千獣に素敵な人がいるのなら、今度紹介してほしいな」
 軽く笑いながら、簡単に友達にでも言うように千獣へと告げる。
 千獣は困ってしまい、曖昧に頷くような仕草しか出来ずに居た。
「よぉし、私も頑張ってブルーワンダー見つけようっと」
 プリシラは大きく伸びをすると、しゃがみ直し再び青い花を探し始める。

● 
 張り切ったプリシラと手伝ってくれた、3人が頑張って森の中を探したけれども、青い花は残念ながら見つからなかった。
 高かった陽もソロソロ沈みかけて、西の空が茜色に、東の空は藍色に染まり出している。
 このまま盛りに居ては更に、凶暴な何かが出てきてもおかしくないから、出来れば早々に切り上げた方が良いのではないかと3人がプリシラに提言する。
「青い花はまた今度、探しに来ればいいのでなかろうか?」
「それにこのまま夜になってしまえば、探すどころではなくなるしな」
「……うん、危険…………」
 3人に畳み掛けられるように言われてしまえば、プリシラはちょっとだけ泣きそうに眉を顰めたりしたけれども、大きく深く深呼吸を一度して、両手を腰に当てて3人を見た。
「………うん、しょうがない。みんなの言う通りだもの、今日は帰るわ。………それに………」
 皆を見たあと暮れ行く空を見上げて、吐息ひとつ。
 その言葉の後を皆が黙って待つ。
「それに、これからする予定で花を探していたんだけれども、やっぱりそういうのは神様が見てるからダメなのかしらね?」
 告げられた真実に、腰砕けになってしまうところだった。
 ちゃっかりというか、なんというか。
 今現在ではなく、未来の恋のためにだったとは。
 きっと花を見つけたところで、それは枯れてしまっているとかそういうことに彼女は気がつかないのだろうか。と、それぞれの胸のうち。
 少々拍子抜けしたものの、まぁ少し楽しかった出来事にまぁ、いいかと4人は帰路につく。
 ただそこまで出来る、『恋』というものは偉大なと思いながら。

「ただいまー」
 街へと戻ってきたプリシラが、キャダンの姿を見つけて大きく手を振った。
「あぁ、お帰り。ところで、肝心の花は?」
「うん?残念ながら、見つからなかったの」
「そうか、それは残念だったな」
 笑いながら告げるプリシラの頭をキャダンがくしゃりと撫でた。
「だからね?」
 ………だから?
 その言葉にその場に居た全員がプリシラに注目した。
「私の旅はここで、お終い。 ここに残る事にしたわ」
 悪びれる事もなく、にこりと爽やかに告げるプリシラ。
「………――――そうか」
 逆に言葉を失いかけてしまったのは、キャダンの方。
 もう一度、プリシラの頭をくしゃりと撫でた。
「だって、逢おうと思えばいつでも逢えるもの」
 寂しくなったら逢いに来て?なんてプリシラもちょっと涙ぐみながら笑う。
 キャラバンの皆にお別れの挨拶を済ませてから、今日手伝ってくれた3人への方へと向かった。
「今日は本当にありがとう。そうしてゴメンネ。私、ここに居るから、良かったらまた遊びに来て?」
 ぺこりと頭を下げてお礼と謝罪の言葉を告げると、すぐに頭を上げて今度はエイトの方に向き直った。
「まぁ、そんなわけで、今日から私をここで雇って?」
「え?……えぇ、まぁ」
 困ってしまったのはエイトの方、このまま断ってしまえば悪い人になるんじゃないかとか、悶々としながら、思わず頷いてしまった。
 そうしてプリシラはこのまま小さな花屋に残る事となった。

「さて、我々は次はフランの工房 〜呪いつき武器製造販売所〜へと向かうが、ついてくるかい?」
 キャダンがそう告げた後、キャラバンはゆっくりと動き出す、次の目的地へと向かって。
 小さくなるキャラバンの影にプリシラはずっと手を振って見送り続けた。
 その姿が小さくなるなり、見えなくなるまで。
 見えなくなっても、ずっとずっと。
 気が済むまで。
 また逢える日を楽しみにして。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


3087/ 千獣 / 女性 / 17歳(実年齢999歳)/ 異界職
3492/ 鬼眼・幻路 / 男性 / 24歳 / 異界職
2948/ ジェイドック・ハーヴェイ / 男性 / 25歳 (実年齢25歳)/ 賞金稼ぎ

NPC
花屋の店員→ エイト/男性/25歳/flower shop 〜 Symphony in Cの店主でフローリスト
恋に恋する少女→プリシラ/女性/19歳/キャラバンからlower shop 〜 Symphony in Cの店員




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■         ライター通信          ■
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千獣 様

はじめまして、こんにちわ。
ライターの櫻正宗です。
この度は【くるくる赤い糸】にご参加下さりありがとうございました。
初めてのご参加。うれしい限りでございます。

この度は納品がかなり遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
千獣さんの無垢な部分を引き出せたらと想いつつ、書いて見たのですが、如何でしょうか?
少しでも気に入ってもらえるものになっていれば、幸いでございます。
まだしてない恋を叶えるための花探し、結局花は見つからなかったのですが、千獣さんとのやりとりはプリシラにとってとても楽しく、同世代の女の子同士だという認識で、物凄くフレンドリーに接してしまってます。
またどこかで逢うことがあれば既に友達認識なので、なれなれしいかもしれません。

それでは
重ね重ねになりますがご参加ありがとうございました。
またどこかで出会えることを祈りつつ。

櫻正宗 拝