<PCクエストノベル(1人)>
彷徨う民の道しるべ
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【冒険者一覧】
【3434/ 松浪・心語 (まつなみ・しんご) / 異界職】
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今回は本気だった。
だからこそ、小さな粗末な家を借りた。
宿代を毎日払うより、その方が安かったからだ。
そして、住み始めてわかった。
あの島は、異界への入り口であることを。
エバクトはそこそこ開発された町だった。
前回そこで旅に必要ないろいろな物を調達したが、今回そこに住み始めて、たくさんの物を事前に用意できるようになった。
この町には見かけない、銀色の髪を揺らして、彼--松浪心語(まつなみ・しんご)は、羊皮紙を床に広げた。
前回描いた地図は、まだ右上の一部にしか存在しない。この奥にどれだけ広大な場所が広がっているのか、想像するだけでため息が出る。
だが、先日、この町に寄った昔馴染みの男から、ある情報を聞いたのだ。
彼にとっては、決して無視できない情報を。
心語:「義兄さん…か」
彼はふっと笑った。
少女のような顔に似合わぬ深い笑みを。
彼は何度か、助けられたのだ。
彼とはちがう、青銀色の髪と紫の瞳を持った義兄に。
彼の故郷の中つ国では、10歳前後で独立し、傭兵として生きることを定められる。
義兄は異才の持ち主だった。
中つ国でも、屈指の戦闘力を誇り、誰よりも強かった。
戦飼族という種族が人造種であるせいか、なぜか子供はひとりずつしか生まれなかったため、彼は隣りに住んでいた自分を、まるで弟のように心から大事にしてくれた。
戦闘の基礎を教えてくれたのも、彼である。
今、心語が生き続けられているのも、義兄の卓越した教育のおかげである。
義兄は、8歳で独立し、生まれ故郷を去った。彼であれば、どんな条件もよりどりみどりであったろう。だが、彼は傭兵の道を選ばなかった。
冒険家になったのである。
義兄は知りたがっていた。
この世界が、どれほどの広さを持っているのかを。
どんなモノを隠し持っているのかを。
だが、ある日、彼は忽然と消えたのだ。
中つ国のどこにも、その周囲の国のどこにも、彼はいなくなったのだ。
『別の世界に飛ばされたのではないか?』
そう、ある者は言った。
自分たちの住む世界の他にも、「世界」が存在することなど、心語には信じられなかった。
だが、ある時、彼はそれが真実だったことを知る。
あの、忌まわしい山賊に出会ったことで。
そして、運命のあの日。
その義兄が、自分を探している、とある男に告げられたのだ。
その男はこうも言った。
「あいつは怪我が元で死にかけている。そしてしきりに還りたがっていた」とも。
その男は知らない。
自分たちがどこから来たのかを。
心語:「還して、やりたいな…」
心語はふと、そうつぶやいた。
義兄だけでも。
義兄だけでも、あの国へ。
心語は羊皮紙をまるめた。
そろそろ、出かける時間だ。
今回の旅は長くなる予定だった。
前回の文様を別の羊皮紙に描き、彼は何度もルクエンドに足を運んだ。
そこの住人ひとりひとりにそれを見せ、情報を集めて回ったのだ。
それだけではない。
このとても大きな行商の町エバクトでも同じことを行った。
朝から晩まで、足が棒になるまで歩き続けた。
その結果、いくつか重要な手がかりを得た。
この文様は、たとえてみれば数字だった。
順番が存在するのだ。
それだけではない。
前回見つけたもの以外にも、まだいくつもの別の文様が存在するらしかった。
順番自体は、前後矛盾する証言たちのおかげで、正確にはわからなかったが、今回旅をする上で、それは自然と解明する気がした。
心語はエバクトで、いくつかの松明を買った。
それをロープで縛り、背負い袋にくくりつける。
洞窟内さえ乗り切れれば、後は光の宝庫だ。
また食料もなるべく日持ちのするものを選んだ。
干し肉、乾燥した果物、少量の塩のかけら、そして体を温めるための少量の酒。
前回購入した短剣も、念入りに研いだ。
また、暖かそうなマントも買った。
寝る時に使うためだ。
羊皮紙も余分に一枚持って行くことにした。
そうして、万全の準備が整うと、心語はエバクトを早朝に出発し、ルクエンドに入った。
午後には光の地下水脈に舞い戻ることが出来た。
松明は5本のうち、2本を消費した。
前回、この水脈の水が飲用できることを確認していたので、到着して早々、心語は手と顔を清め、喉をうるおす。
そして、羊皮紙を広げて場所を確認し、前回行けなかった脇道を3つほど選んだ。
ひとつは途中、水没して先に進めなかった場所だ。
今回は到着地点を野営地として使うことにしたので、大半の荷物はここに置いておくことにした。
愛剣の「まほら」だけは背中に背負ったままである。
前回安全だったからと言って、今回もそうだとは限らない。
たとえば水没した道の向こうに、何かが潜んでいる可能性もない訳ではない。
まずは安全だが奥が深そうなひとつの道を、道なりに進む。
途中、前回見つけた文様を見つけ、指でなぞってみる。
不思議なことに、その文様は、一瞬指でこすれて消えてしまうが、少し経つと、ふわっとまた浮き出てくるのだ。
この文様は、数字で言えば若い方の文様だ。
それを確認して、さらにさらに心語は奥へと向かう。
だが、残念ながら、その道は行き止まりだった。
道幅の数倍の広さの、開けた場所には出たものの、そこから先の壁には、入り口らしきものは見当たらなかった。
ただ、同じ文様が壁にぽつんと描かれ、発光していただけである。
もうひとつも、同じように広場で道が終わっていた。
残るは、水没した道の、その先である。
心語はロープを来た側の柱に結びつけ、ある一定の方向にねじると外れるような結び目にした。
それからざぶんと水の中に入り、水流に足を取られないよう、ゆっくりゆっくり泳いで渡った。
そうして、向こう岸にたどり着くと、彼はロープを引っ張り、しゅるりと結び目を解く。
それを束ねて肩にかけ、さらに先を目指した。
柱が光を発するため、かなり先までよく見通せた。
特に何の変哲もない道である。
だが、空気が何か、ちがうような気がし始めた。
それは突然だった。
いきなり前方から、ムチのようなモノが飛んできて、心語の足に絡みついた。
とっさにまほらを背中から抜き去って、そのムチのようなモノを叩き切る。
それは反射的な行動だった。
数歩後ろに飛んで間合いを取り、心語は地面に落ちたそれを見た。
心語:「ツタ…?」
そう、それは見るからに植物らしきものだった。
だが、切り口からはどす黒い液体を吐き出し、激しくのたうっている。
明らかに意思を持つ生き物だった。
心語はもう少し後ろに下がると、巻きつかれた足を見た。
ところどころ血がにじんでいる。
毒にやられては困るので、持っていた水袋の水で傷口を洗い流し、短い布でそこを縛った。
それから耳を澄ますと、その道の奥の様子を注意深くうかがう。
かすかに、さわさわという音が聞こえた。
心語:「ツタの群生地か…?」
心語は背中から松明を一本降ろし、火をつけた。
それをちぎれたツタに放ってみる。
すると、絶叫を上げて見る見るうちに燃え尽きてしまった。
ひとつ頷くと、彼はその松明を拾い上げ、再度火をつけた。
それから、勢いよく腕を後方に引くと、大きな動作でそれを奥に投げつけた!
その瞬間。
耳をつんざくような悲鳴が辺り一面に響き渡り、大量の灰が巻き上げられて、奥から突風となって襲って来た。
急いで心語は後方に下がり、事なきを得る。
そのまましばらくそこにいたが、なかなか火がおさまらないので、心語はこの道を次回のために残しておくことにした。
羊皮紙の地図に、この場所のことを描き入れると、再び野営地に戻って、簡素な食事を取った。
それから、前回調べられなかった脇道をもうひとつ選び、探索を開始する。
道はどれも広場で終わるものと、はるか先まで続いているものの二種類に分けられることがわかった。
そして、一部には先ほどのような、ツタのような何かが生息していることも。
彼は帰りに使う松明を残して、そのツタを焼き払うことに使った。
長くこの場所に侵入者はなかったと見え、ツタは広く繁殖しているようだった。
また、面白い発見もあった。
概して、ここにある光の柱は、淡い青の光を出していたが、ある場所だけは薄い紅の光を発していた。
そこにも脇道はあるのだが、何か透明の壁のようなものがあり、その向こうへは進めないのだ。
そして、その柱には、いくつかの文様が並んで描かれていた。
明らかに、何か大事なものがその奥にありそうな気がした。
その場所を発見するまでに、既に8日の月日が経っていた。
食料もそろそろ限界である。
心語は、地図でのその紅の道とツタのあった脇道たちのその先を大きく丸で囲むと、羊皮紙を丸め、背中に背負った。
ようやく、手がかりになりそうなものが見つかったのである。
心語:「きっと見つかるな…」
そうつぶやいて、彼はこの地下水脈を後にした。
〜END〜
≪ライターより≫
こんにちは!
ライターの藤沢麗(ふじさわ・れい)と申します。
この度は、またのご指名、ありがとうございます。
今回は地下水脈の一部に、怪しい場所を発見しました。
何か生き物が生息していることも発覚しましたね。
危険地域が存在するかも知れません。
もし次回があれば、さらに準備を念入りにした方がよさそうです…。
それではまたお会いできるのを楽しみにしています。
ありがとうございました!
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